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輸入者による自社運送時の運賃と課税価格
1 はじめに―相談事例
【相談者】
千葉県内で輸入雑貨のセレクトショップを経営されているTさん。
Tさんは、東南アジア諸国からの輸入を拡大する中で、物流コストの削減を目指し、特定の高付加価値商品について、知人が所有する小型貨物機をチャーターして自ら運送を手配する形態を検討されています。
【相談内容】
「前回の相談で、FOB条件の場合は海上運賃を課税価格に加算しなければならないことは理解できました。では、もし外部の船会社や航空会社に運賃を支払わず、自分でチャーター機を用意して運んだ場合はどうなるのでしょうか。私は自分で機体を手配し、燃料代や操縦士への報酬を直接支払います。この場合、第三者に支払う『運賃』という名目の請求書は存在しません。支払先がない以上、加算すべき運賃はゼロとして申告しても良いのでしょうか。税関からは、自ら運送した場合でも何らかの費用を計算して加算する必要があると言われましたが、納得がいきません。法律的な根拠を含めて、正しい取り扱いを教えてください」
このようなTさんの疑問は、自社便やチャーター便を利用する大規模な輸入者や、特殊な物流形態を採る事業者においてもしばしば見受けられる重要な論点です。
本稿では、自力運送時における運賃の取り扱いについて、詳細に解説してまいります。
2 課税価格の基本概念と原則
輸入貨物に対して課される関税の計算の基礎となる「課税価格」は、原則として、現実支払価格に特定の「加算要素」を加えた「取引価格」に基づいて決定されます。この原則は、関税定率法第四条第一項に定められています。
まず、改めて当該条文の構造を確認しましょう。
輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引につき買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として実際に支払つた又は支払うべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格(以下「取引価格」という。)によるものとする。
この「次に掲げる運賃等の額」として、第一号に以下の規定があります。
関税定率法第四条第一項第一号
当該輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用
ここで重要なのは、法律が「支払った運賃」ではなく「運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用」と規定している点です。つまり、外部の業者に対して「運賃」という名目での支払いがあるか否かにかかわらず、その貨物を輸入港まで運ぶために実質的に費やされたコストは、すべて加算の対象になるというのが法の趣旨です。したがって、Tさんの「支払先がないからゼロである」という考え方は、法令上、誤りであると判断されます。
3 輸入者が自力で貨物を運送した場合の費用算定
Tさんのように、輸入者が自ら用意した手段(自社機、自社船、チャーター便等)で貨物を運送した場合、その運送のために実際に要した個々の経費の総額を算出し、それを「運送に要する費用」として課税価格に算入しなければなりません。
これは、関税定率法基本通達4―7、4-8においても補足されています。
関税定率法基本通達4―7、4-8
(1)「運賃」には、通常の運賃のほか、特定の貨物について適用される特別の運賃(例えば、特約運賃、割増運賃、割引運賃等)が含まれる。
(2)「輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用」には、輸入者が自己の所有する運送手段により当該輸入貨物を運送したために要した費用が含まれる。
これらの通達により、自己の所有する運送手段による費用算定の必要性が明確化されています。具体的にどのような費用を積み上げるべきかについては、以下の項目が挙げられます。
1.燃料費および油脂代
輸送に使用した航空機や船舶、車両が輸入港に到着するまでに消費した燃料の代金
2.乗組員の人件費
操縦士、航海士、整備士などの乗組員に対して支払われる給与、手当、および福利厚生費のうち、当該輸送期間に対応する額
3.機体や船体の維持管理費
輸送に使用した期間分に相当する減価償却費、修繕費、予備部品代など
4.運送に関連する諸費用
途中の経由地で発生した着陸料、入港料、荷役費、航行補助施設利用料など
5.運送保険料
自社で付した保険のうち、当該輸送区間に係る保険料
Tさんの事例では、チャーター機の料金だけでなく、操縦士への報酬や燃料代を直接負担しているため、それらの実費を精緻に計算して合算し、課税価格に算入する必要があります。
4 客観的な資料に基づく算定と資料欠如時の対応
運賃等の額を算定する際には、税関に対してその妥当性を証明できる「客観的かつ数値化された資料」に基づいて行わなければなりません。これには、領収書、契約書、航海日誌、燃料の購入記録、給与明細、計算根拠を記した明細書などが含まれます。
しかし、自社運送の場合、費用の案分が困難であったり、一部の資料が欠落していたりすることも想定されます。
実務上、自力運送の費用が不明確な場合には、「通常要する運賃(通常運賃)」を適用して算出することが一般的です。これは、同種の貨物を通常の運送業者が運んだ場合に適用される標準的な運賃を基礎とする考え方です。
以下の表は、自力運送時における費用算定のチェックリストです。ワード等にコピーして、申告前の確認用としてご活用いただけます。
【自力運送時における課税価格算定チェックリスト】
算定項目|具体的な内容|資料の有無
運送手段の費用|チャーター料、リース料、減価償却費|有・無
燃料関連費用|燃料代、潤滑油代、給油手数料|有・無
人件費|乗組員の給与、手当、滞在費、食費|有・無
施設利用料|空港使用料、入港料、駐機料、係留料|有・無
保険関連|貨物保険料、機体・船体保険料(運送部分)|有・無
荷役・雑費|積み込み費用、航行に関連する諸手数料|有・無
案分計算書|複数貨物の場合の重量・容積案分記録|有・無
これらの項目を漏れなく確認し、数値化することが、適正な申告には不可欠です。
5 誤った解釈によるリスクと税関への対応
Tさんのように「運賃名目の支払いがないから加算不要」という判断をそのまま実行に移した場合、税関事後調査において高確率で否認されることになります。関税の過少申告は、単に不足分を支払えば済むという問題ではありません。
1.過少申告加算税の賦課
本来納めるべき税額との差額に対し、原則として十パーセントから十五パーセントの加算税が課されます
2.延滞税の発生
法定納付期限から実際に支払う日までの期間に対し、利息相当の延滞税が課されます
3.AEO制度等の優遇措置への影響
適正申告がなされていないと判断された場合、将来的に簡易な通関手続きを受けられる等の優遇措置の対象から外れる恐れがあります
税関事後調査では、会計帳簿や銀行の送金記録だけでなく、電子メールのやり取りや契約の背景まで細かく精査されます。自社運送という特殊な形態であればなおさら、その費用の妥当性が厳しく問われることになります。
特に「無償で運んでもらった」という主張は、関税定率法の「通常要する運賃」の規定により退けられるケースがほとんどです。利益相反関係にない第三者から受けた純粋な好意による無償運送であっても、課税価格の決定においては、市場価格相当の運賃を加算することが求められる点に十分な注意が必要です。
6 専門家としての法的視点とサポート
自社運送やチャーター便に関わる課税価格の決定は、一般的な輸入取引以上に高度な法解釈と計算実務が要求されます。燃料費一つとっても、どの区間の消費分を算入すべきか、機体の減価償却費をどのように期間按分すべきかなど、専門的な知識が不可欠です。
当事務所においては、代表弁護士が通関士の資格を有しており、法律と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
1.事前の課税価格算定コンサルティング
自社運送を開始する前に、税関から指摘を受けないための適切な費用算出スキームを構築します
2.税関への事前教示制度の活用
具体的な計算方法について、あらかじめ税関に文書で照会し、公式な見解を得る手続きを代行します。これにより、将来の申告漏れリスクをゼロに近づけることができます
3.税関事後調査への立ち会いと法的抗弁
既に調査が入っている場合や、税関から修正申告を求められている場合に、法令の正しい解釈に基づき、輸入者の利益を守るための交渉を行います
弁護士は、単なる手続きの代理人ではなく、依頼者の権利を擁護する立場にあります。通関実務に精通した弁護士が介入することで、税関当局に対しても論理的かつ法的根拠に基づいた主張を行うことが可能となります。
7 結論:適正な輸入ビジネスの発展に向けて
輸入者が自力で貨物を運送する場合であっても、その運送に要した実質的な費用は、関税定率法第四条に基づき、課税価格に加算しなければなりません。「支払った運賃という項目がない」という形式的な理由で加算を怠ることは、重大なコンプライアンス違反に繋がります。
Tさんのように、新しい物流形態に挑戦することは、ビジネスの競争力を高める上で非常に有意義なことです。しかし、その挑戦を支えるのは、揺るぎない法令遵守の姿勢です。
自社運送に関連する費用の算定方法や、客観的な資料の整備に不安を感じておられる方は、ぜひ当事務所までご相談ください。輸出入と通関の専門知識を持つ弁護士が、皆様の事業が健全に、かつ最大限の利益を確保しながら発展できるよう、誠心誠意サポートさせていただきます。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。皆様のお問い合わせを心よりお待ちしております。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入ビジネスにおける運賃と課税価格の算定
1 はじめに―相談事例
【相談者】
千葉県内で輸入雑貨のセレクトショップを経営されているTさん
Tさんは、これまで小規模な個人輸入を行ってきましたが、事業の拡大に伴い、東南アジア諸国からのコンテナ単位での輸入を開始されました。
【相談内容】
「これまでは国際郵便などを利用していたため、税関への申告も比較的単純でした。しかし、本格的にフォワーダー(貨物利用運送事業者)を利用して船便での輸入を始めたところ、運賃の取り扱いについて税関から指摘を受け、戸惑っております。私が仕入先と交わした契約は、現地の港で引き渡す条件(FOB条件)ですが、輸入申告の際、商品代金に加えて日本までの海上運賃を合算しなければならないと聞きました。一回あたりの運賃は数十万円程度ですが、年間に換算すると数百万円の差が出てきます。この運賃が、なぜ関税の計算の基礎となる『課税価格』に含まれるのでしょうか。また、途中の経由港で船を積み替えた場合の費用はどうなるのでしょうか。法令に基づいた正確なルールを知り、適正な申告を行いたいと考えています」
このようなTさんの悩みは、輸入実務に携わる多くの方が直面する課題です。
2 課税価格の基本概念と原則
輸入貨物に対して課される関税を算出するためには、その計算の基礎となる金額、すなわち「課税価格」を決定する必要があります。日本の関税制度において、課税価格の決定方法は関税定率法という法律によって厳格に定められています。
まず、原則的な決定方法について規定した関税定率法第4条の内容を確認しましょう。
関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)第1項
輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引につき買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として実際に支払つた又は支払うべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格(以下「取引価格」という。)によるものとする。
この条文が示す通り、輸入申告における価格は、単に海外の輸出者に支払う商品代金(現実支払価格)だけではありません。その価格に含まれていない特定の費用を「加算要素」として足し合わせたものが、最終的な課税価格となります。そして、この加算要素の代表的なものが「運賃」です。
同じく関税定率法第4条第1項第1号には、加算すべき費用として次のように明記されています。
関税定率法第4条第1項第1号
当該輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用
この規定により、日本の輸入港に到着するまでに要した費用は、原則としてすべて課税価格に算入されることになります。これは、世界の多くの国々が採用している「CIF価格(運賃・保険料込み条件)」を課税の基礎とする考え方に基づいています。
3 運賃等の具体的な加算範囲と算定基準
「輸入港に到着するまでの運送に要する運賃」とは、具体的にどのような費用を指すのでしょうか。実務上は、船舶や航空機による純粋な輸送費用(フレイト)だけでなく、それに付随する様々なサーチャージ(割増料金)も含まれます。
例えば、燃油価格の変動を調整する燃油サーチャージ(BAF)や、為替変動を調整する通貨調整割増料(CAF)などは、運送に関連する費用として加算の対象となります。
また、関税定率法施行規則等により、詳細な算定方法が規定されています。
以下の表は、一般的なインコタームズ(貿易条件)と課税価格への算入要否を整理したものです。
【貿易条件(インコタームズ)別の運賃加算の要否】
貿易条件の呼称|内容の概要|運賃の加算処理
EXW(出荷場渡し)|輸出者の工場で引渡し|現地輸送費+海上運賃を加算
FOB(本船渡し)|輸出港の船上で引渡し|海上運賃等を加算
CFR(運賃込み)|輸入港までの運賃込み|原則として加算済み
CIF(保険料込み)|輸入港までの運賃保険料込み|原則としてそのまま課税価格
Tさんの事例のように、FOB条件で契約している場合は、商品代金に「海上運賃」が含まれていないため、輸入申告の際、実際に支払った運賃の額を別途加算して申告する必要があります。これを見落とすと、課税価格の過少申告となり、後の税関事後調査等で追徴課税の対象となる恐れがあります。
4 運賃の案分計算に関する実務上の注意点
ビジネスの実務においては、複数の異なる種類の貨物を一つのコンテナに混載して輸入したり、複数の輸入申告(B/Lを分割する場合など)にわたる貨物の運賃を一括して支払ったりすることがあります。この場合、個々の貨物に対する運賃をどのように算出するかが問題となります。
この点については、関税定率法基本通達4-8において、合理的な方法で按分することが求められています。
関税定率法基本通達4-8(運賃等の按分)
一括して支払われる運賃等が、二以上の輸入貨物に係るものである場合には、それぞれの貨物の重量、容積、数量又は価格等の基準により、個々の輸入貨物に関連する額を按分して算出するものとする。
具体的には、運賃の算出根拠を確認し、それに即した形で按分を行います。
1.重量を基準とする場合
鉄鋼製品や石材など、重量によって運賃が決定される貨物の場合は、総重量に対する各貨物の重量比率で運賃を振り分けます。
2.容積を基準とする場合
家具や衣類など、かさばる貨物で容積(メジャー)に基づいて運賃が計算されている場合は、総容積に対する各貨物の容積比率を用います。
3.価格を基準とする場合
従価運賃(商品の価値に応じて決まる運賃)などの場合は、商品の価格比率で按分します。
以下の表は、複数の貨物を輸入した際の運賃案分計算の具体例です。
【貨物混載時の運賃案分計算例(容積基準)】
項目名称|貨物A(雑貨)|貨物B(家具)
貨物の容積|2立方メートル|8立方メートル
容積の比率|20パーセント|80パーセント
一括支払運賃総額|100,000円(共通)|100,000円(共通)
案分後の加算運賃額|20,000円|80,000円
このように、根拠に基づいた適切な按分計算を行うことが、適正申告の第一歩となります。
5 運送途上における船移しと輸入港の定義
輸入取引においては、海外の輸出港から日本の最終目的地まで、一直線に運ばれるとは限りません。特にシンガポールや釜山といった主要なハブ港、あるいは日本の他の港(神戸や横浜など)を経由して、最終的な輸入申告場所へ運ばれることがあります。
ここで重要な論点となるのが、「どこまでの運賃を課税価格に含めるべきか」という点です。キーワードとなるのは「輸入港」の定義です。
関税定率法における「輸入港」とは、原則として、その貨物が最初に着岸し、船卸し(陸揚げ)が行われる場所を指します。
しかし、ご相談者の方からよく質問を受けるのが、「日本の別の港で船を積み替えた場合」の取り扱いです。例えば、東南アジアから横浜港に到着した外国貿易船から、貨物を降ろさずに、あるいは保税状態のまま別の外国貿易船に「船移し」を行い、最終的に門司港で船卸しをするようなケースです。
この点、課税価格に加算すべき運賃は「外国貿易船から船卸しされるまで」の費用とされています。日本の港に寄港したとしても、そこで貨物が陸揚げ(船卸し)されず、単に船から別の船へ積み替えられただけであれば、その場所は「輸入港に到着した」とはみなされません。
したがって、最終的に日本の港で本格的に船卸しが完了するまでの全区間の運賃が、加算要素としての「運送に要する運賃」に該当することになります。
逆に、一度横浜港で船卸しを行い、輸入申告を済ませた後に、国内運送として九州まで運ぶ場合の費用は、国内運送費となるため、課税価格には含まれません。この「輸入港での船卸し」というタイミングを正確に把握することが、不必要な税金の支払いを防ぐ、あるいは申告漏れを防ぐために極めて重要です。
6 特殊な運賃形態と課税価格への影響
現代の物流では、従来の海上運賃や航空運賃以外にも、特殊な形態の運賃が存在します。これらについての取り扱いを整理します。
1.航空貨物における少額貨物の特例
航空機によって運送される貨物のうち、その課税価格の総額が一定以下(原則として10万円以下)である場合には、通常の運賃ではなく、郵便物と同様の簡易な取り扱いがなされる場合があります。ただし、ビジネス目的の輸入においては、原則通り実際の運賃を基礎とすることが一般的です。
2.無償運賃や特殊な割引運賃
親会社から無償で輸送してもらった場合や、極端に低廉な親族間割引などが適用されている場合であっても、税関長が認める「通常要する運賃」に引き直して計算しなければならないことがあります。これは、不当に課税価格を下げることを防止するための措置です。
3.デマレージ(超過保管料)等の取り扱い
輸入港に到着した後、貨物の引き取りが遅れたことにより発生するデマレージ(滞船料・超過保管料)は、原則として「輸入港に到着した後の費用」であるため、課税価格には算入されません。ただし、到着前の遅延に起因する費用など、状況によって判断が分かれる場合があるため注意が必要です。
7 税関事後調査と運賃に関するリスク管理
輸入申告が受理され、貨物が引き取られた後であっても、税関による「事後調査」が行われることがあります。事後調査では、申告された課税価格が適正であったか、特に運賃や保険料の加算漏れがないかが厳しくチェックされます。
もし運賃の加算漏れが判明した場合、以下のペナルティが課される可能性があります。
・不足関税および消費税の徴収
・過少申告加算税(原則として不足税額の10パーセントから15パーセント)
・延滞税(納付期限からの日数に応じた利息相当分)
悪質な隠蔽や仮装とみなされた場合には、より重い重加算税(35パーセントから40パーセント)が課されることもあります。Tさんのような事業者にとって、これらの付帯税は資金繰りや企業の信用に大きな影響を及ぼします。
リスクを回避するためのポイントを以下に整理しました。
・インコタームズを契約書上で明確にし、誰が運賃を負担しているかを特定する
・フォワーダーからの請求書(デビットノート)を詳細に確認し、諸費用の内訳を把握する
・B/L(船荷証券)やアライバルノーティスと申告書類を照合する
・案分計算を行った場合は、その計算根拠となる資料を保存しておく
8 専門家としての法的視点とサポート体制
運賃と課税価格の問題は、一見すると単純な足し算のように見えますが、その裏には関税定率法をはじめとする複雑な法令体系が存在します。特に、近年は物流形態の多様化や、デジタルトランスフォーメーションに伴う新しい取引形態の出現により、判断に迷うケースが増えています。
当事務所では、代表弁護士が輸出入の専門家である「通関士」の国家資格を保有しております。これにより、法的なトラブル解決だけでなく、実務的な通関手続の妥当性についても、高度に専門的なアドバイスを提供することが可能です。
弁護士に通関に関する相談をすることにハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、事後調査への対応や、税関との見解の相違が生じた際の不服申し立て(審査請求)などは、法律の専門家である弁護士の知見が不可欠な領域です。
早期に専門家のアドバイスを受けることで、将来的な追徴課税のリスクを最小限に抑え、透明性の高いクリーンな貿易体制を構築することができます。
9 結論:適正な輸出入実務に向けて
運賃と課税価格の関係性は、輸入ビジネスの利益率を左右するだけでなく、コンプライアンス遵守の観点からも極めて重要な事項です。本稿で解説した通り、関税定率法第4条の規定に基づき、輸入港に到着するまでのあらゆる運送関連費用を正確に把握し、適切に申告することが求められます。
もし、自社の申告内容に不安がある場合や、特定の取引における運賃の取り扱いについて法的な解釈が必要な場合は、お一人で悩まずにぜひ当事務所へご相談ください。
輸出入や通関に関するトラブル、税関事後調査への対応、あるいは最適な貿易スキームの構築など、皆様のお悩みを解消し、ビジネスの健全な発展を全力でバックアップいたします。
ご相談をご希望の方は、お電話またはお問い合わせフォームより、いつでもご連絡をお待ちしております。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入申告価格の誤りに対する自主的な修正
1 はじめに―相談事例
貨物の輸入をビジネスとして展開する上で、税関への申告は避けて通れない重要なプロセスです。しかし、人間が行う作業である以上、意図せぬミスや後日の事実判明によって、当初の申告内容を訂正しなければならない場面が多々あります。まずは、当事務所に寄せられる具体的な相談事例を想定してみましょう。
【相談者】
輸入機械卸売業者 T氏
【相談内容】
「当社では、半年前にドイツのメーカーから産業用ロボットを数台輸入し、その際の仕入書(インボイス)に基づいて輸入申告を行い、許可を得て国内に引き取りました。ところが先日、ドイツの売手側から、当時のインボイスに記載されていた価格が、計算ミスにより本来よりも低く記載されていたとの連絡がありました。確認したところ、確かに本来支払うべき総額が、申告した額よりも100万円ほど多いことが判明しました。このまま放置しておくと、将来的に税関の事後調査を受けた際に脱税を疑われるのではないかと非常に不安です。 自発的にこの誤りを認め、関税や消費税を正しく納め直すにはどのような手続きが必要なのでしょうか。また、逆に本来よりも多く税金を納めてしまっていたことがわかった場合も、取り戻すことはできるのでしょうか。法的なルールと、手続き上の注意点を詳しく教えてください」
このような状況は、国際取引の現場では決して珍しいことではありません。日本の関税制度は、納税義務者が自らの責任で税額を計算する「申告納税方式」を基本としているため、誤りに気づいた際には、納税者自らがその内容を訂正する法的手段が用意されています。以下、関税法に基づく詳細な解説を行います。
2 申告納税方式における自主的な修正
関税法における税額確定の基本原則は、関税法第6条の2第1項第1号に定められています。
関税法第6条の2第1項第1号(申告納税方式)
「申告納税方式 納税義務者がする納税申告により、納付すべき税額が確定する方式をいう」
この制度の下では、納税義務者には適正な申告を行う義務がある一方、申告後に誤りが判明した場合には、それを正す権利と義務も認められています。税額を増やす方向での訂正を修正申告、減らす方向での訂正を更正の請求と呼び、それぞれ手続きや法的性質が異なります。これらの制度を正しく理解し活用することは、企業のコンプライアンス維持のみならず、不必要なペナルティの回避や適正な税負担の実現に直結します。
3 修正申告(関税法第7条の14)の詳細解説
輸入申告時の税額が、本来納付すべき額よりも少なかった場合に行うのが「修正申告」です。
(1)修正申告の法的根拠
関税法第7条の14第1項には、以下の通り規定されています。
「納税申告をした者又は第7条の16第2項(税関長による決定)の規定による決定を受けた者は、当該申告又は決定に係る課税標準又は納付すべき関税額について、その本来納付すべき課税標準又は関税額が当該申告又は決定に係る課税標準又は関税額(中略)を超えること(中略)を知つたときは、税関長に対し、当該申告又は決定に係る課税標準又は関税額を修正する申告をすることができる」
(2)修正申告が行われる具体的なケース
実務上、修正申告が必要となるのは、以下のような場面です。
・インボイスの価格が本来の取引価格よりも低かった場合
・関税評価の際に加算すべき費用(ロイヤリティ、運賃、無償提供資材の費用等)を算入し忘れた場合
・関税率表の適用(HSコードの分類)を誤り、本来よりも低い税率を適用してしまった場合
・減免税の適用を受けていたが、その要件を満たさなくなった場合
(3)自主的な修正申告のメリット
税関の事後調査によって申告漏れを指摘される前に、自発的に修正申告を行うことには大きな意味があります。後述する「過少申告加算税」などの附帯税について、自発的な申告であれば、一定の条件下で免除または軽減される措置が設けられているためです。
4 更正の請求(関税法第7条の15)の詳細解説
逆に、輸入申告時の税額が本来よりも多かった場合、つまり「税金を納めすぎていた」場合に行うのが「更正の請求」です。
(1)更正の請求の法的根拠
関税法第7条の15第1項には、以下の通り規定されています。
「納税申告をした者は、当該申告に係る課税標準又は納付すべき関税額の計算が関税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告に係る納付すべき関税額(中略)が過大である場合には、輸入許可の日(中略)から5年以内に限り、税関長に対し、当該申告に係る課税標準又は関税額について更正をすべき旨の請求をすることができる」
(2)更正の請求の期間制限
更正の請求ができる期間は、原則として輸入許可の日から5年以内と定められています。この期間を過ぎると、たとえ誤りが明白であっても、法的に還付を求めることが困難になるため、早期の発見と対応が求められます。
(3)更正の請求の性質
修正申告が「自ら税額を確定させる」行為であるのに対し、更正の請求はあくまで「税関長に対して、税額を減額する処分(更正)をしてほしいとお願いする」手続きです。そのため、請求を行ったからといって直ちに税金が戻るわけではなく、税関による審査が行われます。税関長がその請求を正当と認めた場合に初めて、税額が減額され、過払い分が還付されます。
5 修正申告と更正の請求の比較検討
実務においてこれらの手続きを使い分ける際のポイントを以下の表にまとめました。
【修正申告と更正の請求の比較一覧】
|比較項目|修正申告|更正の請求|
|法的根拠|関税法第7条の14|関税法第7条の15|
|対象となる状況|本来の税額よりも過少に申告していた場合|本来の税額よりも過大に申告していた場合|
|手続きの目的|不足している税額を増額して確定させる|納めすぎた税額の減額を税関長に求める|
|期間の制限|税関長による更正があるまで(原則)|輸入許可の日から5年以内|
|附帯税の発生|延滞税等が発生する可能性がある|原則として発生しない(還付加算金が生じる場合あり)|
|税関による審査|提出と同時に税額が確定する|税関による内容審査を経て更正が行われる|
6 過少申告加算税と延滞税の法的リスク
修正申告を行う際、最も懸念されるのが「附帯税」の負担です。これは、適正な申告を促すための行政上の制裁措置としての側面を持ちます。
(1)過少申告加算税(関税法第12条の2)
当初の申告額が不足していた場合に課されるペナルティ。原則として、不足税額の10パーセント(一定額を超える部分は15パーセント)が加算されます。 ただし、税関の調査を受ける前に、自発的に修正申告を行った場合には、この過少申告加算税は課されないという取扱いがあります。
(2)延滞税(関税法第12条)
法定の納付期限(輸入許可の日等)から、実際に不足分を納付するまでの期間に応じて課される利息的な税金。自発的な修正申告であっても、延滞税は免除されないことが多いため、誤りに気づいたら一日も早く申告を行うことがコスト抑制の観点からも重要です。
7 税関事後調査と自己修正の関係
税関は定期的に輸入者の事務所を訪れ、過去の取引内容を精査する「事後調査」を実施します。この調査の通知が届いた後に慌てて修正申告を行っても、前述の「自発的な修正」とはみなされず、過少申告加算税が課されることになります。
したがって、企業としては事後調査を待つのではなく、定期的な社内監査(セルフチェック)を行い、自ら誤りを発見し、修正申告を行う体制を整えておくことが、コンプライアンス上のベストプラクティスと言えます。また、故意に事実を隠蔽して申告を免れていたとみなされた場合には、より重い「重加算税(35パーセント)」が課されるリスクもあり、経営へのダメージは計り知れません。
8 弁護士への相談による法的防御
輸入申告価格の訂正は、単なる算数のやり直しではありません。特に「なぜ価格が間違っていたのか」という理由の説明において、関税評価上の高度な法解釈が求められる場合があります。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国内唯一の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から一貫したサポートを提供できる強みを持っております。
弁護士に相談をすべきかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・修正申告を行う際、税関に対して「隠蔽や仮装の意図がなかったこと」を論理的に説明し、重加算税等のリスクを回避する。
・更正の請求において、関税評価上の正当な理由を法的に構成し、税関による審査を円滑に進め、確実に還付を受ける。
・事後調査の通知を受けた直後の対応を協議し、不当な不利益を被らないよう法的な防御を固める。
・将来的な誤りを防ぐため、社内の通関コンプライアンス体制を構築し、法的リスクを最小限に抑える。
輸入・輸出や通関上のトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律の専門家であり、かつ通関実務の専門家である当事務所が、貴社のビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。
9 まとめ
本日は、輸入申告価格に誤りがあった際、納税義務者が自ら税額を訂正するための手続きである「修正申告」と「更正の請求」について解説いたしました。
日本の申告納税方式は、輸入者の自主性と誠実さを前提としています。誤りを自ら正すことは、恥ずべきことではなく、健全なビジネス運営を維持するための前向きなステップです。関税法第7条の14、第7条の15といった条文を正しく理解し、適時適切な対応をとることで、企業の信頼性はより強固なものとなります。
特に、修正申告においては「自発性」がペナルティ軽減の鍵となるため、迷っている時間があるならば、まずは専門家に相談し、迅速に手続きを進めることをお勧めいたします。
本記事の解説が、皆様の輸入実務における適正な納税と法的リスク管理の一助となれば幸いです。もし、過去の申告内容に不安がある場合や、税関との見解の相違が生じている場合には、一人で悩まずに当事務所までお問い合わせください。
【修正申告及び更正の請求に関する重要事項の再確認】
・税額が不足していたら関税法第7条の14に基づく修正申告
・税額が過大であれば関税法第7条の15に基づく更正の請求
・修正申告は自発的に行えば加算税が免除される恩典があること
・更正の請求は輸入許可の日から5年以内という期限があること
・事後調査の通知を受ける前のアクションが最も重要であること
・関税評価やHSコードの判断には高度な専門知識が不可欠であること
適正な申告と納税を通じて、貴社の国際貿易ビジネスが健全に発展し続けることを願っております。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
通関業者の補完的納税義務
1 はじめに―相談事例
輸出入実務において、関税の納税義務者は原則として「輸入者」です。しかし、特殊な状況下では、輸入手続きを代行した通関業者が納税の全責任を負わされる事態が起こり得ます。まずは、通関業者が直面し得る深刻なトラブル事例を見てみましょう。
【相談者】
中堅通関業者 株式会社T通関 通関部長
【相談内容】
「当社は半年ほど前、新規のお客様であるA氏から、海外の有名ブランドの家具一式の輸入通関を依頼されました。A氏から提供された委任状や身分証の写しに基づき、A氏を輸入者として申告し、輸入許可前引取りの承認を受けて貨物を引き渡しました。 ところが後日、税関の事後調査により、当該貨物の申告価格が著しく低かったことが判明し、数百万単位の追加関税が課されることになりました。税関がA氏に連絡を取ろうとしたところ、届出の住所は架空のもので、電話も繋がらない状態であることがわかりました。 さらに、税関から当社に対し『輸入者の所在が不明であり、通関業者である貴社が委託者を明らかにできない以上、関税法第13条の3の規定に基づき、貴社が連帯して関税を支払う義務がある』という通知が届きました。当社はあくまで手続きを代行しただけであり、貨物の所有者でもなければ、脱税を指示したわけでもありません。それにもかかわらず、当社がこれほど多額の税金を肩代わりしなければならないのでしょうか。法的な回避手段はないのか、詳しく教えてください」
このような事例は、いわゆる「名義貸し」や「幽霊輸入者」を利用した不正輸入に、通関業者が巻き込まれた典型的なケースです。関税法では、通関手続きの適正を確保するため、通関業者に対して非常に重い補完的納税義務を課しています。以下、その詳細と実務上の留意点について解説します。
2 関税法における納税義務の体系と通関業者の立場
関税の納税義務者については、関税法第6条に原則的な規定があります。
関税法第6条(納税義務者)
「関税は、この法律及び関税定率法その他関税に関する法律に別段の規定がある場合を除き、貨物を輸入する者が納める義務を負う」
通関業者は、通関業法に基づき、輸入者から委任を受けて代理人として手続きを行う立場に過ぎません。したがって、民法上の代理の原則に従えば、その行為の効果は本人である輸入者に帰属し、代理人である通関業者が税金の支払い責任を負うことはありません。
しかし、関税法は、税関行政の執行を確実にするため、例外的に「通関業者」を納税義務の主体とする規定を置いています。これが関税法第13条の3に定められた「補完的納税義務」という概念です。
3 通関業者の補完的納税義務の法的根拠
通関業者が、輸入者と連帯して関税を納める義務を負う場合については、関税法第13条の3において以下のように厳格に規定されています。
関税法第13条の3(通関業者の補完的納税義務)
「輸入の許可又は第73条第1項(輸入許可前引取り)の承認を受けて引き取られた貨物について、納付された関税額に不足がある場合において、当該貨物の輸入の許可又は承認の際に当該貨物の輸入者とされた者の住所及び居所が明らかでないとき、又はその者が当該貨物の輸入者でない旨を申し立てた場合であつて、当該貨物の輸入に際しその通関業務を取り扱つた通関業者が、その通関業務の委託をした者を明らかにすることができなかつたときは、当該通関業者は、その委託をした者と連帯して当該関税を納める義務を負う」
この規定の目的は、実体のない輸入者を立てて関税を免れようとする不正行為を抑止し、もしそのような事態が発生した場合には、プロフェッショナルである通関業者にその責任を負わせることで、国の税収を確保することにあります。
4 補完的納税義務が発生するための具体的要件
通関業者が納税義務を負わされるのは、決して無制限ではありません。以下の二つの要件が「同時に」満たされた場合に限定されます。
(1)第1の要件:輸入者の所在不明または否認
まず、税関が輸入者として申告された人物を特定できない状況が必要です。具体的には、
①輸入者とされた者の住所又は居所が明らかでない場合
②輸入者とされた者が「私は輸入者ではない」と公式に申し立てた場合
前者は、架空の住所や他人の住所を勝手に利用したケースが該当します。後者は、名義を冒用された第三者が、税関の調査に対して自身の関与を否定した場合などが該当します。
(2)第2の要件:真の委託者の特定不能
次に、通関業者側が、実際に誰から仕事を請け負ったのかを証明できない状況が必要です。
具体的には、通関業者が、当該通関業務の委託をした者を明らかにすることができなかったとき、です。
これは、通関業者が「A氏から依頼された」と主張しても、そのA氏との連絡先や実在を証明する資料が不十分であり、税関がその人物を追跡できない状態を指します。
以下に、補完的納税義務の発生プロセスを整理した比較表を掲載します。
【通関業者の補完的納税義務(関税法第13条の3)の要件整理】
|項番|判定項目|詳細な状況|
|1|貨物の状態|輸入許可後、または輸入許可前引取りの承認後であること|
|2|関税の状態|納付された関税額に不足があること(追徴が必要な状態)|
|3|輸入者の状況|住所・居所が不明、または本人が輸入者であることを否定|
|4|業者の対応|通関業者が「真の委託者」を客観的な証拠で示せない|
|5|法的効果|通関業者が真の委託者と連帯して納税義務を負う|
5 「真の委託者を明らかにする」とは何を意味するか
通関業者にとって、この第2の要件である「委託者を明らかにすること」が、責任を免れるための唯一の防衛線となります。関税法基本通達13の3-1では、この点について以下のように解釈を示しています。
関税法基本通達13の3-1(委託者を明らかにするとは)
「法第13条の3に規定する『委託をした者を明らかにすることができなかつたとき』とは、通関業者がその委託をした者として示した者が、当該貨物を輸入する者として住所及び居所が明らかな者であつて、かつ、その者が委託の事実を認めているとき以外のときをいう」
つまり、単に「山田さんという人から電話で頼まれました」と述べるだけでは不十分です。 1.その「山田さん」の実在が確認でき、住所・居所が特定されていること。
2.その「山田さん」本人が、税関に対して「私が依頼しました」と認めていること。
この両方が揃って初めて、通関業者は補完的納税義務を免れることができます。
6 実務上のリスク管理と通関業者の義務
相談事例のように、新規の顧客から依頼を受ける場合、通関業者は厳格な本人確認を行う法的・実務的義務があります。
(1)本人確認書類の徴収
個人であれば住民票や運転免許証の原本確認、法人であれば登記事項証明書や印鑑証明書の徴収が不可欠です。単なる電子メールでの写しの送付だけでなく、必要に応じて実在確認の電話や訪問を行うことが、後のトラブルを防ぐ最大の防御となります。
(2)委任状の真正性の確保
輸入者本人による正当な委任があることを証明するため、委任状には実印の押印と印鑑証明書の添付を求めるべきです。
(3)連絡手段の確保
固定電話の番号や、勤務先の情報の確認など、複数の連絡ルートを確保しておく必要があります。SNSや匿名性の高いメッセージアプリのみのやり取りは、非常に高いリスクを伴います。
以下に、納税義務が発生するフロー図を示します。
【補完的納税義務確定までのフロー】
1.輸入申告及び引き取りの完了
↓
2.事後調査等による不足税額の判明
↓
3.税関から輸入者(申告名義人)への督促・調査
↓
4.輸入者の所在不明、または名義冒用の発覚
↓
5.税関から通関業者への「真の委託者」の特定要求
↓
6.通関業者が委託者の実在を証明できない
↓
7.通関業者への補完的納税義務の適用(確定)
7 連帯納税義務の性質
補完的納税義務が発生した場合、通関業者は輸入者と「連帯して」納税義務を負います。この連帯義務の性質は極めて強力です。
(1)税関による選択
税関は、輸入者と通関業者のどちらに対しても、全額の支払いを求めることができます。輸入者の行方がわからない以上、事実上、確実に資産を把握できる通関業者に対して真っ先に徴収がなされます。
(2)抗弁の制限
「まず本人に請求してほしい」という催告の抗弁権や、「本人の財産から差し押さえてほしい」という検索の抗弁権は、連帯義務者には認められません。
(3)通関業免許への影響
納税義務を果たさない場合、通関業法に基づく行政処分の対象となる可能性があり、最悪の場合、通関業の免許取り消しや業務停止という致命的な不利益を被ることになります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
通関業者が補完的納税義務を問われる事態は、まさに企業の存亡に関わる危機といえます。税関から第13条の3の適用を想起させるような連絡があった段階で、迅速かつ正確な法的対応を開始しなければなりません。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、通関実務の現場感覚と関税法の深い専門性を兼ね備えております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・税関が主張する「委託者を明らかにできていない」という判断に対する、法的な反論及び証拠整理
・真の委託者を特定するための独自の調査及び法的手段の検討
・税関との交渉を通じ、通関業者に故意や重大な過失がないことを主張し、責任の免除や軽減を模索すること
・もし納税を免れられない場合でも、その後の求償権の行使(真の犯人への支払い請求)を見据えた法的手続きの構築
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律と通関実務の二つの視点から、貴社の利益を守るために全力を尽くします。
9 まとめ
通関業者の補完的納税義務は、関税法第13条の3という条文の中に、通関業者のリスクが凝縮された形で規定されています。輸入者の住所が不明で、かつ業者が委託者を証明できないという二つの条件が揃ったとき、業者は「代理人」から「納税の当事者」へと転落してしまいます。
この不条理とも思える重い責任を回避するためには、日頃からの厳格な顧客管理と、万が一の際の迅速な法務対応が不可欠です。新規顧客や不透明な取引に対しては、常に「もしこの人が消えたら、当社が税金を払えるか」という視点を忘れてはなりません。
本記事の解説が、通関業に携わる皆様のコンプライアンス体制の再点検と、リスク回避の一助となれば幸いです。不測の事態に直面した際は、一人で抱え込まず、専門的な知見を持つ弁護士へ速やかに相談することをお勧めいたします。
【補完的納税義務に関する重要事項の再確認】
・原則として納税義務者は輸入者であるが、例外が存在すること
・関税法第13条の3が通関業者の補完的責任を定めていること
・輸入者の所在不明と業者の委託者特定不能の二点が要件であること
・「委託者を明らかにする」には、住所の特定と本人の承認が必要であること
・連帯義務であるため、税関は業者から優先的に徴収できること
・事前の徹底した本人確認こそが、このリスクに対する唯一の対抗策であること
適正な通関業務と強固な法的防衛を通じて、貴社のビジネスがさらに発展することを願っております。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
税関職員による調査権限の法的根拠
1 はじめに―相談事例
輸出入ビジネスを営む企業にとって、税関は常に身近な存在ですが、ある日突然、税関から調査の連絡が入ったとしたら、多くの担当者は不安を感じるのではないでしょうか。まずは、当事務所に寄せられる具体的な相談事例を想定してみます。
【相談者】
機械部品輸出入業 S商事株式会社 物流管理部長
【相談内容】
「当社では長年、アジア諸国を中心に精密機械部品の輸出入を行っております。先日、税関の担当部署から一本の電話があり、過去2年分の輸出取引に関して、帳簿書類の検査を行いたいとの連絡を受けました。 当社としては法令を遵守している自負はありますが、税関職員が具体的にどこまでの権限を持って調査に来るのか、どのような書類を準備すべきなのかがわからず困惑しております。 また、この調査を拒否することはできるのでしょうか。もし申告漏れや手続きの不備が見つかった場合、どのような法的リスクがあるのか、専門的な見地から詳しく教えてください。特に、税関職員が持つ質問権や検査権の範囲について正しく理解しておきたいと考えております」
このような不安は、適正な申告を心がけている企業であっても抱くのが当然です。税関職員による調査権限は、関税法という法律によって厳格に定められております。本記事では、輸出入者にとって避けて通れない税関職員の調査権限について、その法的背景から実務上の対応策まで詳しく解説いたします。
2 税関職員の調査権限の基本的枠組み
税関職員が輸出入者に対して質問を行い、あるいは帳簿を検査する権限は、関税等に関する法律の円滑な執行を確保するために認められたものです。
(1)調査権限の目的と性質
この権限の主な目的は、輸出入貨物の適正な通関を確保し、関税等の徴収を公平かつ確実に行うことにあります。関税法第105条第1項第4号の2および第6号がその直接的な根拠規定となります。
重要なのは、この権限が行政上の目的を達成するための「任意調査」の枠組みにあるという点です。関税法第105条第4項では、以下のように規定されております。
関税法第105条第4項 「第1項又は第2項の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」
これは、税関職員が持つ一般的な調査権限が、あくまで行政指導や行政処分のための基礎資料を収集するためのものであり、令状に基づく強制捜査(犯則事件の調査)とは法的に峻別されていることを意味しております。
(2)対象となる関係者の範囲
税関職員が質問や検査を行うことができる相手方は、単に輸出入申告を行った本人だけではありません。条文上は「その他の関係者」という広範な表現が用いられております。
【調査対象となる主な関係者一覧】
|区分|具体的な対象者|
|直接の当事者|輸出者、輸入者|
|実質的な依頼主|当該輸出入の委託者|
|手続きの代行者|通関業務を取り扱った通関業者|
|物流関係者|貨物の運送人、倉庫業者、船舶・航空機の運営者|
|契約の相手方|当該貨物の買受人、売渡人|
|その他の関係者|貨物の製造者、金融機関、保険会社等|
このように、貨物の流れに関わる非常に広い範囲の者が調査対象となり得るため、企業としては自社だけでなく、取引先との関係性も含めた書類管理が求められることになります。
3 輸出された貨物に係る調査権限の詳細
輸出貨物に関しては、特に安全保障貿易管理や関税の還付等の観点から、適正な手続きが行われたかどうかが精査されます。
(1)輸出調査の根拠条文
関税法第105条第1項第4号の2には、輸出貨物に係る調査権限が以下のように定められております。
関税法第105条第1項第4号の2 「輸出された貨物について、その輸出者、その輸出に係る通関業務を行つた通関業者、当該輸出の委託者その他の関係者に質問し、又は当該貨物についての帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。次号及び第6号において同じ。)を検査すること」
(2)輸出調査が実施される主な理由
輸出後の調査は、多くの場合、以下の事由が発生した際に行われます。
・輸出許可を受けた貨物が、実際には許可内容と異なるスペックであった疑いがある場合
・リスト規制品などの戦略物資が、正当な手続きを経ずに輸出された懸念がある場合
・輸出に伴う消費税の免税や還付手続きの正当性を確認する場合
・他法令(外為法、文化財保護法等)による輸出制限の遵守状況を確認する場合
輸出者は、貨物がすでに日本国外に存在する場合であっても、国内に残された契約書、仕入書(インボイス)、船積み書類(B/L)、製造仕様書などを提示する義務を負います。
4 輸入された貨物に係る調査(事後調査)の詳細
輸入貨物に関しては、特に「申告納税方式」が採用されていることから、輸入者が自ら計算して申告した内容が正しいかどうかを確認するための「輸入事後調査」が極めて重要な役割を果たします。
(1)輸入事後調査の根拠条文
関税法第105条第1項第6号には、輸入貨物に係る調査権限が以下のように定められております。
関税法第105条第1項第6号 「輸入された貨物について、その輸入者、その輸入に係る通関業務を取り扱つた通関業者、当該輸入の委託者、当該輸入された貨物を買い受けた者その他の関係者に質問し、又は当該貨物(既に消費され、又は使用されたものを除く。)若しくは当該貨物についての帳簿書類を検査すること」
(2)事後調査の実施形態
輸入事後調査は、原則として税関職員が輸入者の事務所や本店を訪れて実施されます。事前の通知が行われるのが一般的ですが、調査の目的を達成するために必要がある場合には、事前通知なしに調査が開始されることも理論上は否定されません。
【調査のポイント】
・価格申告の妥当性(ロイヤリティや無償供与資材などの加算要素が正しく含まれているか)
・品目分類(HSコード)の適正性(実行関税率表に基づき正しい関税率が適用されているか)
・原産地規則の遵守(経済連携協定(EPA)等の特恵税率の適用が正当か)
(3)不適正な申告が発覚した場合の是正
調査の結果、申告額が不足していた場合には「修正申告」の勧奨が行われます。輸入者がこれに応じない場合には、税関長による「更正」という行政処分が行われます。この際、不足税額に加えて過少申告加算税や延滞税といった附帯税が課されることになり、大きな経営的ダメージとなる可能性があります。
5 調査権限の行使に対する輸入者の義務と権利
税関職員の調査権限は任意調査の性質を持つものの、輸入者には法律上の協力義務が課されており、これを無視することはできません。
(1)受忍義務と拒否した場合のペナルティ
関税法には、調査を拒否したり虚偽の陳述を行ったりした場合の罰則規定が存在します。
「第105条第1項又は第2項の規定による税関職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの陳述をし、又はこれらの規定による職務の執行を拒み、妨げ、若しくは忌避した者」は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
このように、調査を拒否することは刑事罰の対象となり得るため、輸入者は事実上、調査を受け入れる義務を負っております。
(2)輸入者側に認められる権利
一方で、調査は無制限に行われるものではありません。
・調査の目的に関係のない私的な領域への立ち入りを拒む権利
・提示を求められた書類が、調査対象の貨物と無関係であることを説明し、提出を控える権利
・専門家(弁護士や通関士)の立ち会いを求める権利
【税関調査の一般的な流れ】
1.税関からの調査通知 (電話または文書により、調査の日時、場所、対象貨物、対象期間等が伝えられる)
↓
2.事前準備 (申告書類、インボイス、帳簿、契約書、価格決定根拠資料等の整理)
↓
3.実地調査の実施 (税関職員による質問への回答、書類の原本確認、必要に応じた現物確認)
↓
4.調査結果の説明 (指摘事項の有無、評価申告や分類に関する税関の見解の提示)
↓
5.是正手続き (指摘事項がある場合、修正申告の実施または更正通知の送達)
↓
6.調査の終結 (適正と認められた場合は、その旨の通知をもって完了)
6 実務における具体的な準備書類
税関職員が検査権を行使する際、必ずといっていいほど提示を求められる帳簿書類をまとめました。ワードデータ等にコピーして社内チェックリストとして活用できる形式です。
【税関調査で準備すべき主要書類リスト】
|書類カテゴリー|具体的な書類名称|
|通関関係書類|輸入許可書、輸出許可書、仕入書(インボイス)|
|物流関係書類|船荷証券(B/L)、航空貨物運送状(AWB)、梱包明細書(P/L)|
|取引関係書類|売買契約書、代理店契約書、価格交渉の記録(メール等)|
|支払関係書類|送金控(海外送金依頼書)、銀行の決済記録、領収書|
|評価関係書類|ロイヤリティ契約書、原材料の無償提供記録、金型費用の支払証明|
|物流費関係書類|運賃明細書、保険料領収書、輸入諸掛明細書|
これらの書類は、貨物の輸入許可の日の翌日から原則として5年間(帳簿については7年間)保存する義務があります。調査は過去に遡って行われるため、常に整理された状態で保存しておくことが、円滑な調査対応の鍵となります。
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
税関職員による調査権限は、法的に強力な裏付けを持っております。しかし、その範囲や解釈を巡っては、輸入者と税関の間で見解が対立することも少なくありません。特に、高額な追徴課税が予想される事後調査においては、初期段階での適切な法的対応がその後の結果を大きく左右します。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士としての法的知識と、通関士としての実務的な視点を融合させることで、貴社の権利を最大限に守るためのサポートを提供することが可能です。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・税関職員による質問が権限の範囲内にあるかを精査し、不当な要求を牽制すること。
・提示する書類の範囲を法的に整理し、余計な指摘を受けるリスクを最小限に抑えること。
・事後調査において、貴社の申告が正当であることを法的な論理構成をもって説明すること。
・万が一、更正処分等の不利益な処分を受けた際、不服申立て(審査請求)等の法的救済手段を迅速に講じること。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律の専門家であり、通関実務の専門家でもある当事務所が、貴社のビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。
8 まとめ
税関職員による調査権限は、関税法第105条に基づき、適正かつ公平な通関を実現するための強力な手段として位置づけられております。輸出調査においても、輸入事後調査においても、職員には質問権と検査権が与えられており、これに対して輸出入者は協力する義務を負っております。
しかし、その調査はあくまで行政目的の範囲内に限定されるべきものであり、犯罪捜査とは厳格に区別されなければなりません。輸入者側も単に受動的に調査を受けるだけでなく、自らの権利を正しく理解し、適正な法的手続きが踏まれているかを確認する姿勢が重要です。
本記事の解説が、読者の皆様の税関調査に対する理解を深め、円滑な事業運営の一助となれば幸いです。不測の事態に直面した際、あるいは日頃のコンプライアンス体制に不安を感じた際は、迷わずに専門家へ相談することをお勧めいたします。
【税関職員の調査権限に関する重要ポイントの再確認】
・関税法第105条が権限の直接的な根拠であること
・輸出貨物、輸入貨物の双方に対して調査権限が及ぶこと
・通関業者や関係者も調査の対象に含まれること ・犯罪捜査のために認められたものではないこと(任意調査の原則)
・正当な理由のない拒否や虚偽の陳述には罰則があること
・帳簿書類の適切な保存が、調査対応における最大の防御策であること
適正な申告と誠実な調査対応を通じて、貴社の国際貿易ビジネスがより強固なものとなることを願っております。
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(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入品における製造物責任
1 はじめに―相談事例
海外から魅力的な製品を輸入し国内で販売するビジネスは大きな収益機会となりますが、同時に国内の製造業者と同様、あるいはそれ以上に重い法的責任を負うリスクが伴います。まずは、輸入者が直面し得る具体的なトラブル事例を見てみましょう。
【相談者】
冷凍食品輸入販売業 R社 コンプライアンス担当者
【相談内容】
「当社では、北米の食品加工メーカーから冷凍ベリー類を輸入し、国内の製菓メーカーや飲食店向けに卸売を行っております。ところが先日、当社の製品を使用した飲食店において、顧客複数名が激しい腹痛を訴え、ウイルス性食中毒と診断される事態が発生しました。 保健所の調査により、提供されたメニューに使用されていた当社の冷凍ベリーからウイルスが検出されました。飲食店側からは、製造物責任法に基づき、被害者への賠償金や営業停止期間中の損失について損害賠償を請求されています。 当社はあくまで海外から仕入れてそのまま転売している立場であり、自社で加工や製造を行っているわけではありません。それにもかかわらず、国内のメーカーと同じように重い賠償責任を負わなければならないのでしょうか。また、汚染が輸入前の製造工程で起きたのか、それとも国内の流通段階で起きたのかが不明確な場合、責任の所在はどう判断されるのか詳しく教えてください」
このような状況は、食品に限らず、家電、玩具、産業機械など、あらゆる輸入品のビジネスにおいて起こり得ます。以下、製造物責任法(PL法)に基づき、輸入者が負うべき責任の範囲とその詳細を解説します。
2 輸入品における製造物責任の法的根拠
輸入品によって消費者に生命、身体または財産上の被害が生じた場合、その責任を負うのは海外の製造メーカーだけではありません。日本の法律上、輸入者は極めて重い責任を負う立場にあります。
(1)製造業者としての輸入者
製造物責任法第3条では、製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、製造業者等がその損害を賠償する義務を負うと規定されています。 ここで重要となるのが、同法第2条第3項による製造業者等の定義です。
製造物責任法第2条第3項
「この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)」
第1号にある通り、自ら製造を行っていなくても、当該製品を「輸入した者」は、法律上「製造業者」と全く同一の責任を負うことになります。これは、海外の製造者に直接訴訟を提起することが困難な消費者に対し、国内の窓口である輸入者に責任を負わせることで、消費者の保護を図るという政策的な配慮に基づく規定です。
(2)輸入者が負う無過失責任
製造物責任の大きな特徴は、不法行為(民法第709条)とは異なり、輸入者に過失(不注意)があったかどうかを問わない「無過失責任」であるという点。製品に欠陥があり、それによって損害が生じたという因果関係さえ証明されれば、輸入者は「注意して仕入れを行っていた」と主張しても責任を免れることはできません。
3 製造物責任法における欠陥の概念
輸入者が責任を負う前提となる「欠陥」とは何を指すのでしょうか。 製造物責任法第2条第2項では、以下のように規定されています。
「この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、製造業者が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」
実務上、欠陥は以下の3つの類型に分類されます。
1.設計上の欠陥
製品の設計段階で安全性の配慮が不足しており、製品ライン全体が危険性を有している状態
2.製造上の欠陥
設計通りに作られず、製造工程でのミスや異物混入などにより、個別の個体に不備が生じた状態。食品の細菌汚染などは多くの場合これに該当。
3.指示・警告上の欠陥
製品自体には問題がなくても、正しい使用方法や危険性に関する情報が適切に提供されていない状態。海外製品の日本語説明書が不十分な場合などに発生しやすい論点。
4 輸入品特有の論点-汚染・欠陥時期の特定
輸入者の責任を考える上で最も過酷な争点となるのが、欠陥が生じた「時期」の問題。 前述の通り、輸入者は製造業者とみなされますが、それはあくまで「輸入した時点の製品の状態」に対して責任を負うものです。したがって、欠陥が輸入前に生じていたのか、それとも輸入後に国内で生じたのかが極めて重要です。
(1)汚染時期と責任の所在
食品の事例で言えば、細菌やウイルスが「海外の工場で混入した(輸入前の欠陥)」のであれば、輸入者は製造業者として責任を負います。一方で、国内に到着し、輸入者が販売業者に引き渡した後に、その販売業者の保管不備によって細菌が混入したのであれば、それは製造物責任の対象外となります(この場合は、原因を作った業者の不法行為責任が問われることになります)。
(2)立証責任の壁
裁判実務において、被害者(消費者)は「製品に欠陥があったこと」を証明する必要がありますが、「どの時点で欠陥が生じたか」を厳密に証明することは困難。そのため、裁判所は、製品の流通経路や細菌の特性などから、経験則に基づいて汚染時期を「推定」する傾向にあります。
5 裁判例から学ぶ実務上の判断基準
輸入品の製造物責任、特に汚染時期の判断について参考となる主要な裁判例を整理します。
(1)カナダ産馬刺しO157感染事件(東京地裁平成16年8月31日判決)
カナダから輸入された馬刺しを食べた消費者がO157による食中毒を起こした事案。
この裁判では、細菌による汚染がカナダでの屠畜・加工段階で生じたのか、あるいは日本国内でのカット・分装工程で生じたのかが争われました。
裁判所は、当該細菌の汚染経路には複数の可能性があり、輸入前の段階で汚染されていたと断定するには不十分であるとして、輸入者の製造物責任を否定。汚染経路が不明確な場合には輸入者が救済される可能性を示した事例となります。
(2)輸入瓶詰オリーブ食中毒事件(東京地裁平成13年2月28日判決)
輸入された瓶詰のオリーブからボツリヌス菌が検出され、重篤な食中毒が発生した事案。 この裁判では、検出されたボツリヌス菌が日本国内では極めて稀な型(B型)であったことや、瓶の密封状態に不備があったことなどの証拠に基づき、裁判所は「商品の開封前に、製造工程において既に細菌が混入していた」と事実上推定。輸入者側は製造工程に落ち度がなかったことを主張しましたが、結果として輸入者の製造物責任が肯定された事例です。
(3)輸入クロスバイク転倒事故(東京地裁平成25年3月25日判決)
食品以外では、輸入されたスポーツ自転車(クロスバイク)の前フォークが走行中に折損し、ライダーが重傷を負った事案。裁判所は、フォークの強度不足または製造工程での不備(溶接不良等)を認め、輸入者の製造物責任を肯定。海外メーカーの品質管理が不十分であっても、輸入者がそのすべての責任を肩代わりすることになる実態が浮き彫りとなった判決です。
6 輸入者が講じるべきリスク管理策
輸入品によるPL事故は、企業の存続を揺るがす甚大な損害をもたらします。輸入者が実務上講じるべき対策を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて社内体制のチェックリストとして活用できる形式。
【輸入者のための製造物責任リスク管理チェックリスト】
|対策項目|具体的なアクション内容|
|海外メーカー選定|ISO取得状況や現地の品質管理体制を監査し、信頼性を確認。|
|品質保証契約の締結|海外メーカーとの契約に、PL事故発生時の求償規定(責任分担)を明記。|
|受入検査の徹底|国内到着時にサンプル検査を実施し、欠陥がないことを記録として保存。|
|説明書・ラベルの整備|日本の法令(家庭用品品質表示法等)に合致した正しい日本語表記と警告を表示。|
|PL保険への加入|万が一の巨額賠償に備え、輸出入をカバーする生産物賠償責任保険を契約。|
|トレーサビリティの確保|ロット番号等により、どの製品がいつ、誰に販売されたかを追跡できる体制を構築。|
7 紛争発生時の法的アプローチ
万が一、自社が輸入した製品で事故が発生した場合には、迅速な法的対応が求められます。
(1)原因究明の専門性
汚染原因や破損原因の特定には、科学的な分析が不可欠です。当事務所では、専門の鑑定機関とも連携し、欠陥が輸入前に存在したのか、それとも使用者の誤使用や国内流通時の過失によるものなのかを精査します。
(2)海外メーカーへの求償
国内の消費者に賠償金を支払った後、輸入者は海外の製造メーカーに対して、支払った金額の払い戻しを求める(求償権の行使)ことができます。しかし、海外の法律や裁判手続きが壁となるため、国際私法に精通した弁護士のアドバイスが必須です。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブル、さらには輸入品に伴う製造物責任問題に関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・PL法上の「製造業者等」としての法的リスクの事前診断
・事故発生時の被害者交渉、及びマスコミ対応等のクライシス・マネジメント
・海外メーカーとの英文契約書(PL条項等)の作成・修正
・裁判例に基づいた、汚染時期や欠陥の有無に関する専門的意見の提供
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律と実務の両面から、貴社のビジネスを強固にサポートいたします。
9 おわりに
輸入ビジネスにおける製造物責任は、輸入者が想像している以上に厳格なもの。海外で作られたものだからといって、責任を海外に押し付けることは日本の法制度上できません。
しかし、適切な予防策を講じ、万が一の際にも裁判例に基づいた論理的な主張を行うことで、不当な不利益を回避することは可能です。
本記事の解説が、読者の皆様の安全な輸出入実務の一助となれば幸いです。正確な知識を持ち、リスクをコントロールすることこそが、グローバルビジネスを成功させるための鍵です。
【輸入品の製造物責任に関する重要ポイントの再確認】
・輸入者は法律上、国内製造業者と全く同じ責任を負うこと
・製品の欠陥があれば過失がなくても賠償義務が生じること
・汚染や欠陥が輸入前に生じていたかどうかが最大の争点であること
・裁判では細菌の特性や流通経路から汚染時期が推定されること
・海外メーカーとの契約やPL保険の活用がリスク回避の基本であること
適正な申告と安全な製品流通を通じて、貴社のビジネスがさらに発展することを願っております。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入貨物の再販売収益と関税評価
1 はじめに―相談事例
輸入ビジネスにおけるコスト計算において、関税の算出基礎となる課税価格の決定は極めて重要なプロセスです。単に仕入書に記載された金額を申告すれば済むわけではなく、取引の形態によっては、後日売手に支払う金銭が課税価格に加算される場合があります。まずは、当事務所に寄せられる具体的な相談事例を想定してみましょう。
【相談者】
海外ブランド家電の輸入代理店 Q社 財務部長
【相談内容】
「当社は現在、北欧の家電メーカーから最新式の調理器具を独占的に輸入し、国内で販売しております。メーカーとの契約では、輸入時の仕入価格を抑える代わりに、国内での販売後に得られた純利益の20%を、ロイヤリティとは別の名目で、毎年度末にメーカーへ送金する合意をしております。 先日、税関から事後調査の連絡があり、この『利益の送金』が関税の課税価格に加算されるべき『帰属収益』に該当するのではないかと指摘を受けました。当社としては、これはあくまで事業の成果を分配する配当のような性質のものであり、個々の貨物の輸入価格とは無関係だと考えております。 もしこれが加算対象となった場合、過去数年分に遡って多額の関税と加算税を支払わなければならないのでしょうか。法的な観点から、どのような場合に再販売収益が課税価格に含まれるのか、詳しく教えてください」
このような取引形態は、海外の親会社と子会社の間や、強力な提携関係にある企業間で見られますが、関税評価上は非常に慎重な判断が求められます。
2 関税評価の基本原則と課税価格の決定
関税を算出するための基礎となる価格を課税価格と呼びます。この課税価格の決定原則については、関税定率法第4条第1項に定められております。
関税定率法第4条第1項(輸入貨物の課税価格の決定の原則)
「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときの価格(以下この条において「取引価格」という。)による。この場合において、取引価格とは、当該輸入貨物の輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手の利益のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格をいう」
この規定にある通り、実際に支払った価格だけでなく、特定の要素(加算要素)を足し合わせたものが最終的な課税価格となります。本日のテーマである再販売収益は、この加算要素の一つとして、同項第5号に規定されております。
3 再販売収益(売手に帰属する収益)の法的定義
輸入貨物を国内で処分または使用したことによって得られる利益のうち、売手に還流するものは、実質的な貨物代金の一部とみなされます。
(1)関税定率法第4条第1項第5号の規定
「当該輸入貨物の処分又は使用による収益で直接又は間接に売手に帰属するもの」
(2)関税定率法基本通達4-14による具体的な解釈
この「処分又は使用による収益」の内容については、基本通達においてさらに具体的に定義されております。
関税定率法基本通達4-14(売手に帰属する収益)
「法第4条第1項第5号に規定する「輸入貨物の処分又は使用による収益」とは、当該輸入貨物の再販売その他の処分又は使用によつて得られる売上代金、賃貸料、加工賃等を構成するものをいう」
つまり、輸入した貨物そのものを売ったり、貸したり、あるいはそれを使って加工を行ったりして得られた対価から、一定の割合や金額を売手に支払う場合、それは貨物の価値の一部として関税の対象となります。
4 配当金と再販売収益の区別-実質判断の重要性
輸入者が売手に対して金銭を支払う際、それが「純粋な利益の分配(配当金)」なのか、それとも「貨物の処分による収益の帰属」なのかを区別することが実務上の最大の争点となります。
(1)原則としての配当金
一般的に、買手が売手の出資を受けている子会社である場合、年度末に利益の中から配当金を支払うことがあります。この配当金自体は、特定の貨物の輸入取引に対する対価ではないため、原則として課税価格に加算する必要はありません。
(2)加算不要とされるケースの例
例えば、買手と売手が共同で事業を行っており、毎会計年度末に、買手の当期純利益の50%を売手側に配当するという場合です。この場合、配当金の支払いは買手の全体的な事業活動の結果によるものであり、輸入貨物の再販売という個別の行為と直接結びついているわけではありません。したがって、これは輸入貨物の処分により得られる収益には該当せず、加算の対象外となります。
(3)注意すべき実質的判断
しかし、税関は形式的な名目(勘定科目)だけで判断することはありません。たとえ「配当金」や「経営指導料」といった名称で支払われていても、その算出根拠が「輸入貨物の販売数量」や「輸入貨物の売上高」に連動している場合は、実質的に再販売収益の帰属であるとみなされ、加算要素として扱われます。
5 実務における判断基準とチェックリスト
再販売収益が課税価格に加算されるべきかどうかを判断するためのポイントを整理いたします。
【売手に帰属する収益の該否判断基準一覧】
|判断ポイント|加算対象となる可能性が高いケース|加算対象とならない可能性が高いケース|
|計算の基礎|輸入貨物の売上高や販売個数に連動している|全社的な当期純利益に基づき決定される|
|支払いの名目|ロイヤリティ、売上分配金、成功報酬等|資本政策に基づく正当な配当金、利息|
|支払いの時期|貨物の販売の都度、または四半期ごと等|決算確定後の定時株主総会決議に基づく支払い|
|契約の存在|個別の輸入契約に付随して合意されている|株主間協定や寄附行為、資本提携に基づく|
|実質的な性質|貨物の仕入価格を低く抑える補填となっている|輸入取引とは独立した投資リターンである|
6 移転価格税制との関連性
輸入貨物の価格決定においては、関税評価だけでなく、法人税法上の「移転価格税制」との整合性も問題となります。 国税当局が「輸入価格が高すぎる(利益を海外に移転している)」と指摘する一方で、税関当局が「輸入価格が低すぎる(関税を免れている)」と指摘する事態が起こり得ます。年度末に行われる利益の調整(利益調整金)が、再販売収益の帰属とみなされるケースが増えており、グローバル企業にとっては極めて複雑な法務課題となっております。
7 事後調査におけるリスクとペナルティ
再販売収益の加算漏れが税関事後調査で発覚した場合、以下のような不利益が生じます。
(1)不足関税及び消費税の追徴
加算されるべきであった金額に相当する関税と輸入消費税を支払わなければなりません。
(2)過少申告加算税の賦課
申告が不十分であったことに対するペナルティとして、原則として不足税額の10%(一定額を超える部分は15%)の加算税が課されます。
(3)延滞税の発生
輸入許可の日の翌日から納付の日までの期間に応じた延滞税が課されます。期間が長いほど、負担は重くなります。
(4)重加算税のリスク
もし、再販売収益であることを隠蔽するために、意図的に別の名目で送金していたとみなされた場合、35%という極めて重い重加算税が課されることになります。
8 評価申告制度の活用
将来的に支払うべき収益の額が輸入申告の時点で確定していない場合、どのように対応すべきでしょうか。この場合、「評価申告制度」を活用することが実務上の正解です。
(1)個別評価申告
輸入申告ごとに、暫定的な価格で申告を行い、後に収益の額が確定した段階で修正申告を行う方法です。
(2)包括評価申告
特定の売手との継続的な取引について、あらかじめ税関長に対して課税価格の計算方法を届け出て、承認を受ける制度です。これを適切に行っていれば、事後調査で「加算漏れ」を指摘されるリスクを劇的に低く抑えることができます。
9 図解による課税価格の計算構成
再販売収益がどのように課税価格に組み込まれるかを視覚化いたします。
【再販売収益を含む課税価格の算出フロー】
1.現実支払価格(仕入書記載の価格) (例:1個あたり10000円)
+
2.加算要素(関税定率法第4条第1項第1号~第4号) (運賃、保険料、仲介手数料、容器・包装費、無償供与資材、特許権使用料等)
+
3.売手に帰属する収益(第5号) (例:国内販売価格の5%を後日送金する契約がある場合のその金額)
=
4.課税価格 (この合算額に税率を乗じて関税額を決定)
10 弁護士へのご相談をご希望の方へ
輸入貨物の再販売収益に関する関税評価は、契約書の文言一つで結論が大きく変わる繊細な分野です。単に「配当金だから大丈夫」という主観的な判断は、税関のプロフェッショナルな調査の前では通用しないことがあります。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から、貴社の取引が関税法上どのように評価されるかを専門的に分析することが可能です。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・海外メーカーとのライセンス契約や代理店契約における、関税評価上のリスク診断
・税関事後調査において「帰属収益」の指摘を受けた際の、論理的な反論資料の作成
・包括評価申告書の作成及び税関との事前相談の代理
・移転価格税制との整合性を考慮した、最適な輸入価格スキームの構築アドバイス
お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しが立ち、不安の解消につながることも多々あります。特に関税評価の問題は、一度税関の指摘を受けてしまうと、過去数年分の取引すべてに影響が及ぶため、早めの対策が不可欠です。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
11 まとめ
本日は、輸入貨物の再販売収益を売手に交付する場合の課税価格の考え方について解説いたしました。
関税定率法第4条第1項第5号が定める「売手に帰属する収益」は、現実支払価格に含まれていない取引上の価値を補完する重要な加算要素です。形式的な配当金であっても、その実態が輸入貨物の処分と密接に結びついているならば、課税価格に算入しなければなりません。
正しい知識を持って取引スキームを点検し、必要に応じて評価申告制度を利用することは、企業のコンプライアンス維持と、無駄な追徴税額を回避するための賢明な選択です。
本記事の解説が、読者の皆様の輸入実務における一助となれば幸いです。複雑な契約形態や価格調整を行っている場合は、一人で悩まずに、専門的な知見を持つ弁護士へ相談することをお勧めいたします。
帰属収益に関する重要事項の再確認 ・輸入貨物の再販売等の収益を売手に返す場合は加算要素となること ・関税定率法第4条第1項第5号がその根拠規定であること ・名目が配当金であっても実質が貨物代金なら加算が必要であること ・包括評価申告制度を適切に活用してリスクをヘッジすること ・事後調査では契約書だけでなく実際の送金フローが厳しく見られること
適正な申告と納税を通じて、健全で透明性の高い国際ビジネスを実現していきましょう。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入貨物と共に輸入される容器の関税評価
1 はじめに―相談事例
輸入実務において、貨物の本体価格だけでなく、それを収める容器や包装の費用をどのように取り扱うかは、課税価格(関税を計算する際の基礎となる価格)を正しく算出する上で極めて重要な論点となります。まずは、当事務所に寄せられる具体的な相談事例をみていきましょう。
【相談者】
輸入化粧品販売業 P社 物流管理担当者
【相談内容】
「当社では、フランスのメーカーから高級な香水を輸入しております。これまでは、香水が瓶に詰められた状態で輸入していましたが、このたびコスト削減のため、香水本体をドラム缶のような大型容器(バルク)で輸入し、同時に、国内で詰め替えるための専用のデザイナーズガラスボトルを別途同じ船で輸入することになりました。
メーカーからの請求書(インボイス)では、香水液体の代金と、空のガラスボトルの代金が別々に記載されています。税関に申告を行う際、このガラスボトルの費用は、香水液体の課税価格に加算しなければならないのでしょうか。それとも、液体は液体、ボトルはボトルとして別々に申告すればよいのでしょうか。
また、輸送時に使用する再利用可能なパレットやコンテナの費用についても、どのように申告に含めるべきか迷っております。正しい法的な判断基準を教えてください」
このようなケースでは、関税定率法における「加算要素」の規定と、関税率表の解釈に関する「通則」の理解が不可欠です。本記事では、輸入貨物の容器と課税価格の考え方について、専門的な視点から詳しく解説いたします。
2 関税評価の基本原則と加算要素の体系
輸入貨物の関税を計算するための基礎となる「課税価格」は、原則として、その貨物の輸入取引において実際に支払われた、または支払われるべき「現実支払価格」に、運賃や保険料などの「加算要素」を加えた価格(取引価格)によって決定されます。
関税定率法第4条第1項(輸入貨物の課税価格の決定の原則)では、以下のように規定されています。
「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときの価格(以下「取引価格」という。)による。この場合において、取引価格とは、当該輸入貨物の輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手の利益のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格をいう」
同項第2号ロにおいて、容器に関する加算要素が以下のように明記されています。
「輸入貨物に係る輸入取引に関し買手により負担される当該輸入貨物の容器の費用」
つまり、ある貨物を輸入する際、その貨物を収める容器の費用を買手が負担している場合、その費用は貨物本体の価格に加算され、一体として課税されることになります。
3 関税法及び関税定率法における容器の定義
ここで重要となるのが、どのようなものが法的な「容器」に該当するかという点です。関税評価の実務において、この「容器」の範囲は、関税率表の解釈に関する通則5の規定に基づいて判断されます。
通則5(ケースその他これに類する容器並びに包装材料及び包装容器の取扱い)
(a)写真機用ケース、楽器用ケース、銃用ケース、製図機用ケース、首飾り用ケースその他これらに類する容器で、特定の物品又は物品のセットを収納するために特に製作し又は適合させたものであつて、長期間の使用に適し、当該容器に収納される物品とともに提示され、かつ、通常当該物品とともに販売されるものは、当該物品に含まれるものとしてその所属を決定する。
(b)(a)の規定に従うことを条件として、物品とともに提示し、かつ、当該物品の包装に通常使用する包装材料及び包装容器は、当該物品に含まれるものとしてその所属を決定する。
関税定率法第4条第1項第2号ロにいう「容器」とは、この通則5によって「当該物品に含まれる」とされるものを指します。これには、製品の個装箱、香水の瓶、薬品のアルミ包装などが含まれます。
4 容器の費用を加算する場合としない場合の判断基準
容器の費用を課税価格に加算するかどうかの分かれ目は、輸入申告の時点で「その容器が貨物を収納しているか」という点にあります。
(1)貨物を収納した状態で輸入される場合
輸入時に、貨物が容器に入っている(あるいは包装されている)場合、その容器の費用は関税定率法第4条第1項第2号ロの規定により、貨物の課税価格に加算されます。
例えば、瓶入りのワインを輸入する場合、ワインの液体の価格に、瓶の費用を加算します。これが基本的な加算要素の考え方です。
(2)貨物と容器が別々に輸入される場合
冒頭の相談事例のように、飲料水や香水などの「中身」と、それを詰めるための「空のペットボトルやガラス瓶」をそれぞれ別々の貨物として輸入する場合、その空容器は輸入申告の時点で貨物を収納していません。
この場合、空容器は「容器」としての加算要素ではなく、それ自体が独立した一つの「貨物(物品)」として取り扱われます。
したがって、中身(液体)の価格に容器の費用を加算する必要はなく、それぞれの物品に対して、それぞれの税番(HSコード)を適用して申告を行うことになります。
5 容器の種類と関税評価の取り扱い比較
実務において混同しやすい容器や包装の取り扱いについて、以下の表にまとめました。ワードデータ等にコピーして社内マニュアルとして活用できる形式で作成いたします。
【容器・包装の形態別関税評価の取り扱い一覧】
| 容器・包装の形態 | 関税評価上の取り扱い | 加算要素の該否 |
| 輸入時に貨物を収納している個装容器(瓶、缶、箱等) | 貨物の現実支払価格にその費用を加算する | 該当する |
| 輸入時に貨物を収納している外装用包装材料 | 貨物の現実支払価格にその費用を加算する | 該当する |
| 国内での詰め替え用に、空の状態で輸入される容器 | 独立した別の貨物として申告する(中身への加算は不要) | 該当しない |
| 反復使用される輸送用コンテナやタンク | 原則として独立した貨物(または免税物品)として扱う | 該当しない |
| 買手が無償で提供した容器(いわゆる無償供与資材) | 買手の取得費用または製作費用を課税価格に加算する | 該当する |
6 特殊なケースにおける実務上の留意点
(1)無償供与される容器の費用
買手が国内または第三国で容器を調達し、それを海外の売手(製造者)に無償で送付して、中身を詰めてもらった後に輸入する場合、買手が負担した容器の調達費用は加算要素となります。
関税定率法第4条第1項第3号イにおいて、買手が無償または軽減した価格で提供した材料の費用を加算することが規定されていますが、容器についても同様に、買手が負担したコストは課税価格に含まれなければなりません。
(2)反復使用される容器(リターナブル容器)
ガスシリンダーや化学品のドラム缶など、繰り返し使用される容器については、通常の使い捨て容器とは異なる取り扱いが必要となる場合があります。
通則5(b)のただし書きでは、「反復使用に適することが明らかな包装材料及び包装容器については、この規定は適用しない」とされており、これらは中身の物品に含まれず、独立した貨物として扱われるのが原則です。
関税評価上も、これらが輸入取引の一部として費用負担されているのか、あるいは貸与されているのかによって、加算すべきかどうかの慎重な判断が求められます。
(3)パレットの費用
貨物を固定し、輸送を容易にするためのパレットも、輸入取引において買手がその費用を負担している場合は、包装の費用(関税定率法第4条第1項第2号ハ)として課税価格に加算されます。
ただし、パレット自体が後日返却される仕組み(プールパレット等)である場合や、一時免税の規定を適用する場合などは、複雑な法解釈を伴うことがあります。
7 現実支払価格にすでに含まれている場合
多くの取引では、インボイス価格(CIF価格等)にすでに容器や包装の代金が含まれています。この場合、さらなる加算は不要です。
しかし、メーカーが容器の代金を別途請求してきたり、買手が第三者から容器を購入してメーカーに送り届けたりしている場合には、加算漏れが発生しやすくなります。
加算漏れは、税関の事後調査において最も厳しく指摘されるポイントの一つであり、過少申告加算税や延滞税の対象となるリスクがあります。
8 図解による課税価格の計算構成
以下に、容器の費用を含む課税価格の計算構造を視覚化します。
【輸入貨物の課税価格の構成図】
1.現実支払価格(仕入書価格)
(貨物本体の代金として売手に支払う金額)
+
2.加算要素(買手が負担するものに限る)
(イ)仲介手数料及び口銭(買付手数料を除く)
(ロ)容器の費用(関税率表の通則5に規定するもの)
(ハ)包装の費用(梱包資材費や労働費)
(ニ)買手による無償供与資材(材料、工具、金型、技術等)
(ホ)特許権等の使用料(ロイヤリティ)
(ヘ)売手への帰属収益
+
3.輸入港までの運賃・保険料
(日本に到着するまでの輸送コスト)
=
4.課税価格(この金額に関税率をかけて税額を算出)
9 弁護士へのご相談をご希望の方へ
関税評価における容器の取り扱いや加算要素の判断は、取引の形態が多様化する中で、非常に複雑なものとなっています。単に「瓶に入っているから足す」といった単純な判断だけでは、不必要な関税の過払い、あるいは深刻な過少申告を招く恐れがあります。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、関税法や関税定率法に関する専門的な知見に基づき、輸入・通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・最新の関税定率法及び関税評価技術的注釈に基づいた、適正な課税価格の算定支援。
・税関事後調査において容器や包装の加算漏れを指摘された際の、法的な反論及び交渉。
・複雑なリターナブル容器や無償供与資材が絡む取引における、契約書のリーガルチェックとアドバイス。
・事前教示制度を活用した、税関との見解の事前確認。
輸入取引のコスト計算に不安がある場合や、税関との見解の相違が生じている場合には、どうぞご遠慮なく当事務所までご相談ください。
10 まとめ
本日は、輸入貨物とともに輸入される容器の関税評価について解説いたしました。
容器の費用を貨物の価格に加算するかどうかの判断基準は、輸入申告の時点でその容器が貨物を収納しているか、そしてその費用を買手が負担しているかという点に集約されます。
国内での詰め替えを目的として空の状態で輸入される容器については、加算要素ではなく独立した貨物として扱うというルールは、実務上非常に重要なポイントです。
関税定率法第4条第1項の規定を正しく理解し、現実支払価格と加算要素を適切に区分して申告することは、企業のコンプライアンス維持と、適正な納税コストの把握に直結いたします。
本記事の解説が、皆様の輸入実務における正確な課税価格の決定に寄与すれば幸いです。もし、自社の取引形態における判断が難しい場合や、過去の申告内容に不安がある場合には、専門家への相談を検討することをお勧めいたします。
容器と課税価格に関する重要事項の再確認
・輸入時に貨物を収納している容器の費用は加算要素となること
・空の状態で別途輸入される容器は、独立した別の貨物として扱うこと
・容器の定義は関税率表の解釈に関する通則5に準ずること
・買手が無償で提供した容器のコストも課税価格に含まれること
・リターナブル容器は、その性質や取引形態により個別の判断が必要であること
適正な申告と納税を通じて、健全で透明性の高い貿易ビジネスを実現していきましょう。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
関税ほ脱罪及び無許可輸出入罪の留意点
1 はじめに―相談事例
輸出入をビジネスとして継続的に行う企業にとって、関税法という法律は常に隣り合わせの存在です。しかし、その中には「知らなかった」では済まされない重い刑事罰を伴う規定が含まれています。まずは、どのような状況でこれらの罪が問題となるのか、具体的な相談事例を通じて見てみましょう。
【相談者】
輸入卸売業 O社 代表取締役
【相談内容】
「当社は海外から雑貨やアパレル製品を輸入し、国内の小売店に販売しています。先日、税関による事後調査が行われた際、一部の輸入申告において実際の仕入価格よりも低い金額で申告していた、いわゆる『アンダーバリュー』の事実を指摘されました。 担当者に確認したところ、取引先との交渉の過程で発行された低い金額の仮のインボイスを、そのまま本物の書類として税関に提出してしまったとのことです。担当者は『納期を急いでいたため、確認を怠っただけで悪意はなかった』と主張していますが、税関からは『関税を免れる等の罪』に該当する可能性があると告げられました。 会社として意図的に脱税を指示したわけではありませんが、私自身や会社も処罰の対象になるのでしょうか。また、どのような罰則が想定されるのか、法的な観点から詳しく教えてください」
このような事例は、実務の現場では決して珍しいものではありません。しかし、関税法違反として立件された場合、企業が被るダメージは計り知れません。本日は、特に関税法の中で重要な二つの罪について詳しく解説いたします。
2 関税を免れる等の罪(関税ほ脱罪)の詳細
関税を免れる等の罪は、一般に「関税ほ脱罪」とも呼ばれます。これは、国の税収を不当に侵害する行為に対して科される非常に重い罰則です。
(1)法的根拠と要件
関税法第110条第1項には、以下の通り規定されています。
「次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の払戻しを受けたとき
二 関税を納付すべき貨物について偽りその他不正の行為により関税を納付しないで輸入したとき」
ここで重要となるのが「偽りその他不正の行為」という文言です。これは、単なる申告漏れや計算ミスを超えて、意図的に真実を隠蔽し、または虚偽の事実を捏造して関税を免れようとする行為を指します。具体的には、前述のアンダーバリュー(価格の過少申告)や、関税率の低い別の品目として偽って申告する行為などが該当します。
(2)罰則の強化規定
関税ほ脱罪の罰則には、免れた税額に応じた加重規定があります。関税法第110条第4項によれば、免れた関税額等の10倍が1000万円を超える場合、罰金は「免れた関税額等の10倍以下」とされます。例えば、多額の輸入を継続し、免れた税額が合計で5000万円に達していた場合、罰金は最大で5億円にまで跳ね上がる可能性があるということです。
(3)通関業者の責任
本条の規定は輸入者本人だけでなく、通関業者にも及びます(関税法第110条第2項)。通関業者が輸入者と共謀したり、あるいは不正の事実を知りながら偽りの申告を行ったりした場合、通関業者自身も同一の罰則の対象となります。これは、通関業者が通関手続きの適正を確保すべき公的な役割を担っているためです。
3 許可を受けないで輸出入する等の罪(無許可輸出入罪)
関税を免れる意図がなかったとしても、税関の許可を得ずに貨物を移動させる行為自体が「無許可輸出入罪」として処罰の対象となります。
(1)法的根拠と要件
関税法第111条第1項には、以下の通り規定されています。
「次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第67条(輸出又は輸入の許可)の許可を受けるべき貨物について、当該許可を受けないで当該貨物を輸出し、又は輸入した者
二 第67条の申告又は検査に際し、偽つた申告若しくは証明をし、又は偽つた書類を提出して貨物を輸出し、又は輸入した者」
(2)「無許可」の状態とは
第1号に該当するのは、いわゆる「密輸入」や「密輸出」の典型例です。税関を通さずに貨物を国内に持ち込んだり、国外へ持ち出したりする行為です。一方、実務で特に注意が必要なのは第2号です。これは、申告自体は行っているものの、その内容が「偽り」である場合を指します。例えば、輸入禁止品(模倣品や特定の薬品など)を、別の一般的な雑貨として偽って申告し、許可を得ようとした場合などがこれに該当します。この場合、形式上の許可は得ていても、法律上は「正当な許可」を得ていないものとみなされ、重い処罰の対象となります。
(3)罰則の加重
本罪においても、貨物の価格に基づく罰金の加重規定があります。当該犯罪に係る貨物の価格の5倍が1000万円を超えるときは、罰金は「当該価格の5倍以下」とされます。貨物自体の価格が高い場合、罰金総額は莫大な金額になるリスクがあります。
4 刑事罰と行政罰(加算税等)の相違
輸出入における不正が発覚した場合、税関から課されるのは刑事罰だけではありません。多くの場合、まず行政罰としての「附帯税」が課されます。
(1)過少申告加算税と重加算税
申告された税額が不足していた場合、不足分に加えて「過少申告加算税」が課されます。さらに、事実の隠蔽や仮装が認められる場合には、より重い「重加算税」が課されます。これは行政上のペナルティであり、刑事手続きとは別に行われます。
(2)刑事罰への発展
すべての不正が刑事事件になるわけではありませんが、免れた税額が高額である場合や、手口が悪質である場合、あるいは反復継続して行われている場合には、税関の犯則調査部門(通称「関税版の査察」)が動き、検察官への告発が行われます。そうなると、前述の懲役や罰金という刑事罰の対象となります。
以下に、関税法第110条と第111条の主な相違点を整理した比較表を作成しました。
【関税ほ脱罪と無許可輸出入罪の比較】
|項目|関税を免れる等の罪(第110条)|許可を受けないで輸出入する等の罪(第111条)|
|主な犯罪の目的|関税等の納付を免れること|税関の輸出入規制を回避すること|
|典型的な行為|アンダーバリュー、虚偽の還付請求|密輸、禁止品の偽り申告による輸入|
|懲役刑|10年以下|5年以下| |罰金刑(原則)|1000万円以下|1000万円以下|
|罰金の加重規定|免れた税額の5倍以下|貨物価格の5倍以下|
|併科の有無|懲役と罰金の併科が可能|懲役と罰金の併科が可能|
5 企業に与える社会的影響と法的リスク
関税法違反で処罰された場合、企業には単なる罰金の支払い以上の損失が生じます。
(1)AEO認定の取り消し
認定通関業者や認定輸入者などの「AEO制度」を利用している企業の場合、関税法違反による処罰は認定の取り消し事由となります。これにより、通関手続きの簡素化や迅速化といったメリットをすべて失うことになります。
(2)検査率の上昇
一度でも重大な違反を起こした企業は、税関のシステムにおいて「要注意企業」として登録されます。その結果、その後の輸入申告のたびに厳格な書類審査や現物検査が行われるようになり、リードタイムの増大やコストの上昇を招きます。
(3)両罰規定による法人の処罰
関税法第117条には「両罰規定」があります。これは、従業員がその業務に関して違反行為を行った場合、実行行為者である従業員だけでなく、その雇用主である法人に対しても罰金刑を科すという規定です。代表取締役が直接手を下していなくとも、会社として多額の罰金を支払わなければならず、役員の解任や株主代表訴訟などのリスクにも発展しかねません。
6 不法行為を未然に防ぐためのチェック体制
犯罪に手を染めないためには、社内におけるガバナンスの構築が不可欠です。
(1)インボイスの精査
海外の取引先から送られてくるインボイスが、実際の送金金額と一致しているかを必ずダブルチェックする体制を整えましょう。
(2)通関業者との連携
通関業者に対しては、取引の実態を正確に開示してください。不透明な指示は、通関業者を犯罪に巻き込むだけでなく、自社の首を絞めることになります。
(3)定期的な社内研修
輸出入実務に携わるスタッフに対し、関税法違反がどのような結果をもたらすのかを教育し、コンプライアンス意識を高めることが重要です。
以下に、事後調査から刑事手続きに至るまでの一般的な流れを整理したフロー図を示します。
【関税法違反の調査及び処分フロー】
1.税関事後調査の実施 (帳簿や書類の精査により不審な点が発見される)
↓
2.犯則調査への切り替え (意図的な不正の疑いがある場合、犯則調査部門による強制調査等が行われる)
↓
3.税関長による通告処分または告発 (軽微な場合は罰金相当額の納付を命じる通告処分。悪質な場合は検察官へ告発)
↓
4.刑事訴追 (検察官による起訴を経て、裁判所での審理が始まる)
↓
5.判決の確定 (懲役刑、罰金刑の確定。法人に対する両罰規定の適用)
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
関税法上の犯罪規定に触れる可能性がある事案は、単なる税務上のミスでは済まされません。事態が刑事事件に発展し、会社や個人の将来が脅かされる前に、適切な法的措置を講じる必要があります。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。弁護士としての高度な法的知見と、通関士としての実務的な視点を融合させることで、貴社のビジネスを多角的に守ることが可能です。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、早い段階でご相談いただくことには以下のような大きなメリットがあります。
・税関調査の初期段階において、不当な取り調べを防ぎ、適切な反論を行うことができる。
・修正申告のタイミングや方法を助言し、刑事告発を回避するための最善の策を講じることができる。
・両罰規定の適用を回避するために、法人が必要な監督責任を果たしていたことを立証する準備を整えられる。
・通関業者との間に生じたトラブルや責任の所在について、法的な整理を行うことができる。
お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しが立ち、不安の解消につながることも多々あります。輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
8 まとめ
本日は、関税法第110条の関税ほ脱罪、および第111条の無許可輸出入罪を中心に、その深刻なリスクと実務上の留意点について解説いたしました。
これらの罪は、実行行為者に重い懲役刑を課すだけでなく、法人に対しても莫大な罰金を課す「両罰規定」を伴います。また、刑事罰が確定しなくとも、重加算税の賦課やAEO認定の取り消しといった行政上の不利益は、企業の国際競争力を大きく削ぐことになります。
輸出入ビジネスは「スピード」が求められる現場ですが、そのスピードを優先するあまり、法的手続きを疎かにしたり、安易なコスト削減のために不正な申告を行ったりすることは、結果として最も高い代償を支払うことになります。
本記事の解説が、皆様の事業におけるコンプライアンス意識の向上と、適正な通関業務の維持に寄与すれば幸いです。もし、現在の申告状況に不安を感じたり、税関から不審な指摘を受けたりした場合には、一人で悩まずに、専門的な知識を持つ弁護士へ速やかに相談することをお勧めいたします。
主要な犯罪規定に関するチェックポイント ・アンダーバリューは「関税を免れる等の罪」に直結すること ・偽りの申告による許可取得は「無許可輸入」とみなされること ・罰金刑は免れた税額や貨物価格の5倍に達する可能性があること ・従業員の犯行であっても会社が処罰される「両罰規定」があること ・事後調査において誠実に対応し、早期に専門家のアドバイスを受けること
適正な申告と納税こそが、貴社のビジネスを長期的な成功に導く唯一の道であることを、改めて強調させていただきます。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
関税率表の所属の決定における原則
1 はじめに―相談事例
輸入実務において、一つの製品がどのような素材で構成され、どのような状態(完成品か未完成品か)で提示されるかによって、適用されるHS符号(税番)は大きく変動いたします。まずは、関税率表の解釈に関する通則の理解が不可欠となる具体的な相談事例をご紹介いたします。
【相談者】
スポーツ・ホビー用品輸入販売業者 R社 物流管理部長
【相談内容】
「当社ではこのたび、海外のメーカーから新型の電動アシスト自転車を輸入することになりました。この製品は輸送コストを抑えるため、タイヤやハンドル、バッテリーなどが取り外された『未帰属・未組み立て』の状態で一つの梱包に収められています。 また、この自転車には専用のキャリングケースと、メンテナンス用の工具、清掃用洗剤のボトルがセットになっています。 関税率表を確認したところ、自転車本体の項、個々の部品の項、あるいはセット品としての項など、複数の候補が考えられます。また、未組み立ての状態であっても『自転車』として申告して良いのか、あるいはバラバラの部品として申告すべきなのか判断に迷っております。 さらに、専用ケースの価値も高く、これらを一つの税番にまとめて良いのか、それとも個別に分けるべきなのかも不明確です。関税率の誤りは事後調査での追徴リスクに直結するため、所属決定の根本的なルールを詳しく教えてください」
このような複雑な物品の分類を世界共通のルールで統一的に行うために定められているのが、関税定率法別表の解釈に関する通則です。本日は、通則1から通則6までをすべて統合し、実務における判断の指針を徹底的に解説してまいります。
2 関税率表の解釈に関する通則の全体像
関税率表の適用について、世界中で統一的な運用を確保するための分類解釈の原則が通則です。これは単なるガイドラインではなく、法的拘束力を持つルールであり、通関実務において最も優先されるべき判断基準となります。
3 通則1 項の規定と注の最優先原則
通則1は、分類の出発点であり、かつ最も重要な原則です。
通則1の内容 「部、類、節の表題は、単に参照上の便宜のために設けたものである。この表の適用に当たつては、物品の所属は、項の規定及びこれに関係する部又は類の注の規定に従い、かつ、これらの項又は注に別段の規定がある場合を除くほか、通則2以下の原則に従つて決定する」
実務上のポイントは、部や類のタイトル(表題)だけで判断してはならないという点です。例えば、第15部(卑金属及びその製品)という表題があっても、第15部の「注」において特定の物品が除外されている場合、その物品は第15部には分類されません。
「項(4桁の数字)の文言」と、各部や各類に付されている「注(ノート)」の規定こそが法的な決定権を持っており、通則2以下のルールは、これらで解決できない場合に初めて登場する補助的なもの。
4 通則2 未完成品・未組み立て品及び混合物の扱い
通則2は、項の規定を拡張し、物品の状態や構成材料の変化に対応するためのルール。
(1)通則2(a)-未完成品及び未組み立て物品
「各項に記載するいずれかの物品には、未完成の物品で、提示の際に完成した物品としての重要な特性を有するものを含むものとし、また、完成した物品(この原則により完成したものとみなす未完成の物品を含む。)で、提示の際に組み立ててないもの及び分解しているものを含む」
相談事例の電動自転車のように、バラバラの状態で輸入されても、組み立てれば自転車としての機能を果たすことが明らかな場合、それは部品の集合体ではなく「自転車」として分類されます。また、塗装前の自転車のフレームであっても、重要な特性を有していれば自転車として扱われる。
(2)通則2(b)-材料又は物質の混合及び結合
「各項に記載するいずれかの材料又は物質には、当該材料又は物質に他の材料又は物質を混合し又は結合した物品を含むものとし、また、特定の材料又は物質から成る物品には、一部が当該材料又は物質から成る物品を含む。二以上の項に属するとみられる物品の所属は、通則3の原則に従つて決定する」
これは、例えば「プラスチック製の容器」という項がある場合、それが100パーセントプラスチックである必要はなく、少量のゴムや金属が結合されていても、依然としてプラスチック製品の項に含まれ得るということを示しています。これにより所属が複数の項にまたがる場合に、次の通則3へと進むことになります。
5 通則3-二以上の項に属するとみられる物品の決定
物品が複数の項に該当しそうな場合、以下の(a)から(c)の順序で判断します。
(1)通則3(a)-特殊な限定による優先
「最も特殊な限定をして記載をしている項が、これよりも一般的な記載をしている項に優先する」
例えば、航空機用はじゅうたんを輸入する場合、「航空機の部分品」という一般的な項よりも、「じゅうたん」という具体的な項が優先されます。
(2)通則3(b)-重要な特性による決定
(a)で決まらない混合物や小売用のセット品については、当該物品に「重要な特性(エッセンシャル・キャラクター)」を与えている要素で分類します。相談事例のセット品であれば、自転車本体が重要な特性を持っているため、付属の洗剤や工具も含めて、セット全体を自転車の項に分類できる可能性がある。
(3)通則3(c)-数字上の配列における最後
(a)および(b)でも決まらない場合、候補に挙がった項のうち、最も大きな数字の項(後ろにある項)に分類するという法的な割り切りです。
6 通則4-類似性による分類
通則1から3を尽くしても所属が決定できない、新開発の未知の製品などに適用される極めて稀なルール。
通則4の内容 「通則1から3までの原則によりその所属を決定することができない物品は、当該物品に最も類似している物品が属する項に属する」
7 通則5-ケースその他これらに類する容器及び包装の扱い
(1)通則5(a)-特定の物品を収納する容器
写真機用ケース、楽器用ケース、銃用ケースなどの特定の物品用に作られた容器は、以下の条件を満たせば中身の物品に含まれます。
・特定の物品を収納するために特に製作されている
・長期間の使用に適している
・通常その物品と共に販売される
ただし、容器自体が物品に重要な特性を与えている場合は適用されません。
(2)通則5(b)-包装材料及び包装容器
通常、その物品の包装に使用される材料(段ボールやプラスチック袋等)は中身に含まれます。ただし、反復使用に適することが明らかな容器(高圧ガス用シリンダー等)には適用されず、容器単独で分類される。
8 通則6-号の所属決定
通則6は、項(4桁)の下の「号(サブヘディング)」を決定するためのルールです。
通則6の内容 「項のうちのいずれの号に物品が属するかは、号の規定及びこれに関係する号の注の規定に従い、かつ、前記の原則を準用して決定するものとし、この場合において、同一の水準にある号のみを比較することができる」
一重ダッシュ(ー)の号は一重ダッシュの号同士でのみ比較し、二重ダッシュ(ーー)は二重ダッシュ同士でのみ比較するという階層構造の厳守を求めています。
9 実務活用ガイド―通則の適用判断一覧表
通則1から6までの役割と実務上の判断基準を体系化いたしました。
【関税率表の解釈に関する通則1~6の完全体系表】
|通則|分類のステップ|具体的な判断基準および留意点|
|通則1|絶対優先の原則|項の文言と部・類の注を最優先する。表題に惑わされないこと。|
|通則2(a)|不完全・未組立|重要な特性があれば未完成品も完成品として扱う。未組立品も含む。|
|通則2(b)|混合・結合物|異物が混ざっていても特定の材料の項に含め得る。複数項にまたがる端緒。|
|通則3(a)|特殊性の優先|より具体的・詳細に物品を記述している項を選択する。| |通則3(b)|本質的特性|セット品などは、価格・重量・役割で最も重要な構成要素で分類する。|
|通則3(c)|配列の最後|(a)(b)で決まらない際の最終手段。数字が最大の項を採用する。|
|通則4|類似性の原則|いずれの規定にも当てはまらない場合、最も似ている物品の項に従う。|
|通則5(a)|専用容器|楽器ケース等の特定物品用容器は中身と一体。容器主体の場合は別。|
|通則5(b)|包装材料|通常の使い捨て包装は中身と一体。反復使用容器は単独で分類。|
|通則6|号の細分類|号の文言と号の注に従う。同一階層(ダッシュ数)のみを比較。|
10 実務上の重要留意事項
(1)部・類の注(ノート)の精査
通則1に従い、分類の鍵は常に「注」にあります。例えば、第64類(履物)の注には、アスベスト製の履物や中古の履物を除外する旨が記載されている。これを見落とすと、通則3を適用する以前に誤った分類をしてしまうことになる。
(2)小売用セットの厳格な要件
通則3(b)を適用する「セット」には、WCO(世界関税機構)の解説により以下の三条件が必要。
1.二以上の異なる物品で構成されている
2.特定の目的のために共に使用される
3.再包装せずに直接販売される形態である これらを満たさない場合、一括分類は認められず、個別に申告しなければなりません。
11 弁護士へのご相談をご希望の方へ
関税率表の所属決定は、単なるカタログの照合作業ではなく、関税法及び関税定率法に基づいた高度な法的解釈を伴う専門的業務。特に、通則2(a)の「重要な特性」の有無や、通則3(b)のセット品の判断、さらには通則5の容器の随伴性の判断を誤ると、税関から申告不備を指摘され、多額の追徴課税や加算税といったペナルティを課されるリスクが生じます。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から一貫したサポートを提供できる強みを持っております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・最新の関税率表及びWCO解説に基づいた、論理的で強固な分類根拠の構築
・複雑なセット商品や未組み立て製品に関する、税関との事前教示手続きのサポート
・事後調査において分類の妥当性を問われた際の、法的な論理構成による不服申立ての代理
・社内の輸出入コンプライアンス体制を強化するための、分類マニュアルの整備支援
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律の専門家であり、かつ通関実務の専門家でもある当事務所が、貴社のグローバルビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。
12 まとめ
本日は、関税率表の解釈に関する通則1から通則6までの全容について解説いたしました。
すべての分類の土台となる通則1、製品の状態を定義する通則2、複数候補から最適解を導く通則3、類似性を探る通則4。そして容器や号の分類を精緻化する通則5と6。これらの原則は、パズルのように組み合わさって一つの適正な税番を導き出します。
特に、グローバルなサプライチェーンの中で流通する多機能製品や、輸送効率を求めた未組み立て品、意匠を凝らした専用パッケージなどは、その分類一つで関税コストが大きく変動いたします。通則の文言一つ一つを精査し、客観的な事実に基づいた判断を行うことが、企業の信頼性を守ることにも繋がります。
本記事の包括的な解説が、皆様の輸出入実務における正確な税番決定の一助となれば幸いです。もし判断に迷うような複雑な案件や、税関との見解相違が予想される案件がございましたら、一人で悩まずに専門家への相談を検討することをお勧めいたします。
【通則1から6の理解における重要ポイントの再確認】
・通則1が最優先であり、項の文言と注が法的な決定権を持つこと
・通則2(a)により、未組み立て品も完成品として分類されること
・通則3は(a)>(b)>(c)の厳格な順序で適用すること
・通則5により、専用ケースは中身に含めるのが原則であること
・通則6は同一階層(ダッシュ数)の号のみを比較すること
・通則の適用にあたっては常に客観的な証拠資料(カタログ等)が必要であること
適正な分類と納税を通じて、健全で透明性の高い貿易ビジネスを実現していきましょう。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
