輸入取引における金型代の取扱い

はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、工業用機械やプラスチック製品の製造委託に関連して頻繁に発生する金型代と、輸入申告価格(課税価格)の関係について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務において、製造を海外に委託している企業様にとっては、非常に重要かつ見落としやすい内容となっております

【相談者】

埼玉県内でプラスチック製品の製造販売を行う株式会社パーツ 代表取締役 佐藤氏

【相談内容】

「当社は数年前から、中国の提携工場に製品の製造を委託し、そのための専用金型を現地で製作してもらっています。金型代としての500万円については、量産開始前に別途海外送金で支払いを済ませております。その後、完成した製品を順次輸入しており、通関業者には製品の仕入単価が記載されたインボイスを提出して申告を依頼しています。

佐藤氏は、金型はあくまで製造のための道具であり、輸入する製品そのものの代金ではないため、製品のインボイス価格だけで申告すればよいと考えていました。ところが先日、税関から事後調査の通知が届き、金型代の支払いについて確認したいと言われました。もし金型代を申告に含めなければならなかった場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか。また、過去に遡ってどのように修正すべきなのか、専門的な見地からのアドバイスを求めています。」

このような事例は、製造を海外に委託している企業において非常に多く見受けられます。輸入者は意図的な脱税のつもりはなくても、法的な理解不足から結果として過少申告となってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、専門的な知見に基づき、金型代が輸入申告価格に与える影響とその適切な処理方法を詳しく解説いたします。

1 金型代と輸入申告価格の決定原則

工業機械を海外の工場に製作してもらった上で購入し、日本に輸入する場合、当該工業機械や製品の製造のために金型を作成してもらうことが一般的です。

このように金型代を輸入者側から海外の工場に対して支払っていた場合、工業機械等を輸入する際の輸入申告価格はどのように考えるべきでしょうか。

工業機械を輸入する以上は、工業機械の購入代金を輸入申告価格とすればよいのではないか、とお考えの方も多く、実際に購入代金のみを輸入申告価格としている方も多いのが実情です。

しかし、このような輸入申告は誤りですので注意が必要です。

(1)課税価格決定の原則と法的根拠

具体的には、輸入申告価格の基本的な考え方は、商品の売買価格を基礎として、当該価格に含まれていない限りで、関税定率法等に規定されている一定の加算要素を加算するというものです。

関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)

第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

この考え方の基礎にあるものは、輸入する商品の価値を適切に申告してもらい、当該価値について関税等を課すという点にあります。輸入申告価格とは、単にインボイスに記載された数字を転記するものではなく、日本に到着した時点での貨物の真実の価値を反映していなければなりません。

(2)金型代の加算要否

したがいまして、金型がなければ当該製品を製造することはできなかった以上、金型代として輸入者が海外の工場側に対して支払ったものについては、輸入申告価格に加算することが必要となります。

これは、関税定率法第4条第1項第3号に規定される「買手により無償で提供された物品の費用(アシスト)」に該当するためです。

関税定率法第4条第1項第3号

三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により直接又は間接に、無償で又は値引きして提供された次に掲げる物品又は役務の費用(中略)

ロ 当該輸入貨物の生産に使用された工具、金型その他これらに類するもの

たとえ金型が日本から送られたものではなく、現地の工場で製作されたものであっても、その費用を輸入者が負担している以上、それは輸入貨物の価値の一部を構成するものとみなされます。この点について、多くの輸入者が「現地で決済が終わっているから関係ない」と誤解していますが、送金実態と貨物の結びつきが重視されるのが関税評価の原則です。

2 金型代の加算方法と実務上の計算手法

金型代をどのように申告価格に反映させるかについては、主に二つの実務的な手法が認められています。これを適切に選択しなければ、過大申告や過少申告を招く恐れがあります。

(1)一括加算方式

金型の全額を、その金型を使用して製造された貨物の最初の輸入申告の際にすべて加算する方法。この方法は、管理が一度で済むというメリットがありますが、初回輸入時の納税額が非常に高額になるため、キャッシュフローへの影響を考慮する必要があります。

(2)分割加算方式(按分計算)

金型を使用して製造される予定の総数量で金型代を割り、一個あたりの製品価格に上乗せして申告する方法。

関税定率法基本通達4-12(買手により提供された物品等の費用)

買手により提供された金型等の費用を輸入貨物の課税価格に加算する場合において、当該費用をどのように配分するかについては、輸入者の申告に基づき、妥当と認められる方法(例えば、最初に輸入される貨物の価格に全額を加算する方法、予定される総生産数量に按分する方法等)によって計算して差し支えない。

按分計算を選択する場合、将来の生産予定数量を合理的に証明する書類(契約書や製造計画書など)が必要となります。生産予定が変わった場合には、修正申告等の対応が必要になることもあるため、慎重な帳簿管理が求められる点に注意が必要です。

3 実務で活用できる関税評価チェックリスト

輸入取引において、金型代以外にも加算漏れが生じやすい項目を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、社内のコンプライアンス点検にご活用ください。

【輸入価格(課税価格)の算入判断基準一覧表】

確認項目|具体的な内容|算入の要否

金型・工具費|製造用の金型の製作費や償却費|算入する

原材料・部品|日本から無償提供した部品等の代金|算入する

設計・図面代|日本以外で作成された設計図等の費用|算入する

ロイヤリティ|特許権や商標権の使用料|算入する

仲介手数料|売手と買手を仲介する者への報酬|算入する

買付手数料|専ら買手のために動く代理人への報酬|算入しない

輸入港までの運賃|日本に到着するまでの海上・航空運賃|算入する

このように、貨物の純粋な仕入価格以外にも、多くの要素が課税価格に含まれる点に留意が必要です。特に買付手数料については、非常に厳格な要件があるため、自己判断は禁物となります。

4 輸出入をめぐるルール違反に対する厳格なペナルティ

貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に規定されておりますが、なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと刑事罰や追徴課税などの様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。

(1)アンダーバリューと脱税の罪

例えば、アンダーバリュー、すなわち、輸入する貨物の輸入申告価格を実際の貨物の購入価格よりも低額に申告した場合には脱税となりますので、刑事罰や追徴課税などのペナルティがあります。

金型代を意図的に除外して申告することは、税関の視点からはアンダーバリューの一種とみなされる可能性があります。

関税法第110条(関税を免れる罪)

第1項 偽りその他不正の行為により、関税(中略)を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(2)行政罰としての加算税

また、意図的な隠蔽や仮装が認められない場合でも、不正確な申告に対しては行政罰としての加算税が課されます。

関税法第12条の2(過少申告加算税)

税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

関税法第12条の4(重加算税)

事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。

金型代の送金記録は銀行に確実に残るため、税関事後調査において最も指摘されやすい項目の一つです。指摘を受けた場合、過去数年分の全輸入取引について遡及して追徴されることとなり、企業の経営に甚大なダメージを与える結果となります。

5 専門家による事前リーガルチェックの重要性

他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を事前に事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を円滑に進めることが可能となります。

輸入申告価格は単に貨物の仕入価格と考えればよいわけではなく、前述した通り様々な加算要素がありますので、慎重に検討することが非常に重要です。

特に以下の点については、自社だけで判断せず、専門家の視点を入れるべきです。

一 金型代の按分計算が妥当であるか。

二 金型を無償提供する際の資産価値の算定が正しいか。

三 金型の修理費用やメンテナンス費用をどちらが負担しているか。

四 ロイヤリティ契約が輸入の条件となっているか。

これらは、関税評価上の極めてデリケートな論点であり、税関との見解の相違が生まれやすい部分です。事前に法的な根拠に基づいた整理を行っておくことで、事後調査におけるリスクを最小限に抑えることができます。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

弁護士でありながら通関実務の深い知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。

当事務所が提供できる主なサポート

一 輸入取引における課税価格算定のリーガルアドバイス

二 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉

三 修正申告や更正請求の手続代行

四 不当な課税処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理

通関業者に申告を任せているから安心だ、と考える輸入者も多いですが、通関業者はあくまで輸入者から提供された書類に基づいて申告を行います。金型代の別途支払いのようなインボイスに載っていない情報については、輸入者自身が自覚を持って管理し、適切に伝えなければなりません。

7 まとめ:適正な関税評価がビジネスの安定を支える

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な作業こそが、グローバルビジネスを安定させ、企業の成長を守る唯一の道です。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮してサポートを継続してまいります。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です

8 補足:金型代に関する具体的な計算例

理解を深めるために、数値を用いた具体例を挙げます。

【前提条件】

一 工業機械の単価:1000万円

二 金型の製作費用:500万円(別途支払い済み)

三 予定輸入数量:10台

(1)一括加算を選択した場合

最初の1台目を輸入する際、申告価格は1000万円プラス500万円で1500万円となります。残りの9台は各1000万円で申告します。早期に納税を完了させたい場合に有効な手法。

(2)按分計算を選択した場合

500万円を10台で割り、一台につき50万円を加算します。毎回の申告価格は1000万円プラス50万円で1050万円となります。コストを平準化したい場合に適した手法。

このように、どちらの方法をとるかによって一回あたりの納税額が変わります。キャッシュフローや管理の手間に合わせて最適な方法を選択する必要があります。

9 税関事後調査への具体的な備え

税関事後調査では、過去3年から5年分の会計帳簿、銀行の送金記録、仕入先との契約書、さらには電子メールのやり取りなどが精査されることとなります。金型代の支払いがモールドフィーやツーリングコストといった名目で送金されている場合、それがどの輸入申告に対応しているかが明確でなければなりません。

【適切な管理体制の構築】

一 金型ごとの管理台帳の作成

二 送金記録と輸入申告書の紐付け

三 按分計算の根拠となる生産計画資料の保管

四 金型使用後の処置(廃棄、他社転用等)の記録

もし、これらの管理に不安がある場合は、早急に体制を見直すべきです。当事務所では、事後調査が入る前の自主点検(プリ・オーディット)も実施しております。事前の自主的な修正申告であれば、過少申告加算税が免除される可能性もあります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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