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はじめに:具体的な相談事例の紹介
本日は、輸出国から貨物が発送された後、日本に到着するまでの間に転売が行われた場合の輸入申告価格(課税価格)の決定方法について解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた、いわゆる洋上転売をめぐる架空の相談事例をご紹介いたします。貿易実務において、長距離の船便輸送を利用する企業様にとって重要な論点となっております。
【相談者】
大阪市内で海外製機械部品の商社を営む株式会社ガンマ 代表取締役 デルタ氏
【相談内容】
当社は、ドイツのメーカーから産業用ベアリングを輸入し、国内の製造業者に販売する取引を継続的に行っています。通常は当社が輸入者となりますが、今回の取引では、貨物がドイツの港を出港して船で日本に向かっている途中で、国内の顧客である株式会社エックスから至急で当該貨物を購入したいという強い要望がありました。
検討の結果、当社は貨物が洋上にある状態で、株式会社エックスに対して当該貨物を転売することに合意しました。この場合、当初の当社とドイツメーカーとの売買価格である売買Aと、当社と株式会社エックスとの転売価格である売買Bの二つが存在することになります。
デルタ氏は、貨物の発送原因は売買Aであるから、売買Aの価格で輸入申告を行えばよいと考えていました。しかし、通関業者からは、実態に合わせて売買Bの価格で申告すべきではないかとの指摘を受けました。輸入申告価格は、売買Aと売買Bのどちらの価格を基礎とすべきでしょうか。また、誤った申告をした場合の法的なリスクについても詳しく教えてください。
このような事例は、船便輸送に数週間から一ヶ月以上の時間を要する長距離貿易においては、決して珍しいことではありません。輸入申告価格は、関税の納税額を左右する極めて重要な数値であり、その算定根拠となる取引の特定は、法的に厳格に定められています。本記事では、専門的な見地から、このような転売取引における輸入申告価格の決定基準を詳しく解説いたします。
1 輸出国からの発送後、輸入国に到着前に売買された貨物の取扱いについて
輸入申告価格は、通常、輸入取引における売買価格が基礎となります。ここで、輸入取引とはどのような取引を指すのか、その法的な定義を正しく把握することが不可欠です。
【輸入取引の法的定義と根拠条文】
関税定率法第4条第1項および同法基本通達4-1(1)によれば、輸入取引とは、日本に拠点を有するものが買手として貨物を日本に到着させることを目的として売手との間で行った売買のことを指し、現実に当該貨物が日本に到着することとなった原因としての取引のことを指します。
(関税定率法基本通達4-1 輸入取引の意義)
(1)法第4条第1項に規定する輸入取引とは、本邦に拠点を有する者(中略)が買手として、当該輸入貨物を本邦に到着させることを目的として、売手との間で行った売買(中略)をいい、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった原因としての取引をいう。
では、相談事例のように、売買Aを原因として輸出国から日本に発送された後、日本に到着する前に改めて同じ貨物について売買Bが行われ、結果として売買Bを原因として日本に到着した貨物の場合、輸入申告価格はどちらになるでしょうか。
結論としては、最終的には売買Bを原因として日本に到着し、輸入申告を行うことになっている以上、売買Bにおける貨物の取引価格を基礎として輸入申告を行う必要があります。実際に輸入申告を行う原因となったのは、最終的には売買Bとなりますので、輸入取引に該当する取引は売買Bとなります。
中国や韓国など日本の近隣の国から航空便で輸送することに慣れている方にとっては教室事例のように思える事案ですが、実際に船便等輸送に一定の時間が掛かる取引の場合には、このような問題が発生することも十分あり得るところです。
ただ、実際問題としては、輸入申告の際に利用するインボイスなどが売買Aのものと間違えてしまったり、通関業者への差し替えの依頼が間に合わない等の手続上の問題が発生する可能性は十分考えられますので、手続は慎重に行うことが非常に重要です。
2 洋上転売における価格決定の判断基準
実務上、どの売買を輸入取引として認定すべきかを整理した比較表を作成いたしました。ワードデータ等に貼り付けて、社内での取引検討や通関業者との打ち合わせにご活用ください。
【転売取引における輸入申告価格の判定表】
項目|売買A(当初の売買)|売買B(洋上での転売)|
--------|----------|----------|
取引の発生時期|貨物の出港前|貨物の出港後、日本到着前|
日本到着の最終原因|当初の原因であるが、上書きされる。|現実に到着を確定させた最終原因|
インボイスの発行者|海外の製造業者等|国内の転売者(株式会社ガンマ等)|
輸入申告価格の基礎|採用されない(原則)|採用される(原則)|
主な留意事項|発送のきっかけ|実際の国内引取価格|
このように、貨物が日本に到着する直前の売買が、関税法上の輸入取引として優先されます。これは、関税の課税対象が「日本国内に引き取られる際の価値」を基準としているためです。売買Bにより価格が上昇している場合、その上昇後の価格(転売価格)に対して関税および消費税が課されることになります。
3 輸入申告価格の算定におけるその他の重要留意事項
貨物の輸入や輸出に関する規制は、関税法や関税定率法、これらの通達等に規定されておりますが、なかなか理解が難しい部分も多く、知らずに輸出入を行うと追徴課税がなされる等予想外の対応を事後的に強いられる場合もございます。転売価格を採用する場合であっても、そこに含まれる加算要素には細心の注意を払わなければなりません。
(1)無償提供物の加算
例えば、輸入するために、タグ等の備品を無償提供物として輸出者側に提供していた場合、当該無償提供物の費用については、課税価格に加算しなければならず、加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。これは関税定率法第4条第1項第3号に規定されています。
(2)ロイヤリティや権利使用料の支払い
輸入貨物の製造や販売に関連して、買手が売手以外の第三者(ブランド権利者等)に対してロイヤリティを支払っている場合、その費用も原則として輸入申告価格に加算する必要があります。転売により買手が変更された場合でも、その支払義務が誰に帰属しているかを精査しなければなりません。
(3)仲介手数料と買付手数料の区別
輸入取引において、パートナーや代理店に支払う手数料の取扱いも極めて重要です。
仲介手数料(売手と買手を仲介する者への報酬)は、原則として課税価格に加算しなければなりません。一方で、専ら買手を代理して業務を行う者への買付手数料は、一定の要件を満たせば加算不要とされます。
洋上転売のような複雑な取引形態では、誰が誰の代理人として動いているのかが不透明になりやすいため、実態に基づいた法的な整理が不可欠です。
4 不適切な輸入申告に伴う法的リスクとペナルティ
誤って売買Aの価格(通常は売買Bより低い価格)で申告を行ってしまった場合、税関事後調査において以下のような厳しい処分を受けるリスクがあります。
一 過少申告加算税の賦課
不足税額の10パーセント(一定額を超える部分は15パーセント)の加算税が課されます。
二 重加算税の適用
売買Bが存在することを知りながら、意図的に売買Aのインボイスを使用して安く申告したとみなされた場合、隠蔽又は仮装の事実に基づき、35パーセントという極めて重い重加算税が課されます。
三 延滞税の発生
本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息相当の延滞税が徴収されます。
四 社会的信用の失墜
重加算税の対象となった企業は、税関のコンプライアンス評価が低下し、その後の輸入通関において全件検査の対象となるなど、実務上の不利益が長期間継続することになります。
5 専門家によるリーガルチェックの重要性
他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。
特に、洋上転売のようにイレギュラーな事態が発生した際には、以下の3点を実施すべきです。
第一に、インボイスの差し替えと書類の整合性確認です。売買Bに基づくインボイスを作成し、パッキングリストや船荷証券(B/L)との整合性を保った上で申告を行う必要があります。
第二に、通関業者への正確な情報伝達です。単に書類を渡すだけでなく、取引の経緯(転売があった事実)を明確に伝え、関税評価上の懸念事項を共有しなければなりません。
第三に、根拠資料の整備です。売買Aおよび売買Bの各契約書、送金記録、そしてなぜ売買Bが輸入取引に該当すると判断したのかの記録を、後の事後調査に備えて7年間適切に保管しておく必要があります。
6 弁護士へのご相談をご希望の方へ
弊事務所は、税関事後調査を含む税関対応や輸出入トラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
輸出入の実務においては、法律の条文のみならず、税関の運用や通達を熟知していなければ、適切なリスク管理は不可能です。弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、貴社のビジネスモデルに潜む死角を事前に指摘し、安全な海外取引の実現をお手伝いいたします。
具体的なサポート内容の一例
一 洋上転売等の特殊な取引スキームにおける輸入申告価格の事前適正化診断
二 売買契約書および輸入代行・仲介契約書のリーガルチェック
三 税関事後調査に対する事前模擬調査および立ち会い、交渉
四 不当な更正処分や過少申告加算税の賦課に対する不服申立て
お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
結びに代えて:適正な関税評価が企業の未来を守る
輸入ビジネスにおいて、物流のスピードや商品の仕入れ価格を追求することは重要ですが、その根底にあるコンプライアンスを疎かにしては、持続的な成長は望めません。特に関税評価は、一度のミスが過去数年分に及ぶ追徴課税という形で跳ね返ってくる恐れがある、極めて経営リスクの高い分野です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な作業こそが、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な国際物流を実現することに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安心できる貿易体制の構築をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

