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海外業者との契約書で確認すべき重要条項

2025-12-12

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も根源的でありながら、多くの企業が見落としがちな「国際間契約書における関税リスクの埋め込み」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入トラブルや税関による事後調査で指摘を受ける問題の多くは、実は輸入の瞬間ではなく、その数ヶ月、数年前に締結された「契約書」の文言に起因しています。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。契約書の不備がいかに巨額の追徴課税を招くか、その現実を理解する重要な一助となります。

【相談者】

大阪府内で産業用センサーの輸入販売を行うM社 代表取締役 N氏

【相談内容】

「当社は、五年前からドイツの製造メーカーと『基本売買契約』を締結し、継続的に製品を輸入しております。価格交渉の際、少しでも仕入単価を下げるために、製品代金とは別に『技術コンサルティング料』や『金型の保守費用』を毎月定額で支払う契約にいたしました。インボイスには純粋な製品代金のみを記載し、その他の費用は国内販売後の経費として処理しておりました。ところが、先日行われた税関の事後調査において、これらの『別途支払い』はすべて輸入貨物の課税価格に加算すべき要素であると指摘されました。契約書の中に『本支払いは製品の安定的供給を維持するための条件とする』という一文があったことが決め手となり、過去五年分のロイヤルティや提供費用として遡及的に更正を受けました。追徴税額は加算税を含めて八千万円を超えています。契約書を作成した際には法務チェックも受けましたが、関税の視点は全くありませんでした。今後、どのような条項を盛り込めば、このようなリスクを回避できるのでしょうか」

このような事例は、国際法務と関税実務が分断されている企業において、極めて高い頻度で発生いたします。海外業者との契約書は、取引が円滑な時には単なる約束事ですが、税関調査においては「企業を守る最後の防御壁」となるべきものです。本日は、輸入事業者が自己のリスクを最小限に抑えるために、契約書において特に明確化しておくべき重要条項を、関税法および関税定率法の専門的見地から解説いたします。

1 「支払いの全容」と課税価格決定の法的相関

輸入貨物の関税額は、その貨物の「価格」に税率を乗じて算出されます。この「価格」は、単にインボイスに書かれた金額を指すのではなく、関税定率法第四条に基づき決定される「課税価格」を指します。

(関税定率法第四条第一項 課税価格の決定の原則)

「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格(中略)に、その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする」

ここでいう「次に掲げる費用の額」がいわゆる加算要素であり、運賃、保険料、仲介手数料、無償提供費用、そしてロイヤルティなどが含まれます。N氏の事例のように、契約書で費用の名目を変えたとしても、その実態が貨物の対価や販売の条件であれば、法的には課税価格に算入されます。そのため、契約書において各支払いの性質をどのように定義するかが、将来の納税額を決定づけることになります。

2 ロイヤルティ(権利使用料)条項の戦略的設計

事後調査で最も激しく争われるのが、関税定率法第四条第一項第四号に規定されるロイヤルティの加算要件です。

(関税定率法第四条第一項第四号)

「輸入貨物に関連して買手により直接又は間接に支払われる特許権、意匠権、商標権その他これらに類する権利であって政令で定めるものの使用の対価(中略)のうち、当該輸入貨物の販売の条件として買手により直接又は間接に支払われるもの」

加算されるための二大要件は「貨物との関連性」と「販売の条件」です。契約書を起案する際には、以下の点に留意した条項構成が必要です。

一 支払いの名目と貨物の分離:ロイヤルティが「輸入貨物の製造」そのものに対する対価なのか、それとも「輸入後の国内におけるマーケティング活動」に対する対価なのかを明確に区分します。後者であれば、貨物との関連性が否定され、加算対象外となる余地が生まれます。

二 供給停止条項の回避:ライセンス契約において「ロイヤルティの支払いが滞った場合、ライセンサーは製造者に対して商品の出荷停止を命じることができる」といった条項があると、即座に「販売の条件」に該当すると判断されます。可能な限り、支払遅延に対するペナルティは金銭賠償や国内販売権の停止に留め、輸入取引そのものを停止させる権限と結びつけないような文言調整が求められます。

三 算出根拠の明確化:ロイヤルティの計算基礎を「輸入価格」ではなく「国内販売後の純利益」等に設定し、かつそれが輸入取引の成立とは無関係に発生するものであることを契約の前文などで宣言しておくことが有効です。

3 手数料の区分と業務記述の厳密性

海外の代理店や仲介者に支払う手数料も、その性質によって加算の要否が分かれます。関税定率法第四条第一項第一号では「仲介手数料(販売手数料)」は加算すべきとする一方で、関税定率法基本通達4-10により「買付手数料」は加算不要とされています。

税関は、名目上の「買付手数料(Buying Commission)」という言葉を信じることはありません。契約書において、当該代理人が「買手(輸入者)のために、買手の計算と責任において、売手の選定や交渉を行っている」という業務実態を詳細に規定しておく必要があります。代理店契約書において「代理人は売手からいかなる報酬も受け取ってはならない」「代理人は買手の利益のためにのみ行動する」といった排他的な忠実義務を明記することが、事後調査での防衛に繋がります。

4 HSコード分類と原産地情報の提供義務化

関税率を決定するHSコードの分類や、EPA(経済連携協定)の適用に不可欠な原産地情報の正確性は、輸入者が法的な申告責任を負いますが、その情報の源泉は海外の輸出者に依存しています。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

「納税義務者は、輸入貨物の課税価格の決定に必要な書類(中略)を、その輸入許可の日の翌日から七年間保存しなければならない」

この保存義務を果たすためには、輸出者の協力が不可欠です。しかし、取引開始後に「資料をくれ」と言っても、企業秘密を理由に拒絶されるケースが多々あります。そのため、売買契約書に以下の協力義務を盛り込むことが必須となります。

一 正確なHSコード情報の提供:輸出者が自国で使用しているHSコードのみならず、製品の材質、成分、機能等の分類に必要な技術資料を輸入者の要求に応じて提供する義務。

二 EPA原産地規則への協力:EPAを適用する場合、輸出者が原産地証明書を発行するだけでなく、その裏付けとなる製造原価明細書(BOM)や製造工程図を、必要に応じて日本税関へ直接提供する(または輸入者を通じて提示する)ことに同意する条項。

三 情報不備による損害の補償:輸出者の提供した情報の誤りにより、輸入者が追徴課税や過少申告加算税を課された場合、その損害を輸出者が補償する旨のインデムニティ(補償)条項。

このような条項があることで、輸出者側に「いい加減な情報は出せない」という心理的抑制が働き、申告の精度が向上いたします。

5 輸入者が契約書に盛り込むべき重要チェックポイント比較表

実務上、どのような条項がリスクとなり、どのような修正が望ましいのかを以下の表に整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       輸入契約書における関税リスク管理・改善案一覧表        │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│検討項目   │リスクが高い表現(追徴の可能性)  │推奨される表現(リスク軽減)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│ロイヤルティ │本支払いは製品供給の対価の一部とする│本支払いは国内での独占│

│       │不払いの場合は商品の出荷を差し止める│販売権に対する対価である│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│仲介手数料  │売買成立を支援した報酬として支払う │買手の代理人として市場│

│       │                  │調査・検品を行う対価 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│金型・図面等 │買手は必要に応じて無償で提供する  │提供物の価値を特定し、│

│(アシスト) │(金額や按分方法が不明確な状態)  │提供費用を算出・明記する│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│情報の開示義務│輸出者は可能な範囲で情報を提供する │税関調査等に必要な資料│

│       │                  │提供に全面的に協力する│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│損害賠償条項 │(関税等の公租公課に関する記述なし)│輸出者の情報誤謬による│

│       │                  │加算税等は輸出者が負担│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

6 「信義誠実の原則」と帳簿備付義務の厳格化

関税法は、輸入者に対して誠実な申告を求めています。契約書に不備がある状態で、事後的に「これは別の費用のつもりだった」と主張しても、裁判例では「契約書の文言に現れている客観的事実」が優先されます。

(関税法第百十条 関税を免れる罪)

「偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

悪意がなくても、契約書によって課税価格を低く見せかけていると判断されれば、この重い罰則が適用されるリスクを常に孕んでいます。また、関税法第九十四条に基づく帳簿保存義務に違反した場合、税関は輸入者の申告を否認し、税関長の権限で課税価格を決定(推計)することができます。これを防ぐためには、契約書そのものが、適正な価格算定の根拠書類として機能するよう、論理的に構成されていなければなりません。

7 EPA適用における「直接運送原則」と契約上の義務

契約書において意外と見落とされるのが、EPA適用のための「運送要件」です。貨物が第三国を経由して日本に到着する場合、その第三国で加工が施されていないことを証明しなければなりません。

(関税法第六十八条、各EPA協定条文)

多くの協定では「直接運送(通し船荷証券等)」が求められます。輸入者は、輸出者との契約において「運送経路の事前通知義務」や「第三国での保税管理証明書の取得義務」を課しておく必要があります。サプライヤーが勝手に配送ルートを変更したために、数億円分の免税措置が受けられなくなったというトラブルは、契約書に一筆あれば回避できたはずの事態です。

8 輸入コンプライアンス(ICP)と契約管理の統合

継続的な輸入取引を行っている企業は、単発の契約チェックだけでなく、社内管理規定(ICP)を整備し、契約書の内容が実際の輸入申告に反映されるプロセスを自動化する必要があります。

一 契約締結前の関税評価チェック:法務担当者が契約書を見る際に、関税定率法第四条のチェックリストを必ず確認する。

二 送金管理と加算要素の紐付け:経理部門が海外送金を行う際、その支払いが「加算要素」に該当するかどうかを判断し、物流部門へ通知する仕組みを構築する。

三 定期的監査:過去に締結した契約書と、現在の輸入申告価格に齟齬がないか、最低でも一年に一度は内部監査を実施する。

このような地道な体制構築こそが、事後調査における最強の防護策となります。

9 弁護士による契約書レビューの死角と、通関士資格を保有する弁護士の強み

一般的な弁護士や法務担当者は、契約書の中の「損害賠償」や「知的財産権の帰属」については精通していますが、その条文が「関税定率法第四条」にどのような波及効果を及ぼすかまでを予見することは困難です。一方で、通関実務の現場を知る弁護士(通関士資格保有者)は、税関調査官が帳簿のどの行を読み、契約書のどの単語を「加算の根拠」として突き付けてくるかを熟知しています。

【当事務所が提供する契約書戦略サポート】

一 ライセンス契約、製造委託契約における「関税評価リスク・スクリーニング」の実施

二 税関当局のロジックを先読みした「加算回避型」の条文案提示

三 輸出者との交渉における、関税実務上の必要性を背景とした説得ロジックの提供

四 既存契約の不備が判明した場合の、自発的な修正申告による「重加算税回避」のコンサルティング

五 HSコード分類や原産地判断に関する、税関への「事前教示」の申請書類作成

契約前のわずかな手間で、将来発生しうる数千万円、数億円規模の追徴リスクを完全にコントロールすることが可能です。海外との取引を始める際、あるいは既存の契約を更新する際は、必ず関税評価の観点から精査を行うべきです。

10 まとめ

本日は、輸入事業者が抱える最大の潜在的リスクである「契約書に起因する関税トラブル」について解説いたしました。N氏の事例が示す通り、契約書は単なるビジネスの合意文書ではなく、国家(税関)に対する課税の根拠書類です。

「関税のことは通関業者に任せているから大丈夫」という考えは、もはや通用いたしません。通関業者はインボイスに書かれた数字で申告するだけであり、契約書の中身まで踏み込んでリスクヘッジを行ってくれるわけではないからです。

輸入者自身が、関税法および関税定率法の原則を正しく理解し、その理念を契約書という形に落とし込むこと。それが、グローバルな競争の中で自社の利益を守り、健全な成長を続けるための必須条件となります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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