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はじめに:具体的な相談事例の紹介
本日は、貨物を日本の保税倉庫に搬入した後に転売が行われた場合の、関税法および関税定率法上の取り扱いについて詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
東京都内で海外製の精密機器を輸入販売している株式会社サクラ 代表取締役 A氏
【相談内容】
「当社は先日、ドイツの製造メーカーであるB社から、新型の産業用センサーを20台購入いたしました。貨物はすでに成田空港の保税蔵置場に搬入されており、輸入申告の手続きを進めようとしていたところです。しかし、輸入許可が下りる直前のタイミングで、以前から商談を進めていた国内の取引先である株式会社ヒマワリから、このセンサーを至急ですべて買い取りたいという強い要望がありました。
当社としては、保税地域にある外国貨物の状態のまま、株式会社ヒマワリに対して当該製品を転売することを検討しております。この場合、税関へ申告する際の課税価格は、当社がドイツのB社から購入した際の価格でよいのでしょうか。それとも、株式会社ヒマワリへ販売する際の転売価格で申告しなければならないのでしょうか。もし申告価格を誤った場合、後から大きなペナルティを受ける可能性があると聞き、法的な根拠に基づいた適切な対応を知りたいと考えております。」
このような事例は、国際物流の現場ではしばしば発生いたします。特に、船便や航空便の到着後に国内での需要が急増した場合や、在庫の最適化を図る際に保税地域内での権利移転が行われることがあります。この際、誰が実質的な買手であり、どの契約が輸入取引に該当するのかを正確に判断することが、適正な関税申告の第一歩となります。
1 保税倉庫で保管中の売買と輸入取引の考え方について
貨物を日本の保税倉庫に搬入後、輸入許可が下りる前に、当該貨物の売買が行われた場合の輸入取引の考え方はどのように整理されるでしょうか。
ここで重要となるのが、関税定率法上の輸入取引という概念の定義です。輸入申告価格、すなわち課税価格を決定するためには、まず現実に日本に貨物が到着することとなった直接の原因を特定しなければなりません。
【輸入取引の法的定義と根拠法令】
輸入取引の定義については、関税定率法第4条第1項、および同法基本通達4-1(1)において、次のように明確に規定されています。
(関税定率法基本通達4-1 輸入取引の意義)
法第4条第1項に規定する輸入取引とは、本邦に拠点を有する者が買手として、当該輸入貨物を本邦に到着させることを目的として、売手との間で行った売買をいい、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった原因としての取引を指す。
この定義に基づき、冒頭の事例における二つの取引を法的に分析してみましょう。
(1)ドイツのB社と株式会社サクラとの取引
この取引は、日本に拠点を有する株式会社サクラが買手となり、センサーを日本に到着させることを目的としてドイツの売手と行った売買です。現実に貨物がドイツから日本へ発送され、保税地域に到着した直接の原因は、紛れもなくこの取引にあります。
(2)株式会社サクラと株式会社ヒマワリとの取引
この取引は、貨物がすでに日本の保税地域に到着した後に、国内に拠点を持つ当事者間で行われた売買です。株式会社ヒマワリとの契約があったから貨物が日本に到着したわけではなく、到着後に単に所有権が移転したに過ぎません。したがって、この取引はあくまでも日本国内における国内取引という性質を持ちます。
以上のような法的な構成を前提に考えますと、たとえ輸入許可前に転売が行われたとしても、当該貨物に係る輸入取引は(1)のB社とサクラ社との間の取引に該当することとなります。
したがって、輸入申告における課税価格の基礎となるのは、当初のドイツメーカーからの仕入れ価格であると考えて問題ないでしょう。
実際に輸入許可が下りるまでの間に複数の取引が行われている場合には、貨物が日本に到着することとなった直接の取引が何であるかを特定することが重要です。
2 保税地域と外国貨物の法的性質に関する理解
保税地域とは、関税の徴収を保留したまま外国貨物を置くことができる場所として税関長が許可した場所です。関税法上、貨物は輸入許可を受けるまでは外国貨物として厳格に管理されます。
外国から本邦に到着した貨物(輸出の許可を受けた貨物を含む)で、輸入の許可がされる前のものをいう。
外国貨物は、原則として保税地域以外の場所に置いてはならない。
保税地域内で外国貨物の転売を行うこと自体は、商慣習として認められており、直ちに違法となるものではありません。しかし、輸入申告を行う段階では、誰が納税義務者としての買手であるかを確定させる必要があります。もし、転売価格(利益が上乗せされた価格)を基礎として申告すべきケースであるにもかかわらず、低い仕入れ価格で申告を続けていると、脱税行為とみなされる危険性があります。
3 輸入申告価格の決定と加算要素の精査
輸入申告価格は、単に貨物の仕入れ価格と考えればよいわけではありません。関税定率法第4条第1項に基づき、取引価格に一定の費用が含まれていない場合には、それらを加算して課税価格を算出する必要があります。
主な加算要素の例
一 輸入港までの運賃および保険料
二 買手により負担される仲介手数料その他の手数料(買付手数料を除く)
三 輸入貨物の生産に関連して、買手により無償で提供された金型や原材料の費用
四 輸入貨物に係る特許権や商標権の使用の対価(ロイヤリティ)
保税地域での転売が絡む場合、当初の輸入取引に関連して別途発生しているコストがないかを慎重に検討しなければなりません。例えば、サクラ社がドイツのメーカーに対して製造用の資材を無償提供していた場合、その費用は当初の仕入れ価格に加算して申告する必要があります。
4 実務で活用できる輸入取引判定および課税価格チェック表
以下に、チェック表を作成いたしました。社内のコンプライアンス維持や、通関業者との情報共有にご活用ください。
| 確認項目 | 具体的な確認内容 |
|輸入取引の特定|日本に到着する直接の原因となった契約はどれか|
|当事者の認定|実質的に自己の計算と責任で輸入を行う者は誰か|
|取引価格の妥当性|インボイスの価格は真実の取引に基づいているか|
|加算要素の有無|運賃や保険料が申告価格に含まれているか|
| |仲介料やロイヤリティの支払いを別途行っていないか|
| |金型等の無償提供(アシスト)をしていないか|
|書類の保存管理|インボイス、契約書、送金記録を保管しているか|
|他法令の適合性|食品衛生法や薬機法等の輸入許可は得ているか|
5 輸出入をめぐるルール違反に対する厳格なペナルティ
貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に規定されておりますが、なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと刑事罰や追徴課税などの様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。
(1)過少申告加算税と延滞税の徴収
税関事後調査等により、申告価格の誤りや加算要素の漏れが指摘された場合、不足していた税額に加えて過少申告加算税が課されます。原則として不足税額の10パーセント、あるいは15パーセントという重い負担となります。さらに、本来の納期限からの期間に応じて延滞税も徴収されることとなります。
(2)重加算税の賦課
輸入申告価格を実際の貨物の価格よりも低額に申告した場合など、事実を隠蔽し、又は仮装したと判断された場合には、さらに強力な重加算税が課されることとなります。
(3)刑事罰の適用
悪質な脱税行為や禁止物品の輸入等とみなされた場合には、刑事罰の対象となる可能性も否定できません。
偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
輸入申告価格は、単に貨物の仕入れ価格と考えればよいわけではなく、様々な加算要素がありますので、慎重に検討することが非常に重要です。
6 専門家によるリーガルチェックの重要性と具体的なメリット
他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を円滑に進めることが可能となります。
特に保税地域内での転売が絡むケースでは、取引価格の妥当性だけでなく、誰が名実ともに輸入者として法的責任を果たすべきかという点が複雑になりがちです。税関による事後調査では、こうした当事者間の契約関係や資金の流れ、さらには社内のメールのやり取りまでが徹底的に調査されることとなります。
当事務所が提供できる主なサポート内容
一 輸入取引スキームの適法性診断
二 関税評価(課税価格算定)の妥当性に関するリーガルアドバイス
三 輸入代行契約や保税転売に関する売買契約書の作成および精査
四 税関事後調査への立ち会いおよび当局との交渉支援
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。お悩みをご相談いただくことで、不必要なペナルティを回避し、事業の健全な発展を支える一助となります。
結びに代えて:適正な申告がビジネスの安定を支える鍵
輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
もし、現在の取引体制や申告価格の算定方法に少しでも不安を感じていらっしゃるのであれば、あるいは新しい商流の構築を検討されているのであれば、大きな問題に発展する前に、ぜひ一度専門家のリーガルチェックを受けられることを強くお勧めいたします。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

