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はじめに:相談事例
本日は、日本国内に拠点を置く当事者同士で行われる売買契約に基づき、海外から貨物を引き取る際の法的な取扱いについて解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、架空の事例をご紹介いたします。
【相談者】
東京都内で電子部品の卸売業を営む株式会社エー 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社は今回、大阪に本社がある株式会社シーから、産業用ロボットのパーツを100セット購入する契約を締結しました。株式会社シーは、その在庫をベトナムの提携倉庫で保管しており、今回の契約に基づき、ベトナムから日本の当社指定の倉庫へ直接配送されることになっています。
代金の支払いは日本円で株式会社シーの国内口座へ振り込みます。この取引は日本国内の法人同士の売買であり、決済も国内で行われるため、通常の国内取引として処理すればよいと考えていました。しかし、通関業者から『これは関税法上の輸入取引に該当するため、適切な課税価格の申告が必要だ』と指摘されました。国内企業同士の売買であっても、輸入通関において特別な注意が必要なのでしょうか。また、どのような価格を税関に申告すべきなのでしょうか」
このような事例は、サプライチェーンがグローバル化した現代において、中小企業や個人事業主の間でも非常に多く見受けられます。一見すると国内取引に思える場合でも、貨物の物理的な移動が国境を越える場合、そこには「輸入取引」としての法的性質が宿ります。本記事では、専門的な知見に基づき、その判断基準を詳しく解説いたします。
1 日本在住の当事者間での売買に基づく輸入の法的性質
輸入というと、通常のイメージでは、日本在住の法人又は個人が、海外の法人又は個人から商品を仕入れることを指します。では、日本在住の当事者間での売買に基づき輸入する場合、何か異なる対応が必要になるのでしょうか。
例えば、日本に所在する法人Aが、同じく日本に所在する法人Bから、法人Bが海外で保管している商品を購入した場合を想定しましょう。このような場合には、そもそも日本に所在する法人同士の取引である以上、通常の輸入とは考えられないのではないか、というイメージをお持ちになる方もいるかもしれません。
【輸入取引の定義と法的根拠】
ここで、そもそもの輸入取引の定義にさかのぼって考えてみます。関税定率法第4条第1項、および同法基本通達4-1(1)によれば、輸入取引の定義は以下のように定められています。
【関税定率法基本通達4-1 輸入取引の意義】
本邦に拠点を有する者が買手として、当該輸入貨物を本邦に到着させることを目的として、売手との間で行った売買をいい、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった原因としての取引を指す。
この定義を前提に考えますと、買手は日本(本邦)に拠点を有することが必要ですが、売手は必ずしも日本国外に拠点を有する必要はありません。つまり、売手が日本国内の法人であっても、その売買が原因となって貨物が海外から日本へ到着するのであれば、それは法的な輸入取引に該当することとなります。
そのため、買手のみではなく、売手も日本に所在するような日本国内での通常の取引に思われる場合でも、輸入取引には問題なく該当することとなります。この辺りは、なかなか通常のイメージとは乖離する部分でもありますが、基本的な定義やルールを出発点に考えていくことが肝要です。
2 日本国内当事者間の取引における買手の認定と責任
輸入申告において誰が「輸入者(買手)」となるかは、納税義務の所在を決める極めて重要な問題です。関税法上、輸入者とは「貨物を輸入する者」を指しますが、実務的には「自己の計算と責任において貨物を輸入する者」と解釈されます。
第1項第1号 輸入 外国貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経由して本邦に)引き取ること(本邦において使用し、又は消費することを含む。)をいう。
日本国内の法人Bから商品を買った法人Aが、自らの名義で輸入申告を行い、関税を支払う場合、法人Aが買手となります。この際、税関に申告する価格は、海外の製造業者から法人Bが仕入れた価格ではなく、法人Aと法人Bとの間で合意された国内売買価格が基礎となります。なぜなら、貨物が日本に到着する直接の原因となったのは、AとBの間の契約だからです。
3 輸入申告価格(課税価格)の算定における注意点
輸入申告価格の算定にはご注意ください。貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に規定されておりますが、なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと追徴課税を含む様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。
第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下、取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。
ここで特に見落とされやすいのが、ライセンス料(ロイヤリティ)の扱いです。
例えば、輸入する貨物のライセンス料を輸出者側等に支払っている場合には、当該ライセンス料については、課税価格に加算しなければならず、加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。
【ライセンス料加算の条件】
関税定率法第4条第1項第4号によれば、以下の条件を満たすロイヤリティは加算対象となります。
一 当該輸入貨物に関連していること。
二 当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により直接又は間接に支払われること。
日本国内の当事者間取引であっても、買手Aが海外の権利者に対して別途ロイヤリティを支払っている場合、その額を国内売買価格に上乗せして申告しなければなりません。
4 実務で活用できる輸入申告時のチェック表
以下に、日本国内当事者間での取引において、輸入者が確認すべきポイントを整理した表を掲載いたします。ワードデータとしてそのままコピーして、社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【日本国内当事者間取引における輸入申告確認事項一覧表】
確認カテゴリー|具体的な確認内容|
--------|--------|
輸入取引の該否|貨物が海外から日本へ到着する原因となった契約か|
買手の特定|自己の計算と責任で貨物を引き取る者は誰か。|
申告価格の基礎|当事者間で合意された売買価格(決済価格)か。|
ライセンス料|商標権や特許権の対価を別途支払っていないか。|
無償提供物品|製造用の金型や材料を無償で提供していないか。|
運賃・保険料|輸入港までの費用が売買価格に含まれているか。|
このような表を用いて、一つひとつの項目を精査していくことが、不備のない申告への近道となります。
5 加算要素としての「買手による無償提供費用」
日本国内の法人Bが海外の工場に製造を委託し、それを法人Aが購入する場合、Aが製造に必要な材料や金型をB経由、あるいは直接工場へ無償提供することがあります。これを「アシスト費用」と呼び、課税価格への加算が必要です。
(関税定率法第4条 第1項第3号)
三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により直接又は間接に、無償で又は値引きして提供された次に掲げる物品又は役務の費用(中略)
ロ 当該輸入貨物の生産に使用された工具、金型その他これらに類するもの。
国内取引の感覚では「材料を渡して作ってもらった」という単純な話に思えますが、関税評価上は、その材料の価値も「貨物の価値」の一部として構成されるため、申告価格に反映させなければなりません。これを知らずに製品価格のみで申告すると、税関事後調査で過少申告を指摘される主たる原因となります。
6 税関事後調査とペナルティのリスク
他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を円滑に進めることが可能となります。
不適切な申告が発覚した場合のペナルティには、以下のようなものがあります。
【過少申告加算税】
税関による更正(税額の訂正)が行われた場合、不足税額に加えて過少申告加算税が課されます。原則として不足税額の10パーセント(一定額を超える部分は15パーセント)という重い負担となります。
【重加算税】
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
一度、重加算税を課されると、その後の輸入通関において全件検査の対象となるなど、ビジネスのスピードに甚大な悪影響を及ぼすことになります。また、法令遵守体制に疑義を持たれることで、企業の社会的信用も大きく毀損されることとなります。
7 専門家によるリーガルチェックの有用性
日本国内の当事者間取引だからといって、安易な判断を下すことは極めて危険です。特に、以下のような場合には、専門家による事前のチェックを受けることを強く推奨いたします。
一 取引価格が市場価格と著しく乖離している場合
二 ライセンス料の支払先が、売手ではない第三者である場合
三 製造用の資材や金型を日本から送っている場合
四 輸出入代行業者を利用しており、責任の所在が不明確な場合
これらは、関税評価上の「落とし穴」になりやすいポイントです。事前に法的な精査を行うことで、予期せぬ追徴課税のリスクを最小限に抑えることが可能となります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
弊事務所は、税関事後調査を含む税関対応や輸出入トラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかという実務的なアドバイスが可能です。
具体的には、以下のようなサポートを提供しております。
一 輸入取引スキームの適法性診断
二 関税評価(課税価格の算定)の妥当性に関する法的意見書の作成
三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との折衝
四 不当な課税処分に対する不服申立て
お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
9 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる鍵
本日は、日本国内の当事者間取引における輸入の法的性質と、申告価格算定上の注意点について解説いたしました。グローバルな取引環境において、国内取引と輸入取引の境界線は非常に曖昧になりやすいのが実情です。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、透明性の高い取引体制を構築すること。それが、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

