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はじめに:具体的な相談事例の紹介
本日は、輸入取引において頻繁に活用される前払金、いわゆるデポジットや頭金と、輸入申告価格(課税価格)の決定に関する重要な論点について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
千葉県内で海外製のスポーツ用品の輸入販売を営む株式会社サクセス 代表取締役 佐藤氏
【相談内容】
「当社は3年前から、アメリカのメーカーであるエー社から、新型のトレーニング機器を輸入しています。取引の形態としては、まず契約時に代金の7割にあたる100万円を「前払金(デポジット)」として送金し、残りの3割の30万円については、製品が完成して日本へ発送される際に支払うことになっています。
製品が発送される際、エー社からは残金の「30万円」が記載されたインボイス(仕入書)が送られてきます。佐藤氏は、通関業者に対してこの30万円のインボイスを提出し、そのまま30万円を輸入申告価格として申告してきました。
ところが先日、税関から事後調査の通知が届きました。調査官からは、この前払金100万円が申告価格に含まれていないのではないかという指摘を受けています。佐藤氏は、前払金はあくまで予約金のようなもので、最終的な商品の請求書(インボイス)の金額こそが申告価格であると考えていました。もしこれが過少申告と判断された場合、過去3年分に遡って追徴課税を受けるのでしょうか。また、法的に正しい申告価格の算出方法を教えてください。」
このような事例は、輸入実務に慣れていない企業において非常に多く見受けられます。輸入者は意図的な脱税のつもりはなくても、法的な理解不足から結果として過少申告となってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、専門的な知見に基づき、前払金が輸入申告価格に与える影響とその適切な処理方法を解説いたします。
1 前払金と輸入申告価格の基本的な考え方
輸入業を行う場合、売買代金の送金等に時間が掛かることから、一定額を前払金(デポジット等という場合もあります)として送金しておき、実際の売買代金に充当するという対応を取る場合も相当程度ございます。
例えば、前払金として100万円を送金しておいて、実際の商品価格が150万円である場合、取引の際には、前払金100万円を充当し、商品代金として50万円のみを新たに支払った場合、輸入申告価格としては、150万円と50万円のいずれとして取り扱う必要があるでしょうか。
結論から申し上げますと、適正な輸入申告価格としては、前払金を含めた総額である150万円をベースに考えることが必要となります。
関税定率法等の法令上は、「現実支払価格」といった専門的な用語がでてきます。なかなか理解が難しい面もありますが、要するに、輸入する商品のために買手側がいくら支出することになったのか、ということをベースに考えることになります。
実際に商品のために買手が支払った金額として、前払金100万円と残金の商品代金としての50万円の合計150万円となります。したがって、課税価格(輸入申告価格)はこの合計額となります。
インボイスに商品代金としていくらと記載されているかどうかということは、輸入申告価格を検討する際には重要な要素の一つとはなります。しかし、あくまでも要素の一つであり、インボイスにいくらと記載されているから輸入申告価格もインボイス上の価格と同じはずだということには必ずしもなりませんので、十分注意が必要です。
2 現実支払価格の定義と法的根拠
輸入申告価格(課税価格)を決定するための原則は、関税定率法第4条に規定されています。この条文は、輸入取引における「価格」とは何かを定義する極めて重要なものです。
第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。
さらに、この取引価格の基礎となる「現実支払価格」については、関税定率法基本通達において詳細に説明されています。
関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)
(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。
この「直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額」という文言が鍵となります。前払金は、輸入貨物の対価として「直接」あるいは「現実に」支払われた金額の一部であり、当然にこの総額に含まれるべきものです。残金の支払いの際、便宜上インボイスに未決済分のみが記載されていたとしても、法的な課税対象は商品の「対価としての総額」であるという点を忘れてはなりません。
3 前払金(デポジット)が関税評価に与える実務的影響
実務上、前払金が申告漏れとなる原因の多くは、書類の管理体制にあります。インボイスと送金記録の紐付けができていないことが、税関事後調査での指摘に直結します。
【前払金がある場合の申告価格算定フロー】
一 契約書(プロフォーマインボイス等)にて総額を確認する。
二 前払金の送金時期と金額を記録する。
三 最終インボイスに前払金が差し引かれた額が記載されている場合、その控除額を「加算」して申告する。
四 通関業者に対し、前払金の存在と総額を明確に伝える。
インボイス上に「Deposit Paid(支払い済みデポジット)」といった記載があれば、通関業者も気づくことができます。しかし、そのような記載がなく、単に「30万円」とだけ書かれたインボイスでは、通関業者はその裏にある100万円の前払金を把握することができません。最終的な納税責任は輸入者自身に帰属するため、正しい情報を開示する義務があります。
4 輸入者が活用すべき実務チェックリスト
以下に、前払金や加算要素の漏れを防ぐためのチェックリストを作成いたしました。社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【前払金および加算要素に関する法的適合性確認表】
確認項目|具体的な確認内容|
前払金の有無|契約時に内金やデポジットを送金していないか|
インボイスの総額|インボイス記載額は前払金差引後の金額ではないか|
送金記録の整合性|銀行の送金総額と輸入申告価格は一致しているか|
ライセンス料の支払|商標権等の対価を別途権利者に支払っていないか|
無償提供物品の有無|製造用の金型や原材料を無償で提供していないか|
仲介手数料の支払|売手と買手を仲介する者に報酬を支払っていないか|
5 輸入申告価格の算定を誤った場合のペナルティ
貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に詳細に規定されております。なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと追徴課税を含む様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。
無事に輸出入できているのだから問題ないだろうと考え、これらのルールを軽視することは非常に危険であり、中長期的に大きなしっぺ返しを受けるリスクが非常に高いと言わざるを得ません。
(1)過少申告加算税の賦課
事後調査により申告漏れが発覚した場合、不足税額に加えて過少申告加算税が課されます。
税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。
(2)重加算税の適用リスク
意図的に前払金を隠蔽し、安価なインボイスのみで申告を繰り返していたと判断された場合、さらに強力な重加算税が課されます。
事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。
(3)延滞税の徴収
本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息相当の延滞税が徴収されます。
6 ライセンス料やその他の加算要素に関する留意点
輸入申告価格の算定において、前払金以外にも注意すべき項目は多岐にわたります。特に「ライセンス料」は、税関が最も注視する項目の一つです。
例えば、輸入する貨物のライセンス料を輸出者側等に支払っている場合には、当該ライセンス料については、課税価格に加算しなければなりません。加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。
【ライセンス料(ロイヤリティ)が加算される条件】
一 当該輸入貨物に関連していること。
二 当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により支払われるものであること。
これらは、商品の仕入れ価格とは別の名目で支払われることが多いため、前払金と同様に申告漏れが発生しやすい項目です。他にも、輸入港までの運賃、保険料、仲介手数料、そして製造に関わる原材料や金型の無償提供費用(アシスト費用)などが挙げられます。
7 専門家による事前リーガルチェックの重要性
他にも、輸出入特有の規制は多数あります。可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。
最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を中長期的に円滑に進めることが可能となります。
【専門家によるチェックを受けるメリット】
一 適切な課税価格の算定根拠を構築できる点。
二 税関事後調査における否認リスクを最小限に抑えられる点。
三 不必要な追徴課税や過少申告加算税の支払いを回避できる点。
四 法令遵守体制を整えることで、税関からの信頼性を向上させられる点。
特に、新しい取引先と契約する際や、新しい商品カテゴリーを扱う際には、契約書の文言一つが将来の関税負担に大きく影響することがあります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。
弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる主なサポート】
一 輸入取引における現実支払価格の適正性診断。
二 前払金、ロイヤリティ、アシスト費用等の加算要素に関する法的整理。
三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉。
四 不当な課税処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

