関税ほ脱罪及び無許可輸出入罪の留意点

1 はじめに―相談事例

輸出入をビジネスとして継続的に行う企業にとって、関税法という法律は常に隣り合わせの存在です。しかし、その中には「知らなかった」では済まされない重い刑事罰を伴う規定が含まれています。まずは、どのような状況でこれらの罪が問題となるのか、具体的な相談事例を通じて見てみましょう。

【相談者】

輸入卸売業 O社 代表取締役

【相談内容】

「当社は海外から雑貨やアパレル製品を輸入し、国内の小売店に販売しています。先日、税関による事後調査が行われた際、一部の輸入申告において実際の仕入価格よりも低い金額で申告していた、いわゆる『アンダーバリュー』の事実を指摘されました。 担当者に確認したところ、取引先との交渉の過程で発行された低い金額の仮のインボイスを、そのまま本物の書類として税関に提出してしまったとのことです。担当者は『納期を急いでいたため、確認を怠っただけで悪意はなかった』と主張していますが、税関からは『関税を免れる等の罪』に該当する可能性があると告げられました。 会社として意図的に脱税を指示したわけではありませんが、私自身や会社も処罰の対象になるのでしょうか。また、どのような罰則が想定されるのか、法的な観点から詳しく教えてください」

このような事例は、実務の現場では決して珍しいものではありません。しかし、関税法違反として立件された場合、企業が被るダメージは計り知れません。本日は、特に関税法の中で重要な二つの罪について詳しく解説いたします。

2 関税を免れる等の罪(関税ほ脱罪)の詳細

関税を免れる等の罪は、一般に「関税ほ脱罪」とも呼ばれます。これは、国の税収を不当に侵害する行為に対して科される非常に重い罰則です。

(1)法的根拠と要件

関税法第110条第1項には、以下の通り規定されています。

「次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の払戻しを受けたとき

二 関税を納付すべき貨物について偽りその他不正の行為により関税を納付しないで輸入したとき」

ここで重要となるのが「偽りその他不正の行為」という文言です。これは、単なる申告漏れや計算ミスを超えて、意図的に真実を隠蔽し、または虚偽の事実を捏造して関税を免れようとする行為を指します。具体的には、前述のアンダーバリュー(価格の過少申告)や、関税率の低い別の品目として偽って申告する行為などが該当します。

(2)罰則の強化規定

関税ほ脱罪の罰則には、免れた税額に応じた加重規定があります。関税法第110条第4項によれば、免れた関税額等の10倍が1000万円を超える場合、罰金は「免れた関税額等の10倍以下」とされます。例えば、多額の輸入を継続し、免れた税額が合計で5000万円に達していた場合、罰金は最大で5億円にまで跳ね上がる可能性があるということです。

(3)通関業者の責任

本条の規定は輸入者本人だけでなく、通関業者にも及びます(関税法第110条第2項)。通関業者が輸入者と共謀したり、あるいは不正の事実を知りながら偽りの申告を行ったりした場合、通関業者自身も同一の罰則の対象となります。これは、通関業者が通関手続きの適正を確保すべき公的な役割を担っているためです。

3 許可を受けないで輸出入する等の罪(無許可輸出入罪)

関税を免れる意図がなかったとしても、税関の許可を得ずに貨物を移動させる行為自体が「無許可輸出入罪」として処罰の対象となります。

(1)法的根拠と要件

関税法第111条第1項には、以下の通り規定されています。

「次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 第67条(輸出又は輸入の許可)の許可を受けるべき貨物について、当該許可を受けないで当該貨物を輸出し、又は輸入した者

二 第67条の申告又は検査に際し、偽つた申告若しくは証明をし、又は偽つた書類を提出して貨物を輸出し、又は輸入した者」

(2)「無許可」の状態とは

第1号に該当するのは、いわゆる「密輸入」や「密輸出」の典型例です。税関を通さずに貨物を国内に持ち込んだり、国外へ持ち出したりする行為です。一方、実務で特に注意が必要なのは第2号です。これは、申告自体は行っているものの、その内容が「偽り」である場合を指します。例えば、輸入禁止品(模倣品や特定の薬品など)を、別の一般的な雑貨として偽って申告し、許可を得ようとした場合などがこれに該当します。この場合、形式上の許可は得ていても、法律上は「正当な許可」を得ていないものとみなされ、重い処罰の対象となります。

(3)罰則の加重

本罪においても、貨物の価格に基づく罰金の加重規定があります。当該犯罪に係る貨物の価格の5倍が1000万円を超えるときは、罰金は「当該価格の5倍以下」とされます。貨物自体の価格が高い場合、罰金総額は莫大な金額になるリスクがあります。

4 刑事罰と行政罰(加算税等)の相違

輸出入における不正が発覚した場合、税関から課されるのは刑事罰だけではありません。多くの場合、まず行政罰としての「附帯税」が課されます。

(1)過少申告加算税と重加算税

申告された税額が不足していた場合、不足分に加えて「過少申告加算税」が課されます。さらに、事実の隠蔽や仮装が認められる場合には、より重い「重加算税」が課されます。これは行政上のペナルティであり、刑事手続きとは別に行われます。

(2)刑事罰への発展

すべての不正が刑事事件になるわけではありませんが、免れた税額が高額である場合や、手口が悪質である場合、あるいは反復継続して行われている場合には、税関の犯則調査部門(通称「関税版の査察」)が動き、検察官への告発が行われます。そうなると、前述の懲役や罰金という刑事罰の対象となります。

以下に、関税法第110条と第111条の主な相違点を整理した比較表を作成しました。

【関税ほ脱罪と無許可輸出入罪の比較】

|項目|関税を免れる等の罪(第110条)|許可を受けないで輸出入する等の罪(第111条)|

|主な犯罪の目的|関税等の納付を免れること|税関の輸出入規制を回避すること|

|典型的な行為|アンダーバリュー、虚偽の還付請求|密輸、禁止品の偽り申告による輸入|

|懲役刑|10年以下|5年以下| |罰金刑(原則)|1000万円以下|1000万円以下|

|罰金の加重規定|免れた税額の5倍以下|貨物価格の5倍以下|

|併科の有無|懲役と罰金の併科が可能|懲役と罰金の併科が可能|

5 企業に与える社会的影響と法的リスク

関税法違反で処罰された場合、企業には単なる罰金の支払い以上の損失が生じます。

(1)AEO認定の取り消し

認定通関業者や認定輸入者などの「AEO制度」を利用している企業の場合、関税法違反による処罰は認定の取り消し事由となります。これにより、通関手続きの簡素化や迅速化といったメリットをすべて失うことになります。

(2)検査率の上昇

一度でも重大な違反を起こした企業は、税関のシステムにおいて「要注意企業」として登録されます。その結果、その後の輸入申告のたびに厳格な書類審査や現物検査が行われるようになり、リードタイムの増大やコストの上昇を招きます。

(3)両罰規定による法人の処罰

関税法第117条には「両罰規定」があります。これは、従業員がその業務に関して違反行為を行った場合、実行行為者である従業員だけでなく、その雇用主である法人に対しても罰金刑を科すという規定です。代表取締役が直接手を下していなくとも、会社として多額の罰金を支払わなければならず、役員の解任や株主代表訴訟などのリスクにも発展しかねません。

6 不法行為を未然に防ぐためのチェック体制

犯罪に手を染めないためには、社内におけるガバナンスの構築が不可欠です。

(1)インボイスの精査

海外の取引先から送られてくるインボイスが、実際の送金金額と一致しているかを必ずダブルチェックする体制を整えましょう。

(2)通関業者との連携

通関業者に対しては、取引の実態を正確に開示してください。不透明な指示は、通関業者を犯罪に巻き込むだけでなく、自社の首を絞めることになります。

(3)定期的な社内研修

輸出入実務に携わるスタッフに対し、関税法違反がどのような結果をもたらすのかを教育し、コンプライアンス意識を高めることが重要です。

以下に、事後調査から刑事手続きに至るまでの一般的な流れを整理したフロー図を示します。

【関税法違反の調査及び処分フロー】

1.税関事後調査の実施 (帳簿や書類の精査により不審な点が発見される)

2.犯則調査への切り替え (意図的な不正の疑いがある場合、犯則調査部門による強制調査等が行われる)

3.税関長による通告処分または告発 (軽微な場合は罰金相当額の納付を命じる通告処分。悪質な場合は検察官へ告発)

4.刑事訴追 (検察官による起訴を経て、裁判所での審理が始まる)

5.判決の確定 (懲役刑、罰金刑の確定。法人に対する両罰規定の適用)

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

関税法上の犯罪規定に触れる可能性がある事案は、単なる税務上のミスでは済まされません。事態が刑事事件に発展し、会社や個人の将来が脅かされる前に、適切な法的措置を講じる必要があります。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。弁護士としての高度な法的知見と、通関士としての実務的な視点を融合させることで、貴社のビジネスを多角的に守ることが可能です。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、早い段階でご相談いただくことには以下のような大きなメリットがあります。

・税関調査の初期段階において、不当な取り調べを防ぎ、適切な反論を行うことができる。

・修正申告のタイミングや方法を助言し、刑事告発を回避するための最善の策を講じることができる。

・両罰規定の適用を回避するために、法人が必要な監督責任を果たしていたことを立証する準備を整えられる。

・通関業者との間に生じたトラブルや責任の所在について、法的な整理を行うことができる。

お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しが立ち、不安の解消につながることも多々あります。輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

8 まとめ

本日は、関税法第110条の関税ほ脱罪、および第111条の無許可輸出入罪を中心に、その深刻なリスクと実務上の留意点について解説いたしました。

これらの罪は、実行行為者に重い懲役刑を課すだけでなく、法人に対しても莫大な罰金を課す「両罰規定」を伴います。また、刑事罰が確定しなくとも、重加算税の賦課やAEO認定の取り消しといった行政上の不利益は、企業の国際競争力を大きく削ぐことになります。

輸出入ビジネスは「スピード」が求められる現場ですが、そのスピードを優先するあまり、法的手続きを疎かにしたり、安易なコスト削減のために不正な申告を行ったりすることは、結果として最も高い代償を支払うことになります。

本記事の解説が、皆様の事業におけるコンプライアンス意識の向上と、適正な通関業務の維持に寄与すれば幸いです。もし、現在の申告状況に不安を感じたり、税関から不審な指摘を受けたりした場合には、一人で悩まずに、専門的な知識を持つ弁護士へ速やかに相談することをお勧めいたします。

主要な犯罪規定に関するチェックポイント ・アンダーバリューは「関税を免れる等の罪」に直結すること ・偽りの申告による許可取得は「無許可輸入」とみなされること ・罰金刑は免れた税額や貨物価格の5倍に達する可能性があること ・従業員の犯行であっても会社が処罰される「両罰規定」があること ・事後調査において誠実に対応し、早期に専門家のアドバイスを受けること

適正な申告と納税こそが、貴社のビジネスを長期的な成功に導く唯一の道であることを、改めて強調させていただきます。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

03-5877-4099電話番号リンク 問い合わせバナー