関税法における両罰規定の構造

1 はじめに―相談事例の紹介

輸出入ビジネスを展開する企業において、法令遵守(コンプライアンス)の徹底は事業継続の生命線といえます。しかし、経営者がどれほど注意を払っていても、現場の従業員による一時の判断ミスや不正行為が、会社全体を揺るがす深刻な事態を招くことがあります。まずは、関税法上の両罰規定が問題となる具体的な相談事例を見てみましょう

【相談者】

機械部品輸出入業 K社 代表取締役

【相談内容】

「当社は長年、東南アジア諸国への精密機械部品の輸出を行っております。先日、輸出担当のベテラン従業員が、納期を急ぐあまり、本来必要であった経済産業大臣の輸出許可証を取得せずに、虚偽の申告を行って貨物を輸出していたことが税関の調査で発覚しました。 当該従業員は『会社のために良かれと思ってやった』と供述しておりますが、税関からは当該従業員個人だけでなく、法人である当社に対しても多額の罰金が科される可能性があると説明を受けました。 不正を行ったのはあくまで従業員個人であり、会社として組織的に指示したわけではありません。それにもかかわらず、会社まで処罰されるというのは本当なのでしょうか。また、法人に対する処罰が確定した場合、今後の輸出入業務にどのような悪影響が出るのか、法的な観点から詳しく教えてください」

このようなケースにおいて適用されるのが、関税法第117条に規定される「両罰規定」です。これは、実際に違反行為を行った個人(実行行為者)を罰するだけでなく、その者が所属する法人や事業主に対しても罰金刑を科すという非常に強力な規定です。以下、その詳細について専門的な解説を行います

2 関税法上の両罰規定とは

両罰規定とは、法人の代表者や従業員等がその法人の業務に関して違反行為を行った場合に、行為者本人を処罰するだけでなく、その雇用主である法人等に対しても罰金刑を併せて科す制度を指します。関税法における根拠条文は第117条です

(1)関税法第117条第1項

「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務又は財産について、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して当該各号に定める罰金刑を課する」

この規定により、法人の業務遂行過程で発生した犯罪については、法人自身も刑事責任を問われることになります。これは、法人が事業活動を通じて利益を得ている以上、その過程で発生した違法行為についても責任を負うべきであるという考え方(報償責任)や、法人の監督責任を追及することで再発を防止するという目的に基づいています

(2)法人の範囲

関税法第117条第3項により、法人格を持たない「人格のない社団等」についても法人とみなしてこの規定が適用されます。具体的には、代表者や管理人の定めがある団体であれば、会社組織でなくとも両罰規定の対象となり得る点に注意が必要です

3 両罰規定の対象となる違反行為の範囲

関税法上の両罰規定は、すべての違反行為に適用されるわけではありません。同法第117条では、対象となる条文が具体的に列挙されております。以下、実務上重要となる主な違反行為を整理します

(1)輸出入禁止貨物及び密輸に関連する罪(第108条の4から第112条まで)

これらは関税法の中でも特に重い罪とされており、両罰規定の対象となります

①第108条の4:輸出してはならない貨物を輸出する罪

②第109条:輸入してはならない貨物を輸入する罪

③第109条の2:輸入してはならない貨物を保税地域に置く等の罪

④第110条:関税を免れる等の罪(関税ほ脱罪)

⑤第111条:許可を受けないで輸出入する等の罪(無許可輸出入罪)

⑥第112条:密輸貨物の運搬等をする罪

(2)その他の重要な罪

①第112条の2:用途外に使用する等の罪(減免税を受けた貨物の目的外流用など)

②第113条の2:特例申告書を提出期限までに提出しない罪

③第114条の2:報告等を怠った等の罪(税関からの資料提出要求に対する拒否など)

④第115条の2:帳簿の記載を怠った等の罪(記帳義務・保存義務の違反)

⑤第116条:重大な過失犯

特に、第115条の2(帳簿の記載義務違反)などは、意図的な密輸でなくとも、管理体制の不備によって法人が罰金刑を受ける可能性があるため、実務担当者は細心の注意を払う必要があります

4 実行行為者と法人の責任の関係

両罰規定が適用されるためには、以下の要件を満たす必要があります

(1)主体要件

法人の代表者、代理人、使用人(従業員)、その他の従業者が行為者であること。

正社員だけでなく、アルバイトや派遣社員、あるいは外部の委任を受けた代理人が行った行為であっても、法人の業務に関するものであれば対象となります

(2)業務関連性要件

「その法人又は人の業務又は財産について」行われた行為であること。

従業員が私生活で行った個人的な密輸などは対象外ですが、会社の荷物の中に私物を紛れ込ませて輸入した場合や、納期を守るために勝手に虚偽申告を行った場合などは、業務に関連するものと判断される可能性が極めて高いといえます

(3)過失の推定と監督責任

日本の判例理論上、両罰規定における法人の責任は「選任監督上の過失」に基づくものと解釈されています。つまり、従業員が違反行為を行った場合、法人側には「適切な監督を行っていなかった」という過失が推定されます。法人が処罰を免れるためには、違反行為を防止するために必要な相当の注意及び監督を尽くしていたことを、法人側が立証しなければなりませんが、実務上この立証は非常に困難です。

5 罰則の具体的内容と企業への影響

(1)罰金額の算定

法人に科される罰金は、原則として各罰則条項に定められた金額となります。しかし、関税ほ脱罪(第110条)などの場合、免れた税額の倍数(例えば5倍以下)で罰金が算定されることもあり、法人の経営基盤を揺るがすほどの高額に達するケースもあります。

(2)社会的信用の失墜

刑事罰を受けることは、単なる金銭的損失に留まりません。報道等により「密輸に関与した企業」というレッテルを貼られることで、取引先からの契約解除や、金融機関からの融資引き揚げなど、甚大な社会的ダメージを受けることになります。

(3)行政上の不利益処分

関税法上の罰金刑が確定すると、以下のような行政上の不利益が生じる可能性があります

①AEO(認定事業者)制度の承認取消しまたは申請却下

②通関手続きにおける検査率の上昇(信頼性の低下による)

③特定の免税制度や簡易手続きの利用制限

以下に、両罰規定の対象となる主要な罪状と罰則の概要を整理した図表を掲載いたします

【関税法第117条(両罰規定)の対象となる主な罪状一覧】

|対象条文|罪の名称|行為者の罰則|法人の罰則|

|第108条の4|禁止貨物の輸出罪|10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金|左記と同じ罰金刑|

|第109条|禁止貨物の輸入罪|10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金|左記と同じ罰金刑|

|第110条|関税ほ脱罪|10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金(免れた税額の5倍が上限)|左記と同じ罰金刑|

|第111条|無許可輸出入罪|5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金|左記と同じ罰金刑|

|第115条の2|帳簿記載義務違反|1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金|左記と同じ罰金刑|

※注:懲役刑は実行行為者のみに科され、法人は罰金刑のみとなります

6 法人としての防御策とコンプライアンス体制の構築

両罰規定のリスクを回避するためには、「相当の注意及び監督」を尽くしていることを客観的に証明できる体制を構築しておく必要があります。具体的には以下の対策が考えられます

(1)明確な社内規定の整備

輸出入実務に関するマニュアルを作成し、どの工程でどのような法令遵守が必要かを明文化すること。特に、他法令(外為法等)が関わる貨物の確認フローを厳格化することが重要です

(2)定期的かつ継続的な社員教育

輸出入担当者に対し、関税法の基礎知識や両罰規定の恐ろしさを周知させる研修を定期的に実施すること。相談事例のように「良かれと思って」行った行為が会社を滅ぼす可能性があることを理解させる必要があります

(3)内部監査制度の導入

現場の申告書類や帳簿の記載内容を、定期的あるいは抜き打ちでチェックする体制を整えること。問題が発生した際に早期に発見できる仕組み(内部通報制度等)も有効です

(4)専門家との連携

判断に迷う事案や、複雑な通関手続きについては、事前に通関士や弁護士に相談する体制を作っておくこと。税関との見解の相違が生じた際にも、専門家が介在することで適正な手続きを維持できます。

7 図解-両罰規定の適用プロセス

以下に、従業員が違反行為を行った際の両罰規定の仕組みを視覚化したフローを示します。

【関税法第117条(両罰規定)の適用メカニズム】

1.従業員(実行行為者)による違反行為の発生 (例:関税を免れる目的での虚偽申告) ↓

2.税関による調査・告発 (法人への立ち入り調査、証拠品の押収等)

3.刑事手続きの開始 (検察官による起訴判断)

4.裁判所による判断 (行為者の故意・過失の認定)

5.判決(両罰規定の適用) (A)従業員個人:懲役刑及び/又は罰金刑 (B)法人(会社):罰金刑(第117条に基づく)

6.付随的な影響 (行政処分、AEO資格喪失、社会的信用の失墜)

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

関税法上の両罰規定が問題となる事案は、単なる刑事事件としての側面だけでなく、企業の存続に関わる重大な経営リスクとしての側面を持っています。特に、税関から調査を受けている段階での初動対応が、その後の結果を大きく左右します

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士としての高度な法的防衛能力と、通関士としての実務的な知見を掛け合わせることで、貴社に最適な解決策を提示することが可能です

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。具体的には以下のようなサポートを提供いたします

①税関調査への立ち会い、及び法的な主張の整理

②従業員の行為が法人の業務範囲内であったかどうかの精緻な法的検討

③法人としての「相当の注意及び監督」を証明するための証拠収集

④事後調査や刑事手続きを見据えた、最適な修正申告や自首の判断に関するアドバイス

⑤再発防止策としてのコンプライアンス体制の構築支援

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律と実務の両面から、貴社のビジネスを全力でバックアップいたします

9 まとめ

関税法第117条の両罰規定は、企業の管理責任を厳しく問うものです。たとえ一部の従業員による独断であったとしても、それが業務に関連するものである限り、法人としての責任を免れることは容易ではありません

しかし、日頃から透明性の高い通関体制を整え、万が一の事態に備えて専門家とのネットワークを構築しておくことで、そのリスクを最小限に抑えることは可能です。この記事で紹介した条文や規定の重要性を、今一度社内で共有していただくことをお勧めいたします

適正な通関実務の維持は、一朝一夕には成し遂げられません。日々の積み重ねが、最終的に企業を守る盾となります。もし現状の体制に不安を感じたり、具体的なトラブルに直面したりした際には、迷わず専門家の門を叩いてください

法人としての責任を重く受け止めつつ、より強固な法令遵守体制を築いていくことが、グローバル社会で信頼される企業であり続けるための唯一の道といえます

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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