関税法における通告処分制度

1 はじめに―相談事例

輸出入を業とする企業にとって、予期せぬトラブルの一つに税関による犯則調査があります。まずは、通告処分が問題となる具体的な相談事例を見てみましょう。

【相談者】

海外ブランド品輸入卸売業 L社 代表取締役

【相談内容】

「当社では長年、欧州からブランドバッグを輸入しておりますが、先日、通関業務を担当していた社員が、納税額を抑える目的で仕入書(インボイス)の金額を意図的に低く書き換えて申告していたことが税関の調査で発覚しました。

税関の犯則調査部門による厳しい取り調べを受け、多額の関税を免れた疑い(関税ほ脱罪)を指摘されています。幸い、税関長から『通告処分』という手続きの案内を受けました。

担当官からは、罰金に相当する金額を支払えば、刑事裁判にはならないという説明を受けましたが、これまで刑事事件とは無縁であったため、この通告処分がどのような法的性質を持つものなのか、また、支払いに応じた場合に前科がつくのか、あるいは応じなかった場合にどのような不利益があるのかがわからず、非常に不安を感じております。制度の全容と、会社としてどのように対応すべきかを詳しく教えてください」

このような状況は、企業のコンプライアンス体制が問われる重大な事態です。通告処分は、刑事手続きと密接に関わりながらも、行政官庁である税関長が行う独自の制度です。以下、その詳細について専門的な視点から解説してまいります。

2 通告処分制度の概要と目的

通告処分とは、関税法違反などの犯則事件について、税関長が調査の結果、犯則の心証を得た場合に、犯則者に対して罰金相当額等の納付を命じる行政上の処分を指します。

この制度の最大の目的は、事件の迅速な処理と、司法機能の負担軽減にあります。すべての犯則事件を最初から刑事裁判にかけるのではなく、比較的定型的あるいは情状に酌むべき点がある事件について、行政段階で金銭的な制裁を課すことにより、事案を完結させる仕組みです。

実務上、この処分は「検察官への告発」を留保した状態で行われます。犯則者が通告された金額を納付すれば、刑事訴追を免れることができるという、一種の恩恵的な側面も持ち合わせております。

3 通告処分の法的根拠

通告処分の手続きと内容は、関税法第146条に厳格に定められています。専門的な理解を深めるため、具体的な条文を確認しましょう。

関税法第146条第1項(通告処分)

「税関長は、犯則事件の調査により犯則の心証を得たときは、その理由を明示し、罰金に相当する金額、没収に該当する物件、追徴金に相当する金額並びに書類の送達並びに差押物件の運搬及び保管に要した費用(以下「罰金相当額等」という。)を税関に納付すべき旨を書面により通告しなければならない」

この条文により、税関長は以下の4点を通告の内容とすることが規定されています。

1.罰金に相当する金額

2.没収に該当する物件

3.追徴金に相当する金額(没収すべき貨物がすでに消費・転売されている場合等)

4.事務手続きに要した費用(送達費用や保管料等)

この通告は、口頭ではなく必ず「書面」によって行われ、その理由も明示されなければなりません。

4 通告処分の履行とその法律効果

通告処分を受けた者が、その内容に従って金銭を納付し、物件を差し出した場合を「履行」と呼びます。

(1)公訴提起の禁止(一事不再理の効力)

関税法第146条第5項には、履行による法的効果が規定されています。

関税法第146条第5項

「犯則者が通告の旨を履行したときは、同一事件について、公訴を提起されることはない」

本来、通告処分は行政処分であり、刑罰ではありません。しかし、行政処分に従ったにもかかわらず、さらに刑事罰を科されることになると、犯則者にとって過重な負担となります。そこで、関税法では明文をもって「一事不再理」と同様の効果を認めています。これにより、履行が完了した時点で、当該事件についての刑事責任は法的に解消されることになります。

(2)前科との関係

通告処分に基づく納付は、あくまで「行政上の制裁」に従ったものであり、裁判所による「刑罰」の確定ではありません。したがって、いわゆる戸籍謄本等に付随する犯罪歴(前科)として記録されることはありません。これが、企業が通告処分を履行する大きなメリットの一つといえます。

5 通告処分の不履行と検察官への告発

一方で、通告処分に従わない(不履行)場合には、事態は刑事手続きへと移行します。

関税法第147条第1項(告発)

「犯則者が通告書の送達を受けた日から20日以内に通告の旨を履行しないときは、税関長は、直ちに検察官に告発しなければならない」

(1)強制的な告発

税関長には裁量の余地はなく、期限である20日以内に履行がない場合は「直ちに」告発する義務を負います。告発がなされると、事件は検察庁に送られ、検察官による捜査を経て、起訴・不起訴の判断がなされることになります。

(2)刑事裁判への移行

起訴された場合は、裁判所での公判手続きが行われます。ここで有罪判決が確定すれば、それは正式な「刑罰」となり、前科として記録されることになります。また、法人の場合は、前述した両罰規定により、会社自体にも高額な罰金刑が科されるリスクがあります。

6 実務上の手続きフローと留意事項

通告処分に至るまでの一般的な流れを整理いたします。ワードデータ等にコピーして活用できる形式で作成いたします。

【犯則調査から通告処分までの流れ】

1.犯則事件の調査開始

(税関の犯則調査部門による立ち入り検査、証拠品の差し押さえ、事情聴取等)

2.調査の終結と犯則の心証

(税関長が関税法違反の事実を確信した段階)

3.通告処分の決定

(税関内部での審議、罰金相当額等の算出)

4.通告書の送達

(関税法第146条第1項に基づく書面による通知)

5.犯則者による判断

((A)履行:20日以内に罰金相当額等を納付)

((B)不履行:期限内に納付せず)

6.結末

((A)の場合:事件終了、刑事訴追なし、前科なし)

((B)の場合:税関長が検察官に告発、刑事裁判へ移行)

7 通告処分と刑事手続きの比較

通告処分を受けることの意義をより深く理解するため、刑事裁判との違いを比較表にまとめました。

【通告処分と刑事訴追の比較一覧】

比較項目 通告処分 刑事訴追(公判)
決定の主体 税関長(行政官庁) 裁判所(司法府)
手続きの性質 行政処分(行政上の制裁) 刑罰(国家的な制裁)
納付する金銭 罰金相当額(行政納付金) 罰金(刑罰)
前科の有無 一般的な意味の前科にならない 有罪確定により前科となる
社会的影響 公開されないため、影響を抑えやすい 公開の裁判となり、報道リスクがある
拒否の権利 履行せず刑事裁判で争うことが可能 司法手続きに従う義務がある

8 実務上のポイントと企業の対応策

通告処分は、ある意味では「司法の手続きによらずに金銭解決を認める」という税関からの最終的な提示です。しかし、以下の点には十分な注意が必要です。

(1)罰金相当額の算出基準

罰金相当額は、関税法の各罰則規定に定められた金額を基準に算出されます。ほ脱罪などの場合、免れた税額の倍数(最高5倍以下)で算出されることがあり、その額は数千万円から数億円に及ぶこともあります。企業にとっては、支払能力の有無が履行できるかどうかの重要な分かれ目となります。

(2)事実関係の精査

通告処分を受けるということは、税関側が「犯則の心証を得た」ということです。しかし、会社として、あるいは行為者として、本当にそのような意図(故意)があったのか、あるいは税関の解釈が法的に妥当なのかを慎重に見極める必要があります。もし全くの事実無根であるならば、あえて履行せず、刑事裁判の場で無罪を主張するという選択肢も理論上は存在します。

(3)期間の短さ

通告を受けてから履行期限までは「20日間」と非常に短期間です。この間に、事実関係の確認、資金の調達、意思決定を行わなければなりません。迅速な法的判断が求められます。

9 弁護士へのご相談をご希望の方へ

税関による犯則調査や通告処分は、通常の行政指導や税務調査とは全く次元の異なる、刑事手続きに直結した事態です。初期対応を誤ると、会社の代表者や役員が逮捕・勾留されたり、会社が刑事罰を受け、輸出入ビジネスの継続が困難になったりする深刻なリスクを伴います。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。税関の内部事情や犯則調査の実務、そして関税法という特殊な法体系を熟知していることが、当事務所の最大の強みです。

「通告処分の内容が妥当なのかわからない」

「罰金相当額が高すぎて支払えないが、どうにか交渉できないか」

「刑事裁判に発展した場合の見通しを知りたい」

「事後調査が犯則調査に切り替わりそうで不安だ」

このようなお悩みをお悩みの際は、ぜひ当事務所までご相談ください。お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しを立て、最善の着地点を見つけるための一助となることができます。

当事務所では、以下のようなサポートを提供いたします

・犯則調査における取り調べのアドバイス

・通告処分の理由および算出根拠の正当性の検証

・検察官への告発を回避するための税関との交渉

・履行後のコンプライアンス体制の再構築支援

・刑事裁判へ移行した場合の弁護活動

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

10 まとめ

通告処分制度は、関税法第146条に基づき、行政の効率化と犯則者の救済という二つの側面を併せ持つ特異な制度です。この処分を正しく理解し、適切に対応することは、輸出入ビジネスにおける極めて重要なリスクマネジメントといえます。

履行すれば、一事不再理の原則により刑事訴追を免れ、前科という致命的なダメージを避けることができます。一方で、不履行を選択すれば、国家の刑罰権が発動し、厳格な刑事手続きへと進むことになります。

20日間という限られた時間の中で、自社の将来を左右する重い決断を迫られるのがこの通告処分制度の厳しさです。不測の事態に直面した際は、専門家である弁護士の知見を借り、最善の選択を行ってください。適正な通関と法令遵守こそが、長くビジネスを続けるための唯一の鍵であることを、改めて強調させていただきます。

通告処分に関する重要事項の再確認

・税関長が犯則の心証を得た際に出される行政処分

・関税法第146条がその中心となる根拠規定

・罰金相当額等の納付を命じる書面による通知

・履行すれば刑事裁判にならず、前科もつかない

・不履行の場合は直ちに検察官へ告発される

・履行期限は送達から20日以内という短期間である

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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