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1 はじめに―相談事例の紹介
近年、Eコマースの普及やビジネスのグローバル化に伴い、海外に拠点を置く企業や個人が日本国内で直接、輸出入業務を行うケースが増加しております。まずは、税関事務管理人制度の利用が必要となる典型的な相談事例を見てみましょう。
【相談者】
米国に本社を置くEコマース事業者 D社 物流担当役員
【相談内容】
「当社は米国で健康食品を販売しており、このたび日本市場へ本格参入することを決定しました。日本国内に支店や現地法人は設立せず、米国の本校から日本の顧客へ直接商品を発送するか、日本の保税倉庫に在庫を置いて販売する予定です。
日本の税関に問い合わせたところ、日本に住所がない非居住者が輸入申告を行うためには、税関事務管理人を選任しなければならないと言われました。当社には日本に身寄りがなく、どのような人物や法人を選任すべきか、また、その管理人が具体的にどのような責任を負うのかがわからず困っております。
また、管理人がいなければ輸入許可が下りないのか、法的なペナルティはあるのかについても詳しく教えてください」
このような課題は、日本への進出を検討する外資系企業にとって共通の悩みです。日本国内に拠点を置かない非居住者が、日本の関税法を遵守しながら円滑にビジネスを行うための制度が税関事務管理人です。以下、その詳細について解説してまいります。
2 非居住者による輸出入申告と法的義務
まず大前提として、貨物を輸出入する際の基本的な義務を確認します。貨物を輸入または輸出しようとする者は、原則として税関長に対して申告を行い、必要な検査を経て許可を得なければなりません。
関税法第67条(輸出又は輸入の許可)には、以下の規定があります。
「貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、当該貨物の品名並びに数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない」
この義務は、日本国内に住所がある居住者だけでなく、海外に居住する非居住者にも同様に課されます。しかし、日本国外にいる者に対して、日本の税関が円滑に連絡を取り、あるいは書類の送達や検査の立ち会いを求めることは物理的に困難です。そこで、日本国内における窓口として、税関事務管理人の選任が義務付けられているのです。
3 税関事務管理人制度の定義と根拠条文
税関事務管理人とは、日本国内に住所や居所(法人にあっては本店または事務所)を有しない者が、日本で税関手続を行うために選任する代理人のことです。
この制度の根拠となるのは、関税法第95条(税関事務管理人)です。
同条第1項には以下のように規定されています。
「本邦に住所又は居所(法人にあつては、本店又は事務所)を有しない個人又は法人が、税関関係手続等(関税法その他の関税に関する法律の規定による税関長に対する申告、申請、請求その他の手続及び政府に対してする関税の納付、還付金の受領等をいう。以下同じ。)の事務を処理させるため、本邦に住所又は居所を有する者(法人にあつては、本店又は事務所を有するもの)のうちから税関事務管理人を選任したときは、その旨を税関長に届け出なければならない」
4 税関事務管理人が処理する事務の範囲
税関事務管理人が行う事務は、単なる書類の受け渡しに留まりません。関税法第95条、同施行令、及び関税法基本通達95-1に基づき、多岐にわたる実務を代理します。
主な事務の範囲
・輸出入申告、各種申請、請求などの税関関係手続の実施
・税関長が行う検査への立ち会い、及び内容説明
・税関長が発する更正通知、決定通知、督促状などの書類の受領
・受領した書類の非居住者(本人)への速やかな送付
・関税、消費税等の納付、並びに過誤納金の還付受領
・税関事後調査の際の窓口対応、及び資料の提示
以下に、税関事務管理人の役割を整理した比較表を掲載します。
【税関事務管理人の業務範囲と責任】
| 項目 | 具体的な事務内容 | 留意事項 |
| 申告事務 | 輸出入申告書の作成及び提出 | 代理人として記名捺印等を行う |
| 検査対応 | 税関による貨物検査への立ち会い | 貨物の内容を熟知している必要がある |
| 文書受領 | 税関からの公文書(更正通知等)の受領 | 到達した時点で本人への送達とみなされる |
| 金銭管理 | 関税・消費税の納付、還付金の受領 | 非居住者に代わって精算を行う |
| 事後調査 | 許可後の税関調査における窓口 | 過去の取引記録を整理しておく義務 |
5 誰を選任すべきか 選任の要件と実務上の選択肢
法律上、税関事務管理人になれるのは「日本国内に住所または居所を有する個人」または「日本国内に本店または事務所を有する法人」です。特別な資格(例えば通関士や弁護士であること)は必須とされていませんが、実務上の難易度から以下の選択肢が一般的です。
(1)関連会社や取引先
日本国内に子会社や親密な取引先がある場合、その法人が管理人を引き受けるケースがあります。しかし、税関からの法的な通知を預かるという重い責任を伴うため、十分な信頼関係が必要です。
(2)通関業者
輸入申告の実務を行う通関業者が、附帯サービスとして税関事務管理人を兼ねる場合があります。実務に精通しているため、申告ミスが少ないという利点があります。ただし、すべての通関業者がこの役割を引き受けているわけではありません。
(3)専門のコンサルティング会社や法律事務所
貿易実務や税法に精通した専門家が管理人となるケースです。特に、高額な関税が発生する物品や、知的財産権、他法令の規制が絡む複雑な案件では、法的な防御力を備えた専門家を選任することが、長期的なリスクヘッジにつながります。
6 選任の手続きと届出の流れ
税関事務管理人を選任した後は、遅滞なく所轄の税関長へ届け出なければなりません。
(1)届出書類
「税関事務管理人届出書」(関税法第95条第1項に基づく様式)を提出します。この書類には、非居住者の情報、選任する管理人の情報、及び委任する事務の範囲を正確に記載します。
(2)届出先
原則として、輸出入申告を行う場所を所轄する税関に提出します。複数の税関(例えば成田、横浜、大阪など)で申告を行う場合は、主たる申告地、または複数の税関を統括する形式での届出が検討されます。
【税関事務管理人の選任フロー】
1.非居住者による管理人の選定
(適格性の確認、委任内容の合意)
↓
2.委任契約の締結
(責任範囲、費用、期間等の明文化)
↓
3.税関事務管理人届出書の作成
(所定の様式に記入)
↓
4.税関への届出
(輸入申告の前に完了させる必要がある)
↓
5.税関事務管理人の登録完了
(税関システムへの登録)
↓
6.輸入申告の開始
(管理人の名義を含めた申告の実施)
7 税関事務管理人を選任しない場合のリスク
非居住者が管理人を選任せずに輸出入を強行しようとした場合、あるいは選任命令に従わない場合には、以下のような不利益が生じます。
(1)輸入許可の遅延・却下
税関長は、管理人の届出がないことを理由に、申告を保留したり、審査をストップさせたりすることが可能です。その結果、貨物が保税地域に留まり続け、多額の保管料が発生する恐れがあります。
(2)書類が届かないことによる不利益
税関からの修正申告の勧奨や更正通知が、日本国内の受領者不在により適切に処理されない場合、非居住者側が異議申し立てを行う機会を逸したり、延滞税が累増したりするリスクがあります。
(3)コンプライアンス上の懸念
税関事務管理人の不在は、日本の法令を軽視しているとの印象を与えかねません。これは、将来的な事後調査の対象に選ばれやすくなる、あるいは検査頻度が上がるといったマイナスの影響を及ぼす可能性があります。
8 消費税法における納税管理人との関係
注意が必要なのは、関税法上の「税関事務管理人」と、消費税法上の「納税管理人」は異なる概念であるという点です。
日本の消費税法でも、日本に拠点を置かない事業者が納税義務を負う場合、納税管理人を選任する必要があります。輸入時の消費税については税関事務管理人が対応しますが、国内販売後の消費税の確定申告については納税管理人が担当します。実務上、これら二つの役割を一箇所の専門家に委ねることで、情報の食い違いを防ぎ、一貫した税務対応が可能となります。
9 弁護士へのご相談をご希望の方へ
税関事務管理人制度は、単なる手続代行ではありません。日本国内での法的責任を非居住者に代わって引き受けるという、高度な法的リスク管理が求められる業務です。特に、海外企業が日本でビジネスを展開する際には、関税法のみならず、会社法、税法、民法といった日本の法律体系全体を俯瞰した対応が不可欠です。
当事務所は、代表弁護士が通関士資格を併せ持っており、輸出入に関わる法的トラブルや制度運用に関する唯一無二の専門性を有しております。弁護士に相談すべきかどうか、迷われる状況こそが、法的なリスクが潜んでいるサインかもしれません。
以下のようなケースでお困りの際は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。
・日本でのビジネス開始にあたり、信頼できる税関事務管理人を探している
・管理人の業務範囲や契約内容について、法的なアドバイスが欲しい
・非居住者として輸入を行った後、税関から指摘を受け、対応に苦慮している
・関税の評価申告や、ロイヤリティの加算額について税関と見解が分かれている
当事務所にご相談いただくことで、不慣れな日本の法体系の中でも、安心して事業を推進できる環境を整えるお手伝いをいたします。お悩みをご相談いただくことで、解決への糸口が見つかるだけでなく、将来的な法的リスクを未然に防ぐことが可能です。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、さらには税関事後調査への備えや税関対応等でお困りの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。貴社のグローバル展開を、法的な側面から全力でバックアップいたします。
10 まとめ
税関事務管理人制度は、非居住者が日本で健全な貿易活動を行うための架け橋となる制度です。関税法第95条の規定を遵守し、適切な管理人を選任することは、ビジネスの成功に向けた不可欠なステップといえます。
管理人には、申告から検査立ち会い、書類受領、納税まで、多岐にわたる重責が課せられます。単なる代行業者ではなく、日本の法令を熟知し、貴社のパートナーとして機能する専門家を選ぶことが、安定した輸入ビジネスの鍵となります。
本記事で解説した内容が、海外企業の皆様や、そのサポートを行う担当者の皆様にとって、一助となれば幸いです。貿易実務の壁に直面した際は、専門家への相談を検討することを強くお勧めいたします。
税関事務管理人制度のポイント再確認
・非居住者が日本で輸出入を行う際に選任が必要な代理人
・関税法第95条を法的根拠とする制度
・選任した旨を所轄税関長に届け出なければならない
・税務、検査立ち会い、書類受領等の広範な事務を代理する
・適切な選任は、円滑な通関とリスク回避に直結する
適正な制度運用を通じて、透明性の高い国際貿易を実現していきましょう
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

