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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスを営む上で最も避けるべき深刻な事態の一つである、税関による重加算税の賦課について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、法令遵守がいかに重要であるかを示す典型的な局面が示されています。
【相談者】
東京都内で海外製高級ブランド品の輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は長年、欧州のサプライヤーから高級ハンドバッグやアクセサリーを輸入し、国内の店舗へ販売しております。近年の円安による仕入れ価格の高騰に苦しみ、B氏は少しでも納税額を抑えたいという誘惑に駆られました。具体的には、輸出者から送られてくる正規のインボイスの価格を、画像編集ソフトを使用して実際の取引価格の七割程度に書き換え、その偽造した書類を基に通関業者へ輸入申告を依頼しました。通関は問題なく許可されましたが、先日、税関から輸入事後調査の通知が届きました。調査官は銀行の送金記録とインボイスの価格の不整合を鋭く追及しており、B氏は自らの行為が隠蔽又は仮装に該当し、重加算税を課されるのではないかと極度の不安に陥っています。もし重加算税が課された場合、金額的な不利益だけでなく、今後の事業継続にどのような影響が出るのでしょうか。また、意図的な改ざんが認められた場合、刑事事件に発展する恐れはあるのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、輸入ビジネスに従事するすべての事業者にとって、極めて深刻な法的リスクを孕んでいます。輸入を事業として行っている場合には、税関による輸入事後調査の実施は避けて通れない制度として存在します。輸入申告が適切に行われている場合には問題ありませんが、不適切な輸入申告を行っている場合には過少申告加算税や、重加算税が課される場合もありますので、十分注意が必要です。本日は、税関が公表している重加算税が賦課されたケースをご紹介しながら、その法的な重みと対策について解説いたします。
1 重加算税が賦課された具体的なケース
税関の事後調査において、単なる過失による計算ミスや解釈の誤りを超えて、悪質な意図が認められた場合には重加算税が賦課されます。以下に代表的な二つの事例を挙げます。
(一)輸入者が自らインボイスを改ざんしたケース
輸入者は、正規の価格が記載されたインボイスをもとに、自ら正規の価格よりも低い価格に書き換えたインボイスを作成し、課税価格の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装して、当該インボイスに基づき申告しました。このケースでは、輸入者が能動的に証拠書類を偽造しており、極めて悪質性が高いと判断されます。輸入事後調査によって発覚した結果、不足税額は1,846万円、そのうち重加算税として256万円が課されました。
(二)輸入者が輸出者と通謀して虚偽のインボイスを作成したケース
輸入者は、輸入申告前に正規の価格を認識していましたが、輸出者と通謀して、取引価格よりも低い価格を記載した虚偽のインボイスを輸出者に作成させ、課税価格の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装して、当該インボイスに基づき申告しました。いわゆる「アンダーバリュー」と呼ばれる行為を組織的に行った事例です。輸入事後調査によって発覚した結果、不足税額は561万円、そのうち重加算税として142万円が課されました。
なお、重加算税は、単なる記載ミスである場合には課されることはありません。隠蔽又は仮装により、納税申告をしない又は間違った納税申告を行った場合に課されることになります。
2 重加算税の法的根拠とその重み
重加算税の賦課基準は、関税法第十二条の四に明確に規定されています。
第一項 納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
(中略)
第三項 第一項又は第二項の規定に該当する場合において、前条第一項(無申告加算税)に規定する納税申告書の提出が、その提出期限までになかつたことについて正当な理由がないときは、第一項又は第二項に規定する重加算税の額に、百分の十の割合を乗じて計算した金額をさらに加算するものとする。
このように、通常の過少申告加算税が十パーセント(一定の場合十五パーセント)であるのに対し、重加算税は三十五パーセント(無申告の場合は四十パーセント)という極めて高い税率が適用されます。さらに、過去五年前から現在までの間に、同一の税目について重加算税を課されたことがあるなど、繰り返して不正を行った場合には、さらに十パーセントが加算されるというペナルティも存在します。
3 隠蔽又は仮装の定義と実務的な判断基準
重加算税を賦課するためには、税関側が輸入者の行為を「隠蔽又は仮装」に該当すると証明する必要があります。
隠蔽とは、課税の基礎となる事実を隠し、あるいは証拠となる書類を破棄・隠匿する行為を指します。
仮装とは、存在しない事実を存在するように見せかけたり、実際の事実とは異なる外形を意図的に作り出したりする行為、例えば二重のインボイスの作成や、架空の契約書の作成などがこれに当たります。
実務上、税関の調査官は、輸入者のパソコン内のメール履歴、海外送金に使用された銀行口座の動き、さらに輸出者側が自国で申告した輸出価格との照合など、多角的な手法を用いてこれらの証拠を収集します。2026年現在の高度なデジタル捜査環境においては、削除したはずのデータや、海外との秘密のやり取りを完全に隠し通すことは実質的に不可能です。
4 輸入事後調査には十分注意が必要です
輸入事後調査は、適正な輸入申告が行われていたかどうかを事後的に調査されるものですが、輸入事業者の多くは、迅速に輸入することが中心的な興味・関心であり、輸入許可が下りている以上は問題ないものと考えてしまっているケースが多くあり、調査の結果予想以上の追徴税額が課される可能性もあります。
知らなかった、よくわからなかった、輸入申告の際に指摘してもらえれば適切に行った、等の反論をしたとしても、法的には意味がなく、輸入事後調査でこのような事態を回避するためには適切に輸入申告を行うことが何よりも重要です。
輸入申告においては、思わぬ費用を課税価格に加算する必要がある等、なかなか正確に把握することが困難な部分もあります。例えば、関税定率法第四条で規定されている「加算要素」が代表的です。
第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。
一 当該輸入貨物の輸入港までの運賃及び保険料。
二 当該輸入貨物に係る輸入取引に関し買手により負担される仲介料その他の手数料。
三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により直接又は間接に、無償で、又は値引きして提供された次に掲げる物品又は役務の費用(中略)金型、原材料等。
四 当該輸入貨物に係る特許権、意匠権、商標権の使用の対価として買手により支払われる費用。
これらの費用を意図的にインボイスから除外して申告することは、たとえ輸出者との合意があったとしても、重加算税の対象となる「仮装」とみなされるリスクが非常に高いのです。
5 輸入者が構築すべき実務管理表
輸入事後調査を乗り切り、重加算税のリスクをゼロにするためには、日常的な文書管理と申告精度の向上が不可欠です。以下に、管理すべき主要項目を整理した実務表を掲載いたします。
【輸入取引適正化・文書管理チェックリスト】
確認項目|具体的な管理内容|法的な重要性
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現実支払価格の確認|銀行の送金総額とインボイス価格が一致しているか|関税定率法第四条第一項
加算要素の有無|ロイヤリティや金型代を別途支払っていないか|関税定率法第四条第一項各号
インボイスの真正性|輸出者が発行した正規の原本をそのまま使用しているか|関税法第十二条の四(隠蔽仮装)
電子データの保存|メール、チャット、送金履歴を七年間保存しているか|電子帳簿保存法、関税法第九十四条
通関業者への指示|すべての取引条件を正確に通関業者に共有しているか|輸入者の納税義務
自主点検の実施|年に一度、過去の申告内容を再確認しているか|修正申告による加算税軽減
6 不適切な申告がもたらすビジネス上の二次被害
重加算税の賦課は、金銭的な損失だけに留まりません。B氏が懸念している通り、企業としての存続に関わる重大な悪影響を及ぼします。
一 社会的信用の失墜
税関による重加算税の賦課事例は、統計資料として公表されるほか、悪質な場合は社名が報道されることもあります。これにより、取引先からの契約解除や、金融機関からの融資停止を招く恐れがあります。
二 全件検査の対象
一度重加算税を課された事業者は、税関のシステム上で「要注意先」として登録されます。その後の輸入において、通常であれば簡易的に許可される貨物であっても、毎回現品検査が行われるようになり、納期の遅延や保管料の増大など、物流のスピードが著しく低下します。
三 AEO認定の剥奪
特定輸入者(AEO)などの優遇措置を受けている場合、その認定は即座に剥奪されます。信頼の回復には数年、あるいはそれ以上の期間が必要となります。
四 刑事告発のリスク
不足税額が多額である場合や、隠蔽工作が組織的で巧妙な場合、税関長は犯則事件として検察官に告発する義務を負います。
刑事罰として懲役刑や、法人に対する多額の罰金が科されることになれば、企業の再起は極めて困難となります。
7 専門家による法的防御とコンプライアンス支援
輸入を事業として行う以上は避けて通れない調査ですので、輸入手続や申告価格の計算方法について不安な点がある場合には、まずは専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、代表弁護士が通関士資格を併せ持つ強みを活かし、法務と実務の双方向から強力なバックアップを提供しております。
具体的サポートの内容
(一)輸入取引スキームのリーガルチェック
新しい取引を開始する際、その価格構成や加算要素の有無を事前に診断し、適正な申告方法を助言いたします。
(二)内部輸出入管理規定(ICP)の策定
社内の業務フローを可視化し、担当者による不正やミスを防止するための仕組み作りを支援いたします。
(三)税関事後調査への立ち会い
調査の通知が届いた段階から介入し、資料の整理、調査官への法的な説明、不当な指摘に対する抗弁など、一気通貫で対応いたします。
(四)自主的な修正申告の代理
税関の調査が入る前に自ら誤りを発見し、修正申告を行うことで、重加算税の賦課を回避し、過少申告加算税の負担を軽減させる戦略的な対応を行います。
8 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入事後調査における重加算税の賦課事例と、その背後にある厳格な法規制について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、早期に専門家のアドバイスを受け、誠実な対応に切り替えることで、最悪の結果を回避できる可能性があります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

