輸入取引における貨物の積卸しと諸手続

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引により日本に貨物を持ち込んだ場合の、貨物の積卸しに関する法的手続についてご説明いたします。まずは、当事務所に寄せられた、港湾における積卸し作業にまつわる相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

静岡県内の港を拠点に、海外からの輸入資材の受け入れを行っている株式会社S物流 港湾管理部長S氏

【相談内容】

「当社が手配した外国貿易船が、悪天候の影響で予定よりも大幅に遅れて横浜港に入港することになりました。到着は日曜日の夜間になる見込みですが、荷主からは月曜日の朝一番での納品を強く求められています。S氏は、すぐに荷役業者を手配して積卸し作業を開始したいと考えていますが、税関の開庁時間外であることや、今回の積荷の中には最終的な仕向け地が日本ではない、船繰りのための仮の陸揚げ貨物も含まれていることから、どのような手続を優先すべきか混乱しています。とにかく早く荷物を下ろしたいのですが、事前の報告や届け出を怠ると、どのような法的リスクがあるのでしょうか。」

このような事例は、分刻みのスケジュールで動く国際物流の現場では日常的に発生します。しかし、焦りから手続を省略してしまうと、関税法違反として厳しい罰則や、その後の入港制限を受けることになりかねません。

1 貨物の積卸しにおける原則と手続

開港に入港した外国貿易船に貨物の積卸しをする場合には、税関に対して厳格な手続をとる必要があります。これは、日本国内に不法に貨物が流入することを防ぎ、かつ適正な関税の徴収を担保するための基本的なルールです。

外国貿易船に対する貨物の積卸しは、税関に対して積荷に関する事項について報告がない場合にはしてはなりません。これは関税法第16条に規定されています。

関税法第16条第1項

外国貿易船等に貨物を積み、又は卸そうとする者は、税関長に対し、その積荷に関する事項を報告しなければならない。ただし、旅客及び乗組員の携帯品、郵便物及び船用品については、この限りでない。

この条文にある報告とは、実務上、積荷目録(マニフェスト)の提出を指します。誰が、何を、どれだけ積んでいるのかを税関が把握する前に、勝手に貨物を動かすことは法律で禁じられているのです。

ただし、旅客及び乗組員の携帯品、郵便物及び船用品については、その性質上迅速な処理を要するとともに、一般の貨物とは同様に取り扱うことが不適当であるので、上記の報告前であっても、その積卸しができます(関税法第16条第1項ただし書き)。これは、国際的な人の移動や船の運行に支障をきたさないための合理的な配慮です。

2 開庁時間外における貨物の積卸しの届出

冒頭の相談事例のように、夜間や休日など、通常の税関官署の開庁時間外に作業を行う場合には、別途の手続が必要となります。

関税法第19条(開庁時間外における貨物の積卸し等の届出)

税関官署の開庁時間以外の時間において、外国貿易船等に外国貨物を積み、若しくは卸し、又は外国貨物を保税地域に入れ、若しくは保税地域から出すこと(中略)をしようとする者は、あらかじめ、その旨を税関長に届け出なければならない。

この規定は、税関による監視体制が手薄になる時間帯においても、貨物の動きを透明化するためのものです。届出を行わずに作業を強行すると、密輸等の疑いをかけられるだけでなく、届出義務違反として処罰の対象となります。現代の物流では、24時間稼働の港も多いですが、法律上の届出義務が免除されているわけではない点に注意が必要です。

3 外国貨物の仮陸揚げの届出と法的性質

船内の荷繰りや、他国へ向かう貨物の一次保管などのために、本来の目的地ではない場所で貨物を一時的に下ろすことがあります。これを仮陸揚げと呼びます。

外国貨物を船積み、荷繰り等やむを得ない事由によって、本来目的とした陸揚地以外の場所に仮陸揚げする場合には、船長は、あらかじめ税関に届け出なければなりません(関税法第21条)。

この届出があることにより、税関はその貨物が日本国内へ輸入されるものではなく、一時的な滞留であることを把握し、不必要な輸入手続の督促を行わずに済みます。

また、仮陸揚げした貨物は外国貨物であるが、船積み、荷繰り等の都合により一時陸揚げされたものであるので、その貨物が外国に向けて送り出されることがあるとしても、外国為替及び外国貿易法第48条第1項の規定による許可を受けなければならないものを除き、関税法では輸出又は積戻しとしては取扱わないこととされております(関税法第2条第1項第2号、第21条、第75条)。

これは、仮陸揚げ貨物が日本の領土内に物理的に存在するものの、経済的には日本を通過しているに過ぎないという実態を法的に整理したものです。ただし、外為法で規定される戦略物資等に該当する場合は、たとえ仮陸揚げであっても別途の許可が必要となるため、法務部門による多角的なチェックが欠かせません。

4 実務で活用できる港湾手続の管理表

積卸し作業を適正に進めるために、企業が確認すべきポイントを以下の表にまとめました。

【港湾積卸し手続の実務チェック表】

確認項目|具体的な内容|

積荷報告の完了|マニフェストは正確に提出されているか|

例外貨物の特定|郵便物や船用品のみの積卸しではないか|

作業時間の確認|夜間や休日(開庁時間外)に該当しないか|

時間外届出の提出|開庁時間外作業の届出は受理されているか|

仮陸揚げの有無|目的外の場所に一次陸揚げする貨物はないか|

他法令の適合性|外為法の許可を要する特定貨物ではないか|

5 手続違反に対する法的リスクと社会的制裁

関税法における手続規定は、単なる事務的なルールではありません。これらに違反した場合、刑事罰(関税法114条参照)の他、企業は極めて大きなダメージを負うことになります。

(1)附帯税や過料の発生

不適切な手続により貨物の動きが把握できなくなった結果、申告漏れが生じた場合には、過少申告加算税や無申告加算税が課されます。また、手続自体の遅延や懈怠に対しても、過料等の行政罰が科されることがあります。

(2)通関手続の遅延とコスト増

税関からの信頼を失うと、その後の輸入申告において、通常よりも厳格かつ長時間の検査が行われるようになります。これにより、船の滞船料(デマレッジ)や保管料が膨らみ、企業の利益を直接的に圧迫します。

(3)企業の社会的信頼の失墜

コンプライアンスを重視する現代のビジネス環境において、関税法違反の事実は、取引先や金融機関からの評価を著しく低下させます。特にAEO(認定事業者)の資格取得を目指す企業にとっては、致命的な打撃となり得ます。

6 専門家としての視点と実務上のアドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

港湾手続におけるリスクを回避するためのアドバイスを3点申し上げます。

①船会社や荷役業者との「早期の情報共有」です。船の到着予定が変更になった際、即座に税関への届出準備ができるよう、連絡体制を多重化しておく必要があります。冒頭のS氏の事例でも、到着の数時間前までに届出を完了させていれば、日曜日の夜間でも法的に正当な作業が可能でした。

②デジタルツールの活用です。現在はNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)を通じて、電子的な報告や届出が可能です。このシステムを熟知し、迅速に操作できる人員を確保することが、リードタイム短縮とコンプライアンス維持の両立に不可欠です。

③例外規定の範囲を正確に理解することです。船用品や機用品の取り扱いについては、一般貨物とは異なる緩和措置がある一方で、その定義を誤ると無許可積卸しとみなされる危険があります。これらについては、定期的には通関士や弁護士による監査を受けるべきです。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、港湾での積卸しから、その後の通関申告、さらには他法令との整合性確認まで、一貫したリーガルサービスを提供することが可能です。

8 まとめ:適正な港湾実務がグローバルサプライチェーンを支える

貨物の積卸しは、輸入取引という長いプロセスの入り口にあたります。この段階で適正な手続を踏むことが、その後の通関をスムーズにし、最終的な納品までのリードタイムを最短化するための唯一の鍵となります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法的知識を持ち、一つひとつの手続を誠実に実行することが、貴社の物流の信頼性を高め、国際競争力を強化することに繋がります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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