輸入貨物の再販売収益と関税評価

1 はじめに―相談事例

輸入ビジネスにおけるコスト計算において、関税の算出基礎となる課税価格の決定は極めて重要なプロセスです。単に仕入書に記載された金額を申告すれば済むわけではなく、取引の形態によっては、後日売手に支払う金銭が課税価格に加算される場合があります。まずは、当事務所に寄せられる具体的な相談事例を想定してみましょう。

【相談者】

海外ブランド家電の輸入代理店 Q社 財務部長

【相談内容】

「当社は現在、北欧の家電メーカーから最新式の調理器具を独占的に輸入し、国内で販売しております。メーカーとの契約では、輸入時の仕入価格を抑える代わりに、国内での販売後に得られた純利益の20%を、ロイヤリティとは別の名目で、毎年度末にメーカーへ送金する合意をしております。 先日、税関から事後調査の連絡があり、この『利益の送金』が関税の課税価格に加算されるべき『帰属収益』に該当するのではないかと指摘を受けました。当社としては、これはあくまで事業の成果を分配する配当のような性質のものであり、個々の貨物の輸入価格とは無関係だと考えております。 もしこれが加算対象となった場合、過去数年分に遡って多額の関税と加算税を支払わなければならないのでしょうか。法的な観点から、どのような場合に再販売収益が課税価格に含まれるのか、詳しく教えてください」

このような取引形態は、海外の親会社と子会社の間や、強力な提携関係にある企業間で見られますが、関税評価上は非常に慎重な判断が求められます。

2 関税評価の基本原則と課税価格の決定

関税を算出するための基礎となる価格を課税価格と呼びます。この課税価格の決定原則については、関税定率法第4条第1項に定められております。

関税定率法第4条第1項(輸入貨物の課税価格の決定の原則)

「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときの価格(以下この条において「取引価格」という。)による。この場合において、取引価格とは、当該輸入貨物の輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手の利益のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格をいう」

この規定にある通り、実際に支払った価格だけでなく、特定の要素(加算要素)を足し合わせたものが最終的な課税価格となります。本日のテーマである再販売収益は、この加算要素の一つとして、同項第5号に規定されております。

3 再販売収益(売手に帰属する収益)の法的定義

輸入貨物を国内で処分または使用したことによって得られる利益のうち、売手に還流するものは、実質的な貨物代金の一部とみなされます。

(1)関税定率法第4条第1項第5号の規定

「当該輸入貨物の処分又は使用による収益で直接又は間接に売手に帰属するもの」

(2)関税定率法基本通達4-14による具体的な解釈

この「処分又は使用による収益」の内容については、基本通達においてさらに具体的に定義されております。

関税定率法基本通達4-14(売手に帰属する収益)

「法第4条第1項第5号に規定する「輸入貨物の処分又は使用による収益」とは、当該輸入貨物の再販売その他の処分又は使用によつて得られる売上代金、賃貸料、加工賃等を構成するものをいう」

つまり、輸入した貨物そのものを売ったり、貸したり、あるいはそれを使って加工を行ったりして得られた対価から、一定の割合や金額を売手に支払う場合、それは貨物の価値の一部として関税の対象となります。

4 配当金と再販売収益の区別-実質判断の重要性

輸入者が売手に対して金銭を支払う際、それが「純粋な利益の分配(配当金)」なのか、それとも「貨物の処分による収益の帰属」なのかを区別することが実務上の最大の争点となります。

(1)原則としての配当金

一般的に、買手が売手の出資を受けている子会社である場合、年度末に利益の中から配当金を支払うことがあります。この配当金自体は、特定の貨物の輸入取引に対する対価ではないため、原則として課税価格に加算する必要はありません。

(2)加算不要とされるケースの例

例えば、買手と売手が共同で事業を行っており、毎会計年度末に、買手の当期純利益の50%を売手側に配当するという場合です。この場合、配当金の支払いは買手の全体的な事業活動の結果によるものであり、輸入貨物の再販売という個別の行為と直接結びついているわけではありません。したがって、これは輸入貨物の処分により得られる収益には該当せず、加算の対象外となります。

(3)注意すべき実質的判断

しかし、税関は形式的な名目(勘定科目)だけで判断することはありません。たとえ「配当金」や「経営指導料」といった名称で支払われていても、その算出根拠が「輸入貨物の販売数量」や「輸入貨物の売上高」に連動している場合は、実質的に再販売収益の帰属であるとみなされ、加算要素として扱われます。

5 実務における判断基準とチェックリスト

再販売収益が課税価格に加算されるべきかどうかを判断するためのポイントを整理いたします。

【売手に帰属する収益の該否判断基準一覧】

|判断ポイント|加算対象となる可能性が高いケース|加算対象とならない可能性が高いケース|

|計算の基礎|輸入貨物の売上高や販売個数に連動している|全社的な当期純利益に基づき決定される|

|支払いの名目|ロイヤリティ、売上分配金、成功報酬等|資本政策に基づく正当な配当金、利息|

|支払いの時期|貨物の販売の都度、または四半期ごと等|決算確定後の定時株主総会決議に基づく支払い|

|契約の存在|個別の輸入契約に付随して合意されている|株主間協定や寄附行為、資本提携に基づく|

|実質的な性質|貨物の仕入価格を低く抑える補填となっている|輸入取引とは独立した投資リターンである|

6 移転価格税制との関連性

輸入貨物の価格決定においては、関税評価だけでなく、法人税法上の「移転価格税制」との整合性も問題となります。 国税当局が「輸入価格が高すぎる(利益を海外に移転している)」と指摘する一方で、税関当局が「輸入価格が低すぎる(関税を免れている)」と指摘する事態が起こり得ます。年度末に行われる利益の調整(利益調整金)が、再販売収益の帰属とみなされるケースが増えており、グローバル企業にとっては極めて複雑な法務課題となっております。

7 事後調査におけるリスクとペナルティ

再販売収益の加算漏れが税関事後調査で発覚した場合、以下のような不利益が生じます。

(1)不足関税及び消費税の追徴

加算されるべきであった金額に相当する関税と輸入消費税を支払わなければなりません。

(2)過少申告加算税の賦課

申告が不十分であったことに対するペナルティとして、原則として不足税額の10%(一定額を超える部分は15%)の加算税が課されます。

(3)延滞税の発生

輸入許可の日の翌日から納付の日までの期間に応じた延滞税が課されます。期間が長いほど、負担は重くなります。

(4)重加算税のリスク

もし、再販売収益であることを隠蔽するために、意図的に別の名目で送金していたとみなされた場合、35%という極めて重い重加算税が課されることになります。

8 評価申告制度の活用

将来的に支払うべき収益の額が輸入申告の時点で確定していない場合、どのように対応すべきでしょうか。この場合、「評価申告制度」を活用することが実務上の正解です。

(1)個別評価申告

輸入申告ごとに、暫定的な価格で申告を行い、後に収益の額が確定した段階で修正申告を行う方法です。

(2)包括評価申告

特定の売手との継続的な取引について、あらかじめ税関長に対して課税価格の計算方法を届け出て、承認を受ける制度です。これを適切に行っていれば、事後調査で「加算漏れ」を指摘されるリスクを劇的に低く抑えることができます。

9 図解による課税価格の計算構成

再販売収益がどのように課税価格に組み込まれるかを視覚化いたします。

【再販売収益を含む課税価格の算出フロー】

1.現実支払価格(仕入書記載の価格) (例:1個あたり10000円)

2.加算要素(関税定率法第4条第1項第1号~第4号) (運賃、保険料、仲介手数料、容器・包装費、無償供与資材、特許権使用料等)

3.売手に帰属する収益(第5号) (例:国内販売価格の5%を後日送金する契約がある場合のその金額)

4.課税価格 (この合算額に税率を乗じて関税額を決定)

10 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入貨物の再販売収益に関する関税評価は、契約書の文言一つで結論が大きく変わる繊細な分野です。単に「配当金だから大丈夫」という主観的な判断は、税関のプロフェッショナルな調査の前では通用しないことがあります。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から、貴社の取引が関税法上どのように評価されるかを専門的に分析することが可能です。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。

・海外メーカーとのライセンス契約や代理店契約における、関税評価上のリスク診断

・税関事後調査において「帰属収益」の指摘を受けた際の、論理的な反論資料の作成

・包括評価申告書の作成及び税関との事前相談の代理

・移転価格税制との整合性を考慮した、最適な輸入価格スキームの構築アドバイス

お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しが立ち、不安の解消につながることも多々あります。特に関税評価の問題は、一度税関の指摘を受けてしまうと、過去数年分の取引すべてに影響が及ぶため、早めの対策が不可欠です。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

11 まとめ

本日は、輸入貨物の再販売収益を売手に交付する場合の課税価格の考え方について解説いたしました。

関税定率法第4条第1項第5号が定める「売手に帰属する収益」は、現実支払価格に含まれていない取引上の価値を補完する重要な加算要素です。形式的な配当金であっても、その実態が輸入貨物の処分と密接に結びついているならば、課税価格に算入しなければなりません。

正しい知識を持って取引スキームを点検し、必要に応じて評価申告制度を利用することは、企業のコンプライアンス維持と、無駄な追徴税額を回避するための賢明な選択です。

本記事の解説が、読者の皆様の輸入実務における一助となれば幸いです。複雑な契約形態や価格調整を行っている場合は、一人で悩まずに、専門的な知見を持つ弁護士へ相談することをお勧めいたします。

帰属収益に関する重要事項の再確認 ・輸入貨物の再販売等の収益を売手に返す場合は加算要素となること ・関税定率法第4条第1項第5号がその根拠規定であること ・名目が配当金であっても実質が貨物代金なら加算が必要であること ・包括評価申告制度を適切に活用してリスクをヘッジすること ・事後調査では契約書だけでなく実際の送金フローが厳しく見られること

適正な申告と納税を通じて、健全で透明性の高い国際ビジネスを実現していきましょう。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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