「うちの会社では昔からこういう風にしているから」、は非常に危険です!

「うちの会社では昔からこういう風にしているから」として、従業員に対して、労働契約や就業規則等で明示されていない取り扱いを行っていませんか。
労働慣行として認められるものであれば問題ありませんが、そうでない場合には、使用者側にとっては大きなリスクを伴う行為と言えますので、早急に取り扱いを見直す必要があります。

本日は、このような労働慣行の概要について、ご説明いたします。
そもそも、労働慣行とは、当該分野の企業一般において、又は当該企業の中で、事実上の制度や取扱いとなってそれが労使間において当然に認められ規範化している一定の事実のことをいいます。労働慣行としての規範が認められるためのハードルは高く、その運用は慎重に行う必要があります。

 

1 労働慣行の成立要件

具体的な労働慣行の成立のための要件は、国鉄池袋電車区事件(東京地判昭和63年2月24日)等の裁判例で判示されております。裁判例で判示された内容を整理いたしますと、以下の①から④のとおりです。
①ある事実上の取扱いや制度と思われるものが反復継続して行われており、特別なことがなければそれによるという形で定着していること。
②その取扱いや制度を一般従業員が認識していること。
③就業規則の制定変更権限のある使用者が、明示又は黙示的にその取扱いや制度を是認していること。
④労使ともにそれに従って処理・処遇をしており事実上のルール化をしていること。

 

2 労働慣行の代表例

裁判例上、労働慣行と認められたものの代表的な例としては、以下のものがあります。
①退職金規程はないが、従来繰り返し退職金を従業員に対して支払っていた事案で、その給付内容として、退職者に対して、基本給と諸手当に勤続年数を乗じた額を退職金として支給するという旨の労働慣行を認めた(宍戸商会事件(東京地判昭和48年2月27日(労経速807・12)))。
②55歳定年退職制を定めているが、実際には定年退職扱いとはせずに、引き続き特段の欠格事由がない限り、従業員を直ちに嘱託として再雇用することが常態となっていた事案において、当該再雇用制度を労働慣行として認めた(大栄交通事件(東京高判昭和50・7・27(判例時報798・89)))。

 

以上が、労働慣行の概要となります。
繰り返しとなりますが、労働慣行が認められるためのハードルは高いですので、安易に労働慣行として成立しているとして運用するのではなく、上記1の要件に照らして本当に労働慣行として認められるかどうかを慎重に検討し判断していく必要があります。
当事者の立場ではなかなか客観的に判断することが難しい場合も多いものと思われますので、労働慣行の成立に関してご不安な点や不明確な点等がある場合には、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

 

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