問題行動を起こした従業員に対して懲戒処分(特に懲戒解雇)を行うかどうかを検討している最中に、当該従業員から自主的な退職願が提出された場合に、企業としては、退職願を受理せずに、懲戒解雇を行うことが可能かどうかが問題となることがあります。
この点についての考え方を以下ではご紹介いたしますので、ご参照いただけますと幸いです。
1 退職願を出した従業員に対する懲戒解雇の可否
退職願を出した従業員に対して懲戒解雇を行う場合には、以下の以下の2点に注意する必要があります。
(1)退職願が提出された場合、企業側がその承認を拒否したとしても、労使間での特約がない限り、原則として2週間を経過した時に雇用契約は終了し、自動的に退職の法的効果が発生します(民法627条1項)。
そこで、この期間を経過して懲戒処分をしたとしても、当該従業員に対する懲戒処分として無効となってしまいます。
そのため、企業としては当該2週間という期間内に従業員に対して懲戒処分を行う必要があります。
もちろん当該従業員の同意があれば、退職日を延期させることは可能ですが、応じるかどうかは不明確であり、通常、このような場合に退職日の延期に応じる従業員は少ないものと思われます。
(2)退職願の提出があったということは、自ら会社を去ることの意思表示をしたということですので、この点は懲戒処分を検討する場合に、一種の情状酌量事由として重要となります。
裁判例(昭和41・8・24東京地決 東洋化研事件)では、懲戒に該当する非行をした従業員がすでに退職の意思表示をしているにもかかわらず、あえてこれを懲戒解雇するについては、その非行が当該従業員の多年の勤続の功を抹殺してしまう程度に重大なものであって、そうすることが被告会社の規律の維持上やむを得ない場合であることを要する、と判示しました。
当該裁判例の判示は、他の事案に応じても十分参考となるものと考えられます。
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