昨今の社会情勢の下、企業から、経営悪化に伴い採用内定を取消さざるを得ない状況にあるが、どのような場合に採用内定の取消しを行うことができるのか、といった相談をいただくことがあります。
そこで、本日は、採用内定の取消しに関して、ご説明いたします。
このページの目次
1 採用内定の法的性質
採用内定は、通常は始期付解約権留保付の労働契約と考えられますが、企業は無制約に解約権を行使することができるわけではなく、内定を取消す場合には、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるものであることが必要であると考えられております。
2 採用内定の取消し
企業による解約権行使が適法であるか否かについて、裁判所は、企業による採用内定の取消しを厳格に判断する傾向にあります。
例えば、裁判例を見ますと、経営悪化を理由とする採用内定取消しに関しては、単に経営状態が悪化したというだけでは足りず、企業の経営悪化が新規採用を困難とするような状態であり、かつ、内定当時予測できなかった要因によるものであることまで求められる場合もあります。また、このような経営悪化を理由とする採用内定の取消しの場合は、整理解雇に準じたものと捉えられ、整理解雇の有効性を判断するための4要素(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、人選の合理性、及び手続の妥当性)が判断基準として採用されることとなります。
3 採用内定取消しに対する行政の取組
職業安定法施行規則では、企業は、採用内定取消しを実施した場合に、ハローワークに一定の事項を通知する必要がある他、2年以上連続して内定取消しを行ったなど厚生労働大臣が指定する一定の内容に該当した企業名を公表することができる、と規定されております(同17条の4、35条2項)。
そのため、企業が採用内定を取消す場合には、このような行政側の取組に関しても注意をする必要があります。
以上、採用内定の取消しの概要をご紹介いたしました。
内定段階であれば、簡単に取消すことができると考えている方もいらっしゃいますが、上記のとおり、採用内定取消しには高いハードルがありますので、安易に考えるのは非常に危険であり、採用内定取消しを実施する場合には、専門家への相談も含めて慎重に検討、対応する必要があります。
当事務所では、労働問題・トラブルの予防策から、実際に生じた問題・トラブルへの対応まで、幅広く取り扱っておりますので、採用内定の取消しに関して、不安や悩みがある方、お困りのことがある方は、お気軽にご相談ください。