秘密保持契約では、秘密保持条項の定義を具体的に記載した上で、秘密保持義務の射程外、すなわち、例外的に開示が許容される場合を規定することが通常です。
例えば、開示時点で既に公知の事実や、弁護士や会計士等の法律上秘密保持義務を負う専門家への開示や、また、裁判所や官公庁からの開示要請その他法令に基づく場合等を指します。
本日は、このうち、公知の事実の該当性に関して争いとなった裁判例を紹介します。
1 カードシステム事件(LLI/DB 判例秘書登載)
事案の概要としては、特定の小売店へのカードシステム導入のために、原告が被告に対してカードシステムに関する技術情報を開示したところ、被告が他の小売店にも当該技術を使用したカードシステムを利用させたことが、原告と被告間の秘密保持契約に違反しているのではないかが問題となったものです。
結論としては、秘密保持契約には「相手方から開示を受けまたは知得した際にすでに公知または公用の情報」は秘密保持義務から除外される旨の規定があるところ、「公知または公用の情報」を秘密情報から除外した趣旨は、契約当事者以外の第三者が現に知りまたは容易に知り得る情報の開示を禁止しても実益がないことに加え、そのような情報まで秘密保持義務の対象とすると契約当事者に過大な負担を課すことになるためであると認定した上で、その情報が全体として公然と知られまたは公然と実施されている情報を組み合わせることによって容易に相到し得る情報も含まれる、と判断しました。
上記裁判例は、形式的には秘密保持義務違反に該当するようにも考えられるところ、当事者間の具体的な事情等を踏まえたあくまでも事例判断とは考えられますが、上記裁判例のような判断がなされることがある点には十分に注意をして秘密保持契約を作成・締結することが非常に重要です。
上記の裁判例の他にも、原価セール事件(東京高判平成16・9・29(判例タイムズ1173・68))、公共土木工事積算システム事件(東京地判平成14・2・14(LLI/DB 判例秘書登載))、メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件(東京地判平成15・9・17労判858・57)等が参考となります。
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