Archive for the ‘コラム~通関手続、輸出入トラブル~’ Category

輸入ビジネスと商標権侵害の法的リスク

2023-12-05

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

近年、ECサイトの利用拡大や副業の推進等により、個人や法人を問わず海外から商品を仕入れて国内で販売する輸入ビジネスが非常に活発化しております。しかし、その手軽さの反面、知的財産権、特に商標権を巡るトラブルが後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

都内でアパレル小物の輸入販売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

当社は海外の製造業者から、デザイン性の高いバックパックやカジュアルバッグを定期的に輸入し、自社のオンラインショップで販売しております。今回、輸入したバッグに付されていたロゴマークが、国内の有名ブランドの登録商標に類似しているとして、その商標権者から多額の損害賠償を請求する旨の通知書が届きました。B氏は、海外の業者が製造したものをそのまま輸入しただけであり、悪意はなかったと主張しております。しかし、相手方は商標法に基づき、当社のこれまでの売上高を基準とした高額な賠償を求めています。輸入ビジネスにおける商標権侵害は、知らなかったでは済まされないのでしょうか。また、損害賠償額はどのように決まるのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。

このような事例は、輸入ビジネスに従事する全ての方にとって決して他人事ではありません。本日は、輸入トラブルによって裁判まで発展し、損害賠償額の算定が争点となった東京地判令和5年4月27日の事案をご紹介し、実務上の注意点を深く掘り下げていきます。

1 事案の概要:バッグ等の輸入販売と商標権侵害

本件は、海外から輸入されたバッグ類に付された商標が、国内の商標権者が保有する権利を侵害しているとして争われた事案です。

(1)紛争の背景

原告Xは、特定の商標について権利を有する商標権者です。一方、被告Yは、海外からバックパック、肩掛けかばん、ブリーフケース、旅行かばん、カジュアルバッグ等を輸入し、日本国内で販売、あるいは販売のために展示する行為を行っておりました。Xは、Yが取り扱うこれらの商品に付された標章が、自身の登録商標と類似しており、消費者に混同を生じさせるものであるとして、商標権侵害を理由に損害賠償を請求いたしました。

(2)争点となったポイント

本件において、侵害の事実そのものに加え、特に重要となったのは損害額の算定方法です。商標権侵害が発生した場合、その損害を立証することは極めて困難であるため、商標法には損害額を推定する規定が設けられております。被告Yが輸入した侵害品の売上高をどのように特定し、それに対してどのような料率を適用すべきかが、法的な議論の焦点となりました。

2 裁判所の判断:商標法第三十八条に基づく損害額の算定

東京地方裁判所は、商標権侵害における損害賠償の基準について、過去の重要な判例を踏まえた明確な判断を示しました。

(1)商標法第三十八条第三項の趣旨

裁判所はまず、商標法第三十八条の規定について次のように判示いたしました。

「商標法三十八条は、商標権侵害の際に商標権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、その損害額は、原則として、侵害品の売上高を基準として、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。」

(商標法第三十八条第三項)

商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。

(2)実施に対し受けるべき料率の算定基準

料率の決定にあたっては、以下の四つの視点による総合考慮が必要であるとされました。これは、知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決(大合議判決)の流れを汲むものです。

一 当該商標の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等。

二 当該商標に蓄積された信用や顧客吸引力の程度。

三 当該商標を当該商品に使用した場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様。

四 商標権者と侵害者との競業関係や商標権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情。

(3)証拠に基づく売上高の特定

売上高の算定については、実務的な手法が示されました。

「本件訴訟の審理経過や証拠関係に鑑みると、弁論の全趣旨に照らし、本件における侵害品の売上高は、損益計算書の売上高に、売上高に占める侵害品の割合を乗じて算定することが相当であり、上記売上高に占める侵害品の割合は、被告作成に係る納品書等から算定するのが相当である。」

このように、税務申告等で使用される損益計算書や、実務的な納品書等の裏付け資料が、損害額決定の重要な証拠となることが改めて強調されました。

3 輸入ビジネスにおける知的財産権リスクの体系的理解

輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる法規制が存在します。商標権侵害は、単に民事上の損害賠償に留まらず、輸入実務そのものを停止させる強力な法的効力を持ちます。

【輸入取引における商標権リスクの区分表】

リスクカテゴリー|具体的な内容|根拠となる法令

--------|----------------|------------

水際での差し押さえ|関税局による輸入差し止め。貨物の没収・廃棄。|関税法第六十九条の十一

民事上の責任|差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求。|商標法第三十六条、三十八条

刑事上の責任|十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金。|商標法第七十八条

社会的信用の失墜|ECプラットフォームのアカウント停止、社名公表。|各プラットフォーム規約

(1)関税法による輸入差し止め

商標権を侵害する物品は、関税法において輸入してはならない貨物として明確に定められています。

(関税法第六十九条の十一第一項第九号)

九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

権利者が税関に対して輸入差止申告を行っている場合、貨物は水際で没収され、輸入者は多大な仕入代金の損失を被ることになります。

(2)法の不知は免責されず

輸入者が商標権侵害の事実を知らなかったとしても、過失が認められれば損害賠償責任は免れません。商標法には過失の推定規定があるため、輸入者側が「過失がなかったこと」を立証しなければならないという、極めて重い立証責任を負わされます。

4 商標権侵害額を構成する諸要素の分析

裁判所が損害額を算定する際に考慮する要素を以下の表にまとめました。

【損害賠償額算定における考慮要素一覧】

考慮要素の分類|具体的な検討項目|賠償額への影響

--------|----------------|------------

ブランドの力|登録商標の知名度、宣伝広告費の規模|高いほど料率が上昇

侵害の態様|デッドコピーか、ロゴの一部類似か|悪質性が高いほど上昇

市場での競合|商標権者と輸入者のターゲット層の一致|競合が激しいほど上昇

不当利得の程度|侵害によって得た具体的な利益額|利益が大きいほど上昇

代替品の存在|当該商標がなくても売れた商品の魅力|寄与率として考慮

5 輸入トラブルを回避するための実務的な防御策

輸出や輸入という特別な取り扱いを行っていることを踏まえ、どのようにすればトラブルを回避することができるかを事前に把握した上で対応を行うことが非常に重要です。A社のB氏のような経営者が取り得る具体的な対策を提示いたします。

(一)事前調査の徹底

輸入を検討している商品に付されたロゴや名称について、特許庁のデータベース(J-PlatPat等)を用いて、国内で同一又は類似の商標が登録されていないかを事前に調査することが不可欠です。

(二)製造業者との契約における補償条項

海外の売手との売買契約において、当該商品が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証させ、万が一侵害が発覚して日本国内で損害賠償を請求された場合には、その全額を製造業者が負担する旨の補償条項(インデムニティ条項)を設けるべきです。

(三)並行輸入の適法性確認

本物のブランド品であっても、輸入ルートによっては商標権侵害とみなされる場合があります。日本の商標権者と海外の商標権者が同一、あるいは同一視できる関係にあるかといった「並行輸入の三要件」を満たしているかを精査する必要があります。

(四)専門家によるリーガルチェック

自社の輸入フローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて弁護士や弁理士にセカンドオピニオンを求めるべきです。特に複数の国が関与する複雑な商流においては、各国の知的財産権の保護状況を把握することが重要です。

6 弁護士への相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。商標権侵害の通知が届いた場合の交渉や、税関での差し止めに対する不服申立てなど、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる商標法の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で貨物を検査し、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提示することができます。

【当事務所が提供できる主なサポート内容】

一 輸入商品の商標権侵害該当性に関するリーガルアドバイス

二 商標権者からの損害賠償請求に対する交渉および訴訟代理

三 海外売手との売買契約書における知的財産権関連条項の作成・精査

四 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉

五 不正競争防止法や意匠法等、関連する多角的リスクの診断

7 まとめ:適正な通関と知的財産管理こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスにおける商標権侵害と損害賠償額の算定について、最新の裁判例を交えて解説いたしました。ECサイト等を通じて誰もが輸入者になれる時代だからこそ、その背後にある法的な義務と責任を正確に理解しておく必要があります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入代行業者の薬機法違反への対応

2023-11-28

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において近年トラブルが増加している輸入代行と薬機法の関係について、最新の裁判例を基に詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。副業や新規事業として化粧品等の輸入を検討されている方にとって、非常に重要なリスク管理の視点が示されています。

【相談者】

都内でECサイトを運営し、海外製の除菌グッズや化粧品の販売を計画しているA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

当社は今回、韓国のメーカーからアルコール配合のハンドジェルを大量に輸入し、日本国内で販売することを計画いたしました。当社は化粧品製造販売業の許可を持っていないため、当該許可を有する輸入代行業者であるY社に対し、薬機法に基づく適正な輸入手続きとラベル貼り、成分チェック等を委託いたしました。しかし、実際に届いた製品のラベルには「強力除菌」という薬機法上、化粧品では認められない効能が表示されており、保健所からの指導を恐れた卸売先から全ての注文がキャンセルされてしまいました。さらに、事後的な調査で、ラベルに記載されたアルコール濃度が実際の数値より低いことも判明いたしました。

B氏は、輸入代行業者が薬機法上の義務を怠ったために多大な損害を被ったと考え、Y社に対して損害賠償を請求したいと考えています。一方で、輸入代行業者は「薬機法は行政上の取り締まり法規であり、業者間の契約トラブルにおいて直ちに不法行為責任を負うものではない」と主張し、責任を認めてくれません。このような場合、法的にどのような請求が可能なのでしょうか。また、将来的にこのようなトラブルを回避するためには、どのような体制を構築すべきでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。

このような事例は、近年のEC市場の拡大に伴い、非常に多く見受けられます。輸入や輸出に関わる個人、法人は増加傾向にありますが、その実務には高度な専門性と法規制の理解が不可欠です。本日は、まさにこのようなトラブルが争点となった東京地判令和4年9月30日の事例をご紹介し、輸入実務における法的責任の所在について掘り下げていきます。

1 事案の概要:輸入代行とラベル表示を巡る紛争

本件は、海外製品を日本市場へ導入する際の「輸入代行」というスキームにおいて、委託者と受託者の間で生じた法的責任の範囲が問われた事案です。

(1)登場人物と取引の構造

原告であるXは、海外の企業Aからアルコールジェル製品を購入いたしました。しかし、日本国内で化粧品として販売するためには、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づき、化粧品製造販売業者としての許可が必要です。そこでXは、当該許可を有する被告Yを輸入代行業者として選定し、製品を化粧品として輸入する業務を委託いたしました。Yは、輸入申告や国内向けのラベル作成、貼付といった実務を担当する立場にありました。

(2)発覚した問題点

輸入・販売が開始された後、以下の二つの重大な事実が発覚いたしました。

一 同製品には「除菌」と表示されたラベルが添付されていましたが、薬機法上、化粧品として届け出た製品に「除菌」という医薬部外品や医薬品を連想させる表示をすることは、標榜可能な効能効果の範囲を逸脱しており違法であること。

二 製品のラベルに表示されたアルコール濃度よりも、実際の成分分析結果による濃度が低いことが発覚したこと。

(3)訴訟に至る経緯

Xは、これらの問題によって販売予定であった顧客からのキャンセルや値引き要求、在庫の滞留等の損害を被ったと主張いたしました。その法的構成として、輸入代行業者であるYが、薬機法上の義務及び民法上の信義則上の注意義務に違反したと主張し、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求いたしました。

2 裁判所の判断:取締法規と私法上の責任の峻別

東京地方裁判所は、薬機法という公法上の規制が、私人間(業者間)の不法行為責任を直ちに基礎付けるものになるかという点について、極めて慎重かつ明快な判断を下しました。

(1)薬機法の性格と行為義務の否定

裁判所はまず、薬機法という法律の目的について言及いたしました。

「薬機法はあくまで取締法規上の行為規範であって、直ちに不法行為法上の行為義務ないし注意義務を意味するものではない。したがって、薬機法上の義務違反が、直ちに医薬品等を購入した業者に対する不法行為法上の行為義務違反となるものではないというべきである。」

これは、薬機法が医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保を通じて「保健衛生の向上」を図ることを目的とするものであり、特定の取引相手の経済的利益を保護することを直接の目的としていないことを示しています。

(2)侵害された利益の性質と瑕疵の程度

次に、Xが主張する損害(被侵害利益)の内容について、以下のように判示いたしました。

「本件商品の瑕疵の内容を見ると、法令上許されない除菌という効能の表示がなされた、あるいはアルコール濃度が実際の数値よりも高い表示がなされたということにとどまり、それを使用する者に保健衛生上の危害を及ぼすような、基本的な安全性を欠くものでもない。その瑕疵の程度は軽微であるうえ、Xの主張する被侵害利益は、結局のところ、法令上あるいは品質上の瑕疵のない商品の引渡しを受ける権利その他の契約上の利益にすぎないのであって、薬機法が想定する保護法益ではない。」

(3)結論としての不法行為責任の否定

以上の検討から、裁判所は、Xの主張するYによる薬機法上の義務違反行為は、それ自体としても、あるいは信義則上の義務違反としても、不法行為責任を基礎付けるものとは認められないと結論付け、Xの請求を棄却いたしました。

3 輸入実務における法的責任の比較と検討

本判決は、輸入代行業者を利用する側にとって、非常に厳しい現実を突きつけるものとなりました。薬機法という強力な規制が存在していても、その違反が直ちに賠償責任に結びつくわけではないからです。ここで、輸入代行における各当事者の役割と、法的に問われやすい責任の範囲を整理した比較表を提示いたします。

【輸入実務における当事者の役割と法的責任一覧表】

区分|委託者(B氏・X)の役割と責任|受託者(輸入代行業者Y)の役割と責任

--------|----------------|----------------

薬機法上の地位|実質的な販売主体・企画者|製造販売業者としての法的名義人

主な義務|製品情報の提供・仕入先選定|GQP・GVPの遵守、成分確認

表示責任|広告表現の最終的な管理|法定ラベルの正確な記載

不法行為責任|被害者への賠償責任を負い得る|健康被害がない限り、業者間では限定的

契約責任|代金支払、検収義務|善良なる管理者の注意義務

留意すべき点|代行業者の「名義」に依存するリスク|行政処分(業務停止等)のリスク

この表から分かる通り、輸入代行業者は行政(厚労省や都道府県)に対しては重い責任を負いますが、委託者との関係においては、契約書に具体的な義務内容が明記されていない限り、不法行為による追及は困難であるという実態が浮かび上がります。

4 薬機法等の他法令が関わる輸入取引の落とし穴

輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる習慣や法規制が存在します。本件のように化粧品や医薬部外品が関わる場合、特に以下の点に注意が必要です。

(一)取締法規と私法の壁

本判決が示した通り、薬機法違反=不法行為(損害賠償)とはなりません。これは食品衛生法や植物防疫法、家畜伝染病予防法といった他の輸入規制法規についても同様のことが言えます。行政上の罰則があることと、民事上の賠償ができることは別次元の問題です。

(二)成分表示とアルコール濃度の乖離

近年、新型コロナウイルスの影響でアルコール製剤の輸入が急増いたしましたが、海外メーカーの成分分析表(COA)が必ずしも正確ではないケースが散見されます。輸入代行業者がどこまで詳細な検査を行う義務を負うかは、委託契約の内容によって決まりますが、単なる形式的なチェックに留まる契約形態では、本件のようなトラブルを防ぐことはできません。

(三)化粧品における除菌表示の禁止

化粧品としての届け出では「手指を清潔にする」といった表現は可能ですが、殺菌や除菌といった医薬部外品的な効能を謳うことはできません。これを代行業者が看過したとしても、それによる販売機会の喪失を不法行為として追及することは法的に高いハードルがあります。

5 トラブルを回避するための契約実務とリスク管理

輸出や輸入のトラブルを回避するためには、通常の売買と同じイメージをもち対応を行うと思わぬ部分で足元をすくわれてしまうリスクがあります。本判決の教訓を踏まえ、どのようにすればトラブルを回避し、万が一の際に責任を追及できるかを事前に把握しておくことが非常に重要です。

(1)業務委託契約書における詳細な義務規定

不法行為での追及が難しい以上、契約(債務不履行責任)に基づく追及ができるよう、契約書を精緻化する必要があります。

一 「薬機法等の関連法令を遵守し、適正なラベルを作成する義務」を明記する。

二 「ラベル表示内容と実態に乖離があった場合、それによる販売中止損害を賠償する」旨の特約を設ける。

三 成分分析の頻度や方法、不備があった場合の検収不合格の基準を具体化する。

(2)製造販売業者の選定とデューデリジェンス

単に許可を持っているというだけでなく、過去に行政指導を受けていないか、専門の総括製造販売責任者が適切に配置されているかを確認することが不可欠です。輸入代行業者は、いわば法的な「門番」の役割を果たすため、その信頼性が事業全体の成否を左右いたします。

(3)他法令の網羅的なチェック

輸出入には外為法(外国為替及び外国貿易法)や関税法も深く関わります。特にリスト規制やキャッチオール規制に該当する物品でないか、あるいは輸入時に他法令の証明が必要な品目ではないかを、取引開始前に多角的に検討しなければなりません。

6 専門家によるセカンドオピニオンと法的防御

自社の輸出や輸入に関するフローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて専門家にセカンドオピニオンを求める等、万全の態勢をトラブル発生前に構築しておくことが重要です。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。特に薬機法や食品衛生法が絡む複雑な輸入スキームにおいて、どのような契約関係を構築すべきか、また事後的な調査においてどのように当局や相手方と対峙すべきかについて、専門的な見地からアドバイスを提示いたします。

【当事務所が提供できる具体的な支援内容】

一 輸入代行契約書、売買契約書の作成及びリーガルチェック

二 薬機法、景品表示法等に抵触しないための表示・広告監修

三 税関事後調査、保健所等の行政調査に対する同行及び対応支援

四 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求、交渉、訴訟代理

五 関税評価(課税価格)の適正性診断、事前教示制度の活用

7 まとめ:適正な通関と契約こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入代行業者を巡る最新の裁判例に基づき、薬機法違反と私法上の責任の境界について解説いたしました。B氏のようなケースにおいて、不法行為責任の追及が難しいという司法の判断は、輸入者側に「自ら契約をコントロールする」という高い自覚を求めるものです。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

リスト規制と該非判定について

2023-10-31

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、日本の輸出管理制度の根幹をなすリスト規制と、その適正な運用に不可欠な該非判定について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術や製品を海外に展開しようとする企業様にとって、避けては通れない重要な局面が示されています。

【相談者】

都内で産業用ドローン及び高精度センサーの開発販売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

当社はこの度、自社で独自開発した測量用ドローン及びその制御ソフトウェアを、東南アジアのインフラ建設プロジェクト向けに輸出する契約を締結いたしました。当該ドローンは市販品よりも長時間の飛行が可能で、精度の高いGPSユニットを搭載しております。B氏は、民生用の建設資材として輸出するものであるため、軍事転用の意図はなく、特段の制限はないものと考えておりました。しかし、物流業者から、当該製品が外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)上のリスト規制に該当する可能性があるため、該非判定書を提出するように求められました。B氏は、自社の製品がなぜ規制の対象になり得るのか、また、もし無許可で輸出してしまった場合にどのような法的責任を負うことになるのかを正確に把握したいと考えております。特に、貨物だけでなく技術(ソフトウェア)の提供も含まれるため、複雑な法令の解釈について専門的な見地からの詳細な解説を求めています。

このような事例は、日本の優れた技術力を保有する中小企業において、近年非常に多く見受けられます。様々な技術革新によって、現代社会は人やモノの行き来がこれまでになく自由に行われている状況です。しかしながら、そのような中でも国際平和及び安全の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を抑制するための国際的な輸出管理レジームが存在します。日本国内においても、これらの国際的な合意を踏まえて独自の安全保障貿易管理制度を設けております。本日は、その中心的な制度であるリスト規制について解説いたします。

1 リスト規制の定義と法的根拠について

リスト規制とは、国際的な合意を踏まえ、武器並びに大量破壊兵器等(核兵器、化学兵器、生物兵器、ミサイル)及び通常兵器の開発、製造、使用等に用いられるおそれの高いものを法令等でリスト化して、そのリストに該当する貨物や技術を輸出や提供する場合には、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。この制度は、特定の国や地域に対する経済制裁とは異なり、貨物のスペック(機能や仕様)に注目して一律に網をかける点に特徴があります。

リスト規制の直接的な法的根拠は、外為法第四十八条第一項にあります。

(外国為替及び外国貿易法第四十八条第一項)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

この規定を受けて、具体的にどのような貨物が規制されるかを定めているのが、輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)です。

(1)規制対象貨物の分類

規制対象となる貨物は、輸出令別表第一の一の項から十五の項までに体系的に分類されています。

一の項:核兵器、核燃料物質、原子炉等

二の項:化学製剤の原料、細菌製剤の調製装置等

三の項:ロケット、無人航空機、それらの製造装置等

四の項:火薬、爆薬、それらの製造装置等

五の項から十五の項:先端材料、材料加工工作機械、エレクトロニクス、電子計算機、通信、センサー、航法装置、海洋関連、航空宇宙関連等の汎用品(通常兵器の開発等に転用可能なもの)

B氏のA社が扱っているドローンは三の項(無人航空機)に、高精度センサーは七の項(航法装置)や十の項(航空宇宙関連)に該当する可能性を慎重に検討しなければなりません。

(2)規制対象技術の分類

貨物(モノ)の輸出だけでなく、技術(ノウハウやソフトウェア)の提供も同様に規制の対象となります。その根拠は外為法第二十五条第一項にあります。

(外国為替及び外国貿易法第二十五条第一項)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の技術を特定の外国において提供し、又は特定の外国の居住者に提供することを目的とする取引をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

この具体的なリストは、外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の一の項から十五の項に規定されています。A社のドローン制御ソフトウェアは、この外為令別表の規定に抵触する可能性があるため、貨物と併せて技術提供の許可についても確認が必要となります。

(3)詳細なスペックを規定する省令

輸出令や外為令の別表は項目名のみを掲げているため、実際にどの程度の性能(解像度や処理速度、周波数など)を超えると規制対象になるかについては、経済産業省令である「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(以下、貨物等省令といいます。)において極めて詳細に規定されています。実務上は、この貨物等省令の数値を一つずつ自社の製品仕様と照らし合わせる作業が不可欠となります。

2 該非判定の重要性と実務上の進め方について

実務上は、リスト規制に該当する貨物や技術に該当するかどうかを判断するために、該非判定が非常に重要となります。該非判定とは、自社の貨物や技術が、前述した輸出令別表第一や外為令別表の各項、及び貨物等省令で定められたスペックに合致するかどうかを客観的に判定する作業を指します。

(1)慎重かつ厳格な判定の必要性

この該非判定を慎重にかつ厳格に行わずに間違った対応を取ってしまった場合には、無許可輸出等の違法行為に該当することになってしまいますので十分ご注意ください。たとえ意図的ではなく、単なる過失や見落としであったとしても、外為法違反としての法的責任を免れることはできません。税関での輸出申告の際、該非判定書が不備であれば、輸出は許可されず、最悪の場合、貨物の差し押さえや調査の対象となります。

(2)仕入元等との連携

自社で全ての仕様を把握できない場合、該非判定を行う際には、仕入元や部品メーカー等にも協力してもらう必要があります。製品の製造、購入の段階から適切な取り扱いを行うことが重要です。部品メーカーから「項目別対照表」や「パラメータシート」と呼ばれる資料を取り寄せ、自社製品としての最終的な該非を決定するプロセスを確立すべきです。

(3)該非判定の具体的な流れ

該非判定を進める際の標準的なフローを以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けてそのまま実務のチェックリストとしてご活用いただけます。

【該非判定実務フロー図】

ステップ|実施事項|確認すべき主な資料

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一 品目特定|輸出する貨物や提供する技術を特定する|図面、カタログ、仕様書

二 項番抽出|輸出令別表第一、外為令別表の該当項番を絞り込む|経済産業省発行の解釈指針

三 スペック比較|貨物等省令の数値基準と製品スペックを対照する|検査成績書、技術データ

四 判定書作成|判定結果を「該当」または「非該当」として書面化する|項目別対照表、パラメータシート

五 承認・保存|社内の責任者が内容を承認し、法定期間保存する|社内管理規定(ICP)

B氏の事例では、ドローンの最大飛行距離、最大離陸重量、自律飛行能力の有無、及びセンサーの測定精度を、貨物等省令の三の項や七の項の基準値と厳密に比較しなければなりません。一つでも基準値を超えていれば該当となります。

3 みなし輸出管理(技術提供管理)の最新動向について

リスト規制において近年特に重要性を増しているのが、みなし輸出管理です。これは、物理的に海外へ貨物を送る場合だけでなく、日本国内において非居住者(外国人留学生や短期滞在の研究者等)に技術を提供する場合も、海外への輸出と同様に許可を必要とする制度です。

(1)特定類型制度の導入

二〇二二年五月からは、居住者であっても外国の政府や企業から強い影響を受けている者(特定類型該当者)に技術を提供する場合にも、経済産業大臣の許可が必要となりました。A社が日本国内で外国籍の技術者を雇用している場合や、海外企業との共同研究を行っている場合には、このみなし輸出の規制が適用される可能性があり、貨物の輸出とは別の次元での管理が求められます。

(2)ソフトウェアの提供形態

ソフトウェアの提供については、CD-ROM等の物理的なメディア(キャリアメディア)による輸出だけでなく、インターネットを通じたダウンロード、電子メールへの添付、さらにはクラウドサーバーへのアップロードも、外為法上の役務取引として規制の対象となります。

4 法令違反に伴う深刻なペナルティと企業リスク

事業として輸出や輸入に従事している以上は、知らなかったでは済まされませんので、自社の事業に関する輸出や輸入に関連した法規制については十分注意する必要があります。万が一、リスト規制に違反して無許可で輸出を行った場合には、以下のような極めて厳しい罰則が科されることとなります。

(1)刑事罰の内容

個人に対しては懲役または罰金、法人に対しては極めて高額な罰金が科されます。

(外国為替及び外国貿易法第六十九条の六)

第四十八条第一項の規定による許可を受けないで、輸出令別表第一の一の項から十五の項までの中の特定の貨物を輸出した者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。

また、対象となる貨物の価格の五倍が二千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金に処せられるという規定もあり、巨額の罰金が企業の経営を直接圧迫することになります。

(2)行政処分の衝撃

経済産業大臣により、一定期間(最長で三年間)の輸出禁止処分や技術提供の禁止処分が下されることがあります。これは企業にとって営業機会の完全な喪失を意味し、海外の顧客との信頼関係は完全に崩壊いたします。貿易に従事する企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に等しい重大な打撃です。

(3)社会的信用の失墜

法令違反の事実は経済産業省のホームページ等で公表されます。これにより、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。コンプライアンスを重視する現代のグローバル市場において、一度ついた不名誉なレッテルを剥がすことは極めて困難です。

5 輸入業務における留意点と税関事後調査

日本は貿易大国ですが、輸出のみならず輸入に関しても様々な法規制が存在します。輸入に関しては、基本的には申告納税方式が採用されておりますが、輸入後には輸入事後調査等が存在しておりますので、安易に間違った申告をすることは絶対に避ける必要があります。

(1)適正な課税価格の申告

輸入申告価格を意図的に低く申告するアンダーバリューなどは、明確な脱税に該当いたします。関税法上、不正な手段で関税を免れた場合には刑事罰が科されます。

(関税法第百十条 関税を免れる罪)

偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。

(2)他法令の確認義務

品目によっては関税法以外の法律(他法令)による規制を受ける場合があります。例えば、食品衛生法、家畜伝染病予防法、薬機法などの許可や検査が必要であり、これらを怠って輸入することは禁じられています。

(3)事後調査への対応

税関の事後調査では、過去数年分の取引書類や会計帳簿が精査されます。輸出管理と同様に、輸入業務においても法令遵守の証拠を残しておくことが、自社を守る唯一の手段となります。

6 専門家によるリーガルチェックと体制構築の重要性

これらの法規制は変更になることも多いので、定期的に自社に関連する法規制を確認いただく必要があることは改めてご留意ください。国際情勢の変化に伴い、規制対象品目や仕向地の制限は頻繁にアップデートされます。なかなか自社で法規制を確認することが難しい場合には、適宜専門家を含めてご相談等いただくことを強くお勧めいたします。

当事務所では、輸出入に関するコンプライアンス体制(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定支援を行っております。

【内部輸出管理体制の評価指標一覧】

評価カテゴリー|確認すべき具体的な内容|管理上のポイント

--------|----------------|------------

組織体制|輸出管理の責任者が任命されているか|社長直轄の体制を推奨

該非判定|技術者と法務担当者が連携しているか|ダブルチェックの徹底

取引審査|顧客が「需要者リスト」に載っていないか|エンドユースの確認

出荷管理|税関への申告前に許可証を確認しているか|誤出荷防止のロック機能

監査・教育|定期的な社内監査と社員教育があるか|全社的な意識の醸成

保存管理|関係書類を法定期間保存しているか|七年間の保存義務の遵守

7 弁護士への相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、現場の実態に即した具体的なアドバイスを提示することが可能です。

【当事務所が提供できる主なサポート内容】

一 A社製品の精緻な該非判定支援および判定書のリーガルチェック

二 経済産業省への個別輸出許可申請、役務取引許可申請の代理および折衝

三 社内輸出管理マニュアル(ICP)の策定、社内教育研修の講師派遣

四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査の代行

五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い

六 外為法や関税法に関する最新の法令改正情報の提供および実務への反映支援

輸出入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。事前教示制度の利用や、もし万が一法令違反の疑いを指摘された場合の当局対応についても、迅速かつ適切にサポートいたします。

まとめ:適正な輸出入管理がグローバルビジネスを安定させる唯一の道

安全保障貿易管理は、一企業の利益を超えて、日本及び国際社会全体の安全を守るための重大な責務です。B氏のようなケースにおいても、事前に対象製品の該非判定を行い、必要であれば適切な輸出許可を得ることで、合法かつ安全に海外展開を進めることができます。

企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

主要な国際輸出管理レジーム

2023-10-17

はじめに:相談事例のご紹介

本日は、国際的な平和及び安全を維持するために設立された国際輸出管理レジームについて、その具体的な内容と法的な枠組みを解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術を保有する企業様が直面しやすい、実務的な課題が示されています。

【相談者】

神奈川県内で産業用高精度センサー及び関連部品の製造販売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

当社は、自社で開発した特殊な加速度センサー及びその製造技術を、海外の協力企業へ輸出することを計画しております。このセンサーは主に土木建設現場での計測に使用されるものですが、取引先から国際的な輸出管理規定、特にワッセナー・アレンジメントやMTCRといったレジームへの抵触がないかを確認するよう求められました。B氏は、軍事目的の製品ではないため、これらの国際的な枠組みが自社のビジネスにどのような影響を与えるのか、また、もし該当した場合にどのような法的手続きが必要になるのかを正確に把握したいと考えています。特に、国際的なレジームの定義と日本国内の輸出貿易管理令との関係性について、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。このような事例は、意図せず軍事転用可能な技術や製品を保有している企業において非常に多く見受けられます。現代社会は技術革新によりモノの行き来が自由ですが、国際平和及び安全の観点から、国際的な輸出管理レジームが存在します。本日は、主要な4つのレジームの内容に絞って詳しく解説いたします。

1 NSG(原子力供給国グループ)の目的と詳細

NSG(Nuclear Suppliers Group)は、核兵器の製造等に使用される可能性のある原材料や技術等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1974年のインドによる核実験を契機として、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を補完する目的で、1975年に設立されました。このレジームは、核兵器の拡散につながる可能性のある取引を防止するため、供給国側が輸出管理の指針を共有し、協調して規制を行うことを目指しています。

(1)規制対象の二段構え

NSGのガイドラインは、大きく分けて二つのパートで構成されています。

第一部(指針パート1)は、原子力専用品を対象としたもので、核原料物質、核燃料物質、原子炉及びその関連設備、重水、再処理施設などが含まれます。これらは「トリガーリスト」と呼ばれ、これらを輸出する際には、受領国による国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れが条件となります。

第二部(指針パート2)は、原子力目的以外にも使用可能な汎用品(デュアルユース品)を対象としています。例えば、高強度のアルミニウム合金、炭素繊維、数値制御工作機械、周波数変換器などがこれに該当します。これらは、通常の産業用途であっても、核兵器開発に転用されるリスクがあるため、厳格な審査が必要となります。

(2)日本国内法における位置付け

日本はNSGの創設当初からの参加国であり、その合意内容は国内法である輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)別表第一の一の項、及び外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の二の項に反映されています。

(輸出貿易管理令別表第一の一の項)

一 核兵器、核燃料物質の処理若しくは核兵器の製造のために利用される核物質若しくは核原料物質若しくは原子炉若しくはこれらの部分品若しくは附属装置又は核燃料物質の分離若しくは再生若しくは重水の製造のために利用される装置若しくはその部分品であつて、経済産業省令で定めるもの。

A社の製品が、もし核関連施設での精密計測に使用されるような極めて特殊なスペックを有している場合、このNSGの合意に基づく規制対象となる可能性があります。

2 オーストラリア・グループ(AG)の目的と詳細

オーストラリア・グループ(Australia Group)は、化学・生物兵器の原材料や技術等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1980年代のイラン・イラク戦争において化学兵器が使用されたことを受け、1985年にオーストラリアの提唱により設立されました。このレジームは、化学剤の原料となる化学物質、生物兵器の基となる病原体、及びそれらの製造に使用される設備や技術が、テロリストや懸念国に渡ることを防ぐことを目的としています。

(1)広範な規制対象

AGの規制リストは多岐にわたります。化学分野では、サリンやVXガスなどの神経剤、マスタードガスなどのびらん剤の原料となる前駆体となる化学物質が指定されています。また、これらを製造するための耐食性のある反応器、貯蔵タンク、熱交換器なども対象です。生物分野では、炭疽菌、エボラウイルスなどの病原体、リシンなどの毒素に加え、これらを培養するための発酵槽、凍結乾燥装置、遠心分離機などが含まれます。さらに、防護マスクや検知システム、関連するソフトウェアや製造ノウハウなどの技術提供も規制の対象となっています。

(2)日本国内法における位置付け

日本はAGの参加国として、輸出令別表第一の二の項、及び外為令別表の三の項・三の二の項において規制を具体化しています。

(輸出貿易管理令別表第一の二の項)

二 軍用の化学製剤の原料となる物質若しくは軍用の細菌製剤の調製に用いられる装置若しくはその部分品若しくは軍用の細菌製剤の散布に用いられる装置若しくはその部分品又は軍用の化学製剤若しくは軍用の細菌製剤と同等の効力を有する物質(以下この項において「化学製剤等」という。)の原料となる物質若しくは化学製剤等の調製に用いられる装置若しくはその部分品若しくは化学製剤等の散布に用いられる装置若しくはその部分品であつて、経済産業省令で定めるもの。

化学プラントや製薬設備、あるいは高度なクリーンルーム技術を保有する企業にとって、AGの規制内容を把握しておくことは必須のコンプライアンス事項となります。

3 MTCR(ミサイル技術管理レジーム)の目的と詳細

MTCR(Missile Technology Control Regime)は、大量破壊兵器の運搬に寄与できるミサイルやその他の無人航空機、及びその部分品や製造装置等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1987年にG7諸国により設立されました。このレジームの最大の特徴は、大量破壊兵器そのものではなく、その運搬手段を封じ込めることに主眼を置いている点にあります。

(1)カテゴリーによる区分

MTCRは、規制対象をカテゴリー一とカテゴリー二に分けています。カテゴリー一は、完成したミサイルシステムや無人航空機システム、及びそれらの主要なサブシステム(エンジン、誘導装置等)を指します。特に射程300キロメートル以上、かつ積載量500キログラム以上の能力を持つシステムについては、輸出が極めて厳格に制限されており、原則として輸出不許可(強い拒否の推定)の対象となります。カテゴリー二は、これらに関連する広範な部品や製造装置、推進剤、計測機器などが含まれます。近年では、自律飛行が可能なドローンの技術進歩が著しいため、民生用ドローンであっても一定の積載能力や飛行性能を持つ場合は、このMTCRのガイドラインに抵触する可能性が高まっています。

(2)日本国内法における位置付け

日本はMTCRの主要な参加国であり、輸出令別表第一の三の項、及び外為令別表の四の項に関連規定を置いています。

(輸出貿易管理令別表第一の三の項)

三 ロケット、無人航空機若しくはこれらに類する装置であつて、経済産業省令で定めるもの又はこれらの製造、試験若しくは評価に用いられる装置(中略)

A社の加速度センサーが、ミサイルの誘導装置や姿勢制御に使用可能なスペックを有している場合、このMTCRの合意に基づく規制対象となる可能性が非常に高いと考えられます。特に、加速度の測定範囲や振動に対する耐久性が軍事用基準に達している場合は、慎重な検討が必要です。

4 ワッセナー・アレンジメント(WA)の目的と詳細

ワッセナー・アレンジメント(Wassenaer Arrangement)は、地域の安定を損なう通常兵器の過剰な蓄積を防止する目的で、通常兵器及びその製造に関連する汎用品(デュアルユース品)や技術の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1996年にオランダのワッセナーで設立されました。冷戦期の東側諸国への輸出統制であったCOCOMの後継として、より広範な地域紛争の防止を完全に目的に掲げています。

(1)リストの構成と9つのカテゴリー

WAの規制リストは、通常兵器リストと汎用品リストの二本立てとなっています。特に汎用品リストは、現代の産業技術のほぼ全域をカバーしており、以下の9つのカテゴリーに分類されています。

カテゴリー1:特殊材料及び関連装置(フッ素化合物、潤滑剤、セラミック等)

カテゴリー2:材料加工(数値制御工作機械、ロボット、スピニング加工機等)

カテゴリー3:エレクトロニクス(半導体、集積回路、マイクロ波部品等)

カテゴリー4:電子計算機(高性能コンピュータ、関連ソフトウェア等)

カテゴリー5:通信・情報保護(通信設備、暗号化装置、サイバーセキュリティ関連等)

カテゴリー6:センサー及びレーザー(光学センサー、水中探知装置、高性能カメラ等)

カテゴリー7:航法及び航空エレクトロニクス(ジャイロ、加速度計、航法システム等)

カテゴリー8:海洋関連(潜水艇、水中用テレビカメラ、推進装置等)

カテゴリー9:航空宇宙及び推進装置(ガスタービンエンジン、人工衛星、関連部品等)

これらのカテゴリーには、最先端の技術から、一般的な産業で広く使われる高機能製品までが含まれています。WAは特定の国を対象とするものではありませんが、参加国間での情報交換を通じて、地域の安定を乱すような過剰な輸出を抑制しています。

(2)日本国内法における位置付け

日本はWAの極めて活動的な参加国であり、輸出令別表第一の五の項から十五の項、及び外為令別表の六の項から十五の項に膨大な規定が存在します。

(輸出貿易管理令別表第一の七の項)

七 航法装置、ジャイロスコープ、加速度計若しくはこれらの部分品であつて、経済産業省令で定めるもの又はこれらの製造若しくは試験に用いられる装置であつて、経済産業省令で定めるもの。

A社が製造している高精度センサーは、まさにこのWAカテゴリー7(輸出令七の項)に直結する製品です。性能指標が省令で定める数値を上回る場合、リスト規制対象として経済産業大臣の輸出許可が必須となります。

5 国際輸出管理レジームの比較及び実務的確認事項

主要な国際輸出管理レジームについて、実務上で特に重要となるポイントを比較表にまとめました。この表はワード等の文書にコピーしてそのままご活用いただける形式となっております。

主要国際輸出管理レジームの機能比較表

レジーム名称|主たる規制対象物|設立背景と目的|国内法(輸出令)との対応

--------|----------------|----------------|------------

NSG|原子力専用品及び原子力汎用品|核兵器の不拡散、核実験の防止|別表第一の一の項

AG|化学・生物兵器原料及び製造設備|化学・生物兵器の拡散防止|別表第一の二の項

MTCR|ミサイル、無人航空機、関連部品|大量破壊兵器の運搬手段の抑制|別表第一の三の項

WA|通常兵器及び産業用汎用品|通常兵器の過剰蓄積、地域安定|別表第一の五から十五の項

6 国際レジームの合意を遵守するための具体的な実務手順

以上の主要な国際輸出管理レジームについて、日本は全てに参加しておりますが、全く参加していない国、一部にのみ参加している国等も多数存在しております。したがって、世界で共通のレジームとなってまではいないというのが実情です。このため、企業としては、以下のステップを確実に踏む必要があります。

(1)該否判定の実施

自社の製品のスペック(性能・機能)を、輸出令別表第一及び関連する貨物等省令の詳細な数値と照合いたします。例えば、加速度センサーであれば、バイアス安定性やスケールファクター誤差といった専門的な数値が基準値を超えていないかを確認します。判定の結果、リスト規制に該当するか否かを該否判定書として書面に残すことが、法的な証明の第一歩となります。

(2)取引審査の実施

輸出先(輸入者)や最終需要者が、国際的な懸念活動に従事していないかを確認します。経済産業省が公表している外国ユーザーリストとの照合は欠かせません。このリストには、上記4つのレジームが監視対象としている懸念組織が数多く掲載されています。

(3)用途確認の実施

製品が本来の用途(土木建設等)以外に使用される恐れがないかを確認します。これをエンドユース確認と呼びます。特に第三国を経由する商流の場合、最終的な使い道が不透明になりやすいため、顧客からエンドユース証明書を取得するなどの対応が求められます。

(4)輸出許可申請

リスト規制に該当する場合、あるいは用途や需要者に懸念がある場合には、経済産業大臣に対して輸出許可の申請を行います。この際、製品の技術的特徴や取引の安全性を証明する膨大な書類が必要となります。

(5)税関への証明

最終的に税関へ輸出申告を行う際、必要な許可を得ていることを証明しなければなりません。他法令の許可が必要な貨物については、その確認がなされない限り、関税法上の輸出の許可は下りません。

(関税法第七十条 証明又は確認)

他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条(輸出又は輸入の許可)の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。

6 まとめ:適正な輸出管理がグローバルビジネスの唯一の生存戦略

本日は、国際輸出管理レジームの根幹をなす4つの枠組みと、それに基づく日本国内の外為法、輸出令の仕組みについて詳しく解説いたしました。正しい法令知識に基づき、透明性の高い取引体制を構築すること。それが、税関や経済産業省からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

前払金と輸入申告価格の考え方について

2023-04-30

はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引において頻繁に活用される前払金、いわゆるデポジットや頭金と、輸入申告価格(課税価格)の決定に関する重要な論点について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。

【相談者】

千葉県内で海外製のスポーツ用品の輸入販売を営む株式会社サクセス 代表取締役 佐藤氏

【相談内容】

「当社は3年前から、アメリカのメーカーであるエー社から、新型のトレーニング機器を輸入しています。取引の形態としては、まず契約時に代金の7割にあたる100万円を「前払金(デポジット)」として送金し、残りの3割の30万円については、製品が完成して日本へ発送される際に支払うことになっています。

製品が発送される際、エー社からは残金の「30万円」が記載されたインボイス(仕入書)が送られてきます。佐藤氏は、通関業者に対してこの30万円のインボイスを提出し、そのまま30万円を輸入申告価格として申告してきました。

ところが先日、税関から事後調査の通知が届きました。調査官からは、この前払金100万円が申告価格に含まれていないのではないかという指摘を受けています。佐藤氏は、前払金はあくまで予約金のようなもので、最終的な商品の請求書(インボイス)の金額こそが申告価格であると考えていました。もしこれが過少申告と判断された場合、過去3年分に遡って追徴課税を受けるのでしょうか。また、法的に正しい申告価格の算出方法を教えてください。」

このような事例は、輸入実務に慣れていない企業において非常に多く見受けられます。輸入者は意図的な脱税のつもりはなくても、法的な理解不足から結果として過少申告となってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、専門的な知見に基づき、前払金が輸入申告価格に与える影響とその適切な処理方法を解説いたします。

1 前払金と輸入申告価格の基本的な考え方

輸入業を行う場合、売買代金の送金等に時間が掛かることから、一定額を前払金(デポジット等という場合もあります)として送金しておき、実際の売買代金に充当するという対応を取る場合も相当程度ございます。

例えば、前払金として100万円を送金しておいて、実際の商品価格が150万円である場合、取引の際には、前払金100万円を充当し、商品代金として50万円のみを新たに支払った場合、輸入申告価格としては、150万円と50万円のいずれとして取り扱う必要があるでしょうか。

結論から申し上げますと、適正な輸入申告価格としては、前払金を含めた総額である150万円をベースに考えることが必要となります。

関税定率法等の法令上は、「現実支払価格」といった専門的な用語がでてきます。なかなか理解が難しい面もありますが、要するに、輸入する商品のために買手側がいくら支出することになったのか、ということをベースに考えることになります。

実際に商品のために買手が支払った金額として、前払金100万円と残金の商品代金としての50万円の合計150万円となります。したがって、課税価格(輸入申告価格)はこの合計額となります。

インボイスに商品代金としていくらと記載されているかどうかということは、輸入申告価格を検討する際には重要な要素の一つとはなります。しかし、あくまでも要素の一つであり、インボイスにいくらと記載されているから輸入申告価格もインボイス上の価格と同じはずだということには必ずしもなりませんので、十分注意が必要です。

2 現実支払価格の定義と法的根拠

輸入申告価格(課税価格)を決定するための原則は、関税定率法第4条に規定されています。この条文は、輸入取引における「価格」とは何かを定義する極めて重要なものです。

関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)

第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

さらに、この取引価格の基礎となる「現実支払価格」については、関税定率法基本通達において詳細に説明されています。

関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)

(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。

この「直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額」という文言が鍵となります。前払金は、輸入貨物の対価として「直接」あるいは「現実に」支払われた金額の一部であり、当然にこの総額に含まれるべきものです。残金の支払いの際、便宜上インボイスに未決済分のみが記載されていたとしても、法的な課税対象は商品の「対価としての総額」であるという点を忘れてはなりません。

3 前払金(デポジット)が関税評価に与える実務的影響

実務上、前払金が申告漏れとなる原因の多くは、書類の管理体制にあります。インボイスと送金記録の紐付けができていないことが、税関事後調査での指摘に直結します。

【前払金がある場合の申告価格算定フロー】

一 契約書(プロフォーマインボイス等)にて総額を確認する。

二 前払金の送金時期と金額を記録する。

三 最終インボイスに前払金が差し引かれた額が記載されている場合、その控除額を「加算」して申告する。

四 通関業者に対し、前払金の存在と総額を明確に伝える。

インボイス上に「Deposit Paid(支払い済みデポジット)」といった記載があれば、通関業者も気づくことができます。しかし、そのような記載がなく、単に「30万円」とだけ書かれたインボイスでは、通関業者はその裏にある100万円の前払金を把握することができません。最終的な納税責任は輸入者自身に帰属するため、正しい情報を開示する義務があります。

4 輸入者が活用すべき実務チェックリスト

以下に、前払金や加算要素の漏れを防ぐためのチェックリストを作成いたしました。社内のコンプライアンス管理にご活用ください。

【前払金および加算要素に関する法的適合性確認表】

確認項目|具体的な確認内容|

前払金の有無|契約時に内金やデポジットを送金していないか|

インボイスの総額|インボイス記載額は前払金差引後の金額ではないか|

送金記録の整合性|銀行の送金総額と輸入申告価格は一致しているか|

ライセンス料の支払|商標権等の対価を別途権利者に支払っていないか|

無償提供物品の有無|製造用の金型や原材料を無償で提供していないか|

仲介手数料の支払|売手と買手を仲介する者に報酬を支払っていないか|

5 輸入申告価格の算定を誤った場合のペナルティ

貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に詳細に規定されております。なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと追徴課税を含む様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。

無事に輸出入できているのだから問題ないだろうと考え、これらのルールを軽視することは非常に危険であり、中長期的に大きなしっぺ返しを受けるリスクが非常に高いと言わざるを得ません。

(1)過少申告加算税の賦課

事後調査により申告漏れが発覚した場合、不足税額に加えて過少申告加算税が課されます。

関税法第12条の2(過少申告加算税)

税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

(2)重加算税の適用リスク

意図的に前払金を隠蔽し、安価なインボイスのみで申告を繰り返していたと判断された場合、さらに強力な重加算税が課されます。

関税法第12条の4(重加算税)

事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。

(3)延滞税の徴収

本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息相当の延滞税が徴収されます。

6 ライセンス料やその他の加算要素に関する留意点

輸入申告価格の算定において、前払金以外にも注意すべき項目は多岐にわたります。特に「ライセンス料」は、税関が最も注視する項目の一つです。

例えば、輸入する貨物のライセンス料を輸出者側等に支払っている場合には、当該ライセンス料については、課税価格に加算しなければなりません。加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。

【ライセンス料(ロイヤリティ)が加算される条件】

一 当該輸入貨物に関連していること。

二 当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により支払われるものであること。

これらは、商品の仕入れ価格とは別の名目で支払われることが多いため、前払金と同様に申告漏れが発生しやすい項目です。他にも、輸入港までの運賃、保険料、仲介手数料、そして製造に関わる原材料や金型の無償提供費用(アシスト費用)などが挙げられます。

7 専門家による事前リーガルチェックの重要性

他にも、輸出入特有の規制は多数あります。可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。

最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を中長期的に円滑に進めることが可能となります。

【専門家によるチェックを受けるメリット】

一 適切な課税価格の算定根拠を構築できる点。

二 税関事後調査における否認リスクを最小限に抑えられる点。

三 不必要な追徴課税や過少申告加算税の支払いを回避できる点。

四 法令遵守体制を整えることで、税関からの信頼性を向上させられる点。

特に、新しい取引先と契約する際や、新しい商品カテゴリーを扱う際には、契約書の文言一つが将来の関税負担に大きく影響することがあります。

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主なサポート】

一 輸入取引における現実支払価格の適正性診断。

二 前払金、ロイヤリティ、アシスト費用等の加算要素に関する法的整理。

三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉。

四 不当な課税処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

債務の相殺と輸入申告価格

2023-04-23

はじめに:仮の相談者からの相談事例

本日は、輸入取引における課税価格の決定において、買手が売手の債務を肩代わりしたり、相殺を行ったりした場合の法的な取り扱いについて解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務において、継続的な取引がある企業様にとっては、非常に重要かつ見落としやすい内容となっております

【相談者】

大阪府内で海外ブランドの輸入卸売業を営む株式会社ライト 代表取締役 A氏

【相談内容】

「当社は、イタリアの家具メーカーであるB社から定期的に製品を輸入しております。前回の取引において、B社から届いた貨物の一部に破損があり、B社に対して40万円の損害賠償債権が発生いたしました。B社はその支払いを認めたものの、送金の手間を省くため、今回の取引代金100万円からその40万円を差し引き、残りの60万円だけを支払ってほしいと提案してきました。

当社はこの提案を受け入れ、実際に60万円を海外送金いたしました。通関業者には、B社から送られてきた60万円のインボイス(仕入書)を提出し、そのまま60万円を輸入申告価格として申告いたしました。しかし、佐藤氏は、本来の商品の価値は100万円であることを知っており、この申告方法で問題がないのか不安に感じています。もし税関の事後調査で指摘を受けた場合、どのような責任を問われるのでしょうか。また、正しい申告価格はどのように算出されるべきなのか、専門的な見地からのアドバイスを求めています。」

このような事例は、国際ビジネスの現場では珍しくありません。迅速、円滑な取引のために債権債務を相殺等して実際にやり取りする代金を増減させるという対応が行われております。しかし、関税法および関税定率法の観点からは、実際に送金した金額だけを申告することは、重大な過少申告に該当する可能性が極めて高いといえます。本記事では、専門的な知見に基づき、買手が売手の債務の一部を肩代わりした場合の輸入申告価格の考え方を詳しく解説いたします。

1 買手が売手の債務の一部を肩代わりした場合の輸入申告価格

結論から申し上げますと、実際の売買代金が100万円である以上は、100万円を輸入申告価格として取り扱うことが必要です。たとえ実際に送金した金額が相殺後の60万円であっても、関税の課税対象となる貨物の価値は、相殺前の総額(100万円)に基づかなければなりません。

【現実支払価格の定義と法的根拠】

輸入申告価格の決定にあたっては、関税定率法第4条第1項に規定される「現実支払価格」を正しく理解する必要があります。

関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)

第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

ここで言う取引価格の基礎となるのが現実支払価格ですが、これについては関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)において詳細に規定されています。

関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)

(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。

直接の支払いだけでなく、間接的な支払いも含まれるという点が極めて重要です。売買代金としては100万円だが、売主が買主に対して有するその他の債務40万円分を相殺させ、60万円のみを売買代金として買主が売主に対して支払うということが行われることがありますが、この相殺された40万円分は、売手のために買手が債務を免除した、あるいは肩代わりした「間接的な支払い」に該当いたします。

仮に、インボイス等の書類上の数字を調整したとしても、実際の商品の価値が100万円である場合には100万円を商品価格として取り扱う必要がある点には十分ご注意ください。

2 相殺取引と課税価格の関係性を整理した実務表

実務において混乱しやすい相殺取引の構成を以下の表にまとめました。社内でのチェックリストとしてご活用ください。

【債務相殺がある場合の課税価格算定表】

項目名|金額の内容|課税価格への算入要否

契約上の総額|商品の本来の売買価格|全額算入する

直接支払額|実際に海外送金した金額|算入する

相殺・肩代わり額|債務の免除や相殺分|算入する(間接支払)

値引き額|純粋な商慣習上の値引き|算入しない

課税価格(申告額)|上記直接及び間接支払の合計|合計額を申告する

このように、送金額イコール申告価格ではないという事実を、実務担当者は正しく認識しなければなりません。単に帳簿上の数字を追うだけでは、知らず知らずのうちに脱税行為に加担してしまうリスクがあります。

3 輸入を継続的に行う場合に留意すべき様々な規制

貨物の輸入に関する規制は、主として関税法や関税定率法等に規定されておりますが、なかなか通常の感覚では理解できない部分も多いといえます。

上記1の説明内容についても、通常の感覚では、輸入申告価格は、単に商品価格を申告すればよいのではないか、と考えるところですが、正確な理解はむずかしいといえます。

この他にも、例えば、貨物の輸入の際に、何らかのロイヤリティを売手や第三者に対して支払う場合、当該ロイヤリティについては、輸入申告価格に加算しなければならないというのが原則です。

【ロイヤリティ加算の法的根拠】

(関税定率法第4条第1項第4号)

四 当該輸入貨物に係る特許権、実用新案権、意匠権、商標権その他これらに類するもの(中略)の使用の対価として買手により直接又は間接に支払われる費用であつて、当該輸入貨物に関連し、かつ、当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により直接又は間接に支払われるもの。

加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に刑事罰や追徴課税が行われることとなります。特に、商品の代金とは別ルートで国内の権利会社や海外の親会社に支払っているロイヤリティは、税関の事後調査において最も厳しく追及される項目の一つです。

他にも、買手が負担する容器の費用や包装の費用、あるいは製造のために無償提供した金型の費用なども、課税価格に算入しなければなりません。これらを知らずに放置することは、企業にとって極めて大きな法的リスクを抱え込むことを意味いたします。

4 不適切な輸入申告に伴う厳格なペナルティ

正しい価格で申告を行わなかった場合、関税法に基づく厳しい制裁が待っています。特に相殺によって申告価格を低く見せる行為は、悪質な「アンダーバリュー」とみなされる危険性があります。

(1)追徴課税および加算税の賦課

税関の事後調査で過少申告が発覚した場合、不足税額の徴収に加え、過少申告加算税が課されます。

関税法第12条の2(過少申告加算税)

税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

(2)重加算税の適用リスク

意図的に相殺後の金額で申告書類を作成し、本来の取引総額を隠蔽したと判断された場合、さらに強力な重加算税が課されます。

関税法第12条の4(重加算税)

事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。

(3)刑事罰の可能性

偽りその他不正の行為により関税を免れた場合、懲役や罰金が科される可能性もあります(関税法第110条)

一度、税関のブラックリストに掲載されると、その後の輸入において全件検査の対象となるなど、ビジネスのスピードが著しく低下し、企業の社会的信用も大きく毀損されることとなります。

5 専門家による事前リーガルチェックの重要性

他にも、輸入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかを事前にリーガルチェックすることをお勧めいたします。また、もし既に輸入を開始しているという場合には、一度ビジネスの仕組みが問題ないかどうかを確認いただくことをお勧めします。

専門家の視点を入れることによる具体的なメリットは、以下の通りです。

一 契約書の不備の発見

売買契約書において、債務の相殺やロイヤリティの支払いがどのように規定されているかを精査し、関税評価上のリスクを事前に排除いたします。

二 適切な申告フローの構築

通関業者に対し、どのような証拠書類(相殺前のインボイスや送金証明書)を提出すべきか、適正な実務手順を指導いたします。

三 事後調査への備え

税関が事後調査に来た際、どのように説明すれば法的整合性が保たれるかを準備しておくことで、不当な加算税の賦課を防ぎます。

四 節税とコンプライアンスの両立

法令の範囲内で、加算する必要のない費用を適切に切り分け、無駄な納税を抑えつつ完璧なコンプライアンスを実現いたします。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

弊事務所は、税関事後調査を含む税関対応や輸出入トラブル、広告関連法務を中心に企業法務を幅広く扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主なサポート】

一 輸入取引における課税価格算定のリーガルアドバイス

二 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉

三 ロイヤリティ契約や代理店契約のリーガルチェック

四 不当な更正処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理

お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。不必要なペナルティを回避し、貴社の輸入ビジネスをより強固なものにするお手伝いをいたします。

7 まとめ:適正な関税評価がビジネスの安定を支える鍵

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な作業こそが、グローバルビジネスを安定させ、企業の成長を守る唯一の道です。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮してサポートを継続してまいります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入取引における金型代の取扱い

2023-04-16

はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、工業用機械やプラスチック製品の製造委託に関連して頻繁に発生する金型代と、輸入申告価格(課税価格)の関係について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務において、製造を海外に委託している企業様にとっては、非常に重要かつ見落としやすい内容となっております

【相談者】

埼玉県内でプラスチック製品の製造販売を行う株式会社パーツ 代表取締役 佐藤氏

【相談内容】

「当社は数年前から、中国の提携工場に製品の製造を委託し、そのための専用金型を現地で製作してもらっています。金型代としての500万円については、量産開始前に別途海外送金で支払いを済ませております。その後、完成した製品を順次輸入しており、通関業者には製品の仕入単価が記載されたインボイスを提出して申告を依頼しています。

佐藤氏は、金型はあくまで製造のための道具であり、輸入する製品そのものの代金ではないため、製品のインボイス価格だけで申告すればよいと考えていました。ところが先日、税関から事後調査の通知が届き、金型代の支払いについて確認したいと言われました。もし金型代を申告に含めなければならなかった場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか。また、過去に遡ってどのように修正すべきなのか、専門的な見地からのアドバイスを求めています。」

このような事例は、製造を海外に委託している企業において非常に多く見受けられます。輸入者は意図的な脱税のつもりはなくても、法的な理解不足から結果として過少申告となってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、専門的な知見に基づき、金型代が輸入申告価格に与える影響とその適切な処理方法を詳しく解説いたします。

1 金型代と輸入申告価格の決定原則

工業機械を海外の工場に製作してもらった上で購入し、日本に輸入する場合、当該工業機械や製品の製造のために金型を作成してもらうことが一般的です。

このように金型代を輸入者側から海外の工場に対して支払っていた場合、工業機械等を輸入する際の輸入申告価格はどのように考えるべきでしょうか。

工業機械を輸入する以上は、工業機械の購入代金を輸入申告価格とすればよいのではないか、とお考えの方も多く、実際に購入代金のみを輸入申告価格としている方も多いのが実情です。

しかし、このような輸入申告は誤りですので注意が必要です。

(1)課税価格決定の原則と法的根拠

具体的には、輸入申告価格の基本的な考え方は、商品の売買価格を基礎として、当該価格に含まれていない限りで、関税定率法等に規定されている一定の加算要素を加算するというものです。

関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)

第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

この考え方の基礎にあるものは、輸入する商品の価値を適切に申告してもらい、当該価値について関税等を課すという点にあります。輸入申告価格とは、単にインボイスに記載された数字を転記するものではなく、日本に到着した時点での貨物の真実の価値を反映していなければなりません。

(2)金型代の加算要否

したがいまして、金型がなければ当該製品を製造することはできなかった以上、金型代として輸入者が海外の工場側に対して支払ったものについては、輸入申告価格に加算することが必要となります。

これは、関税定率法第4条第1項第3号に規定される「買手により無償で提供された物品の費用(アシスト)」に該当するためです。

関税定率法第4条第1項第3号

三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により直接又は間接に、無償で又は値引きして提供された次に掲げる物品又は役務の費用(中略)

ロ 当該輸入貨物の生産に使用された工具、金型その他これらに類するもの

たとえ金型が日本から送られたものではなく、現地の工場で製作されたものであっても、その費用を輸入者が負担している以上、それは輸入貨物の価値の一部を構成するものとみなされます。この点について、多くの輸入者が「現地で決済が終わっているから関係ない」と誤解していますが、送金実態と貨物の結びつきが重視されるのが関税評価の原則です。

2 金型代の加算方法と実務上の計算手法

金型代をどのように申告価格に反映させるかについては、主に二つの実務的な手法が認められています。これを適切に選択しなければ、過大申告や過少申告を招く恐れがあります。

(1)一括加算方式

金型の全額を、その金型を使用して製造された貨物の最初の輸入申告の際にすべて加算する方法。この方法は、管理が一度で済むというメリットがありますが、初回輸入時の納税額が非常に高額になるため、キャッシュフローへの影響を考慮する必要があります。

(2)分割加算方式(按分計算)

金型を使用して製造される予定の総数量で金型代を割り、一個あたりの製品価格に上乗せして申告する方法。

関税定率法基本通達4-12(買手により提供された物品等の費用)

買手により提供された金型等の費用を輸入貨物の課税価格に加算する場合において、当該費用をどのように配分するかについては、輸入者の申告に基づき、妥当と認められる方法(例えば、最初に輸入される貨物の価格に全額を加算する方法、予定される総生産数量に按分する方法等)によって計算して差し支えない。

按分計算を選択する場合、将来の生産予定数量を合理的に証明する書類(契約書や製造計画書など)が必要となります。生産予定が変わった場合には、修正申告等の対応が必要になることもあるため、慎重な帳簿管理が求められる点に注意が必要です。

3 実務で活用できる関税評価チェックリスト

輸入取引において、金型代以外にも加算漏れが生じやすい項目を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、社内のコンプライアンス点検にご活用ください。

【輸入価格(課税価格)の算入判断基準一覧表】

確認項目|具体的な内容|算入の要否

金型・工具費|製造用の金型の製作費や償却費|算入する

原材料・部品|日本から無償提供した部品等の代金|算入する

設計・図面代|日本以外で作成された設計図等の費用|算入する

ロイヤリティ|特許権や商標権の使用料|算入する

仲介手数料|売手と買手を仲介する者への報酬|算入する

買付手数料|専ら買手のために動く代理人への報酬|算入しない

輸入港までの運賃|日本に到着するまでの海上・航空運賃|算入する

このように、貨物の純粋な仕入価格以外にも、多くの要素が課税価格に含まれる点に留意が必要です。特に買付手数料については、非常に厳格な要件があるため、自己判断は禁物となります。

4 輸出入をめぐるルール違反に対する厳格なペナルティ

貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に規定されておりますが、なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと刑事罰や追徴課税などの様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。

(1)アンダーバリューと脱税の罪

例えば、アンダーバリュー、すなわち、輸入する貨物の輸入申告価格を実際の貨物の購入価格よりも低額に申告した場合には脱税となりますので、刑事罰や追徴課税などのペナルティがあります。

金型代を意図的に除外して申告することは、税関の視点からはアンダーバリューの一種とみなされる可能性があります。

関税法第110条(関税を免れる罪)

第1項 偽りその他不正の行為により、関税(中略)を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(2)行政罰としての加算税

また、意図的な隠蔽や仮装が認められない場合でも、不正確な申告に対しては行政罰としての加算税が課されます。

関税法第12条の2(過少申告加算税)

税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

関税法第12条の4(重加算税)

事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。

金型代の送金記録は銀行に確実に残るため、税関事後調査において最も指摘されやすい項目の一つです。指摘を受けた場合、過去数年分の全輸入取引について遡及して追徴されることとなり、企業の経営に甚大なダメージを与える結果となります。

5 専門家による事前リーガルチェックの重要性

他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を事前に事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を円滑に進めることが可能となります。

輸入申告価格は単に貨物の仕入価格と考えればよいわけではなく、前述した通り様々な加算要素がありますので、慎重に検討することが非常に重要です。

特に以下の点については、自社だけで判断せず、専門家の視点を入れるべきです。

一 金型代の按分計算が妥当であるか。

二 金型を無償提供する際の資産価値の算定が正しいか。

三 金型の修理費用やメンテナンス費用をどちらが負担しているか。

四 ロイヤリティ契約が輸入の条件となっているか。

これらは、関税評価上の極めてデリケートな論点であり、税関との見解の相違が生まれやすい部分です。事前に法的な根拠に基づいた整理を行っておくことで、事後調査におけるリスクを最小限に抑えることができます。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

弁護士でありながら通関実務の深い知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。

当事務所が提供できる主なサポート

一 輸入取引における課税価格算定のリーガルアドバイス

二 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉

三 修正申告や更正請求の手続代行

四 不当な課税処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理

通関業者に申告を任せているから安心だ、と考える輸入者も多いですが、通関業者はあくまで輸入者から提供された書類に基づいて申告を行います。金型代の別途支払いのようなインボイスに載っていない情報については、輸入者自身が自覚を持って管理し、適切に伝えなければなりません。

7 まとめ:適正な関税評価がビジネスの安定を支える

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な作業こそが、グローバルビジネスを安定させ、企業の成長を守る唯一の道です。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮してサポートを継続してまいります。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です

8 補足:金型代に関する具体的な計算例

理解を深めるために、数値を用いた具体例を挙げます。

【前提条件】

一 工業機械の単価:1000万円

二 金型の製作費用:500万円(別途支払い済み)

三 予定輸入数量:10台

(1)一括加算を選択した場合

最初の1台目を輸入する際、申告価格は1000万円プラス500万円で1500万円となります。残りの9台は各1000万円で申告します。早期に納税を完了させたい場合に有効な手法。

(2)按分計算を選択した場合

500万円を10台で割り、一台につき50万円を加算します。毎回の申告価格は1000万円プラス50万円で1050万円となります。コストを平準化したい場合に適した手法。

このように、どちらの方法をとるかによって一回あたりの納税額が変わります。キャッシュフローや管理の手間に合わせて最適な方法を選択する必要があります。

9 税関事後調査への具体的な備え

税関事後調査では、過去3年から5年分の会計帳簿、銀行の送金記録、仕入先との契約書、さらには電子メールのやり取りなどが精査されることとなります。金型代の支払いがモールドフィーやツーリングコストといった名目で送金されている場合、それがどの輸入申告に対応しているかが明確でなければなりません。

【適切な管理体制の構築】

一 金型ごとの管理台帳の作成

二 送金記録と輸入申告書の紐付け

三 按分計算の根拠となる生産計画資料の保管

四 金型使用後の処置(廃棄、他社転用等)の記録

もし、これらの管理に不安がある場合は、早急に体制を見直すべきです。当事務所では、事後調査が入る前の自主点検(プリ・オーディット)も実施しております。事前の自主的な修正申告であれば、過少申告加算税が免除される可能性もあります。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入貨物の仕様変更に伴う追加費用の取扱い

2023-04-09

はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、海外メーカーに対して商品の仕様変更を依頼し、それに伴う追加費用(アレンジ費用)が発生した場合の輸入申告価格(課税価格)の決定方法について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容に基づいた、以下の事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内でアウトドア用品の輸入販売を営む株式会社マウンテン 代表取締役 A氏

【相談内容】

「当社は、海外のメーカーが既製品として販売しているテントを輸入する計画を立てました。しかし、日本のキャンプ事情に合わせて、テントの入り口部分にメッシュパネルを追加し、さらに耐水性能を高めるための素材変更を依頼しました。メーカーからは、この仕様変更のために一型あたり50万円の『仕様変更アレンジ費用』を別途請求されました。商品の単価自体は変わりませんが、この50万円の費用を商品の代金とは別に海外送金で支払いました。

通関業者に相談したところ、この費用は商品の代金とは別物だから輸入申告価格に含めなくてよいのではないかと言われましたが、確信が持てません。もし事後調査で指摘を受けると、過去の輸入分すべてに影響するため、法的な根拠に基づいた正確な取扱いを知りたいと考えております」

このような事例は、日本の市場ニーズに合わせたカスタマイズを積極的に行う企業において非常に多く見受けられます。商品の仕様変更に要した費用が、関税法上の「課税価格」にどのように影響するのか、専門的な見地から解説いたします。

1 商品の仕様の修正を求めた場合の輸入申告価格

ある商品を海外から輸入する場合、輸入申告価格は仕入れ代金が基礎となり、関税定率法等を踏まえ、加算する必要がある費用について加算することになります。

では、海外のメーカーが販売する商品の仕様の修正を求め、修正後の商品を輸入する場合、輸入申告価格はどのように考えるべきでしょうか。商品の仕様の修正に一定額の費用が発生し、当該アレンジ費用を日本に拠点を有する輸入者側が負担したとします。

輸入申告価格の基本的な考え方は、商品の売買価格を基礎として、当該価格に含まれていない限りで、関税定率法等に規定されている一定の加算要素を加算するというものです。この原則は関税定率法第4条第1項に規定されています。

(関税定率法第4条 課税価格の決定の原則)

第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

この考え方の基礎にあるものは、輸入する商品の価値を申告してもらい、当該価値について関税等を課すという点にあります。輸入申告価格とは、単にインボイスに記載された数字を転記するものではなく、輸入される貨物が日本に到着した時点での「真実の価値」を反映していなければなりません。

設例の場合ですと、商品の仕様の修正に一定額の費用が発生し、それを輸入者側が負担したとのことですので、当該費用も輸入申告価格に加算する必要があるものと考えられます。たとえインボイス上の単価が変わっていなくても、その商品が完成するために不可欠な開発費や変更費用を輸入者が負担している場合、それは「現実支払価格」の一部、あるいは「算入すべき費用」として扱われます。

通常の感覚では、開発費やアレンジ費用は「一度限りの経費」であり、個々の商品の価格とは別物だと捉えがちですが、関税評価上はそれらを含めて一つの「貨物の価値」を構成するとみなされます。あくまでも輸入申告価格とは、商品の仕入れ代金を申告するものではなく、当該商品の価値を適切に申告するという視点に焦点が当たっていると考えることが重要です。

ここで、参考となる通達を確認しましょう。

(関税定率法基本通達4-2 現実支払価格)

(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。

メーカーに対して支払った仕様変更の費用は、まさに「売手に対し、当該輸入貨物の対価として直接支払った総額」に含まれるべきものです。したがって、これを申告から除外することは過少申告に該当いたします。

2 輸入申告価格における実務的な加算項目の整理

輸入申告価格を算出する際、どのような費用を加算すべきかを体系的に理解するために、以下の表を作成いたしました。社内でのチェックリストとしてご活用ください。

【輸入申告価格(課税価格)における加算要素の判定表】

項目 | 内容の具体例 | 課税価格への算入要否 |

仕様変更費用 | デザイン変更、素材変更に伴う追加代金 | 算入する |

金型・工具費 | 買手が無償提供した金型の製作費や償却費 | 算入する |

原材料のアシスト | 日本から無償提供したボタンやファスナーの代金 | 算入する |

仲介手数料 | 売手と買手の間を仲介する者に支払う手数料 | 算入する |

ロイヤリティ | 商標権や特許権の使用料(輸入条件である場合) | 算入する |

買付手数料 | 専ら買手のために動く代理人に支払う手数料 | 算入しない |

輸入港までの運賃 | 日本に到着するまでの海上運賃や航空運賃 | 算入する |

この表からもわかる通り、買付手数料を除き、輸入取引に関連して発生した費用の多くは課税価格に算入する必要があります。少し乱暴な言い方をすると、輸入取引の過程で当該商品のために発生した費用は基本的には輸入申告価格に加算する必要があると考えておいた方が安心といえます。

3 買付手数料と仲介手数料の峻別

輸入申告価格にはご注意ください。貨物の輸入や輸出に関する規制は、関税法や関税定率法、それらの通達等に規定されておりますが、なかなか通常の感覚では理解できない部分も多く、また、あまり知られていないものの重要なルールも相当程度ございます。

例えば、貨物の輸入のために現地の人にサポートしてもらう場合、当該サポーターに支払う委託料については、例外的に買付代理人に対して手数料と構成できる場合は除き、輸入申告価格に加算しなければならない場合も多く、加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。

ここで言う「買付代理人」とは、輸入者のために、輸出者を探し、注文を伝え、検品や船積みの手配などを輸入者の計算と責任において行う者のことを指します。

これに対し、売手と買手の間に入って取引を成立させる「仲介人」に支払う手数料は、算入対象となります。実務上、このパートナーが「買付代理人」に該当するかどうかは、単に名称がエージェントであるかどうかではなく、契約の実態やリスクの負担関係によって厳格に判断されます。もし実態が仲介人であるにもかかわらず買付手数料として非課税で申告していると、税関事後調査において重いペナルティを課されることになります。

4 不適切な輸入申告に伴う法的リスクとペナルティ

正しい価格で申告を行わなかった場合、関税法に基づく厳しい制裁が待っています。

一 追徴課税の発生

不足していた関税および輸入消費税の徴収

二 過少申告加算税

不足税額の10パーセント(一定額を超える部分は15パーセント)の徴収

三 重加算税

事実を隠蔽または仮装したとみなされた場合、35パーセントという極めて重い罰則的加算税

四 刑事罰

偽りその他不正の行為により関税を免れた場合、懲役や罰金が科される可能性もあります(関税法第110条)

仕様変更のアレンジ費用などは、送金記録が銀行に残るため、税関事後調査において最も指摘を受けやすい項目の一つです。「知らなかった」という言い訳は通用せず、過去3年から5年分の取引すべてを遡って追徴されることがあり、企業の経営に多大な影響を及ぼします。

5 専門家による事前リーガルチェックの重要性

他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、事前に事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。

特に以下のような場合には、専門的な検討が不可欠です。

一 今回のように商品の仕様を特別に変更し、別途費用を支払う場合

二 現地のエージェントに対して、買付手数料の名目で多額の支払いがある場合

三 輸入貨物に係るロイヤリティを、売手以外の第三者(権利会社)に支払っている場合

四 製造に必要な金型や材料を無償提供(アシスト)している場合

これらはすべて、関税評価上の「落とし穴」になりやすい論点です。輸入申告を行う通関業者は、輸入者から渡された書類に基づいて申告を行いますが、その書類の元となる契約の実態や、別途の海外送金の内容まで把握しているわけではありません。最終的な納税責任を負うのは輸入者自身であることを忘れてはなりません。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

弊事務所は、税関事後調査を含む税関対応や輸出入トラブル、広告関連法務を中心に企業法務を幅広く扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

事後調査が来てから慌てるのではなく、輸入を開始する前の段階で正しい申告フローを構築しておくことこそが、最も効果的なリスクマネジメントとなります。

当事務所では、具体的に以下のサービスを提供しております。

一 輸入取引スキームの適法性診断および関税評価のアドバイス

二 買付委託契約や売買契約書の作成およびリーガルチェック

三 税関事後調査における立ち会い、および指摘事項に対する抗弁

四 不当な課税処分に対する不服申立て手続きの代理

お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

7 まとめ:適正な関税評価がビジネスの安定を支える

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な作業こそが、グローバルビジネスを安定させ、企業の成長を守る唯一の道です。当事務所は、その法的基盤を盤石にするためのパートナーとして、常に最善の助言を提示いたします。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

保税地域における貨物転売と輸入取引の特定

2023-03-27

はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、貨物を日本の保税倉庫に搬入した後に転売が行われた場合の、関税法および関税定率法上の取り扱いについて詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内で海外製の精密機器を輸入販売している株式会社サクラ 代表取締役 A氏

【相談内容】

「当社は先日、ドイツの製造メーカーであるB社から、新型の産業用センサーを20台購入いたしました。貨物はすでに成田空港の保税蔵置場に搬入されており、輸入申告の手続きを進めようとしていたところです。しかし、輸入許可が下りる直前のタイミングで、以前から商談を進めていた国内の取引先である株式会社ヒマワリから、このセンサーを至急ですべて買い取りたいという強い要望がありました。

当社としては、保税地域にある外国貨物の状態のまま、株式会社ヒマワリに対して当該製品を転売することを検討しております。この場合、税関へ申告する際の課税価格は、当社がドイツのB社から購入した際の価格でよいのでしょうか。それとも、株式会社ヒマワリへ販売する際の転売価格で申告しなければならないのでしょうか。もし申告価格を誤った場合、後から大きなペナルティを受ける可能性があると聞き、法的な根拠に基づいた適切な対応を知りたいと考えております。」

このような事例は、国際物流の現場ではしばしば発生いたします。特に、船便や航空便の到着後に国内での需要が急増した場合や、在庫の最適化を図る際に保税地域内での権利移転が行われることがあります。この際、誰が実質的な買手であり、どの契約が輸入取引に該当するのかを正確に判断することが、適正な関税申告の第一歩となります。

1 保税倉庫で保管中の売買と輸入取引の考え方について

貨物を日本の保税倉庫に搬入後、輸入許可が下りる前に、当該貨物の売買が行われた場合の輸入取引の考え方はどのように整理されるでしょうか。

ここで重要となるのが、関税定率法上の輸入取引という概念の定義です。輸入申告価格、すなわち課税価格を決定するためには、まず現実に日本に貨物が到着することとなった直接の原因を特定しなければなりません。

【輸入取引の法的定義と根拠法令】

輸入取引の定義については、関税定率法第4条第1項、および同法基本通達4-1(1)において、次のように明確に規定されています。

(関税定率法基本通達4-1 輸入取引の意義)

法第4条第1項に規定する輸入取引とは、本邦に拠点を有する者が買手として、当該輸入貨物を本邦に到着させることを目的として、売手との間で行った売買をいい、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった原因としての取引を指す。

この定義に基づき、冒頭の事例における二つの取引を法的に分析してみましょう。

(1)ドイツのB社と株式会社サクラとの取引

この取引は、日本に拠点を有する株式会社サクラが買手となり、センサーを日本に到着させることを目的としてドイツの売手と行った売買です。現実に貨物がドイツから日本へ発送され、保税地域に到着した直接の原因は、紛れもなくこの取引にあります。

(2)株式会社サクラと株式会社ヒマワリとの取引

この取引は、貨物がすでに日本の保税地域に到着した後に、国内に拠点を持つ当事者間で行われた売買です。株式会社ヒマワリとの契約があったから貨物が日本に到着したわけではなく、到着後に単に所有権が移転したに過ぎません。したがって、この取引はあくまでも日本国内における国内取引という性質を持ちます。

以上のような法的な構成を前提に考えますと、たとえ輸入許可前に転売が行われたとしても、当該貨物に係る輸入取引は(1)のB社とサクラ社との間の取引に該当することとなります。

したがって、輸入申告における課税価格の基礎となるのは、当初のドイツメーカーからの仕入れ価格であると考えて問題ないでしょう。

実際に輸入許可が下りるまでの間に複数の取引が行われている場合には、貨物が日本に到着することとなった直接の取引が何であるかを特定することが重要です。

2 保税地域と外国貨物の法的性質に関する理解

保税地域とは、関税の徴収を保留したまま外国貨物を置くことができる場所として税関長が許可した場所です。関税法上、貨物は輸入許可を受けるまでは外国貨物として厳格に管理されます。

(関税法第2条第1項第3号 外国貨物の定義)

外国から本邦に到着した貨物(輸出の許可を受けた貨物を含む)で、輸入の許可がされる前のものをいう。

(関税法第30条 外国貨物を置く場所の制限)

外国貨物は、原則として保税地域以外の場所に置いてはならない。

保税地域内で外国貨物の転売を行うこと自体は、商慣習として認められており、直ちに違法となるものではありません。しかし、輸入申告を行う段階では、誰が納税義務者としての買手であるかを確定させる必要があります。もし、転売価格(利益が上乗せされた価格)を基礎として申告すべきケースであるにもかかわらず、低い仕入れ価格で申告を続けていると、脱税行為とみなされる危険性があります。

3 輸入申告価格の決定と加算要素の精査

輸入申告価格は、単に貨物の仕入れ価格と考えればよいわけではありません。関税定率法第4条第1項に基づき、取引価格に一定の費用が含まれていない場合には、それらを加算して課税価格を算出する必要があります。

主な加算要素の例

一 輸入港までの運賃および保険料

二 買手により負担される仲介手数料その他の手数料(買付手数料を除く)

三 輸入貨物の生産に関連して、買手により無償で提供された金型や原材料の費用

四 輸入貨物に係る特許権や商標権の使用の対価(ロイヤリティ)

保税地域での転売が絡む場合、当初の輸入取引に関連して別途発生しているコストがないかを慎重に検討しなければなりません。例えば、サクラ社がドイツのメーカーに対して製造用の資材を無償提供していた場合、その費用は当初の仕入れ価格に加算して申告する必要があります。

4 実務で活用できる輸入取引判定および課税価格チェック表

以下に、チェック表を作成いたしました。社内のコンプライアンス維持や、通関業者との情報共有にご活用ください。

| 確認項目 | 具体的な確認内容 |

|輸入取引の特定|日本に到着する直接の原因となった契約はどれか|

|当事者の認定|実質的に自己の計算と責任で輸入を行う者は誰か|

|取引価格の妥当性|インボイスの価格は真実の取引に基づいているか|

|加算要素の有無|運賃や保険料が申告価格に含まれているか|

|       |仲介料やロイヤリティの支払いを別途行っていないか|

|       |金型等の無償提供(アシスト)をしていないか|

|書類の保存管理|インボイス、契約書、送金記録を保管しているか|

|他法令の適合性|食品衛生法や薬機法等の輸入許可は得ているか|

5 輸出入をめぐるルール違反に対する厳格なペナルティ

貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に規定されておりますが、なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと刑事罰や追徴課税などの様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。

(1)過少申告加算税と延滞税の徴収

税関事後調査等により、申告価格の誤りや加算要素の漏れが指摘された場合、不足していた税額に加えて過少申告加算税が課されます。原則として不足税額の10パーセント、あるいは15パーセントという重い負担となります。さらに、本来の納期限からの期間に応じて延滞税も徴収されることとなります。

(2)重加算税の賦課

輸入申告価格を実際の貨物の価格よりも低額に申告した場合など、事実を隠蔽し、又は仮装したと判断された場合には、さらに強力な重加算税が課されることとなります。

(3)刑事罰の適用

悪質な脱税行為や禁止物品の輸入等とみなされた場合には、刑事罰の対象となる可能性も否定できません。

(関税法第110条 関税を免れる罪)

偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

輸入申告価格は、単に貨物の仕入れ価格と考えればよいわけではなく、様々な加算要素がありますので、慎重に検討することが非常に重要です。

6 専門家によるリーガルチェックの重要性と具体的なメリット

他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を円滑に進めることが可能となります。

特に保税地域内での転売が絡むケースでは、取引価格の妥当性だけでなく、誰が名実ともに輸入者として法的責任を果たすべきかという点が複雑になりがちです。税関による事後調査では、こうした当事者間の契約関係や資金の流れ、さらには社内のメールのやり取りまでが徹底的に調査されることとなります。

当事務所が提供できる主なサポート内容

一 輸入取引スキームの適法性診断

二 関税評価(課税価格算定)の妥当性に関するリーガルアドバイス

三 輸入代行契約や保税転売に関する売買契約書の作成および精査

四 税関事後調査への立ち会いおよび当局との交渉支援

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。お悩みをご相談いただくことで、不必要なペナルティを回避し、事業の健全な発展を支える一助となります。

結びに代えて:適正な申告がビジネスの安定を支える鍵

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

もし、現在の取引体制や申告価格の算定方法に少しでも不安を感じていらっしゃるのであれば、あるいは新しい商流の構築を検討されているのであれば、大きな問題に発展する前に、ぜひ一度専門家のリーガルチェックを受けられることを強くお勧めいたします。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

第三国を経由する輸入取引の課税価格決定

2023-03-20

はじめに:具体的な相談事例のご紹介

本日は、海外から貨物を輸入する際、直行便ではなく第三国を経由して日本に到着する場合の輸入申告価格の決定方法について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、架空の事例をご紹介いたします。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております

【相談者】

東京都内で精密機器の輸入卸売業を営む株式会社オーシャン 代表取締役 山田氏

【相談内容】

「当社は今回、ドイツのメーカーであるB社から高性能なセンサーユニットを輸入することになりました。売買契約は当社(A)とドイツのB社との間で締結されています。しかし、物流の効率化のため、貨物は一旦シンガポールにあるB社の物流拠点(C国)に送られ、そこで他の製品と混載された後、日本に向けて発送される予定です。

この場合、日本への直接的な発送元はシンガポールとなりますが、輸入申告の際の価格は、ドイツのB社と契約した際の価格で良いのでしょうか。それとも、シンガポールを経由しているため、何か特別な計算や別の中継料を考慮しなければならないのでしょうか。税関の事後調査で指摘を受けるのが不安で、法的な根拠に基づいたアドバイスをいただきたいと考えています」

このような事例は、近年のグローバルサプライチェーンの複雑化に伴い、非常に多く見受けられます。貨物が第三国を経由した場合、誰が売手であり、どの取引が輸入取引に該当するのかを正確に特定することは、適正な関税申告の第一歩となります。本記事では、専門的な知見に基づき、その判断基準を詳しく解説いたします

1 貨物が第三国を経由した場合の輸入取引の特定

海外から貨物を輸入する際、例えば、日本に所在するA氏が海外のB氏から商品を輸入するとしましょう。この場合、海外から日本に商品を輸送する過程で、第三国であるC国を経由して日本に届いた場合、輸入申告価格の前提となる輸入取引はA氏とB氏との間で発生した売買であると考えて良いのでしょうか。それとも、直接的な商品の輸出国がC国となりますので、輸入取引は存在せず、例外的な取引に該当するとして輸入申告価格を考える必要があるでしょうか。

ここで、そもそもの輸入取引の定義にさかのぼって考えてみます。輸入取引とは、日本に拠点を有するものが買手として貨物を日本に到着させることを目的として売手との間で行った売買のことを指し、現実に当該貨物が日本に到着することとなった原因とした取引のことを指します。これについては、以下の法令及び通達に規定があります。

(関税定率法第4条第1項 課税価格の決定の原則)

輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。

(関税定率法基本通達4-1(1) 輸入取引の意義)

法第4条第1項に規定する輸入取引とは、本邦に拠点を有する者(中略)が買手として、当該輸入貨物を本邦に到着させることを目的として、売手との間で行った売買をいい、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった原因としての取引をいう。

そうしますと、確かに直接的な輸出国は第三国であるC国となりますが、輸入取引該当性を判断する上では、直接的な輸出国がどこかということは必ずしも重要ではなく、あくまで実際に日本に商品が到着することとなった原因である売買取引は何かということが中心となることがわかります。したがって、A氏とB氏との間の売買取引が輸入取引に該当すると考えて問題ないものと考えられます。

たとえシンガポールで貨物の積み替えや一時的な保管が行われたとしても、当初のドイツB社と日本A氏との契約において、その貨物の最終目的地が日本であることが明確であれば、そのドイツB社との契約こそが本邦に到着することとなった原因としての取引に他なりません。この判断を誤り、中継地の業者との事務的なやり取りを取引と誤認してしまうと、課税価格の算定根拠そのものが崩れてしまうため、細心の注意が必要です。

2 輸入申告価格の算定と実務上の確認ポイント

貨物の輸入取引を特定した後は、その取引価格に加算すべき要素や除外すべき要素を精査しなければなりません。特に第三国を経由する場合、積み替え費用や保管料が誰によって負担され、それがインボイス価格に含まれているのか、あるいは別途支払われているのかを確認することが重要となります。

実務において判断を誤りやすいポイントを以下の表にまとめました。

【輸入取引の特定と課税価格の判断基準表】

取引の類型|輸入取引の該当性|課税価格の基礎となる価格|留意すべき法的事項|

--------|--------|--------|--------|

直接貿易(BからA)|該当する|BとAの売買価格|加算要素の有無を確認|

第三国経由(BからC経由A)|該当する(原因取引)|BとAの売買価格|C国での付加価値の有無|

第三国での転売(BからC,CからA)|CからAが該当|CとAの売買価格|BとCの価格は不採用|

輸入代行利用|実質的買手との取引|実質的当事者の売買価格|代行手数料の加算要否|

上記の通り、第三国を経由していても、単なる運送上の都合であれば当初の売買価格が採用されます。しかし、C国において貨物に実質的な加工が施されたり、C国の業者との間で新たな売買契約(転売)が締結されたりした場合には、その新たな取引が輸入取引となる可能性があります。具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

3 買付手数料と課税価格の加算リスク

輸入や輸出を継続的に業として行う場合には、ご注意ください。貨物の輸入や輸出に関する規制は、関税法や関税定率法等に規定されておりますが、なかなか通常の感覚では理解できない部分も多く、また、あまり知られていないものの重要なルールも相当程度ございます。

例えば、貨物の輸入のために現地でパートナーに動いてもらう場合、パートナーに支払う委託料については、例外的に買付代理人に対して手数料と構成できる場合は除き、課税価格に加算しなければならない場合も多く、加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。ここで、買付手数料として加算が不要となるための考え方としては、関税定率法基本通達を踏まえますと。買付けに関し買手を代理する者に対し、当該買付けに係る業務の対価として支払われる手数料(以下買付手数料という。)は、当該買付けを代理する者が自己の計算と危険負担において当該業務を行っていないと認められる場合に限り、課税価格に算入しない、と解されております。

より具体的には、そのパートナーが売手(B社)からも利益を得ていないか、買手(A氏)の指示に従って動いているか、独立した計算で動いていないかといった実態が問われます。契約書の名称が手数料となっていても、実態が仲介料(売手と買手の双方を媒介するもの)と判断されれば、課税価格に算入しなければなりません。この判定は税関の事後調査において非常に厳しくチェックされる項目の一つです。

4 税関事後調査のリスクと事前対策の重要性

税関事後調査とは、貨物の輸入許可から一定期間が経過した後に、税関が輸入者の事業所などを訪れ、申告が正しかったかを確認する調査のことです。輸入申告の際には通関業者に任せきりであっても、事後調査で責任を問われるのは輸入者本人です

不適切な申告が発覚した場合のペナルティは以下のようなものがあります

一 追徴課税の発生

不足していた関税及び輸入消費税の徴収

二 過少申告加算税

不足税額の10パーセント(一定額を超える部分は15パーセント)の賦課

三 延滞税

納期限からの日数に応じた利息相当額の徴収

四 重加算税

事実を隠蔽または仮装したと判断された場合、35パーセントという極めて重い税率の適用

他にも、輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかを事前にリーガルチェックすることをお勧めいたします。特に、第三国を経由するような複雑な物流スキームや、現地エージェントを利用する形態では、一度誤った申告方法が定着してしまうと、過去数年分の全取引が追徴対象となる恐れがあるため、早期の改善が不可欠です。

5 弁護士による専門的サポートのご案内

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。輸出入トラブルや通関トラブル、広告関連法務を中心に企業法務を幅広く扱っておりますので、お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです

【当事務所が提供できる主なサービスのご紹介】

(1)事業計画のリーガルチェック

これから輸出入ビジネスを開始される企業様、または新しい取引スキームを構築される企業様に対し、関税法及び関税定率法の観点からリスク診断を行います。

(2)税関事後調査への対応支援

実際に税関から事後調査の通知が来た際、調査への立ち会いや、税関当局との法的な交渉、意見書の作成などを行います。

(3)関税評価(課税価格算定)の妥当性精査

買付手数料、ロイヤリティ、無償提供物品(アシスト)など、判断が難しい加算要素について、適切な申告ができるよう指導いたします。

(4)不服申立て及び訴訟代理

税関による更正処分や過少申告加算税の賦課に対し、納得がいかない場合の不服申立て(審査請求)や税関訴訟の手続きを行います。

6 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道

輸入ビジネスにおいて、貨物が無事に届くことは当然の目的ですが、その背後にある税務・法務的な適正性を疎かにしては、企業の継続的な発展は望めません。特に今回解説した第三国経由の取引や、現地パートナーへの支払いといった論点は、専門的な法的判断を要する部分です。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、透明性の高い取引体制を構築すること。それが、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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