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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において近年トラブルが増加している輸入代行と薬機法の関係について、最新の裁判例を基に詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。副業や新規事業として化粧品等の輸入を検討されている方にとって、非常に重要なリスク管理の視点が示されています。
【相談者】
都内でECサイトを運営し、海外製の除菌グッズや化粧品の販売を計画しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、韓国のメーカーからアルコール配合のハンドジェルを大量に輸入し、日本国内で販売することを計画いたしました。当社は化粧品製造販売業の許可を持っていないため、当該許可を有する輸入代行業者であるY社に対し、薬機法に基づく適正な輸入手続きとラベル貼り、成分チェック等を委託いたしました。しかし、実際に届いた製品のラベルには「強力除菌」という薬機法上、化粧品では認められない効能が表示されており、保健所からの指導を恐れた卸売先から全ての注文がキャンセルされてしまいました。さらに、事後的な調査で、ラベルに記載されたアルコール濃度が実際の数値より低いことも判明いたしました。
B氏は、輸入代行業者が薬機法上の義務を怠ったために多大な損害を被ったと考え、Y社に対して損害賠償を請求したいと考えています。一方で、輸入代行業者は「薬機法は行政上の取り締まり法規であり、業者間の契約トラブルにおいて直ちに不法行為責任を負うものではない」と主張し、責任を認めてくれません。このような場合、法的にどのような請求が可能なのでしょうか。また、将来的にこのようなトラブルを回避するためには、どのような体制を構築すべきでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、近年のEC市場の拡大に伴い、非常に多く見受けられます。輸入や輸出に関わる個人、法人は増加傾向にありますが、その実務には高度な専門性と法規制の理解が不可欠です。本日は、まさにこのようなトラブルが争点となった東京地判令和4年9月30日の事例をご紹介し、輸入実務における法的責任の所在について掘り下げていきます。
1 事案の概要:輸入代行とラベル表示を巡る紛争
本件は、海外製品を日本市場へ導入する際の「輸入代行」というスキームにおいて、委託者と受託者の間で生じた法的責任の範囲が問われた事案です。
(1)登場人物と取引の構造
原告であるXは、海外の企業Aからアルコールジェル製品を購入いたしました。しかし、日本国内で化粧品として販売するためには、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づき、化粧品製造販売業者としての許可が必要です。そこでXは、当該許可を有する被告Yを輸入代行業者として選定し、製品を化粧品として輸入する業務を委託いたしました。Yは、輸入申告や国内向けのラベル作成、貼付といった実務を担当する立場にありました。
(2)発覚した問題点
輸入・販売が開始された後、以下の二つの重大な事実が発覚いたしました。
一 同製品には「除菌」と表示されたラベルが添付されていましたが、薬機法上、化粧品として届け出た製品に「除菌」という医薬部外品や医薬品を連想させる表示をすることは、標榜可能な効能効果の範囲を逸脱しており違法であること。
二 製品のラベルに表示されたアルコール濃度よりも、実際の成分分析結果による濃度が低いことが発覚したこと。
(3)訴訟に至る経緯
Xは、これらの問題によって販売予定であった顧客からのキャンセルや値引き要求、在庫の滞留等の損害を被ったと主張いたしました。その法的構成として、輸入代行業者であるYが、薬機法上の義務及び民法上の信義則上の注意義務に違反したと主張し、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求いたしました。
2 裁判所の判断:取締法規と私法上の責任の峻別
東京地方裁判所は、薬機法という公法上の規制が、私人間(業者間)の不法行為責任を直ちに基礎付けるものになるかという点について、極めて慎重かつ明快な判断を下しました。
(1)薬機法の性格と行為義務の否定
裁判所はまず、薬機法という法律の目的について言及いたしました。
「薬機法はあくまで取締法規上の行為規範であって、直ちに不法行為法上の行為義務ないし注意義務を意味するものではない。したがって、薬機法上の義務違反が、直ちに医薬品等を購入した業者に対する不法行為法上の行為義務違反となるものではないというべきである。」
これは、薬機法が医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保を通じて「保健衛生の向上」を図ることを目的とするものであり、特定の取引相手の経済的利益を保護することを直接の目的としていないことを示しています。
(2)侵害された利益の性質と瑕疵の程度
次に、Xが主張する損害(被侵害利益)の内容について、以下のように判示いたしました。
「本件商品の瑕疵の内容を見ると、法令上許されない除菌という効能の表示がなされた、あるいはアルコール濃度が実際の数値よりも高い表示がなされたということにとどまり、それを使用する者に保健衛生上の危害を及ぼすような、基本的な安全性を欠くものでもない。その瑕疵の程度は軽微であるうえ、Xの主張する被侵害利益は、結局のところ、法令上あるいは品質上の瑕疵のない商品の引渡しを受ける権利その他の契約上の利益にすぎないのであって、薬機法が想定する保護法益ではない。」
(3)結論としての不法行為責任の否定
以上の検討から、裁判所は、Xの主張するYによる薬機法上の義務違反行為は、それ自体としても、あるいは信義則上の義務違反としても、不法行為責任を基礎付けるものとは認められないと結論付け、Xの請求を棄却いたしました。
3 輸入実務における法的責任の比較と検討
本判決は、輸入代行業者を利用する側にとって、非常に厳しい現実を突きつけるものとなりました。薬機法という強力な規制が存在していても、その違反が直ちに賠償責任に結びつくわけではないからです。ここで、輸入代行における各当事者の役割と、法的に問われやすい責任の範囲を整理した比較表を提示いたします。
【輸入実務における当事者の役割と法的責任一覧表】
区分|委託者(B氏・X)の役割と責任|受託者(輸入代行業者Y)の役割と責任
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薬機法上の地位|実質的な販売主体・企画者|製造販売業者としての法的名義人
主な義務|製品情報の提供・仕入先選定|GQP・GVPの遵守、成分確認
表示責任|広告表現の最終的な管理|法定ラベルの正確な記載
不法行為責任|被害者への賠償責任を負い得る|健康被害がない限り、業者間では限定的
契約責任|代金支払、検収義務|善良なる管理者の注意義務
留意すべき点|代行業者の「名義」に依存するリスク|行政処分(業務停止等)のリスク
この表から分かる通り、輸入代行業者は行政(厚労省や都道府県)に対しては重い責任を負いますが、委託者との関係においては、契約書に具体的な義務内容が明記されていない限り、不法行為による追及は困難であるという実態が浮かび上がります。
4 薬機法等の他法令が関わる輸入取引の落とし穴
輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる習慣や法規制が存在します。本件のように化粧品や医薬部外品が関わる場合、特に以下の点に注意が必要です。
(一)取締法規と私法の壁
本判決が示した通り、薬機法違反=不法行為(損害賠償)とはなりません。これは食品衛生法や植物防疫法、家畜伝染病予防法といった他の輸入規制法規についても同様のことが言えます。行政上の罰則があることと、民事上の賠償ができることは別次元の問題です。
(二)成分表示とアルコール濃度の乖離
近年、新型コロナウイルスの影響でアルコール製剤の輸入が急増いたしましたが、海外メーカーの成分分析表(COA)が必ずしも正確ではないケースが散見されます。輸入代行業者がどこまで詳細な検査を行う義務を負うかは、委託契約の内容によって決まりますが、単なる形式的なチェックに留まる契約形態では、本件のようなトラブルを防ぐことはできません。
(三)化粧品における除菌表示の禁止
化粧品としての届け出では「手指を清潔にする」といった表現は可能ですが、殺菌や除菌といった医薬部外品的な効能を謳うことはできません。これを代行業者が看過したとしても、それによる販売機会の喪失を不法行為として追及することは法的に高いハードルがあります。
5 トラブルを回避するための契約実務とリスク管理
輸出や輸入のトラブルを回避するためには、通常の売買と同じイメージをもち対応を行うと思わぬ部分で足元をすくわれてしまうリスクがあります。本判決の教訓を踏まえ、どのようにすればトラブルを回避し、万が一の際に責任を追及できるかを事前に把握しておくことが非常に重要です。
(1)業務委託契約書における詳細な義務規定
不法行為での追及が難しい以上、契約(債務不履行責任)に基づく追及ができるよう、契約書を精緻化する必要があります。
一 「薬機法等の関連法令を遵守し、適正なラベルを作成する義務」を明記する。
二 「ラベル表示内容と実態に乖離があった場合、それによる販売中止損害を賠償する」旨の特約を設ける。
三 成分分析の頻度や方法、不備があった場合の検収不合格の基準を具体化する。
(2)製造販売業者の選定とデューデリジェンス
単に許可を持っているというだけでなく、過去に行政指導を受けていないか、専門の総括製造販売責任者が適切に配置されているかを確認することが不可欠です。輸入代行業者は、いわば法的な「門番」の役割を果たすため、その信頼性が事業全体の成否を左右いたします。
(3)他法令の網羅的なチェック
輸出入には外為法(外国為替及び外国貿易法)や関税法も深く関わります。特にリスト規制やキャッチオール規制に該当する物品でないか、あるいは輸入時に他法令の証明が必要な品目ではないかを、取引開始前に多角的に検討しなければなりません。
6 専門家によるセカンドオピニオンと法的防御
自社の輸出や輸入に関するフローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて専門家にセカンドオピニオンを求める等、万全の態勢をトラブル発生前に構築しておくことが重要です。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。特に薬機法や食品衛生法が絡む複雑な輸入スキームにおいて、どのような契約関係を構築すべきか、また事後的な調査においてどのように当局や相手方と対峙すべきかについて、専門的な見地からアドバイスを提示いたします。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 輸入代行契約書、売買契約書の作成及びリーガルチェック
二 薬機法、景品表示法等に抵触しないための表示・広告監修
三 税関事後調査、保健所等の行政調査に対する同行及び対応支援
四 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求、交渉、訴訟代理
五 関税評価(課税価格)の適正性診断、事前教示制度の活用
7 まとめ:適正な通関と契約こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入代行業者を巡る最新の裁判例に基づき、薬機法違反と私法上の責任の境界について解説いたしました。B氏のようなケースにおいて、不法行為責任の追及が難しいという司法の判断は、輸入者側に「自ら契約をコントロールする」という高い自覚を求めるものです。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

