Archive for the ‘コラム~通関手続、輸出入トラブル~’ Category
輸入品の特許権侵害のリスク
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスを営む上で最も高度な専門性と注意力が求められる知的財産権の一つ、特許権の侵害について、その法的構造から実務的な回避策までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。最先端の製品を海外から導入しようとする企業様にとって、非常に重要な示唆が含まれています。
【相談者】
神奈川県内で医療機器及び精密測定装置の輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、ドイツの医療ベンチャー企業が開発した新型の血液分析装置を日本国内の病院向けに独占的に輸入販売する契約を締結いたしました。当該装置は欧州で高い評価を得ており、ドイツ国内での特許も取得されています。B氏は、開発元のライセンスがある以上、日本での販売も問題ないと考えておりました。ところが、輸入申告を終えて国内でのプロモーションを開始した直後、国内の大手精密機器メーカーC社から、当該装置のセンサー技術が同社の保有する日本国内の特許権を侵害しているとして、即時の輸入・販売停止と在庫の廃棄、並びに過去のデモ機貸し出しに伴う損害賠償を求める警告書が届きました。ドイツのメーカーに確認したところ、同社は日本での特許出願は行っていないものの、独自の技術であると主張しています。B氏は、他国の特許が日本でどのように影響するのか、また、C社の請求に対しどのような法的防御が可能なのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、技術革新が激しい現代の貿易実務において、非常に多く見受けられます。輸入ビジネスでは、特許権侵害のリスクを軽視することはできません。特許権は、発明を保護する独占的権利であり、特許権を侵害する商品を輸入してしまうと、多額の賠償金や業務停止といった深刻な法的責任を問われる可能性があります。本日は、特許権侵害のリスクと輸入業者が取るべき対策について、条文に基づきご説明いたします。
1 特許権の定義と属地主義の原則
日本の特許法において、特許権は特許発明を独占的に実施する権利とされています。まず、特許法の根拠となる条文を確認しましょう。
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。(後略)
ここでいう「実施」の内容については、特許法第二条第三項に定義されています。
この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
(中略)
このように、特許法上、特許発明に係る物品を「輸入」する行為そのものが発明の実施に該当し、権利者の許諾がない場合は侵害を構成いたします。また、B氏の事例で重要なのが「属地主義」です。特許権は国ごとに独立して発生・存続するものであり、ドイツで特許があっても日本で有効とは限りません。逆に、日本で他社が特許を保有していれば、海外で合法的に製造された製品であっても、日本への輸入は侵害となります。
2 特許権侵害の具体的な態様
特許権侵害には、大きく分けて「直接侵害」と「間接侵害」の二つの態様が存在します。
(一)直接侵害。特許発明の技術的範囲に含まれる製品をそのまま輸入・販売する行為です。
(二)間接侵害。特許発明の実施にのみ使用する部品や、侵害を引き起こす蓋然性が高い物品を輸入する行為です。これについて特許法第百一条は次のように規定しています。
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の製造、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
(中略)
これにより、完成品だけでなく、その核心的な部品を輸入する場合であっても、特許権侵害を問われるリスクが生じます。B氏の事例において、血液分析装置そのものだけでなく、その専用カートリッジや交換用センサーを個別に輸入する場合も、この間接侵害の規定に抵触する可能性があるのです。
3 特許権侵害に伴う深刻な法的リスクと実務的影響
特許権侵害が指摘された場合、輸入業者が被る不利益は極めて甚大です。
(1)差止請求のリスク
特許権者は、特許法第百条に基づき侵害の停止を請求できます。
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を構成した物(プログラム等を含む。以下同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
これが認められると、輸入した商品の販売は即座に禁止され、高価な医療機器であってもすべて廃棄処分となる恐れがあります。
(2)損害賠償請求のリスク
特許権侵害については過失が推定されるため、輸入業者が「特許の存在を知らなかった」という主張をしても、賠償責任を免れることは困難です。
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
損害額の算定については、特許法第百二条に規定があり、侵害者の利益額やライセンス料相当額が基準となります。医療機器のように単価が高い製品の場合、賠償額が数億円に達することも珍しくありません。
(3)税関での輸入差し止め
関税法第六十九条の十一に基づき、特許権を侵害する物品は「輸入してはならない貨物」として指定されています。税関は、権利者からの申立てに基づき、水際で貨物を差し止める「認定手続」を開始いたします。これにより、商品は国内に持ち込まれる前にストップし、多額の保管料や納期遅延による違約金が発生することになります。
4 特許権と他の知的財産権の比較
輸入業者が把握しておくべき各権利の性質を以下の表にまとめました。
====================================
知的財産権の性質比較および輸入時リスク一覧表
====================================
権利の名称|保護の対象|権利の発生|主な輸入リスク
-----|------------|------|------------
特許権|高度な技術的思想(発明)|特許庁への登録|技術的構成の模倣、差止
実用新案権|物品の形状等の考案|無審査登録|ライフサイクルの短い製品の模倣
意匠権|物品の外観・デザイン|特許庁への登録|見た目の類似、差止
商標権|ブランド名・ロゴマーク|特許庁への登録|名称・マークの混同
著作権|思想・感情の創作的表現|創作時に自動発生|マニュアル、ソフトの無断コピー
====================================
特許権はこれらの権利の中でも特に「技術の内容」を保護するため、外見からは判別しにくいという特徴があります。そのため、事前調査の重要性が他よりも格段に高いのです。
5 リスク回避のための戦略的対応策
輸入業者として特許権侵害を防ぎ、安全なビジネス運営を実現するためには、次の対応策を組織的に実施することが重要です。
(1)精緻な事前調査の実施
輸入予定の商品が日本国内で特許権を侵害していないか、特許庁が提供する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を活用して徹底的に調査しましょう。ただし、特許請求の範囲(クレーム)の解釈は極めて専門的であるため、キーワード検索だけでなく、弁理士や弁護士による「FTO(自由実施可能性)調査」を行うことが推奨されます。
(2)海外メーカーとの契約管理
海外の仕入先に対して、当該製品に関する日本国内での特許状況を照会し、第三者の権利を侵害していないことを保証(表明保証)させる必要があります。また、万が一侵害が発生した際、海外メーカーが損害を補償する「インデムニティ条項」を売買契約書に盛り込むことが不可欠です。
(3)弁護士・通関士への相談
特許法は専門的かつ複雑です。輸入を検討している商品について少しでも不安がある場合は、事前に専門家に相談し、リスク評価を行いましょう。当事務所は、代表弁護士が通関士資格も保有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
6 特許法における損害賠償額の推定規定(第百二条)の詳細
損害賠償請求を受けた際、どれほどの金銭的リスクがあるのかを把握するために、第百二条の内容を整理いたします。
権利者が自ら販売している場合、侵害者の販売数量に権利者の単位利益を乗じた額を損害とすることができます。
(同第二項)
侵害者が得た利益の額を、権利者が受けた損害の額と推定します。
(同第三項)
いわゆる「ライセンス料相当額」を最低限の損害として請求できます。
2026年現在の運用では、このライセンス料相当額が従来よりも高く見積もられる傾向にあり、さらに「故意」の侵害と認められた場合には、懲罰的な賠償が検討される可能性もあります。輸入業者は、単に「利益を返せばよい」という認識ではなく、企業の存続を揺るがす賠償リスクとして捉えるべきです。
7 特許権侵害貨物の輸入に関する厳格な注意喚起
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。
8 実務で役立つ輸入前特許リスクチェックリスト
B氏のような経営者が現場で活用できる具体的な確認事項をまとめました。
====================================
輸入貨物特許権侵害リスク・セルフチェック表
========================----------==
確認項目|具体的な実施内容|実施状況
----|----------------|--------
技術の特定|製品の核心となる技術的特徴をリストアップしているか|
特許調査|日本国内で同一技術の特許が登録されていないか|
ライセンス|海外メーカーは正当な権利者からライセンスを受けているか|
表明保証|契約書に「第三者の特許権を侵害しない」旨の条項があるか|
専門家評価|侵害の可能性がある場合、鑑定書を取得しているか|
税関事前照会|必要に応じて、税関に侵害物品該当性を相談しているか|
====================================
9 まとめ:適正な知的財産管理こそがビジネスを安定させる礎
特許権侵害は輸入ビジネスにおいて避けられない重大なリスクです。海外で合法的に流通している商品であっても、日本国内では特許権の保護対象となる場合があります。輸入業者としては、法律を遵守しつつ、リスクを十分に評価し、安全なビジネス運営を目指すことが求められます。事前の調査と適切な対策を講じることで、特許権に関連するトラブルを未然に防ぐことが可能です。
当事務所は、あなたのビジネスの強力な盾として、常に寄り添い続けます。どのようなお悩みでも、まずは当事務所にお気軽にご相談ください。共に、誠実で誇りあるビジネスの形を追求してまいりましょう。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入品の意匠権侵害のリスク
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスを営む上で避けては通れない重大な課題である意匠権(デザイン権)の侵害について、その法的構造から実務的な回避策までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。デザイン性を武器に市場参入を試みる企業様にとって、極めて重要な教訓が示されています。
【相談者】
神奈川県内で輸入家具及び生活雑貨のセレクトショップを運営するA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、北欧の若手デザイナーが手掛けたという独創的な形状の照明器具や小型家電を、現地のメーカーから直接輸入し、日本国内での販売を開始いたしました。B氏は、現地では正当に販売されている製品であり、かつブランド名(商標)も自社で確認していたため、法的な問題はないと確信しておりました。ところが、販売開始から一ヶ月後、国内の大手家電メーカーから、当該製品の形状が自社の登録意匠を侵害しているとして、販売の中止と在庫の廃棄、さらには損害賠償を求める警告書が届きました。B氏は、製品の機能は全く別物であり、単に外観が似ているだけでなぜ法的な責任を問われなければならないのか、納得がいきません。もし侵害と判断された場合、どのような不利益を被るのか、また、今後このような事態を防ぐにはどうすればよいのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」このような事例は、特に近年、意匠法の改正により保護範囲が拡大したこともあり、非常に多く見受けられます。輸入ビジネスを営む際、意匠権侵害のリスクは避けて通れない問題です。意匠権は商品のデザインに関する独占的権利を保護するものであり、これを侵害する貨物を輸入してしまうと、差止請求や損害賠償請求といった法的トラブルに発展する可能性があります。本日は、具体例を交えつつ、意匠権侵害のリスクを詳細にご説明いたします。
1 そもそも意匠権侵害とはどのような状態を指すのか
日本の意匠法は、意匠(デザイン)を独占的に使用する権利を保護するための法律です。
意匠法第二条第一項では「意匠」を「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の形状等又は画像であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」と定義しています。ここで重要なのは、単なる機能性だけでなく、人間の視覚に訴え、美しさを感じさせる外形的な特徴すべてが保護の対象となり得る点です。
さらに、意匠法第二十三条では「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する」と規定されています。この「専有する」という文言は、他人が無断でそのデザインを使用することを一切禁じる強力な独占力を意味します。
また、意匠法第三十七条には、侵害に対する救済手段が明文化されています。
意匠権者又は専用実施権者は、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。特に重要なポイントとして、登録意匠と「同一」である場合はもちろん、「類似」の範囲であっても無断で使用する行為は意匠権侵害に該当いたします。この「類似性」の判断は、一般消費者の視点に立ち、全体の美感に共通性があるかどうかが基準となるため、素人判断での「少し違うから大丈夫だ」という考えは極めて危険です。
2 具体例『海外製品の輸入と意匠権の属地主義』の詳細
例えば、ある輸入業者が海外の市場で人気のある家電製品を大量に仕入れ、日本で販売しようとしました。その家電製品は海外メーカーが独自にデザインしたものですが、日本では別の企業が同様のデザインを登録意匠として意匠権を取得していました。これを「属地主義の原則」と呼びます。意匠権は、その国ごとに独立して存在する権利であり、海外で合法的に製造・販売されているからといって、日本国内でも自由に販売できるとは限りません。この場合、輸入業者が販売を目的として商品を輸入した行為が、意匠法第三十七条に基づく「登録意匠と同一又は類似の意匠を実施する行為」に該当し、次のような法的トラブルが生じる可能性があります。
(一)差止請求による営業停止
意匠権者が輸入品の販売差止めを請求し、在庫が販売できなくなる恐れがあります。差止請求には、現に存在する商品の廃棄や、製造設備の除却、さらには広告の削除なども含まれます。これにより、仕入れに要した多額の資金が回収不能となり、企業の経営を圧迫することになります。
(二)損害賠償請求による経済的打撃
輸入品の販売により意匠権者に損害が生じた場合、その損害を賠償する責任を負う可能性があります。意匠法第三十九条に基づき、侵害者の利益額が損害額と推定されるなど、権利者側の立証負担を軽減する規定が存在するため、輸入業者は非常に高額な賠償金を支払わなければならないリスクがあります。
(三)税関での輸入差し止め
関税法第六十九条の十一第一項第九号に基づき、意匠権を侵害する物品は「輸入してはならない貨物」として指定されています。意匠権者が税関に対して輸入差止申告を行っている場合、貨物が日本に到着した時点で差し止められ、認定手続に移行いたします。侵害と認定されれば、貨物は没収・廃棄されることになります。
(四)刑事罰の適用
悪質な場合には、意匠法第六十九条に基づき、刑事罰が科されることもあります。(意匠法第六十九条)意匠権又は専用実施権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。法人に対しても、意匠法第七十四条に基づき、三億円以下の罰金刑という非常に重い両罰規定が存在いたします。
3 意匠権と他の知的財産権の比較
輸入実務において、意匠権が他の権利とどのように異なるのかを理解しておくことは、リスクマネジメントの第一歩です。以下の表に、実務上重要な知的財産権の比較をまとめました。
====================================
知的財産権の性質比較一覧表
====================================
権利の名称|保護の対象|権利の発生方法|輸入時の主なリスク
-----|------------|--------|--------
意匠権|物品の外観・デザイン|特許庁への登録|デザインの類似による差止
商標権|ブランド名・ロゴ|特許庁への登録|名称・マークの混同
著作権|思想・感情の創作的表現|創作時に自動発生|イラスト・画像・音楽の無断利用
特許権|発明・技術的思想|特許庁への登録|技術的構成の模倣
不正競争|周知な表示・商品形態等|事実の発生|他人の商品との混同、デッドコピー
====================================
意匠権の特徴は、技術的な中身(特許)ではなく、「見た目」そのものが法的な武器になる点にあります。したがって、製品の性能がどれほど優れていても、あるいは異なっていても、デザインが似ていれば侵害を免れることはできません。
4 意匠権侵害を未然に防ぐための戦略的対応策
輸入業者として意匠権侵害リスクを回避するためには、以下のポイントを組織的に実施することが重要です。
(1)慎重かつ精緻な事前調査の実施
輸入予定の商品が日本国内で意匠権を侵害しないかどうか、特許庁の「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を活用して事前に確認しましょう。ただし、意匠の検索はキーワードだけでなく、図形分類(意匠分類)を用いる必要があるため、専門的な知識が求められます。
(2)デザインのライセンスおよび権利関係の確認
海外メーカーや仕入先に対し、輸入予定の商品のデザインが合法的に使用されているか、あるいは自社が権利を保有しているかを確認し、必要であればライセンス契約書や、第三者の権利を侵害していない旨の保証書(表明保証)を入手することが不可欠です。
(3)税関への事前照会制度の活用
輸入品が意匠権を侵害していないか不安な場合、税関に対して「知的財産侵害物品に該当するかどうかの照会」を行うことができます。これにより、輸入時点での不意な差止めリスクを軽減し、予見可能性を高めることが可能です。
(4)契約書のリーガルチェック
輸入元との契約書に、意匠権侵害が発覚した場合の責任分担、損害賠償の負担、及び商品の返品・返金対応について詳細に記載しておくことで、万が一の際の経済的損失を最小限に抑えることができます。これを「インデムニティ(補償)条項」と呼びます。
(5)弁護士等の専門家への相談
意匠権侵害の判断、特に類似性の判断は、過去の裁判例や特許庁の審査基準に照らした高度な法的評価を必要とします。疑わしい場合は、意匠法に詳しい弁護士や通関士に相談することをお勧めします。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
5 意匠法改正による新たなリスク:関連意匠と画像意匠の保護
2020年及び2024年の法改正により、日本の意匠権はより強力になっています。輸入業者が特に注意すべきは、以下の二点です。
一 関連意匠制度の拡充
一つの基本デザインから派生したバリエーション(関連意匠)も、長期間(本意匠の登録から十年間)にわたって登録できるようになりました。これにより、大手メーカーは自社のデザインラインナップを網羅的に保護しており、輸入業者が「少し形が違うバリエーションだから大丈夫だ」と判断しても、関連意匠の一つに抵触するリスクが高まっています。
二 建築、内装、画像の保護
これまでは「物品」に限定されていた意匠の対象が、建物の外観や店舗の内装、さらにはスマートフォン等の操作画面(画像)にも拡大されました。輸入するハードウェアだけでなく、そこに搭載されたソフトウェアのインターフェースが意匠権を侵害しているケースも想定されるため、デジタル製品の輸入に際しても細心の注意が必要です。
6 不適切な管理が招くビジネス上の損害と社会的責任
意匠権侵害は、金銭的な損失だけに留まりません。B氏が懸念している通り、企業としての存続に関わる重大な悪影響を及ぼします。
(一)社会的信用の失墜
税関での差し止めや、権利者からの警告書の送付が取引先や顧客に知れ渡った場合、「模倣品を扱う会社」というレッテルを貼られ、長年築き上げた信用を一瞬で失うことになります。
(二)全件検査の対象
一度知的財産権侵害品を輸入しようとした履歴が税関のシステムに残ると、その後のすべての輸入貨物に対して厳格な検査が行われるようになります。これにより、納期の遅延や保管料の増大など、物流のスピードが著しく低下し、競争力を失うことになります。
(三)AEO認定の剥奪
特定輸入者(AEO)などの優遇措置を受けている場合、法令違反が発覚すれば認定は即座に取り消されます。信頼の回復には多大な時間と労力が必要となります。
7 専門家による法的防御とコンプライアンス支援
意匠権の問題は専門的で複雑です。輸入を検討している商品がある場合は、事前に弁護士等の専門家にご相談いただき、リスク評価を行いましょう。当事務所では、代表弁護士が通関士資格を併せ持つ強みを活かし、法務と実務の双方向から強力なバックアップを提供しております。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 製品のデザインに基づいた精緻な意匠権侵害該否判定。
二 J-PlatPatを用いた網羅的な先行意匠調査の代行。
三 海外サプライヤーとの売買契約書における知的財産保護条項の策定支援。
四 税関での認定手続に対する意見書の作成および当局との交渉。
五 意匠権者からの警告書に対する法的な反論、折衝、および訴訟代理。
六 最新の意匠法改正情報を反映した社内コンプライアンス体制(ICP)の構築。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
8 まとめ:適正な管理こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスにおける意匠権侵害のリスクと、その回避策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、デザインの独自性を精査し、専門家のアドバイスを受けていれば、法的トラブルを未然に防ぐことができました。意匠権侵害は、輸入業者にとって見過ごせない経営リスクです。合法的に購入した商品であっても、日本国内では意匠権侵害に該当するケースがあります。企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや法的権利の確認について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。
当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入品と著作権侵害のリスク
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
輸入ビジネスを営む際、著作権法侵害のリスクを軽視することはできません。輸入する商品が知らないうちに著作権を侵害している場合、輸入した事業者が法的責任を問われることになります。本日は、具体例を交えつつ、著作権侵害のリスクを詳細にご説明いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引を志す企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
神奈川県内でインテリア雑貨の輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏。
【相談内容】
「当社はこの度、東南アジアの製造業者から、独特の形状をした木彫りの置物や、美しいイラストが描かれたランプシェードを大量に仕入れ、日本国内の店舗およびオンラインショップで販売する計画を立てました。現地ではこれらの製品が広く一般的に販売されており、意匠登録や特許の存在も確認されなかったため、B氏は法的に問題ないものと判断いたしました。しかし、商品を日本へ輸入しようとしたところ、税関から著作権侵害の疑いがあるとして輸入差し止めの認定手続が開始されました。聞けば、ランプシェードに描かれたイラストが、日本国内の著名な芸術家が創作した美術の著作物に酷似しているとの指摘を受けたのです。B氏は、現地で正規に購入した商品であるにもかかわらず、なぜ日本で著作権侵害を問われなければならないのか、また、もし侵害と判断された場合にどのような法的責任を負い、どのような損害が発生するのかについて、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、知的財産権の国際的な保護制度を正しく理解していない場合に、非常に多く見受けられます。現代社会はECサイトの普及によりモノの行き来が自由ですが、著作権の保護という観点から、輸入には厳格な法的チェックが存在します。本日は、著作権侵害の基本から実務的な回避策までを解説いたします。
1 著作権侵害の法的定義と「著作物」の概念
日本の著作権法は、著作者の権利を保護するため、著作物の無断使用を禁止しています。そもそも著作権侵害とは、著作権者の許諾を得ることなく、著作権の専有する権利を行使する行為を指します。具体的には、著作権法第二条第一項第一号において、「著作物」を次のように定義しています。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
この定義に基づき、単なるデータや事実、あるいはありふれた表現は著作物には該当しませんが、そこに「創作性」が認められる場合には、法的な保護の対象となります。さらに、著作権法第十条では、著作物の例示がなされています。
一 小説、脚本、論文、講演その他の文芸上の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
(中略)
B氏の事例において問題となったランプシェードのイラストは、まさにこの「美術の著作物」に該当する可能性が高いといえます。また、実用的な製品であっても、その装飾部分に創作性が認められれば、著作権法上の保護を受ける「応用美術」として扱われることがあります。
2 輸入行為が著作権侵害とみなされる法的根拠
輸入ビジネスにおいて特に注意すべきは、実際に販売を開始する前の「輸入」という行為そのものが侵害とみなされる規定です。著作権法第百十三条第一項は、次のような場合に著作権侵害とみなすと規定しています。
一 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作権、出版権若しくは著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為
二 著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、国内において頒布する目的をもつて所持し、若しくは公衆に譲渡し、若しくは引き渡し、又は公衆に譲渡し、若しくは引き渡すことを申し出る行為
これに基づき、輸入業者が日本国内での販売や配布を目的として、著作権者の許諾なく作成された(あるいは日本国内で作れば侵害になる)商品を輸入した場合、その時点で著作権法違反とされる可能性があります。これを「みなし侵害」と呼びます。たとえ海外の現地の法律では合法的に作られたものであっても、日本国内の権利者が許諾を出していなければ、日本への輸入は違法となります。
3 具体例『海外製品の輸入と著作権の問題』の詳細分析
例えば、ある事業者が海外の市場で、アニメのキャラクターがプリントされたTシャツを仕入れ、日本国内で販売することを計画したケースを考えます。この業者は、現地では広く流通しているため問題ないと考えていました。しかし、日本国内では、そのキャラクターの著作権が特定の企業に帰属しており、許可なくそのデザインを使用することが著作権侵害に該当しました。このような場合、以下のような深刻な法的リスクが発生いたします。
(一)著作権者からの警告および差止請求
販売前であっても、著作権者から商品の輸入および販売の差止めを求められるケースがあります。これにより、仕入れた商品はすべて廃棄処分となるか、あるいは積み戻し(返送)を余儀なくされ、仕入れ代金がすべて損失となります。
(二)損害賠償請求
著作権者が損害賠償を請求し、輸入業者が損害を賠償する義務を負う可能性があります。著作権法第百十四条には、損害額の推定規定が存在し、侵害者が得た利益や、本来支払うべきライセンス料相当額が賠償額の基準となります。
(三)刑事罰
悪質な場合には、著作権法第百十九条に基づき、刑事罰が科されることもあります。
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
また、法人に対しては、著作権法第百二十四条に基づき、三億円以下の罰金刑が科されるという、極めて重いペナルティが存在いたします。
4 関税法に基づく輸入差し止めと認定手続
著作権侵害物品は、関税法においても「輸入してはならない貨物」として明確に規定されています。
一 (中略)
三 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
税関は輸入申告の際、著作権侵害の疑いがある貨物を発見すると「認定手続」を開始いたします。この手続きでは、権利者と輸入者の双方が意見を述べる機会が与えられますが、著作権の有無や創作性の判断は非常に高度な専門知識を要します。輸入者が「知らなかった」と主張しても、客観的に侵害品であると認定されれば、輸入は許可されません。
5 輸入ビジネスにおける著作権リスクの整理
輸入業者が直面するリスクを以下の比較表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて社内管理にご活用ください。
====================================
輸入取引における著作権侵害リスク一覧表
====================================
リスク区分|具体的な影響|根拠となる法令
----|----------------|----------------
水際阻止リスク|税関での没収、廃棄、積み戻し命令|関税法第六十九条の十一
民事賠償リスク|侵害利益の返還、ライセンス料の支払い|著作権法第百十四条
業務停止リスク|販売禁止の仮処分、ECサイトの閉鎖|著作権法第百十二条
刑事罰リスク|代表者の懲役刑、法人への高額罰金|著作権法第百十九条、百二十四条
信用喪失リスク|取引先からの解約、社名公表による損害|民法(不法行為)、契約書条項
====================================
6 リスク回避のための実務的ポイントと防衛策
著作権侵害リスクを防ぐために、以下の対策を講じることを強くお勧めいたします。
(1)丁寧な事前調査の実施
輸入予定の商品が日本国内で著作権を侵害しないことを確認することが重要です。特にキャラクター、ロゴ、イラスト、さらには独創的なテキスタイル(布地の模様)が含まれる商品は細心の注意が必要です。インターネットでの画像検索や、過去の類似裁判例の調査が有効です。
(2)正規のライセンスの確認と証拠収集
輸入元の業者や製造元が、正規のライセンスを取得しているかどうかを確認しましょう。必要であれば、ライセンス契約書の写しや、権利者からの製造・販売承諾書の提示を求めるべきです。また、これらを税関に提示できるよう、書面で保管しておくことが不可欠です。
(3)契約書の見直しと責任分担
輸入業者として、取引先との契約書に「著作権侵害が判明した場合の責任分担」について明記しておくことも有効です。具体的には、製造元が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証し、万が一侵害が発生した場合には製造元がすべての損害(弁護士費用を含む)を補償するという「インデムニティ(補償)」条項を設けるべきです。
(4)専門家によるリーガルチェック
著作権の問題は、商標権のように登録制ではない(無方式主義)ため、誰が本当の権利者であるかを判断することが非常に複雑です。輸入予定の商品について不安がある場合は、著作権に詳しい弁護士や通関士に相談することで、リスクを事前に評価できます。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
7 輸入実務におけるコンプライアンス・チェックリスト
B氏のような経営者が、日々の業務で活用できる確認表を提示いたします。
====================================
輸入貨物著作権セルフチェック表
====================================
確認項目|判定の基準|実施状況
----|----------------|--------
デザインの独創性|他社の既存作品を模倣したものではないか|
権利の帰属先|デザイナーやイラストレーターとの契約は適正か|
ライセンスの有効性|日本国内での販売権が含まれているか|
税関への疎明資料|真正品であることを証明する書類は揃っているか|
契約上の補償規定|サプライヤーによる知的財産保証があるか|
====================================
8 知的財産権侵害貨物の輸入に関する厳格な注意喚起
著作権侵害は、輸入業者にとって見過ごせない重大なリスクです。海外で合法的に取引された商品であっても、日本国内では著作権を侵害する場合があるため、慎重な対応が求められます。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや法的権利の確認について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入品の商標権侵害のリスク管理
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスを営む上で警戒すべき法的リスクの一つである商標権侵害について、その法的構造から実務的な回避策までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引を志す企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
神奈川県内で海外ブランドの雑貨やアパレル製品の輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、イタリアのセレクトショップから、現地で高い評価を得ているスニーカーブランド『ベローチェ』の商品を百足ほど買い付け、日本国内での販売を開始いたしました。現地ではもちろん正規に流通している真正品であり、仕入れの際の領収書もすべて保管しております。ところが、販売を開始してまもなく、日本国内で『ベローチェ』の商標を保有しているという日本企業C社から、商標権侵害を理由とする販売差し止めと、これまでの売上に対する損害賠償を求める警告書が届きました。B氏は、現地で正当に購入した本物の商品である以上、日本国内での販売も自由であると考えていましたが、法的にどのような問題があるのでしょうか。また、C社の請求には応じなければならないのでしょうか。もし輸入時に税関で止められた場合、どのような手続きが必要になるのかも含め、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、知的財産権の属地主義を正しく理解していない場合に、非常に多く見受けられます。合法的に購入した商品であっても、日本国内では商標権侵害に該当するケースがあります。事前の調査と適切な対応を通じて、トラブルを未然に防ぐことが不可欠です。本日は、商標権侵害の基本から、特許庁や税関での実務、そして損害賠償の算定根拠等を解説いたします。
1 商標権侵害の法的定義と属地主義の原則
輸入ビジネスを営む事業者は、商標権侵害のリスクに十分注意する必要があります。実際、輸入された商品が知らず知らずのうちに日本国内の商標権を侵害しているケースが多々あります。日本の商標法では、登録商標が他人の許諾なく使用されることを防ぐため、商標権が保護されています。商標権は特許庁への登録によって発生する独占排他権であり、その効力は日本国内全域に及びます。
この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
(中略)
このように、商標が付されたものを「輸入」すること自体が、商標法上の「使用」に該当いたします。したがって、日本国内で有効な商標権が存在する場合、その権利者の許諾を得ずに輸入を行うことは、原則として侵害行為を構成することになります。ここで重要なのが「属地主義」という考え方です。商標権は各国の法律に基づき、各国ごとに独立して成立いたします。イタリアで適法に販売されている商品であっても、日本国内で別の者が商標権を保有している場合、その日本国内での権利が優先されることになります。
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
この専有権を侵害する行為について、商標法第三十七条は以下のように侵害とみなす行為を規定しております。
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
(中略)
事業者が意図せずに商標権を侵害するケースでは、これらの規定が問題となることが多いです。特に「類似」の範囲は広く、外観、称呼、観念のいずれかが似通っており、消費者が混同する恐れがある場合には侵害と認定されます。
2 真正商品の並行輸入が認められるための三要件
B氏の事例のように、偽物(コピー品)ではなく海外の正規店で購入した「本物」を輸入する場合、一定の条件を満たせば「真正商品の並行輸入」として適法と認められることがあります。日本の最高裁判所判例(フレッドペリー事件等)によれば、以下の三つの要件をすべて満たしている場合に限り、商標権侵害とはならないとされています。
====================================
真正商品の並行輸入適法性判定チェック表
====================================
項目|判定基準の内容|実務上の確認ポイント
--|----------------|----------------
第一要件|当該商標が海外の商標権者により適法に付されたものであること|偽造品でないことの証明(仕入伝票等)
第二要件|海外の商標権者と日本の商標権者が同一、または密接な関係にあること|資本関係、代理店契約、ライセンス関係
第三要件|製品の品質が、日本の商標権者が管理するものと実質的に差異がないこと|仕様の違い、保管状況、保証内容の比較
====================================
B氏のケースにおいて、日本のC社がイタリアのメーカーと全く無関係に独自に日本で商標を登録していた場合、第二要件(同一権原の要件)を満たさないため、本物であっても輸入は差し止められることになります。これは、日本の商標権者が長年日本国内で築き上げてきたブランドの信用(業務上の信用)を保護するためです。一方で、C社が単なる日本総代理店であり、イタリアのメーカーからライセンスを受けているに過ぎない場合は、同一権原の要件を満たし、並行輸入が認められる可能性が高まります。
3 関税法に基づく水際での差し止めと認定手続
商標権侵害は、単なる民事上の争いのみならず、税関における水際阻止の対象となります。関税法第六十九条の十一に基づき、商標権を侵害する物品は「輸入してはならない貨物」として規定されています。
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
税関は輸入申告の際、商標権侵害の疑いがある貨物を発見すると「認定手続」を開始いたします。
一 税関から輸入者及び権利者に対し、認定手続開始の通知がなされます。
二 輸入者及び権利者は、一定期間内に当該貨物が侵害品であるか否かについての意見を述べ、証拠を提出する機会が与えられます。
三 税関長が双方の意見を踏まえ、侵害の有無を認定いたします。
輸入者としては、前述の「並行輸入の三要件」を満たしていることを客観的な資料をもって証明しなければなりません。この手続きは極めて専門的であり、法的な主張が認められない場合、貨物は没収・廃棄されるか、あるいは積み戻しを命じられることになります。これによる経済的損失は計り知れません。
4 商標権侵害に伴う深刻な法的責任と損害賠償
もし侵害が認められた場合、輸入業者は多大な損害を被るリスクがあります。
(1)商標権者からの差止請求。輸入された商品の販売停止、廃棄、広告の削除などが求められます。これにより販売機会を完全に失うことになります。
(2)損害賠償請求。商標権侵害は、過失が推定されるため(商標法第三十九条、特許法第百三条準用)、知らなかったという言い訳は通用しません。商標法第三十八条には、損害額の算定根拠が規定されています。
商標権者(中略)が故意又は過失により自己の商標権(中略)を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者(中略)が受けた損害の額と推定する。
このように、侵害者の利益額がそのまま損害額とみなされる場合や、ライセンス料相当額を請求される場合があります。高額な賠償金が発生するケースも少なくありません。
(3)刑事罰
悪質な場合には、商標法第七十八条に基づき、刑事罰が科されることもあります。
商標権又は専用使用権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
法人に対しても、三億円以下の罰金刑が科されるという非常に重いペナルティが存在いたします。
5 リスク回避のための具体的ポイント
輸入業者として商標権侵害を防ぎ、安全なビジネス運営を実現するためには、次の対応策が有効です。
====================================
商標権リスク回避・実務管理表
====================================
対策区分|具体的な実施内容|使用するツール・資料
----|----------------|----------------
事前調査|日本国内の商標登録状況の確認|特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
権利関係確認|海外メーカーと国内権利者の関係性の把握|権利関係図、ライセンス契約の有無
仕入先精査|正規流通ルートであることの確認|インボイス、正規代理店証明書
契約の整備|侵害発生時の損害補償条項の導入|表明保証条項、インデムニティ
専門家相談|複雑な案件の事前リーガルチェック|弁護士、弁理士、通関士のアドバイス
====================================
特に、特許庁の「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を活用することは、輸入実務者にとって必須のスキルです。商品名だけでなく、ロゴの図形要素についても検索を行い、似通った商標が日本国内に存在しないかを徹底的に調査すべきです。少しでも不安がある場合は、そのまま進めずに、法律の専門家と連携しながら慎重に対応することを強くお勧めします。
6 輸入ビジネスにおける他法令との関連性
商標権のみならず、輸入実務においては関税法、外為法(外国為替及び外国貿易法)、不正競争防止法など、多角的な視点からのコンプライアンスが求められます。
一 不正競争防止法
商標登録がなくても、広く一般に知られている商品等表示と混同を生じさせる行為は、不正競争行為として差し止めの対象となります。
二 外為法(リスト規制・キャッチオール規制)
アパレル製品等であっても、その素材が特殊な高機能繊維である場合や、軍事転用可能な技術が含まれる場合には、経済産業大臣の許可が必要になる場合があります。
三 関税法(輸入事後調査)
輸入許可が下りた後であっても、税関は数年以内に事後調査を実施いたします。この際、適切な商標権使用料(ロイヤリティ)が課税価格に算入されているかが精査されます。もしロイヤリティを申告価格から除外していた場合、過少申告とみなされ、重加算税などのペナルティを受ける恐れがあります。
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは(中略)不足税額の百分の三十五に相当する重加算税を課する。
このように、商標権は知的財産としての側面だけでなく、輸入時の税金(関税評価)にも深く関わっております。
7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割
商標権の問題は専門的で複雑です。輸入を検討している商品がある場合は、事前に弁護士等の専門家にご相談いただき、リスク評価を行いましょう。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
【当事務所が提供できる主なサポート】
一 輸入予定商品の商標権侵害リスクの精緻な事前診断
二 真正商品の並行輸入における適法性の立証および証拠資料の整理
三 税関での認定手続における意見書提出および代理交渉
四 商標権者からの警告書に対する交渉、訴訟対応
五 海外サプライヤーとの売買契約書における知的財産保護条項の策定
六 関税評価におけるロイヤリティ算入の適正性アドバイス
8 まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスの安定を支える
商標権侵害は、輸入業者にとって見過ごせない重大なリスクです。合法的に購入した商品であっても、日本国内では商標権侵害に該当するケースがあります。企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや法的権利の確認について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
若者が巻き込まれる密輸の現状
近年、大学生などの若者が『簡単に稼げる副業』として禁制品や金地金の密輸入に関わるケースが増加しています。
特にSNSやインターネットを通じて、「海外旅行のついでに荷物を運ぶだけ」、「観光の帰りに簡単な副業」、「実質無料で観光に行こう」等の甘い言葉で勧誘されることが多いようです。しかしながら、このような行動がもたらすリスクは非常に深刻であり、一度関与すると人生を大きく狂わせる可能性があります。
本日は、その危険性について説明します。
1 若者が巻き込まれる現状
警察庁の2022年の統計情報によると、日本における薬物密輸関連の検挙者数は前年より約15%増加しており、そのうち20代以下の若者が占める割合は約30%と報告されています。こうした背景には、SNSや求人アプリを通じて「割の良いバイト」として勧誘されることが挙げられます。
この傾向は2024年の現在でも同様であり、犯罪組織にとっては、社会経験の浅い若者は「リスクを理解していない」、「違法性に鈍感」等と見られるため、非常に利用しやすく、問題が発覚した場合には簡単に見捨てることができる使い勝手のよい存在です。
2 密輸は人生を狂わせるので、絶対に行ってはいけません
日本の法律では、禁制品の密輸は極めて重い罪です。
たとえば、麻薬取締法や関税法に基づく罰則では、以下のような処罰が規定されています。
①麻薬取締法違反:最高で無期懲役、または10年以上の懲役に加え、数千万円規模の罰金が科されることがあります。
②関税法違反:密輸入を目的とした行為は、5年以上の懲役または罰金が科されます。
最終的な処罰の前には逮捕、勾留、刑事裁判と続き、経済的負担や社会的信用の喪失を招きます。
3 実際に起こりうるリスク
(1) 刑罰とその影響
先述の通り、禁制品や金地金の密輸に関与した場合、極めて厳しい刑罰が科されます。
一度有罪判決を受けると前科がつき、就職や進学といったその後の人生にも大きな悪影響を及ぼします。
(2) 知らずに「運び屋」にされる可能性
「ただ荷物を預かっただけ」といった場合でも、禁制品や金地金が入っていれば違法行為とみなされます。
「知らなかった」という弁解は通用しないことがほとんどであるとお考えください。
4 誘惑に負けないために
若者が犯罪に巻き込まれないためには、以下のポイントに注意することが重要です。
①安易な勧誘に乗らない:特に「高額報酬」「簡単」といった文言には注意を払いましょう。
②荷物を預かる際のリスクを認識する:他人の荷物を運ぶ場合、その内容物に責任が伴うことを自覚しましょう。
③法律知識を身につける:日本の厳しい法律について正確に理解しておくことで、違法行為を未然に防ぐことができます。
5 専門家に相談することもご検討ください
禁制品の密輸は決して「簡単な副業」ではなく、人生を台無しにするほどのリスクを伴う犯罪です。
もしも自分自身やご家族が誘いを受けたり、不安に思うことがあれば、弁護士や警察に相談してください。自分自身を守るためにも、軽率な行動を避け、慎重な判断を心がけましょう。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
禁制品や金地金の密輸
禁制品の輸入や金地金の密輸は、いわゆる関税法違反事件となり、刑事告発された場合には、懲役刑等の厳罰に処せられる可能性もあります。
禁制品の輸入を軽い気持ちで行うことはあまりないと思いますが、他方で金地金に関しては、簡単な運び屋の気分で安易に行われてしまうケースが散見されます。
本日は、令和6年上半期(令和6年1月から6月まで)において、関税法違反事件として取り締まりが実行された案件をご紹介いたします。
1 不正薬物関連
まず、不正薬物の内訳としては、覚醒剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物を指すものとします。
不正薬物全体の摘発件数は500件、押収量は約1301kgであり、摘発件数は増加し、押収量は減少した模様です。
具体的な内訳をみると、
①覚醒剤
摘発件数は85件、押収量は約814kgと、共に減少した。
押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約2715万回分、末端価格にして約538億円に相当するとのことです。
②大麻
大麻草の摘発件数は96件、押収量は約103kgであり、前年比で大幅に増加したようです。
また、大麻樹脂等(大麻リキッド等の大麻製品を含む。)の摘発件数は61件、押収量は約46kgとなり、前年比で共に大幅に増加したようです。
③麻薬
コカインの摘発件数は30件、押収量は約235kgでした。
また、MDMA等の摘発件数は49件、押収量は約79kgでした。
④指定薬物
指定薬物の摘発件数は76件、押収量は約7kgでした。
2 金地金
金地金の摘発件数は228件、押収量は約937kgでした。
3 安易に貨物を日本に持ち込む行為にはご注意ください
上記のとおり、不正薬物関連や金地金等の密輸は非常に多く行われておりますが、特段罪の意識がない若者等が運び屋として利用されてしまうケースも多くあります。
自分では大したことがなく、単に土産物のようなものを運んで日本に持って帰ってくるだけで相当程度の報酬がもらえる、と思い安易な気持ちで関与してしまう方もおりますが、自分の一生を棒に振ってしまいかねない行為ですので絶対に関わってはいけません。
あくまでも関与しないことが一番ではありますが、万一関りを持ってしまった場合には、速やかに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入貨物における原産地規則
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスにおいて関税率の決定や国内販売時のラベル表示に直結する「原産地規則」について、その基礎から実務的な判定基準までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルなサプライチェーンを構築されている企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
東京都内で海外アパレル製品や雑貨の輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、ベトナムの縫製工場と提携し、オリジナルのバックパックを日本へ輸入することになりました。この製品に使用される生地や金具などの主要な原材料は中国から調達し、ベトナムの工場で裁断および縫製を行っております。B氏は、最終的な組み立てがベトナムで行われているため、製品に『Made in Vietnam』と表示し、日本とアセアンとの経済連携協定(EPA)に基づく特恵関税を適用して輸入しようと考えています。しかし、通関業者から『原材料の中国比率が高い場合、ベトナム産と認められない可能性がある』との指摘を受けました。原産地はどのような基準で決定されるのでしょうか。また、もし誤った原産地表示を付したまま国内で販売してしまった場合、どのような法的リスクがあるのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、複数の国を跨いで製造が行われる現代の貿易実務において非常に多く見受けられます。貨物を輸入する際に、原産地を貨物上に記載、掲載している場合も多いと思います。原産地表示は、原産地規則に基づいて行う必要があり、また、日本国内で商品を販売する場合も、正確な原産地を記載しないと不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)等で問題となるリスクがありますので、正確に記載する必要があります。貨物の原産地を決定するための基準の概要は、以下の通りですので、ご参考となれば幸いです。
1 原産地規則の定義と二つの大きな区分
『原産地規則』は、ある製品がどの国で「生産された」とみなされるかを決定する基準を指し、輸入ビジネスを行う上で、このルールを正しく理解することは、関税や通関の手続き、また日本国内での商品の販売のいずれにおいても不可欠です。原産地規則は、その目的によって大きく二つの区分に分けられます。
(一)非特恵原産地規則
通常の関税率(基本税率、暫定税率、MFN税率)を適用する場合や、貿易統計の作成、あるいは今回B氏が懸念されている景品表示法等に基づく適正なラベル表示を判断するための基準です。関税法や関税定率法に基づく基準がこれに該当いたします。
(二)特恵原産地規則
日本が締結している経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)に基づき、特定の締約国からの輸入に対して免税や低い関税率を適用するための基準です。B氏がベトナム産としてEPA税率を適用したい場合には、この特恵原産地規則を満たす必要があります。
2 貨物の原産地を決定する二大基準の詳細
関税評価や表示の適正性を判断するための基準は、主に以下の二つに集約されます。
(1)完全生産品基準(Wholly Obtained Criterion)
貨物が完全に特定の国で生産された場合、この基準が適用されます。他国の材料を一切使用せず、その国の資源のみで完結している場合に限られます。
一 その国で収穫された農産物。
二 その国の領土内から採取された鉱物や資源。
三 その国で生まれ、かつ飼育された動物、及びその動物から得られた産品。
四 その国の領海等で採取された水産物。
五 その国内での製造過程で発生したくずや、使用済みの物品。
(2)実質変更基準(Substantial Transformation Criterion)
貨物がある国で加工・製造され、その結果、製品の性質や用途が大きく変わった場合に適用されます。二ヶ国以上にわたって生産される製品の原産地を特定するための極めて重要な基準です。この基準には、具体的には以下の三つの手法があります。
一 HSコード変更基準(関税分類番号変更基準)
貨物の関税分類(HSコード)が製造過程で変更された場合です。例えば、生地(HSコード:5208)が特定の国で縫製されてシャツ(HSコード:6105)になった場合、加工により商品分類の4桁(項)が変わるため、実質的変更が行われたと判断されます。この基準は、単純な梱包や組み立て、切断、洗浄などの「軽微な工程」では適用されず、製品の性質や用途が明確に異なることが求められます。
二 付加価値基準(アドバロレム基準)
加工後の貨物における特定国での付加価値の割合が一定以上の場合です。たとえば、自動車部品の輸入材料がある国で組み立てられ、完成車として輸出される場合です。この際、完成品に占める原材料費や輸入部品の割合を差し引いた「現地での加工付加価値」が、原則として40%以上(協定により異なります)であれば、実質的変更と見なされます。
三 製造工程基準(特定加工工程基準)
特定の製造工程が行われた場合に適用されます。例えば、未加工のカカオ豆がある国でローストされ、チョコレートに加工される場合、特定の製造工程(焙煎や成形など)が行われたことにより、商品が別のものとみなされます。この基準では、工程の重要性や不可逆性が重視されます。また、化学反応を伴う製造工程などもこれに該当いたします。
3 原産地表示に関する法的リスクと罰則規定
不適切な原産地表示は、行政処分や刑事罰の対象となるだけでなく、企業の社会的信頼を根底から揺るがす事態に発展いたします。B氏のA社においても、以下の法律に細心の注意を払う必要があります。
(一)景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)
日本国内で商品を販売する場合、景品表示法上の「不当な表示」として、原産地を誤認させる表示が禁じられています。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示
これを受けて、「商品の原産地に関する不当な表示」という告示が出されており、実質的変更をもたらさない加工(例えば輸入品の詰め合わせなど)を行った国を原産地として表示することは違法となります。違反した場合には、措置命令や、売上額の3%という高額な課徴金納付命令が下される可能性があります。
(二)関税法による輸入差し止め
原産地を偽った表示がなされている貨物は、関税法に基づき、輸入を許可されません。
(関税法第七十一条 原産地を偽つた表示がされている貨物の輸入)
第一項 原産地について直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物については、輸入を許可しない。
もし税関で指摘を受けた場合、表示の抹消や訂正を行わなければならず、そのための多大なコストや納期遅延が発生いたします。
4 実務で役立つ原産地判定および表示確認一覧表
B氏のような経営者が、取引開始前に活用できるチェックリストを作成いたしました。
【原産地規則・表示適正化チェックリスト】
確認項目|判定の指針|留意すべき点
--------|----------------|------------
材料の調達国|全ての原材料の生産国を把握しているか|完全生産品か実質的変更かの初動
HSコードの変化|加工前後の4桁コードが変化しているか|CTH(項変更基準)の適否
現地付加価値率|現地での原価や利益が40%を超えるか|VA(付加価値基準)の計算
特定工程の実施|不可逆的な化学反応や製造工程があるか|工程基準の適用の有無
表示の日本語訳|「ベトナム製」等の表現が実態と合うか|消費者の誤認防止
原産地証明書|特恵適用の場合、正式な証明書があるか|有効期限や署名の真正性
5 特恵原産地規則における「積算規定」と「僅少の基準」
B氏の事例をさらに専門的に分析するために、経済連携協定(EPA)特有のルールも確認しましょう。
一 積算規定(累計規定)
日本のEPAにおいては、複数の締約国(例えば日本とベトナム)の材料を組み合わせて生産した場合、それらを一つの原産品として合算して計算できる場合があります。これにより、中国産の材料を一部使用していても、日本由来の部品やベトナムでの加工費を合わせることで、原産地要件をクリアできる可能性が高まります。
二 僅少の基準(デ・ミニミス)
HSコード変更基準において、わずかな割合(一般に10%以下)であれば、コードが変わらない他国材料が含まれていても、原産品として認めるという緩和規定です。
6 不適切な管理が招くビジネス上の損害
間違った原産地表示や、特恵関税の不当な適用は、単なる事務的なミスでは済まされされない重大な経営リスクに直結いたします。
(一)多額の追徴課税
税関の事後調査により、原産地が否認された場合、過去数年分の免税額を遡って徴収されます。これに加え、過少申告加算税(10%から15%)や延滞税が課されます。
(二)重加算税の賦課
事実を隠蔽または仮装して原産地を偽ったとみなされた場合、35%という極めて重い重加算税が課されます。
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額の100分の35に相当する重加算税を課する。
(三)刑事事件化。悪質な原産地偽装は、刑法上の詐欺罪や、不正競争防止法違反、関税法違反として刑事告発される恐れがあります。法人の代表者が逮捕されれば、企業の社会的評価は完全に失墜いたします。
7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割
原産地規則の判定は、製品の構造、材料費の構成、製造プロセスの詳細など、多岐にわたる情報の分析を必要とします。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 製品の製造プロセスに基づく精緻な原産地判定の実施と意見書の作成。
二 経済連携協定(EPA)に基づく特恵関税適用のためのコンサルティング。
三 海外の製造元に対するデューデリジェンス(実態調査)の同行および指導。
四 不当景品類及び不当表示防止法に抵触しないためのラベル表示のリーガルチェック。
五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い。
六 万が一の原産地否認時における当局との法的交渉、及び不服申立て手続き。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
8 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスの健全な発展に不可欠な原産地規則について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、材料比率や加工工程を精査していれば、法的リスクを回避しつつ特恵関税のメリットを享受することが可能です。企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。
しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。
当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
貨物の該否判定実務と法的リスク
はじめに:具体的な相談事例のご紹介
本日は、輸出実務において避けては通れない外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)に基づく貨物の該否判定について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、以下の架空事例をご覧ください。グローバルに事業を展開する企業様にとって、示唆に富む内容となっております。
【相談者】
都内で高度な産業用ポンプ及びその制御システムの開発販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、中東の石油精製プラント向けに、自社開発の特殊な高圧ポンプと、その動作を制御するための専用コントローラー、及び詳細なメンテナンスマニュアルを輸出する計画を立てております。B氏は、当該ポンプはあくまで民生用として設計されたものであり、軍事目的のものではないため、特別な許可は不要であると考えていました。しかし、提携している通関業者から、装置内部に使用されている一部の弁(バルブ)や、コントローラーに搭載されたプログラム、さらにはマニュアルの内容まで含めて、精緻な該否判定を行う必要があると指摘され、困惑しています。B氏は、装置全体として一つの製品であるのに、なぜ内部の部品やソフトウェアまで個別に検討しなければならないのか、また、もし判定を誤った場合にどのような法的責任を負うことになるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、高度な技術力を保有する日本の製造業において非常に多く見受けられます。外為法上、貨物を輸出する場合には、リスト規制、キャッチオール規制といった規制の該当性を判断しなければならないことは、貨物の輸出を業として行っている法人や個人事業主の方に広く知られていることと思います。また、大学や各種研究機関においては、共同研究や留学生の受け入れ等、外為法の規制該当性に関して非常に微妙な判断をする必要がある場面も多くあります。本日は、特に実務上の難所となる貨物の該否判定の基本的な流れと、法的リスクについて詳述いたします。
1 貨物の該否判定における実務上の基本的な流れ
貨物を輸出する場合には、外為法上の規制該当性を判断するための該否判定を行う必要があります。ここでは、形式的に貨物の表面上の内容を検討するだけでは不十分であり、多角的な視点からの検討が求められます。
(1)貨物の分解的検討
機械装置などを輸出する場合、装置全体が一つの品目として扱われるとは限りません。例えば、A社のポンプシステムのように、装置内部に弁やポンプ、制御装置などがある場合には、それぞれが個別に輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)別表第一の各項に該当しないかを検討する必要が生じます。これは、特定の高性能な部品が軍事転用されるリスクを防ぐための措置です。
(2)技術(役務)の個別検討
機械に使用されている技術として、内部プログラムやメンテナンスマニュアルについても、個別に検討する必要があります。貨物そのものは規制対象外であっても、それに付随するソフトウェアや設計・製造技術が、外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の規定に抵触するケースは少なくありません。これを役務取引管理と呼び、貨物の輸出許可とは別に、技術提供の許可(役務取引許可)が必要となる場合があります。
(3)法令・通達に基づく実質的判断
該否判定は、経済産業省令である輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令(以下、貨物等省令といいます。)を前提に、運用通達や役務通達を踏まえて判断していくことになります。ここでは、単に形式的な用語を判断するだけでは不十分であり、実質的な機能や性能(スペック)に着目する必要があります。
この許可の要否を決めるのが該否判定であり、マトリクス表や項目別対照表(パラメータシート)の利用等、該否判定に慣れている方も改めて検討の順序や方法をご確認いただくことをお勧めいたします。
2 該否判定において見落としやすい「技術」の壁
貨物の輸出に伴う技術提供については、特に慎重な検討が必要です。B氏の事例にあるメンテナンスマニュアルや制御用プログラムは、貨物そのものとは別個の「役務」として扱われます。
第一項 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の技術を特定の外国において提供し、又は特定の外国の居住者に提供することを目的とする取引をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
この規定により、例えばマニュアルの中に、規制対象となる装置の修理や製造に関する機微な情報が含まれている場合、それは「技術の輸出」となり、経済産業大臣の許可が必要となります。たとえ、そのマニュアルが日本語で書かれていても、あるいは電子メールで送信されるものであっても、法的な扱いは同じです。
3 輸出実務で活用すべき該否判定チェックリスト
以下に、A社のB氏が取り組むべき判定プロセスを整理した実務表を掲載いたします。ワードデータ等に貼り付けてそのまま社内管理にご活用いただける形式となっております。
【輸出管理における精緻な該否判定確認事項一覧】
検討対象区分|具体的な確認事項|法的な根拠・留意点
--------|----------------|------------
本体貨物全体|装置全体の主要機能がリスト規制に該当するか|輸出令別表第一の該当項番
内部構成部品|規制対象の弁、ポンプ、センサー等が組み込まれていないか|組込比率ルールの確認
搭載プログラム|制御用ソフトウェアが外為令のリストに該当するか|役務取引許可の要否
技術資料・説明|マニュアル等に製造・修理の機微情報が含まれないか|みなし輸出管理の対象
特例適用の有無|無償サンプル、修理目的等の特例が正しく適用可能か|安易な判断は厳禁
仕向地・需要者|輸出先が経済制裁対象国や懸念顧客ではないか|キャッチオール規制の確認
4 外為法の規制に対する厳格な注意喚起
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)には、外為法上の厳格な規制が存在します。日本国内で購入したものであるから、海外に輸出しても問題ないと安易に考えることは非常に危険であり、日本国内で一般に販売されている物品であっても、海外に輸出する際には規制対象となる品目は多数存在します。
(1)転用リスクの遍在性
日用品として用いる小さな機械製品であっても、大量破壊兵器や一般兵器に転用することが可能な場合は多数存在します。高性能な炭素繊維、高精度な工作機械、あるいは特殊なシール材などは、一見すると産業用であっても、ミサイルの機体や化学兵器の貯蔵、核開発の遠心分離機などに不可欠な要素となり得るからです。
(2)特例適用のリスク
外為法上の許可を取得することが煩雑であることから、安易に特例の適用があると判断することは非常にリスクの高い行為であるといわざるを得ません。例えば、同一貨物の再輸出や少額貨物の特例などは、適用条件が極めて厳格に定められています。自己判断で特例を適用し、後に税関から否認された場合、それは「無許可輸出」と同義となります。
(3)社会的・国際的責任
知らなかったでは済まされず、重大な犯罪行為(ひいては国際的な平和を損なう行為にもなりかねないことはくれぐれも気を付けるべきです。)となってしまい、違反した場合には重い刑事罰等も存在します。安全保障貿易管理は、一企業のコンプライアンスの問題に留まらず、日本という国の国際的な信頼性と安全を守るための重大な責務です。
5 法令違反に伴う深刻なペナルティ
外為法に違反して無許可輸出等を行った場合、以下のような極めて厳しい処分が科されます。これらは企業の存続を揺るがす甚大な影響を及ぼします。
一 刑事罰
第四十八条第一項(輸出の許可)に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金、またはその併科。なお、対象貨物の価格の五倍が三千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金が科されます。
二 行政処分
経済産業大臣による、最長で三年間におよぶ輸出禁止処分や技術提供の禁止処分。輸出を主軸とする企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に等しい重みがあります。
三 社会的制裁
法令違反の事実は公表され、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。一度損なわれた信用を回復するには、膨大な時間と労力が必要となります。
6 専門家による法的サポートの重要性
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)において、外為法の規制内容に少しでも不安がある場合には、事前にご相談いただくことを強くお勧めいたします。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 複雑な機械装置や技術に関する精緻な該否判定の実施と判定書の作成。
二 経済産業省に対する輸出許可申請および役務取引許可申請の代行。
三 社内輸出管理規定(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定および運用指導。
四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査のアドバイス。
五 税関事後調査や当局の監査に対する立ち会いおよび法的な抗弁。
六 最新の法令改正情報を反映した社内教育研修の講師派遣。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
7 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸出実務の根幹である貨物の該否判定とその重要性について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、一つひとつの部品や技術を丁寧に精査し、正しい手続きを踏むことで、法的リスクをゼロにして堂々と世界市場へ挑戦することが可能となります。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸出入実務における電子帳簿保存法への対応
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸出入ビジネスを展開する上で避けては通れない、帳簿書類の保存義務と電子帳簿保存法(以下、「電帳法」といいます。)への対応について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代の貿易実務において、多くの事業者が直面している課題が示されています。
【相談者】
都内で海外製アパレル小物のECサイトを運営しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社はこれまで、海外の仕入先からメールの添付ファイル(PDF)でインボイス(仕入書)を受け取り、それを印刷してファイリングすることで保存してきました。しかし、昨今の電子帳簿保存法の改正により、電子データで受け取ったものは電子データのまま保存しなければならないと聞き、非常に困惑しています。当社の実務担当者は、単にパソコンのフォルダに保存しておくだけでよいのか、あるいは特別なシステムを導入しなければならないのか、具体的な方法が分からず不安を感じています。また、税関の事後調査が入った際、電子データの保存が不適切であるとして、申告価格の正当性を疑われたり、青色申告の承認を取り消されたりするリスクはないのでしょうか。電子帳簿保存法と関税法の関係性を踏まえた、実務上の明確な指針を求めています。
このような事例は、輸入や輸出を業とする個人、法人の間で増加傾向にあります。事業者は、該当の貨物に関する品名、数量及び価格等を記載した帳簿を備え付け、帳簿、書類及び電子データを保存する義務を負います。ただ、実際のところ、このような各書類の保存を適切に行うことができていない事業者も多く存在するように思います。また、一概に電子データといっても、どのようなデータとすべきか、よくわからない、保存方法が分からない等、実務としての対応に不安がある方も多いのではないでしょうか。本日は、よくある疑問点について、税関の実務上の考え方をご紹介いたします。
1 輸出入者における帳簿書類の保存義務と法的根拠
輸出入を事業として行う場合、その根拠となる資料を一定期間保存することが法律で義務付けられています。まずは、関税法における基本的な規定を確認しましょう。
①貨物を輸出し、又は輸入しようとする者(中略)は、当該貨物の品名、数量及び価額その他財務省令で定める事項を記載した帳簿を備え付け、かつ、当該帳簿及び当該輸出入に関し作成し又は受領した書類(中略)を保存しなければならない。
②前項の帳簿及び書類の保存期間は、当該貨物の輸出又は輸入の許可の日(中略)の翌日から七年間(書類にあつては、五年間又は七年間として財務省令で定める期間)とする。
この規定に基づき、インボイス、パッキングリスト、運賃明細書、保険料明細書、契約書、そして支払いを証明する銀行の送金記録などは、原則として七年間の保存が必要です。そして、令和六年度からの電帳法の本格運用に伴い、これらの保存を電子的に行う際の要件がより厳格化されました。
2 電子帳簿保存法が輸出入実務に与える影響
電帳法は、大きく分けて三つの区分で構成されています。
一 電子帳簿・電子書類の保存(任意)
自らが会計ソフト等で作成した帳簿や決算書類をデータのまま保存するもの。
二 スキャナ保存(任意)
紙で受け取った領収書やインボイスをスキャンしてデータで保存するもの。
三 電子取引のデータ保存(義務)
メールの添付ファイルやクラウドサービスを通じて受け取ったインボイスなどの電子データを、データのまま保存するもの。
B氏の事例のように、メールでインボイスを受け取る行為は「電子取引」に該当いたします。これまではプリントアウトした紙での保存も認められていましたが、現在は、適切な検索要件と真実性の確保(タイムスタンプの付与や訂正削除の防止に関する事務処理規定の備付け等)を満たした形でのデータ保存が義務付けられています。
3 実務上のよくある疑問点と税関の考え方
電子データ保存の実務について、当事務所によく寄せられる疑問点と、税関の執務上の指針(通達)等に基づく考え方を整理いたします。
① 書類をスキャンする際のプリンタやモニターの性能について
紙の書類をスキャナ保存する場合や、電子データを画面で確認する場合、どのような設備が必要になるのでしょうか。規則上は、電磁的記録は、ディスプレイ等に出力して視認できるような状態である必要があります。プリンタやディスプレイの性能や設置すべき台数について必要要件はありません。ただし、関税法施行規則第八条の三第一項第二号及び同条第四項第四号において、電磁的記録は「速やかに出力することができる」ことが要件とされている点には注意が必要です。つまり、税関の事後調査などで調査官から「この申告番号のインボイスを見せてください」と言われた際、数分以内に画面に表示し、必要に応じて鮮明にプリントアウトできる状態でなければなりません。
② 該当のデータを複数の媒体で保存することができるかどうか
保存するデータ量が増大した場合の管理方法についての疑問です。原則として、データに関する検索機能については、関係帳簿書類を保存すべきこととなる期間内の関税関係帳簿書類に係るデータを通じて任意の範囲を指定して条件設定を行い検索ができる必要があります。これは関税法施行令第八十三条第六項(同第八項)、および関税法基本通達一二の二-一二や通達九四の二-二八に規定されています。
しかしながら、法定の保存期間を通じて一元的に検索をすることが困難であることについて合理的な理由があるときには、該当のデータを複数の媒体(例えば年度ごとに分かれたハードディスクや光学メディアなど)で保存することができるとされています。例えば、データ量が膨大である等、複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合等が、『合理的な理由』に該当すると考えられております。ただし、媒体を分けたとしても、各媒体内での検索性は維持されていなければなりません。
③ データは、事務所内のサーバーで保存する必要があるかどうか
リモートワークの普及やクラウド利用の拡大に伴う疑問です。電磁的記録については、ディスプレイや書面に、法定の要件に従った状態で速やかに出力することができることが義務付けられているのみであり、データが保存されたサーバの設置場所についての決まりはありません。そのため、自社内に物理サーバーを置く必要はなく、クラウドサービスを利用することも可能ですし、海外にサーバーが置かれていても問題ありません。これは関税法基本通達九四の二-七の注書きにも明記されています。重要なのはサーバーの物理的な場所ではなく、日本の事務所からいつでもアクセスし、出力できる状態にあるかという点です。
4 電帳法対応において輸出入者が備えるべき要件の整理
電帳法(特に電子取引)を遵守するために、輸出入者が最低限整えるべき要件を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【電子帳簿保存法(電子取引)における輸出入者の対応要件一覧】
要件の区分|具体的な内容|実務上の対応例
--------|----------------|------------
真実性の確保|データが改ざんされていないことの証明|タイムスタンプの付与、または訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け。
可視性の確保|誰もが視認・出力できる状態の維持|カラーモニター、プリンターの設置、操作説明書の備付け。
検索機能の確保|必要なデータを即座に抽出できること|「取引年月日」「取引金額」「取引先」の三項目で検索できる仕組みの構築。
速やかな出力|税関調査等の際に遅滞なく提示できること|インターネット環境の整備、担当者の習熟。
保存期間の遵守|法定期間(原則七年)のデータ保持|バックアップの実施、メディアの劣化防止。
特に検索機能の確保については、単にファイル名に情報を入れるだけでなく、エクセル等で索引簿を作成するか、電帳法対応の文書管理システムを利用することが推奨されます。B氏のA社においても、まずは「事務処理規程」を作成し、取引内容を一覧化する仕組みを作ることから始めるべきでしょう。
5 適正な保存が行われていない場合の法的リスク
輸入や輸出の手続きに関しては様々なルールが存在しますので十分注意が必要です。正確にルールを把握しない場合には、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があり、事業の存亡にかかわりかねません。帳簿書類の保存が不適切であると判断された場合、以下のようなリスクが生じます。
一 関税評価の否認と追徴課税
税関事後調査において、インボイスや支払記録のデータが保存されていない場合、申告した課税価格(申告価格)の妥当性が証明できなくなります。その結果、税関長によって課税価格が更正され、多額の関税・消費税の不足分に加え、過少申告加算税(一〇%~一五%)や重加算税(三五%)が課されるリスクがあります。
二 青色申告承認の取消し
電帳法の要件を満たさない保存は、国税当局の判断により青色申告の承認が取り消される原因となり得ます。これにより、法人税上の優遇措置(欠損金の繰越控除等)が受けられなくなるという、甚大な経済的損失を被る可能性があります。
三 過料の適用
電帳法に違反し、適切に電子取引データの保存が行われていなかった場合には、会社法上の過料の対象となる可能性も指摘されています。
正確にルールを把握し、適切な輸入、輸出手続を行うことがビジネス上非常に重要ですので、万一、手続やルールに不安がある場合には、専門家にご相談ください。
6 関税評価と電子データの連動性
輸出入における「価格」の決定は、単にインボイスの数字を転記するだけではありません。関税定率法第四条に基づき、加算要素(運賃、保険料、ロイヤリティ、アシスト費用等)を適切に反映させる必要があります。これらの加算要素に関するやり取りも、現代では多くが電子メールやSラック等のチャットツールで行われています。
第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。
税関の事後調査では、メインのインボイスだけでなく、その背後にある価格交渉のプロセスや、別途支払われた費用の有無を確認するために、電子データの提示を求められます。電帳法対応を単なる「形式的なデータ保存」と捉えるのではなく、自社の申告の正当性を証明する「エビデンス管理」として位置づけることが、グローバルビジネスを安定させる鍵となります。
7 当事務所による総合的な輸出入法務サポート
輸入や輸出を事業として(あるいは副業として)行っている法人、個人の方は非常に多くおり、増加傾向にあります。しかし、その実務を支える法規制は日々複雑化しています。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる電帳法の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような電子データの提示を求めてくるかといった、実践的なアドバイスを提示することができます。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 電子帳簿保存法に対応した「関税関係書類事務処理規程」の作成支援。
二 輸出入実務における電子データの検索要件・真実性確保の体制構築。
三 税関事後調査への立ち会いおよび電子データを用いた申告の正当性立証。
四 外為法、関税法に基づく帳簿備付け義務の適正化診断。
五 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求および交渉代理。
特に、B氏のようなEC事業者様に対しては、受注データや海外送金データと輸入申告データをいかに紐付けて保存するかという、DX時代の貿易管理体制の構築を専門的にサポートいたします。
まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスの安定を支える唯一の道
本日は、電子帳簿保存法を踏まえた輸出入関係書類の保存実務について解説いたしました。デジタル化は業務効率を高める大きなチャンスですが、一方で法的な要件を満たさない運用は致命的なリスクを招きかねません。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査し、その証拠を適切にデジタル保存すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸出代行業者とのトラブル事例
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、国際貿易の実務において頻繁に利用される輸出代行サービスを巡り、輸出先(仕向地)の相違や書類の不備が原因で多額の損害賠償請求に発展した事例について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引を志す企業様にとって、代理人や代行業者の選定がいかに重要であるかを示す典型的な局面が示されています。
【相談者】
都内で中古農業機械の輸出販売業を計画しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、海外の顧客との間で中古のトラクター数台をイランへ輸出する契約を締結いたしました。当社は輸出実務の経験が浅いため、輸出代行を専門とする業者であるY社に対し、輸出者としての名義管理や船積書類の作成、現地への輸送手配を全面的に委託いたしました。B氏は、当然ながら契約通りイランへ貨物が届くものと信頼しておりました。しかし、後日判明したところによると、Y社は当社の指示に反して、船荷証券の記載を意図的に書き換え、イランではなくイラクへ貨物を輸出しようとしていたことが発覚いたしました。この行為により、現地の本来の顧客との取引は破綻し、当社は多大な損害を被りました。B氏は、Y社に対して債務不履行や不法行為に基づく損害賠償を請求したいと考えていますが、Y社側は当初からイラク向けであったなどと事実を争っております。輸出代行における仕向地の相違や書類の虚偽記載は、法的にどのような責任を問われるのでしょうか。また、裁判所はこのような当事者間の合意の存否をどのように判断するのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、近年のECサイトの利用拡大や副業の推進等により、輸入や輸出に関わる個人、法人が増加する中で、非常に深刻な問題として浮上しております。本日は、まさにこのような輸出トラブルによって裁判まで発展した事案である、東京地判平成30年2月20日の事例をご紹介し、輸出実務における契約管理とリスク対策について深く掘り下げていきます。
1 事案の概要:輸出代行と仕向地の偽装を巡る紛争
本件は、農業用トラクターの輸出を巡り、輸出代行業者による仕向地の変更や書類の偽造があったとして、委託者が受託者に対して損害賠償を請求した複雑な事案です。
(1)紛争の背景と当事者の主張
原告Xは、輸出入代行業等を目的とする被告Yとの間で、中古農業用トラクターの輸出に関する業務委託を行いました。Xの主張によれば、本件の合意内容は以下の通りでした。第一に、XがYから株式会社A製の農業用トラクターを購入し、Xを輸出者とする旨の合意を締結したこと。第二に、本件契約に基づき、Yが取引業者に指示して、農業用トラクターをイランへ輸出する旨の個別合意をしたことです。しかし、実際にはYが本件個別合意に反して、船荷証券(B/L)の記載を偽るなどして、農業用トラクターをイランではなくイラクへ輸出しようとしたため、損害が生じたと主張いたしました。
(2)訴訟の争点
本件の最大の争点は、XとYとの間で「イランへ輸出する」という明確な個別合意が存在したかどうか、という点に集約されました。XはYに対して、本件契約及び個別合意の債務不履行、あるいは不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を求めました。貿易実務において、船荷証券は貨物の受領や引渡しを証明する極めて重要な有価証券であり、その記載内容を意図的に変更する行為は、関税法や外為法(外国為替及び外国貿易法)上の問題のみならず、私法上の重大な不法行為を構成し得るものです。
2 裁判所の判断:合意内容の認定と証拠の評価
東京地方裁判所は、当事者間のやり取りや証拠資料を精査し、Xの主張を退ける判断を下しました。
(1)契約の目的と実態の認定
裁判所はまず、本件製品の売買に至る経緯を以下のように認定いたしました。「前記認定の事実によれば、本件製品の売買契約は、当初より本件製品をイラクへ輸出する目的で締結されたものであると認められる以上、本件製品が、本件製品をイラクへ輸出することを前提とした手続がとられたことに関し、Yに本件個別合意の債務不履行又は不法行為が成立する余地はなく、Xの主張には理由がない。」
(2)個別合意の存否に関する判断
次に、Xが主張するイランへの輸出合意について、以下のように結論付けました。「XとYとの間で、本件製品の輸出先がイランであると合意されたとは認められず、これに関するXの主張は採用できない。そのため、その余の争点について検討するまでもなく、本件個別合意に関する債務不履行及び不法行為に関するXの請求には理由がない。」
裁判所は、Xの主張するようなイランへの輸出を目的とした合意を裏付ける客観的な証拠が不足している一方で、取引の実態や経緯からはイラクへの輸出を前提としていたと判断したものです。これは、国際取引において「どのような合意がなされたか」を証明する契約書や書面がいかに決定的であるかを示す結果となりました。
3 輸出実務における船荷証券(B/L)の重要性と法的責任
輸出代行や輸入代行の利用は拡大しておりますが、それに伴い様々なトラブルが発生しております。本件で問題となった船荷証券の扱いや、仕向地の認定について、実務的な観点から整理した比較表が以下になります。
【輸出代行における実務上のリスクと注意点一覧表】
区分|確認すべき具体的な項目|法的リスクと留意点
--------|----------------|----------------
契約の内容|仕向地、決済方法、費用の負担区分|曖昧な合意は債務不履行追及を困難にする
書類の作成|インボイス、パッキングリスト、B/L|虚偽記載は関税法違反および不法行為
輸出者の認定|名義上の輸出者と実質的な計算主体|外為法上の責任主体が問われる
危険負担の移転|貨物の滅失や事故の際の責任所在|インコタームズの正確な適用が必要
代行業者の権限|どこまでの事務を委託しているか|権限外の行為による損害の発生
報告・連絡体制|船積み状況や書類作成プロセスの共有|密な連絡がなければ偽装を見抜けない
(1)船荷証券(B/L)の法的性格
船荷証券は、運送人が貨物を受け取ったことを証明し、かつ荷揚げ港で貨物を引き渡すことを約束する有価証券です。この記載内容を偽る行為は、単なる事務ミスではなく、貨物の同一性や権利関係を混乱させる重大な背信行為です。もしYが真にXの指示に反して偽造を行ったのであれば、それは民法上の不法行為責任を免れません。
故意又は過失によつて他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
(2)債務不履行責任の追及
輸出代行業者が委託者の指示に従わず、異なる国へ貨物を送ろうとした場合、それは善良なる管理者の注意義務(民法第644条)に違反する債務不履行となります。
債務者がその債務の本旨に従つた履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによつて生じた損害の賠償を請求することができる。
4 輸出管理制度と仕向地偽装のリスク
輸出に関しては、通常の売買とは異なる習慣や法規制が存在します。本件で登場したイランやイラクという国々は、安全保障貿易管理の観点から極めて機微な地域です。
(一)外為法による輸出規制
日本は、国際平和及び安全の維持の観点から、外為法に基づき特定の地域(仕向地)や貨物、技術について厳格な規制を設けています。
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
イラン等の懸念国に対して特定の工作機械や軍事転用可能な貨物を輸出する場合、経済産業大臣の許可が必要です。仕向地を偽って輸出を行う行為は、この外為法に対する重大な違反となり、懲役や多額の罰金、さらには輸出禁止処分といった行政処分の対象となります。
(二)関税法による虚偽申告の禁止
全ての輸出貨物は、税関に対して適正な申告を行わなければなりません。
貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。
仕向地や品名を偽る行為は、関税法上の虚偽申告罪に該当いたします。代行業者が独断で行った場合でも、輸出者としての名義を有するA社が無関係を貫くことは実務上困難であり、管理監督責任を問われることになります。
5 トラブルを回避するための契約実務とリスク管理
便利なサービスである一方で、代行業者を利用する際には適切な対応を期待することができるかどうかを慎重に検討する必要がある点には注意が必要です。B氏のような経営者が、トラブルを未然に防ぐために取り得る具体的な対策を提示いたします。
(1)業務委託契約書における詳細な義務規定
「イランへ輸出する」といった根幹的な合意事項は、必ず書面にて残さなければなりません。単なる電子メールのやり取りだけでなく、正式な委託契約書の中に、仕向地、船積書類の作成基準、さらには指示に反した場合の損害賠償額の予定などを盛り込むべきです。
(2)代行業者のデューデリジェンス
輸出代行業者は、法的な知識だけでなく、実務上の誠実さが求められます。過去に行政処分を受けていないか、あるいは特定の地域への輸出に際して必要なノウハウを有しているかを確認することが不可欠です。
(3)船積書類の原本確認フロー
B/Lやインボイスが作成された段階で、発送前に必ず委託者がその内容をダブルチェックするフローを確立してください。代業者任せにせず、自らが最終的な輸出者としての責任を持つ姿勢が重要です。
(4)専門家によるリーガルチェックとセカンドオピニオン
自社の輸出や輸入に関するフローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて専門家にセカンドオピニオンを求める等、万全の態勢をトラブル発生前に構築しておくことが重要です。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 輸出代行業務委託契約書、個別売買契約書の作成及びリーガルチェック
二 外為法、関税法に基づく輸出管理体制(ICP)の構築支援
三 仕向地や貨物の該否判定に関するリーガルアドバイス
四 輸出トラブル発生時の交渉、訴訟代理、当局対応支援
五 船荷証券(B/L)の正当性や流通に関する実務相談
6 まとめ:適正な通関と契約管理こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸出代行業者における仕向地誤認と法的責任を巡る裁判例について解説いたしました。B氏のようなケースにおいて、裁判所が「合意の不在」を理由に請求を棄却した事実は、貿易実務におけるエビデンス(書面による証拠)がいかに絶対的であるかを物語っています。
通常の売買と同じイメージをもち対応を行うと思わぬ部分で足元をすくわれてしまうリスクがあります。輸出や輸入という特別な取り扱いを行っていることを踏まえ、どのようにすればトラブルを回避することができるかを事前に把握した上で対応を行うことが非常に重要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
