Archive for the ‘コラム~通関手続、輸出入トラブル~’ Category

原産地証明書の不備でEPA適用の否認

2025-10-18

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入コスト削減の切り札として期待されながら、僅かな形式上の不備によってその恩恵が無効化され、多額の追徴課税を招く「原産地証明書の不備」について、実務的な観点から説明いたします。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を活用することで、本来かかる関税を少なく、又はゼロにできる、この魅力からFTA制度を利用した輸入は年々増加していますが、その一方で「原産地証明書の不備」により特恵関税が適用されず、追徴課税されてしまったという事例も少なくありません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。形式的な確認を怠ることが、いかに致命的な結果を招くかを理解する重要な一助となります。

【相談者】

神奈川県内でヨーロッパ製高級インテリア用品の輸入販売を行うF社 代表取締役 G氏

【相談内容】

「当社はこの度、日EU・EPAを活用し、イタリアのメーカーから無垢材を使用したダイニングテーブルセットを輸入いたしました。本来であれば関税率は0%となるはずであり、輸出者であるイタリア企業からは『原産地声明(Statement on Origin)』を付したインボイスを受領しておりました。B氏は専門家である通関業者に書類を渡し、適正に免税申告を行っていると確信しておりました。ところが、輸入許可から数か月後、税関から原産地規則に関する照会が届き、精査の結果『原産地声明の定型文言に一部誤りがあり、かつ輸出者の自己申告において必要な承認番号の記載が漏れている』との指摘を受けました。その結果、遡って通常税率(4.8%)が適用されることとなり、不足税額と過少申告加算税、延滞税を合わせて約一千万円の追徴を命じられました。B氏は、製品自体は間違いなくイタリア産であるのに、なぜ書類の些細な書き漏らしだけで免税が否定されるのか、納得がいきません。このような税関の判断を覆す方法はあるのか、また今後同様のミスを防ぐにはどうすればよいのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、自己申告制度を採用する日EU・EPAや日米貿易協定、あるいはTPP11(CPTPP)において非常に多く見受けられます。今回は、形式的な記載ミスでFTA適用が否認された実例をもとに、輸入者が注意すべきポイントを、関税法や各EPAの条文を交えながら解説いたします。

1 特恵関税適用の法的根拠と原産地証明の義務

EPAに基づく特恵税率(低い関税率)を享受するためには、輸入貨物が当該協定の「原産品」であることを法的に証明しなければなりません。この根拠は、関税法および各協定の実施に関する法律(EPA特例法等)にあります。

(関税法第六十八条 証明書の提出等)

第一項 条約の規定により関税の譲許(特恵関税)の便益(中略)を受けようとする者は、当該貨物の原産地を証明する書類を税関長に提出しなければならない。

この「証明する書類」には、第三者機関(日本では商工会議所)が発行する「原産地証明書」と、輸出者や輸入者が自ら作成する「原産地声明(自己申告書)」の二種類が存在します。B氏の事例にある日EU・EPAは、後者の自己申告方式を原則としており、これが実務上の「自由度」と「リスク」を同時に生み出しています。

2 日EU・EPAにおける原産地声明の厳格な定型要件

日EU・EPAにおいては、インボイス等の商業文書に記載する「原産地声明」の文言が、協定附属書に一字一句違わずに定められています。

(日EU・EPA附属書三-D 原産地声明の文言)

「The exporter of the products covered by this document (customs authorisation No ...) declares that, except where otherwise clearly indicated, these products are of ... preferential origin.」

このカッコ内の(customs authorisation No ...)は、欧州の輸出者の「認定輸出者番号」または「登録輸出者(REX)番号」を指します。もしこの番号が抜けていたり、番号自体が有効期限切れであったりする場合、税関はその声明を「法的に無効」と判断いたします。たとえ現物が本物であっても、証拠能力を欠くとみなされるのが国際貿易法の厳しさです。

3 実務上陥りやすい原産地証明の形式的不備の典型例

「悪意がない」場合でも否認の対象となる典型的なミスを以下の比較表に整理いたしました。

====================================

原産地証明書・声明における形式的不備と法的帰結一覧表

========================----------==

不備の類型|具体的な内容|税関の判断とリスク

-----|----------------|-------------

定型文言の脱落|「preferential origin」等の必須語句の欠落|声明の法的有効性を否定、特恵税率の適用不可

署名・日付の不整合|声明の日付がインボイスの日付より古い、または空欄|事後的な作成(バックデート)を疑われ、否認

HSコードの相違|証明書のHSコードと輸入申告時のコードが異なる|「別の商品」に対する証明とみなされ、無効化

原産地基準の誤記|「CTC(関税番号変更基準)」とすべきを「WO(完全生産)」とした|実態との不整合を理由に、原産資格を否認

データ不鮮明|スキャンデータやコピーが潰れて文字が読めない|真正性の確認不能として、原本の提示命令または否認

========================----------==

特に日EU・EPAでは、声明の日付欄が空欄である場合、インボイスの日付が採用されるという運用がありますが、あまりにも形式を軽視した書類は「輸入者による検証能力の欠如」を印象付け、税関による「直接検証(事後調査)」を誘発する最大の引き金となります。

4 直接検証(Verification)という最大の試練

税関は、原産地証明の内容に疑義がある場合、輸入者に対して「原産地を証明する追加の根拠資料」の提出を求めます。これを検証手続と呼びます。

5 協定別・原産地証明方式の比較と留意点

現在日本が締結している主要な協定は、それぞれ証明方式が異なります。

====================================

主要EPAにおける原産地証明方式比較表

========================----------==

協定名|主な証明方式|輸入者が特に注意すべき点

---|------|----------------------

日EU・EPA|輸出者による自己申告|REX番号の有効性と定型文言の完全一致

TPP11|輸出者・輸入者・生産者の自己申告|輸入者自身が原産資格を立証する義務(七年保存)

日米貿易協定|輸入者等による自己申告|米国側の輸出実態とHSコードの整合性

RCEP|第三者証明(移行期間あり)または自己申告|経産省発行の原産地証明書の有効期限

日アセアンEPA|第三者証明(商工会議所発行)|原本の提示、積み替え時の通し運送証明

========================----------==

6 形式不備が招く多重的な法的リスクとペナルティ

FTA/EPAの適用が否認された場合、「本来の税金を払うだけ」では済みません。

(一)過少申告加算税(関税法第十二条)

本来の税率と特恵税率の差額(不足税額)に対し、原則として10%から15%の加算税が課されます。

(二)重加算税(関税法第十二条の四)

もし、原産地証明書を偽造したり、原産資格がないことを知りながら虚偽の声明を用いたと判断された場合、35%から40%という極めて重いペナルティが課されます。

(三)統計制度への不信と全件検査

一度EPAの不備で指摘を受けた輸入者は、税関のシステムにおいて「原産地管理が不十分な企業」としてフラグが立てられます。その後の輸入取引において、毎回原産地証明書の徹底的な精査と貨物検査が行われるようになり、通関リードタイムの大幅な増大を招きます。

(四)「他法令」との連鎖

原産地の認定は、食品衛生法や家畜伝染病予防法における「輸入禁止地域」の判定にも連動するため、原産地の錯誤はこれらの重大な他法令違反を引き起こす可能性があります。

7 輸入者が構築すべき原産地管理のSOP(標準作業手順)

形式ミスひとつで大きな損失につながるからこそ、輸入者は「受動的に書類を受け取るだけ」の状態を脱却しなければなりません。

====================================

EPA利用時における輸入者用実務チェックリスト

========================----------==

確認フェーズ|具体的なアクション|法的な重要性

------|----------------|----------

発注時|輸出者に対し、対象協定の最新の定型文言テンプレートを送付する|形式不備の未然防止(関税法68条)

書類受領時|インボイス上の原産地声明に「番号」「日付」「文言」が揃っているか検算する|申告時における「他法令の証明」の正確性

申告前|輸入申告書のHSコードと証明書上のコードが完全に一致しているか照合する|原産資格の同一性の担保

輸入後|原産資格を疎明する「製造工程図」や「コストデータ」を輸出者から予備的に取り寄せる|事後確認(検証)への即応体制の構築

保管管理|関連書類一式を「輸入許可日の翌日から七年間」社内で保存する|帳簿備付け義務(関税法94条)の履行

========================----------==

特に、複数ロット・複数商品に共通の証明書(Blanket Declaration)を用いる場合の整合性確認は、事後調査で最も狙われやすいポイントです。期間が一日でも切れていれば、その期間中の全輸入分が追徴対象となります。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、経済連携協定(EPA)の活用における最大の落とし穴である「原産地証明の不備」について解説いたしました。G氏のようなケースであっても、当初から日EU・EPAの定型文言を自ら輸出者に指示し、インボイス受領時に認定輸出者番号の有無を確認する社内フローを確立していれば、一千万円という莫大な追徴を回避し、正当な免税を維持することが可能でした。

企業としては、FTA/EPAによるコスト削減という「実」ばかりを追い求めがちですが、その前提となる「法的な手続きの厳格さ」を軽視してはなりません。通関業者に任せることは有用ですが、彼らは商品の「原産資格の実態」までを調査する権限も義務もありません。最終的な納税者であり、書類の真実性を担保すべき責任者は、輸入者であるあなた自身なのです。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの証明書を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、EPA・FTAの戦略的かつ安全な活用を強力にサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

HSコードの誤認リスクと事前教示の活用

2025-10-13

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務における技術的な最難関事項の一つであり、税額の決定に直結する「HSコード(関税分類)」の選定ミスと、その救済策について説明いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。一見すると些細な分類の相違が、企業の財務にどれほどの衝撃を与えるのかを理解する一助となります。

【相談者】

神奈川県内で最先端のIoTデバイスやウェアラブル端末の輸入卸売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、海外のスタートアップ企業が開発した、心拍数測定機能とGPS機能を備えた多機能型スマートウォッチを一万個輸入いたしました。B氏は、当該製品が健康管理を主目的としていることから、過去の類似事例を参考に、関税率が無税である『運動用具』に近い分類(第95類)を選択して申告を行いました。しかし、輸入許可から一年後に行われた税関の事後調査において、調査官から『本製品は通信機能を備えており、主たる機能は無線通信機器である。したがって、第85類の通信機器に分類すべきである』との指摘を受けました。その結果、関税率自体は無税で変わらなかったものの、輸入消費税の計算の基礎となるHSコードが変更されたことで、区分ミスによる過少申告加算税が課されることになりました。また、別の精密部品では関税率が0パーセントから3.9パーセントへ引き上げられ、過去に遡って数千万円の追徴課税を命じられました。B氏は、なぜプロである通関業者も通した申告が後から否定されるのか、また、このような予測不能な事態を事前に防ぐ公的な仕組みはないのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、製品の多機能化が進む現代の貿易において、最も頻繁に発生するトラブルの一つです。「同じ商品なのに、税関から『これは別の分類になる』と指摘され、関税率が数倍に引き上げられた」という話は、決して他人事ではありません。今回は、関税分類の誤りが招く法的リスクと、トラブルを未然に防ぐ「事前教示制度」の活用法について、関税法に基づき解説いたします。

1 HSコード(関税分類)の法的構造と決定プロセス

HSコード(Harmonized Commodity Description and Coding System)は、国際的な商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(HS条約)に基づく分類番号です。

(関税法第六十七条 輸出又は輸入の許可)

貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。

この「必要な事項」の筆頭に挙げられるのがHSコードです。日本では「実行関税率表」に基づき、国際共通の6桁に国内細分を加えた9桁(統計番号を含めるとさらに細かくなる場合があります)で構成されます。この番号により、適用される関税率だけでなく、薬機法や電波法といった「他法令」の該当性もシステム的に管理されています。輸入申告の際には、正確なHSコードを付けて申告しなければなりません。

2 なぜ専門家でもHSコードの分類ミスを犯すのか

分類ミスが起きる背景には、単なる知識不足だけではない、実務上の複雑な要因が絡み合っています。

一 技術的な複雑化と境界線の曖昧さ

B氏の事例のように、一つの製品が複数の機能を持つ(例えば通信機能と測定機能、あるいは玩具の要素と実用品の要素)場合、どの機能が「主たる特性」を形成しているかの判断は極めて困難です。

二 関税率表の解釈に関する通則の難解さ

分類は、関税率表の「注」や「通則」という厳格な法的ルールに従わなければなりませんが、その解釈は専門教育を受けた者でも見解が分かれることがあります。

三 過去の申告実績の盲信

長年同じコードで通っていたとしても、それは「税関が認めた」ことを意味しません。事後調査で初めて精査され、過去数年分が否定されるリスクを常に孕んでいます。

四 情報不足と通関業者への過度な依存

通関業者は、輸入者から提供されたインボイスの品名だけで判断せざるを得ないことが多く、内部の基板構成やソフトウェアの仕様までを把握して分類することは事実上不可能です。

3 関税分類の「通則(分類ルール)」の具体的解説

分類を適正に行うためには、関税率表に付随する「通則」を理解する必要があります。

====================================

関税分類決定のための基本原則(通則1から4)一覧表

========================----------==

通則の番号|ルールの内容|実務的な適用方法

-----|----------------|------------

通則1|項の規定及び部・類の注に従う|標題は参照用であり、法的な分類は注釈が最優先される

通則2|未完成品や混合物の取り扱い|完成品の実質的な特性を有していれば、完成品として分類する

通則3|二以上の項に属するとみられる物品|(a)最も特殊な限定をしている項(b)主たる特性を与える材料(c)末尾の項の順に適用

通則4|前三則により分類できない物品|当該物品に最も類似する物品が属する項に分類する

========================----------==

4 事前教示制度(文書による回答)の圧倒的な法的メリット

税関では、輸入申告の前に「この商品はどのHSコードに該当するのか」を公的に確認できる「事前教示制度」を提供しています。これは単なる相談ではなく、関税法上の重みを持つ制度です。

(一)書面回答の拘束力

書面による事前教示を受けた場合、その内容に基づき申告を行えば、原則として輸入許可段階での税関の判断が事実上保証されます(有効期間は発行から3年間)。

(二)過少申告加算税の回避

事前教示の回答に従って申告した結果、後に上位の当局の見解変更によりコードが修正されたとしても、輸入者の責任は問われず、ペナルティとしての加算税は課されないという強力な保護機能があります。

(三)コストと納期の予見可能性

輸入前に正確な税率が確定するため、原価計算が狂うリスクを排除し、税関検査による足止めを最小限に抑えることが可能です。

5 事前教示申請における実務上の準備事項と注意点

事前教示制度を効果的に活用するためには、税関が「それだけで製品を特定できる」レベルの資料を揃える必要があります。

====================================

事前教示(書面回答)申請のための必要書類チェックリスト

========================----------==

必要書類の項目|具体的な内容と留意点|目的

-------|----------------|----------

製品仕様書|原材料、成分構成、寸法、重量の詳細|材質による分類の特定

回路図・工程図|電子機器の場合、どのように機能するかを示す|機能による分類の特定

カタログ・写真|製品の外観、カラー写真、使用イメージ|用途による分類の特定

製造者の説明書|製造元による製品の主たる目的の記述|「主たる特性」の証明

実物サンプル|実際に税関職員が手に取って確認できるもの|最終的な官能評価と特定

販売用資料|日本国内での広告予定、ターゲット層の説明|市場における位置づけの確認

========================----------==

6 HSコード分類誤りによる多重的なリスクの分析

分類を誤ることは、単に関税の額が変わるだけの問題ではありません。企業の信頼性と存続に関わる多重的なリスクを招きます。

(一)過少申告加算税と延滞税(関税法第十二条等)

B氏の事例のように、意図的な隠蔽でなくても、税額が不足していれば不足分の10から15パーセントの加算税が課されます。過去5年分の累積は、中小企業にとって致命的な金額となり得ます。

(二)重加算税(関税法第十二条の四)

事実を隠蔽したり仮装したりして意図的に低い税率を適用したとみなされた場合、35パーセントから40パーセントという極めて重い罰則金が課されます。

(三)「他法令」違反の誘発

HSコードによって薬機法等の対象かどうかが自動判定されるため、コードを誤ると必要な許可(確認証)を得ずに輸入してしまう「無許可輸入」という刑事罰の対象に直結します。

(四)物流の停滞と全件検査

一度重大な分類ミスを指摘されると、税関のシステムで「リスク要注意先」としてマークされます。その後の全輸入貨物について徹底的な開梱検査が行われるようになり、納期遅延が常態化します。

7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

HSコードの分類判断は、単なる事務作業ではなく、関税法という高度に専門的な法律に基づく「法的鑑定」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、限界とリスクがあります。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、法務と実務の両面から、貴社の関税分類を完璧に防御いたします。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 製品の仕様に基づいた、法的根拠(通則・注)を伴う精緻なHSコードの判定

二 税関に対する「事前教示(書面回答)」の申請代行、および提出資料のリーガルチェック

三 税関から分類について疑義を呈された際の、専門的知識に基づいた意見書(反論書)の作成

四 事後調査において分類ミスを指摘された場合の、追徴額軽減に向けた交渉および不服申立て

五 社内HSコード管理台帳(関税マスター)の構築支援、およびコンプライアンス研修

六 他法令(薬機法、食品衛生法、電波法等)とのクロスチェックによる一貫した輸入管理

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で分類の妥当性を審査し、どのような証拠を突き付けられるのを最も嫌がるかという「急所」を見抜き、最も効果的な一手を打つことができます。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスの財務基盤を揺るがしかねないHSコードの分類リスクと、その最強の防衛策である事前教示制度について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から事前教示制度を活用し、税関から「第85類に分類すべきである」という回答を文書で得ていれば、あるいはその回答を基に原価計算をやり直していれば、数千万円の追徴や事後調査での混乱に怯える必要はありませんでした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万全な通関体制の構築を強力にサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入販売におけるPL法のリスク管理

2025-09-13

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、海外から商品を仕入れて国内で販売する際に、多くの事業者が「自分は作っていないから関係ない」と誤解しがちな、製造物責任法(以下、PL法といいます。)の重大なリスクについて詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。製造工程に関与していない輸入者が、なぜ莫大な賠償責任を負わされるのか、その法的な厳しさを理解する重要な一場面となるかと思います。

【相談者】

神奈川県内で最新のスマートフォン関連機器やモバイルバッテリーの輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、アジアのメーカーが開発した、大容量かつ安価なモバイルバッテリーを一万個仕入れ、自社のECサイトや家電量販店を通じて販売いたしました。当該製品は現地では大手ショップでも扱われており、B氏はメーカーからの安全検査報告書を確認した上で輸入を決定しました。ところが、販売開始から三ヶ月後、購入者の一人から『充電中にバッテリーが異常発熱して発火し、自宅の絨毯と家具が焼けた。さらに消火の際に手に大火傷を負った』という連絡がありました。被害者は当社に対し、治療費や家財の損害、慰謝料を含め五百万円の賠償を求めています。B氏は『当社は輸入しただけで、設計ミスや製造ミスは海外メーカーの責任だ。メーカーに直接請求してほしい』と回答しましたが、被害者の弁護士からは『PL法に基づき、輸入者がすべての責任を負う義務がある』と反論されています。B氏は、製造に関わっていない自社がなぜこれほど重い法的責任を負わなければならないのか、また、海外メーカーにこの損害を転嫁することはできるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入ビジネスにおいて「知らなかった」では済まされない最も致命的な法的トラブルの一つです。海外から仕入れた商品を日本国内で販売する場合、たとえ製造していなくても、輸入者が製造物責任を問われる可能性があります。製造物責任法により、製造者だけでなく、輸入者や特定の表示を行った者にも法的責任が及ぶため、細心の注意が必要です。本日は、輸入販売におけるPL法のリスクと、それに対する予防策について、法令の条文に基づき詳細に解説いたします。

1 製造物責任法(PL法)の基本理念と無過失責任の原則

まず、PL法がどのような法律であり、なぜ輸入者にとって過酷な内容となっているのかを正しく理解する必要があります。PL法は、製品の欠陥により消費者が被害を受けた際、被害者を迅速に救済することを目的としています。

(製造物責任法第一条 目的)

この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もつて国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(製造物責任法第三条 製造物責任)

製造業者等は、その引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

通常の民法上の不法行為責任(民法第七百九条)では、被害者が「加害者に過失(落ち度)があったこと」を証明しなければなりませんが、PL法においては、輸入者に過失がなくても「製品に欠陥があったこと」さえ証明されれば、賠償責任が発生いたします。これを「無過失責任原則」と呼びます。B氏の事例において、たとえA社が検品を尽くしていたとしても、バッテリー自体に潜在的な欠陥があれば、責任を免れることはできません。

2 なぜ「輸入者」が「製造業者等」とみなされるのか

PL法において、損害賠償の主体となる「製造業者等」の定義には、驚くべきことに輸入者が明確に含まれています。

(製造物責任法第二条第三項 製造業者等)

この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。

一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者

二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号若しくは商標(以下「氏名等」という。)を表示した者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等を表示した者

三 (中略)当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る事業の実態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等を表示した者

なぜ、作っていない輸入者がこれほど重い責任を負わされるのでしょうか。その法理的な背景には以下の三つの理由があります。

(一)被害者救済の実効性。海外の製造者に対して、日本の消費者が直接訴訟を起こすことは、言語の壁や裁判管轄、執行の困難さから見て現実的ではありません。そこで、商品を国内に持ち込んだ「輸入者」を責任の窓口とすることで、被害者が容易に救済を受けられるようにしています。

(二)利益の帰属とリスクの負担。海外製品を輸入して利益を得ている者は、その製品から生じるリスクも併せて負担すべきであるという考え方(報償責任の原則)に基づいています。

(三)ゲートキーパーとしての役割。輸入者は、どのような製品を国内に流通させるかを選択できる立場にあります。法は輸入者に対し、安全な製品のみを選択して輸入するという「門番」としての役割を期待しているのです。

3 PL法における「欠陥」の三つのカテゴリー

輸入者が賠償責任を負うかどうかの分かれ目は、製品に「欠陥」があったか否かです。PL法上の欠陥は、単なる「故障」よりも広い概念であり、以下の三種類に分類されます。

====================================

PL法における「欠陥」の定義と具体的類型一覧表

========================----------==

欠陥の類型|法的な意味合い|輸入ビジネスにおける具体例

-----|----------------|------------

設計上の欠陥|製品の設計段階で安全性への配慮が不足しており、事故を招く構造になっている場合|モバイルバッテリーの保護回路の設計ミス、強度が不足したベビーカーの構造

製造上の欠陥|設計は正しいが、製造工程でのミスにより、一部の個体において品質にバラツキが生じた場合|配線のハンダ付け不良によるショート、異物の混入、ネジの締め忘れ

指示・警告上の欠陥|製品自体に不備はないが、適切な使用方法や危険性に関する情報提供が不足している場合|日本語での注意書きがない、警告ラベルが剥がれやすい、誤飲の危険性を明記していない

====================--------------==

特に輸入者が注意すべきは「指示・警告上の欠陥」です。海外メーカーの取扱説明書をそのまま翻訳しただけでは、日本の法基準や安全意識に適合しない場合があります。警告不足を理由に、輸入者が一億円を超える賠償を命じられた判例も存在します。

4 想定されるPLリスクの具体的ケーススタディ

輸入販売におけるPL事故は、あらゆる商材で発生する可能性があります。代表的なリスクを整理いたしました。

一 電子機器・家電製品

リチウムイオン電池の発火、プラグの過熱による火災。これらは建物への延焼など、損害が数千万円から数億円に達するリスクを孕んでいます。

二 化粧品・サプリメント・健康食品

成分による重篤なアレルギー反応や肌荒れ。長期的な健康被害が生じた場合、将来にわたる逸失利益を含めた莫大な賠償が必要となります。

三 玩具・子供用品

部品の脱落による誤飲窒息、鋭利な角による負傷。子供に関する事故は、社会的批判(レピュテーションリスク)も極めて強く、企業の存続に直結いたします。

四 アパレル・繊維製品

染料による皮膚炎、装飾品の脱落、または難燃性の欠如による火傷。

これらすべてのケースにおいて、被害者は「海外メーカー」ではなく「あなたの会社(輸入者)」を訴えてくるのです。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

5 PL訴訟・クレーム発生時の実務的対応フロー

万が一、自社が輸入した製品で事故が発生した場合、迅速かつ的確な初動対応が、被害の拡大と法的責任の重さを左右します。

====================================

PL事故発生時の緊急対応フローチャート

========================----------==

ステップ一:事実関係の即時確認

被害の程度、発生日時、製品のシリアル番号、事故時の使用状況を詳細に聞き取る

ステップ二:証拠品の確保

事故を起こした現物を回収する。写真は多角的に撮影し、勝手に解体や廃棄をしない

ステップ三:法的アドバイスの受領

弁護士に相談し、PL法上の欠陥に該当するか、免責事由があるかを法的に鑑定する

ステップ四:関係当局への報告

重大事故の場合、消費生活用製品安全法に基づき、消費者庁等への報告義務が生じる

ステップ五:被害者への誠実な対応

謝罪と事実調査の進捗報告を行う。この段階での「責任の断定」は慎重に行う

ステップ六:リコール(回収)の検討

同種製品による再発の恐れがある場合、速やかにリコールを告知し被害拡大を防ぐ

ステップ七:保険会社への通知

加入しているPL保険の担当者に連絡し、査定と賠償手続きの準備を開始する

====================--------------==

6 海外メーカーとの契約によるリスク移転の要諦

輸入者がPL法上の責任を免れることは困難ですが、支払った賠償金を海外メーカーに肩代わりさせる、あるいは後から請求する(求償)ための法的基盤を築くことは可能です。

(一)PL補償条項(Indemnification Clause)の導入

売買契約書において、「製品の欠陥に起因して輸入者が第三者に賠償を行った場合、売主(海外メーカー)は、弁護士費用を含めたすべての損害を輸入者に補償する」旨を明記します。

(二)製造者による保険加入の義務付け

海外メーカー自身に、世界的に有効な「海外PL保険」への加入を義務付け、その証券の写しを提出させることも有効なリスクヘッジです。

(三)表明保証(Representations and Warranties)

製品が日本の安全規格(PSE、SC、STマーク等)に完全に適合していることを契約上で保証させます。

(四)協力義務

万が一訴訟になった際、海外メーカーが技術的なデータや図面を迅速に提供し、証言に協力することを義務付けます。

7 輸入者が構築すべき多重的な防衛体制(ICP)

契約書だけでは不十分です。実務面において以下の四つの柱を確立し、社内輸入管理体制を強化することが不可欠です。

一 厳格な品質検査(インスペクション)

海外工場での出荷前検査だけでなく、日本到着時にも抜き取り検査を実施し、その記録を永続的に保存してください。これは、後に「欠陥は輸入時には存在しなかった(消費者の誤使用である)」と反論するための重要な証拠となります。

二 日本語の警告表示と取扱説明書の最適化

翻訳会社任せにせず、日本の法規制に詳しい専門家のチェックを受け、「警告マーク」や「禁止事項」が視覚的に分かりやすく表示されているかを確認してください。

三 PL保険(生産物賠償責任保険)への加入

どれだけ対策をしても事故はゼロにはなりません。中小企業であっても、高額な賠償に対応できるPL保険への加入は、輸入ビジネスを継続するための「必要経費」と捉えるべきです。

四 専門家との顧問契約

PL法だけでなく、関税法や他法令に精通した弁護士を味方につけておくことで、トラブルの芽を未然に摘み取ることが可能となります。当事務所は、代表弁護士が輸出入の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を守ります。

8 まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入販売における最大の法的懸念事項である製造物責任(PL法)について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初からPL法のリスクを認識し、海外メーカーとの契約で強力な補償条項を設け、かつ適切な警告表示とPL保険の準備を整えていれば、五百万円の賠償という事態が会社を揺るがす危機になることはありませんでした。

企業としては、輸入する貨物の利益や人気のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面や責任面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ること、そして何より日本の消費者の安全を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万が一のPL事故における法的防衛をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

商品の模倣品・偽物を輸入してしまった場合

2025-09-03

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入ビジネスにおいて最も深刻な法的トラブルの一つであり、企業の存続を左右しかねない「模倣品(コピー品・偽物)の輸入」について、その法的構造から税関での認定手続、そして権利者との交渉に至るまでを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。仕入先の言葉を鵜呑みにすることの危うさと、輸入者に課される重い責任を理解する重要な一助となります。

【相談者】

東京都内で海外製雑貨およびアパレルのオンラインショップを運営するA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、東南アジアの卸売サイトを通じて、欧州の高級ブランドのロゴに酷似したデザインがあしらわれたバッグやアクセサリーを約三百点仕入れました。仕入先の業者は『これは当該ブランドの工場から直接仕入れたアウトレット品であり、並行輸入品として日本で販売しても何ら問題ない』と説明しており、価格も通常よりは安価でしたが、極端に不自然なほどではありませんでした。B氏はその言葉を信じて送金を済ませ、輸入申告を行いましたが、税関から『知的財産権侵害物品に該当する疑いがあるため、認定手続を開始した』との通知が届きました。さらに、日本国内のブランド権利者の代理人弁護士からも、商標権侵害を理由とする損害賠償請求と謝罪広告の掲載を求める警告書が送られてきました。B氏は、本物だと信じていたのに、なぜ輸入者である自分が犯罪者扱いを受け、多額の賠償金を支払わなければならないのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、近年の越境電子商取引(EC)の普及に伴い、規模の大小を問わず多くの事業者が直面している現実です。海外から商品を輸入したところ、実はそれが模倣品だったというトラブルは、輸入ビジネスにおける重大なリスクのひとつです。知らずに輸入したとしても、法的責任やブランド権利者からの差止・損害賠償請求に発展する可能性があるため、迅速かつ慎重な対応が求められます。本日は、模倣品を輸入してしまった場合の法的整理と、実務的な対処法について、商標法や関税法の条文に沿って解説いたします。

1 知的財産権侵害物品の法的定義と商標権の効力

模倣品とは、商標権、意匠権、著作権、特許権などの知的財産権を侵害する商品を指します。輸入実務で最も問題となるのは「商標権」の侵害です。

(商標法第二条第三項)

この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。

一 商品又は商品の包装に標章を付する行為

二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

(商標法第二十五条)

商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。

B氏の事例のように、ブランドロゴが付された商品を「輸入」する行為そのものが、商標法上の「使用」に該当し、権利者の許諾がない限り、原則として商標権侵害を構成いたします。たとえ「アウトレット品」や「工場直送」という説明があったとしても、それが客観的な事実に基づき、かつ権利者の管理下で生産されたものでない限り、法的には模倣品として扱われます。

2 関税法に基づく「輸入してはならない貨物」と没収のリスク

税関は、水際で知的財産権を保護するため、侵害物品の輸入を厳格に禁止しています。

(関税法第六十九条の十一 輸入してはならない貨物)

第一項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。(中略)

九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

税関において侵害の疑いがある貨物が発見された場合、直ちに「認定手続」が開始されます。これは、その貨物が本当に権利を侵害しているかどうかを税関長が判断する手続です。

(関税法第六十九条の十二 認定手続)

第一項 税関長は、輸入申告された貨物(中略)のうちに知的財産権を侵害する物品に該当する疑いがあるものがあるときは、当該貨物について、当該物品に該当するかどうかを認定するための手続を執らなければならない。

この手続が開始されると、輸入者には「認定手続開始通知書」が届き、一定期間内に意見書や証拠資料を提出する機会が与えられます。しかし、正規品であることを証明する客観的な資料(権利者発行のライセンス証書等)を提出できない場合、貨物は「侵害物品」として認定され、没収および廃棄処分となります。この際、支払った商品代金はもちろん、関税や消費税も返還されないため、輸入者は全額の損失を被ることになります。

3 「知らなかった(善意)」が通用しない法的理由と過失の推定

輸入者が「偽物とは思わなかった」と主張しても、民事上の責任を免れることは極めて困難です。民法上の不法行為責任(第七百九条)において、知的財産権の侵害については、商売として輸入を行っている以上、極めて高い注意義務が課されるためです。

(民法第七百九条 不法行為による損害賠償)

故意又は過失によつて他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

実務上の判例では、著名なブランド品を扱う事業者は、その商品が真正品であることを確認する高度な注意義務を負うとされています。したがって、異常に安価な価格、信頼性の低い仕入ルート、不自然な決済方法などの事情があるにもかかわらず、十分な調査をせずに輸入した場合には「過失」があったと断定されます。また、刑事罰についても、未必の故意(偽物かもしれないが、それでも構わないという認識)があれば成立する可能性があります。

(商標法第七十八条 侵害の罪)

商標権又は専用使用権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

4 真正な「並行輸入」と認められるための三要件

B氏が主張しようとした「並行輸入」は、特定の条件下でのみ適法と認められます。最高裁判所の判例(フレッドペリー事件等)によれば、以下の三つの要件(並行輸入の三要件)をすべて満たす必要があります。

====================================

真正商品の並行輸入適法性判定基準一覧表

========================----------==

要件名|具体的な判断内容|実務上の留意点

---|----------------|--------------

第一要件:適法な商標表示|海外の商標権者またはその許諾を受けた者により、適法に商標が付されたものであること|偽造品はこの時点で除外される

第二要件:同一権原性|海外の商標権者と日本の商標権者が同一、または密接な関係にあり、同一の出所を表示していること|日本国内に独自の商標権者がいる場合は侵害となる

第三要件:品質の同一性|日本の商標権者が管理する商品と、並行輸入品の品質に実質的な差異がないこと|仕様変更や保存状態による品質劣化がある場合は侵害の恐れあり

========================----------==

仕入先が「本物だ」と言っていても、この三要件を客観的に証明するエビデンス(仕入ルートの証明書等)がない限り、税関や裁判所は並行輸入としての適法性を認めません。

5 模倣品疑いでの認定手続開始時における実務的対応フロー

税関から通知が届いた際、輸入者が取るべき行動をチャート形式で整理いたしました。

====================----============

認定手続開始後の初動対応フローチャート

====================----============

ステップ一:通知内容の精査と期限の確認

通知書に記載された権利者名、侵害の理由、意見書提出期限(通常十開庁日)を確認する

ステップ二:仕入先への事実確認と資料請求

仕入先に対し、侵害の指摘があった旨を伝え、真正品である証明(インボイス、ライセンス等)を求める

ステップ三:権利者代理人との接触

通知書に記載された権利者の窓口(弁護士等)へ連絡し、侵害の根拠を確認する

ステップ四:意見書の作成と提出

真正品である主張をする場合は証拠を添えて提出。認められない場合は「自発的処理」を検討する

ステップ五:自発的処理(廃棄・積み戻し)の選択

争うことが困難な場合、税関の承認を得て貨物を廃棄、または仕入先へ返送する手続きをとる

ステップ六:民事上の和解交渉

権利者からの警告書に対し、誠実な回答を行い、賠償額や在庫処理に関する和解を目指す

====================----============

6 不適切な管理に伴う二次的被害とレピュテーションリスク

模倣品の輸入を放置したり、安易な嘘で言い逃れをしようとしたりすることは、企業の未来を破壊する行為です。

(一)全件検査の対象(通関のブラックリスト化)

一度でも知的財産権侵害物品の輸入を認定されると、税関のシステムにおいて「ハイリスク輸入者」として登録されます。その後のすべての輸入貨物について徹底的な開梱検査が行われるようになり、通関スピードの低下と保管料の増大を招きます。

(二)販売プラットフォームからの追放

アマゾンや楽天市場などの大手プラットフォームでは、模倣品の疑いがあるだけでアカウントが永久停止されることがあり、主要な販路を失うことになります。

(三)損害賠償額の膨張

侵害を知りながら販売を継続した場合、商標法第三十八条に基づき、利益額のすべてを損害額とみなされるなど、賠償額が数千万円単位に膨れ上がるリスクがあります。

7 模倣品輸入を未然に防ぐためのリスク管理

トラブルが発生した後の対応には限界があります。輸入者としての責任を問われないため、以下の事前策を徹底することが極めて重要です。

一 仕入先のデューデリジェンス

取引相手が実在する企業か、信頼できる実績があるか、過去にトラブルを起こしていないかを徹底的に調査します。

二 売買契約書における「表明保証」条項

契約書において、売主が「本製品は第三者の知的財産権を一切侵害していないこと」を保証し、万が一侵害が発覚した場合には、売主がすべての賠償責任と返品費用を負う旨を明記させます。

三 サンプルの事前鑑定

大量発注の前にサンプルを輸入し、日本国内の鑑定機関や弁護士を通じて権利関係のチェックを行います。

四 税関の「輸入差止申立」情報の確認

税関のウェブサイトで、どのブランドがどのような理由で差止申立を行っているかを随時確認し、リスクの高い品目を把握しておきます。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスの死命を制する「模倣品トラブル」の法的リスクとその対応策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から並行輸入の適法性を精査し、仕入先に対して厳格なエビデンスを求め、かつ権利侵害のリスクを事前に弁護士へ相談していれば、全財産を失うような事態は防ぐことが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の言葉のみを信じるのではなく、自らが「輸入の主体」として、その貨物の法的な正当性を証明する義務があることを決して忘れてはなりません。不適切な商品を排除し、適正な通関を実現することは、一企業の利益を守るだけでなく、日本の市場秩序と消費者の安全を守るという、国際貿易に携わる者としての誇りある使命です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万が一の知財トラブルにおける法的防衛をサポートし続けます。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

海外メーカーと輸入業者間の契約トラブル

2025-07-15

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、海外メーカーとの直接取引において、多くの輸入事業者が直面する契約上の紛争とその解決策について、国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)や国際私法の観点から詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。国際取引の特殊性と、事前の契約締結がいかに重要であるかを理解する一助となります。

【相談者】

神奈川県内でスマートフォン周辺機器およびガジェットの輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、中国の電子機器メーカーから、最新型のワイヤレスイヤホン二千個を仕入れる契約をメールベースで締結いたしました。事前のサンプル確認では品質に満足していましたが、実際に届いた製品を確認したところ、外装の材質が指定したものより安価なプラスチックに変更されており、さらに全体の二割に初期不良が見られました。B氏は直ちにメーカーへ交換と、納期遅延に伴う損害の賠償を求めましたが、相手方は『原材料が高騰したための仕様変更であり、業界の許容範囲内である。交換には応じるが、返送費用は日本側が負担せよ』と主張し、平行線を辿っています。正式な契約書は作成しておらず、やり取りはすべてチャットアプリとメールのみです。B氏は、どこの国の法律が適用されるのか、また、日本で訴訟を起こすことができるのかについて、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入ビジネスの現場において極めて一般的です。海外メーカーと取引を開始したものの、「納期が守られない」、「商品が仕様と違う」、「代金を払ったのに発送されない」といったトラブルに悩まされる輸入事業者は少なくありません。こうした契約トラブルの多くは、契約書が存在しない、もしくは不十分な内容のまま取引を開始してしまったことに原因があります。本日は、輸入取引における海外メーカーとの契約トラブルと、トラブルを回避・解決するためのポイントを、法令に基づき解説いたします。

1 典型的な契約トラブルのパターンと法的リスク

海外取引において発生するトラブルは、国内取引以上に複雑化する傾向があります。主な類型は以下の通りです。

(一)納期遅延

予定納期より数週間、ひどいときには数か月遅れて商品が届くケースです。季節商品やイベント関連商品の場合、遅延はそのまま販売機会の完全な喪失を意味します。

(二)仕様不一致(契約不適合)

B氏の事例のように、注文した仕様と異なる素材、サイズ、パッケージ、あるいは性能の製品が納入されるケースです。

(三)数量不足および破損

インボイス上の数量と実物が一致しない、あるいは輸送中の梱包不備により不良品が混入しているケースです。

(四)代金支払い後の音信不通(詐欺的行為)

前払いを済ませた途端に発送連絡がないまま連絡不能になる、いわゆる「ゴースト業者」による被害も後を絶ちません。

これらはいずれも、事前に詳細な「売買契約書(Sales Agreement)」を作成していれば、責任の所在を明確にし、解決を早めることができた事案です。

2 国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の適用

日本と中国、あるいは多くの欧米諸国との取引においては、特段の合意がない限り、国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約、以下CISGといいます。)が適用されます。

(CISG第三十五条 物品の適合性)

1 売主は、契約に定める数量、品質及び種類に適合し、かつ、契約に定める方法で容器に入れられ又は包装された物品を引き渡さなければならない。

2 (中略)物品は、次の要件を満たさない限り、契約に適合するものとはみなされない。

(a)当該物品が、通常同一の説明を有する物品が使用される目的に適していること。

(b)当該物品が、契約の締結の時に明示的又は黙示的に売主に知らされた特定の目的に適していること。(後略)

B氏の事例では、メールでのやり取りが「契約の内容」を構成するため、この第三十五条に基づき、仕様変更が契約不適合であることを主張できます。しかし、具体的な許容範囲(トレランス)を定めていない場合、相手方に「許容範囲内である」と反論される余地を与えてしまいます。

3 口頭・メールベースの合意の限界と証拠能力

日本では、「相手が信頼できる」「長年の付き合いがある」といった理由で、契約書なしでの取引が続けられることも少なくありません。しかし、海外メーカーとの取引では法的文化や商習慣が異なり、口頭合意やメールのやり取りだけでは証拠として不十分とされる場合があります。

(一)言語の壁と解釈の相違

英語や現地の言葉でのやり取りは、微妙なニュアンスの違いが大きな誤解を生みます。契約書がない場合、裁判所や仲裁機関はその「真意」を確定するために膨大な時間を要します。

(二)パロール・エビデンス(口頭証拠排除原則)の存在

英米法圏のメーカーとの取引において、もし簡易的な契約書を作成していた場合、その書面に記載されていない「事前のメールでの約束」は証拠として認められないという原則が適用されるリスクがあります。

(三)商慣習の違い

日本では「誠実に協議して解決する」という条項が好まれますが、国際取引では「何が義務で、違反したら何円払うか」を明文化することが、解決への最短距離となります。

4 準拠法と裁判管轄の決定的な重要性

紛争が発生した際、「どこの国の法律で(準拠法)」、「どこの裁判所で(裁判管轄)」争うかが、解決の成否を分けます。これらが未定の場合、法の適用に関する通則法(国際私法)に基づき決定されます。

(法の適用に関する通則法第七条 当事者による準拠法の選択)

法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の時に選択した地の法による。

(同法第八条 当事者による準拠法の選択がない場合)

前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の時に当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

B氏の事例のように、準拠法を定めていない場合、売主(中国メーカー)の本拠地がある中国法が適用される可能性が高くなります。日本の法律であれば輸入者に有利な解釈ができる場面でも、相手国の法律が適用されれば、全く異なる結論が導き出される恐れがあります。

裁判管轄についても同様です。事前に「日本の裁判所(例えば横浜地方裁判所)」を専属的合意管轄裁判所として定めておかない限り、相手国の裁判所で、現地語を使い、現地の弁護士を雇って訴訟を行わなければならなくなり、事実上の泣き寝入りを強いられることになります。

5 輸入契約における必須条項とリスクヘッジ一覧表

トラブルを未然に防ぐために、契約書に盛り込むべき主要条項を整理いたしました。

====================================

国際売買契約書(英文/和文)必須チェック項目一覧

========================----------==

条項名|具体的な記載内容|法的な役割

---|----------------|--------------

仕様(Specifications)|図面、材質、許容誤差を別紙で特定する|契約不適合(CISG35条)の立証

検査(Inspection)|納入後何日以内に検査し、通知するか定める|クレーム提起期間の限定(商法585条関連)

危険負担(Incoterms)|FOB、CIF等の条件を明記する|破損時の責任移転時期の確定

損害賠償(Damages)|遅延損害金やリコール費用の負担を定める|実損の確実な回収

不可抗力(Force Majeure)|天災や物流混乱時の免責範囲を定める|予期せぬ履行不能への備え

準拠法(Governing Law)|「日本法とする」旨を明記する|解釈基準の統一

紛争解決(Arbitration)|裁判または国際仲裁の場所を指定する|訴訟コストと手続の予測可能性

====================================

6 不適切な管理が招くビジネス上の損害

契約トラブルは、単なる商品代金の損失に留まらず、企業の存続に関わる二次的被害を引き起こします。

(一)社会的信用の失墜

仕様の異なる不完全な製品を顧客に届けてしまった場合、長年築き上げたブランドイメージは一瞬で崩壊いたします。

(二)法規制違反への連鎖

仕様変更により、本来必要だった食品衛生法や電波法(技適)の基準を満たさなくなっていた場合、輸入者は行政処分の対象となります。

(三)資金繰りの悪化

前払金を持ち逃げされたり、販売不能な在庫を抱えたりすることで、特に中小企業にとっては致命的なキャッシュフローの停滞を招きます。

7 トラブル発生時の実務的対応ステップ

万が一、トラブルが発生した際には、感情的な対立を避け、以下の法的手続きを見据えた対応が必要です。

一 事実関係の客観的記録

不備のある製品の写真、動画、到着時の検品レポートを即座に作成します。

二 書面による通知(Notice of Defect)

CISG第三十九条に基づき、相当な期間内に不適合の内容を通知しなければ、権利を失う恐れがあります。

(CISG第三十九条)

1 買主は、物品の不適合を発見し、又は発見すべきであった後相当な期間内に、その不適合の性質を特定した通知を売主に送付しない場合には、物品の不適合を援用する権利を失う。

三 弁護士による英文警告書(Letter of Demand)の送付。当事者間の交渉で拉致が明かない場合、日本の弁護士名義で法的な根拠を示した文書を送付することで、相手方の態度を軟化させ、示談を引き出せるケースが多々あります。

四 国際仲裁の申し立て。相手国の裁判所を避けるため、日本商事仲裁協会(JCAA)等での仲裁手続きを活用します。仲裁判断は、ニューヨーク条約に基づき、海外でも強制執行が可能です。

8 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

海外メーカーとの契約トラブルは、言語、商習慣、そして国際私法という三重の障壁が存在します。輸入者が独力で解決を試みることは、更なるリスクを呼び込むことになりかねません。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、契約書の作成から紛争解決、さらには税関対応までを一気通貫でサポートいたします。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 リスクを最小化する英文売買契約書の作成およびリーガルチェック。

二 CISG(ウィーン売買条約)に基づいた有利な条件交渉のアドバイス。

三 納品トラブル、品質不良、支払い遅延に対する法的な反論および交渉。

四 不当な契約解除や損害賠償請求に対する防御戦略の策定。

五 国際仲裁や外国訴訟における現地法律事務所との連携・マネジメント。

六 トラブル貨物の通関・再輸出(積戻し)に伴う税関手続きの助言。

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる契約の解釈に留まらず、輸入された「物」が動かない(税関で止まる)という物理的なリスクに対しても、即効性のある処方箋を提示することができます。

9 まとめ:適正な契約こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、海外メーカーとの取引における契約トラブルの実態と、その法的な防衛策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から詳細な仕様書を契約の一部とし、日本法を準拠法に指定し、かつ不適合時の補償条項を設けていれば、一方的な仕様変更を許さず、速やかな損害の回収が可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意図のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入品の破損に伴う法的責任の所在

2025-07-10

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において頻繁に発生し、かつ解決が困難になりがちな「輸入品の破損」に関する法的処理と、実務的なクレーム対応について詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。国際物流の複雑さと、証拠収集の重要性を理解する上で非常に示唆に富む内容となっております。

【相談者】

神奈川県内でヨーロッパ製高級陶磁器の輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、ドイツの著名な工房から一点数十万円もする花瓶や食器セットを約五百点仕入れ、コンテナで輸入いたしました。取引条件はFOBハンブルク港であり、輸送中のリスクに備えて貨物海上保険(オール・リスク条件)にも加入しておりました。ところが、横浜港の倉庫でコンテナを開封したところ、全体の三割にあたる製品が木っ端微塵に砕けていたり、亀裂が入っていたりしたのです。梱包に使用されていた緩衝材は十分とは言えず、また輸送中の揺れが激しかった可能性も考えられます。B氏は直ちにドイツの輸出者へ再送を求めましたが、『本船に積み込むまでは無傷だった。FOB条件なのだから、それ以降の損害は輸入者の責任だ』と突っぱねられました。一方で、保険会社からは『梱包不良による破損は免責事由に該当する可能性があるため、即座に支払いはできない。まずは輸送業者(船会社)の責任を追及せよ』と言われ、責任の押し付け合いになっています。B氏は、誰に対して、どのような法的根拠を持って損害賠償を請求すべきなのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入ビジネスにおいて避けては通れない重大な経営リスクです。海外から輸入した商品が到着したものの、一部が破損していた、または全体的に損傷していたというケースは少なくありません。このような事態に直面したとき、輸入者として「誰に、どのように責任を求めるべきか」、「はたして損害補償は受けられるのか」といった問題に直面することになります。本日は、輸入品の破損が発生した場合の法的整理と実務上の対応策について、関連法令の条文を交えながら解説いたします。

1 輸入品破損の原因究明と法的責任の発生根拠

輸入品の破損は、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生することが一般的です。主な原因としては、輸送中の物理的衝撃、荷役作業中の事故、梱包不良、通関検査時の不適切な取り扱い、保管中の環境不備などが挙げられます。法的には、これらの原因がどの段階で発生したかにより、責任を追及すべき相手が異なります。

(一)輸出者(売主)の責任

梱包が国際輸送に耐えうる強度を持っていなかった場合、売主の「契約不適合責任」が問われます。

(国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)第三十五条)

1 売主は、契約に定める数量、品質及び種類に適合し、かつ、契約に定める方法で容器に入れられ又は包装された物品を引き渡さなければならない。

(中略)

2(d) 物品は、その物品を保持し及び保護するために通常の方法で、又は通常の方法がない場合にはその物品を保持し及び保護するのに適した方法で、容器に入れられ又は包装されていること。

日本とドイツは共にCISGの締約国であるため、B氏の事例では、この条文に基づき「不適切な梱包」が契約違反であることを主張する道が開かれます。

(二)運送人(船会社・フォワーダー)の責任

輸送中の事故や不適切な積付けに起因する場合、運送人の債務不履行責任が問題となります。

(国際海上物品運送法第三条)

運送人は、自己又はその使用する者が運送品の受取、船積み、積付け、運送、保管、揚出し及び引渡しにつき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、賠償の責任を負う。

ただし、国際条約(ヘーグ・ビスビー・ルールズ)に基づき、運送人の責任には「パッケージ・リミテーション(責任限度額)」が設けられていることが多く、全額の補償を受けるのが難しい場合がある点に留意が必要です。

2 インコタームズによる危険負担の移転時期と法的整理

国際取引における「インコタームズ(Incoterms)」は、単なる費用の分担だけでなく、商品の損傷に対する「危険負担(Risk)」がいつ売主から買主に移転するかを定めるものです。

====================================

主要インコタームズにおける危険負担の移転ポイント比較表

========================----------==

条件名|正式名称|危険負担の移転時期|破損時の基本的な考え方

---|--------|----------|----------

EXW|工場渡し|売主の施設で買主に提供時|輸送中の全リスクを買主が負う

FOB|本船甲板渡し|輸出港で船に積み込まれた時|積込後の事故は買主の責任

CIF|運賃保険料込み|輸出港で船に積み込まれた時|積込後の事故は買主の責任だが保険が付保される

CPT|輸送費込み|最初の運送人に引き渡した時|引渡後の事故は買主の責任

DAP|仕向地持込渡し|指定された輸入地で提供時|輸入地到着までのリスクを売主が負う

DDP|関税込持込渡し|輸入者の施設等で提供時|輸入者の手元に届くまでの全リスクを売主が負う

====================================

B氏の事例のようにFOB条件の場合、船の欄干(レール)を貨物が通過した時点でリスクは買主に移転いたします。したがって、輸送中の揺れによる破損であれば、原則としてB氏(買主)が損害を被ることになりますが、その破損の原因が「積込前の不適切な梱包」にあるならば、遡って売主の責任を追及することが可能となります。

3 貨物海上保険の活用と保険金請求の実務

輸送中の破損に備えて加入する「貨物海上保険」は、輸入者にとって最大の防御策となります。しかし、保険会社から確実に支払いを受けるためには、厳格な手続きと証拠の提示が求められます。

(一)保険条件の確認

最も広範な補償を受けられる「ICC(A)」条件(いわゆるオール・リスク)であっても、免責事由が存在いたします。

(貨物海上保険約款における主な免責事由)

一 被保険者の故意または重過失

二 貨物の固有の瑕疵または性質

三 梱包の不完全または不適当

四 航海、輸送の遅延

B氏の事例で保険会社が支払いを渋っているのは、第三号の「梱包の不完全」に該当する可能性があるからです。これを覆すためには、梱包が国際基準を満たしていたことを証明するか、あるいは輸送中に通常では考えられない異常なG(衝撃)が加わったことを証明しなければなりません。

(二)事故発生時の実務フロー

====================================

輸入品破損発見時の緊急対応フローチャート

========================----------==

ステップ一:現状保存と記録

コンテナ開封時から破損箇所、梱包状態を写真・動画で多角的に撮影する

ステップ二:異常通知(Notice of Claim)の送付

船会社やフォワーダーに対し、即座に「荷抜き・破損通知」を書面で送付する

ステップ三:保険会社への事故報告

保険証券番号を伝え、クレームの受付を行う

ステップ四:サーベイヤー(損害鑑定人)の立会依頼

高額な損害の場合、独立した鑑定人を呼び、客観的な「サーベイレポート」を作成させる

ステップ五:関係書類の収集

B/L(船荷証券)、インボイス、パッキングリスト、保険証券、事故報告書を揃える

ステップ六:代位権の行使への協力

保険金受領後、保険会社が運送人へ求償するための権利移転手続きに協力する

====================================

4 運送人に対する損害賠償請求の法的限界

海上輸送の場合、日本の商法や国際条約に基づき、運送人の責任は大幅に制限されています。

(商法第五百八十四条 責任の消滅)

運送人の責任は、受取人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、消滅する。ただし、運送品に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、引渡しの日から二週間以内に運送人に対してその通知を発したときは、この限りでない。

この「二週間以内」という期間は極めて短いため、到着時の検品が遅れると、法的な賠償請求権自体を失う恐れがあります。また、責任限度額についても、一包あたり一定の金額(例えば一箱あたり六六六.六七SDR等)に制限されるため、B氏の高級陶磁器のような高額品の場合、実損の数パーセントしか補償されないという事態も起こり得ます。

5 海外メーカー(売主)への責任追及と国際商事仲裁

保険も運送人も免責となった場合、最終的には売主との直接交渉になります。

(一)契約不適合責任の追及

前述のCISGに基づき、代金減額請求、代替品交付請求、あるいは損害賠償請求を行います。B氏の事例では、梱包の仕様書や過去の無事な到着実績と比較し、今回の梱包が「通常期待される水準」を下回っていたことを論理的に主張する必要があります。

(二)準拠法と裁判管轄の壁

売買契約書において「準拠法(どこの国の法律を適用するか)」および「紛争解決条項(どこの裁判所を使うか)」がどのように定められているかが決定的に重要です。ドイツの裁判所での訴訟となれば、多大な費用と時間がかかります。そのため、当事務所では、機動性の高い「国際商事仲裁(JCAAなど)」の利用や、弁護士による英文警告書の送付による示談交渉を推奨しております。

6 輸入ビジネスにおける他法令と破損貨物の取り扱い

破損した貨物であっても、それが「輸入」された事実に変わりはなく、関税法上の問題が生じます。

(一)関税の還付・減免

輸入許可後に破損が判明した場合、あるいは輸入許可前に破損していたことが判明した場合、関税の払い戻しを受けられる可能性があります。

(関税定率法第十条 変質又は損傷の場合の減税又は戻し税)

輸入申告後、輸入許可前に災害等により損傷した貨物については、その価値の減少分に応じて関税を軽減することができる。

(二)廃棄処分の手続き

使い物にならない破損品を国内で廃棄する場合、税関の承認を得て廃棄しなければ、勝手に処分したとして関税法違反を問われるリスクがあります。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

輸入品の破損トラブルは、物流、保険、売買契約、そして各国特有の法律が複雑に交差する難問です。輸入者が独力で海外メーカーや大手損害保険会社、船会社と渡り合うのは極めて困難です。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 インコタームズおよびCISGに基づいた、責任の所在に関する精緻な法的鑑定。

二 保険会社に対する保険金支払い交渉、および免責事由への法的な反論。

三 船会社、フォワーダーに対する事故通知書(Notice of Claim)の作成代行。

四 海外メーカーに対する英文での損害賠償請求、および代替品要求の代理交渉。

五 関税の減免申請や、破損貨物の適正な廃棄手続きに関する税関へのアドバイス。

六 将来のトラブルを未然に防ぐための、国際売買契約書のリーガルチェックおよび修正。

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、物流現場でどのような証拠(写真、温度記録、サーベイレポート等)が決定的な意味を持つかを熟知しております。

8 まとめ:適正なリスク管理こそがビジネスの安定を支える

本日は、輸入品の破損という予期せぬトラブルに際し、輸入者が取るべき法的手段と実務的な備えについて解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から梱包基準を契約で明確にし、到着直後の証拠収集を徹底し、専門家を介して論理的なクレームを展開していれば、損失を最小限に抑えることが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

税関検査の長期化リスクと実務的対応策

2025-07-05

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において多くの事業者が頭を悩ませる「税関検査による輸入許可の遅延」について、その法的背景から具体的な対応策、そして検査が長引く理由までを解説いたします。輸入通関手続においては、スムーズに終わる場合もあれば、「検査のために時間がかかる」との連絡を通関業者から受けることがあります。予定していた納品や販売に支障が出る場合もあり、事業者にとっては経営上の死活問題となり得ます。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

神奈川県内で輸入アパレルおよび雑貨のセレクトショップを経営するD社 代表取締役 E氏

【相談内容】

「当社は今回、夏のセールに向けて、東南アジアのメーカーから新作のサンダルやアクセサリーを約五百セット仕入れました。商品は既に日本の港に到着し、通関業者を通じて輸入申告を行いましたが、業者から『税関による貨物検査の対象となり、許可まで少なくとも三日から五日はかかる』と言われてしまいました。今回の貨物には、特に禁止されているような物品は含まれておらず、インボイス(仕入書)も正確に作成したつもりです。しかし、税関からは『価格の妥当性と、原材料の一部に使われている皮革の種類の特定について追加の資料を求める可能性がある』との連絡があったようです。もし販売開始日に間に合わなければ、多額の機会損失が発生します。なぜ問題がないはずの貨物が検査対象となり、これほど時間がかかるのでしょうか。また、今後このような遅延を回避するために、輸入者としてどのような法的、実務的な備えをしておくべきか、専門的な見地からの詳細なアドバイスを求めています」

このような事例は、輸入ビジネスの現場において極めて一般的です。税関検査の遅延は、輸入ビジネスにとって避けがたいリスクのひとつですが、正確な申告とリスク管理の体制を整えておくことで、検査の発生頻度を減らし、対応の効率化を図ることが可能です。本日は、税関検査に時間がかかる主な理由と、輸入者として取りうる対策について解説いたします。

1 税関検査の法的根拠と実施形態

日本の税関における検査は、関税法に基づいて厳格に実施されます。まず、その法的根拠を確認しましょう。

(関税法第六十七条 輸出又は輸入の許可)

貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。

この条文にある「検査が必要と認められるもの」という判断は、税関の広範な裁量に委ねられています。税関での検査は、大きく以下の二段階に分かれます。

一 書類審査

インボイス、パッキングリスト(梱包明細書)、輸入申告書、保険料明細書、運賃明細書などの提出書類を税関のシステムおよび審査官が精査いたします。ここで内容に矛盾がないか、他法令(後述)の要件を満たしているかが確認されます。

二 貨物検査

必要に応じて、実際にコンテナや商品を開封して中身を確認いたします。貨物検査が実施される場合、検査予約・開披・検査立ち会い・結果待ち等といった工程が発生し、数日から一週間以上かかることもあります。

貨物検査には、さらに「X線検査」「一部開披検査」「全量検査」などの種類があり、疑義が深いほど、また品数が多いほど時間は長期化いたします。

2 税関検査が実施され、長期化する典型的な理由の深掘り

税関がなぜ特定の貨物を検査対象として抽出するのか、そこには関税法、関税定率法、および各個別法令に基づく明確な目的があります。

(一)ランダム抽出による統計的検査

一定割合で機械的に選ばれるもので、特段の問題がない優良な輸入者であっても、統計的精度を保つために検査対象となることがあります。これ自体は防ぎようのないリスクですが、平時の申告が正確であれば、検査自体は速やかに終了いたします。

(二)申告価格の妥当性に対する疑義

インボイスに記載された価格が、同種の商品の国際的な市場価格と比較して極端に安い場合(いわゆるアンダーバリューの疑い)、税関は厳格な審査を行います。

(関税定率法第四条 課税価格の決定の原則)

(前略)輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格に(中略)その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする。

税関は、この決定原則に基づき、申告価格が適正かどうかを確認するため、送金記録や売買契約書の提示を求めます。これらの資料準備が遅れると、検査は大幅に長引くことになります。

(三)商品名の抽象性とHSコードの不整合

商品名が「accessory」や「parts」のように抽象的すぎると、税関は現物を確認しなければ正しいHSコード(税番)が判断できません。税率の異なる物品を意図的に低税率のコードで申告している可能性(虚偽申告)を疑われる原因となります。

(四)他法令(薬機法、電波法等)の該当性確認

関税法第七十条に基づき、輸入者は他の法令による許可・承認が必要な貨物について、その証明をしなければなりません。

(関税法第七十条 証明又は確認)

他の法令の規定により(中略)輸入に関して許可、承認その他の処分(中略)を必要とする貨物については、(中略)その確認を受けなければならない。

B氏の事例にあるサンダルのように、一部にクロコダイルやリザードなどの皮革が使用されている場合、ワシントン条約(CITES)に抵触しないかどうかの確認のため、専門的な鑑定が必要となり、時間がかかります。

(五)過去のコンプライアンス履歴

一度でも誤申告や他法令違反の履歴がある輸入者は、税関のシステムにおいてリスクが高いとマークされます。以後の検査頻度が上がり、通常であればスルーされるような微細な不備でも徹底的に調査されることになります。

3 税関検査の種類と所要時間の比較

輸入者が納期を予測する上で役立つ、検査種別の比較表を作成いたしました。

====================================

税関検査の種類と実務的影響一覧表

========================----------==

検査の名称|具体的な実施内容|平均的な所要時間|輸入者への影響

-----|----------------|--------|----

書類審査(区分二)|申告書類のみの精査。必要に応じて資料追加|数時間から一日|軽微な遅延

X線検査|コンテナやパレットを大型X線装置に通す|半日から一日|運送車両の手配調整が必要

一部開披検査|貨物の一部(数カートン)を抜き取って開封|一日から二日|梱包の再封作業が発生

全量検査|全貨物をトラックから降ろして一点ずつ確認|三日から一週間以上|多額の検査費用と大幅な遅延

鑑定を伴う検査|化学分析や植物検疫、商標権の真贋判定等|一週間から一ヶ月|専門機関の判断を待つ必要がある

====================================

4 検査が長引いた場合の輸入者の実務的対応策

実際に検査が開始され、遅延が発生した際、被害を最小限に抑えるためには以下の即応体制が必要です。

一 通関業者との密な連携

進捗状況を逐一把握し、税関からどのような疑義が出されているのかを正確に聞き出してください。単に「待ってください」という報告だけでなく、「具体的にどの書類が不足しているのか」を確認することが重要です。

二 追加資料の即時提出体制

税関から問い合わせがあった際、契約書、価格表、カタログ、成分表などを即座に提出できるよう、クラウド等で一元管理しておきましょう。ここで一日遅れると、通関許可は二日、三日と後ろ倒しになります。

三 納期への影響の社内共有と得意先への説明

遅延が予想される場合、あらかじめ取引先に事情を説明し、代替品の提案や納品日の調整を行うことで、ビジネス上の信頼関係を維持します。「税関検査」という公的な理由があることを正直に伝える方が、後のトラブルを防げます。

四 不当な遅延に対する法的アプローチ

もし税関の対応が著しく不当であったり、法的な解釈に誤りがあったりすると疑われる場合には、弁護士を介して異議を申し立てることも検討に値します。行政手続法に基づき、適正な手続きを求める権利が輸入者にはあります。

5 税関検査を円滑に進めるための「事前準備」チェックリスト

トラブルが発生した後に対応するのではなく、日常的に以下の準備を行うことが重要です。

====================================

税関検査遅延回避のための事前準備チェックリスト

========================----------==

確認項目|具体的な実施内容|法的な重要性

----|----------------|----------

インボイスの精緻化|「雑貨」等の抽象的名称を避け、具体的な品名、材質、用途を記す|関税法第六十七条(正確な申告)

HSコードの事前教示|判定が難しい品目は、税関に対して「事前教示(文書回答)」を求める|申告内容の予見可能性と信頼性の向上

他法令証拠の完備|薬機法や電波法、ワシントン条約に関する証明書を事前に揃える|関税法第七十条(他法令の証明)の迅速化

関税評価の適正化|ロイヤリティや無償支給品の加算漏れがないか再確認する|過少申告加算税(関税法第十二条)の回避

優良輸入者の認定(AEO)|特定輸入者制度の認定を目指し、コンプライアンス体制を整える|検査率の大幅な低減と通関の迅速化

====================================

6 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

税関検査の対応は、単なる事務作業ではなく、関税法という高度に専門的な法律に基づく「当局との対話」です。輸入者は、自社の貨物が適法であることを論理的に証明しなければなりません。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 税関からの照会事項に対する法的回答書の作成および戦略的アドバイス

二 不当な輸入差し止めや認定手続に対する法的異議申し立て、審査請求の代理

三 HSコード分類や関税評価に関する税関当局との事前交渉および意見提出

四 他法令(薬機法、外為法等)の該当性判断に関するリーガルオピニオンの発行

五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび当日の立ち会い対応

六 社内通関コンプライアンス体制(ICP)の構築支援および従業員教育

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという、実地に基づいたアドバイスを提示することができます。

7 まとめ:適正な管理こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスを停滞させる大きな要因である税関検査の仕組みと、その長期化を防ぐための実務について解説いたしました。E氏の事例であっても、当初からサンダルの原材料(皮革の種別)についてワシントン条約上の該否を書類で明確にし、価格の妥当性を証明する資料を準備していれば、検査期間を大幅に短縮し、セールの開始に間に合わせることが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

通関業者任せは非常に危険です

2025-06-25

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、多くの輸入事業者が陥りがちな「通関業者への丸投げ」という極めて危うい実務慣行と、それに伴う法的リスクについて詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。専門家に委託しているという安心感が、いかに脆いものであるかを示す重要な教訓が含まれています。

【相談者】

神奈川県内で海外製の高機能スポーツ用品やウェアの輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社は創業以来十年間、大手通関業者C社にすべての輸入通関手続きを委託してまいりました。B氏は、通関士は国家資格を持つプロフェッショナルであるから、提出したインボイスの内容を正しく読み取り、最適なHSコード(税番)を選択して申告してくれているものと完全に信頼しておりました。ところが先日、税関による輸入事後調査が行われ、過去三年間にわたる輸入申告において、特定のウェアのHSコードが誤っており、本来課されるべき関税率が不当に低く適用されていたと指摘されました。その結果、数千万円の不足税額に加え、過少申告加算税と延滞税の支払いを命じられたのです。B氏は通関業者に対し『プロとして間違った申告をしたのだから責任を取ってほしい』と抗議しましたが、通関業者からは『当社は提供されたインボイスに基づき、一般的な解釈で申告したに過ぎない。最終的な納税義務と申告内容の確認責任は輸入者にある』と突っぱねられてしまいました。B氏は、なぜ多額の手数料を払って専門家に頼んでいるのに、自社がすべての責任を負わなければならないのか、また、このような事態を未然に防ぐにはどうすればよかったのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入実務の現場において日常的に発生しております。輸入ビジネスにおいては、自主通関を行っている方もいるでしょうが、多くの企業は通関手続を通関業者に委託しています。そして、通関業者に所属し実際に通関手続を行うのが「通関士」です。しかしながら、すべてを通関業者や通関士に「丸投げ」してしまうことには、重大なリスクがあります。本日は、通関実務における「業者任せ」に潜むリスクと、輸入者として必要な対応について、関連法令に基づき解説いたします。

1 輸入申告における「納税義務者」の法的定義と責任の所在

まず、通関手続きを外部に委託しても、法律上の責任がどこに帰属するかを明確にする必要があります。日本の関税制度は、輸入者が自ら税額を計算して申告する「申告納税方式」を採用しています。

(関税法第七条 申告)

貨物を輸入しようとする者は、その貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告しなければならない。

この条文における「申告しなければならない者」とは、原則として輸入者本人を指します。通関業者は、あくまで「輸入者の代理人」として手続きを代行しているに過ぎません。したがって、申告納税方式の下では、申告内容の正確性を担保する最終的な責任は納税義務者である輸入者に帰属いたします。

(関税法第九条 納税義務者)

関税を納付すべき者は、当該貨物を輸入する者とする。

通関士には適切に通関業務を行う義務がありますが、これは行政上の義務や委託契約上の善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を定めるものであり、税関に対する「納税義務」そのものを肩代わりするものではありません。仮に通関業者が誤ったHSコードを適用したり、価格・数量を誤って申告したりしても、それによって発生した追徴課税や罰金等は、法的にはすべて輸入者が負担することになります。

2 通関実務における「丸投げ」が招く具体的リスクの分析

多くの輸入者は「専門家に頼んでいるから大丈夫」と思いがちですが、実務上の情報格差(インフォメーション・アシンメトリー)が以下の深刻なリスクを引き起こします。

====================================

輸入者と通関業者の認識の乖離(リスク対照表)

========================----------==

項目|輸入者の思い込み(誤解)|通関業者の実情(現実)

--|----------------|----------------

商品の詳細理解|写真一枚で商品の材質や機能を理解してくれる|インボイスの品名だけでは詳細は不明

HSコードの決定|節税になる最適な税番を自動的に選んでくれる|無難、または過去の類似申告に従う

価格の適正性|別途支払っているロイヤリティ等も考慮してくれる|インボイスに記載のない支払いは把握不能

他法令の確認|薬機法や電波法の該当性もチェックしてくれる|専門外の規制については輸入者の指示待ち

事後調査の責任|間違えたら通関業者が責任を持って補償してくれる|責任は輸入者にあり、賠償は限定的

====================================

(一)HSコード(統計品目番号)の誤分類リスク

HSコードの決定は、関税率表の解釈に関する通則(通則1から6)に基づき行われますが、その判断には商品の詳細なスペック、材質、用途、さらには製造工程の知識が不可欠です。B氏の事例のように、ウェアの材質が合成繊維なのか綿なのか、あるいは機能性素材なのかによって、数パーセントから十パーセント以上の税率の差が生じます。通関業者が不正確な情報に基づき低い税率のコードを適用し、それが事後調査で否認された場合、過少申告と判断されます。

(二)課税価格(関税評価)の確認不足リスク

関税は「輸入取引の価格」に対して課されますが、インボイス価格にロイヤリティ、金型代、あるいは無償提供した原材料の費用(加算要素)が含まれていない場合、それらを別途申告しなければなりません。

(関税定率法第四条 課税価格の決定の原則)

(前略)その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする。(以下、運賃、保険料、ロイヤリティ等が列挙される)

通関業者は、輸入者から「別途ロイヤリティを支払っている」との申告がない限り、インボイス通りの価格で申告を進めます。これが事後調査で発覚すると、意図的な隠蔽でなくても、多額の追徴課税が発生いたします。

(三)輸入制限・禁止品目の見落としリスク

薬機法、電波法、植物防疫法などの「他法令」の規制対象か否かの判断は、関税法第七十条に基づき厳格に行われます。通関業者は、明らかに医療機器に見える製品であれば指摘してくれますが、美容家電や食品添加物が含まれるサプリメントなど、境界線が曖昧な製品については、輸入者が事前に当局の確認を取っていない限り、そのまま申告されてしまうことがあります。その結果、輸入差止や全件廃棄という莫大な損害を被ることになります。

3 「プロへの委託」を「法的防御」に繋げるための実務的アクション

通関業者は、あくまでも輸入者が提供した情報に基づいて申告手続を行います。この限界を理解し、輸入者として以下の五つの基本動作を徹底することが、トラブルを最小限に抑える唯一の道です。

====================================

輸入者が実施すべき通関業者管理チェックリスト

(ワードデータ等に貼り付けて標準作業手順書としてご活用ください)

========================----------==

アクション項目|具体的な実施内容|法的な重要性

-------|----------------|----------

詳細情報の提供|商品仕様書、成分表、カタログ、写真を業者へ事前に送付する|正確な品目分類(HSコード)の担保

税率根拠の確認|なぜそのHSコードになったのか、根拠(通則等)を業者に問う|過少申告の回避と予見可能性の向上

他法令の事前照会|輸入前に厚生労働省や経済産業省、あるいは弁護士へ該否を確認する|関税法第七十条(他法令の証明)の遵守

評価申告の指示|ロイヤリティや無償支給品の有無を明確に業者へ伝える|関税定率法第四条(加算要素)の適正申告

事後確認の徹底|輸入許可書を一枚ずつチェックし、申告価格や税番を再確認する|誤り発見時の「修正申告」によるペナルティ免除

====================================

特に重要なのは、通関後の書類保管と再確認です。関税法第九十四条に基づき、輸入者は帳簿書類を七年間保存する義務があります。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

輸入者は、輸入許可の日から七年間、輸入貨物に関する帳簿及び書類を保存しなければならない。

許可書の内容を放置せず、自社の仕入価格と相違ないか、適用税率に違和感がないかを確認し、もし誤りを発見した場合は、税関の調査が入る前に「修正申告」を自主的に行うことで、過少申告加算税を免除させることが可能です。

4 不適切な管理に伴う深刻なペナルティと社会的責任

申告内容に誤りがあった場合、輸入者は単なる不足税額の支払いだけでは済まない、多重的な制裁を受けることになります。

(一)過少申告加算税

(関税法第十二条の二)

納税申告をした後、修正申告又は更正があったときは、不足税額の百分の十(または十五)に相当する過少申告加算税を課する。

(二)延滞税

(関税法第十二条)

納期限までに税金が完納されない場合、利息に相当する延滞税が課されます。これは、輸入時からの期間が長くなるほど雪だるま式に増大いたします。

(三)重加算税

事実を隠蔽したり仮装したりしたと判断された場合(アンダーバリューなど)、過少申告加算税に代えて、不足税額の三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い重加算税が課されます。

(四)通関スピードへの悪影響

一度不適切な申告を繰り返した輸入者は、税関のシステムにおいて「ハイリスク企業」としてフラグが立てられます。その後の全輸入貨物に対して開梱検査が行われるようになり、通関リードタイムの増大と、それに伴う保管料の発生、さらには取引先への納期遅延という、ビジネス上の致命的なダメージに直結いたします。

(五)AEO認定の剥奪または取得不能

特定輸入者(AEO)などの認定を受け、物流の効率化を目指している企業にとって、法令違反の履歴は認定の取消事由となります。

5 弁護士の活用場面と当事務所のサポート体制

「通関の専門家=通関士」と思われがちですが、法的トラブルや高度な法解釈、さらには当局との折衝に関しては弁護士の領域です。法令違反のリスクを防ぐには、通関士との連携とあわせて、法務面からの確認が不可欠です。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しているという稀有な専門性を活かし、通関業者には踏み込めない以下の領域において、輸入事業者を全面的にサポートしております。

一 税関調査(事後調査)および不服申立てへの対応支援

税関からの照会や調査が入った際、当局の主張が法的に妥当であるかを検証し、輸入者の権利を守るための論理的な反論、修正申告の交渉を代行いたします。

二 通関業者との高度なコミュニケーションサポート

輸入者と通関業者の間の「情報の橋渡し」を行い、法的にリスクの高い品目について、どのような証拠書類(鑑定書や当局回答書)を揃えるべきかを具体的に指示いたします。

三 契約書、インボイス、ライセンス契約の法的精査

関税評価上の「加算要素」の有無を精査し、将来の追徴課税を未然に防ぐための契約構造の提案や、表明保証条項の策定を行います。

四 輸入スキーム全体のリスク診断

新規ビジネスの立ち上げに際し、薬機法、食品衛生法、電波法、ワシントン条約などの複雑なクロスボーダー規制を網羅的にチェックし、安全な輸入ルートを構築いたします。

通関士や業者に任せていても、最終的な責任は輸入者に帰属します。トラブルが発生してから「業者がやったことだ」と主張しても、法的な救済は得られません。「お任せ」で済ませず、自社でも内容を理解・確認し、必要に応じて弁護士のリーガルチェックを組み込む姿勢が、現代の輸入ビジネスには求められています。

6 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、通関業者との適切な距離感と、輸入者に課せられた重い法的責任について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、通関業者に対して詳細な情報を能動的に提供し、かつ専門家によるダブルチェックを受けていれば、数千万円の追徴という事態は防ぐことが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

原産地虚偽申告の法的リスク

2025-06-15

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、国際取引において関税率の決定や輸入制限の有無を左右する極めて重要な要素である「原産地(Country of Origin)」の申告について、その法的構造と虚偽申告が招く深刻な事態について詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな供給網(サプライチェーン)を構築する事業者様にとって、決して他人事ではない実務的なリスクが示されています。

【相談者】

神奈川県内で電子部品および精密機器の輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社は、ベトナムの製造メーカーからスマートフォン向けの電子基板を継続的に輸入しております。ベトナムは日本との間で経済連携協定(EPA)を締結しているため、原産地証明書を提出することで、本来であれば数パーセントかかる関税を免税(ゼロパーセント)として申告してきました。B氏は、仕入先であるベトナム企業が発行したインボイスに『Made in Vietnam』と記載があり、かつ現地の商工会議所が発行した原産地証明書も揃っていたため、何ら疑いを持たず適正に申告を行っていると確信しておりました。しかし先日、税関による輸入事後調査が入りました。調査の結果、当該製品の主要な原材料や回路設計の大部分が中国で行われており、ベトナムでは最終的な検品と梱包作業しか行われていないことが判明したのです。税関からは『実質的な変更基準を満たしておらず、原産地は中国である。したがってEPAの適用は認められない』との指摘を受け、過去三年間に遡って数千万円の不足税額と、さらに過少申告加算税の納付を命じられました。B氏は、仕入先の書類を信じていただけなのに、なぜ輸入者である当社がこれほど重い法的責任を負わなければならないのか、また、今後のビジネスにおいてどのような対策を講じるべきか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、三国間取引や委託加工が一般的な現代の貿易実務において、非常に多く見受けられます。国際取引において原産地は、関税率の適用、輸入制限の有無、統計分類等に大きな影響を与える重要な要素です。しかしながら、誤った原産地を申告してしまった場合、たとえ意図的でなくても重大な法的リスクを招く可能性があります。今回は、原産地に関して虚偽申告をしてしまった具体的なケースと、その法的リスク・罰則について、条文に基づき詳しく解説いたします。

1 原産地認定の法的定義と「実質的変更基準」の概念

「原産地」とは、単に商品が出荷された国や、積戻しが行われた中継地を指すのではありません。関税法および関税定率法、さらには各EPAの規定に基づき、商品の実質的な「生産が行われた国」を指します。

(関税法第七十一条 原産地の表示)

第一項 原産地の表示が義務付けられている貨物(中略)について、その原産地を偽った表示又は誤認を生じさせる表示がされているときは、その輸入を許可しない。

原産地の認定基準には、大きく分けて以下の二つが存在します。

(一)完全生産品基準(Wholly Obtained)

その国で完全に生産されたもの(農産物や鉱物資源など)に適用されます。

(二)実質的変更基準(Substantial Transフォーmation)

二カ国以上にわたって生産工程が行われた場合、その製品に新しい特性を与える「実質的な加工」が行われた国を原産地とする基準です。具体的には「関税番号変更基準(CTC)」や「付加価値基準(VA)」などが用いられます。

B氏の事例では、ベトナムでの作業(検品・梱包)が「単純な作業」とみなされ、実質的な変更を生じさせていないと判定されたため、ベトナム産とは認められなかったのです。このように、実態が伴わない形式上の書類だけでは、日本の税関を納得させることはできません。

2 関税法における虚偽申告の罰則と刑事責任

原産地を偽って申告する行為は、単なる事務的なミスではなく、国家の徴税権を侵害する重大な違法行為として扱われます。

(関税法第百十一条 虚偽申告罪)

第一項 第六十七条(輸出又は輸入の許可)の申告に際し、税関に対し虚偽の申告をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

また、原産地を偽ることで不当に関税を免れた場合には、より重い「関税を免れる罪」が適用される可能性があります。

(関税法第百十条 関税を免れる罪)

第一項 偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

B氏の事例のように、意図的な隠蔽ではない場合でも、輸入者には「過失」が推定されるため、行政処分としての加算税は免れられません。さらに、偽造された原産地証明書を使用するなど、悪質性が高いと判断された場合には、警察や検察への告発を通じた刑事事件に発展する恐れもあります。

3 誤った原産地に基づく申告の典型的な失敗パターン

実務上、どのような状況で原産地の錯誤が発生しやすいのか、以下の比較表に整理いたしました。

====================================

原産地申告における典型的な誤認ケース比較表

====================================

ケース名称|誤認の内容|法的な実態とリスク

-----|----------------|--------------

三国間取引の錯誤|ベトナムの業者と契約し、同国から出荷されたためベトナム産とした|材料調達や主要工程が中国等の他国で行われており、実質的変更基準を満たさない

梱包・ラベルの混同|最終梱包地に「Made in 〇〇」のラベルを貼ったため、その国を産地とした|梱包、選別、詰替え、洗浄などは「不十分な工程」とみなされ、原産地の変更は認められない

委託加工の誤解|日本から全材料を送り、海外で組み立てただけなので日本産だと思った|組み立て工程が「実質的変更」を構成する場合、組み立てを行った国が原産地となる

書類の盲信|仕入先が提出した原産地証明書があるから大丈夫だと確認を怠った|証明書の発行根拠(対比表や原価計算書)を確認しておらず、事後調査で否認される

EPAルールの不備|累積規定やデミニマス規定を誤解し、原産資格がないのに免税申告した|協定ごとの個別の原産地規則(PSR)に合致しておらず、関税の追徴を受ける

====================================

4 輸入税関事後調査(事後確認)における摘発リスク

原産地に関する虚偽申告や錯誤は、輸入の瞬間には見逃されていても、輸入許可から数年以内に行われる「輸入税関事後調査」において、高い確率で発覚いたします。

(関税法第百五条 税関職員の権限)

税関職員は、輸出入貨物に関する調査のため、輸出入者、通関業者その他の関係者に対し、帳簿書類の提出を求め、又は立ち入り検査を行うことができる。

事後調査では、以下の資料が厳格に精査されます。

一 仕入先との製造委託契約書および価格構成表(BOM)

二 原材料の仕入元を証明する書類(インボイス、船荷証券等)

三 具体的な製造工程フローおよび各工程での付加価値計算

四 原産地証明書の発行申請時に現地当局へ提出した資料の写し

これらを提出できない、あるいは提出した資料に矛盾がある場合には、原産地認定が否認されます。その結果、過去数年分(最長五年、悪質な場合は七年)の未納税分を一括して納付しなければならず、さらに「過失」に対する過少申告加算税(十から十五パーセント)や、悪質な場合の重加算税(三十五パーセント以上)が課されます。A社のB氏のように、一億円規模の追徴を受けるケースは決して珍しくありません。

5 EPA・FTA利用時における固有のリスクと直接検証

近年、日本が締結する経済連携協定(EPA)の増加に伴い、原産地管理はより複雑化しています。特に注意すべきは、日本当局だけでなく、輸出国の当局や日本の税関が、直接現地の工場を調査したり、詳細な質問票を送付したりする「直接検証」の手続きです。

(経済連携協定における原産地手続)

輸出国の輸出者が原産地資格を自己証明する「自己申告制度」を採用している協定(日欧EPAやTPP11等)では、輸入者が原産地に関するすべての証拠書類を保管する義務を負います。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

輸入者は、輸入許可の日から七年間、輸入貨物に関する帳簿および書類(契約書、インボイス等)を保存しなければならない。

もし、輸出者が協力を拒んだり、必要な資料を提示できなかったりした場合、その不利益はすべて「輸入者」である日本企業が負うことになります。免税を受けたはずの関税が、後から利息(延滞税)付きで請求される事態は、企業の財務基盤を揺るがす重大なリスクです。

6 原産地虚偽申告・錯誤を防止するための実務体制

原産地の申告ミスを防ぐためには、形式上の書類チェックに留まらず、実態に基づいた確認体制の構築が不可欠です。

====================================

原産地管理コンプライアンス・チェックリスト

========================----------==

確認項目|具体的な実施内容|実施のタイミング

----|----------------|--------

製造工程の把握|仕入先に対し、原材料の調達国と加工工程のフローを文書で提出させる|新規契約時・定期更新時

学名の特定|動植物や植物性原材料の場合、正確な学名を特定しワシントン条約等に抵触しないか確認する|製品設計時

HSコードの確認|輸出国のコードと日本の実行関税率表のコードが一致しているか精査する|輸入申告前

事前教示の利用|判定が困難な場合、税関に対し「事前教示(原産地)」を申請し、書面での回答を得る|契約締結前

契約上の義務化|仕入先との契約書に「原産地に関する情報の提供義務」および「事後調査時の協力義務」を明記する|契約締結時

証拠書類の保存|インボイス、パッキングリストに加え、原価計算書や工程図を電子データで保存する|輸入許可後七年間

====================================

7 「知らなかった」が通じないグローバルスタンダードの厳しさ

輸入事業においては、形式上の書類だけではなく実態に基づいた確認と記録の保存が求められます。税関は、「輸入者はその貨物の専門家であるはずだ」という前提で調査を行います。したがって、海外の仕入先が間違っていたとしても、それをそのまま日本国内で申告した輸入者の責任が免除されることはありません。

また、原産地を偽ることは、不当な低価格競争を招くとして、国際的にも厳しく監視されています。特定の国への制裁を回避するために原産地を偽装する(迂回輸入)などの行為は、外為法違反や国際的な信用失墜に直結する、企業の命取りとなる行為です。

8 不適切な管理に伴う二次的被害とレピュテーションリスク

法令違反による直接的な罰金や追徴課税以外にも、企業は深刻なダメージを負うことになります。

(一)全件検査の対象(イエローカード)

一度、原産地虚偽申告や重大なミスを指摘された企業は、税関のデータベースにおいて「ハイリスク企業」として登録されます。その後の輸入貨物について、通常であれば数時間で終わる通関が、開梱検査や書類の徹底精査によって数日間足止めされるようになります。これにより、リードタイムの増大、保管料の発生、取引先への納期遅延といった多大なコストが発生いたします。

(二)社会的信用の失墜

行政処分や刑事罰の事実は、公的機関のウェブサイト等で公表されることがあります。これによって金融機関からの融資が困難になったり、大手企業との取引が打ち切られたりするリスクがあります。コンプライアンスを重視する現代のグローバル市場において、一度損なわれた信用を回復するには、数年以上の歳月を要することになります。

(三)AEO認定の剥奪

特定輸入者(AEO)などの認定を受けている場合、原産地虚偽申告は認定取消の直接的な原因となります。優遇措置を失うことは、物流効率を著しく低下させ、競合他社に対して決定的な不利を招きます。

9 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

原産地に関するリスクを事前に回避したい方や、調査対応でお困りの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を併せ持っており、関税法と国際商取引の実務の両面から、隙のないサポートを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 製品の製造工程に基づく、精緻な原産地該当性(実質的変更基準等)の判定。

二 EPA・FTA利用時における原産地規則(PSR)の解釈および適用アドバイス。

三 海外仕入先に対する原産地情報開示請求および契約書の起案・審査。

四 税関への「原産地に関する事前教示」の申請代行および当局との法的折衝。

五 税関事後調査に対する事前シミュレーション、帳簿精査、および調査当日の立ち会い。

六 万が一のミス発覚時における「修正申告」の指導およびペナルティ軽減の交渉。

七 社内輸入コンプライアンス体制(ICP)の構築および従業員向け教育。

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で原産地の実態を調査し、どのような証拠書類を重視するかという、実地に基づいたアドバイスを提示することができます。

10 まとめ:適正な原産地申告こそがビジネスの安定を支える礎

本日は、輸入ビジネスにおける原産地申告の重要性と、虚偽申告・錯誤に伴う深刻なリスクについて解説いたしました。A社のB氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、仕入先の実態を精査し、必要であれば事前教示制度を活用していれば、数千万円の追徴という事態は防ぐことが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入禁止の品目と輸入制限品目

2025-05-31

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入ビジネスを志す個人事業主や中小企業の皆様が、最も慎重に検討すべき課題である「輸入してはならない品目」と「輸入が制限されている品目」の法的境界線について詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引において、意図せぬ法令違反がどのような事態を招くのか、実務的な視点から非常に重要な示唆が含まれています。

【相談者】

神奈川県内で海外製の高機能家電や健康雑貨の輸入販売を手掛けるA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、北米のメーカーが開発した、最新のUV除菌機能付き空気清浄機を百台ほど輸入し、国内のECサイトで販売する計画を立てました。当該製品は現地では一般家庭向けに広く普及しており、安全性も高く評価されているものです。B氏は、現地で正規に流通している既製品を輸入するだけであるため、特段の法的な問題はないものと考え、海外メーカーと契約を締結し、全額を前払いいたしました。しかし、日本へ到着した際、税関から『本製品は内蔵されているオゾン発生機能により医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)上の医療機器に該当する疑いがあり、また、無線通信機能が電波法の技術基準に適合している証明(技適マーク)がないため、輸入を認められない』と指摘され、貨物が保税地域に留め置かれてしまいました。B氏は、医療現場で使うような装置ではないのになぜ医療機器扱いになるのか、また、電波法が輸入そのものにどう影響するのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入実務における基礎知識の不足が原因で、非常に多く発生しております。輸入ビジネスを行う上で、最も注意すべき法的リスクのひとつが「輸入してはならない品目」(禁制品)の存在です。特に、税関での貨物の差止や行政処分を受ける原因として多いのが、「輸入禁止の品目」や「輸入制限品目」に該当する商品を知らずに輸入しようとしてしまうケースです。本記事では、両者の法的な違いと、輸入事業者として知っておくべきポイントを、関連法令の条文を交えながら解説いたします。

1 関税法に基づく「輸入禁止品目」の法的定義

輸入禁止品目とは、関税法および関係法令により、輸入そのものが厳格に禁止されている貨物のことを指します。これらを輸入しようとすると、税関での即時差止の対象となり、刑事責任を問われることも十分あり得ます。法的な根拠は、関税法第六十九条の十一に明文化されています。

(関税法第六十九条の十一 輸入してはならない貨物)

第一項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。

一 阿片、コカイン、ヘロイン、大麻、覚醒剤、向精神薬その他の麻薬(麻薬及び向精神薬取締法に規定するものをいう。)

二 拳銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及び部品

三 爆発物(火薬類取締法に規定するものをいう。)

四 火薬類(前号に掲げるものを除く。)

五 化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律に規定する特定物質

六 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に規定する一種病原体等及び二種病原体等

七 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵券(郵便切手)又は有価証券の偽造品、変造品及び模造品並びに偽造カード

八 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品(わいせつ物等)

九 児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律に規定するものをいう。)

十 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品(知的財産権侵害物品)

十一 不正競争防止法に掲げる行為(中略)を組成する物品

これらは、国家の治安・秩序の維持や、国民の健康・安全の確保、さらには産業の健全な発展を保護するために規定されています。B氏の事例にある空気清浄機がもし、偽造されたブランドロゴを付していた場合には、この第十号の知的財産権侵害物品として輸入禁止品目に該当することになります。

2 関税法第七十条に基づく「輸入制限品目」と他法令の証明

一方、輸入制限品目とは、「輸入そのものは禁止されていないが、一定の条件(許可、承認、検査等)を満たさないと輸入できない品目」を指します。実務上、こちらの方が判断が難しく、落とし穴となりやすい領域です。この根拠は関税法第七十条、いわゆる「他法令の証明」規定にあります。

(関税法第七十条 証明又は確認)

第一項 他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。

第二項 前項の確認を受けられない貨物については、輸入を許可しない。

この「他の法令」には、薬機法、食品衛生法、電波法、植物防疫法、家畜伝染病予防法など、多岐にわたる法律が含まれます。主な輸入制限品目と、対応する法令の例を以下の表にまとめました。

====================================

主要な輸入制限品目と関係法令一覧表

====================================

品目カテゴリー|該当する主な法律|必要とされる手続の概要

-------|--------|------------------

医薬品・化粧品|薬機法|製造販売業許可、外国製造業者認定、薬監証明

医療機器|薬機法|クラス分類に応じた承認・認証・届出、技適確認

食品・食器|食品衛生法|食品等輸入届出書の提出、必要に応じた自主検査

無線・電子機器|電波法・電気用品安全法|技適マークの付与、PSEマークの表示

植物・木材|植物防疫法|輸出国の植物検疫証明書、国内での輸入検疫

動物・肉製品|家畜伝染病予防法|輸出国の検査証明書、家畜防疫官の検査

希少動植物|ワシントン条約(外為法)|輸出国の輸出許可証、経済産業省の輸入承認

====================================

B氏の事例にある空気清浄機は、オゾン発生機能が「疾病の治療や予防」を連想させる効能として謳われている場合、薬機法上の医療機器としての制限を受けます。また、Wi-FiやBluetoothを内蔵している場合は、電波法上の技術基準適合証明が必要となります。これらをクリアし、税関に対して「他法令の証明」を行わない限り、輸入許可は下りません。

3 輸入制限品目における具体的な法的リスクの深掘り

制限品目を正しく処理しないまま輸入を強行しようとした場合、単なる手続きの遅延に留まらない、甚大な不利益が生じます。

(一)薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)のリスク

医療機器や化粧品を無許可で輸入・販売した場合、薬機法第八十四条に基づき、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金、またはその併科という厳しい刑罰が科されます。さらに、法人に対しては高額な罰金刑が科される両罰規定も存在します。

(二)電波法のリスク

技適マークのない無線機器を輸入し、国内で使用させる(または販売する)ことは、不法電波の発生を招く恐れがあるため、電波法に基づき厳しく規制されます。特に、最近の「スマート家電」はほぼすべてがこの規制対象になり得るため、IT関連の輸入業者は細心の注意が必要です。

(三)食品衛生法のリスク

食品だけでなく、乳幼児用のおもちゃや、直接食品に触れる容器・包丁なども対象となります。これらについて届出を怠ると、食品衛生法に基づき全貨物の廃棄または積み戻し(海外への返送)が命じられ、仕入れ費用がすべて無駄になるだけでなく、行政処分の対象となります。

4 「知らなかった」では済まされない法的責任(過失の推定)

税関での差止や廃棄命令、追徴課税などの制裁は、輸入者の故意・過失を問わず課されます。実務上、「他の業者が輸入していたから大丈夫だと思った」、「海外のメーカーが安全だと言った」、「ECサイトで普通に販売されていた」、といった認識は法的には一切通用いたしません。

(関税法第百九条 輸入してはならない貨物を輸入する罪)

第六十九条の十一第一項第一号から第六号までに掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(同法第百九条の二)

第六十九条の十一第一項第七号から第十一号までに掲げる貨物(知的財産侵害物品等)を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

輸入業者は、自らが「輸入の主体」として、その貨物の性質を完全に把握する義務を負っています。この義務を怠ることは、法的には「過失」があるものとみなされ、場合によっては「未必の故意」として刑事罰の対象となる可能性すらあります。

5 輸入実務における該否判定フローとチェックリスト

B氏のような事態を未然に防ぐために、事業者が構築すべき標準的な確認フローを以下に提示いたします。

====================================

輸入貨物法的妥当性確認フロー

====================================

ステップ一:製品の全成分・機能の特定

メーカーから成分表(MSDS)、仕様書、回路図等を取り寄せる

ステップ二:関税法第六十九条の十一(禁止品目)の照合

薬物、武器、知財侵害、わいせつ物等に該当しないか確認する

ステップ三:関税法第七十条(他法令)の該当性調査

薬機法、食品衛生法、電波法、PSE法等の対象範囲を精査する

ステップ四:宣伝・広告内容のリーガルチェック

効能効果を謳う場合、それが医療機器等に該当しないか確認する

ステップ五:専門家または行政機関への事前相談

不透明な場合は、税関や各省庁の窓口に「事前照会」を行う

ステップ六:必要書類の完備と通関指示

許可証、届出書の写しを揃え、通関業者に詳細な指示を出す

====================================

6 不適切な管理に伴う二次的被害とレピュテーションリスク

法令違反の影響は、金銭的な制裁や刑事罰に留まりません。

(一)全件検査の対象(通関のブラックリスト化)

一度、禁止品目や制限品目の不適切な輸入を試みた履歴が税関のシステムに残ると、その後のすべての輸入貨物に対して「開梱検査」が行われるようになります。これにより、納期の遅延や保管料の増大など、物流コストが跳ね上がり、ビジネスの競争力を著しく損なうことになります。

(二)社会的信用の失墜

行政処分や刑事罰の事実は、厚生労働省や経済産業省、警察のウェブサイト等で公表されることがあります。取引銀行からの融資停止や、大手販売プラットフォームからのアカウント停止処分を招くことになり、事実上の事業停止に追い込まれるリスクがあります。

(三)賠償責任の連鎖

輸入した製品が原因で消費者に健康被害が生じたり、電波障害が発生したりした場合、製造物責任法(PL法)に基づき、輸入業者がメーカーと同等の損害賠償責任を負うことになります。

7 対策としての事前確認と専門家の関与の重要性

輸入したい商品が「禁止」されているものか又は「制限」されているものか、そしてどのような許可・検査が必要なのかといったことを、契約締結前に調査することが極めて重要です。特にリスクの高い品目(医薬品・美容関連・電子機器・希少素材など)については、法令に精通した弁護士や専門家の助言を受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという、実地に基づいたアドバイスを提示することができます。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 製品仕様に基づいた精緻な「輸入禁止・制限品目」の該否判定

二 薬機法、食品衛生法、電波法等に関わる業許可の取得支援および体制構築

三 海外メーカーとの売買契約書における法的リスクヘッジ(表明保証等)の策定

四 税関での輸入差し止め時における法的交渉および認定手続への対応

五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い

六 社内輸入管理体制(ICP)の策定および従業員向けコンプライアンス研修

8 まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスの死命を制する「禁制品・制限品目」の法的リスクについて解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、製品のカテゴリーを判定し、必要な証明書類を整えていれば、法的リスクを回避しつつ、最新の製品を安全に日本市場へ届けることが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや法的権利の確認について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

« Older Entries Newer Entries »

トップへ戻る

03-5877-4099電話番号リンク 問い合わせバナー