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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスにおいて最も深刻な法的トラブルの一つであり、企業の存続を左右しかねない「模倣品(コピー品・偽物)の輸入」について、その法的構造から税関での認定手続、そして権利者との交渉に至るまでを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。仕入先の言葉を鵜呑みにすることの危うさと、輸入者に課される重い責任を理解する重要な一助となります。
【相談者】
東京都内で海外製雑貨およびアパレルのオンラインショップを運営するA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、東南アジアの卸売サイトを通じて、欧州の高級ブランドのロゴに酷似したデザインがあしらわれたバッグやアクセサリーを約三百点仕入れました。仕入先の業者は『これは当該ブランドの工場から直接仕入れたアウトレット品であり、並行輸入品として日本で販売しても何ら問題ない』と説明しており、価格も通常よりは安価でしたが、極端に不自然なほどではありませんでした。B氏はその言葉を信じて送金を済ませ、輸入申告を行いましたが、税関から『知的財産権侵害物品に該当する疑いがあるため、認定手続を開始した』との通知が届きました。さらに、日本国内のブランド権利者の代理人弁護士からも、商標権侵害を理由とする損害賠償請求と謝罪広告の掲載を求める警告書が送られてきました。B氏は、本物だと信じていたのに、なぜ輸入者である自分が犯罪者扱いを受け、多額の賠償金を支払わなければならないのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、近年の越境電子商取引(EC)の普及に伴い、規模の大小を問わず多くの事業者が直面している現実です。海外から商品を輸入したところ、実はそれが模倣品だったというトラブルは、輸入ビジネスにおける重大なリスクのひとつです。知らずに輸入したとしても、法的責任やブランド権利者からの差止・損害賠償請求に発展する可能性があるため、迅速かつ慎重な対応が求められます。本日は、模倣品を輸入してしまった場合の法的整理と、実務的な対処法について、商標法や関税法の条文に沿って解説いたします。
1 知的財産権侵害物品の法的定義と商標権の効力
模倣品とは、商標権、意匠権、著作権、特許権などの知的財産権を侵害する商品を指します。輸入実務で最も問題となるのは「商標権」の侵害です。
この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
B氏の事例のように、ブランドロゴが付された商品を「輸入」する行為そのものが、商標法上の「使用」に該当し、権利者の許諾がない限り、原則として商標権侵害を構成いたします。たとえ「アウトレット品」や「工場直送」という説明があったとしても、それが客観的な事実に基づき、かつ権利者の管理下で生産されたものでない限り、法的には模倣品として扱われます。
2 関税法に基づく「輸入してはならない貨物」と没収のリスク
税関は、水際で知的財産権を保護するため、侵害物品の輸入を厳格に禁止しています。
第一項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。(中略)
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
税関において侵害の疑いがある貨物が発見された場合、直ちに「認定手続」が開始されます。これは、その貨物が本当に権利を侵害しているかどうかを税関長が判断する手続です。
第一項 税関長は、輸入申告された貨物(中略)のうちに知的財産権を侵害する物品に該当する疑いがあるものがあるときは、当該貨物について、当該物品に該当するかどうかを認定するための手続を執らなければならない。
この手続が開始されると、輸入者には「認定手続開始通知書」が届き、一定期間内に意見書や証拠資料を提出する機会が与えられます。しかし、正規品であることを証明する客観的な資料(権利者発行のライセンス証書等)を提出できない場合、貨物は「侵害物品」として認定され、没収および廃棄処分となります。この際、支払った商品代金はもちろん、関税や消費税も返還されないため、輸入者は全額の損失を被ることになります。
3 「知らなかった(善意)」が通用しない法的理由と過失の推定
輸入者が「偽物とは思わなかった」と主張しても、民事上の責任を免れることは極めて困難です。民法上の不法行為責任(第七百九条)において、知的財産権の侵害については、商売として輸入を行っている以上、極めて高い注意義務が課されるためです。
(民法第七百九条 不法行為による損害賠償)
故意又は過失によつて他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
実務上の判例では、著名なブランド品を扱う事業者は、その商品が真正品であることを確認する高度な注意義務を負うとされています。したがって、異常に安価な価格、信頼性の低い仕入ルート、不自然な決済方法などの事情があるにもかかわらず、十分な調査をせずに輸入した場合には「過失」があったと断定されます。また、刑事罰についても、未必の故意(偽物かもしれないが、それでも構わないという認識)があれば成立する可能性があります。
商標権又は専用使用権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
4 真正な「並行輸入」と認められるための三要件
B氏が主張しようとした「並行輸入」は、特定の条件下でのみ適法と認められます。最高裁判所の判例(フレッドペリー事件等)によれば、以下の三つの要件(並行輸入の三要件)をすべて満たす必要があります。
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真正商品の並行輸入適法性判定基準一覧表
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要件名|具体的な判断内容|実務上の留意点
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第一要件:適法な商標表示|海外の商標権者またはその許諾を受けた者により、適法に商標が付されたものであること|偽造品はこの時点で除外される
第二要件:同一権原性|海外の商標権者と日本の商標権者が同一、または密接な関係にあり、同一の出所を表示していること|日本国内に独自の商標権者がいる場合は侵害となる
第三要件:品質の同一性|日本の商標権者が管理する商品と、並行輸入品の品質に実質的な差異がないこと|仕様変更や保存状態による品質劣化がある場合は侵害の恐れあり
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仕入先が「本物だ」と言っていても、この三要件を客観的に証明するエビデンス(仕入ルートの証明書等)がない限り、税関や裁判所は並行輸入としての適法性を認めません。
5 模倣品疑いでの認定手続開始時における実務的対応フロー
税関から通知が届いた際、輸入者が取るべき行動をチャート形式で整理いたしました。
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認定手続開始後の初動対応フローチャート
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ステップ一:通知内容の精査と期限の確認
通知書に記載された権利者名、侵害の理由、意見書提出期限(通常十開庁日)を確認する
ステップ二:仕入先への事実確認と資料請求
仕入先に対し、侵害の指摘があった旨を伝え、真正品である証明(インボイス、ライセンス等)を求める
ステップ三:権利者代理人との接触
通知書に記載された権利者の窓口(弁護士等)へ連絡し、侵害の根拠を確認する
ステップ四:意見書の作成と提出
真正品である主張をする場合は証拠を添えて提出。認められない場合は「自発的処理」を検討する
ステップ五:自発的処理(廃棄・積み戻し)の選択
争うことが困難な場合、税関の承認を得て貨物を廃棄、または仕入先へ返送する手続きをとる
ステップ六:民事上の和解交渉
権利者からの警告書に対し、誠実な回答を行い、賠償額や在庫処理に関する和解を目指す
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6 不適切な管理に伴う二次的被害とレピュテーションリスク
模倣品の輸入を放置したり、安易な嘘で言い逃れをしようとしたりすることは、企業の未来を破壊する行為です。
(一)全件検査の対象(通関のブラックリスト化)
一度でも知的財産権侵害物品の輸入を認定されると、税関のシステムにおいて「ハイリスク輸入者」として登録されます。その後のすべての輸入貨物について徹底的な開梱検査が行われるようになり、通関スピードの低下と保管料の増大を招きます。
(二)販売プラットフォームからの追放
アマゾンや楽天市場などの大手プラットフォームでは、模倣品の疑いがあるだけでアカウントが永久停止されることがあり、主要な販路を失うことになります。
(三)損害賠償額の膨張
侵害を知りながら販売を継続した場合、商標法第三十八条に基づき、利益額のすべてを損害額とみなされるなど、賠償額が数千万円単位に膨れ上がるリスクがあります。
7 模倣品輸入を未然に防ぐためのリスク管理
トラブルが発生した後の対応には限界があります。輸入者としての責任を問われないため、以下の事前策を徹底することが極めて重要です。
一 仕入先のデューデリジェンス
取引相手が実在する企業か、信頼できる実績があるか、過去にトラブルを起こしていないかを徹底的に調査します。
二 売買契約書における「表明保証」条項
契約書において、売主が「本製品は第三者の知的財産権を一切侵害していないこと」を保証し、万が一侵害が発覚した場合には、売主がすべての賠償責任と返品費用を負う旨を明記させます。
三 サンプルの事前鑑定
大量発注の前にサンプルを輸入し、日本国内の鑑定機関や弁護士を通じて権利関係のチェックを行います。
四 税関の「輸入差止申立」情報の確認
税関のウェブサイトで、どのブランドがどのような理由で差止申立を行っているかを随時確認し、リスクの高い品目を把握しておきます。
8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスの死命を制する「模倣品トラブル」の法的リスクとその対応策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から並行輸入の適法性を精査し、仕入先に対して厳格なエビデンスを求め、かつ権利侵害のリスクを事前に弁護士へ相談していれば、全財産を失うような事態は防ぐことが可能でした。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の言葉のみを信じるのではなく、自らが「輸入の主体」として、その貨物の法的な正当性を証明する義務があることを決して忘れてはなりません。不適切な商品を排除し、適正な通関を実現することは、一企業の利益を守るだけでなく、日本の市場秩序と消費者の安全を守るという、国際貿易に携わる者としての誇りある使命です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万が一の知財トラブルにおける法的防衛をサポートし続けます。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

