Archive for the ‘コラム~通関手続、輸出入トラブル~’ Category

「事前教示制度」を賢く活用する

2026-01-02

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も予見可能性を高め、かつ数年後の事後調査で発生し得る致命的な追徴課税のリスクを未然に排除するための最強の防衛策である「税関事前教示制度」について、その法的構造から実務的な申請の極意までを網羅的に解説いたします。輸入申告における品目分類や関税評価の不確実性は、企業の財務計画を根本から揺るがすリスクを常に内包しています。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

神奈川県内で次世代型AI搭載型医療補助デバイスの輸入販売を行うU株式会社、代表取締役、V氏

【相談内容】

「当社は、北米のスタートアップ企業が開発した、カメラとAIチップを統合した新型の視覚補助デバイスを継続的に輸入する計画を立てています。この製品は、眼鏡に装着して使用するもので、光学的な要素、コンピュータとしての要素、そして医療機器としての側面を併せ持っています。通関業者数社に相談したところ、ある業者は『第9018項(医療用機器)』として無税で申告できると言い、別の業者は『第8543項(その他の電気機器)』として3.9パーセントの関税がかかると言います。もし無税だと判断して数年間にわたり大量に輸入し、その後の事後調査で『やはり関税が必要だった』と判断された場合、遡及して数億円規模の追徴課税を受けることになります。このような不確実な状況下で、法的かつ公式な保証を得る方法はないのでしょうか。また、その申請においてどのような点に注意すべきでしょうか。」

このような事例は、技術の進歩が著しい現代の貿易実務において、毎日のように発生しています。V氏が懸念するように、輸入申告時の税関の判断(通関審査)はあくまでその時点の簡易的なものであり、将来の事後調査においてその妥当性が改めて精査されます。この「事後的な否認」という最大のリスクを回避し、国家による公的な確約を得るための制度こそが、本日解説する事前教示制度なのです。

1 事後調査のリスクを根絶するための防御策としての事前教示制度

輸入事業者が直面する最大の法的リスクは、関税法上の自己責任原則に基づく申告漏れです。日本の関税制度は、納税者自らが税額を計算して申告する申告納税方式を採用しています。

(関税法第七条 申告)

「貨物を輸入しようとする者は、税関長に対し、当該貨物の品名、数量及び価額その他必要な事項を申告しなければならない。」

この規定により、輸入者は、自らの責任においてHSコード(品目分類)を選択し、課税価格(関税評価)を算定しなければなりません。しかし、HSコードの分類は「関税率表の解釈に関する通則」や膨大な「類注」に基づく高度な法的判断を要し、関税評価もまた「関税定率法第四条」に規定される複雑な加算要素の検討を必要とします。この不確実性を解消するために、関税法は輸入前に行政の公式見解を求める権利を保障しています。

事前教示制度とは、輸入申告を行う前に、輸入者が具体的な取引内容や貨物の詳細を税関に提示し、その取り扱いについて文書による回答を事前に得ておくことができる制度です。この制度を活用することで、輸入者は「税関のお墨付き」を得た状態でビジネスを開始できるのです。

2 事前教示制度の最大のメリット:法的拘束力という名の盾

事前教示制度が提供する最大の価値は、その回答に付与される法的拘束力にあります。口頭による相談(簡易相談)にはこのような効力はありませんが、文書による事前教示の回答は、原則として回答から3年間、税関の実務においてその内容が尊重され、遵守されます。これは、企業が獲得できる最も強固な防御手段の一つです。具体的には、以下の三つの重要な法的効果をもたらします。

第一に、事後調査における遡及追徴の回避です。事前教示の回答に基づき、その条件を遵守して申告を行っている限り、後日、税関がその判断を一方的に覆して過去の分まで遡って関税を徴収することは、信義誠実の原則(信義則)に基づき原則として認められません。これにより、予期せぬ多額の追徴課税という財務的爆弾を無効化できます。

第二に、通関の迅速化と平準化です。事前教示を受けていることを申告時に付記することで、現場の税関職員による分類の疑義や照会が減少し、輸入許可までのリードタイムが短縮されます。

第三に、経営計画の正確性向上です。関税率が確定することで、原価計算や販売価格の設定が正確になり、不確実なコスト要因を排除した健全な事業計画の策定が可能となります。

特に以下のようなケースでは、事前教示制度の活用が必須と言えるでしょう。

(一)複雑な複合品・新製品のHSコード判定

V氏の事例のようなハイテク製品や、複数の機能を併せ持つ複合機械の場合、解釈通則や注の適用が極めて難しく、適用される項によって税率が大きく異なる場合があります。

(二)特殊な取引構造における関税評価

ロイヤルティの支払い、海外の権利者への技術指導料の送金、あるいは金型の無償提供など、関税定率法第四条第一項各号に規定される加算要素の有無が論点となる複雑な取引の場合。

(三)EPA(経済連携協定)における原産地規則の充足性

特定の加工工程が「実質的な変更」をもたらすものとして認められるか、あるいは付加価値基準の計算において特定のコストを算入できるかなど、原産地性を証明するための法的な解釈が複雑な場合。

3 税関の判断を導く「照会文書」作成の三つの極意

税関が事前教示の回答を出す際、その判断材料となるのは、提出された照会文書と添付された証拠資料のみです。不十分な資料で申請を行えば、「回答不能」とされるか、あるいは企業にとって不利な、あるいは的外れな回答が返ってくるリスクがあります。税関の判断を適正に導くためには、以下の実務的要諦を守る必要があります。

(1)事実関係の完全な開示と透明性の確保

照会対象となる取引や貨物の事実関係は、一切の隠蔽を排除し、かつ明確に記載する必要があります。事後調査で事前教示の効力を維持するためには「照会時と実態が同一であること」が絶対条件となります。

①関税評価の場合の重要事項

契約書の全文、当事者間の資本関係図、取引関係図を図示し、貨物代金以外のすべての送金(ロイヤルティ、仲介手数料、コンサルティング費用、役務提供費用など)の流れと使途を、銀行の送金指図書や契約上の計算根拠に基づき明確に示すことが有効です。

②HSコードの場合の重要事項

貨物の材質、機能、用途を詳細に記載するだけでなく、カタログや技術図面、断面図、製造工程表を添付し、さらには必要に応じて作動原理を説明する動画や現物サンプルを提供することが求められます。

(2)企業側による積極的な「法的見解」と論拠の提示

事前教示の申請は、単なる「質問」ではありません。それは、企業が考える「あるべき取り扱い」を提案する「法的プレゼンテーション」の場です。単に「どの税番になりますか?」と聞くのではなく、「本貨物は通則三(b)に基づき、主要な特性を決定づけている電気的要素に着目して第〇〇〇〇項に分類されるべきであると考える。その理由は以下の通りである。」というように、企業側の主張と法的根拠を明確に提示することで、税関の判断をより有利な方向へ導くことが可能となります。

(3)税関が懸念する「急所」の先回りと反証資料の準備

長年の事後調査対応の経験から、税関職員がどのポイントにおいて「否認」や「加算」を検討するかは予測可能です。照会文書の中で、あらかじめ税関が疑念を持つであろう点について、先回りして反証しておくことが重要です。

例えば、ロイヤルティの加算要素についてであれば、「本契約に基づくロイヤルティは、輸入貨物の製造には一切関与せず、輸入後の国内販売における広告宣伝手法に対する対価であり、関税定率法第四条第一項第四号にいう『販売の条件』には該当しない。その証左として、本ロイヤルティの不払いが貨物の供給停止に結びつかない旨の特約条項をライセンス契約書第十条に明記している。」といった具合に、論理的かつ証拠に基づいた主張を展開します。

以下の表は、事前教示制度における口頭照会と文書照会の決定的な違いをまとめたものです。

┌──────────────────────────────────────┐

│       事前教示制度:口頭照会と文書照会の機能比較表         │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│比較項目   │口頭照会(簡易相談)        │文書照会(正式申請) │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│回答の形式  │口頭または電話           │税関長名の文書    │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│法的拘束力  │なし(参考意見に留まる)      │あり(3年間の尊重義務)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│公表の有無  │なし                │原則として税関HPで公表│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│事後調査対策 │不十分(証拠能力が低い)      │極めて有効(最強の防壁)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│所要期間   │即日〜数日             │原則として30日以内 │

└───────┴──────────────────┴───────────┘

4 事前教示制度を利用しないことによる法的・経営的リスク

事前教示制度を利用せず、独善的な解釈で輸入申告を続けることには、以下のような深刻な法的リスクが伴います。

(一)最長五年の遡及追徴課税

関税法第十四条に基づき、納税額の更正は原則として五年前まで遡ることが可能です。事後調査でHSコードの誤りやロイヤルティの加算漏れが指摘された場合、五年分の未納分が一挙に請求されます。

(二)過少申告加算税および延滞税の賦課

不足税額に対して十パーセントから十五パーセントの過少申告加算税(関税法第十二条の二)が課され、さらに納期限からの日数に応じた延滞税(関税法第十二条)が上乗せされます。これらは損金算入ができず、企業の純利益を直接的に毀損します。

(三)AEO制度等の認定取り消しリスク

コンプライアンス上の不備が繰り返されると、認定通関業者や認定輸入者としての資格を失い、すべての貨物について開梱検査を受けるなど、物流の致命的な停滞を招く可能性があります。

(四)意図的な脱税の疑いによる刑事罰

極めて低い税率を意図的に適用し続けていたと判断された場合、関税法第百十条等の規定に基づき、刑事罰の対象となる可能性も否定できません。事前教示を受けていれば、「税関の回答に従っただけである」という正当な抗弁が成立しますが、受けていない場合は「不誠実な申告」とみなされる隙を与えることになります。

以下の表は、事前教示を活用した場合と、活用しなかった場合の財務的・法的インパクトの比較です。

┌──────────────────────────────────────┐

│     事前教示の有無による事後調査時のインパクト比較表         │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│リスク項目  │事前教示あり            │事前教示なし     │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│遡及追徴   │なし(回答に従う限り)       │最大5年分の全額徴収 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│加算税・延滞税│なし                │原則として全額賦課  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│対税関交渉力 │強力(書面による回答が証拠となる) │弱体(現場の解釈に従う)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│経営の予見性 │極めて高い             │極めて低い(爆弾を抱える)│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

5 専門家(弁護士・通関士)による高度なリーガルサポートの必要性

事前教示は単なる行政への問い合わせではなく、高度な「法的防衛活動」です。申請のために作成する文書は、将来の事後調査において「どのように認定されたか」を決定づける重要な証拠となります。関税法、関税定率法、HS条約、WTO関税評価協定、さらには最新の財務省・税関の審理事例に精通した弁護士(通関士)のサポートを得ることで、回答の取得可能性を最大化し、かつ企業にとって最も有利なロジックを確立することができます。

【当事務所が提供する事前教示ソリューション】

一 貴社の取引実態に基づく「最適関税評価・分類戦略」の立案

二 税関を論理的に説得するための「事前教示照会書」の起案および法的根拠の整理

三 技術図面やライセンス契約書の翻訳および関税法的観点からの要約資料作成

四 税関当局との事前の非公式折衝および論点の絞り込み

五 得られた回答の事後調査における運用アドバイスおよびICPへの組み込み

六 万が一、事前教示の結果が不利な場合でも、不服申立てを見据えた次の一手の検討

当事務所は、予防法務としての事前教示制度の活用を最優先事項として位置づけています。あやふやな解釈に基づく通関手続は、一時は安泰に見えても、数年後の貴社の収益と信頼を根本から破壊する可能性があります。

6 まとめ

本日は、輸入事業者が抱える不確実性を国家の確約によって払拭するための「税関事前教示制度」について解説いたしました。S社のT氏のような悲劇を繰り返さないために、そして安定した経営基盤を構築するために、複雑な新製品の導入や、多額のロイヤルティを伴う輸入を開始する際には、必ず事前教示制度を検討してください。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

「並行輸入」と「模倣品対策」

2025-12-17

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において予期せず直面し、かつ企業の存続さえ危ぶまれる事態に発展しかねない「知的財産権侵害物品の水際取締り」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入貨物が「真正品」であると確信していても、税関の認定手続によって輸入が差し止められる事例は、並行輸入ビジネスにおいて後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内で欧州ブランドの雑貨やアパレル製品の並行輸入販売を行う株式会社M、代表取締役 N氏

【相談内容】

「当社は、イタリアの有力な独立系卸売業者から、高級ブランド『O社』の新作バッグおよびアクセサリー類を約五百点輸入いたしました。これまでも同じルートで何度も取引しており、現地の卸売業者からは真正品であることを保証する証明書も受け取っていました。ところが、成田空港の税関より、当該貨物が商標権を侵害する物品の疑いがあるとして、関税法第六十九条の十二第一項に基づき『認定手続』を開始する旨の通知が届きました。ブランド権者である日本法人の『O・ジャパン社』は、これが偽造品であると主張しており、このままでは貨物の没収・廃棄は避けられず、多額の仕入資金が水の泡となります。さらに、税関から悪質な密輸入者として刑事告発されるのではないかと不安で夜も眠れません。どのように真正品であることを立証し、差止めの危機を脱すればよいのでしょうか。また、今後の再発防止策についても専門的なアドバイスを求めています」

このような事例は、知的財産権(知財)が国境を越えて厳格に保護される現代の国際貿易において、並行輸入業者が直面する最も深刻なリスクの一つです。税関は、偽造品や海賊版の国内流入を阻止するため、極めて強力な権限を行使いたします。本日は、知財侵害を疑われた際の法的対応の急所と、並行輸入が法的に許容される要件について、関係法令を解説いたします。

1 税関による水際取締りの法的根拠と「認定手続」の構造

税関は、単に関税を徴収するだけの機関ではなく、社会悪物品の流入を阻止する役割を担っています。知的財産権侵害物品は、関税法において「輸入してはならない貨物」として明記されています。

(関税法第六十九条の十一第一項第九号 輸入してはならない貨物)

「特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」

税関がこれらの権利を侵害する疑いのある貨物を発見した場合、直ちに没収するのではなく、まず「認定手続」という行政手続を実施しなければなりません。

(関税法第六十九条の十二第一項 認定手続)

「税関長は、輸入申告された貨物(中略)のうちに、第六十九条の十一第一項第九号から第十号までに掲げる物品に該当する疑いがある貨物があるときは、当該貨物が当該物品に該当するか否かを判定するための手続(以下この条において『認定手続』という。)を執らなければならない」

この手続が開始されると、輸入者と権利者の双方に対して、証拠を提出し意見を述べる機会が与えられます。N氏の事例のように、権利者が「侵害品である」と主張し、輸入者が「真正品である」と主張する場合、税関が中立的な立場からその正否を判断いたします。

2 並行輸入が「真正品」として法的に認められるための三要件

並行輸入は、商標権者とは別のルートで真正商品を輸入する行為ですが、これが商標権侵害にならないためには、日本の最高裁判例(パーカー事件、BBS事件等)によって確立された、いわゆる「真正商品の並行輸入」の三要件を満たす必要があります。

一 当該商標が、外国における商標権者又はその許諾を受けた者により適法に付されたものであること。

二 外国における商標権者と日本の商標権者とが、同一人であるか、若しくは法律的・経済的に同一人とみなせるような関係にあること(出所表示機能の同一性)。

三 日本の商標権者が当該商品の品質管理を行い得る立場にあり、輸入品と日本の商標権者が扱う商品との間に、実質的に差異がないと認められること(品質保証機能の同一性)。

税関の認定手続において輸入者が立証すべきは、まさにこの三点です。特に三点目の「品質の差異」については、権利者側が「並行輸入品は日本国内の正規品と仕様や成分が異なるため、商標の品質保証機能を害している」と主張し、侵害を構成させようとするケースが多々あります。これに対し、輸入者はその差異が本質的なものではないこと、あるいは同一の製造ラインで生産されたものであることを証明しなければなりません。

3 認定手続における実務上の進行と輸入者の対応事項一覧

輸入者が税関から認定手続の通知を受けた際、どのようなスケジュールで何を行うべきかを以下の表に整理いたしました。

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知的財産権侵害疑い貨物に係る認定手続の進行フローと輸入者の実務対応表

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手続の段階|具体的な内容と期限|輸入者が執るべき法的アクション

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認定手続開始通知|税関から書面で通知される|速やかに専門の弁護士へ相談し、方針を決定

意見提出の機会|通知から原則10日以内|真正品である証拠資料を集約し、意見書を作成

権利者による申立て|権利者が証拠を提示する|相手方の主張内容を精査し、反論資料を準備

専門委員の助言|高度な判断を要する場合に実施|技術的、専門的見地から意見を補充

税関による認定|侵害か真正品かの最終判定|認定に不服がある場合は、取消訴訟等を検討

貨物の処理|侵害なら没収廃棄、真正なら許可|認定結果に基づき、速やかに保税状態を解消

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4 真正品立証のために必要となる証拠資料(チェーン・オブ・タイトル)

N氏の事例で最も重要なのは、「このバッグが間違いなくO社の正規の流通ルートから出たものである」という証拠(チェーン・オブ・タイトル)の提示です。税関や権利者を納得させるためには、単なる請求書だけでなく、以下の資料を重層的に積み上げる必要があります。

(一)仕入先との基本契約書および取引履歴:仕入先がその国において正規の卸売ライセンスを有していること、あるいは正規店から買い付けた実績があることを示す書類。

(二)真正品であることを証明する鑑定書・保証書:製造メーカーが発行したホログラム付きのタグ、シリアル番号、ICチップの読み取り結果など。

(三)物流経路の透明性:製造国から日本に到着するまでの運送書類(船荷証券等)をすべて開示し、途中で不審な荷抜きや積み替えが行われていないことを証明する。

(四)品質の同一性証明:日本国内の正規品との比較写真、成分分析結果、パッケージの仕様比較などを通じ、消費者に誤認を与えるような品質低下がないことを示す。

5 権利者側が執る「輸入差止申立て」制度とその影響力

輸入者にとってのリスクを理解するためには、権利者がどのような武器を持っているかを知る必要があります。権利者は、関税法第六十九条の十三に基づき、あらかじめ税関長に対して、自分の権利を侵害する物品が輸入されようとした場合に差し止めるよう申し立てることができます。

(関税法第六十九条の十三第一項 輸入差止申立て)

「知的財産権の権利者は、その権利を侵害すると認める物品(中略)が輸入されようとする場合において、当該物品を輸入してはならない貨物として認定するための手続を執るべきことを税関長に申し立てることができる」

この申立てが受理されると、税関のデータベースに侵害疑い物品のリストとして登録されます。これにより、税関職員による開梱検査の確率が飛躍的に高まり、輸入者にとっては「常時監視されている」状態となります。並行輸入業者がビジネスを開始する前には、対象商品についてこのような申立てがなされているか、また過去にどのような認定事例があるかを調査することが不可欠です。

6 「不当な差止め」に対する救済手段と権利者の賠償責任

権利者の主張が誤りであり、税関が「真正品」であると認定した場合、輸入者は滞留していた貨物を引き取ることができます。しかし、認定手続に数ヶ月を要した場合、季節商品の価値低下や保管料の増大といった損害が発生します。関税法第六十九条の十三第十項では、不当な差止めによる輸入者の損害を担保するため、権利者に対して供託金を命じる制度があります。

(関税法第六十九条の十三第十項 供託金の命令)

「税関長は、輸入差止申立てをした者に対し、当該申立てに係る貨物が侵害物品に該当しないと判定された場合に輸入者が被るおそれがある損害の賠償を担保するため、相当と認める額の金銭を供託すべきことを命ずることができる」

もし権利者が悪意又は過失により、真正品であることを知りながら不当に差し止めた場合には、輸入者は民法第七百九条(不法行為)に基づき、損害賠償を請求することが可能です。当事務所では、このような不当な差止めに対する反撃の訴訟についても強力にサポートいたします。

7 「個人使用」を装った輸入に対する規制強化の現状

近年、模倣品の輸入は「個人使用目的」を隠れ蓑にして行われることが増えてきました。これに対応するため関税法が改正され、海外の事業者が日本の個人に対して郵送等で送る模倣品は、個人使用目的であっても「輸入してはならない貨物」として没収の対象となりました。

(関税法第二条第一項第一号の二 輸入の定義の拡張)

この改正により、「商売ではないから大丈夫」という理屈は通用しなくなりました。並行輸入業者としては、小口輸入であっても事業性を疑われれば、直ちに認定手続の対象となることを覚悟しなければなりません。

8 知的財産権侵害を巡る刑事罰と加算税のリスク

知財侵害物品の輸入は、行政的な没収に留まらず、深刻な刑事罰の対象となります。

(関税法第百九条第一項 輸入してはならない貨物を輸入する罪)

「第六十九条の十一第一項第一号から第六号まで、第九号又は第十号に掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

故意に偽造品を輸入したと判断されれば、警察への告発も免れません。また、たとえ故意がなくても、侵害物品であることを理由に輸入が不許可となれば、関税の申告そのものが虚偽であったとみなされ、過少申告加算税や重加算税に相当するペナルティを課される可能性もあります。

9 並行輸入事業者が構築すべきコンプライアンス・チェックリスト

知財リスクを最小化し、税関とのトラブルを回避するために、日常実務で実施すべき項目を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     並行輸入における知的財産権コンプライアンス・チェックリスト    │

├───────┬──────────────────────────────┤

│確認項目   │実務上の具体的な点検内容                  │

├───────┼──────────────────────────────┤

│商標権の調査 │特許庁のデータベース(J-PlatPat)で権利者を特定 │

├───────┼──────────────────────────────┤

│真正品の定義 │「パーカー三要件」に照らして自社の輸入品が適法か評価    │

├───────┼──────────────────────────────┤

│サプライヤー │仕入先の登記、販売ライセンス、過去の取引実績をデューデリ  │

├───────┼──────────────────────────────┤

│サンプル検査 │本輸入前に少量を輸入し、自ら正規品と比較して品質を確認   │

├───────┼──────────────────────────────┤

│緊急時連絡網 │認定手続開始通知を受けた際、24時間以内に弁護士へ繋ぐ体制 │

├───────┼──────────────────────────────┤

│反論資料の備蓄│インボイス、L/C、船荷証券、仕入先証明書を7年間保存   │

└───────┴──────────────────────────────┘

10 専門家(弁護士・通関士)による高度な防御体制の重要性

税関から認定手続の通知が届いた際、輸入者に与えられた時間は極めて限定的です。ここで適切な法的反論を行えるかどうかが、貨物の運命を左右します。当事務所は、弁護士としての高度なリーガルスキルと、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社の権利を強力に守ります。

【当事務所が提供できる具体的な知財防衛サービス】

一 認定手続における税関への「真正品立証意見書」の作成および提出

二 権利者側との示談交渉、あるいは不当な差止めに対する損害賠償請求

三 新規取り扱い商品の知財リスク診断(真正商品の並行輸入要件の該当性評価)

四 税関に対する「認定手続の不服申立て」および「輸入差止申立ての取消請求」

五 海外サプライヤーに対する法的なデューデリジェンスおよび契約書への補償条項の策定

六 社内知財管理規定の整備および役職員向けのリーガル・トレーニング

特に、認定手続における「意見書」は、単なる感情的な主張ではなく、過去の判例や特許庁の解釈、さらには実物の鑑定結果に基づいた論理的な構成が求められます。当事務所は、税関当局との粘り強い折衝を通じ、数多くの不当な差止め事例を覆してきた実績がございます。

11 まとめ

本日は、輸入実務において最も予見が困難でありながら、発生時のインパクトが甚大な「知的財産権侵害物品の認定手続」について解説いたしました。N氏のようなケースであっても、当初から仕入先の信頼性を客観的な資料で裏付け、税関からの通知に対して即座に論理的な反論資料を提示できていれば、事態の長期化を防ぎ、損害を最小限に抑えることが可能でした。

企業としては、知財トラブルを単なる運の悪さと捉えるのではなく、契約、物流、申告の各フェーズにおける法的なリスク管理の一環として捉え直す必要があります。模倣品の流通は世界的に拡大しており、税関の目も年々厳しくなっています。真正品を扱っているという誇りがあるからこそ、その正当性を法的に証明できる「武装」を怠らないでください。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

海外業者との契約書で確認すべき重要条項

2025-12-12

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も根源的でありながら、多くの企業が見落としがちな「国際間契約書における関税リスクの埋め込み」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入トラブルや税関による事後調査で指摘を受ける問題の多くは、実は輸入の瞬間ではなく、その数ヶ月、数年前に締結された「契約書」の文言に起因しています。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。契約書の不備がいかに巨額の追徴課税を招くか、その現実を理解する重要な一助となります。

【相談者】

大阪府内で産業用センサーの輸入販売を行うM社 代表取締役 N氏

【相談内容】

「当社は、五年前からドイツの製造メーカーと『基本売買契約』を締結し、継続的に製品を輸入しております。価格交渉の際、少しでも仕入単価を下げるために、製品代金とは別に『技術コンサルティング料』や『金型の保守費用』を毎月定額で支払う契約にいたしました。インボイスには純粋な製品代金のみを記載し、その他の費用は国内販売後の経費として処理しておりました。ところが、先日行われた税関の事後調査において、これらの『別途支払い』はすべて輸入貨物の課税価格に加算すべき要素であると指摘されました。契約書の中に『本支払いは製品の安定的供給を維持するための条件とする』という一文があったことが決め手となり、過去五年分のロイヤルティや提供費用として遡及的に更正を受けました。追徴税額は加算税を含めて八千万円を超えています。契約書を作成した際には法務チェックも受けましたが、関税の視点は全くありませんでした。今後、どのような条項を盛り込めば、このようなリスクを回避できるのでしょうか」

このような事例は、国際法務と関税実務が分断されている企業において、極めて高い頻度で発生いたします。海外業者との契約書は、取引が円滑な時には単なる約束事ですが、税関調査においては「企業を守る最後の防御壁」となるべきものです。本日は、輸入事業者が自己のリスクを最小限に抑えるために、契約書において特に明確化しておくべき重要条項を、関税法および関税定率法の専門的見地から解説いたします。

1 「支払いの全容」と課税価格決定の法的相関

輸入貨物の関税額は、その貨物の「価格」に税率を乗じて算出されます。この「価格」は、単にインボイスに書かれた金額を指すのではなく、関税定率法第四条に基づき決定される「課税価格」を指します。

(関税定率法第四条第一項 課税価格の決定の原則)

「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格(中略)に、その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする」

ここでいう「次に掲げる費用の額」がいわゆる加算要素であり、運賃、保険料、仲介手数料、無償提供費用、そしてロイヤルティなどが含まれます。N氏の事例のように、契約書で費用の名目を変えたとしても、その実態が貨物の対価や販売の条件であれば、法的には課税価格に算入されます。そのため、契約書において各支払いの性質をどのように定義するかが、将来の納税額を決定づけることになります。

2 ロイヤルティ(権利使用料)条項の戦略的設計

事後調査で最も激しく争われるのが、関税定率法第四条第一項第四号に規定されるロイヤルティの加算要件です。

(関税定率法第四条第一項第四号)

「輸入貨物に関連して買手により直接又は間接に支払われる特許権、意匠権、商標権その他これらに類する権利であって政令で定めるものの使用の対価(中略)のうち、当該輸入貨物の販売の条件として買手により直接又は間接に支払われるもの」

加算されるための二大要件は「貨物との関連性」と「販売の条件」です。契約書を起案する際には、以下の点に留意した条項構成が必要です。

一 支払いの名目と貨物の分離:ロイヤルティが「輸入貨物の製造」そのものに対する対価なのか、それとも「輸入後の国内におけるマーケティング活動」に対する対価なのかを明確に区分します。後者であれば、貨物との関連性が否定され、加算対象外となる余地が生まれます。

二 供給停止条項の回避:ライセンス契約において「ロイヤルティの支払いが滞った場合、ライセンサーは製造者に対して商品の出荷停止を命じることができる」といった条項があると、即座に「販売の条件」に該当すると判断されます。可能な限り、支払遅延に対するペナルティは金銭賠償や国内販売権の停止に留め、輸入取引そのものを停止させる権限と結びつけないような文言調整が求められます。

三 算出根拠の明確化:ロイヤルティの計算基礎を「輸入価格」ではなく「国内販売後の純利益」等に設定し、かつそれが輸入取引の成立とは無関係に発生するものであることを契約の前文などで宣言しておくことが有効です。

3 手数料の区分と業務記述の厳密性

海外の代理店や仲介者に支払う手数料も、その性質によって加算の要否が分かれます。関税定率法第四条第一項第一号では「仲介手数料(販売手数料)」は加算すべきとする一方で、関税定率法基本通達4-10により「買付手数料」は加算不要とされています。

税関は、名目上の「買付手数料(Buying Commission)」という言葉を信じることはありません。契約書において、当該代理人が「買手(輸入者)のために、買手の計算と責任において、売手の選定や交渉を行っている」という業務実態を詳細に規定しておく必要があります。代理店契約書において「代理人は売手からいかなる報酬も受け取ってはならない」「代理人は買手の利益のためにのみ行動する」といった排他的な忠実義務を明記することが、事後調査での防衛に繋がります。

4 HSコード分類と原産地情報の提供義務化

関税率を決定するHSコードの分類や、EPA(経済連携協定)の適用に不可欠な原産地情報の正確性は、輸入者が法的な申告責任を負いますが、その情報の源泉は海外の輸出者に依存しています。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

「納税義務者は、輸入貨物の課税価格の決定に必要な書類(中略)を、その輸入許可の日の翌日から七年間保存しなければならない」

この保存義務を果たすためには、輸出者の協力が不可欠です。しかし、取引開始後に「資料をくれ」と言っても、企業秘密を理由に拒絶されるケースが多々あります。そのため、売買契約書に以下の協力義務を盛り込むことが必須となります。

一 正確なHSコード情報の提供:輸出者が自国で使用しているHSコードのみならず、製品の材質、成分、機能等の分類に必要な技術資料を輸入者の要求に応じて提供する義務。

二 EPA原産地規則への協力:EPAを適用する場合、輸出者が原産地証明書を発行するだけでなく、その裏付けとなる製造原価明細書(BOM)や製造工程図を、必要に応じて日本税関へ直接提供する(または輸入者を通じて提示する)ことに同意する条項。

三 情報不備による損害の補償:輸出者の提供した情報の誤りにより、輸入者が追徴課税や過少申告加算税を課された場合、その損害を輸出者が補償する旨のインデムニティ(補償)条項。

このような条項があることで、輸出者側に「いい加減な情報は出せない」という心理的抑制が働き、申告の精度が向上いたします。

5 輸入者が契約書に盛り込むべき重要チェックポイント比較表

実務上、どのような条項がリスクとなり、どのような修正が望ましいのかを以下の表に整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       輸入契約書における関税リスク管理・改善案一覧表        │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│検討項目   │リスクが高い表現(追徴の可能性)  │推奨される表現(リスク軽減)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│ロイヤルティ │本支払いは製品供給の対価の一部とする│本支払いは国内での独占│

│       │不払いの場合は商品の出荷を差し止める│販売権に対する対価である│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│仲介手数料  │売買成立を支援した報酬として支払う │買手の代理人として市場│

│       │                  │調査・検品を行う対価 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│金型・図面等 │買手は必要に応じて無償で提供する  │提供物の価値を特定し、│

│(アシスト) │(金額や按分方法が不明確な状態)  │提供費用を算出・明記する│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│情報の開示義務│輸出者は可能な範囲で情報を提供する │税関調査等に必要な資料│

│       │                  │提供に全面的に協力する│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│損害賠償条項 │(関税等の公租公課に関する記述なし)│輸出者の情報誤謬による│

│       │                  │加算税等は輸出者が負担│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

6 「信義誠実の原則」と帳簿備付義務の厳格化

関税法は、輸入者に対して誠実な申告を求めています。契約書に不備がある状態で、事後的に「これは別の費用のつもりだった」と主張しても、裁判例では「契約書の文言に現れている客観的事実」が優先されます。

(関税法第百十条 関税を免れる罪)

「偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

悪意がなくても、契約書によって課税価格を低く見せかけていると判断されれば、この重い罰則が適用されるリスクを常に孕んでいます。また、関税法第九十四条に基づく帳簿保存義務に違反した場合、税関は輸入者の申告を否認し、税関長の権限で課税価格を決定(推計)することができます。これを防ぐためには、契約書そのものが、適正な価格算定の根拠書類として機能するよう、論理的に構成されていなければなりません。

7 EPA適用における「直接運送原則」と契約上の義務

契約書において意外と見落とされるのが、EPA適用のための「運送要件」です。貨物が第三国を経由して日本に到着する場合、その第三国で加工が施されていないことを証明しなければなりません。

(関税法第六十八条、各EPA協定条文)

多くの協定では「直接運送(通し船荷証券等)」が求められます。輸入者は、輸出者との契約において「運送経路の事前通知義務」や「第三国での保税管理証明書の取得義務」を課しておく必要があります。サプライヤーが勝手に配送ルートを変更したために、数億円分の免税措置が受けられなくなったというトラブルは、契約書に一筆あれば回避できたはずの事態です。

8 輸入コンプライアンス(ICP)と契約管理の統合

継続的な輸入取引を行っている企業は、単発の契約チェックだけでなく、社内管理規定(ICP)を整備し、契約書の内容が実際の輸入申告に反映されるプロセスを自動化する必要があります。

一 契約締結前の関税評価チェック:法務担当者が契約書を見る際に、関税定率法第四条のチェックリストを必ず確認する。

二 送金管理と加算要素の紐付け:経理部門が海外送金を行う際、その支払いが「加算要素」に該当するかどうかを判断し、物流部門へ通知する仕組みを構築する。

三 定期的監査:過去に締結した契約書と、現在の輸入申告価格に齟齬がないか、最低でも一年に一度は内部監査を実施する。

このような地道な体制構築こそが、事後調査における最強の防護策となります。

9 弁護士による契約書レビューの死角と、通関士資格を保有する弁護士の強み

一般的な弁護士や法務担当者は、契約書の中の「損害賠償」や「知的財産権の帰属」については精通していますが、その条文が「関税定率法第四条」にどのような波及効果を及ぼすかまでを予見することは困難です。一方で、通関実務の現場を知る弁護士(通関士資格保有者)は、税関調査官が帳簿のどの行を読み、契約書のどの単語を「加算の根拠」として突き付けてくるかを熟知しています。

【当事務所が提供する契約書戦略サポート】

一 ライセンス契約、製造委託契約における「関税評価リスク・スクリーニング」の実施

二 税関当局のロジックを先読みした「加算回避型」の条文案提示

三 輸出者との交渉における、関税実務上の必要性を背景とした説得ロジックの提供

四 既存契約の不備が判明した場合の、自発的な修正申告による「重加算税回避」のコンサルティング

五 HSコード分類や原産地判断に関する、税関への「事前教示」の申請書類作成

契約前のわずかな手間で、将来発生しうる数千万円、数億円規模の追徴リスクを完全にコントロールすることが可能です。海外との取引を始める際、あるいは既存の契約を更新する際は、必ず関税評価の観点から精査を行うべきです。

10 まとめ

本日は、輸入事業者が抱える最大の潜在的リスクである「契約書に起因する関税トラブル」について解説いたしました。N氏の事例が示す通り、契約書は単なるビジネスの合意文書ではなく、国家(税関)に対する課税の根拠書類です。

「関税のことは通関業者に任せているから大丈夫」という考えは、もはや通用いたしません。通関業者はインボイスに書かれた数字で申告するだけであり、契約書の中身まで踏み込んでリスクヘッジを行ってくれるわけではないからです。

輸入者自身が、関税法および関税定率法の原則を正しく理解し、その理念を契約書という形に落とし込むこと。それが、グローバルな競争の中で自社の利益を守り、健全な成長を続けるための必須条件となります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

関税評価の遡及的更正リスク

2025-11-07

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も盲点となりやすく、かつ税関の事後調査において巨額の追徴課税の引き金となる「継続取引における価格評価の不備」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。長年の慣行がいかに法的な落とし穴となるかを理解する重要な一助となります。

【相談者】

神奈川県内で精密機械部品の輸入卸売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社は、ドイツのメーカーから特定の部品を三年にわたり継続的に輸入しております。価格は安定しており、過去に一度も税関から指摘を受けたことはありませんでした。しかし、先日行われた事後調査において、サプライヤーとの基本契約に含まれていた『年間購入数量に応じた事後的リベート』および『為替変動に伴う価格調整条項』が問題視されました。税関からは、インボイス価格はあくまで暫定的なものであり、確定した支払総額に基づき過去三年分の申告を修正すべきであるとの指摘を受けました。その結果、数千万円の不足税額と過少申告加算税を課されました。長年問題なかったはずの取引がなぜ今になって否定されるのか、また、このような遡及的な追徴を回避するためにどのような実務体制を構築すべきか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、グローバルなサプライチェーンにおいて価格の柔軟性を確保しようとする現代の貿易実務において、極めて頻繁に発生いたします。「毎回同じ条件で輸入していたはずなのに、過去3年分の価格が過少だと言われた」という事態は、単なる事務ミスではなく、関税評価の根本的な法理の誤解に起因するものです。本日は、継続取引ゆえに見過ごされがちな関税評価の見直しポイントと、調査対応の注意点を解説いたします。

1 「実際に支払った又は支払うべき価格」の法的定義と包括性

日本の関税制度は、輸入者が申告した価格に基づき納税する申告納税方式を採用していますが、その計算根拠となる課税価格の決定方法は、関税定率法第四条によって厳格に定められています。

(関税定率法第四条 課税価格の決定の原則)

第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格(中略)に、その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする。

ここでいう「輸入取引がされた時の価格」とは、単にインボイスに記載された数字を指すのではありません。買手が売手に対し、当該輸入貨物の対価として「実際に支払った又は支払うべき価格」の総額を指します。B氏の事例のように、輸入の瞬間には支払っていなくても、後に支払うことが契約で決まっているリベートの取消分や価格調整金は、法的にこの「支払うべき価格」の一部を構成いたします。関税評価の国際的な基準であるWTO関税評価協定(旧ガット関税評価コード)においても、取引価格(Transaction Value)は、輸入貨物に対して現実に支払われた、または支払われるべき対価の総額であると定義されています。この原則は、輸入者が売手に支払う直接的な代金のみならず、第三者への支払いや債務の相殺など、実質的に売手の利益となるすべての経済的対価を網羅するものです。継続取引においては、個々の輸入時には確定していない追加の支払義務が、契約上の数式や条件によって事後的に発生することが多いため、税関はこの「将来的な支払義務」が輸入申告に適切に反映されているかを極めて厳格に審査いたします。

2 リベート(事後的値引き)と価格調整条項の関税評価上の取り扱い

継続取引において最も注意すべきは、取引の「後」に発生する金銭のやり取りです。これらは大きく分けて二つの類型に整理されます。

(一)リベートの取消しと遡及修正の法理

輸入後に「年間目標達成」等の理由で売手から買手へ払い戻し(リベート)が行われることがあります。一般的に、輸入許可後の値引きは、関税定率法基本通達において「課税価格の決定に際しては考慮しない(値引き後の価格での申告は認められない)」とされています。これは、輸入の瞬間における貨物の価値を固定するためです。しかし、問題となるのはその逆、すなわち「リベートが予定されていたが、目標未達によりリベートが受けられなかった」場合や、当初の割引条件が事後的に無効となった場合です。この場合、買手が実際に支払う金額は当初の予定(インボイス価格)よりも高くなるため、税関はこれを過少申告として厳しく追及いたします。B氏の事例では、数量割引を前提とした暫定価格で申告していたものの、年度末に精算した結果、割引率が低下し、単価が上昇したことが「支払うべき価格」の過少申告と認定されました。

(二)価格調整条項(Price Adjustment Clause)と暫定申告の義務

為替変動、原材料費の推移、あるいは製造コストの事後精算を目的とした価格調整条項が契約に含まれている場合、その性質は「不確定価格」となります。関税法上、価格が未確定の状態で輸入を行う場合には、本来であれば「暫定申告」という特殊な手続きを行う必要があります。この手続きを怠り、便宜的にインボイス価格で確定申告を繰り返していると、事後調査において過去数年分の調整金を一括して「輸入貨物の対価」とみなされ、重いペナルティが課されることになります。特に、親子間取引などの特殊関係がある場合、移転価格(TP)税制上の調整金が関税の課税価格に影響を及ぼすかどうかが、現代の税関事後調査における最大の主戦場となっています。

3 継続取引における典型的な過少申告リスク比較表

実務上、どのような項目が事後調査で狙われやすいのか、その詳細を整理いたしました。

====================================

継続取引における関税評価の見落としポイントおよびリスク分析一覧表

========================----------==

項目の種類|具体的な実務上の内容|事後調査での法的な指摘リスクと帰結

-----|----------------|------------

リベート遡及消滅|目標数量に達せず、当初の割引が取り消された場合|「支払うべき価格」の増大。不足税額の発生

事後調整金|会計年度末に行われる製造原価の事後精算支払|当該支払額を貨物の対価とみなし全額追徴

為替精算金|契約上の固定レートと実レートの差額精算|価格調整条項の未申告。暫定申告義務違反

アシスト費用|継続取引の中で提供された無償の金型や部品|加算要素(関税定率法4条1項3号)の漏れ

ロイヤリティ|商標権や特許権の使用料が輸入後に確定する場合|「取引の条件(4条1項4号)」に該当し追徴

支払調整条項|市況の変化に応じて価格を変動させる契約条項|インボイスの価格妥当性を否定されるリスク

仲介手数料|継続的に介在する代理店への別途支払い|「買付手数料」以外の全手数料の加算漏れ

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4 「これまで指摘されなかった」が通用しない法的理由

多くの輸入事業者が陥る最大の誤解は、「数年間、同じ方法で通関を通してきており、税関も一度も文句を言わなかったのだから、今のやり方は正当である」という思い込みです。しかし、日本の通関実務の構造上、この論理は法的に一切通用いたしません。

(一)形式審査と実質審査の峻別

輸入申告時の税関の審査は、主に書類の形式的整合性や、禁止薬物の有無、他法令の許可の有無に主眼が置かれています。これを「通関審査」と呼びます。これに対し、価格の妥当性を帳簿や契約書まで遡って精査するのが「事後調査」です。事後調査は、輸入許可から通常数年(多くは三年周期)を経て実施されるため、輸入時に見逃されていた不備が数年分一挙にあぶり出されることになります。

(二)信顧の原則(しんぎのげんそく)の限界

一度税関が認めたものを後から否定するのは「信義誠実の原則」に反するのではないかという反論も、過去の裁判例では否定されています。輸入者は自らの責任において適正な申告を行う義務を負っており、税関が輸入時に見落としたことをもって、輸入者の過失が相殺されることはありません。B氏の「長年問題なかった」という主張が退けられたのは、納税義務者としての「自己責任原則」という関税法の厳しい現実があるからです。

5 税関事後調査における遡及的更正の実務フローと期限の法理

事後調査によって価格評価の誤りが判明した場合、行政手続法および関税法に基づき、以下のプロセスで更正が行われます。

(一)調査の結果の通知と修正申告の勧奨

税関は調査終了後、不備の内容を輸入者に説明し、自発的な修正申告を促します。

(二)更正処分(関税法第十四条

輸入者が税関の見解に納得せず修正申告に応じない場合、税関長が権限に基づき、一方的に税額を決定いたします。

(三)更正の期間制限(時効)

関税の更正は、原則として法定納期限から五年(かつては三年でしたが、法改正により延長されました)を経過するまで行うことができます。また、偽りその他不正の行為により免れた関税については、時効は七年に延長されます。B氏の事例では、直近三年分が更正の対象となりましたが、これは税関の運用上の判断に過ぎず、法的には五年前まで遡るリスクが常に存在します。

(四)付帯税の重層的賦課

不足税額の納付だけでは済みません。関税法第十二条の二に基づき、不足税額の十パーセント(一定額超は十五パーセント)の過少申告加算税が課されます。さらに、本来の納期限からの日数に応じた延滞税(年率換算で最大九パーセント前後)が加算されます。これらが数年分積み重なると、本税と同等以上のインパクトを企業経営に与えることになります。

6 内部輸入管理規程(ICP)による定期的点検の義務化

継続的な輸入取引を行っている企業が、事後調査で致命的な打撃を避けるためには、単なる「事務作業」としての通関から「法務ガバナンス」としての輸入管理へと転換する必要があります。

(一)全方位的な三点照合の自動化

経理部門が海外へ送金している「すべての費用」と、輸入部門が税関へ申告している「インボイス価格」、そして法務部門が締結している「基本契約書」の内容が、一文字の齟齬もなく整合しているかを、最低でも四半期に一度は監査する体制が必要です。

(二)評価申告制度の活用

価格調整条項やロイヤリティの支払いがある場合、事前に税関に対し「このような支払計画がある」ことを申告する制度です。あらかじめ内容を開示し、税関の承認を得ておくことで、将来的な過少申告の指摘を封じ込めることができます。

(三)サプライヤーとのコミュニケーション管理

海外の売手が勝手に「割引」や「価格精算」を行っている場合があります。輸入者はこれを知らなかったでは済みません。契約書に「価格に関するいかなる変更も、事前に日本側輸入者の承諾を必要とする」旨の条項を盛り込み、申告価格のコントロール権を自社で把握し続けることが肝要です。

7 専門家(弁護士・通関士等)による高度な法的サポートの重要性

関税評価は、単なる貿易実務ではなく、関税法、会社法、法人税法、さらには国際的な二重課税防止条約などが複雑に交差する「高度な法務」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、法的な死角が多すぎます。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を強力に守ります。

【当事務所が提供できる具体的な支援内容】

一 貴社の継続取引における価格構成の網羅的な洗い出しおよび「関税評価リスク診断」の実施

二 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い対応

三 不当な指摘や過大な更正処分に対する、税関長への「再調査の請求」および財務大臣への「審査請求」の代理

四 価格調整条項やロイヤリティ条項を関税評価の観点から最適化した「国際売買契約書」の策定

五 税関への「評価申告」および「事前教示」の申請資料作成と当局との粘り強い折衝

六 社内輸入コンプライアンス体制(ICP)の構築支援、および役職員向けの実務研修

弁護士でありながら通関現場のロジックを熟知しているからこそ、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で帳簿を確認し、どのような証拠を突き付けられるのを最も嫌がるかという「急所」を見抜き、最も効果的な一手を打つことができます。

8 まとめ

本日は、継続的な輸入取引に潜む関税評価の遡及的更正リスクについて、詳細に解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から関税定率法の原則を深く理解し、事後的な価格調整の可能性を税関に「評価申告」という形で事前に開示していれば、巨額の追徴や加算税、そして何より税関からの「不誠実な輸入者」というレッテルを回避し、ビジネスの予見可能性と安定性を確保することが可能でした。

企業としては、これまで指摘されなかったという現状に安住せず、取引条件の変化に即応できる体制を構築することが重要です。インボイスの数字だけを信じるのではなく、その背後にある契約、金銭の動き、そして法的な義務のすべてを俯瞰する視点を持ってください。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。

当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万全な通関体制の構築を強力にサポートし続けます。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

無償提供物の加算漏れリスク

2025-10-23

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も見落とされやすく、かつ税関の事後調査において高額な追徴課税の標的となりやすい「加算要素」、特に金型等の無償供与物品(アシスト)に関する法的論点と実務的な対応策を説明いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。商慣習上の「無償」が、関税法上の「課税対象」へと転じるという、輸入ビジネスの落とし穴を理解する重要な一助となります。

【相談者】

神奈川県内に拠点を置く中堅家電メーカーA社 代表取締役 B氏。

【相談内容】

「当社は、独自デザインの生活家電を海外の工場に委託製造させ、日本国内で販売しております。製造に際しては、日本国内の専門メーカーに数千万円かけて特注の金型を製作させ、これを無償で海外の工場に提供いたしました。B氏は、金型は自社資産であり、海外工場には直接代金を支払っていないため、製品の輸入価格には影響しないと考えておりました。その結果、過去三年の輸入申告において、インボイスに記載された製品単価のみを課税価格として申告し続けてきました。ところが、先日の税関事後調査において、無償提供した金型の価値は関税定率法上の加算要素に該当し、申告価格に含まれなければならないとの指摘を受けました。過去三年に遡る追徴課税に加え、過少申告加算税と延滞税を合わせると、当社の今期の利益を圧迫するほどの巨額な支払いを求められています。B氏は、なぜ代金を支払っていないものが課税対象になるのか、また、これからどのようにして適正な評価申告を行えばよいのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、日本の製造業者が海外へ生産拠点を移転したり、OEM(相手先ブランドによる生産)を活用したりする際に、驚くほど頻繁に発生いたします。「えっ、提供した金型の価値まで申告に含めなければならないんですか?」という戸惑いは、関税評価の原則を理解することで、明確な法理に基づいた結論へと導かれます。

本日は、輸入時に見落とされがちな加算要素のひとつである無償供与物品について、注意点と実務対応を徹底的に解説いたします。

1 関税評価における現実支払価格と加算要素の法的構造

日本の関税制度は、輸入者が申告した価格に基づき納税する申告納税方式を採用していますが、その計算根拠となる課税価格の決定方法は、関税定率法第四条によって厳格に定められています。関税定率法第四条(課税価格の決定の原則)第一項によれば、輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格に、その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とするとされています。

その第三号には、当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により直接又は間接に、無償で、又は値引きして提供された次に掲げる物品又は役務の費用が挙げられています。

具体的には、

イ(当該輸入貨物に組み込まれている材料、部分品)、

ロ(当該輸入貨物の生産のために使用された工具、金型、ダイス)、

ハ(当該輸入貨物の生産の過程で消費された材料)、

ニ(当該輸入貨物の生産に関連して、本邦以外の国において提供された技術、設計、考案、意匠又は工芸)がこれに当たります。

この条文が示す通り、B氏が海外へ提供した金型は、上記三号のロに該当し、製品のインボイス価格に含まれていないのであれば、法的に加算しなければなりません。関税法上の論理は、金型等の支援(アシスト)がなければ、製品の単価はもっと高くなっていたはずであり、その浮いた分も製品の価値の一部として課税すべきである、という考え方に基づいています。

2 無償供与物品(アシスト)の具体的類型と判定基準

実務上、何が加算対象になるのかを整理した以下の比較表は、社内のコンプライアンス点検において非常に有益です。

====================================

関税評価における主要な無償供与物品(アシスト)分類表

========================----------==

分類|具体的な品目例|加算の判断基準

--|----------------|--------------

材料・部分品(イ)|海外工場へ支給したネジ、基板、包装材|製品の一部を構成しているか

工具・金型等(ロ)|プレス用金型、プラスチック射出成形用金型、治具|製品の生産に直接使用されているか

消費材料(ハ)|生産工程で使用される触媒、潤滑油、燃料|製品には残らないが、生産に不可欠か

役務・設計等(ニ)|海外で作成された設計図、デザイン、ソフトウェア|日本国内で作成されたものは加算不要(特例)

========================----------==

ここで特に重要なのが、ニの技術、設計、考案、意匠、工芸です。これらが日本国内で作成されたものであれば加算は不要ですが、本邦以外の国で作成されたものを無償提供した場合は、加算対象となります。グローバルな研究開発体制を持つ企業にとって、この作成場所の特定は事後調査における激しい争点となります。例えば、日本企業の海外支店や海外子会社で作成された設計図を現地の工場に提供した場合、それは加算対象となります。

3 無償供与物品の価格算出と案分計算の実務

加算すべき金額をどのように算出するかも重要な法理です。原則として、輸入者が当該物品を取得するために要した費用、または自ら製作した場合にはその製作に要した費用に基づきます。これには、当該物品を海外の製造者に送り届けるために要した運賃や保険料、現地の関税等も含まれます。算出された総額をどのように個々の輸入製品に割り振るかについては、以下の案分手法が認められています。数量による案分は、金型の総価値を、その金型を使用して製造される予定の全製品数で割り、一個あたりの加算額を算出する方法です。製品の輸入が長期間にわたる場合、管理が複雑になりますが、税額の平準化が図れます。他方、一括加算は、初回の輸入時、または一定期間の輸入時に金型の全価値をまとめて加算する方法です。事務手続きは簡素化されますが、初回輸入時の納税額が多額になるという資金繰り上の留意点があります。実務においては、これらの案分計画を事前に策定し、税務当局に対して論理的に説明できる資料を保持しておくことが不可欠です。

4 税関事後調査において発覚するリスクと多重的なペナルティ

無償供与の加算漏れは、インボイス(仕入書)の数字を眺めているだけでは決して発見できません。そのため、税関は事後調査において輸入者の会計帳簿、特に固定資産台帳や海外送金記録を徹底的に精査し、インボイスに載っていない不自然な資産の動きや、金型製作会社への支払い記録をあぶり出します。

加算漏れが発覚した場合、以下の深刻なペナルティが課されます。

まず、過少申告加算税(関税法第十二条)です。本来の税額と申告税額の差額に対し、原則として10%(一定額超は15%)が課されます。次に延滞税です。輸入許可の翌日から納付の日までの期間に応じた利息相当分が課されます。

さらに、時効(更正の期間制限)により、通常の過少申告であれば過去三年前まで遡及されますが、意図的な隠蔽や不正とみなされた場合には過去五年に延長され、重加算税(35%から40%)が賦課されることになります。一企業にとって、数年分の累積額は財務基盤を揺るがすほどの打撃となり得ます。

5 加算漏れを未然に防ぐための社内輸入管理体制(ICP)の構築

インボイスに記載がないから申告不要という思い込みを排除するためには、組織的な管理体制が不可欠です。

第一に、部門間の情報共有の徹底です。生産管理部門や調達部門が、海外工場へ金型を発送した、あるいは材料を無償支給したという情報を、即座に通関担当部署や経理部門へ共有するワークフローを構築してください。

第二に、固定資産管理と通関申告の紐付けです。固定資産台帳に計上された海外供与資産が、実際に輸入申告の際に加算されているかを定期的に照合する内部監査を実施してください。

第三に、証拠書類の永続的な保管です。案分の基礎となった生産予定数の根拠資料や、金型の取得原価を示す契約書等を、輸入許可の日から七年間(関税法第九十四条)確実に保存しておく必要があります。これらの自浄作用が機能しているかどうかが、税関調査における企業の誠実性の評価を左右いたします。

6 税関の事前教示制度による法的な安全性の確保

加算すべき金額の算定方法や、複雑な役務提供がニのニに該当するかどうかの判断に迷う場合は、税関の事前教示制度を活用すべきです。これは、特定の取引について事前に税関へ照会し、書面による回答を得る仕組みです。書面による回答を得ていれば、その回答に従って申告を行う限り、将来の事後調査において見解の相違による加算税を課されるリスクをゼロにすることができます。特に、一括加算の承認や、特殊な案分計算の妥当性について、あらかじめ当局の承諾を得ておくことは、グローバルビジネスを安定させる上で極めて有効な戦略となります。口頭での相談ではなく、事実上の拘束力を持つ書面回答(有効期間三年間)を取得することの価値は計り知れません。

7 専門家(弁護士・通関士)による高度な法的サポートの重要性

関税評価は、法的な解釈と会計的な数値算出が高度に融合した領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に丸投げの状態でこれらを完璧にこなすことには限界があります。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を強力に守ります。具体的な支援内容としては、貴社の取引スキームにおける加算要素の網羅的な洗い出しと法的判定、税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い、不当な指摘に対する再調査の請求や審査請求の代理、さらには、グローバルな製造委託契約における関税評価を最適化した契約条項の策定などが挙げられます。弁護士でありながら通関現場のロジックを熟知しているからこそ、単なる法令の解釈に留まらず、当局が重視する証拠の急所を見抜き、最も効果的な一手を打つことが可能です。

8 まとめ

本日は、輸入申告価格を巡る最大の落とし穴の一つである無償供与物品(アシスト)の加算処理について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から関税定率法第四条の原則を理解し、金型の価値を適切に案分して申告していれば、数千万円の追徴に怯え、会社の信用を損なうことはありませんでした。企業としては、輸入する貨物の利益や品質のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことは専門家に任せておけば安心だと考えがちです。しかしながら、納税義務者としての最終的な責任は常に輸入者にあります。インボイスに書かれていないから申告不要という考え方を捨て、加算要素を正しく理解し、通関前に申告価格が適正かを検証する体制を構築することが、トラブル回避への第一歩です。正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

原産地証明書の不備でEPA適用の否認

2025-10-18

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入コスト削減の切り札として期待されながら、僅かな形式上の不備によってその恩恵が無効化され、多額の追徴課税を招く「原産地証明書の不備」について、実務的な観点から説明いたします。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を活用することで、本来かかる関税を少なく、又はゼロにできる、この魅力からFTA制度を利用した輸入は年々増加していますが、その一方で「原産地証明書の不備」により特恵関税が適用されず、追徴課税されてしまったという事例も少なくありません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。形式的な確認を怠ることが、いかに致命的な結果を招くかを理解する重要な一助となります。

【相談者】

神奈川県内でヨーロッパ製高級インテリア用品の輸入販売を行うF社 代表取締役 G氏

【相談内容】

「当社はこの度、日EU・EPAを活用し、イタリアのメーカーから無垢材を使用したダイニングテーブルセットを輸入いたしました。本来であれば関税率は0%となるはずであり、輸出者であるイタリア企業からは『原産地声明(Statement on Origin)』を付したインボイスを受領しておりました。B氏は専門家である通関業者に書類を渡し、適正に免税申告を行っていると確信しておりました。ところが、輸入許可から数か月後、税関から原産地規則に関する照会が届き、精査の結果『原産地声明の定型文言に一部誤りがあり、かつ輸出者の自己申告において必要な承認番号の記載が漏れている』との指摘を受けました。その結果、遡って通常税率(4.8%)が適用されることとなり、不足税額と過少申告加算税、延滞税を合わせて約一千万円の追徴を命じられました。B氏は、製品自体は間違いなくイタリア産であるのに、なぜ書類の些細な書き漏らしだけで免税が否定されるのか、納得がいきません。このような税関の判断を覆す方法はあるのか、また今後同様のミスを防ぐにはどうすればよいのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、自己申告制度を採用する日EU・EPAや日米貿易協定、あるいはTPP11(CPTPP)において非常に多く見受けられます。今回は、形式的な記載ミスでFTA適用が否認された実例をもとに、輸入者が注意すべきポイントを、関税法や各EPAの条文を交えながら解説いたします。

1 特恵関税適用の法的根拠と原産地証明の義務

EPAに基づく特恵税率(低い関税率)を享受するためには、輸入貨物が当該協定の「原産品」であることを法的に証明しなければなりません。この根拠は、関税法および各協定の実施に関する法律(EPA特例法等)にあります。

(関税法第六十八条 証明書の提出等)

第一項 条約の規定により関税の譲許(特恵関税)の便益(中略)を受けようとする者は、当該貨物の原産地を証明する書類を税関長に提出しなければならない。

この「証明する書類」には、第三者機関(日本では商工会議所)が発行する「原産地証明書」と、輸出者や輸入者が自ら作成する「原産地声明(自己申告書)」の二種類が存在します。B氏の事例にある日EU・EPAは、後者の自己申告方式を原則としており、これが実務上の「自由度」と「リスク」を同時に生み出しています。

2 日EU・EPAにおける原産地声明の厳格な定型要件

日EU・EPAにおいては、インボイス等の商業文書に記載する「原産地声明」の文言が、協定附属書に一字一句違わずに定められています。

(日EU・EPA附属書三-D 原産地声明の文言)

「The exporter of the products covered by this document (customs authorisation No ...) declares that, except where otherwise clearly indicated, these products are of ... preferential origin.」

このカッコ内の(customs authorisation No ...)は、欧州の輸出者の「認定輸出者番号」または「登録輸出者(REX)番号」を指します。もしこの番号が抜けていたり、番号自体が有効期限切れであったりする場合、税関はその声明を「法的に無効」と判断いたします。たとえ現物が本物であっても、証拠能力を欠くとみなされるのが国際貿易法の厳しさです。

3 実務上陥りやすい原産地証明の形式的不備の典型例

「悪意がない」場合でも否認の対象となる典型的なミスを以下の比較表に整理いたしました。

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原産地証明書・声明における形式的不備と法的帰結一覧表

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不備の類型|具体的な内容|税関の判断とリスク

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定型文言の脱落|「preferential origin」等の必須語句の欠落|声明の法的有効性を否定、特恵税率の適用不可

署名・日付の不整合|声明の日付がインボイスの日付より古い、または空欄|事後的な作成(バックデート)を疑われ、否認

HSコードの相違|証明書のHSコードと輸入申告時のコードが異なる|「別の商品」に対する証明とみなされ、無効化

原産地基準の誤記|「CTC(関税番号変更基準)」とすべきを「WO(完全生産)」とした|実態との不整合を理由に、原産資格を否認

データ不鮮明|スキャンデータやコピーが潰れて文字が読めない|真正性の確認不能として、原本の提示命令または否認

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特に日EU・EPAでは、声明の日付欄が空欄である場合、インボイスの日付が採用されるという運用がありますが、あまりにも形式を軽視した書類は「輸入者による検証能力の欠如」を印象付け、税関による「直接検証(事後調査)」を誘発する最大の引き金となります。

4 直接検証(Verification)という最大の試練

税関は、原産地証明の内容に疑義がある場合、輸入者に対して「原産地を証明する追加の根拠資料」の提出を求めます。これを検証手続と呼びます。

5 協定別・原産地証明方式の比較と留意点

現在日本が締結している主要な協定は、それぞれ証明方式が異なります。

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主要EPAにおける原産地証明方式比較表

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協定名|主な証明方式|輸入者が特に注意すべき点

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日EU・EPA|輸出者による自己申告|REX番号の有効性と定型文言の完全一致

TPP11|輸出者・輸入者・生産者の自己申告|輸入者自身が原産資格を立証する義務(七年保存)

日米貿易協定|輸入者等による自己申告|米国側の輸出実態とHSコードの整合性

RCEP|第三者証明(移行期間あり)または自己申告|経産省発行の原産地証明書の有効期限

日アセアンEPA|第三者証明(商工会議所発行)|原本の提示、積み替え時の通し運送証明

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6 形式不備が招く多重的な法的リスクとペナルティ

FTA/EPAの適用が否認された場合、「本来の税金を払うだけ」では済みません。

(一)過少申告加算税(関税法第十二条)

本来の税率と特恵税率の差額(不足税額)に対し、原則として10%から15%の加算税が課されます。

(二)重加算税(関税法第十二条の四)

もし、原産地証明書を偽造したり、原産資格がないことを知りながら虚偽の声明を用いたと判断された場合、35%から40%という極めて重いペナルティが課されます。

(三)統計制度への不信と全件検査

一度EPAの不備で指摘を受けた輸入者は、税関のシステムにおいて「原産地管理が不十分な企業」としてフラグが立てられます。その後の輸入取引において、毎回原産地証明書の徹底的な精査と貨物検査が行われるようになり、通関リードタイムの大幅な増大を招きます。

(四)「他法令」との連鎖

原産地の認定は、食品衛生法や家畜伝染病予防法における「輸入禁止地域」の判定にも連動するため、原産地の錯誤はこれらの重大な他法令違反を引き起こす可能性があります。

7 輸入者が構築すべき原産地管理のSOP(標準作業手順)

形式ミスひとつで大きな損失につながるからこそ、輸入者は「受動的に書類を受け取るだけ」の状態を脱却しなければなりません。

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EPA利用時における輸入者用実務チェックリスト

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確認フェーズ|具体的なアクション|法的な重要性

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発注時|輸出者に対し、対象協定の最新の定型文言テンプレートを送付する|形式不備の未然防止(関税法68条)

書類受領時|インボイス上の原産地声明に「番号」「日付」「文言」が揃っているか検算する|申告時における「他法令の証明」の正確性

申告前|輸入申告書のHSコードと証明書上のコードが完全に一致しているか照合する|原産資格の同一性の担保

輸入後|原産資格を疎明する「製造工程図」や「コストデータ」を輸出者から予備的に取り寄せる|事後確認(検証)への即応体制の構築

保管管理|関連書類一式を「輸入許可日の翌日から七年間」社内で保存する|帳簿備付け義務(関税法94条)の履行

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特に、複数ロット・複数商品に共通の証明書(Blanket Declaration)を用いる場合の整合性確認は、事後調査で最も狙われやすいポイントです。期間が一日でも切れていれば、その期間中の全輸入分が追徴対象となります。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、経済連携協定(EPA)の活用における最大の落とし穴である「原産地証明の不備」について解説いたしました。G氏のようなケースであっても、当初から日EU・EPAの定型文言を自ら輸出者に指示し、インボイス受領時に認定輸出者番号の有無を確認する社内フローを確立していれば、一千万円という莫大な追徴を回避し、正当な免税を維持することが可能でした。

企業としては、FTA/EPAによるコスト削減という「実」ばかりを追い求めがちですが、その前提となる「法的な手続きの厳格さ」を軽視してはなりません。通関業者に任せることは有用ですが、彼らは商品の「原産資格の実態」までを調査する権限も義務もありません。最終的な納税者であり、書類の真実性を担保すべき責任者は、輸入者であるあなた自身なのです。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの証明書を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、EPA・FTAの戦略的かつ安全な活用を強力にサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

HSコードの誤認リスクと事前教示の活用

2025-10-13

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務における技術的な最難関事項の一つであり、税額の決定に直結する「HSコード(関税分類)」の選定ミスと、その救済策について説明いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。一見すると些細な分類の相違が、企業の財務にどれほどの衝撃を与えるのかを理解する一助となります。

【相談者】

神奈川県内で最先端のIoTデバイスやウェアラブル端末の輸入卸売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、海外のスタートアップ企業が開発した、心拍数測定機能とGPS機能を備えた多機能型スマートウォッチを一万個輸入いたしました。B氏は、当該製品が健康管理を主目的としていることから、過去の類似事例を参考に、関税率が無税である『運動用具』に近い分類(第95類)を選択して申告を行いました。しかし、輸入許可から一年後に行われた税関の事後調査において、調査官から『本製品は通信機能を備えており、主たる機能は無線通信機器である。したがって、第85類の通信機器に分類すべきである』との指摘を受けました。その結果、関税率自体は無税で変わらなかったものの、輸入消費税の計算の基礎となるHSコードが変更されたことで、区分ミスによる過少申告加算税が課されることになりました。また、別の精密部品では関税率が0パーセントから3.9パーセントへ引き上げられ、過去に遡って数千万円の追徴課税を命じられました。B氏は、なぜプロである通関業者も通した申告が後から否定されるのか、また、このような予測不能な事態を事前に防ぐ公的な仕組みはないのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、製品の多機能化が進む現代の貿易において、最も頻繁に発生するトラブルの一つです。「同じ商品なのに、税関から『これは別の分類になる』と指摘され、関税率が数倍に引き上げられた」という話は、決して他人事ではありません。今回は、関税分類の誤りが招く法的リスクと、トラブルを未然に防ぐ「事前教示制度」の活用法について、関税法に基づき解説いたします。

1 HSコード(関税分類)の法的構造と決定プロセス

HSコード(Harmonized Commodity Description and Coding System)は、国際的な商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(HS条約)に基づく分類番号です。

(関税法第六十七条 輸出又は輸入の許可)

貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。

この「必要な事項」の筆頭に挙げられるのがHSコードです。日本では「実行関税率表」に基づき、国際共通の6桁に国内細分を加えた9桁(統計番号を含めるとさらに細かくなる場合があります)で構成されます。この番号により、適用される関税率だけでなく、薬機法や電波法といった「他法令」の該当性もシステム的に管理されています。輸入申告の際には、正確なHSコードを付けて申告しなければなりません。

2 なぜ専門家でもHSコードの分類ミスを犯すのか

分類ミスが起きる背景には、単なる知識不足だけではない、実務上の複雑な要因が絡み合っています。

一 技術的な複雑化と境界線の曖昧さ

B氏の事例のように、一つの製品が複数の機能を持つ(例えば通信機能と測定機能、あるいは玩具の要素と実用品の要素)場合、どの機能が「主たる特性」を形成しているかの判断は極めて困難です。

二 関税率表の解釈に関する通則の難解さ

分類は、関税率表の「注」や「通則」という厳格な法的ルールに従わなければなりませんが、その解釈は専門教育を受けた者でも見解が分かれることがあります。

三 過去の申告実績の盲信

長年同じコードで通っていたとしても、それは「税関が認めた」ことを意味しません。事後調査で初めて精査され、過去数年分が否定されるリスクを常に孕んでいます。

四 情報不足と通関業者への過度な依存

通関業者は、輸入者から提供されたインボイスの品名だけで判断せざるを得ないことが多く、内部の基板構成やソフトウェアの仕様までを把握して分類することは事実上不可能です。

3 関税分類の「通則(分類ルール)」の具体的解説

分類を適正に行うためには、関税率表に付随する「通則」を理解する必要があります。

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関税分類決定のための基本原則(通則1から4)一覧表

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通則の番号|ルールの内容|実務的な適用方法

-----|----------------|------------

通則1|項の規定及び部・類の注に従う|標題は参照用であり、法的な分類は注釈が最優先される

通則2|未完成品や混合物の取り扱い|完成品の実質的な特性を有していれば、完成品として分類する

通則3|二以上の項に属するとみられる物品|(a)最も特殊な限定をしている項(b)主たる特性を与える材料(c)末尾の項の順に適用

通則4|前三則により分類できない物品|当該物品に最も類似する物品が属する項に分類する

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4 事前教示制度(文書による回答)の圧倒的な法的メリット

税関では、輸入申告の前に「この商品はどのHSコードに該当するのか」を公的に確認できる「事前教示制度」を提供しています。これは単なる相談ではなく、関税法上の重みを持つ制度です。

(一)書面回答の拘束力

書面による事前教示を受けた場合、その内容に基づき申告を行えば、原則として輸入許可段階での税関の判断が事実上保証されます(有効期間は発行から3年間)。

(二)過少申告加算税の回避

事前教示の回答に従って申告した結果、後に上位の当局の見解変更によりコードが修正されたとしても、輸入者の責任は問われず、ペナルティとしての加算税は課されないという強力な保護機能があります。

(三)コストと納期の予見可能性

輸入前に正確な税率が確定するため、原価計算が狂うリスクを排除し、税関検査による足止めを最小限に抑えることが可能です。

5 事前教示申請における実務上の準備事項と注意点

事前教示制度を効果的に活用するためには、税関が「それだけで製品を特定できる」レベルの資料を揃える必要があります。

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事前教示(書面回答)申請のための必要書類チェックリスト

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必要書類の項目|具体的な内容と留意点|目的

-------|----------------|----------

製品仕様書|原材料、成分構成、寸法、重量の詳細|材質による分類の特定

回路図・工程図|電子機器の場合、どのように機能するかを示す|機能による分類の特定

カタログ・写真|製品の外観、カラー写真、使用イメージ|用途による分類の特定

製造者の説明書|製造元による製品の主たる目的の記述|「主たる特性」の証明

実物サンプル|実際に税関職員が手に取って確認できるもの|最終的な官能評価と特定

販売用資料|日本国内での広告予定、ターゲット層の説明|市場における位置づけの確認

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6 HSコード分類誤りによる多重的なリスクの分析

分類を誤ることは、単に関税の額が変わるだけの問題ではありません。企業の信頼性と存続に関わる多重的なリスクを招きます。

(一)過少申告加算税と延滞税(関税法第十二条等)

B氏の事例のように、意図的な隠蔽でなくても、税額が不足していれば不足分の10から15パーセントの加算税が課されます。過去5年分の累積は、中小企業にとって致命的な金額となり得ます。

(二)重加算税(関税法第十二条の四)

事実を隠蔽したり仮装したりして意図的に低い税率を適用したとみなされた場合、35パーセントから40パーセントという極めて重い罰則金が課されます。

(三)「他法令」違反の誘発

HSコードによって薬機法等の対象かどうかが自動判定されるため、コードを誤ると必要な許可(確認証)を得ずに輸入してしまう「無許可輸入」という刑事罰の対象に直結します。

(四)物流の停滞と全件検査

一度重大な分類ミスを指摘されると、税関のシステムで「リスク要注意先」としてマークされます。その後の全輸入貨物について徹底的な開梱検査が行われるようになり、納期遅延が常態化します。

7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

HSコードの分類判断は、単なる事務作業ではなく、関税法という高度に専門的な法律に基づく「法的鑑定」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、限界とリスクがあります。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、法務と実務の両面から、貴社の関税分類を完璧に防御いたします。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 製品の仕様に基づいた、法的根拠(通則・注)を伴う精緻なHSコードの判定

二 税関に対する「事前教示(書面回答)」の申請代行、および提出資料のリーガルチェック

三 税関から分類について疑義を呈された際の、専門的知識に基づいた意見書(反論書)の作成

四 事後調査において分類ミスを指摘された場合の、追徴額軽減に向けた交渉および不服申立て

五 社内HSコード管理台帳(関税マスター)の構築支援、およびコンプライアンス研修

六 他法令(薬機法、食品衛生法、電波法等)とのクロスチェックによる一貫した輸入管理

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で分類の妥当性を審査し、どのような証拠を突き付けられるのを最も嫌がるかという「急所」を見抜き、最も効果的な一手を打つことができます。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスの財務基盤を揺るがしかねないHSコードの分類リスクと、その最強の防衛策である事前教示制度について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から事前教示制度を活用し、税関から「第85類に分類すべきである」という回答を文書で得ていれば、あるいはその回答を基に原価計算をやり直していれば、数千万円の追徴や事後調査での混乱に怯える必要はありませんでした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万全な通関体制の構築を強力にサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入販売におけるPL法のリスク管理

2025-09-13

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、海外から商品を仕入れて国内で販売する際に、多くの事業者が「自分は作っていないから関係ない」と誤解しがちな、製造物責任法(以下、PL法といいます。)の重大なリスクについて詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。製造工程に関与していない輸入者が、なぜ莫大な賠償責任を負わされるのか、その法的な厳しさを理解する重要な一場面となるかと思います。

【相談者】

神奈川県内で最新のスマートフォン関連機器やモバイルバッテリーの輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、アジアのメーカーが開発した、大容量かつ安価なモバイルバッテリーを一万個仕入れ、自社のECサイトや家電量販店を通じて販売いたしました。当該製品は現地では大手ショップでも扱われており、B氏はメーカーからの安全検査報告書を確認した上で輸入を決定しました。ところが、販売開始から三ヶ月後、購入者の一人から『充電中にバッテリーが異常発熱して発火し、自宅の絨毯と家具が焼けた。さらに消火の際に手に大火傷を負った』という連絡がありました。被害者は当社に対し、治療費や家財の損害、慰謝料を含め五百万円の賠償を求めています。B氏は『当社は輸入しただけで、設計ミスや製造ミスは海外メーカーの責任だ。メーカーに直接請求してほしい』と回答しましたが、被害者の弁護士からは『PL法に基づき、輸入者がすべての責任を負う義務がある』と反論されています。B氏は、製造に関わっていない自社がなぜこれほど重い法的責任を負わなければならないのか、また、海外メーカーにこの損害を転嫁することはできるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入ビジネスにおいて「知らなかった」では済まされない最も致命的な法的トラブルの一つです。海外から仕入れた商品を日本国内で販売する場合、たとえ製造していなくても、輸入者が製造物責任を問われる可能性があります。製造物責任法により、製造者だけでなく、輸入者や特定の表示を行った者にも法的責任が及ぶため、細心の注意が必要です。本日は、輸入販売におけるPL法のリスクと、それに対する予防策について、法令の条文に基づき詳細に解説いたします。

1 製造物責任法(PL法)の基本理念と無過失責任の原則

まず、PL法がどのような法律であり、なぜ輸入者にとって過酷な内容となっているのかを正しく理解する必要があります。PL法は、製品の欠陥により消費者が被害を受けた際、被害者を迅速に救済することを目的としています。

(製造物責任法第一条 目的)

この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もつて国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(製造物責任法第三条 製造物責任)

製造業者等は、その引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

通常の民法上の不法行為責任(民法第七百九条)では、被害者が「加害者に過失(落ち度)があったこと」を証明しなければなりませんが、PL法においては、輸入者に過失がなくても「製品に欠陥があったこと」さえ証明されれば、賠償責任が発生いたします。これを「無過失責任原則」と呼びます。B氏の事例において、たとえA社が検品を尽くしていたとしても、バッテリー自体に潜在的な欠陥があれば、責任を免れることはできません。

2 なぜ「輸入者」が「製造業者等」とみなされるのか

PL法において、損害賠償の主体となる「製造業者等」の定義には、驚くべきことに輸入者が明確に含まれています。

(製造物責任法第二条第三項 製造業者等)

この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。

一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者

二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号若しくは商標(以下「氏名等」という。)を表示した者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等を表示した者

三 (中略)当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る事業の実態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等を表示した者

なぜ、作っていない輸入者がこれほど重い責任を負わされるのでしょうか。その法理的な背景には以下の三つの理由があります。

(一)被害者救済の実効性。海外の製造者に対して、日本の消費者が直接訴訟を起こすことは、言語の壁や裁判管轄、執行の困難さから見て現実的ではありません。そこで、商品を国内に持ち込んだ「輸入者」を責任の窓口とすることで、被害者が容易に救済を受けられるようにしています。

(二)利益の帰属とリスクの負担。海外製品を輸入して利益を得ている者は、その製品から生じるリスクも併せて負担すべきであるという考え方(報償責任の原則)に基づいています。

(三)ゲートキーパーとしての役割。輸入者は、どのような製品を国内に流通させるかを選択できる立場にあります。法は輸入者に対し、安全な製品のみを選択して輸入するという「門番」としての役割を期待しているのです。

3 PL法における「欠陥」の三つのカテゴリー

輸入者が賠償責任を負うかどうかの分かれ目は、製品に「欠陥」があったか否かです。PL法上の欠陥は、単なる「故障」よりも広い概念であり、以下の三種類に分類されます。

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PL法における「欠陥」の定義と具体的類型一覧表

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欠陥の類型|法的な意味合い|輸入ビジネスにおける具体例

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設計上の欠陥|製品の設計段階で安全性への配慮が不足しており、事故を招く構造になっている場合|モバイルバッテリーの保護回路の設計ミス、強度が不足したベビーカーの構造

製造上の欠陥|設計は正しいが、製造工程でのミスにより、一部の個体において品質にバラツキが生じた場合|配線のハンダ付け不良によるショート、異物の混入、ネジの締め忘れ

指示・警告上の欠陥|製品自体に不備はないが、適切な使用方法や危険性に関する情報提供が不足している場合|日本語での注意書きがない、警告ラベルが剥がれやすい、誤飲の危険性を明記していない

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特に輸入者が注意すべきは「指示・警告上の欠陥」です。海外メーカーの取扱説明書をそのまま翻訳しただけでは、日本の法基準や安全意識に適合しない場合があります。警告不足を理由に、輸入者が一億円を超える賠償を命じられた判例も存在します。

4 想定されるPLリスクの具体的ケーススタディ

輸入販売におけるPL事故は、あらゆる商材で発生する可能性があります。代表的なリスクを整理いたしました。

一 電子機器・家電製品

リチウムイオン電池の発火、プラグの過熱による火災。これらは建物への延焼など、損害が数千万円から数億円に達するリスクを孕んでいます。

二 化粧品・サプリメント・健康食品

成分による重篤なアレルギー反応や肌荒れ。長期的な健康被害が生じた場合、将来にわたる逸失利益を含めた莫大な賠償が必要となります。

三 玩具・子供用品

部品の脱落による誤飲窒息、鋭利な角による負傷。子供に関する事故は、社会的批判(レピュテーションリスク)も極めて強く、企業の存続に直結いたします。

四 アパレル・繊維製品

染料による皮膚炎、装飾品の脱落、または難燃性の欠如による火傷。

これらすべてのケースにおいて、被害者は「海外メーカー」ではなく「あなたの会社(輸入者)」を訴えてくるのです。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

5 PL訴訟・クレーム発生時の実務的対応フロー

万が一、自社が輸入した製品で事故が発生した場合、迅速かつ的確な初動対応が、被害の拡大と法的責任の重さを左右します。

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PL事故発生時の緊急対応フローチャート

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ステップ一:事実関係の即時確認

被害の程度、発生日時、製品のシリアル番号、事故時の使用状況を詳細に聞き取る

ステップ二:証拠品の確保

事故を起こした現物を回収する。写真は多角的に撮影し、勝手に解体や廃棄をしない

ステップ三:法的アドバイスの受領

弁護士に相談し、PL法上の欠陥に該当するか、免責事由があるかを法的に鑑定する

ステップ四:関係当局への報告

重大事故の場合、消費生活用製品安全法に基づき、消費者庁等への報告義務が生じる

ステップ五:被害者への誠実な対応

謝罪と事実調査の進捗報告を行う。この段階での「責任の断定」は慎重に行う

ステップ六:リコール(回収)の検討

同種製品による再発の恐れがある場合、速やかにリコールを告知し被害拡大を防ぐ

ステップ七:保険会社への通知

加入しているPL保険の担当者に連絡し、査定と賠償手続きの準備を開始する

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6 海外メーカーとの契約によるリスク移転の要諦

輸入者がPL法上の責任を免れることは困難ですが、支払った賠償金を海外メーカーに肩代わりさせる、あるいは後から請求する(求償)ための法的基盤を築くことは可能です。

(一)PL補償条項(Indemnification Clause)の導入

売買契約書において、「製品の欠陥に起因して輸入者が第三者に賠償を行った場合、売主(海外メーカー)は、弁護士費用を含めたすべての損害を輸入者に補償する」旨を明記します。

(二)製造者による保険加入の義務付け

海外メーカー自身に、世界的に有効な「海外PL保険」への加入を義務付け、その証券の写しを提出させることも有効なリスクヘッジです。

(三)表明保証(Representations and Warranties)

製品が日本の安全規格(PSE、SC、STマーク等)に完全に適合していることを契約上で保証させます。

(四)協力義務

万が一訴訟になった際、海外メーカーが技術的なデータや図面を迅速に提供し、証言に協力することを義務付けます。

7 輸入者が構築すべき多重的な防衛体制(ICP)

契約書だけでは不十分です。実務面において以下の四つの柱を確立し、社内輸入管理体制を強化することが不可欠です。

一 厳格な品質検査(インスペクション)

海外工場での出荷前検査だけでなく、日本到着時にも抜き取り検査を実施し、その記録を永続的に保存してください。これは、後に「欠陥は輸入時には存在しなかった(消費者の誤使用である)」と反論するための重要な証拠となります。

二 日本語の警告表示と取扱説明書の最適化

翻訳会社任せにせず、日本の法規制に詳しい専門家のチェックを受け、「警告マーク」や「禁止事項」が視覚的に分かりやすく表示されているかを確認してください。

三 PL保険(生産物賠償責任保険)への加入

どれだけ対策をしても事故はゼロにはなりません。中小企業であっても、高額な賠償に対応できるPL保険への加入は、輸入ビジネスを継続するための「必要経費」と捉えるべきです。

四 専門家との顧問契約

PL法だけでなく、関税法や他法令に精通した弁護士を味方につけておくことで、トラブルの芽を未然に摘み取ることが可能となります。当事務所は、代表弁護士が輸出入の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を守ります。

8 まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入販売における最大の法的懸念事項である製造物責任(PL法)について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初からPL法のリスクを認識し、海外メーカーとの契約で強力な補償条項を設け、かつ適切な警告表示とPL保険の準備を整えていれば、五百万円の賠償という事態が会社を揺るがす危機になることはありませんでした。

企業としては、輸入する貨物の利益や人気のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面や責任面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ること、そして何より日本の消費者の安全を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万が一のPL事故における法的防衛をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

商品の模倣品・偽物を輸入してしまった場合

2025-09-03

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入ビジネスにおいて最も深刻な法的トラブルの一つであり、企業の存続を左右しかねない「模倣品(コピー品・偽物)の輸入」について、その法的構造から税関での認定手続、そして権利者との交渉に至るまでを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。仕入先の言葉を鵜呑みにすることの危うさと、輸入者に課される重い責任を理解する重要な一助となります。

【相談者】

東京都内で海外製雑貨およびアパレルのオンラインショップを運営するA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、東南アジアの卸売サイトを通じて、欧州の高級ブランドのロゴに酷似したデザインがあしらわれたバッグやアクセサリーを約三百点仕入れました。仕入先の業者は『これは当該ブランドの工場から直接仕入れたアウトレット品であり、並行輸入品として日本で販売しても何ら問題ない』と説明しており、価格も通常よりは安価でしたが、極端に不自然なほどではありませんでした。B氏はその言葉を信じて送金を済ませ、輸入申告を行いましたが、税関から『知的財産権侵害物品に該当する疑いがあるため、認定手続を開始した』との通知が届きました。さらに、日本国内のブランド権利者の代理人弁護士からも、商標権侵害を理由とする損害賠償請求と謝罪広告の掲載を求める警告書が送られてきました。B氏は、本物だと信じていたのに、なぜ輸入者である自分が犯罪者扱いを受け、多額の賠償金を支払わなければならないのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、近年の越境電子商取引(EC)の普及に伴い、規模の大小を問わず多くの事業者が直面している現実です。海外から商品を輸入したところ、実はそれが模倣品だったというトラブルは、輸入ビジネスにおける重大なリスクのひとつです。知らずに輸入したとしても、法的責任やブランド権利者からの差止・損害賠償請求に発展する可能性があるため、迅速かつ慎重な対応が求められます。本日は、模倣品を輸入してしまった場合の法的整理と、実務的な対処法について、商標法や関税法の条文に沿って解説いたします。

1 知的財産権侵害物品の法的定義と商標権の効力

模倣品とは、商標権、意匠権、著作権、特許権などの知的財産権を侵害する商品を指します。輸入実務で最も問題となるのは「商標権」の侵害です。

(商標法第二条第三項)

この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。

一 商品又は商品の包装に標章を付する行為

二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

(商標法第二十五条)

商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。

B氏の事例のように、ブランドロゴが付された商品を「輸入」する行為そのものが、商標法上の「使用」に該当し、権利者の許諾がない限り、原則として商標権侵害を構成いたします。たとえ「アウトレット品」や「工場直送」という説明があったとしても、それが客観的な事実に基づき、かつ権利者の管理下で生産されたものでない限り、法的には模倣品として扱われます。

2 関税法に基づく「輸入してはならない貨物」と没収のリスク

税関は、水際で知的財産権を保護するため、侵害物品の輸入を厳格に禁止しています。

(関税法第六十九条の十一 輸入してはならない貨物)

第一項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。(中略)

九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

税関において侵害の疑いがある貨物が発見された場合、直ちに「認定手続」が開始されます。これは、その貨物が本当に権利を侵害しているかどうかを税関長が判断する手続です。

(関税法第六十九条の十二 認定手続)

第一項 税関長は、輸入申告された貨物(中略)のうちに知的財産権を侵害する物品に該当する疑いがあるものがあるときは、当該貨物について、当該物品に該当するかどうかを認定するための手続を執らなければならない。

この手続が開始されると、輸入者には「認定手続開始通知書」が届き、一定期間内に意見書や証拠資料を提出する機会が与えられます。しかし、正規品であることを証明する客観的な資料(権利者発行のライセンス証書等)を提出できない場合、貨物は「侵害物品」として認定され、没収および廃棄処分となります。この際、支払った商品代金はもちろん、関税や消費税も返還されないため、輸入者は全額の損失を被ることになります。

3 「知らなかった(善意)」が通用しない法的理由と過失の推定

輸入者が「偽物とは思わなかった」と主張しても、民事上の責任を免れることは極めて困難です。民法上の不法行為責任(第七百九条)において、知的財産権の侵害については、商売として輸入を行っている以上、極めて高い注意義務が課されるためです。

(民法第七百九条 不法行為による損害賠償)

故意又は過失によつて他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

実務上の判例では、著名なブランド品を扱う事業者は、その商品が真正品であることを確認する高度な注意義務を負うとされています。したがって、異常に安価な価格、信頼性の低い仕入ルート、不自然な決済方法などの事情があるにもかかわらず、十分な調査をせずに輸入した場合には「過失」があったと断定されます。また、刑事罰についても、未必の故意(偽物かもしれないが、それでも構わないという認識)があれば成立する可能性があります。

(商標法第七十八条 侵害の罪)

商標権又は専用使用権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

4 真正な「並行輸入」と認められるための三要件

B氏が主張しようとした「並行輸入」は、特定の条件下でのみ適法と認められます。最高裁判所の判例(フレッドペリー事件等)によれば、以下の三つの要件(並行輸入の三要件)をすべて満たす必要があります。

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真正商品の並行輸入適法性判定基準一覧表

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要件名|具体的な判断内容|実務上の留意点

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第一要件:適法な商標表示|海外の商標権者またはその許諾を受けた者により、適法に商標が付されたものであること|偽造品はこの時点で除外される

第二要件:同一権原性|海外の商標権者と日本の商標権者が同一、または密接な関係にあり、同一の出所を表示していること|日本国内に独自の商標権者がいる場合は侵害となる

第三要件:品質の同一性|日本の商標権者が管理する商品と、並行輸入品の品質に実質的な差異がないこと|仕様変更や保存状態による品質劣化がある場合は侵害の恐れあり

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仕入先が「本物だ」と言っていても、この三要件を客観的に証明するエビデンス(仕入ルートの証明書等)がない限り、税関や裁判所は並行輸入としての適法性を認めません。

5 模倣品疑いでの認定手続開始時における実務的対応フロー

税関から通知が届いた際、輸入者が取るべき行動をチャート形式で整理いたしました。

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認定手続開始後の初動対応フローチャート

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ステップ一:通知内容の精査と期限の確認

通知書に記載された権利者名、侵害の理由、意見書提出期限(通常十開庁日)を確認する

ステップ二:仕入先への事実確認と資料請求

仕入先に対し、侵害の指摘があった旨を伝え、真正品である証明(インボイス、ライセンス等)を求める

ステップ三:権利者代理人との接触

通知書に記載された権利者の窓口(弁護士等)へ連絡し、侵害の根拠を確認する

ステップ四:意見書の作成と提出

真正品である主張をする場合は証拠を添えて提出。認められない場合は「自発的処理」を検討する

ステップ五:自発的処理(廃棄・積み戻し)の選択

争うことが困難な場合、税関の承認を得て貨物を廃棄、または仕入先へ返送する手続きをとる

ステップ六:民事上の和解交渉

権利者からの警告書に対し、誠実な回答を行い、賠償額や在庫処理に関する和解を目指す

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6 不適切な管理に伴う二次的被害とレピュテーションリスク

模倣品の輸入を放置したり、安易な嘘で言い逃れをしようとしたりすることは、企業の未来を破壊する行為です。

(一)全件検査の対象(通関のブラックリスト化)

一度でも知的財産権侵害物品の輸入を認定されると、税関のシステムにおいて「ハイリスク輸入者」として登録されます。その後のすべての輸入貨物について徹底的な開梱検査が行われるようになり、通関スピードの低下と保管料の増大を招きます。

(二)販売プラットフォームからの追放

アマゾンや楽天市場などの大手プラットフォームでは、模倣品の疑いがあるだけでアカウントが永久停止されることがあり、主要な販路を失うことになります。

(三)損害賠償額の膨張

侵害を知りながら販売を継続した場合、商標法第三十八条に基づき、利益額のすべてを損害額とみなされるなど、賠償額が数千万円単位に膨れ上がるリスクがあります。

7 模倣品輸入を未然に防ぐためのリスク管理

トラブルが発生した後の対応には限界があります。輸入者としての責任を問われないため、以下の事前策を徹底することが極めて重要です。

一 仕入先のデューデリジェンス

取引相手が実在する企業か、信頼できる実績があるか、過去にトラブルを起こしていないかを徹底的に調査します。

二 売買契約書における「表明保証」条項

契約書において、売主が「本製品は第三者の知的財産権を一切侵害していないこと」を保証し、万が一侵害が発覚した場合には、売主がすべての賠償責任と返品費用を負う旨を明記させます。

三 サンプルの事前鑑定

大量発注の前にサンプルを輸入し、日本国内の鑑定機関や弁護士を通じて権利関係のチェックを行います。

四 税関の「輸入差止申立」情報の確認

税関のウェブサイトで、どのブランドがどのような理由で差止申立を行っているかを随時確認し、リスクの高い品目を把握しておきます。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入ビジネスの死命を制する「模倣品トラブル」の法的リスクとその対応策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から並行輸入の適法性を精査し、仕入先に対して厳格なエビデンスを求め、かつ権利侵害のリスクを事前に弁護士へ相談していれば、全財産を失うような事態は防ぐことが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の言葉のみを信じるのではなく、自らが「輸入の主体」として、その貨物の法的な正当性を証明する義務があることを決して忘れてはなりません。不適切な商品を排除し、適正な通関を実現することは、一企業の利益を守るだけでなく、日本の市場秩序と消費者の安全を守るという、国際貿易に携わる者としての誇りある使命です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、万が一の知財トラブルにおける法的防衛をサポートし続けます。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

海外メーカーと輸入業者間の契約トラブル

2025-07-15

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、海外メーカーとの直接取引において、多くの輸入事業者が直面する契約上の紛争とその解決策について、国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)や国際私法の観点から詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。国際取引の特殊性と、事前の契約締結がいかに重要であるかを理解する一助となります。

【相談者】

神奈川県内でスマートフォン周辺機器およびガジェットの輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、中国の電子機器メーカーから、最新型のワイヤレスイヤホン二千個を仕入れる契約をメールベースで締結いたしました。事前のサンプル確認では品質に満足していましたが、実際に届いた製品を確認したところ、外装の材質が指定したものより安価なプラスチックに変更されており、さらに全体の二割に初期不良が見られました。B氏は直ちにメーカーへ交換と、納期遅延に伴う損害の賠償を求めましたが、相手方は『原材料が高騰したための仕様変更であり、業界の許容範囲内である。交換には応じるが、返送費用は日本側が負担せよ』と主張し、平行線を辿っています。正式な契約書は作成しておらず、やり取りはすべてチャットアプリとメールのみです。B氏は、どこの国の法律が適用されるのか、また、日本で訴訟を起こすことができるのかについて、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入ビジネスの現場において極めて一般的です。海外メーカーと取引を開始したものの、「納期が守られない」、「商品が仕様と違う」、「代金を払ったのに発送されない」といったトラブルに悩まされる輸入事業者は少なくありません。こうした契約トラブルの多くは、契約書が存在しない、もしくは不十分な内容のまま取引を開始してしまったことに原因があります。本日は、輸入取引における海外メーカーとの契約トラブルと、トラブルを回避・解決するためのポイントを、法令に基づき解説いたします。

1 典型的な契約トラブルのパターンと法的リスク

海外取引において発生するトラブルは、国内取引以上に複雑化する傾向があります。主な類型は以下の通りです。

(一)納期遅延

予定納期より数週間、ひどいときには数か月遅れて商品が届くケースです。季節商品やイベント関連商品の場合、遅延はそのまま販売機会の完全な喪失を意味します。

(二)仕様不一致(契約不適合)

B氏の事例のように、注文した仕様と異なる素材、サイズ、パッケージ、あるいは性能の製品が納入されるケースです。

(三)数量不足および破損

インボイス上の数量と実物が一致しない、あるいは輸送中の梱包不備により不良品が混入しているケースです。

(四)代金支払い後の音信不通(詐欺的行為)

前払いを済ませた途端に発送連絡がないまま連絡不能になる、いわゆる「ゴースト業者」による被害も後を絶ちません。

これらはいずれも、事前に詳細な「売買契約書(Sales Agreement)」を作成していれば、責任の所在を明確にし、解決を早めることができた事案です。

2 国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の適用

日本と中国、あるいは多くの欧米諸国との取引においては、特段の合意がない限り、国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約、以下CISGといいます。)が適用されます。

(CISG第三十五条 物品の適合性)

1 売主は、契約に定める数量、品質及び種類に適合し、かつ、契約に定める方法で容器に入れられ又は包装された物品を引き渡さなければならない。

2 (中略)物品は、次の要件を満たさない限り、契約に適合するものとはみなされない。

(a)当該物品が、通常同一の説明を有する物品が使用される目的に適していること。

(b)当該物品が、契約の締結の時に明示的又は黙示的に売主に知らされた特定の目的に適していること。(後略)

B氏の事例では、メールでのやり取りが「契約の内容」を構成するため、この第三十五条に基づき、仕様変更が契約不適合であることを主張できます。しかし、具体的な許容範囲(トレランス)を定めていない場合、相手方に「許容範囲内である」と反論される余地を与えてしまいます。

3 口頭・メールベースの合意の限界と証拠能力

日本では、「相手が信頼できる」「長年の付き合いがある」といった理由で、契約書なしでの取引が続けられることも少なくありません。しかし、海外メーカーとの取引では法的文化や商習慣が異なり、口頭合意やメールのやり取りだけでは証拠として不十分とされる場合があります。

(一)言語の壁と解釈の相違

英語や現地の言葉でのやり取りは、微妙なニュアンスの違いが大きな誤解を生みます。契約書がない場合、裁判所や仲裁機関はその「真意」を確定するために膨大な時間を要します。

(二)パロール・エビデンス(口頭証拠排除原則)の存在

英米法圏のメーカーとの取引において、もし簡易的な契約書を作成していた場合、その書面に記載されていない「事前のメールでの約束」は証拠として認められないという原則が適用されるリスクがあります。

(三)商慣習の違い

日本では「誠実に協議して解決する」という条項が好まれますが、国際取引では「何が義務で、違反したら何円払うか」を明文化することが、解決への最短距離となります。

4 準拠法と裁判管轄の決定的な重要性

紛争が発生した際、「どこの国の法律で(準拠法)」、「どこの裁判所で(裁判管轄)」争うかが、解決の成否を分けます。これらが未定の場合、法の適用に関する通則法(国際私法)に基づき決定されます。

(法の適用に関する通則法第七条 当事者による準拠法の選択)

法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の時に選択した地の法による。

(同法第八条 当事者による準拠法の選択がない場合)

前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の時に当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

B氏の事例のように、準拠法を定めていない場合、売主(中国メーカー)の本拠地がある中国法が適用される可能性が高くなります。日本の法律であれば輸入者に有利な解釈ができる場面でも、相手国の法律が適用されれば、全く異なる結論が導き出される恐れがあります。

裁判管轄についても同様です。事前に「日本の裁判所(例えば横浜地方裁判所)」を専属的合意管轄裁判所として定めておかない限り、相手国の裁判所で、現地語を使い、現地の弁護士を雇って訴訟を行わなければならなくなり、事実上の泣き寝入りを強いられることになります。

5 輸入契約における必須条項とリスクヘッジ一覧表

トラブルを未然に防ぐために、契約書に盛り込むべき主要条項を整理いたしました。

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国際売買契約書(英文/和文)必須チェック項目一覧

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条項名|具体的な記載内容|法的な役割

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仕様(Specifications)|図面、材質、許容誤差を別紙で特定する|契約不適合(CISG35条)の立証

検査(Inspection)|納入後何日以内に検査し、通知するか定める|クレーム提起期間の限定(商法585条関連)

危険負担(Incoterms)|FOB、CIF等の条件を明記する|破損時の責任移転時期の確定

損害賠償(Damages)|遅延損害金やリコール費用の負担を定める|実損の確実な回収

不可抗力(Force Majeure)|天災や物流混乱時の免責範囲を定める|予期せぬ履行不能への備え

準拠法(Governing Law)|「日本法とする」旨を明記する|解釈基準の統一

紛争解決(Arbitration)|裁判または国際仲裁の場所を指定する|訴訟コストと手続の予測可能性

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6 不適切な管理が招くビジネス上の損害

契約トラブルは、単なる商品代金の損失に留まらず、企業の存続に関わる二次的被害を引き起こします。

(一)社会的信用の失墜

仕様の異なる不完全な製品を顧客に届けてしまった場合、長年築き上げたブランドイメージは一瞬で崩壊いたします。

(二)法規制違反への連鎖

仕様変更により、本来必要だった食品衛生法や電波法(技適)の基準を満たさなくなっていた場合、輸入者は行政処分の対象となります。

(三)資金繰りの悪化

前払金を持ち逃げされたり、販売不能な在庫を抱えたりすることで、特に中小企業にとっては致命的なキャッシュフローの停滞を招きます。

7 トラブル発生時の実務的対応ステップ

万が一、トラブルが発生した際には、感情的な対立を避け、以下の法的手続きを見据えた対応が必要です。

一 事実関係の客観的記録

不備のある製品の写真、動画、到着時の検品レポートを即座に作成します。

二 書面による通知(Notice of Defect)

CISG第三十九条に基づき、相当な期間内に不適合の内容を通知しなければ、権利を失う恐れがあります。

(CISG第三十九条)

1 買主は、物品の不適合を発見し、又は発見すべきであった後相当な期間内に、その不適合の性質を特定した通知を売主に送付しない場合には、物品の不適合を援用する権利を失う。

三 弁護士による英文警告書(Letter of Demand)の送付。当事者間の交渉で拉致が明かない場合、日本の弁護士名義で法的な根拠を示した文書を送付することで、相手方の態度を軟化させ、示談を引き出せるケースが多々あります。

四 国際仲裁の申し立て。相手国の裁判所を避けるため、日本商事仲裁協会(JCAA)等での仲裁手続きを活用します。仲裁判断は、ニューヨーク条約に基づき、海外でも強制執行が可能です。

8 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

海外メーカーとの契約トラブルは、言語、商習慣、そして国際私法という三重の障壁が存在します。輸入者が独力で解決を試みることは、更なるリスクを呼び込むことになりかねません。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、契約書の作成から紛争解決、さらには税関対応までを一気通貫でサポートいたします。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 リスクを最小化する英文売買契約書の作成およびリーガルチェック。

二 CISG(ウィーン売買条約)に基づいた有利な条件交渉のアドバイス。

三 納品トラブル、品質不良、支払い遅延に対する法的な反論および交渉。

四 不当な契約解除や損害賠償請求に対する防御戦略の策定。

五 国際仲裁や外国訴訟における現地法律事務所との連携・マネジメント。

六 トラブル貨物の通関・再輸出(積戻し)に伴う税関手続きの助言。

弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる契約の解釈に留まらず、輸入された「物」が動かない(税関で止まる)という物理的なリスクに対しても、即効性のある処方箋を提示することができます。

9 まとめ:適正な契約こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、海外メーカーとの取引における契約トラブルの実態と、その法的な防衛策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から詳細な仕様書を契約の一部とし、日本法を準拠法に指定し、かつ不適合時の補償条項を設けていれば、一方的な仕様変更を許さず、速やかな損害の回収が可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意図のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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