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輸出入ビジネスにおけるPL保険の重要性

2021-04-22

0 はじめに:相談事例

海外市場への製品輸出と、海外ブランド製品の輸入販売を並行して行う事業者の方から寄せられた、具体的な相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

静岡県内で自社開発の調理家電の製造販売および、北米製のアウトドア用品の輸入代理店を営む株式会社Jの代表、K氏

【相談事例】

「当社では数年前から、自社製品の電気ケトルを北米市場へ輸出しています。また、現地のキャンプ用品メーカーからテントや薪ストーブを輸入し、国内のECサイトで販売しています。先日、北米の購入者から『電気ケトルの不具合で火傷を負った』として、多額の賠償請求と訴訟を予見させる通知が届きました。さらに国内でも、輸入した薪ストーブの接合部から火漏れがあり、顧客の家屋の一部が焼損したというクレームが発生しています。当社としては、輸出製品については現地の代理店が責任を負うものと考えていましたし、輸入製品については海外メーカーの製造ミスであるため、当社に責任はないと考えていました。しかし、顧問税理士から、輸入者であっても国内法で製造者責任を問われること、また輸出先での訴訟は莫大な費用がかかることを指摘され、愕然としています。PL保険には加入していませんが、経営者としてどのような法的責任を負い、今後どのような対策を講じるべきでしょうか。関連する条文を含めて詳しく教えてください」

K代表のような状況は、グローバルに製品を展開する事業者にとって、いつ起きてもおかしくない重大なリスクです。製品の欠陥によって他人の生命、身体または財産に損害を与えた場合、事業者が負う責任は想像以上に重く、一企業の存続を左右しかねません。本稿では、製造物責任法(以下「PL法」といいます)の規定に基づき、輸出入における事業者の責任と、それを補完するPL保険の実務について詳細に解説いたします。

1 製造物責任法(PL法)の基本原則と条文構成

事業者がまず理解すべきは、PL法における「無過失責任」の原則です。従来の民法における不法行為責任では、被害者が加害者の「過失」を立証する必要がありましたが、PL法では「製品の欠陥」を立証すれば足りるとされています。

(1)製造物責任の発生要件

PL法第3条には、事業者が負うべき責任の根拠が明確に記されています。

製造物責任法第3条(製造物責任)

製造業者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

ここで重要なのは、製品そのものが壊れたことに対する賠償(これは売買契約上の問題となります)ではなく、その製品が原因で「他人(顧客や第三者)」の「生命、身体、財産(家屋や家財など)」に被害が及んだ場合に、この法律が適用されるという点です。

(2)「欠陥」の定義とその分類

何をもって「欠陥」とするかは、同法第2条第2項に規定されています。

製造物責任法第2条第2項(定義)

この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

実務上、欠陥は以下の3つの類型に分類して考えられます。

1.設計上の欠陥

製品の設計段階から安全性を欠いている場合(例:過熱を防ぐ安全装置を設計に組み込まなかった電気ケトル)

2.製造上の欠陥

設計通りに作られず、製造工程で不具合が生じた場合(例:溶接ミスによって燃料が漏れる薪ストーブ)

3.指示・警告上の欠陥

製品の危険性を回避するための適切な情報や警告が表示されていない場合(例:高温になる箇所への警告シールや、正しい使用方法を記した取扱説明書の不足)

K代表のケースでは、電気ケトルの火傷が「設計上の配慮不足」か「取扱説明書の不備」にあたる可能性があり、薪ストーブについては「製造上のミス」が疑われることになります。

2 輸入者が負う「製造者」としての法的責任

多くの事業者が誤解している点として、自社で製造していない輸入製品については、海外のメーカーが全ての責任を負うという考えがあります。しかし、日本のPL法は、輸入者に対して「製造業者」と同じ重い責任を課しています。

(1)輸入者を製造業者とみなす条文

PL法第2条第3項には、責任を負うべき「製造業者等」の範囲が定められています。

この規定により、海外から貨物を輸入して国内で流通させる事業者は、自らその製品を製造していなくても、法的には製造者として被害者に対して直接の賠償責任を負います。海外メーカーに対して求償権を行使することは理論上可能ですが、被害者との関係においては、輸入者が第一義的に責任を負わなければなりません。

(2)輸入者が直面する実務上の困難

海外メーカーが倒産していたり、連絡が取れなかったりする場合、輸入者が全ての賠償額を負担することになります。また、海外製品の安全性基準が日本の技術基準(PSE法等)に適合していても、個別の事案で「安全性を欠いている」と判断されれば、PL法上の責任を免れることはできません。

3 輸出ビジネスにおける国際的なPLリスク

自社製品を海外へ輸出する場合、事業者は日本のPL法だけでなく、輸出先国の法律と訴訟制度に直面することになります。特に北米市場においては、日本とは比較にならないほど高額な賠償リスクが存在します。

(1)アメリカにおける訴訟の特徴と懲罰的損害賠償

北米、特にアメリカ合衆国でのPL訴訟には、主に以下の3つの特徴があります。

1.ディスカバリー(証拠開示)制度

訴訟の際、相手側から社内の膨大な機密書類やメールの提出を求められる制度です。これに対応するだけで、数千万円から数億円の弁護士費用が発生することが珍しくありません。

2.陪審員制度

専門家ではない一般市民が審理に参加するため、被害者感情に流されやすく、高額な賠償評決が出やすい傾向にあります。

3.懲罰的損害賠償

実際の損害を補填するだけでなく、加害者の行為が悪質な場合に、見せしめや抑止のために課される巨額の賠償金です。

(2)輸出PL保険の填補範囲と限界

輸出PL保険は、これらのリスクをカバーするために設計されていますが、万能ではありません。一般的に、以下の費用が保険の対象となります。

・法律上の損害賠償金

・訴訟費用、弁護士報酬

・応急手当などの緊急費用

ただし、前述の「懲罰的損害賠償金」については、多くの標準的な保険契約では免責(支払い対象外)とされている点に注意が必要です。K代表のようなケースでは、北米での訴訟に対応するための弁護士費用だけでも、企業のキャッシュフローを圧迫する可能性が高いと言えます。

4 事業者が直面する具体的なPLリスクとPL保険の補償範囲

製品の欠陥によって事故が発生した場合、事業者は賠償金以外にも多額の出費を強いられます。PL保険がカバーする具体的な範囲を整理しました。

(1)法律上の損害賠償金

事故によって被害者が負った怪我の治療費、休業損害、慰謝料、あるいは損壊した家屋の修理費などが含まれます。輸入業者であるK氏の場合、薪ストーブによる火災で家屋が焼損した際の損害額は、国内PL保険によって補填されることになります。

(2)争訟費用(弁護士費用等)

相手側からの訴訟に応じるための弁護士報酬や、裁判所に納める印紙代、さらには専門家の鑑定費用などが含まれます。特に北米での輸出PLリスクにおいて、この費用が数千万円単位に膨らむことは珍しくありません。

(3)リコール費用(特約の必要性)

製品に欠陥があることが判明し、さらなる事故を防ぐために製品を回収(リコール)する場合の費用です。

・回収のための告知費用(新聞広告等)

・製品の輸送費、廃棄費用

・代替品の送付費用

これらの費用は、通常のPL保険(賠償責任のみ)ではカバーされず、「リコール費用特約」を別途付帯させる必要がある点に注意が必要です。輸入製品に重大な欠陥が見つかった場合、日本全国から回収するコストは輸入業者の経営に致命的な打撃を与えかねません。

5 事業者のためのPLリスク管理・比較対応表

輸入および輸出に携わる事業者が、それぞれの立場でどのような法律に拘束され、どのような保険で備えるべきかをまとめました。

【輸入・輸出におけるPLリスクの比較一覧】

項目|輸入ビジネス(国内販売)|輸出ビジネス(海外販売)

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主な準拠法|日本の製造物責任法(PL法)|輸出先国の法律(例:北米PL法)

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事業者の法的立場|輸入者は「製造業者」とみなす|自社が製造者として責任を負う

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推奨される保険|国内PL保険|輸出PL保険(海外PL保険)

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特有のリスク|海外メーカーへの求償が困難 |北米での巨額の訴訟費用・陪審員

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リコール対応|国内全域の回収義務・費用 |海外現地での回収・廃棄の手間

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弁護士・専門家の選定|日本の弁護士・社労士等|現地の法務に精通した弁護士

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6 事業者がとるべき実務上のリスク回避策

PL保険への加入は必須ですが、それだけでリスクがゼロになるわけではありません。法的な観点から、事業者が日常的に取り組むべき対策を整理します。

(1)海外メーカーとの契約による責任分担の明文化

輸入製品を取り扱う場合、海外メーカーとの独占販売契約や売買契約において、PL事故が発生した際のリスク配分を明確にしておくことが重要です。

・海外メーカーによる補償の確約

・海外メーカー自身のPL保険への加入確認

・情報提供および技術支援の義務化

ただし、日本の被害者との関係ではこれらは内部的な合意に過ぎないため、あくまで「求償のしやすさ」を確保するための手段と捉えてください。

(2)警告表示および取扱説明書のローカライズ

海外の製品をそのまま販売することは、前述した「指示・警告上の欠陥」を招くリスクが極めて高いと言えます。

・現地の言葉を直訳するだけでなく、日本の消費者の使用環境に合わせた警告

・PSEマーク等の法定表示の厳守

・重大な事故が想定される箇所への目立つ警告シールの貼付

(3)輸入記録と品質検査の徹底

万が一訴訟になった際、輸入者が「適切な品質管理を行っていた」ことを証明できる資料が必要です。

・製造元からの検査レポート(Mill Test等)の保管

・国内入荷時の抜き取り検査の実施

・通関書類一式(インボイス、パッキングリスト、輸出入申告書)の保管

特に、通関士の資格を持つ専門家であれば、輸入される製品が法的にどのカテゴリーに属し、どのような安全基準を満たすべきかを正確に判断できます。

7 紛争発生時の対応ステップ

実際に事故が発生し、被害者から賠償請求を受けた場合、事業者は以下のステップで対応を進める必要があります。

【ステップ1:状況の正確な把握】

事故の発生日時、場所、使用状況、被害の程度を詳細に記録します。可能であれば、当該製品を回収し、現状を保存します。

【ステップ2:保険会社への速やかな通知】

PL保険に加入している場合、通知が遅れると保険金が支払われないおそれがあります。「事故の可能性がある」段階で相談することが賢明です。

【ステップ3:専門家(弁護士・通関士)への相談】

特に輸出製品による海外でのトラブルの場合、現地の法制度に精通した弁護士の助言が不可欠です。また、輸入製品の場合は、その製品の通関時の申告内容や法令適合性が争点となるため、通関実務の知識が重要となります。

【ステップ4:対外的な説明と社会的責任の遂行】

リコールの要否を迅速に判断し、必要であれば行政機関への報告を行います。隠蔽工作や不誠実な対応は、損害賠償額を増大させるだけでなく、企業の破滅を招きます。

8 結びに代えて:製品安全を経営の柱に据える

事業者にとって、自社の製品が他人に危害を加えることは最大の悲劇です。しかし、どれほど注意を払っても、製品の不具合や予期せぬ使用による事故を完全に防ぐことは困難です。

PL法第3条が定める製造者責任は、現代社会において事業者が背負うべき重い負担とも言えます。K代表のような事例を繰り返さないためには、法律の条文を深く理解し、それに基づいた適切な保険設計と、日常的な品質管理体制を構築することが不可欠です。

当事務所では、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しており、製品の流通に関わる法的なリスクを川上から川下まで見通したアドバイスを提供しております。

輸入貨物のPL対策に不安を感じられている場合や、海外への輸出にあたっての契約書の見直し、さらには万が一のPL事故発生時の法的対応まで、お気軽にご相談ください。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

貿易保険を活用した海外取引のリスク管理

2021-04-21

0 はじめに:相談事例

海外市場への新規進出を加速させている事業者の方から寄せられた、具体的な相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

愛知県内で産業用機械の製造販売を営む株式会社Gの代表、H氏

「【相談事例】

「当社ではこれまで国内取引を主軸としてきましたが、数年前から東南アジアや中東諸国への輸出を開始しました。先日、長年取引のあった中東の現地の有力な販売代理店から、多額の機械発注を受け、船積みの準備を進めていました。ところが、その国の政情が急激に悪化し、政府による外貨送金規制が突如として導入されました。さらに、現地の取引先も資金繰りが悪化し、倒産の危機にあるとの情報が入りました。このままでは、製造済みの機械を輸出することもできず、すでに輸出した分の代金回収も絶望的です。民間損害保険会社の海上保険には加入していますが、このような政治的混乱や相手方の倒産による損失はカバーされないと言われました。貿易保険というものがあると聞きましたが、具体的にどのようなリスクをカバーし、どのような法的な手続きが必要なのでしょうか。また、当社のケースで今からでもできる対策はあるのでしょうか」

H代表が直面している事態は、海外取引を行う全ての事業者が常に意識すべきリスクです。国際貿易においては、輸送中の事故といった物理的な損害だけでなく、相手国の政情不安や取引先の信用失墜といった経済的なリスクが常に付きまといます。これらのリスクを公的に補完するのが「貿易保険」の役割です。本日は、貿易保険法に基づき、その仕組みと実務上の重要ポイントを解説してまいります。

1 貿易保険の定義と根拠法

貿易保険は、民間の保険会社では引き受けることが困難な、海外取引に伴う特殊なリスクをカバーするための公的な保険制度です。その根拠となるのが、貿易保険法です。

貿易保険法第1条(目的)

この法律は、通常の保険によって救済することが困難な輸出取引、輸入取引その他の対外取引において生ずる危険を補塡する保険の制度を確立し、もつて対外取引の健全な発達を図ることを目的とする。

この条文にある通り、貿易保険は「通常の保険(海上保険や火災保険等)では救済困難なリスク」を対象としています。事業者は、通常の運送保険が「物」の損害を対象とするのに対し、貿易保険は「代金回収」や「輸出不能」という経済的利益を対象とするものであることを理解しなければなりません。

貿易保険業務は、以前は国(経済産業省)が直接行っていましたが、現在は独立行政法人日本貿易保険(NEXI)がその引き受けを担っています。

2 貿易保険がカバーする二大リスク:非常危険と信用危険

貿易保険法および各保険種別の規定において、補償対象となるリスクは大きく「非常危険」と「信用危険」に分類されます。

(1)非常危険(政治的・不可抗力的なリスク)

非常危険とは、輸出入の当事者の責任に帰することができない、相手国の政情や予期せぬ事態によって発生する危険を指します。

関係法令に基づく定義の要約

1.外国における為替取引の制限又は禁止

2.外国における戦争、革命又は内乱による送金不能

3.日本国内または外国における輸出入の禁止または制限

4.外国における戦争等による運送の途絶

H代表の事例にある「送金規制」や「政情悪化による輸出不能」は、まさにこの非常危険に該当します。これらは事業者自身の努力では回避不可能なリスクであり、公的な貿易保険の存在価値が最も発揮される部分と言えます。

(2)信用危険(取引相手に起因するリスク)

信用危険とは、取引相手であるバイヤー(輸入者)側の事情によって発生する危険を指します。

代表的な信用危険の事例

1.バイヤーの破産、会社更生手続きの開始、民事再生手続きの開始

2.バイヤーによる代金支払いの遅延(一定期間以上の延滞)

3.バイヤーによる一方的な契約の破棄(受取拒否等)

信用危険は、相手方の経営状態や誠実性に依存するリスクです。貿易保険では、事前にNEXIが相手方の信用状態を格付けし、その格付けに応じた範囲内で保険金が支払われる仕組みとなっています。

3 貿易保険と民間保険(海上保険)の違い

事業者が混同しやすい「海上保険」と「貿易保険」の違いを整理することは、適正なリスク管理の第一歩です。

海上保険は、貨物が海難事故や火災によって滅失・損傷した場合の「物の損害」を填補します。これに対し、貿易保険は「代金が回収できない」「輸出ができなくなったことによる損失」という「金銭的損害」を填補します。

例えば、船が沈没して貨物が失われた場合は海上保険の対象ですが、貨物は無事に届いたもののバイヤーが倒産して代金が支払われない場合は貿易保険の対象となります。また、戦争が勃発して貨物が積み込めなくなった場合の損失も、貿易保険の非常危険としてカバーされます。

4 事業者のための貿易保険リスク分類表

貿易保険でカバーされるリスクの具体例と、その分類を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、自社のリスクチェックにご活用ください。

5 海外商社名簿と格付け制度の実務

貿易保険を利用するためには、取引相手である海外企業がNEXIの「海外商社名簿」に登録されている必要があります。この名簿には、世界各国の企業の信用状態に基づいた「格付け」が付与されています。

(1)格付けの種類

NEXIの格付けは、A、B、C、D、E、F、G、H、Sなどの符号で表されます。この格付けによって、保険を引き受けることができる金額の上限(引き受け限度額)や、保険料率が決定されます。

(2)海外商社登録の手続き

もし取引を検討している相手が名簿に登録されていない場合、事業者は「海外商社登録申請書」を提出する必要があります。この際、対象企業の決算書や信用調査レポートを添付することが求められます。

【実務上の注意点】

相手方の信用状態が悪すぎる(例えばF格やG格など)場合、非常危険はカバーされても、信用危険(倒産等)による損害は保険の対象外となることがあります。H代表のような事態を防ぐためには、契約締結前の早い段階で、相手方の格付けを確認し、保険が付保可能かどうかを把握しておくことが不可欠と言えます。

6 貿易保険の種類と事業者の選択

事業者の取引形態やニーズに合わせて、様々な保険種別が用意されています。

1.貿易一般保険

最も汎用性の高い保険で、輸出不能や代金回収不能を幅広くカバーします。2年未満の短期取引が主な対象です。

2.輸出代金保険

船舶やプラントなど、支払期間が長期にわたる取引に適した保険です。

3.貿易代金貸付保険

銀行が輸出者に対して融資を行う際、その回収不能リスクをカバーする保険です。

4.中小企業・農林水産業輸出代金保険

中小企業向けに手続きを簡素化し、少額の取引から利用できるように設計された保険です。

中小規模の事業者の場合、商工会議所などを通じて加入できる「包括保険」を利用することで、個別の登録手続きを簡略化し、割安な保険料でリスクヘッジを行うことも可能です。

7 保険金支払いまでの流れと事業者の義務

事故が発生した場合、事業者は速やかに所定の手続きを行う必要があります。

(1)事故発生の通知

貿易保険法および保険約款に基づき、事故が発生したこと、あるいは発生するおそれがあることをNEXIに対して遅滞なく通知しなければなりません。これを「事故通知」と呼びます。

(2)損害の防止軽減義務

保険に加入しているからといって、放置してよいわけではありません。事業者は、損害を最小限に抑えるための努力(催促状の送付、商品の転売、法的手段の検討等)を行う義務があります。これを怠ると、保険金が削減されたり、支払われなかったりする可能性があります。

(3)代位権の行使

NEXIから保険金が支払われた後、代金を回収する権利(債権)はNEXIに移転します。これを「代位」と呼びます。事業者は、保険金受領後もNEXIが行う債権回収の協力を行わなければなりません。

8 弁護士および通関士の視点によるアドバイス

貿易保険は強力な武器ですが、万能ではありません。法的な観点から、事業者が留意すべき実務上のポイントを整理します。

(1)契約書における不可抗力条項との整合性

貿易保険の「非常危険」と、売買契約書上の「不可抗力(Force Majeure)条項」は密接に関係します。契約書で「戦争が発生した場合は無条件で契約解除できる」としていた場合でも、保険金が支払われるための要件を満たしているか、精査が必要です。

(2)立証資料の整備

保険金を請求する際には、適正な輸出が行われたことを証明する輸出許可書や船荷証券(B/L)、相手方との交渉記録などが不可欠です。通関手続きが適正に行われていない場合、保険金の支払いに支障をきたすおそれがあります。

(3)信用調査の定期的な実施

一度格付けを取得しても、相手国の経済状況や企業の経営状態は刻一刻と変化します。定期的に海外商社名簿をチェックし、格付けの変動に注意を払うことが重要です。

9 貿易保険違反と法的なリスク

貿易保険の利用にあたって虚偽の申告を行ったり、重要な事実を隠蔽したりした場合、厳しい制裁が課されます。

また、不適切な輸出実務(外為法違反等)を伴う取引については、そもそも貿易保険の対象外となる点にも注意が必要です。

10 結びに代えて:グローバル競争を勝ち抜くための盾として

海外取引には、国内取引では想像もつかないようなリスクが潜んでいます。しかし、リスクを恐れて足踏みをしていては、グローバル市場での成長は望めません。貿易保険は、事業者が果敢に海外へ打って出るための「最強の盾」となります。

H代表のようなケースでも、事前に貿易保険を付保していれば、送金規制や相手方の倒産による損失の大部分をカバーでき、会社の資金繰りを守ることが可能でした。今からできる対策としては、既存の取引先の格付けを再確認し、今後の契約において保険付保を条件に組み込むなどの体制整備が挙げられます。

当事務所は、代表弁護士が通関士資格を有しており、輸出入の実務から貿易保険を巡る法的トラブルまで、一貫してのサポートが可能です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

通関業者の役割と業務の境界線

2021-04-18

0 はじめに:相談事例

海外との直接取引を開始された事業者の方から寄せられた、具体的な相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

千葉県内で海外ブランドの家具やインテリア雑貨を輸入販売する株式会社Eの代表、F氏

【相談事例】

「当社ではこれまで、物流全般を大手フォワーダーに一任し、通関手続きもその提携先である通関業者にすべて任せてきました。ある時、輸入した貨物の税番(HSコード)の解釈を巡って税関から疑義を呈され、予定していた納期に許可が下りないという事態が発生しました。通関業者からは『税関の指示に従うしかない』と言われましたが、納得がいかず、自社で法的な根拠をもって主張をしたいと考えています。しかし、そもそも通関業者がどこまでの権限をもって代理してくれているのか、万が一不当な処分を受けた場合にどのような対抗措置があるのかが分かりません。通関業者の本来の業務範囲と、彼らが作成する書類の法的な意味、そして我々荷主が直接関与すべき局面について、専門的な視点から整理したいと考えています」

F代表のような状況は、輸入実務に携わる事業者にとって非常に重要な局面です。

通関業者は輸出入のプロフェッショナルですが、彼らの業務には法律で定められた明確な「独占業務」の範囲があり、また一方で荷主自身が責任を負わなければならない領域も存在します。本稿では、通関業法および関税法に基づき、通関業者の業務内容を詳細に解説してまいります。

1 通関業法における通関業の定義

通関業者の業務を理解するためには、まず根拠法である通関業法を確認する必要があります。通関業とは、他人の依頼を受けて、税関官署に対して行う「通関業務」を業として行うことを指します。

通関業法第2条第1号(定義)

通関業務とは、関税法その他の貨物の輸出入に関する法令(以下「関税関係法令」という。)の規定に基づき、税関官署に対して行われる次に掲げる手続につき、その依頼をした者の代理をすること((中略)輸出申告、輸入申告、不服申立て、主張、陳述の代行)をいう。

さらに、通関業を営むためには財務大臣の許可が必要です(通関業法第3条第1項(通関業の許可))。

通関業を営もうとする者は、財務大臣の許可を受けなければならない。

2 独占業務としての「通関業務」の詳細

通関業者のメインとなる業務は、以下の4点に集約されます。これらは通関業法によって保護された独占業務であり、通関業者以外の者が報酬を得て代理で行うことは禁止されています。

(1)輸出入申告などの手続きの代理

関税法に基づき、貨物を輸出し、または輸入しようとする者は、税関長に申告し、その許可を受けなければなりません。

関税法第67条(輸出又は輸入の許可)

貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価格((中略)輸入貨物については、その課税標準となるべき価格)その他必要な事項を税関長に申告し、貨物の検査を経て、その許可を受けなければならない。

通関業者は、荷主から提供されたインボイス(仕入書)やパッキングリスト(梱包明細書)に基づき、複雑な税番分類(HSコードの特定)を行い、適正な関税額を計算した上で、この輸出入申告を代理で行います。

(2)不服申立ての代理

税関の処分に対して不服がある場合に、行政上の救済を求める手続きを代理します。これは、実務上極めて専門性の高い業務です。

関税法第89条第1項(再調査の請求)

税関長がした処分((中略)関税の確定、徴収に関する処分等)に不服がある者は、税関長に対して再調査の請求をすることができる。

税関長への「再調査の請求」に加え、その決定にさらに不服がある場合は財務大臣への「審査請求」を行うことになります。F代表のようなケースで、税関の判断が法律に照らして誤っていると考える場合、これらの不服申立てを通関業者を通じて、あるいは弁護士と共に進めることになります。

(3)主張・陳述の代行

税関による書類審査や貨物検査の際、荷主の代わりに専門的な立場から説明を行います。

税関は、申告された内容を確認するために貨物検査を実施することがあります。この際、通関業者は検査に立ち会い、貨物の性状や用途について税関職員に説明し、申告の正当性を主張します。これは荷主の権利を守るための重要なプロセスです。

(4)通関書類の作成

上記の代理手続きに必要な申告書や、計算書などの書類を作成します。

単なるデータ入力ではなく、膨大な実行関税率表や関税定率法、さらにはEPA(経済連携協定)の原産地規則などを読み解きながら、法的に瑕疵のない書類を作成する高度な知識が求められる業務です。

3 関連業務(非独占業務)の範囲と役割

通関業務以外にも、輸出入には多岐にわたる実務が付随します。これらは「関連業務」と呼ばれ、通関業者の独占業務ではないため、フォワーダーや物流業者、あるいは荷主自身が行うことも可能です。

(1)物流・梱包実務

貨物の船積みや航空機への搭載、海上保険の手配、倉庫への保管、国内でのドレージ輸送などが含まれます。

(2)他法令の手続代行

食品衛生法、植物防疫法、家畜伝染病予防法など、税関以外の官署に対する輸入届出等の手続きです。これらは厳密には通関業法の「通関業務」には含まれませんが、利便性の観点から通関業者が一括して受託することが一般的です。

(3)事前教示の照会

貨物を輸入する前に、税関に公式な回答を求める制度です。

4 通関業務と関連業務の比較一覧表

事業者が実務を委託する際、どの業務が法律上の独占業務であり、どの業務がそうでないかを把握するための対応表を以下に作成いたしました。ワードデータ等に貼り付けて、委託範囲の確認や契約内容の検討にご活用ください。

5 通関業者とフォワーダーの違いと連携

事業者にとって、通関業者と混同しやすい存在にフォワーダー(利用運送事業者)があります。フォワーダーは、自らは運送手段を持たず、船舶や航空機を利用して貨物の運送を引き受ける事業者のことを指します。

多くのフォワーダーは自社で通関業の許可を持っており、運送から通関までを一貫して提供していますが、中には通関業務のみを別の通関業者に再委託しているケースもあります。

事業者が留意すべきは、通関書類の作成にあたっての責任の所在です。フォワーダーが運送のプロであっても、HSコードの分類や関税評価の適正性については、最終的に通関士の資格を持つ専門家がチェックする必要があります。F代表のように、税関との見解の相違が生じた場合には、運送の効率性よりも、通関業法上の専門的な主張が重要となります。

6 税関事後調査への対応と通関業者の役割

輸入許可が下りて貨物が国内に引き取られた後も、事業者の責任が終わるわけではありません。税関は定期的に、輸入者の事務所を訪れて帳簿や書類を検査する「事後調査」を実施します。

関税法第105条(税関職員の権限)

税関職員は、関税の確定又は徴収((中略)その他この法律の施行)に関して調査するため必要があるときは、当該調査において徴収すべき関税の納税義務者となるべき者((中略)輸入者等)に質問し、又はその者の帳簿書類その他の物件を検査することができる。

この事後調査において、申告漏れや税番の誤りが指摘された場合、過少申告加算税や重加算税が課されるリスクがあります。通関業者は、事後調査の際にも立ち会い、過去の申告が適正であったことを説明する役割を担います。しかし、通関業者に「すべて任せていた」としても、納税義務者である事業者の責任が免除されるわけではない点に注意が必要です。

7 荷主(輸入者・輸出者)の法的責任とリスク管理

事業者が最も理解しておくべきは、通関業者に業務を委託したとしても、最終的な納税義務や法的な責任は荷主にあるという原則です。

通関業者が過失によって誤った申告をした場合、事業者は通関業者に対して民事上の損害賠償を請求できる可能性がありますが、税関に対する行政上の責任(追徴課税の支払い等)は、あくまで事業者が負わなければなりません。

また、虚偽の申告を行った場合には、罰則の対象となる可能性もあります。

関税法第110条(関税を免れる罪)】

偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

事業者は、通関業者に情報を丸投げするのではなく、自社が扱う商品の材質や用途を正確に把握し、それを正確に通関業者に伝える義務があります。

8 適切な通関業者の選び方と認定通関業者制度

リスクを最小化し、円滑な通関を実現するためには、信頼できる通関業者を選ぶことが不可欠です。一つの指標となるのが「認定通関業者(AEO通関業者)」制度です。

認定通関業者を利用することで、輸入申告と納税申告を分離して行うことができたり(特例申告制度)、貨物を保税地域に搬入する前に輸入許可を受けることができたりといった、物流上の大きなメリットを享受できます。

事業者は、単に通関手数料の安さだけで選ぶのではなく、自社の商品カテゴリーに対する知識の深さや、AEO認定の有無、さらにはトラブル発生時の対応能力を総合的に判断すべきです。

9 弁護士によるリーガルサポートの重要性

通関業者は通関実務のプロですが、税関との法的な争いや、行政訴訟を見据えた高度な対応については、法律の専門家である弁護士の協力が必要になる場面があります。

特に、以下のようなケースでは、単なる通関実務の枠を超えた対応が求められます。

1.税関の処分に対する行政不服審査や訴訟の検討

2.海外取引先との間での、通関遅延や損害賠償に関する契約トラブル

3.関税法違反や外為法違反の疑いによる、当局の調査への対応

4.通関業者の過失を理由とする損害賠償請求の可否判断

当事務所では、代表弁護士が通関士資格を保有しており、実務と法律の両面から事業者をサポートできる体制を整えています。F代表のように、通関業者の説明に疑問を感じたり、税関との間で法的な主張を展開したいと考えたりする場合には、早期に専門家へ相談することが、最善の解決策への近道となります。

10 パートナーとしての通関業者との向き合い方

通関業者は、事業者の海外展開を支えるかけがえのないパートナーです。しかし、その業務内容を正しく理解し、丸投げするのではなく、常にコミュニケーションを取りながら共に適正な申告を目指す姿勢が、現代の事業者には求められています。

本日の論点を念頭に置き、自社のコンプライアンス体制を強化することは、結果として物流のスピードアップとコスト削減に繋がります。

輸入貨物の税番分類に悩まれている場合や、過去の申告に不安がある場合、さらには税関事後調査の対策を講じたいとお考えの際には、ぜひ当事務所までご連絡ください。通関士の知見を持った弁護士として、貴社のビジネスを法的な側面からガードいたします。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

日本からの輸出規制-外為法と関連法規-

2021-04-16

0 はじめに:仮の相談事例

まずは、海外への販路拡大を検討されている事業者の方から寄せられた、相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

神奈川県内で精密機械部品の製造および中古建設機械の卸売業を営む株式会社Cの代表、D氏

【相談事例】

「当社では長年、国内市場を中心に事業を展開してきましたが、近年の海外需要の高まりを受け、東南アジアの建設業者へ自社製品の部品と、国内で買い取った中古の油圧ショベルを輸出する計画を立てています。相手先の国の輸入関税や現地での販売規制については調査を終えましたが、通関業者から『その製品はリスト規制に該当する可能性があるため、経済産業省の許可が必要ではないか』と指摘を受けました。当社としては、兵器などの危険なものを扱っているわけではなく、あくまで民生用の機械部品や中古車を輸出するだけなので、日本国内での規制についてはそれほど厳しくないと考えていました。もし許可が必要な場合、どのような手続きが必要であり、万が一無許可で輸出してしまった場合にはどのような法的リスクを負うことになるのでしょうか。具体的な法令の条文を含めて、経営者として知っておくべき実務上の注意点を教えてください」

D代表のような事例は、輸出ビジネスを本格化させる段階にある中小企業の経営者にとって非常に重要な課題です。多くの事業者は「輸出先の国の規制」には敏感ですが、「日本国内からの輸出規制」については確認が漏れがちです。しかし、日本には安全保障輸出管理という重要な枠組みがあり、これを無視することは企業の存続を危うくする重大なリスクを伴います。本稿では、事業者が遵守すべき外国為替及び外国貿易法(外為法)を中心に、輸出に関する国内法規を詳しく解説いたします。

1 日本からの輸出管理の全体像と外為法の規定

日本から貨物を輸出する際に最も根幹となる法律が、外国為替及び外国貿易法(外為法)です。この法律は、日本の平和及び安全の維持、さらには国際的な平和及び安全の維持を目的として、特定の貨物の輸出や技術の提供を規制しています。

事業者がまず確認すべきは、外為法第48条の規定です。

【外国為替及び外国貿易法第48条第1項】

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

この条文に基づき、具体的な規制対象品目を定めているのが「輸出貿易管理令(輸出令)」です。輸出令には「別表第1」と「別表第2」という二つのリストがあり、それぞれ規制の目的や手続きが異なります。

(1)輸出貿易管理令別表第1(安全保障輸出管理)

別表第1は、大量破壊兵器や通常兵器、およびそれらの開発・製造に転用可能な汎用品の輸出を規制するものです。これは「安全保障輸出管理」と呼ばれ、大きく分けて「リスト規制」と「キャッチオール規制」の二重の網がかけられています。

1.リスト規制(別表第1の1項から15項)

炭素繊維、高性能な工作機械、特定の化学物質、集積回路など、高度なスペックを持つ貨物が対象となります。これらは軍事転用の可能性が高いため、仕向地にかかわらず輸出に際して経済産業大臣の許可が必要です。

2.キャッチオール規制(別表第1の16項)

リスト規制の対象外であっても、輸出先が大量破壊兵器等の開発を行っている疑いがある場合や、通常兵器の開発に使用されるおそれがある場合に、経済産業大臣の許可を必要とする制度です。食品や木材などを除く、ほぼ全ての産業製品が対象となり得るため、D代表が計画している精密部品や建設機械も、この規制の対象となる可能性があります。

(2)輸出貿易管理令別表第2(国内産業保護・条約遵守)

別表第2は、安全保障以外の観点から、国際条約に基づく管理や、日本の産業保護、資源保護を目的とした規制です。

具体的には、ワシントン条約に基づく希少動植物、バーゼル条約に基づく有害廃棄物、さらには国内価格の安定を図るための特定の農水産物などが含まれます。別表第1が「許可」であるのに対し、別表第2は「承認」という形式をとりますが、経済産業省での手続きが必要である点に変わりはありません。

 

2 外為法以外の重要法令による輸出規制

外為法以外にも、貨物の種類に応じて日本国内で守らなければならない法律は多岐にわたります。事業者が特に関与する可能性の高い主な法令と対象品目は以下の通りです。

(1)文化財保護法による重要文化財の輸出禁止

日本の優れた文化的資産が海外に流出することを防ぐための法律です。

文化財保護法第44条

重要文化財は、輸出してはならない。ただし、文化庁長官が国際文化交流上特に必要があると認めて許可した場合は、この限りでない。

骨董品や古い美術品などを輸出する場合、それが重要文化財や重要美術品に該当しないことを確認する必要があります。

(2)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)

ワシントン条約を国内で実施するための法律の一つです。

種の保存法第15条

国際希少野生動植物種の個体等は、譲渡し若しくは譲受け(中略)又は輸出若しくは輸入をしてはならない。

象牙製品や特定のワニ革製品などが対象となります。

(3)狂犬病予防法および家畜伝染病予防法による検疫

動物や肉製品を輸出する場合、輸出先国の要請に基づく検疫だけでなく、日本国内の法規に基づく手続きも必要です。

家畜伝染病予防法第45条

指定検疫物(中略)を輸出しようとする者は、これを出国港において、家畜防疫官に差し出し、当該指定検疫物が家畜伝染病の病原体を広げるおそれがないことについて、検査を受けなければならない。

これにより、動物検疫所が発行する輸出検疫証明書を取得しなければ、輸出が認められません。

(4)植物防疫法

植物やその果実、種子などを輸出する場合、植物検疫官の検査を受ける必要があります。

植物防疫法第10条

植物を輸出しようとする者は、あらかじめ、その植物及びその容器包装について、植物検疫官から、これらが輸出先の国の植物検疫の要求に従っていることの検査を受けなければならない。

(5)道路運送車両法

D代表が検討している中古自動車(中古建設機械を含む場合がある)の輸出に際しては、登録抹消などの手続きが適正に行われていることが求められます。

道路運送車両法第15条の2(輸出抹消仮登録)

登録自動車の所有者は、その自動車を輸出するため、抹消登録の申請をしようとする場合には、国土交通大臣に対し、輸出抹消仮登録の申請をしなければならない。

これを行わずに輸出しようとすると、通関の段階で確認書類の提示を求められ、輸出が停滞する原因となります。

 

3 事業者のための輸出規制対応一覧表

輸出を検討する際に、自社の貨物がどの規制に該当し得るかを把握するための整理表を以下に作成いたしました。

【表:日本からの輸出に関する主要規制と該当品目対応表】

規制区分 根拠法令 主な該当品目 事業者がとるべき主な対応
安全保障輸出管理(リスト規制) 外国為替及び外国貿易法、輸出貿易管理令別表第1の1項から15項 武器、高性能な工作機械、炭素繊維、集積回路、特定の化学物質、通信関連機材 メーカーより該非判定書を取得し、規制対象であれば経済産業大臣の輸出許可を受けること
安全保障輸出管理(キャッチオール規制) 外国為替及び外国貿易法、輸出貿易管理令別表第1の16項 リスト規制以外のほぼすべての産業製品(食料品や木材などを除く全貨物) 輸出先、用途、需要者を精査し、大量破壊兵器等への転用懸念がある場合は経済産業大臣の許可を受けること
条約遵守・国内産業保護 輸出貿易管理令別表第2 ワシントン条約対象の希少動植物、有害廃棄物、特定の農産物、国内供給が不足する資源 経済産業大臣の輸出承認を受け、必要に応じて条約に基づく輸出証明書等を提示すること
文化財保護 文化財保護法 重要文化財、重要美術品、国宝、歴史的価値のある骨董品 原則として輸出禁止(海外の展覧会出品などの例外的な場合に限り、文化庁長官の許可を受けること)
薬物・保健衛生 麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、覚醒剤取締法 麻薬、向精神薬、覚醒剤原料、大麻、特定の医薬品成分 厚生労働大臣等による免許または許可を取得し、定められた手続きを経て輸出すること
動物検疫 家畜伝染病予防法、狂犬病予防法 牛、豚、鶏などの生体、肉製品(ハム、ソーセージ含む)、犬、猫、あらいぐま 動物検疫所において検査を受け、輸出検疫証明書の交付を受けること
植物検疫 植物防疫法 植物の苗、種子、果実、野菜、穀物、木材(皮付きのもの等) 植物防疫所において検査を受け、輸出先の国の条件を満たしていることの証明を受けること
車両・建設機械管理 道路運送車両法 中古自動車、中古建設機械、自動二輪車 運輸支局等で輸出抹消仮登録手続きを行い、輸出抹消仮登録証明書等の原本を提示すること

 

4 違反した場合の罰則と社会的リスク

輸出規制への違反は、単なる行政手続きの不備に留まりません。外為法をはじめとする規制は、国家安全保障や国際信義に直結するため、違反者には極めて厳しい制裁が用意されています。

(1)刑事罰の適用

外為法第69条の6等に基づき、無許可で規制貨物を輸出した場合、以下の罰則が科される可能性があります。

・個人:10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金(又はこれらの併科)

・法人:10億円以下の罰金(貨物の価格の5倍が10億円を超える場合は、その価格の5倍以下の罰金)

特に法人に対する罰金刑は巨額であり、一度の違反で経営基盤が根底から揺らぐことになります。

(2)行政処分(輸出禁止措置)

刑事罰とは別に、経済産業大臣より一定期間の輸出禁止処分(外為法第53条)を受けることがあります。これは、たとえ規制対象外の貨物であっても、会社全体の輸出業務が全面的に停止されることを意味し、海外取引先からの信用失墜や契約解除につながります。

(3)社会的信用の失墜

近年、不適切な輸出を行った企業名が経済産業省のホームページ等で公表されるケースが増えています。「違法な輸出を行った企業」というレッテルを貼られることは、金融機関からの融資停止や、国内取引先からの取引解消など、計り知れないマイナスの影響を及ぼします。

5 事業者が取り組むべき実務上のステップ

D代表のような事態を防ぐために、事業者が導入すべき実務上のプロセスを整理します。

①ステップ1:貨物の該非判定(がいひはんてい)

輸出する貨物が輸出貿易管理令別表第1の1項から15項に掲げられる「リスト規制品」に該当するかどうかを判定すること。 メーカーから「該非判定書(パラメータシート)」を取り寄せる、あるいは自社でスペックを精査して判定を行う必要があります。

②ステップ2:需要者・用途の確認(取引審査)

輸出先(需要者)が誰であるか、また、その貨物が最終的に何に使用されるか(用途)を確認すること。 経済産業省が発行している「外国ユーザーリスト」を参照し、輸出先が懸念組織に該当しないかを確認します。兵器開発等への転用のおそれがないか、誓約書等を取得することも有効な手段となります。

③ステップ3:社内輸出管理体制(CP)の構築

代表者から現場の担当者まで、輸出管理の重要性を共有し、ダブルチェックを行う仕組みを作ること。 輸出管理規程(CP:コンプライアンス・プログラム)を作成し、経済産業省に届け出ることで、包括許可などの優遇措置を受けられる可能性もあります。

④ステップ4:関係省庁への事前相談

判断に迷う場合は、自己判断せず、専門の通関士や弁護士、あるいは経済産業省の安全保障輸出管理窓口へ相談すること。事前相談を丁寧に行うことは、意図せぬ法違反を防ぐための最も確実な防衛策です。

 

輸出規制は、事業者の自由な活動を制限するためのものではなく、健全な国際取引を維持するための「共通ルール」です。このルールを正しく理解し、遵守することは、海外市場において「信頼できるパートナー」としての地位を確立することに他なりません。

D代表のようなケースでも、まずは輸出する精密部品や中古機械のスペックを正しく把握し、該非判定を行うことから道が開けます。手続きには時間を要することもありますが、適法なプロセスを経て輸出を行うことが、結果として最も効率的でリスクの少ない経営判断となります。

本日解説した外為法、輸出貿易管理令、文化財保護法、家畜伝染病予防法といった法律は、複雑に絡み合っています。事業者の皆様におかれましては、これらの法令を「守るべき障壁」ではなく「ビジネスを支える基盤」として捉え直し、盤石な輸出管理体制を構築されることを強くお勧めいたします。

適正な輸出実務こそが、企業のグローバル展開を加速させる鍵となります。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入貨物の国内流通に関する法的注意点

2021-04-13

0 はじめに:相談事例

まずは、輸入ビジネスへの参入を検討されている事業者の方から寄せられた、具体的な相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

東京都内でライフスタイルショップを多角的に展開する株式会社Aの代表B氏

【相談事例】

「当社ではこれまで、国内の卸売業者から仕入れた商品を販売してきましたが、利益率の改善と独自性の確保を目指し、自社による直接輸入を開始することにしました。北欧で見つけたデザイン性の高い電気ケトルや、東南アジア産の陶磁器製の食器、さらには子供向けの木製玩具などをコンテナ単位で輸入する計画です。通関業者からは、関税の支払いや通関手続きについては説明を受けましたが、実際にこれらの商品を日本国内で販売するにあたり、どのような国内法を守らなければならないのかが判然としません。万が一、販売後に不具合や事故が発生した場合、輸入者としてどのような法的責任を負うのでしょうか。また、具体的な条文に基づいた、遵守すべきルールの全体像を把握したいと考えています」

B代表のような悩みは、初めて輸入業務に携わる事業者の多くが直面する課題です。輸入貨物を日本国内で販売・使用する際には、関税法や外国為替及び外国貿易法といった水際での法律だけでなく、国内での流通を規制する多種多様な法令を遵守しなければなりません。本稿では、事業者が特に留意すべき主要な法令とその具体的な条文、そして実務上の対応策について詳しく解説してまいります。

1 輸入貨物と国内関連法令の関係性

日本国内において貨物を販売・使用する目的で輸入する場合、その貨物は「日本国内で製造された製品」と同等の安全基準や品質表示が求められます。特に注目すべきは、輸入者が国内法上、しばしば「製造者」とみなされる点です。これにより、製品の安全性確保や表示に関する責任は、海外の輸出者ではなく、日本の輸入者が負うことになります。

主要な法令と具体的な条文、そして対象となる貨物の詳細は以下の通りです。

(1)電気用品安全法(PSE法)

家庭用電化製品などを輸入する際に最も重要な法律の一つが電気用品安全法です。

この法律は、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的としています。

例えば、電気用品安全法第3条(事業の届出)では、電気用品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める区分に従い、事業開始の日から三十日以内に、電気用品の型式の区分その他経済産業省令で定める事項を経済産業大臣に届け出なければならない、と規定されております。

事業者は、輸入する製品が「特定電気用品」か「特定電気用品以外の電気用品」かを判別し、技術基準への適合性を確認(電気用品安全法第8条)した上で、所定の検査を行い、PSEマークを表示しなければなりません。これを怠って販売した場合、回収命令や罰則の対象となるだけでなく、事故発生時の賠償責任も極めて重くなります。

(2)消費生活用製品安全法(PSC法)

消費者の生命又は身体に対する危害を防止するため、特定の製品について安全基準を設けている法律です。

例えば、消費生活用製品安全法第6条(事業の届出)においては、特定製品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める区分に従い、一定事項を経済産業大臣に届け出なければならない、と規定されております。

特に不備があった際の被害が甚大である製品について、厳格な適合性検査が義務付けられています。

(3)食品衛生法

食品そのものだけでなく、食器や調理器具、乳幼児向けのおもちゃなどを輸入する場合にも適用される重要な法律です。

例えば、食品衛生法第27条(輸入の届出)においては、販売の用に供し、又は営業上使用する食品、添加物、器具又は容器包装を輸入しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その都度厚生労働大臣に届け出なければならない、と規定されております。

より具体的には、B氏が相談された陶磁器製の食器であれば、鉛やカドミウムなどの有害物質が溶け出さないかといった基準をクリアしなければなりません。

(4)製造物責任法(PL法)

輸入貨物の不具合により消費者が損害を被った場合、輸入者はこの法律に基づき賠償責任を負います。

製造物責任法第3条(製造物責任)において、製造業者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる、と規定されております。

ここで言う「製造業者等」には、輸入業者も含まれます(同法第2条第3項第1号)。つまり、海外メーカーの製造ミスであっても、日本の消費者は輸入者に対して損害賠償を請求できる仕組みとなっています。

2 代表的な貨物と関連法令の一覧表

輸入を検討する際に、どの法律が関係するのかを整理した表が以下になります。

貨物のカテゴリー 具体的な貨物の例 主な該当法令 事業者の主な義務
電気製品・機械 家庭用電熱器具、A Cアダ

プター、パソコン、照明器具

電気用品安全法(P S E)、電波法、消費生活用製品安全法 事業届出、技術基準適合、適合性検査、PS Eマーク表示
一般消費財・雑貨 衣類、タオル、カーテン、陶磁器製の食器、6歳未満用のおもちゃ 家庭用品品質表示法、有害物質を含有すする家庭用品の規制に関する法律、食品衛生法、消費生活用製品安全法 品質表示、有害物質規制適合、輸入届出、PSCマーク表示
化粧品・医療機器 化粧品、石鹸、マッサージ器 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法) 製造販売業許可、外国製造業者登録、製品登録、法定表示
乗り物・部品 自動車、自動ニ輪車、乗車用ヘルメット、自動車用部品 道路運送車両法、計量法、消費生活用製品安全法 形式指定、保安基準適合、計量器検定、PSCマーク表示
化学物質・農薬 洗剤、殺虫剤、農薬、化学物質一般 農薬取締法、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)、消防法、毒物及び劇物取締法 農薬登録、化審法届出、危険物取扱、毒劇物届出
食品・飲料 食品、飲料、食品添加物 食品衛生法、農林物質の規格化及び品質表示の適正化に関する法律、景品表示法 輸入届出、衛生基準適合、」A S規格適合、原産地表示、誇大広告禁止
通信機器 スマートフォン、ワイヤレスイヤホン 電波法、電気通信事業法 技術基準適合証明(技適マーク)、端末機器適合認定
全商品共通 すべての輸入貨物 製造物責任法、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法) 欠陥による損害賠償責任、適正な広告表示

3 事業者が留意すべき実務上のポイント

輸入ビジネスを円滑に進め、リーガルリスクを最小化するためには、以下の3つの視点が不可欠です。

(1)事前の法令調査の徹底

輸入しようとする貨物が、前述のどの法律の対象になるのかを事前に特定しなければなりません。同じ「ライト」であっても、家庭用の照明器具なら電気用品安全法ですが、自転車用なら道路交通法に関連する基準があり、船舶用なら船舶安全法が関係します。用途と構造、材質を詳細に把握し、関係省庁や専門家に確認する作業が重要です。

(2)海外輸出者との契約によるリスクヘッジ

日本の国内法は日本の輸入者が守るべきものですが、そのための技術データや検査結果は海外のメーカーから提供を受ける必要があります。売買契約を締結する際に、「日本国内の諸法令(PSE、食品衛生法等)に適合していることの保証」や「適合確認に必要な情報の提供義務」を明文化しておくことが望ましい対応と言えます。

(3)適正な表示の実施

家庭用品品質表示法や景品表示法に基づき、消費者に対して正確な情報を提供しなければなりません。例えば、繊維製品であれば組成表示や洗濯表示を全角文字で正しく記載する必要があります。誤った表示や誇大広告は、消費者庁による措置命令の対象となるだけでなく、顧客からの信頼を失墜させる原因となります。

4 違反した場合の不利益と社会的責任

万が一、国内法に違反した状態で商品を流通させてしまった場合、事業者には以下のような厳しい現実が待ち受けています。

【不利益その1】行政処分と社名公表

各法律に基づき、商品の回収命令(リコール)や改善命令が出されます。これらの処分内容は行政機関のウェブサイトで公開されることが多く、ブランドイメージに深刻な打撃を与えます。

【不利益その2】刑事罰の適用

悪質な違反や重大な事故につながる違反の場合、懲役刑や罰金刑が科される可能性があります。これは事業者個人のみならず、法人としての会社にも両罰規定として適用される場合がほとんどです。

【不利益その3】民事上の損害賠償

PL法に基づき、被害者に対して多額の賠償金を支払う義務が生じます。輸入した製品が原因で火災が発生したり、健康被害が出たりした場合、その賠償額は一企業の存続を危うくするほど巨額になるケースも珍しくありません。

5 知っておきたいその他の関連法規

上記以外にも、貨物によっては以下のような法律が関与します。

【不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)】

第5条(不当な表示の禁止)

自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一 商品の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示

二 商品の価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると誤認される表示

三 輸入元の国を偽って表示したり、根拠のない性能を謳ったりすることは厳格に禁止されています。

6 事業者がとるべき具体的なステップのまとめ

最後に、輸入貨物の適法性を確保するための実務フローを整理します。

①ステップ1

貨物の詳細スペックの入手 材質、電圧、出力、用途、製造工程などの情報を海外メーカーから取り寄せます。

②ステップ2

該当法令のリストアップ 本稿の表や条文を参照し、どの法律の規制を受けるかを確認します。

③ステップ3

関係省庁への事前相談 不確かな場合は、経済産業省、厚生労働省、消費者庁などの各窓口や、専門の通関士、弁護士へ相談を行います。

④ステップ4

適合性試験と認証の取得 必要に応じて、公的検査機関での試験を実施し、証明書を取得します。

⑤ステップ5

適正なラベル作成と貼付 日本語による品質表示ラベル、安全マーク(PSE、PSC等)を適切に表示します。

⑥ステップ6

流通後のアフターフォロー体制 万が一の事故やクレームに備え、連絡窓口の設置や生産物賠償責任保険(PL保険)への加入を検討します。

以上のプロセスを丁寧に行うことが、持続可能な輸入ビジネスの基盤となります。

輸入ビジネスは、世界中の魅力的な商品を国内に届けるという大きな夢と可能性を秘めています。しかし、その背後には「日本の消費者の安全を守る」という事業者としての重い法的責任が伴います。法律を単なる「障壁」と捉えるのではなく、自社の製品の品質を証明し、競合他社との差別化を図るための「信頼の証」として活用していく姿勢が求められます。

本稿でご紹介した各法令の条文や対象貨物の情報は、あくまで基本的な指針です。法改正や技術基準の更新は頻繁に行われるため、常に最新の情報を収集し、専門的な知見を取り入れることが不可欠です。

特に、代表弁護士が通関士資格を有する当事務所では、輸入手続きの川上から川下まで、法的観点に基づいた一貫したサポートを提供しております。輸入貨物の法適合性に関する精査や、万が一の法的トラブル、さらにはコンプライアンス体制の構築について、お困りのことがございましたら、ご相談ください。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

関税法が定める輸出入禁止物品の規制

2021-04-11

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、関税法で規定されている犯罪に関する規定の内、輸出入をしてはならない貨物を輸出入する等の罪についてご紹介いたします。まずは、当事務所に寄せられた、輸出入禁止物品にまつわる架空の相談事例をご紹介いたします。輸出入をビジネスとして行っている方にとっては、決して他人事ではない深刻な内容となっております。

【相談者】

都内で輸入雑貨のオンラインショップを運営している株式会社A 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社は、海外の取引先から、有名ブランドのデザインに酷似したスマートフォンケースを安価に仕入れ、国内で販売する計画を立てました。B氏は、ロゴが微妙に異なっているので知的財産権の侵害には当たらないだろうと自己判断し、輸入申告を行いました。ところが、税関の検査で、商標権を侵害する物品として貨物が没収されただけでなく、警察や税関の捜査官による事情聴取を受けることになってしまいました。 さらに、捜査の過程で、過去に輸入した別の商品に、本人の知らないうちにワシントン条約で規制されている動物の皮が使用されていた疑いも浮上しています。意図的ではなかったとしても、逮捕や多額の罰金を受ける可能性があると聞き、目の前が真っ暗になっています。これからどのような法的対応を取るべきでしょうか」

このような事例は、輸入ビジネスにおけるリスク管理の甘さが招く典型的なトラブルです。

輸出入をしてはならない貨物を正確に把握しておかなければ、意図せず犯罪行為を行ってしまっているということにもなりかねません。本記事では、経営者が知っておくべき法律の条文と、その罰則の重さについて詳しく解説いたします。

1 輸出してはならない貨物を輸出する罪

輸出をビジネスとして行う際、まず念頭に置くべきは関税法第69条の2の規定です。この条文では、日本の国益や国際的な信頼を損なうような物品の輸出を厳格に禁止しています。

①麻薬、向精神薬、大麻、あへん及びけしがら並びに覚醒剤(中略)並びにあへん吸食器具

②児童ポルノ

③特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権又は育成者権を侵害する物品 ④不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで、第10号、第17号又は第18号(不正競争)に掲げる行為を組成する物品

これらの物品を輸出しようとした場合、10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金といった厳しい処罰に科されるリスクがあります。

ビジネスにおいて特に注意すべきは、③の知的財産権を侵害する物品です。自社製品の海外進出を急ぐあまり、他社の商標権を侵害していることに気づかずに輸出申告を行ってしまうと、高額な罰金だけでなく、国内外での信用を失墜させることになります。

2 輸入してはならない貨物を輸入する罪

輸入取引においては、さらに広範な物品が制限の対象となります。

関税法第69条の11では、輸入禁止物品が詳細にリストアップされています。

①麻薬、向精神薬、大麻、あへん及びけしがら並びに覚醒剤(中略)並びにあへん吸食器具

②指定薬物(中略)

③けん銃、小銃、機関銃及び砲並びにこれらの銃砲弾並びにけん銃部品

④爆発物

⑤火薬類

⑥化学兵器禁止法に規定する特定物質

⑦貨幣、紙幣若しくは銀行券、印紙、郵便切手(中略)又は有価証券の偽造品、変造品及び模造品

⑧公安又は風俗を害すべき物品(児童ポルノを含む)

⑨特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

⑩不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで、第10号、第17号又は第18号に掲げる行為を組成する物品

これらの輸入禁止物品を輸入した際の罰則も、輸出と同様に非常に重いものとなります(関税法109条1項等)。

輸入ビジネスで特にリスクが高いのは、知的財産侵害物品です。海外のマーケットプレイスや卸業者から仕入れた製品が、実はブランド品のコピー商品であったり、他社の特許技術を無断で使用していたりする場合、輸入者はその事実を知らなかったとしても、輸入申告の責任を問われることになります。

3 両罰規定による企業への深刻なダメージ

関税法における犯罪規定で特に経営者が注目すべきは、関税法第117条に定められた両罰規定です。これは、従業員や代理人が業務に関して違反行為を行った場合、その本人だけでなく、その法人(会社)に対しても多額の罰金刑を科すというものです。

例えば、輸入担当者が功り焦ってコピー商品を輸入した場合、担当者個人が懲役や罰金を受けるだけでなく、会社自体に対しても数千万円単位の罰金が科される可能性があります。これは、企業の存続を危うくするほどの重大な法的リスクです。

4 実務で活用できる輸出入禁止物品の自主点検表

企業として、取り扱う貨物が禁止物品に該当しないかを確認するためのチェック項目は以下の通りとなります。

【輸出入禁止物品の該否確認チェックリスト】

確認カテゴリー|具体的なチェック内容(関税法69条の11

薬物・銃器類|原材料に大麻成分や向精神薬が含まれていないか

知的財産権|他社のロゴ、デザイン、特許を侵害していないか

通貨・証券|偽造紙幣や偽造郵便切手、有価証券の模造品ではないか

風俗・公安|児童ポルノや公安を害する図書、映像が含まれていないか

不正競争行為|他社の著名な商品表示と混同を生じさせるものではないか

他法令との整合性|ワシントン条約や家畜伝染病予防法等に抵触しないか

これらの項目について、取引開始前、さらには毎回の発注時に確認を徹底することが、犯罪に巻き込まれないための最善の防御策となります。

5 知らなかったでは済まされない過失犯の可能性

関税法における輸出入禁止物品の規制において、最も恐ろしいのは、故意(わざと行うこと)だけでなく、注意義務を怠ったことによる過失についても責任を問われる可能性がある点です。

ビジネスとして継続的に輸出入を行っている者は、取り扱う貨物について詳細に調査する義務があるとみなされます。海外の業者が「本物だ」と言ったから、あるいは「禁止されているとは知らなかった」という弁解は、プロの輸入者としては通用しないことが多いのが実情です。

特に知的財産権侵害物品については、権利者からの申立てに基づき税関が「認定手続」を行います。この手続において侵害が認められると、貨物は没収・廃棄されるだけでなく、その後の法的処分が待っています。具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

6 税関調査や捜査を受けた際の対応

万が一、自社の貨物が禁止物品の疑いをかけられた場合、冷静かつ迅速な法的対応が求められます。税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、以下の点に留意してください。

①事実関係の正確な把握。どの製品が、どの条文に抵触しているのかを明確にする。

②証拠書類の保全。海外取引先との契約書、注文書、メールの履歴、製品の成分表や鑑定書などを全て整理する。

③弁護士を通じた窓口の一本化。不用意な発言が後の刑事手続で不利に働くことを防ぐため、専門家を介して対応を行う。

税関は、単なる行政機関であるだけでなく、特別司法警察職員としての権限を持つ職員も在籍しています。安易な対応は、事態を悪化させるだけであることを肝に銘じなければなりません。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、輸出入禁止物品の該否判断や、万が一トラブルが発生した際の税関当局、さらには捜査機関との折衝において、他の法律事務所にはない強力なサポートを提供することが可能です。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。 具体的には、以下のようなサポートを提供しております。

①輸出入禁止物品の該当性に関する法的意見書の作成

②知的財産権侵害の疑いを受けた際のカモフラージュ認定への抗弁

③両罰規定を回避するための社内コンプライアンス体制の構築

④刑事事件化した際の弁護人としての活動および税関交渉

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

8 まとめ:クリーンな貿易が持続可能な成長を実現する

輸出入禁止物品の規制は、単なる手続の壁ではなく、企業の社会的責任そのものです。法を犯して得た一時的な利益は、その後の刑事罰や社会的制裁によって何十倍もの損失となって返ってきます。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法的知識を武器に、クリーンで誠実な貿易実務を継続すること。それが、グローバル市場で貴社が信頼を勝ち取り、長期的な発展を遂げるための唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

保税地域の基礎知識と法的留意点

2021-04-09

0 はじめに

当事務所には、保税地域の利用方法やそこでの作業に関するご相談が数多く寄せられております。まずは、実際に起こり得るトラブル事例をご紹介いたします。

【相談者】

千葉県内で海外輸入雑貨の卸売業を営む株式会社Y 代表取締役 Z氏

【相談内容】

当社は、東南アジアから大量のインテリア雑貨を船便で輸入しています。通常、貨物が港に到着した後は、提携している通関業者の保税蔵置場に一時的に保管し、そこから小分けにして輸入申告を行い、国内へ引き取っています。 先日、急ぎの注文が入ったため、輸入許可が下りる前の外国貨物の状態で、保税蔵置場内において商品の値札貼り作業と簡易的な梱包のし直しを行いました。Z氏は、貨物を外に持ち出しているわけではないので問題ないと考えていましたが、後日、税関から保税地域内での作業に関する承認を受けていないのではないかと指摘を受けました。このような行為が関税法違反に該当する可能性があると聞き、非常に驚いています。保税地域内で許される行為と、法的な手続きについて詳しく教えてください。

このような事例は、保税地域の利便性を正しく理解していないために発生する典型的なトラブルです。保税地域は関税の徴収を確保するための重要な場所であり、そこでの行為は厳格に法律で規制されています。

1 保税地域の概要と外国貨物の定義

貨物の輸入・輸出をビジネスとして行っている方の中には、貨物の保管場所として保税地域を利用したことがある方も多いのではないでしょうか。

保税地域とは輸入通関、輸出通関においてはよく出てくる言葉であり、非常に重要な存在といえます。

保税地域とは、外国貨物を置くことのできる場所として設置されている場所のことを指します。 輸出入の通関手続きや、船舶・航空機への積み込みを即座に行うことが出来ない場合に、保税地域が利用されることが多いといえます。なお、外国貨物には、大要以下の2種類があります。

①外国から到着した貨物で、未だ輸入の許可や関税の納付がなされていない貨物

②外国に送り出そうとする貨物で、輸出の許可がなされた船舶や航空機への積込みを控えている貨物

これに対し、日本国内で生産された貨物や、既に輸入許可を受けた貨物のことを内国貨物と呼びます。保税地域は、この外国貨物と内国貨物が混在しないよう、また外国貨物が関税を支払わずに国内へ流出しないよう監視する役割を担っています。

2 関税法に基づく保税地域の種類と機能

保税地域には、次の5種類があります(関税法第29条)。

第一の指定保税地域は、輸出入通関のために設けられているものです。他方で、第二から第五は特定の目的のために設けられている保税地域である点に特徴があります。

(1)指定保税地域(関税法第37条から第41条の3

港又は空港にある国、地方公共団体などが所有又は管理する土地、建設物等で財務大臣が保税地域として指定した場所のことを指します。

指定保税地域での蔵置期間は原則として1ヶ月間です。ここはあくまで通関手続きを円滑に進めるための一時的な場所という位置付けです。

(2)保税蔵置場(関税法第42条から第55条

保税蔵置場は、指定保税地域と同様の行為ができるものとして税関長が許可した場所で、外国貨物を保税の状態で原則として3ヶ月間、税関長の承認を受けることで2年間まで蔵置することが出来ます。

(3)保税工場(関税法第56条から第62条

保税工場は、外国貨物の加工、それを原料とする製造・混合、改装、仕分けその他の手入れをすることができるものとして税関長が許可した場所のことを指します。

(4)保税展示場(関税法第62条の2から第62条の7

保税展示場は、国際博覧会や見本市などのために、関税や消費税を留保したまま外国貨物の積卸・運搬、蔵置、内容点検、改装、仕分けその他の手入れ、展示又は使用等ができる場所です。

展示会終了後にそのまま海外へ送り返すのであれば、一度も関税を負担することなく日本国内で展示を行うことが可能です。

(5)総合保税地域(関税法第62条の8から第62条の15

総合保税地域は上記(2)から(4)の保税機能の他様々な機能を併せ持った保税地域です。

大規模な物流拠点や貿易センターなどで活用されており、一つの区域内で一貫した貿易実務を行うことができます。

3 保税地域内で行うことができる作業とその制限

冒頭の相談事例のように、保税地域内で貨物に手を加える場合には細心の注意が必要です。関税法では、保税地域内での作業について以下のように規定しています。

この届出や承認を怠って作業を行うと、無許可での作業とみなされ、行政処分の対象となります。単なる値札貼りや再梱包であっても、それは手入れや改装に該当するため、法的な手続きを省略することはできません。

また、保税地域から貨物を持ち出す際の手続きも厳格です。

許可を受けずに保税地域から貨物を持ち出した場合、それは輸入の無許可輸出入等として厳しく罰せられることになります。

4 輸入者が実務で活用すべき保税地域管理チェックリスト

保税地域を利用する際、企業が自ら確認すべきポイントは以下の通りです。

【保税地域利用時における実務チェック表】

確認項目|具体的な内容|留意点|

蔵置期間の把握|貨物の入庫日から3ヶ月以上経過していないか|延長申請の有無|

内容点検・改装の手続き|値札貼り、再梱包、仕分け等を行う前に届け出たか|各保税規定|

保税運送の承認|他の保税地域へ移動させる際に承認を得ているか|承認番号の確認|

滅失・紛失の報告|保税地域内で貨物が紛失したり壊れたりしていないか|許可者の責任|

内国貨物との識別|外国貨物と内国貨物が混在して管理されていないか|混蔵の承認手続き|

これらの項目を定期的に確認することで、意図しない法令違反を防ぐことができます。特に、通関業者に管理を任せきりにするのではなく、輸入者自身が自社の貨物がどのような法的状態にあるかを把握しておく姿勢が重要です。

5 法令違反に対するペナルティと企業リスク

保税地域のルールを遵守しなかった場合、以下のような厳しい処分が待っています。

(1)保税地域の許可取消しや業務停止

保税地域を運営する事業者が違反を犯した場合、税関長はその許可を取り消したり、期間を定めて業務を停止させたりすることができます。

(2)関税の即時徴収

貨物が亡失したり、承認を受けずに廃棄されたりした場合、その貨物の所有者や保税地域の許可者に対して、直ちに関税が課されます。

(3)刑事罰

不正に貨物を持ち出した場合などは、関税法上の犯罪として懲役や罰金が科される可能性があります。

6 専門家としての視点と具体的なアドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

保税地域を有効に活用するための実務的なアドバイスを3点申し上げます。

第一に、保税期間の厳格な管理です。蔵置期間の徒過は、税関による公売(オークションへの強制出品)などのリスクを招きます。在庫管理システムと連動させ、期限が近づいた際にアラートが出るような仕組み作りを推奨いたします。

第二に、保税作業の事前相談です。加工や製造を伴う保税工場としての利用を検討する場合、その作業内容が関税法上の加工に該当するのか、それとも手入れに留まるのかによって、受けるべき許可の種類が異なります。

第三に、事故発生時の迅速な報告です。保税地域内で貨物が破損した場合、速やかに税関へ届け出ることで、関税の免除や減免を受けられる可能性があります。これを放置すると、単なる亡失とみなされ、関税を徴収されることになりかねません。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出入トラブルや通関トラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、保税地域内での複雑な作業工程の法的評価や、万が一の紛失事故における税関への抗弁、そして保税関連の契約書の精査など、多角的なサポートを提供することが可能です。

輸出入トラブルや通関トラブルでお悩みの方や、ご不明な点やご不安な点等ございましたら、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

8 まとめ:保税地域の活用がグローバルビジネスを加速させる

保税地域は、単なる荷物置き場ではありません。関税の支払いを猶予し、在庫を戦略的に管理し、日本国内での付加価値作業を可能にする、極めて戦略的なビジネスツールです。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

原産地規則の基礎知識と法的留意点

2021-04-05

0 はじめに

当事務所には、輸入実務における原産地認定に関するご相談が数多く寄せられております。まずは、実際に起こり得るトラブル事例をご紹介いたします。

【相談者】

大阪市内でアパレル輸入商社を経営している株式会社C 代表取締役 D氏

【相談内容】

当社は昨年度から、経済連携協定(EPA)を活用してベトナムから綿製のTシャツを輸入しています。ベトナムの輸出者からは、現地の商工会議所が発行した原産地証明書を受け取っており、それを通関業者に提出することで、これまでは関税無税の適用を受けてきました。ところが、先日の輸入申告において、税関から原産地規則に関する詳細な照会を受けました。 具体的には、Tシャツに使用されている糸が中国製である場合、ベトナムでの縫製作業だけでベトナム産と認められるのか、という点です。税関からは、製品の関税番号(HSコード)の変化が規定を満たしていない可能性があると指摘されました。もしベトナム産と認められない場合、過去に遡って多額の関税を支払わなければならないのでしょうか。原産地証明書さえあれば安心だと思っていましたが、実務上どのような法的根拠を確認すべきだったのか教えてください。

このような事例は、近年の自由貿易ネットワークの拡大に伴い、非常に増えています。原産地証明書はあくまで一つの証拠書類に過ぎず、その前提となる原産地規則を輸入者自身が正しく理解しているかどうかが、法的リスク管理の鍵となります。

1 原産地規則の本質と輸入実務における役割

原産地規則とは、輸入又は輸出される貨物の原産地(原産地とは、ひとまず、貨物の国籍のこととイメージいただければ大丈夫です)を決定するために用いられるルールのことです。 このような原産地規則は貨物を輸入する際には非常に重要なルールとなりますが、輸入者は、輸入通関手続を通常通関業者に委任することが多いので、このような原産地規則までは理解していないことがほとんどであるものと思います。もっとも、何かトラブルが発生した場合には輸入者自身が対応する必要が生じる場合もありますので、概要程度であっても原産地規則を理解しておいた方がよいものと考えられます。

2 原産地規則の分類とそれぞれの法的根拠

政策目的に応じて、原産地規則は、以下の1及び2のとおり大別されます。

(1)原産地規則

原産地規則とは、輸入品に特恵関税を付与するために利用する規則で、以下の(ア)及び(イ)に分類されます。

(ア)一般特恵関税(GSP)を適用するための原産地規則

開発途上国に対する一般特恵関税制度に基づく税率の適用対象となる貨物であるかどうかを決定するための規則のことを指します。

(イ)自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の税率を適用するための規則

自由貿易協定(FTA)とは、特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定のことを指します。他方で、経済連携協定(EPA)とは、貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む幅広い経済関係の強化を目的とする協定のことを指します。

日本が自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を締結している国や地域は、シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、イギリス、欧州連合(EU)、米国、RCEP参加国など、多岐にわたります。

これら各協定に基づく原産地規則の法的運用については、経済連携協定の実施等に関する法律が基本となります。

(2)非特恵原産地規則

非特恵原産地規則とは、1以外の目的のために利用されるもので、例えば、WTO協定税率の適用や貿易統計計上等のための規則等があります。 こちらの根拠法令は、主に関税法に関連します。

3 原産地を認定するための具体的な3つの基準

実務上、貨物が原産品として認められるためには、主に以下の3つの基準のいずれかを満たす必要があります。これらは輸入者にとって最も重要な判断指標となります。

(1)完全生産品基準(WO)

その国において完全に生産された物品です。例えば、その国で収穫された農産物、その国で生まれ育った家畜、その国の領海内で採捕された水産物などが該当します。

(2)実質的変更基準

二か国以上にわたって生産された場合に、最終製品に実質的な変更を加える作業が行われた国を原産地とする基準です。これには主に3つの手法があります。

(ア)関税番号変更基準(CTC)

原材料のHSコード(関税番号)と、完成品のHSコードが一定の桁数で変化していることを求める基準です。例えば4桁(項)の変化を求めるものをCTHと呼びます。冒頭の相談事例のように、糸からTシャツへの加工がこれに該当するかどうかが争点となります。

(イ)付加価値基準(VA)

その国で付け加えられた価値(価格)が、完成品の価格の一定割合以上であることを求める基準です。RVC(域内原産地割合)などの計算式が用いられます。

(ウ)特定工程基準(SP)

特定の製造工程(例:化学反応、特定の紡績工程など)がその国で行われたことを求める基準です。

これらの基準は協定ごとに、あるいは製品のHSコードごとに細かく指定されています。以下の表に、主要な概念を整理いたしました。

【原産地認定基準の比較整理表】

基準の種類|判定のポイント|主な対象物品|

完全生産品(WO)|他国由来の材料を一切含まない|農産物、鉱物、水産物|

関税番号変更(CTC)|加工によりHSコードが変化したか|工業製品、アパレル|

付加価値(VA)|加工によりいくらの価値が増えたか|機械類、精密機器|

特定工程(SP)|指定された特定の工程を経たか|化学品、繊維製品|

4 原産地規則を理解しないことによる法的リスク

輸入者が原産地規則を軽視した場合、以下のような深刻なペナルティを課される可能性があります。

(1)特恵税率の否認と追徴課税

税関事後調査において、原産地基準を満たしていないと判断された場合、輸入時に免除されていた関税を遡って支払う必要があります。これには延滞税も付加されるため、企業の資金繰りに大きな影響を与えます。

(2)虚偽申告としての処罰

故意に誤った原産地を申告した場合、関税法上の重加算税や、最悪の場合は刑事罰の対象となります。

関税法第110条(関税を免れる罪

偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(3)事後確認(検認)への対応負担

協定によっては、日本の税関が輸出国の政府や輸出者に対して、直接情報の提供を求める事後確認(ベリフィケーション)が行われます。この際、輸入者が適切な説明を行えないと、特恵適用が取り消されます。

5 実務上の対策:輸入者が取るべき行動指針

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

第一に、インボイス価格だけでなく、製品の構成材料の原産地を確認することです。特に多国籍なサプライチェーンを持つ製品の場合、単なる組み立て国が原産地になるとは限りません。

第二に、各協定の品目別規則(PSR)を照合することです。税関のホームページ等に掲載されている、最新のPSR一覧表を確認し、自社製品のHSコードに課せられたハードルを把握してください。

第三に、事前教示制度の活用です。輸入を開始する前に、税関に対して書面で原産地の照会を行うことで、法的な法的拘束力のある回答を得ることができます。これにより、輸入後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出入トラブルや通関トラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、単なる契約書の作成に留まらず、関税評価や原産地認定という極めてテクニカルな分野においても、税関当局の視点を踏まえた実効性の高いアドバイスが可能です。

具体的には、以下のようなサポートを提供しております。

①EPA活用時における原産地基準(CTC、VA等)の適合性判定

②輸出者との間での原産地情報開示に関する契約条項の整備

③税関からの原産地照会や事後確認(検認)に対する法的抗弁の作成

④自己申告制度(自己証明制度)導入に伴う社内管理体制の構築支援

原産地規則に関する問題をはじめ、輸出入トラブルや通関トラブルでお悩みの方、ご不明な点やご不安な点等ございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。

7 まとめ:原産地規則はビジネスの根幹

原産地規則は、単なる通関上の手続きではなく、グローバルビジネスの収益性を左右する戦略的な法規制です。特恵税率を活用してコスト競争力を高めるためには、その適用の正当性を裏付ける法的根拠を、自社でしっかりと把握しておく必要があります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入申告における必要書類の法的役割

2021-04-01

0 はじめに

当事務所に寄せられた、輸入書類の不備にまつわる相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

東京都内で海外製サプリメントの輸入販売を計画している株式会社Z 代表取締役 A氏

【相談内容】

当社は今回、初めてアメリカのメーカーから大量のサプリメントを輸入することになりました。通関業者からは、インボイスやパッキングリストを送るように指示を受けましたが、メーカーからはプロフォーマーインボイス(仮仕入書)しか届いていません。A氏は、金額さえ合っていれば問題ないと考え、その書類を通関業者に渡して輸入申告を進めてもらいました。しかし、税関の審査において、支払実態と書類の内容が整合しないとの指摘を受け、貨物が保税地域で足止めされてしまいました。さらに、特恵関税の適用を受けるための原産地証明書も、形式が古いという理由で受理されませんでした。貨物の滞留による保管料が膨らみ、国内販売のスケジュールも大幅に遅れています。このような書類のトラブルを未然に防ぐには、どのような点に注意すべきだったのでしょうか。

このような事例は、輸入実務に慣れていない企業において頻繁に発生します。輸入申告は、単なる事務手続きではなく、関税法という法律に基づいた厳格な行政手続きであることを理解しなければなりません。

1 輸入申告と書類提出の法的根拠

ビジネスで貨物を輸入する際に必要となる書類は複数あります。

通常は、貨物の輸入は通関業者に依頼し、通関業者からの指示に沿って書類を提出すれば、あとは通関業者が適切に輸入申告をしてくれます。そのため、どのような書類が、輸入申告においてどのような意味合いを持っているのか、ということに関してまで明確には認識することができていないケースも多いのではないでしょうか。

まず、輸入申告において書類が必要とされる法的根拠を確認します。

関税法第67条(輸出又は輸入の許可)

貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、税関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない。

関税法第68条(輸出申告又は輸入申告に際しての提出書類)

前条の規定による輸入申告をしようとする者は、仕入書(インボイス)その他税関長において必要があると認める書類を提出しなければならない。

この条文にある通り、インボイス等の提出は努力義務ではなく、法律上の明確な義務です。税関はこれらの書類を精査することで、輸入される貨物の品名、数量、そして関税の計算基礎となる課税価格が正しいかどうかを判断いたします。

2 インボイス(仕入書)の重要性と種類

インボイスは、通常、貨物の購入者(輸入者)に対してメーカー側が発行する納品書兼請求書のことを指しますが、送付状や見積もり段階で発行される場合もあります。輸入申告において最も基本的な書類であり、課税価格を決定する際の最大の根拠となります。

代表的なものとしては、プロフォーマーインボイスとコマーシャルインボイスの2種類があります。

(1)コマーシャルインボイス(商業送り状)

これは実際の取引に基づき、売主が買主に対して発行する確定した確定仕入書です。輸入申告において原則として提出が求められるのはこちらの書類です。貨物の正確な説明、単価、総額、支払い条件、インコタームズ(貿易条件)などが記載されている必要があります。

(2)プロフォーマーインボイス(仮仕入書)

見積書の性格を持つ仮書類です。信用状(L/C)の開設時や、事前の輸入許可申請のために使用されることはありますが、最終的な輸入申告においては、コマーシャルインボイスが優先されます。冒頭の相談事例のように、プロフォーマーインボイスだけで申告を行うと、実際の送金額と差異が生じた場合に虚偽申告を疑われるリスクがあります。

関税法第7条(申告)では、納税申告において価格を正しく記載することを求めており、インボイスの内容が不正確であれば、この義務を尽くしていないことになります。

3 パッキングリスト(梱包明細書)の役割

パッキングリストは、貨物がどのように梱包されているのか、梱包の数はいくつなのか、梱包の番号と内容、大きさと重量はどうなっているのか、梱包の外装に書かれたマーク(荷印)はどんなものなのか、といった梱包の状況や梱包された貨物の内容等を把握することを目的として作成される書類です。

インボイスだけでは、実際の貨物の状況が分かりませんので、インボイスとあわせて輸入申告の際には提出されることになります。税関による現物検査が行われる際、検査官はパッキングリストを参照して、どの箱の中にどの製品が入っているかを確認します。

もしパッキングリストの記載と実際の梱包内容が異なっていた場合、隠匿物(密輸品)の存在を疑われるなど、検査が長期化する原因となります。実務上は、インボイスと内容が完全に一致していることを、輸入者自身が事前にチェックすることが極めて重要です。

4 運送書類(B/L、AWB)の法的性質

船便輸送の場合のB/L(船荷証券)は、輸入取引に関する書類で最も重要なものの一つです。なぜなら、この書類と引き換えに、貨物を受領することができるからです。

(1)B/L(船荷証券)

船会社が貨物を引き受けたことを証明するとともに、船会社に対して貨物の引き渡しを請求できる権利を表彰する有価証券としての性質を持ちます。日本の商法や国際海上物品運送法といった法律とも深く関わる書類であり、荷受人(コンサイニー)の記載が輸入者本人と一致している必要があります。

(2)AWB(航空貨物運送状)

航空便の場合の航空貨物輸送状はAWBといいます。B/Lとは異なり、有価証券としての性質は持ちませんが、運送契約の証拠書類として輸入申告の際に必須となります。

これらの書類に記載された到着港や重量などのデータが、インボイスの内容と矛盾している場合、税関から厳格な説明を求められることがあります。

5 原産地証明書の税制上のメリット

原産地証明書は、EPA等を利用して税制上の優遇等を受けるために必要な書類です。

近年では経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)の拡大により、特定の国からの輸入について関税を免除または減免する機会が増えています。この適用を受けるためには、貨物が間違いなくその国で生産されたものであることを証明する原産地証明書が不可欠です。

ただし、原産地証明書には有効期限があり、また協定ごとに定められた特定の様式(フォーム)を遵守しなければなりません。冒頭の事例のように、古い様式を使用したり、記載内容に不備があったりすると、本来受けられるはずの免税措置が受けられず、多額の関税を支払うことになってしまいます。

6 その他の必要書類と他法令の確認

輸入する品目によっては、関税法以外の法律(他法令)に基づく書類が必要となる場合があります。

(1)保険承認状

貨物に保険をかけている場合、その保険料も原則として課税価格に加算されるため、保険金額を確認するための書類が必要となることがあります。

(2)成分分析表や製造工程表

食品や化学品、化粧品などを輸入する場合、食品衛生法や薬機法(医薬品医療機器等法)に適合しているかを判断するために、詳細なスペックシートが求められます。

(3)輸入許可証(他法令分)

例えば、動植物を輸入する際の検疫証明書や、経済産業省の輸入割当が必要な品目の場合は輸入承諾書など、関税法以外のハードルをクリアしたことを示す書類です。

これら他法令の確認を怠ると、関税法上の申告を行うことすらできません。

7 書類管理における実務チェックリスト

輸入者が通関業者へ書類を渡す前に確認すべき事項を整理すると以下のようになります。

【輸入書類の事前チェック表】

確認対象書類|チェックすべき具体的なポイント|留意事項|

インボイス|単価、総額、通貨単位に誤りはないか|コマーシャルインボイスを使用すること|

インボイス|品名が具体的で、実態を反映しているか|抽象的な表現(部品等)は避けること|

パッキングリスト|個数、正味重量、総重量が正確か|インボイスの数量と照合すること|

パッキングリスト|梱包番号と中身の対応が明確か|検査対象の特定に必要|

運送書類|荷受人の名称と住所は正しいか|裏面裏書の有無を確認すること|

原産地証明書|適用を受けるEPAの様式に合致しているか|有効期限内であることを確認すること|

他法令書類|成分表や検査済証は揃っているか|専門機関への事前相談を推奨|

8 書類の不備に伴う法的リスクとペナルティ

輸入申告における書類の不備や、虚偽の記載は、単なる事務ミスでは済まされない重い法的責任を伴います。

関税法第110条(関税を免れる罪)

偽りその他不正の行為により関税を免れた者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

意図的な隠蔽だけでなく、重大な過失によって不適切な書類で申告を行い、結果として関税を低く抑えてしまった場合、脱税とみなされる可能性があります。また、刑事罰に至らないまでも、過少申告加算税や重加算税といった重い附帯税が課されます。

一度、税関のブラックリストに掲載されると、その後の輸入取引において全件検査が行われるようになり、ビジネスのスピードが極めて低下するという実質的な不利益を被ることになりかねませんので注意が必要です。

9 輸入者が持つべき専門知識と確認の重要性

通関業者はプロフェッショナルですが、彼らはあくまで「輸入者から提出された書類」を信じて申告書を作成します。取引の背景や、別ルートでの支払いの有無、詳細な製品スペックなど、輸入者本人しか知り得ない情報については、輸入者が自ら正確に伝えなければなりません。

各書類の内容等はまた、別の機会にご紹介できればと思いますが、概要にとどまる今日の説明だけでも、書類一枚一枚に重い法的責任が宿っていることがお分かりいただけたかと思います。

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

10 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出入トラブルや通関トラブルを幅広く取り扱っております。

弁護士でありながら通関士の知見を持つことで、書類上の形式的なチェックだけでなく、関税法や他法令に照らした本質的なリーガルリスクの診断が可能です。

具体的には、以下のようなサービスを提供しております。

①輸入取引開始前の必要書類および他法令適用のリーガルチェック

②不適切な書類提出による税関調査や貨物差し止めへの緊急対応

③EPA原産地証明書の有効性確認および自己申告制度への対応支援

④通関業者との契約およびコミュニケーションの最適化アドバイス

輸出入トラブルや通関トラブルでお困りの方や、ご不明な点やご不安な点等ございましたら、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

11 適正な書類準備がビジネスを守る

輸入申告における書類は、単なる紙切れではなく、国の通関手続を通過するための通行証であり、かつ輸入者の誠実さを証明する証拠書類でもあります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい書類を正しく準備すること。この基本的なコンプライアンスの積み重ねこそが、予期せぬトラブルから会社を守り、海外ビジネスを長期的に成功させるための唯一の近道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入ビジネスのリスク管理と税関事後調査

2021-03-31

0 はじめに

まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、架空の事例をご紹介いたします。輸入実務を日常的に行っている企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。

【相談者】

神奈川県内に拠点を置く、欧州家具の輸入販売を行う株式会社X 代表取締役 Y氏

【相談内容】

「当社は10年以上、イタリアやフランスのメーカーから高級家具を輸入し、国内のセレクトショップへ卸しています。通関業務や国際輸送については、長年付き合いのある大手フォワーダーにすべて委託しており、これまで一度もトラブルはありませんでした。ところが先日、税関から『税関事後調査』の実施通知が届きました。慌てて過去の書類を確認したところ、家具の輸入価格(インボイス価格)とは別に、現地のデザイナーに対してデザインの使用料、いわゆるロイヤリティを毎月送金していることが判明しました。また、昨年からは製品の品質を高めるため、日本からクッション材を無償でメーカーへ送り、それを家具に組み込んでもらっています。フォワーダーに相談したところ、『それらの費用は輸入申告の際に加算すべき要素だった可能性があるが、指示を受けていなかったのでインボイスの金額だけで申告していた』と言われてしまいました。もし多額の追徴課税が発生した場合、当社の経営に深刻な影響が出かねません。どのような法的準備をすべきでしょうか。」

このような事例は、決して珍しいものではありません。

輸入者が「実務はプロに任せている」と盲信している間に、法的義務である適正申告が漏れてしまっているケースは多々存在します。

1 輸入通関手続の適正さを日々精査することが重要な理由

輸入取引をビジネスの中心とする場合、通常は、通関手続きや貨物の運送などは、フォワーダー等の専門家に依頼すればよいので、基本的には、ビジネスを行う者はそれらの手続面を気にする必要はないのが実情といえます。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。なぜなら、輸入申告の責任は、代行した通関業者ではなく、輸入者本人に帰属するからです。

関税法第7条等では、輸入者の義務を明確に定めています。

要約すると、貨物を輸入しようとする者は、当該貨物の品名及び数量並びに価格その他必要な事項を税関長に申告しなければならない、と規定されております。

ここにある「価格」とは、単に相手に支払った金額を指すのではなく、関税法上の「課税価格」としてのルールに基づいた計算結果を指します。この計算こそが、輸入ビジネスにおける最大の落とし穴となります。

2 税関事後調査という制度の実態

というのも、税関事後調査という制度があり、貨物を輸入した後、相当程度の期間経過後に税関が貨物の輸入申告が適切に行われたかどうかを輸入者の事業所等で調査することがあります。これは、輸入許可を迅速に下す代わりに、後からじっくりと書類を精査して、税金の取りこぼしがないかを確認する仕組みです

調査は通常、5年に一度程度の頻度で行われることが多く、過去数年分の取引データがすべてチェックの対象となります。調査官は企業の会計帳簿や銀行の送金記録、輸出者との契約書、さらにはメールのやり取りまで精査します。そこで「申告漏れ」が発見されると、過去に遡って不足税額を徴収されることになります。

このような調査があることを踏まえて、具体的にどのような点に注意しておく必要があるかというと、それは、ビジネスの内容ごとに大きく異なります。特に、輸入者側から輸出者側に対して原材料の一部を無償で提供している場合や知的財産権に絡む問題がある場合等では注意が必要です。

3 課税価格に加算すべき要素と関税定率法第4条の重要性

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。ここで重要となる規定の一つが、関税定率法第4条です。

実務上、特に見落とされやすいのは、いわゆる「輸入価格の算出に関わる支援(アシスト)」に関する費用です。日本から金型を送って製品を作らせている場合や、原材料を無償で提供している場合、その金型の償却費や原材料の調達費用を、インボイス上の製品価格に上乗せして申告しなければなりません。

また、ロイヤリティについても同条第1項第4号に規定があります。

これらは、商品の代金とは別のルートで支払われることが多いため、通関業者が把握することは不可能です。輸入者側で明確な管理体制が整っていない限り、ほぼ確実に申告漏れが発生します。

4 輸入者が行うべきセルフチェック

社内のコンプライアンス体制を構築し、各部門間の情報共有を円滑にすることがリスク回避の第一歩となります。

【輸入申告価格の適正性確認表】

項目(カテゴリ)|具体的な確認内容|関連部署(情報源)|

原材料の無償支給|輸出者へ生地、部品、資材を無償で送っていないか|製造・物流部門|

金型・工具の提供|製品製造のための金型や設計図を無償提供していないか|開発・生産管理|

ロイヤリティ支払|商標権やデザイン権料を別途送金していないか|法務・経理部門|

運送関連費用の負担|輸入港までの運賃や保険料を輸入者が別途支払っていないか|物流・海外営業|

買付手数料の区別|代理店への支払いが「買付手数料」に該当するか精査したか|調達・購買部門|

特別な関係の有無|輸出者と親子会社などの資本関係はないか|経営企画・総務|

このような視点を用いて、定期的に社内監査を実施することが推奨されます。特に新しく取引を開始する際には、契約書の段階でこれらの費用負担がどのようになっているかを精査しなければなりません。

5 申告漏れに対する厳格なペナルティ

法令を遵守しなかった場合、経済的なダメージだけでなく、社会的信用の失墜も招きます。関税法には、以下のような附帯税の規定があります。

関税法第12条の2(過少申告加算税)

納税義務者が納税申告をした後において、修正申告が行われた場合、又は更正があった場合には、当該納税義務者に対し、その修正申告又は更正により納付すべき税額の100分の10(一定の金額を超える部分は100分の15)に相当する過少申告加算税を課する。

これに加え、悪質と判断された場合には重加算税が課されます。

関税法第12条の4(重加算税)

納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

重加算税が課されると、その後の輸入において全件検査の対象となるなど、ビジネスのスピードが著しく低下するリスクがあります。適正な申告を維持することは、スムーズな物流を確保するための必要経費とも言えます。

6 実務上の対策:フォワーダーとの連携強化

専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

具体的には、以下の3点を実施することをお勧めいたします。

①インボイス以外の費用が発生している場合は、必ず通関業者等の専門家に事前に相談することです。ロイヤリティの支払いがある場合や、原材料を支給している場合、それを通関業者に伝えれば、彼らは適切な加算計算を行ってくれます。

②契約書の作成段階で、関税評価上の問題を検討することです。契約書に「デザイン料は別途支払う」と記載があれば、それは課税対象になる可能性が非常に高いです。法務部門と物流部門が連携し、契約内容が税関申告にどのような影響を与えるかを常に検討すべきです

③税関から問い合わせがあった際には、独断で回答せず、専門家の助言を仰ぐことです。事後調査の際の不用意な回答が、事実の隠蔽とみなされ、重加算税の対象となってしまうケースも少なくありません。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所では、代表弁護士が、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出入トラブルや通関トラブルに関するご相談を幅広く取り扱っております。

弁護士でありながら通関実務の現場を知る専門家として、法的な解釈のみならず、実際の通関申告書の作成プロセスや税関当局との交渉戦略についても、具体的なアドバイスを提供することが可能です。

ご相談いただいたビジネスの内容を踏まえ、日々の業務においてどのような点を注意すべきかを整理するといったサービスもご提供しております。具体的には、以下のようなサポートを行っております。

①輸入契約書のリーガルチェックおよび関税評価の適正化アドバイス

②税関事後調査に対する事前模擬調査の実施と改善案の提示

③不当な更正処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理

④社内向け通関コンプライアンス研修の実施

日々の業務で貨物の輸入を頻繁に行っているものの、輸入・通関に関して把握できていない等ご不安な点等ございましたら、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

8 輸入ビジネスの持続可能性を高めるために

輸入ビジネスの成功は、良い商品を安く仕入れることだけではありません。その背後にある法的義務を誠実に果たし、国家の税務当局との信頼関係を維持することも、経営者の重要な責務です。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

事後調査で指摘を受けてから後悔するのではなく、日常の業務フローの中に法的チェック機能を組み込むことが、結果として最もコストパフォーマンスの良い経営判断となります

適切な知識を持ち、適正な申告を行うことで、貴社の輸入ビジネスがより強固なものとなるよう、当事務所はサポートいたします。

もし貴社において、現在の通関体制に少しでも不安をお持ちであれば、まずは現状の取引内容を整理し、潜在的なリスクを洗い出すところから始めましょう。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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