Archive for the ‘コラム~人事労務・労使トラブル~’ Category
年次有給休暇の時季指定権について
年次有給休暇が労働者にとって非常に重要な制度であることはこれまでのコラムにおいてご紹介してまいりました。
年次有給休暇は基本的には労働者が自由に取得することができることが原則的なルールではあります。もっとも、労働者が一斉に年次有給休暇を取得する等、一定の場合には、労働者の年次有給休暇の自由な取得を認めると企業の業務にとって非常に重大な影響が生じる可能性があります。
そこで、労働基準法上、企業の時季変更権が認められておりますが、原則としてはあくまでも労働者が自由に取得日を決定できます。
本日は、このような年次有給休暇の時季指定権をご紹介いたしますので、ご参照いただけますと幸いです。
1 年次有給休暇の時季指定権について
時季という言葉からわかる通り、休暇時期の特定については、「季節」と「具体的時期」の2つの指定方法があることを前提としており、厳密には両者を分けて検討する必要があります。
まず、労働者が具体的に始期と終期を特定して時季指定を行った場合、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、その時季に年次有給休暇が成立し、当該労働日の就労義務が消滅します。
その意味で、このような時季指定権は、形成権と把握され、適法な時季変更権を解除条件としてその効果が発生します。
このような時季指定権行使の公課が発生するのは、あくまでも、具体的に始期と終期を特定した休暇の時季指定についての判断であることには注意が必要です(白石営林署事件・最判昭和48・3・2民集27・2・191等)。
2 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、人事労務に関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。
日々の業務の中で発生する人事労務に関するご相談や、新しい労働関連法規の成立、修正により自社にどのような影響が生じているかを確認したいといった場合まで、人事労務に関してご不明な点やご不安な点等ございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
配転命令が制限される場合について
従業員の配転は、企業の人事の一環として、労働契約上特段の合意がない限りは会社が自由に決定できるとお考えの経営者の方は多くいらっしゃいます。
しかしながら、一定の場合には、特段の合意がないにもかかわらず配転命令が無効と判断される場合もありますので注意が必要です。
本日は、このような判断をした裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。
1 ジャパンレンタカー事件(津地判平31・4・12労経速2396・34)
原告の勤務先をA5店又は近接店舗に限定する旨の合意が成立しているとまではいえないとしても、具体的な原告の事情からすれば、被告会社には、原告の勤務先がA5店又は近接店舗に限定するようにできるだけ配慮すべき信義則上の義務があるというべきであり、本件配転命令が特段の事情のある場合に当たるとして、権利濫用になるかどうか判断するに当たっても、この趣旨を十分に考慮すべきであるといえる。
また、アルバイトにすぎない原告を配転してA6店に補充しなければならないほどの事情を認めることはできず,この観点から本件配転命令が必要であったとは認め難い。
したがって、本件配転命令は権利の濫用として無効というべきである。
上記裁判例は、あくまでも従業員の特殊な事情に基づく判断ではありますが、具体的な事情等によっては、特段の合意がない場合でも、信義則上の義務として会社の配転命令権が制限される可能性がある点は非常に重要ですので、是非ご注意ください。
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未払賃金立替払制度について
法律上の倒産及び中小企業の事実上の倒産の場合に、賃金の支給がなされないまま退職した従業員に対して、未払賃金の一部が立替払いされる制度として、未払賃金立替払制度があります。
本日は、このような未払賃金立替払制度の概要をご紹介いたします。
1 支給要件の概要
事業主が、1年以上事業を行っていたことに加え、法律上の倒産又は中小企業の事実上の倒産に該当することが必要です。
ここで、法律上の倒産とは、破産、民事再生、会社更生、特別清算の手続きを利用する場合を指します。また、中小企業の事実上の倒産とは、一定の中小企業の事業活動が停止し、再開の見込みがなく、従業員に対する賃金の支払能力がない場合を指します。
2 支給を受けることができる従業員
事業主の倒産に関する認定申請日の6か月前から2年の間に退職した従業員であり、かつ未払い賃金が2万円以上残っていることが必要です。
また、立替払いの対象となる未払い賃金は、従業員の退職日の6か月前から独立行政法人労働者健康安全機構に対する立替払請求の前日までに賃金の支払期日が到来しているにもかかわらず未払となっている定期賃金及び退職手当であり、実際の立替額はその8割(ただし、退職時の年齢に応じた上限額あり)に限られますので、注意が必要です。そのため、賞与や解雇予告手当等については、賃金には該当せず立替払いの対象とはなりません。
なお、未払賃金立替払制度のこれまでの利用状況は、令和元年度が利用企業数1,991件(支給者数は23,992人)、平成30年度が利用企業数2,134件(支給者数は23,554人)、平成29年度が利用企業数1,979件(支給者数は22,458人)となっております。
3 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所では、労働問題・トラブルの予防策から、実際に生じた問題・トラブルへの対応まで、幅広く取り扱っておりますので、未払賃金立替払制度のご利用を検討されている場合は、お気軽にご相談ください。
退職勧奨の違法性が認められた裁判例
本日は、退職勧奨の違法性が認められた裁判例についてご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。
1 下関商業高校事件(広島高判昭52・1・24労判345・22)
【判示の概要】
退職勧奨が、前年度までの回数を大幅に超えるものであり、しかもその期間も前記のとおりそれぞれかなり長期にわたっているのであって、あまりにも執拗になされた感はまぬがれず、退職勧奨として許容される限界を越えているものというべきである。また本件以前には例年年度内(三月三一日)で勧奨は打切られていたのに本件の場合は年度をこえて引続き勧奨が行なわれ、加えて八木らは被控訴人らに対し、被控訴人らが退職するまで勧奨を続ける旨の発言を繰り返し述べて被控訴人らに際限なく勧奨が続くのではないかとの不安感を与え心理的圧迫を加えたものであって許されないものといわなければならない。
さらに、その後の様々な嫌がらせといえる行為について加味すると、被控訴人らに対し二者択一を迫るがごとき心理的圧迫を加えたものであるといわざるを得ない。
以上のとおり、上記裁判例においては、退職勧奨の態様があまりにも執拗であって、退職勧奨として許容される限度を超えて退職を強要したとして、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いが認められました。
あくまでも具体的な事例に基づく判断ですが、他の事案でも参考となる裁判例と考えられます。
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退職願の撤回の可否について
労働者が会社に対して退職願を提出した後に、当該退職願を撤回したいとの要望を出してきたという経験のある経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この点について、参考となる裁判例をご紹介いたしますので、ご参照いただけますと幸いです。
1 大隈鉄工所事件(最判昭62・9・18労判504・6)
【判示の概要】
労働者の退職願に対する承認について、採用後の当該労働者の能力、人物、実績等について掌握し得る立場にある人事部長に退職承認についての利害得失を判断させ、単独でこれを決定する権限を与えることとすることも、経験則上何ら不合理なことではない。
そして、部長に被上告人(退職願を出した労働者のこと。以下同様。)の退職願に対する退職承認の決定権があるならば、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、部長が被上告人の退職願を受理したことをもって本件雇用契約の解約申込に対する上告人(会社のこと)の即時承諾の意思表示がされたものというべく、これによって本件雇用契約の合意解約が成立したものと解するのがむしろ当然である。
以上のとおり、本裁判例を前提とすると、労働者が退職願を提出し、それを人事権を掌握する人物が受理した場合には、即時に雇用契約の解約合意が成立したと判断される可能性がありますが、あくまでも具体的な事例ごとに慎重に判断すべきですので、ご注意ください。
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解雇権濫用により解雇無効とした裁判例
本日は、解雇権濫用により解雇無効とした裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。
1 日本食塩製造事件(最判昭50・4・25労判227・32)
本事案は、ユニオンショップ協定に基づき、労働組合が除名した労働者を、会社側が解雇したところ、解雇の有効性が問題となった事案です。
【判示の概要】
労働組合から除名された労働者に対しユニオン・シヨツプ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオン・シヨツプ協定によつて使用者に解雇義務が発生している場合にかぎり、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、右除名が無効な場合には、前記のように使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。
以上の裁判例は、解雇の前提となった労働組合からの除名がそもそも無効であることから、ユニオンショップ協定を踏まえた解雇が無効と判断されたものであり、特殊な事案ではありますが、解雇の前提とした事情が正確かどうかを検討することが必要であるという点は、様々な場面で応用できますので、他の事案でも参考となる裁判例であるものといえます。
2 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、人事労務に関するご相談を幅広くお受けしております。
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就業規則上に規定されていない事由を理由とする懲戒処分
従業員に対して懲戒処分を行う場合、初めに確認する必要があるのは、就業規則上の懲戒事由に該当するかどうかです。
就業規則上の懲戒事由に該当しない場合には懲戒処分を行うことができませんので注意が必要です。
本日は、就業規則上に規定されていない事由を理由とする懲戒処分に関する裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。
1 立川バス事件(東京高判平2・7・19労判580・29)
【判示の概要】
本件で懲戒処分の根拠とされた「重要な経歴資格を偽ったとき」(五三条四号)についても、原則として懲戒解雇を予定し、情状により、出勤停止又は減給若しくは格下げに止めることができる旨を規定していることが明らかである。
このような懲戒に関する規定からみると、五三条は、懲戒解雇にふさわしい態様の非行を対象とした規定であり、懲戒の内容もそれに応じ、仮に情状酌量しても、出勤停止又は減給若しくは格下げに止めるものとして定められているのであり、更にそれを減じて譴責処分に付することは予定されていないものと解される。
したがって、本件のように、就業規則五三条の経歴詐称に該当することを理由に譴責処分に付することは、就業規則に違反し、無効といわなければならない。
繰り返しとなりますが、就業規則上の懲戒事由に該当しない場合には懲戒処分を行うことができませんので、懲戒処分を検討されている場合にはご注意ください。
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会社側による就労拒否と賃金支払義務について
本日は会社側による就労拒否と賃金支払い義務に関する裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。
1 新興工業事件(神戸地尼崎支判昭62・7・2労判502・67)
本事件は、提出が義務付けられていた報告書について、提出をしなかった従業員に対して、会社側が就労を拒否した事案において、当該従業員への賃金の支払義務が問題となったものです。
【判示の概要】
原告は就労を被告側に申し出ていたが、雇用関係において、労働者は、従業員の服務上の規律につき使用者の指揮命令に服すべき義務があり、正当な理由なしにその命令を拒否している場合には、たとえ就労の申出をしたとしても、それは労働者としての服務規律に違反し、ひいては職場秩序を乱すものであるから、原則として債務の本旨に従った労務の提供とはいえないものと解すべきである。
本件における原告の作業ミス報告書の提出拒否は、全社的な品質管理の向上を目指す運動の一環として重要な意味を有する作業ミスの自主申告制度を否定し、それに対する協力を拒むものであり、これを放置するときは、右品質管理運動の円滑な遂行を阻害し、その目的達成の支障となる具体的な危険があるものと考えられるし、また、原告は、これを拒否すべき正当な理由がないばかりか、むしろ前述のような独善的な見解のもとに、会社の施策に対し敵意と反感をもち、これにあくまで抵抗しようとしたものであり、再三の説得にも応じようとしないそのかたくなな態度を考えれば、職場秩序の上からも無視できないものがあるといわなければならない。
したがって、原告が、作業ミス報告書の提出を拒否する態度を変えないままで、仕事だけはさせてほしいと申し出たとしても、それは債務の本旨に従った労務の提供といえないばかりでなく、その瑕疵は決して軽度なものではなくて、被告として受忍すべからざるものというべきであるから、その就労の申出を拒否することは正当であり、被告の責に帰すべき事由による就労不能にはならないものとすべきである。
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従業員に対する懲戒処分が無効とされた裁判例
本コラムにおいて、これまで懲戒処分に関して何度かご紹介してまいりました。
本日は、従業員に対する懲戒処分が無効とされた裁判例をご紹介いたしますので、ご参照いただけますと幸いです。
1 日本ヒューレット・パッカード事件(最判平24・4・27労判1055・5)
本事案は、精神的な不調により無断欠勤をしていた従業員に対して、会社が懲戒処分を行ったところ、当該懲戒処分が無効ではないかが問題となった事案です。
【判示の概要】
精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから,使用者である上告人としては,その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上,精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば,上告人の就業規則には,必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。),その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり,このような対応を採ることなく,被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。
そうすると,以上のような事情の下においては,被上告人の上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解さざるを得ず,上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた本件処分は,就業規則所定の懲戒事由を欠き,無効であるというべきである。
精神的な不調を訴えていた従業員という特殊な事案ではありますが、昨今精神的な不調を訴える従業員は増加傾向にありますので、懲戒処分を行う場合には、慎重にご対応いただくよう、ご注意ください。
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元請会社が下請会社の従業員に対して安全配慮義務を負うかどうかについて
本日は、元請会社が下請会社の従業員に対して安全配慮義務を負うかどうかについて、参考となる裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。
1 三菱重工業神戸造船所事件(最判平3・4・11労判590・14)
下請会社の従業員が、作業に伴う騒音により聴力障害にり患したところ、元請会社が下請会社の従業員に対して安全配慮義務を負うかどうかが問題となった事案です。
【判示の概要】
安全配慮義務が、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上、一般的に認められるべきものである点にかんがみると、下請企業(会社又は個人)と元請企業(会社又は個人)間の請負契約に基づき、下請企業の労働者(以下「下請労働者」という)が、いわゆる社外工として、下請企業を通じて元請企業の指定した場所に配置され、元請企業の提供する設備、器具等を用いて又は元請企業の指示のもとに労務の提供を行う場合には、下請労働者と元請企業は、直接の雇用契約関係にはないが、元請企業と下請企業との請負契約及び下請企業と下請労働者との雇用契約を媒介として間接的に成立した法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったものと解することができ、これを実質的にみても、元請企業は作業場所・設備・器具等の支配管理又は作業上の指示を通して、物的環境、あるいは作業行動又は作業内容上からくる下請労働者に対する労働災害ないし職業病発生の危険を予見し、右発生の結果を回避することが可能であり、かつ、信義則上、当該危険を予見し、結果を回避すべきことが要請されてしかるべきであると考えられるから、元請企業は、下請労働者が当該労務を提供する過程において、前記安全配慮義務を負うに至るものと解するのが相当である。そして、この理は、元請企業と孫請企業の労働者との関係においても当てはまるものというべきである。
以上のとおり、あくまでも事例判断ではありますが、元請会社が下請会社の従業員に対して安全配慮義務を負う場合もある点にはご注意ください。
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