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関税の納税義務者に関する法的解釈

2021-09-03

1 はじめに―相談事例

国際取引において、貨物が誰の所有物であり、誰がその輸入に伴う公租公課を負担すべきかという問題は、契約上の義務だけでなく、法的な納税義務の観点からも極めて重要です。まずは、納税義務者の特定が問題となる具体的な相談事例を想定してみましょう。

【相談内容】

「当社はドイツのメーカーから産業用ロボットを輸入する契約を締結し、仕入書(インボイス)上の荷受人として記載されていました。しかし、貨物が日本に到着し、保税地域に搬入された段階で、急遽、国内の別の取引先であるF社へ当該貨物を転売することになりました。

F社からは『自社で通関手続きを行い、国内に引き取りたい』と言われています。この場合、税関への輸入申告において、納税義務者は当初の荷受人である当社(E社)になるのでしょうか、それとも転売を受けたF社になるのでしょうか。

また、通関手続きを依頼している通関業者から『場合によっては通関業者が納税義務を負うこともある』と説明を受けたのですが、どのような場合にそのような事態が起こり得るのでしょうか。ビジネスのコスト計算に関わるため、正確なルールを知りたいと考えております」

このようなケースは、商流が複雑化する現代の貿易実務において珍しくありません。関税の納税義務者が誰であるかを正確に把握していないと、予期せぬ追徴課税や加算税のリスクを招く恐れがあります。以下、関税法に基づくルールを解説いたします。

2 関税の納税義務者に関する原則的ルール

関税を納めるべき義務を負う者(納税義務者)については、関税法第6条に基本的な規定があります。この条文を理解することがすべての基本となります。

「関税は、この法律及び関税定率法その他関税に関する法律に別段の規定がある場合を除き、貨物を輸入する者が納める義務を負う」

ここでいう「貨物を輸入する者」とは、単に物理的に貨物を運び込む者を指すのではなく、法的な意味での輸入主体を指します。実務上、この「輸入する者」が誰であるかを判断する基準は以下の通り整理されています。

(1)原則としての荷受人

通常の輸入手続きにおいて、税関に提出する仕入書(インボイス)に記載された荷受人(コンサイニー)が、原則として納税義務者となります。これは、荷受人がその貨物の実質的な所有権を有し、輸入によって経済的利益を得る主体であると推定されるためです。

(2)保税地域等での転売がある場合

相談事例のように、貨物が日本に到着した後、輸入許可を受ける前に転売が行われた場合の取り扱いについては、関税法基本通達6-1(輸入する者の意義)に指針が示されています。

同通達によれば、輸入申告の際において、その貨物を保税地域から引き取る権利を有する者が「輸入する者」に該当します。したがって、輸入許可前に適法に転売が行われ、貨物の引き取り権限が移転した場合には、その転得者(購入者)が納税義務者となります。

(3)輸入申告の代理と納税義務

輸入申告を通関業者等に委託した場合であっても、納税義務を負うのはあくまで委任元である輸入者本人です。代理人はあくまで手続きを代行する立場であり、特段の事情がない限り納税の主体にはなりません。

以下に、原則的な納税義務者の決定プロセスをまとめた図表を掲載いたします。

【取引態様別の原則的納税義務者】

取引の態様 納税義務者となる者 判断の根拠
通常の直接輸入 仕入書(インボイス)記載の荷受人 貨物の実質的輸入主体
本邦到着後の転売 貨物の転得者(買い手) 貨物を引き取る権利の所在
委託加工貿易(逆委託) 加工品の輸入者 国内へ引き取る主体
郵便物による輸入 郵便物の受取人 貨物の最終帰属先

3 例外的に特定の者が納税義務者となるケース

関税法第6条の但書きにある「別段の規定がある場合」には、輸入者以外の者が納税義務を負うことになります。これは、貨物の管理状態や特定の事実発生に基づいて、徴収の確実性を期するための規定です。

(1)保税地域からの亡失等の場合

貨物が保税地域にある間に紛失したり、許可を受けずに廃棄されたりした場合の取り扱いです。

関税法第45条(許可等を受けた貨物の亡失等の場合の関税の徴収)

「保税地域にある外国貨物(中略)が亡失し、又は滅却されたときは、当該貨物が亡失し、又は滅却された時における当該貨物の保管人から、その関税を直ちに徴収する」

この場合、輸入者ではなく、貨物を管理していた保税蔵置場の承認者や管理人が納税義務を負うことになります。ただし、天災その他やむを得ない事由による滅却であると税関長が認めた場合は除かれます。

(2)通関業者が納税義務を負う場合

実務上、非常に強力な規定として知られているのが、通関業者の補完的な納税義務です。

関税法第13条の3(通関業者の納税義務)

「輸入の許可を受けて引き取られた貨物について、納付された関税に不足額があつた場合において、当該許可若しくは承認の際当該貨物の輸入者とされた者の住所及び居所が明らかでなく、又はその者が当該貨物の輸入者でないことを申し立てた場合であつて、かつ、当該貨物の輸入に際してその通関業務を取り扱つた通関業者が、その通関業務の委託をした者を明らかにすることができなかつたときは、当該通関業者は、当該貨物の輸入者と連帯して当該関税を納める義務を負う。」

通関業者にとっては非常に重いリスクとなるため、実務上の確認作業が厳格に行われるべき理由の一つとなっています。

(3)郵便物に関する特例

郵便物については、通常の輸入申告とは異なる手続き(賦課課税方式等)がとられることがあります。

関税法第77条に基づき、郵便物についてはその受取人が納税義務者となります。また、日本郵便株式会社が税関長に代わって関税を徴収し、納付する仕組みとなっています。

4 納税義務者が拡大・変更される特殊な状況

(1)過大な払戻し等を受けた場合

本来受けるべきでない関税の払い戻しや還付を受けた場合、その利益を享受した者が、返還すべき関税の納税義務者となります。これは不当利得の返還に近い性格を持ちますが、関税法上の義務として規定されています。

(2)他法令違反等による没収に代わる追徴金

貨物が没収されるべき状況において、既に貨物が消費・転売されて没収不能である場合、その貨物の所有者等に対して没収に代わる追徴金が課されることがあります。これも広い意味での納税義務の変形と言えます。

5 実務上の留意点とトラブル回避策

(1)インボイス記載の正確性

税関はまずインボイスを見て納税義務者を判断します。BtoBの取引において、支払者と荷受人が異なる場合や、代理購入の形式をとる場合は、どちらが関税を負担する主体(輸入者)であるかを明確にし、通関業者に事前に正しく伝える必要があります。

(2)DDP(仕向地持ち込み渡し・関税込み)契約の落とし穴

インコタームズでDDP条件(輸出者が関税を負担する契約)を選択している場合でも、日本の関税法上の納税義務者は、依然として国内の荷受人(輸入者)となるのが原則です。

輸出者が関税を支払わない場合、税関は国内の輸入者に対して納税を督促します。「契約で輸出者が払うことになっている」という主張は、税関に対する対抗要件にはなりません。このため、非居住者である輸出者が税関事務管理人を選任して自ら納税するスキームをとるか、あるいは輸入者が一旦立て替えて後に清算する等の実務的な手当てが必要です。

(3)転売時の権利移転時期の明確化

相談事例のように、保税地域内で転売を行う場合は、売買契約書において「どの時点で貨物の引き取り権限が移転するか」を明文化しておくべきです。輸入申告の直前に権利が移転したことを証明できる書類(譲渡通知書等)を用意しておくことで、スムーズに納税義務者の変更が認められます。

6 図解による納税義務者の体系

以下に、納税義務者の区分を整理した図を作成いたしました。

【関税の納税義務者体系図】

1.原則:貨物を輸入する者(関税法第6条)

・通常時:インボイス記載の荷受人

・転売時:貨物の引き取り権限を有する転得者

2.例外:法令により特定された者

・保税地域での亡失等:保税蔵置場の承認者等(関税法第45条)

・郵便物:郵便物の受取人(関税法第76条)

・不正加担時:通関業者(関税法第13条)

3.特殊ケース

・過大還付:還付を受けた本人

・特例申告:特例輸入者(あらかじめ承認を受けた者)

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

関税の納税義務者の特定は、単に誰が税金を払うかという問題に留まらず、その後の税関事後調査において誰が調査対象となり、誰が帳簿保存義務(関税法第94条)を負うかという問題に直結します。

もし、納税義務者の判断を誤ったまま申告を続けていた場合、過少申告加算税や無申告加算税の対象となるだけでなく、悪質な場合は重加算税や刑事罰(関税ほ脱罪)の対象となるリスクも否定できません。

当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、輸出入に関する法的な解釈と、通関実務の現場感覚を融合させたアドバイスを提供できる国内でも稀有な事務所です。

以下のような不安をお持ちの場合は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

・複雑な商流(商社、メーカー、エンドユーザー等が介在)において、誰を輸入者として申告すべきか判断に迷っている場合

・DDP契約において、海外取引先との関税負担の調整や税関への説明方法に苦慮している場合

・税関から納税義務者の誤りを指摘され、修正申告や過少申告加算税の対応が必要になった場合

・グループ会社間での在庫移動や保税転売に伴う適切な納税フローを構築したい場合

弁護士にご相談いただくことで、関税法上の解釈を確定させ、税関との交渉を有利に進めるための論理構成を構築することが可能です。また、コンプライアンスの観点から自社の輸入体制を総点検することは、企業の社会的信用を守ることにも繋がります。

「通関業者に任せているから大丈夫」という過信が、予期せぬトラブルを招くこともあります。輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、貴社のビジネスの安定を法的な側面から全力でサポートいたします。

8 まとめ

関税の納税義務者は、原則として「貨物を輸入する者(荷受人や引き取り権限者)」です。しかし、関税法には亡失時の管理人の責任や通関業者の責任など、実務上のリスクを反映した多くの例外規定が存在します。

関税法第6条、第13条、第45条といった条文を正しく理解し、自社の取引形態がどの規定に該当するのかを常に把握しておくことが、健全な貿易実務の第一歩です。

納税義務の所在を明確にすることは、コストの適正な把握だけでなく、法的なリスク管理の根幹を成すものです。不透明な点がある場合は、そのまま放置せず、専門家の知見を借りて早期に解決することをお勧めいたします。

納税義務者の特定に関するチェックリスト

・仕入書(インボイス)の荷受人は自社になっているか

・輸入許可前に他者へ転売する契約になっていないか

・保税地域での貨物管理責任は誰が負っているか

・インコタームズによる費用負担と法的な納税義務を混同していないか

・通関業者に対して取引の実態を正確に開示しているか

適正な申告と納税を通じて、貴社の国際ビジネスがより円滑に進むことを心より願っております

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

税関事務管理人制度の解説

2021-08-21

1 はじめに―相談事例の紹介

近年、Eコマースの普及やビジネスのグローバル化に伴い、海外に拠点を置く企業や個人が日本国内で直接、輸出入業務を行うケースが増加しております。まずは、税関事務管理人制度の利用が必要となる典型的な相談事例を見てみましょう。

【相談者】

米国に本社を置くEコマース事業者 D社 物流担当役員

【相談内容】

「当社は米国で健康食品を販売しており、このたび日本市場へ本格参入することを決定しました。日本国内に支店や現地法人は設立せず、米国の本校から日本の顧客へ直接商品を発送するか、日本の保税倉庫に在庫を置いて販売する予定です。

日本の税関に問い合わせたところ、日本に住所がない非居住者が輸入申告を行うためには、税関事務管理人を選任しなければならないと言われました。当社には日本に身寄りがなく、どのような人物や法人を選任すべきか、また、その管理人が具体的にどのような責任を負うのかがわからず困っております。

また、管理人がいなければ輸入許可が下りないのか、法的なペナルティはあるのかについても詳しく教えてください」

このような課題は、日本への進出を検討する外資系企業にとって共通の悩みです。日本国内に拠点を置かない非居住者が、日本の関税法を遵守しながら円滑にビジネスを行うための制度が税関事務管理人です。以下、その詳細について解説してまいります。

2 非居住者による輸出入申告と法的義務

まず大前提として、貨物を輸出入する際の基本的な義務を確認します。貨物を輸入または輸出しようとする者は、原則として税関長に対して申告を行い、必要な検査を経て許可を得なければなりません。

関税法第67条(輸出又は輸入の許可)には、以下の規定があります。

「貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、当該貨物の品名並びに数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない」

この義務は、日本国内に住所がある居住者だけでなく、海外に居住する非居住者にも同様に課されます。しかし、日本国外にいる者に対して、日本の税関が円滑に連絡を取り、あるいは書類の送達や検査の立ち会いを求めることは物理的に困難です。そこで、日本国内における窓口として、税関事務管理人の選任が義務付けられているのです。

3 税関事務管理人制度の定義と根拠条文

税関事務管理人とは、日本国内に住所や居所(法人にあっては本店または事務所)を有しない者が、日本で税関手続を行うために選任する代理人のことです。

この制度の根拠となるのは、関税法第95条(税関事務管理人)です。

同条第1項には以下のように規定されています。

「本邦に住所又は居所(法人にあつては、本店又は事務所)を有しない個人又は法人が、税関関係手続等(関税法その他の関税に関する法律の規定による税関長に対する申告、申請、請求その他の手続及び政府に対してする関税の納付、還付金の受領等をいう。以下同じ。)の事務を処理させるため、本邦に住所又は居所を有する者(法人にあつては、本店又は事務所を有するもの)のうちから税関事務管理人を選任したときは、その旨を税関長に届け出なければならない」

4 税関事務管理人が処理する事務の範囲

税関事務管理人が行う事務は、単なる書類の受け渡しに留まりません。関税法第95条、同施行令、及び関税法基本通達95-1に基づき、多岐にわたる実務を代理します。

主な事務の範囲

・輸出入申告、各種申請、請求などの税関関係手続の実施

・税関長が行う検査への立ち会い、及び内容説明

・税関長が発する更正通知、決定通知、督促状などの書類の受領

・受領した書類の非居住者(本人)への速やかな送付

・関税、消費税等の納付、並びに過誤納金の還付受領

・税関事後調査の際の窓口対応、及び資料の提示

以下に、税関事務管理人の役割を整理した比較表を掲載します。

【税関事務管理人の業務範囲と責任】

項目 具体的な事務内容 留意事項
申告事務 輸出入申告書の作成及び提出 代理人として記名捺印等を行う
検査対応 税関による貨物検査への立ち会い 貨物の内容を熟知している必要がある
文書受領 税関からの公文書(更正通知等)の受領 到達した時点で本人への送達とみなされる
金銭管理 関税・消費税の納付、還付金の受領 非居住者に代わって精算を行う
事後調査 許可後の税関調査における窓口 過去の取引記録を整理しておく義務

5 誰を選任すべきか 選任の要件と実務上の選択肢

法律上、税関事務管理人になれるのは「日本国内に住所または居所を有する個人」または「日本国内に本店または事務所を有する法人」です。特別な資格(例えば通関士や弁護士であること)は必須とされていませんが、実務上の難易度から以下の選択肢が一般的です。

(1)関連会社や取引先

日本国内に子会社や親密な取引先がある場合、その法人が管理人を引き受けるケースがあります。しかし、税関からの法的な通知を預かるという重い責任を伴うため、十分な信頼関係が必要です。

(2)通関業者

輸入申告の実務を行う通関業者が、附帯サービスとして税関事務管理人を兼ねる場合があります。実務に精通しているため、申告ミスが少ないという利点があります。ただし、すべての通関業者がこの役割を引き受けているわけではありません。

(3)専門のコンサルティング会社や法律事務所

貿易実務や税法に精通した専門家が管理人となるケースです。特に、高額な関税が発生する物品や、知的財産権、他法令の規制が絡む複雑な案件では、法的な防御力を備えた専門家を選任することが、長期的なリスクヘッジにつながります。

6 選任の手続きと届出の流れ

税関事務管理人を選任した後は、遅滞なく所轄の税関長へ届け出なければなりません。

(1)届出書類

「税関事務管理人届出書」(関税法第95条第1項に基づく様式)を提出します。この書類には、非居住者の情報、選任する管理人の情報、及び委任する事務の範囲を正確に記載します。

(2)届出先

原則として、輸出入申告を行う場所を所轄する税関に提出します。複数の税関(例えば成田、横浜、大阪など)で申告を行う場合は、主たる申告地、または複数の税関を統括する形式での届出が検討されます。

【税関事務管理人の選任フロー】

1.非居住者による管理人の選定

(適格性の確認、委任内容の合意)

2.委任契約の締結

(責任範囲、費用、期間等の明文化)

3.税関事務管理人届出書の作成

(所定の様式に記入)

4.税関への届出

(輸入申告の前に完了させる必要がある)

5.税関事務管理人の登録完了

(税関システムへの登録)

6.輸入申告の開始

(管理人の名義を含めた申告の実施)

7 税関事務管理人を選任しない場合のリスク

非居住者が管理人を選任せずに輸出入を強行しようとした場合、あるいは選任命令に従わない場合には、以下のような不利益が生じます。

(1)輸入許可の遅延・却下

税関長は、管理人の届出がないことを理由に、申告を保留したり、審査をストップさせたりすることが可能です。その結果、貨物が保税地域に留まり続け、多額の保管料が発生する恐れがあります。

(2)書類が届かないことによる不利益

税関からの修正申告の勧奨や更正通知が、日本国内の受領者不在により適切に処理されない場合、非居住者側が異議申し立てを行う機会を逸したり、延滞税が累増したりするリスクがあります。

(3)コンプライアンス上の懸念

税関事務管理人の不在は、日本の法令を軽視しているとの印象を与えかねません。これは、将来的な事後調査の対象に選ばれやすくなる、あるいは検査頻度が上がるといったマイナスの影響を及ぼす可能性があります。

8 消費税法における納税管理人との関係

注意が必要なのは、関税法上の「税関事務管理人」と、消費税法上の「納税管理人」は異なる概念であるという点です。

日本の消費税法でも、日本に拠点を置かない事業者が納税義務を負う場合、納税管理人を選任する必要があります。輸入時の消費税については税関事務管理人が対応しますが、国内販売後の消費税の確定申告については納税管理人が担当します。実務上、これら二つの役割を一箇所の専門家に委ねることで、情報の食い違いを防ぎ、一貫した税務対応が可能となります。

9 弁護士へのご相談をご希望の方へ

税関事務管理人制度は、単なる手続代行ではありません。日本国内での法的責任を非居住者に代わって引き受けるという、高度な法的リスク管理が求められる業務です。特に、海外企業が日本でビジネスを展開する際には、関税法のみならず、会社法、税法、民法といった日本の法律体系全体を俯瞰した対応が不可欠です。

当事務所は、代表弁護士が通関士資格を併せ持っており、輸出入に関わる法的トラブルや制度運用に関する唯一無二の専門性を有しております。弁護士に相談すべきかどうか、迷われる状況こそが、法的なリスクが潜んでいるサインかもしれません。

以下のようなケースでお困りの際は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。

・日本でのビジネス開始にあたり、信頼できる税関事務管理人を探している

・管理人の業務範囲や契約内容について、法的なアドバイスが欲しい

・非居住者として輸入を行った後、税関から指摘を受け、対応に苦慮している

・関税の評価申告や、ロイヤリティの加算額について税関と見解が分かれている

当事務所にご相談いただくことで、不慣れな日本の法体系の中でも、安心して事業を推進できる環境を整えるお手伝いをいたします。お悩みをご相談いただくことで、解決への糸口が見つかるだけでなく、将来的な法的リスクを未然に防ぐことが可能です。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、さらには税関事後調査への備えや税関対応等でお困りの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。貴社のグローバル展開を、法的な側面から全力でバックアップいたします。

10 まとめ

税関事務管理人制度は、非居住者が日本で健全な貿易活動を行うための架け橋となる制度です。関税法第95条の規定を遵守し、適切な管理人を選任することは、ビジネスの成功に向けた不可欠なステップといえます。

管理人には、申告から検査立ち会い、書類受領、納税まで、多岐にわたる重責が課せられます。単なる代行業者ではなく、日本の法令を熟知し、貴社のパートナーとして機能する専門家を選ぶことが、安定した輸入ビジネスの鍵となります。

本記事で解説した内容が、海外企業の皆様や、そのサポートを行う担当者の皆様にとって、一助となれば幸いです。貿易実務の壁に直面した際は、専門家への相談を検討することを強くお勧めいたします。

税関事務管理人制度のポイント再確認

・非居住者が日本で輸出入を行う際に選任が必要な代理人

・関税法第95条を法的根拠とする制度

・選任した旨を所轄税関長に届け出なければならない

・税務、検査立ち会い、書類受領等の広範な事務を代理する

・適切な選任は、円滑な通関とリスク回避に直結する

適正な制度運用を通じて、透明性の高い国際貿易を実現していきましょう

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入者による帳簿記載及び書類保存

2021-08-19

1 はじめに 相談事例

輸入ビジネスを継続的に行う上で、避けて通れないのが税関による事後調査への備えです。まずは、実際に起こり得る具体的な相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

アパレル輸入販売業 C社 法務・コンプライアンス担当者

【相談内容】

「当社は海外のブランドから衣類を継続的に輸入し、国内で販売しております。先日、税関から『事後調査を実施したい』との連絡が入りました。対象となるのは過去5年分の取引とのことです。

慌てて当時の記録を確認したところ、3年ほど前に担当者が交代しており、それ以前の仕入書や契約書が電子メールの履歴も含めてどこに保存されているか正確に把握できていないことが判明しました。また、日々の取引をまとめた帳簿についても、会計ソフト上にはデータがあるものの、税関が求める形式で網羅されているか不安があります。

もし、書類や帳簿が不足していた場合、どのような法的ペナルティを受ける可能性があるのでしょうか。また、法律上、どのような書類をいつまで保存しておかなければならないのか、最新のルールを教えてください」

このような状況は、組織の変更や担当者の離職に伴い、多くの企業で発生しがちな課題です。しかし、関税法では輸入者に対して厳格な保存義務を課しており、これに違反した場合には厳しい処分が待っています。本記事では、輸入者が遵守すべき記帳及び保存義務の詳細について解説いたします。

2 輸入者の記帳及び帳簿保存義務の全体像

申告納税方式が適用される貨物を業として輸入する者は、法律に基づき、適切な記録を残し、それを一定期間保存することが義務付けられています。この義務は単なる事務的な手続きではなく、税関が適正な納税が行われているかを事後的に確認するための極めて重要な法的根拠となります。

(1)対象となる輸入者

「業として輸入する者」が対象となります。つまり、営利を目的として継続的に輸入を行う法人や個人事業主は、すべてこの義務を負うことになります。

(2)義務の根拠規定

主要な根拠となるのは、関税法第94条(帳簿の備付け等)です。

同条第1項では以下のように規定されています。

「申告納税方式が適用される貨物を業として輸入する者は、当該貨物の品名、数量及び価格、仕出人の氏名(法人にあつては、その名称)その他財務省令で定める事項を記載した帳簿を備え付け、これを保存しなければならない」

この規定により、輸入者は取引の都度、必要な事項を帳簿に記録し、適切に管理・保存する公法上の義務を負うことになります。

3 帳簿の記載事項と保存期間の詳細

(1)帳簿への記載事項

関税法第94条第1項及び関税法施行令第83条第1項に基づき、帳簿には以下の事項を遅滞なく記載しなければなりません。

・輸入の許可の年月日及び輸入許可番号

・貨物の品名、数量及び価格

・貨物の仕出人の氏名または名称

・貨物の輸入取引に係る契約の相手方の氏名または名称及び住所

・貨物の輸入申告の日、輸入許可の日、輸入許可の年月日

・その他、課税標準の決定に際して必要となる事項

これらは、税務会計上の帳簿とは別に、関税法上の要件を満たす形で整理されている必要があります。

(2)帳簿の保存期間と場所

帳簿の保存期間については、関税法施行令第83条第6項に定められています。

「法第94条第1項に規定する帳簿の保存期間は、当該貨物の輸入の許可の日の翌日から7年間とする」

保存場所については、原則として輸入者の本店、主たる事務所、または当該輸入取引に係る事務所となります。実務上は、税関の事後調査が行われる際に、迅速に提示できる状態で管理されていることが求められます。

4 書類の保存義務とその範囲

帳簿とは別に、取引の証拠となる各種書類についても保存義務があります。

(1)保存すべき書類の種類

関税法施行令第83条第2項及び第3項に基づき、以下の書類が対象となります。

・仕入書(インボイス)

・輸入取引に係る契約書(基本契約書、個別契約書等)

・運賃明細書、保険料明細書

・仕出人との間で交わされた価格交渉等に関する書簡(電子メールを含む)

・その他、貨物の価格を証明するために必要な書類(価格表、原価計算書等)

(2)書類の保存期間

書類の保存期間は、原則として「輸入の許可の日の翌日から5年間」となります。

ただし、後述する電子取引に係る電磁的記録については、帳簿と同様に7年間の保存が必要となる場合があるため注意が必要です。

なお、関税法第94条第1項ただし書きの規定により、輸入申告の際に関税法第68条の規定に基づき既に税関へ提出した書類については、重ねて保存することを要しません。しかし、実務上は一連の取引資料として自社でもコピーを保管しておくことが一般的です。

5 電子帳簿保存法との関係と電磁的記録の保存

現代の貿易実務では、紙の書類よりも電子データによるやり取りが主流です。これに対応するため、関税法第94条第3項では、電子帳簿保存法の規定を準用しています。

(1)電子取引データの保存義務

電子メールで受信したインボイスや、ウェブサイトからダウンロードした契約書などの「電子取引」を行った場合、その電磁的記録を保存しなければなりません。

関税法第94条第3項において準用する電子帳簿保存法第10条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)に基づき、改ざん防止措置を講じた上で、検索可能な状態で保存することが求められます。

(2)電子計算機による作成と承認

帳簿や書類を最初から電子計算機(コンピュータ)を使用して作成し、保存する場合、以前はあらかじめ税関長の承認が必要でしたが、近年の規制緩和(電子帳簿保存法の改正に伴う準用規定の変化)により、一定の要件を満たせば承認なしでの保存が可能となっています。ただし、保存要件(真実性及び可視性の確保)を満たしていない場合、法的な保存義務を果たしているとはみなされないリスクがあります。

6 保存期間及び対象事項の早見表

以下に、実務で活用できる保存期間の早見表を作成いたしました。

【輸入関係書類の保存期間一覧表】

分類 保存対象項目 保存期間 根拠法令
帳簿 品名、数量、価格、取引先等を記載したもの 7年間 関税法第94条
書類 仕入書(インボイス) 5年間 関税法施行令第83条
書類 運賃明細書、保険料明細書 5年間 関税法施行令第83条
書類 契約書、価格交渉の記録(メール等) 5年間 関税法施行令第83条
電子取引 電子メール等で授受した取引データ 7年間 電子帳簿保存法準用

注1:保存期間はいずれも「輸入許可の日の翌日」から起算します

注2:消費税法等、他法令との兼ね合いで7年間の保存が推奨される場合があります

7 義務違反に対するペナルティと事後調査のリスク

帳簿の備付けを行わなかったり、書類を破棄・紛失したりした場合、輸入者は多大な不利益を被ることになります。

(1)罰則規定

関税法第115条等では、帳簿の備付け義務違反や虚偽記載、書類の隠蔽等に対して、罰金刑が定められています。

(2)推計課税のリスク

事後調査において、価格を証明する書類が提示できない場合、税関長は関税定率法の規定に基づき、類似貨物の価格等を用いて課税標準を「推計」で決定することができます。その結果、本来よりも高い関税や加算税が課される事態になりかねません。

(3)コンプライアンス評価の低下

適切な保存が行われていない企業は、税関から「コンプライアンス(法令遵守)意識が低い」とみなされ、その後の輸入検査の頻度が高まったり、簡易的な通関手続きの利用が制限されたりする等の事実上の不利益を受けることになります。

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入者の保存義務は、関税法、関税法施行令、財務省令、さらには電子帳簿保存法まで多岐にわたる法令を横断的に理解する必要があります。特に、電子データの保存要件については近年の法改正も激しく、自社の運用が現在の法律に合致しているか不安を感じている企業様も多いのが実情です。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法律と実務の両面から高度なアドバイスを提供することが可能です。弁護士に相談すべきか迷われている場合でも、まずはお話をお聞かせください。

以下のような課題をお持ちの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

・税関事後調査の通知が届き、過去の書類整備に不安がある場合

・社内の文書管理規程が関税法の要件を満たしているかリーガルチェックを受けたい場合

・電子帳簿保存法への対応を含めた、貿易実務のデジタル化を進めたい場合

・過去の輸入申告に誤りが見つかり、自主的な修正申告を検討している場合

弁護士にご相談いただくことで、法的なリスクを早期に洗い出し、適切な対策を講じることができます。税関対応やコンプライアンス体制の構築は、企業の信頼性を守るための重要な投資です。輸出・輸入や通関に関するトラブル、事後調査への対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

9 まとめ

輸入者の帳簿記載及び書類保存義務は、適正な通関を実現するための基盤となるものです。関税法第94条の規定に基づき、帳簿は7年間、重要書類は5年間(電子取引データは7年間)という保存期間を厳守しなければなりません。

事後調査は、ある日突然行われます。その時に「書類が見当たりません」という言い訳は通用しません。日頃から法的要件を満たした管理体制を整えておくことが、予期せぬ追徴課税や罰則から自社を守る唯一の方法です。

本記事の内容を参考に、今一度自社の保存状況を確認し、必要であれば専門家の助言を得て体制を強化されることをお勧めいたします。当事務所は、貿易実務に精通した弁護士として、皆様の円滑なビジネス運営を全力でサポートしてまいります。

帳簿及び書類保存のポイント再確認

・帳簿の保存期間は輸入許可の日の翌日から7年間

・契約書やインボイス等の書類の保存期間は5年間

・電子メール等による取引データ(電子取引)は適切に7年間保存

・保存場所は原則として輸入者の事務所等

・義務違反は罰則や推計課税のリスクを招く

適正な記録管理を通じて、盤石な輸入コンプライアンス体制を築いていきましょう

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入許可前引取制度(BP通関)の留意点

2021-08-17

1 はじめにー相談事例

本日は、輸入実務において重要な役割を果たす「輸入許可前引取制度」について、具体的な活用場面や法的根拠を解説いたします。まずは、この制度の利用を検討すべき典型的な相談事例を見てみましょう。

【相談者】

化学薬品商社 B社 物流管理部長

【相談内容】

「当社では、国内の製薬メーカーから急ぎの注文を受け、特殊な試薬を欧州から輸入しました。貨物は既に成田空港に到着し、輸入申告を済ませております。しかし、当該試薬が新開発のものであり、税関から『成分分析が必要である』との連絡を受けました。税関での分析には1週間から10日ほど要する見込みとのことです。

一方で、納入先の製薬メーカーからは、研究スケジュールの都合上、どうしても3日以内に納品してほしいと強く要請されています。輸入許可が下りるのを待っていては納期に間に合いません。許可が下りる前に、合法的に貨物を国内に引き取り、顧客へ配送する方法はないでしょうか。また、その際にどのような条件が必要になるのか教えてください」

このような「許可を待てない緊急事態」において、救済策の一つとなるのが輸入許可前引取制度(通称:BP通関=Before Permit)です。この制度は、貨物の迅速な流通を確保しつつ、税関の適正な審査や税金の確保を両立させるための仕組みです。以下、その詳細について解説します。

2 輸入許可前引取制度の法的根拠と概要

輸入許可前引取制度とは、輸入申告後、輸入許可が下りる前の段階で、関税額に相当する担保を提供することを条件に、税関長の承認を得て貨物を引き取ることができる制度です。

この制度の根拠法は、関税法第73条第1項です。条文には以下のように規定されています。

「外国貨物(特例申告貨物を除く。)を輸入申告の後輸入の許可前に引き取ろうとする者は、関税額(過少申告加算税並びに第十二条の四第一項、第三項及び第四項(同条第一項の重加算税に係る部分に限る。)(重加算税)の重加算税に相当する額を除く。)に相当する担保を提供して税関長の承認を受けなければならない。」

また、関税法施行令第63条後段では、この承認を受けるための手続きについて定められています。

「法第73条第1項(輸入許可前引取)の承認を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を税関長に提出しなければならない」

この制度を利用することで、貨物は法的には「輸入許可前」の状態を維持しながら、物理的には「国内への引き取り」が可能となります。ただし、あくまで「許可前」であるため、後に税関の審査結果に基づいて正式な輸入許可が下りるまでは、輸入手続きが完了したことにはなりません。

3 輸入許可前引取が認められる具体的な事情

この制度は、単に「早く引き取りたい」という主観的な希望だけで認められるものではありません。関税法基本通達等の指針により、認められるべき「相当な理由」が定義されています。大きく分けて、税関側の事情と輸入者側の事情の2つのパターンがあります。

(1)税関側の事情により輸入の許可が遅延する場合

税関の審査や手続きに物理的な時間を要し、輸入者に責任がないにもかかわらず許可が遅れるケースです。

主な具体例

・新規輸入品や複雑な構成の貨物であり、課税標準(申告価格)の審査に日時を要する場合

・貨物の成分分析や鑑定、検定が必要であり、関税率表の番号(HSコード)の決定に時間を要する場合

・減免税の適用要件の確認や、事後調査等に関連した詳細な審査が行われる場合

・税関の電算システム(NACCS)の障害や、その他の行政上の都合により審査が停滞する場合

(2)輸入申告者側において特に引取りを急ぐ理由がある場合

輸入者のビジネス上の都合であっても、その必要性が客観的に認められるケースです。

主な具体例

・輸入原材料の在庫が底を突き、工場の操業停止や生産ラインの混乱が予見される場合

・展示会、見本市、国際会議などへの出品が予定されており、開催日までの時間的制約が極めて厳しい場合

・生鮮食料品や変質しやすい物品であり、保管の長期化が貨物の価値を著しく損なう恐れがある場合

・仕入書(インボイス)が仮のもの(プロフォーマ)であったり、契約条件が特殊なために価格確定に時間を要するが、商流上、早期の引き取りが不可欠な場合

以下に、これらの事情を整理した比較表を掲載します。

【輸入許可前引取の承認が検討される主な事由】

区分 具体的な状況の例 留意点
税関側の審査遅延 分析鑑定を要する専門的な貨物 鑑定結果が出る前に引き取り可能
税関側の審査遅延 価格審査に時間を要する取引 評価申告の審査中であっても利用可
輸入者の緊急性 工場等の原材料在庫の枯渇 在庫証明や工程表の提示を求められる場合あり
輸入者の緊急性 展示会やイベントへの出品期限 開催要領等の資料による疎明が必要
輸入者の緊急性 季節商品や腐敗しやすい物品 貨物の特性を具体的に説明すること

4 担保の提供と手続きの流れ

輸入許可前引取制度を利用するためには、原則として「関税額(及び内国消費税額)に相当する担保」を税関に提供しなければなりません。これは、貨物を先に引き渡す代わりに、後日確定する税金の徴収を確実にするための保証金のような役割を果たします。

(1)担保の種類

提供できる担保には、関税法第9条の2の規定に基づき、以下のような種類があります。

・金銭(現金)

・国債及び地方債

・税関長が確実と認める社債その他の有価証券

・土地

・建物

・税関長が確実と認める保証人の保証(銀行等による保証)

実務上は、現金の納付や、銀行による「関税等包括保証」を利用するケースが一般的です。

(2)手続のステップ

制度を利用する際のおおまかな流れは以下の通りです。

【輸入許可前引取(BP通関)の手続きフロー】

1.輸入申告の実施

(税関への申告書類提出)

2.審査遅延や緊急事態の発生

(税関からの分析通告や輸入者からの早期引取要望)

3.輸入許可前引取承認申請書の提出

(関税法第73条に基づく申請)

4.担保の提供

(関税額・消費税額に相当する額を担保として提供)

5.税関長による承認

(BP承認の通知)

6.貨物の引き取り

(保税地域から国内への搬出)

7.(後日)税関による審査完了

(分析結果の判明や価格の確定)

8.正式な輸入許可

(担保が充当され、または還付される)

5 実務上のメリットとリスク

この制度を活用することには大きなメリットがありますが、同時に注意すべき点も存在します。

(1)活用のメリット

・納期の遵守:リードタイムの短縮により、商機を逃さず、取引先との信頼関係を維持できます。

・保管料の削減:港湾や空港の保税地域での保管料(デマレージ等)の発生を抑制できます。

・生産効率の維持:原材料の早期調達により、工場の稼働率を下げずに済みます。

(2)留意すべきリスクとコスト

・担保提供の手間:現金の用意や保証枠の設定など、財務面での負担が生じます。

・法令遵守(コンプライアンス):BP承認を受けた後、万が一その貨物に輸入禁止事項が判明したり、他法令(食品衛生法や植物防疫法など)の不合格が判明したりした場合、既に国内に流通してしまっていると、回収命令等の厳しい行政処分を受けるリスクがあります。

・関税額の変動:BP通関申請時の見込み税額と、最終的な許可時の税額が異なる場合、差額の調整手続きが必要となります。

6 他法令との関係

輸入許可前引取制度は、あくまで「関税法」上の制度です。食品衛生法、植物防疫法、家畜伝染病予防法、外為法などの「他法令」によって輸入が規制されている貨物については、それらの法令に基づく検査の合格や輸入承認が済んでいなければ、たとえ関税法上のBP承認があっても、貨物を引き取ることはできません。

この点については、関税法第70条(証明又は確認)において、「他の法令の規定により輸入に関して検査又は許可、承認その他の処分を必要とする貨物については、その検査の完了又は許可等を受けている旨を税関長に証明しなければならない」と定められています。したがって、BP制度を利用する場合でも、これらの他法令のクリアが前提条件となることに十分注意してください。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

通関手続きにおけるトラブルや、輸入許可前引取制度の活用判断は、高度な専門知識を要します。税関との交渉や、適切な担保提供の判断、さらには他法令との整合性の確認など、法的な検討事項は多岐にわたります。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。弁護士としての法的知見に加え、通関実務の感覚を兼ね備えていることが当事務所の大きな強みです。

以下のようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

・税関の審査が長引いており、BP制度を利用したいが手続きがわからない

・税関から提示された担保額が不当に高いと感じる

・他法令との兼ね合いで引き取りが制限されており、法的な解決策を探したい

・将来的な税関事後調査を見据え、適切な申告体制を整えたい

「弁護士に相談すべき内容かどうかわからない」といった段階でも構いません。お話を伺うことで、現在の状況が整理され、最適な解決への道筋が見えてくるはずです。輸出入や通関に関するトラブル、税関対応でお悩みの場合には、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

8 おわりに

輸入許可前引取制度は、ビジネスのスピードを落とさないための極めて強力なツールです。関税法第73条の規定を正しく理解し、必要な手続きを迅速に踏むことで、不測の事態においても円滑な物流を維持することが可能になります。

一方で、担保の提供や他法令との整合性など、専門的な判断が求められる場面も少なくありません。本記事でご紹介した具体的な事情や手続きの流れを参考に、自社の輸入実務において本制度をどのように活用できるか、今一度検討してみてはいかがでしょうか。

当事務所では、企業の皆様が安心して国際貿易に従事できるよう、法務と実務の両面から強力にサポートいたします。

輸入許可前引取制度の活用に関するポイントのまとめ

・本制度は関税法第73条に基づく緊急的な引取制度である

・利用には関税額相当の担保提供が必要となる

・税関側の審査都合と輸入者側の緊急事態の両面で認められる可能性がある

・他法令の確認が済んでいることが大前提となる

・事後的なリスクを避けるためにも専門家への相談が有効である

以上の内容が、貴社のスムーズな輸入業務の一助となれば幸いです。複雑な通関実務にお困りの際は、いつでも専門家を頼ることをお勧めいたします。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸出許可後の貨物取り戻しと再輸入手続

2021-08-04

1 はじめにー相談事例の紹介

まずは、輸出実務の現場で実際に起こり得る具体的な相談事例をみてみましょう。

【相談者】

機械部品製造業 A社 海外営業部担当者

【相談内容】

「当社では、東南アジアの顧客に向けて精密機械部品の輸出を計画し、既に税関から輸出許可を取得しました。貨物は現在、港の保税地域(コンテナヤード)に搬入されており、明日の船便で出港する予定です。ところが、先ほど先方の担当者から連絡があり、現地の工場の設備トラブルにより、急遽注文をキャンセルしたいとの申し出がありました。

貨物を国内の自社工場に戻したいと考えておりますが、一度輸出許可を受けてしまった貨物を引き取るには、どのような手続きが必要になるのでしょうか。また、一度外国貨物扱いになったものを国内に戻す際、改めて関税や消費税を支払わなければならないのでしょうか。手続きの流れと注意点について詳しく教えてください」

このような状況は、国際取引においては決して珍しいことではありません。輸出許可を受けた後に、何らかの事情で貨物を取り戻す必要が生じた場合、適切な法的手続きを踏まなければ、貨物を国内に引き取ることができなくなります。本記事では、輸出取止めに伴う手続きの全体像を詳しく解説します。

2 輸出許可を受けた貨物の法的性質

輸出の許可を受けた貨物は、日本の法律上、どのような状態にあるのでしょうか。ここが理解の出発点となります。

関税法第2条第1項第3号では、外国貨物の定義について以下のように規定しています。

「輸出の許可を受けた貨物及び外国から本邦に到着した貨物(外国の船中にあるものを含む。)で輸入が許可される前のものをいう。」

つまり、国内で生産された貨物であっても、税関に対して輸出申告を行い、輸出の許可を受けた瞬間に、その貨物は法律上「外国貨物」へと性質が変化します。貨物が物理的に日本国内の保税地域に留まっていたとしても、それは日本の内国貨物ではなく、外国にある貨物と同じ扱いを受けることになります。

したがって、輸出許可後にその貨物を取り戻して国内に流通させる(内国貨物に戻す)ためには、たとえ自社製品であっても、外国から貨物を輸入する場合と同様に「輸入手続き」を行わなければなりません。

3 輸出取止めに伴う再輸入手続きの基本

輸出の許可を受けた貨物を、船積みせずに、または一度船積みした後に国内に引き戻すことを、実務上「輸出取止め再輸入」と呼びます。この際の手続きの根拠となるのが、関税法基本通達67-1-15(輸出取止め貨物の輸入申告等)です。

同通達では、輸出許可を受けた貨物を輸出しないこととした場合には、原則として輸入申告が必要である旨が定められています。

(1)輸入(納税)申告書の提出

輸出を取り止める際には、税関長に対し、通常の輸入と同様に「輸入(納税)申告書」を提出し、輸入の許可を受けなければなりません。この手続きを行うことで、外国貨物となった貨物を再び内国貨物へと戻すことが可能になります。

(2)手続きの簡素化

通常の輸入手続きと異なる点は、この貨物が「もともと日本から輸出しようとしたもの」であるという点です。そのため、輸出許可時の情報と照らし合わせることで、審査や検査が効率化される場合があります。

4 関税及び内国消費税の免税制度

一度輸出許可を受けた貨物を再輸入する際、最も懸念されるのが「関税や消費税を二重に支払う必要があるのか」という点です。結論から申し上げますと、一定の要件を満たすことで、これらの税金は免除されます。

(1)関税の免除

関税定率法第14条(無条件免税)第10号には、以下の規定があります。

「本邦から輸出された貨物で、その輸出の許可の際の性質及び形状が変わらないまま本邦に再輸入されるもの」

輸出取止めによって戻ってくる貨物は、輸出許可時と性質や形状が変わっていないことが一般的ですので、この規定により関税が免除されます。

(2)内国消費税の免除

輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律第13条第1項第1号には、以下の規定があります。

「関税定率法第14条第10号(再輸入免税)の規定により関税が免除される貨物」

関税が免除される貨物については、内国消費税(消費税及び地方消費税)も同様に免除される仕組みとなっています。これにより、輸出取止めに伴う経済的な負担を最小限に抑えることが可能です。

5 船積み前と船積み後における手続きの相違

貨物の状態が「船積み前」か「船積み後」かによって、実務上の対応が若干異なります。以下の表にその違いをまとめました。

【船積み前後の手続き比較】

区分船積み前の輸出取止め船積み後の輸出取止め
貨物の所在港湾等の保税地域内本船内、または一度出港した後
必要な書類輸入申告書、輸出許可書輸入申告書、仕入書(インボイス)、船荷証券(B/L)等
貿易管理上の適用輸出許可の取消し・修正的側面輸入貿易管理令の適用(要確認)
税関への説明船積みされなかった理由の疎明一度積載された後の陸揚げ理由

(1)輸出許可を受けて船積みする前の輸出取止め

貨物がまだ船や航空機に積載されていない状態であれば、手続きは比較的スムーズです。税関に対して「輸入申告書」を提出する際、既に交付されている「輸出許可書」を添付します。これにより、当該貨物が輸出許可済みのものであることを証明し、同一性を確認させます。

(2)輸出許可を受けて船積みした後の輸出取止め

一度船積みされた後に、何らかの理由(例えば、本船の故障による引き返しや、積地での荷役ミス等)で貨物を陸揚げし、国内に戻す場合は、より厳格な書類作成が求められます。

輸入申告書に加え、仕入書(インボイス)やその他所要の書類(船荷証券など)の添付が必要です。

また、重要な点として、輸出貿易管理令の取り扱いがあります。実務上、船積みが行われた時点で「輸出が完了した」とみなされる傾向にあるため、船積み後の引き戻しについては、新規の輸入と同等の厳格なチェックが行われることがあります。特に、輸入制限がある品目の場合には、輸入貿易管理令に基づき、輸入承認が必要になるケースも否定できませんので、事前の確認が不可欠です。

6 実務上の留意事項とトラブル防止策

輸出取止め再輸入の手続きを進めるにあたっては、以下の点に注意が必要です。

(1)貨物の同一性の証明

再輸入免税を適用するためには、輸出時と輸入時の貨物が同一であることを税関に確信させる必要があります。製品番号(シリアルナンバー)がある場合は、それを活用して証明します。そうでない場合は、写真やカタログ、梱包明細書(パッキングリスト)などを活用し、性質及び形状に変更がないことを客観的に証明する準備をしておきましょう。

(2)他法令の確認

関税法以外の法律(例えば、家畜伝染病予防法や植物防疫法、薬機法など)による規制を受ける貨物の場合、再輸入時にもそれらの法令に基づく検査や申請が必要になることがあります。輸出時に検査をクリアしていても、一度外国貨物扱いになった以上、改めて国内への持ち込みが可能かどうかの審査が行われます。

(3)NACCSでの処理

現在の通関実務は、電子通関システム(NACCS)を利用して行われます。輸出取止めの処理についても、システム上でのコード入力や操作が必要となります。通関業者に依頼する場合は、輸出時の申告番号を正確に伝え、連携を密にすることが早期解決の鍵となります。

7 図解による手続きの流れ

以下に、輸出許可後から再輸入までの一般的な流れを整理します。

【輸出取止め再輸入のフロー図】

1.輸出許可の取得

(貨物が内国貨物から外国貨物へ変化)

2.トラブルの発生(注文キャンセル、貨物の瑕疵発覚等)

3.輸出取止めの意思決定

4.貨物の所在確認(船積み前か、船積み後か)

5.書類の準備

(輸出許可書、インボイス、理由書、同一性確認資料等)

6.税関への輸入申告

(関税定率法第14条第10号の適用申請を併せて行う)

7.税関による審査・検査

(必要に応じて保税地域での現物確認)

8.輸入許可の取得

(貨物が外国貨物から内国貨物へ戻る)

9.貨物の引き取り・国内搬送

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸出入や通関に関する手続きは、関税法を筆頭に、関税定率法、外為法、輸入貿易管理令など、多岐にわたる専門的な法令が複雑に絡み合っています。今回解説した「輸出取止め再輸入」についても、単に書類を提出すれば済むというわけではなく、法的なロジックに基づいた適切な疎明(説明)が求められます。

特に、以下のような場合には、専門家への相談を強く推奨いたします。

・輸出貿易管理令のリスト規制に該当する貨物を取り戻したい場合

・税関から同一性について疑義を持たれ、免税の適用が認められないと言われた場合

・船積み後の引き返しで、輸入の法的要件を満たしているか不安な場合

・事後調査において、過去の輸出取止め手続きの不備を指摘された場合

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しております。弁護士としての法的知識と、通関実務の知見を掛け合わせることで、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広く、かつ専門的にお受けしております。

「弁護士に相談するほどのことだろうか」と迷われる方も多いかと存じますが、初期段階で適切な法的アドバイスを受けることは、長期的なリスク回避や、スムーズな事業継続に直結します。

お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しが立ち、不安の解消につながることも多々あります。輸出・輸入のトラブル、税関対応、事後調査への備えなど、通関実務に関連するお困りごとがございましたら、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。経験豊富な弁護士が、貴社のビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。

9 まとめ

一度輸出の許可を得た貨物は、法的には「外国」にあるものと同じ扱いです。これを国内に戻すには、法律の定めに従い、正しく輸入手続きを行う必要があります。関税法や関税定率法といった関係法令を正しく理解し、税関に対して適切な申告を行うことが重要です。

船積み前であれば輸出許可書を、船積み後であればさらに詳細な貿易関係書類を準備し、迅速に対応しましょう。また、免税規定を正しく適用させることで、余計なコストを抑えることも可能です。

不測の事態に備え、日頃から通関実務の法的根拠を把握しておくことは、貿易に携わる企業にとって極めて重要なリスク管理の一環と言えます。もし手続きに迷いが生じた際は、迷わず専門家を頼るようにしてください。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

原産地表示の適正性と虚偽表示の法的リスク

2021-07-26

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引により日本に貨物を持ち込んだ際の原産地表示について、その適正性が疑われた場合の法的な取扱いをご説明いたします。まずは、当事務所に寄せられた、原産地表示の誤認にまつわる架空の相談事例をご紹介いたします。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。

【相談者】

東京都内で欧州ブランドの雑貨を並行輸入して販売している株式会社L 代表取締役M氏

【相談内容】

「当社は今回、フランスのメーカーが企画したデザインの食器セットを、東南アジアの製造工場から直接輸入することになりました。貨物は既に横浜港の保税地域に到着しており、輸入申告を行いました。しかし、税関の検査において、製品のパッケージにフランスの国旗が大きく印刷されており、その横にフランス語でブランドの歴史が記されている一方で、実際の原産地である製造国の表示が極めて小さく、見えにくい場所にあることが問題視されました。 税関からは、これは原産地について誤認を生じさせる表示に該当する可能性があると指摘を受け、輸入許可が下りない状態が続いています。エム氏は、デザインはフランスのものであるから、国旗を載せることに何ら問題はないと考えていましたが、このままでは貨物が没収されるのではないかと不安に感じています。原産地について直接嘘を書いたわけではないのですが、デザイン上の演出も虚偽表示に含まれるのでしょうか。また、これからどのような手続を踏めば貨物を国内に引き取ることができるのでしょうか。」

このような事例は、近年のグローバルな製造環境において非常に多く見受けられます。貨物を輸入する場合、貨物の原産地を適切に表示することは非常に重要であり、異なる原産地を貨物に掲載した場合には、一定のペナルティがある他、貨物をスムーズに輸入できないことになりますので、注意が必要です。本記事では、原産地に関して虚偽表示があった場合の取扱いについて、詳しく解説いたします。

1 原産地虚偽表示貨物の輸入禁止と留置の概要について

日本における原産地表示の規制は、関税法第71条において明確に定められています。多くの輸入者が、表示の訂正手続を定める関税法第87条のみを意識しがちですが、大原則として、原産地を偽った貨物の輸入そのものが禁止されている点を正しく理解しなければなりません。

【関税法第71条】

第1項 原産地について直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物については、輸入を許可しない。

第2項 税関長は、前項の外国貨物については、その原産地について偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がある旨を輸入申告をした者に通知し、期間を指定して、その者の選択により、その表示を消し、若しくは訂正し、又は当該貨物を積み戻すべきことを命じなければならない。

ここにある直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示とは、単に「Made in Japan」と虚偽の記載をすることだけを指すのではありません。冒頭の相談事例のように、他国の国旗や地図、地名、あるいはその国の言語のみを強調し、実際の原産地を隠蔽したり、消費者に誤った印象を与えたりする表示も、間接的な偽りや誤認を生じさせる表示に含まれます。

(1)原産地虚偽表示貨物の留置について

原産地について直接若しくは間接に偽った表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物について輸入申告をした者が、税関長が指定した期間内に、原産地について偽った表示又は誤認を生じさせる表示を消し、若しくは訂正し、又は当該貨物を積み戻さないときは、税関長は、これを留置することになります(関税法第87条第1項)。

これは、マドリッド協定の実施を確保し、原産地虚偽表示貨物の国内流入を防止するためにとられる措置であると考えられております。

(2)マドリッド協定の意義

マドリッド協定とは、虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定という名称の国際条約です。直接又は間接に虚偽の原産地を表示している貨物又は原産地について誤認を生じさせる表示をしている貨物は、各締約国によって、差押え又は輸入禁止の措置が取られなければならない旨を規定しています。日本はこの協定に基づき、国内法である関税法を整備して厳格な運用を行っています。

2 留置された貨物の取扱いと返還の手続

一度留置された原産地虚偽表示貨物は、そのままでは国内に流通させることはおろか、保税地域から動かすことさえできません。これを解決するためには、関税法が定める特定の是正措置を完了させる必要があります。

(1)留置貨物の返還

留置された原産地虚偽表示貨物は、原産地について偽った表示又は誤認を生じさせる表示が消され、若しくは訂正され、又は当該貨物が積み戻されると認められる場合に限り、返還されることになります(関税法第87条第2項)。

実務上、留置を解くための選択肢は主に以下の3点です。

①表示の抹消:虚偽の表示部分を物理的に削り取ったり、剥がしたり、塗りつぶしたりすること。

②表示の訂正:正しい原産地を明記したラベルを、元の表示が完全に見えなくなるように上から貼付すること。

③積戻し:日本国内への輸入を断念し、外国に向けて貨物を送り返すこと。

これらの作業は、税関の承認を受けた上で、保税地域内で行う必要があります。これを保税作業と呼びます。作業完了後、税関職員による現物確認を受け、表示が適正化されたと認められて初めて、留置が解除され、通常の輸入申告手続へと戻ることが可能となります。

3 実務で活用できる原産地表示の適正性チェック表

企業が輸入を検討している製品の表示が、関税法第71条に抵触しないかを確認するための基準を以下の表にまとめました。

【原産地表示の法的適合性確認リスト】

確認カテゴリー|具体的なチェック内容|判断のポイント|

直接的な表示|「Made in ●●」の記載が真実か。|インボイスの原産地と一致するか。|

国旗・紋章の使用|実際の製造国以外の国旗が大きく描かれていないか|デザイン上の演出が誤認を招かないか|

地名・言語の強調|「Paris」「London」等の地名が強調されすぎていないか|実際の原産地名が同等以上に目立つか|

文字の視認性|正しい原産地表示が、小さすぎて判読不能ではないか|消費者が容易に確認できる大きさか|

ブランド名の誤認|特定の国を想起させるブランド名に対し、原産地が明記されているか|ブランド名と製造国の混同を防いでいるか|

梱包と本体の整合|外箱には正しい原産地があるが、製品本体に誤った表示がないか|製品全体として一貫性があるか|

特に、製品の企画国(デザイン国)と製造国が異なる場合には、製品の目立つ場所に正しい製造国を表示することが、留置のリスクを回避するための鉄則となります。

4 留置を招いた場合の経済的・法的リスク

原産地虚偽表示により貨物が留置されることは、単なる手続の遅延に留まらず、企業の経営に深刻なダメージを与えます。

(1)滞船料(デマレッジ)および保管料の増大

留置されている間、貨物は港や空港の保税地域に留め置かれます。是正作業に時間がかかればかかるほど、多額の保管料が発生します。また、コンテナの返却が遅れれば、船会社から高額な滞船料を請求されることになります。

(2)販売機会の損失

季節商品や新製品の場合、留置による数週間の遅延は、販売計画を完全に狂わせることになります。冒頭の相談事例のように、顧客との契約が解除されるリスクも孕んでいます。

(3)是正作業にかかる追加コスト

保税地域内での作業は、専門の作業員を派遣したり、警備体制を整えたりする必要があり、通常のラベル貼り作業よりも高いコストがかかります。また、パッケージの美観を損なうことによる商品価値の低下も避けられません。

(4)コンプライアンス上の不利益

一度、原産地虚偽表示で指摘を受けた企業は、税関のデータベースにその事実が記録されます。その後の輸入において、通常よりも高い頻度で現物検査が行われるようになり、ビジネスのスピードが恒久的に低下する恐れがあります。

5 専門家としての視点と実務上の運用アドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

原産地表示にまつわるトラブルを未然に防ぐためのアドバイスを3点申し上げます。

①仕入れ先(海外メーカー)に対する「日本の表示ルールの周知」です。欧米やアジアの諸国と、日本の税関が求める原産地表示の厳格さには、しばしば温度差があります。契約の段階で、日本の関税法第71条の基準を満たさない限り、受領を拒否する旨を明文化しておくべきです。

②事前教示制度の活用です。表示が誤認を招くかどうか微妙な判断が必要なデザインの場合、輸入前に税関に対して表示のサンプルを提出し、法的な見解を求めておくことができます。これにより、貨物が到着してから留置されるという最悪の事態を回避できます。

③輸入代行業者や通関業者との密接な連携です。プロの通関士は、これまでの経験から、どのようなデザインが税関の指摘を受けやすいかを熟知しています。申告前に一度、パッケージのデザイン案を見せて意見を仰ぐだけでも、大きなリスクヘッジとなります。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、原産地表示の適法性判断という極めてテクニカルな問題についても、税関当局の内部基準や過去の裁判例に基づいた、具体的かつ説得力のある抗弁が可能です。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

7 まとめ:適正な表示がブランドの信頼を支える

輸入ビジネスにおける原産地表示は、単なる行政上のルールではなく、消費者に対する最も基本的な情報の提供です。これを軽視して「デザイン重視」に走ることは、法的な留置のリスクを招くだけでなく、最終的には消費者の信頼を失うことにも繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

外国貨物の廃棄および滅却に関する法的手続

2021-07-07

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引における貨物の管理に関連して、特にトラブルが発生した際の対応策である、外国貨物の廃棄および滅却の手続について解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた、倉庫内での貨物事故をめぐる相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

兵庫県内で海外製の高級オーガニックジュースの輸入販売を手掛ける株式会社Ⅿ 代表取締役K氏

【相談内容】

「当社は、欧州からコンテナで大量のジュースを輸入し、神戸港の保税蔵置場に蔵置していました。ところが、輸入申告の準備を進めていた際、倉庫内での荷崩れにより、全体の3割にあたる瓶が割れてしまい、内容物が漏れ出していることが判明しました。残った貨物については通常通り輸入したいのですが、破損した貨物については販売が不可能です。K氏は、破損した分についてはそのまま倉庫業者に頼んで捨ててもらおうと考えましたが、通関業者から「外国貨物のまま勝手に捨てると法律違反になる」と指摘を受けました。破損して価値がなくなった貨物に対しても関税を支払わなければならないのでしょうか。また、法的に正しく処分するためには、どのような手続をいつまでに行うべきか教えてください。」

このような事例は、輸入実務において予期せず発生するリスクの一つです。輸入許可後に内国貨物となった後、当該貨物を廃棄、滅却する場合には、基本的には自由に行うことが出来ます。しかしながら、保税地域にある外国貨物を廃棄、滅却する場合には、一定の手続等が必要となりますので注意が必要です。本記事では、この手続の重要性と法的根拠を詳しく解説いたします。

1 外国貨物の廃棄に関する法的規定と実務

保税地域にある外国貨物を廃棄しようとする者は、あらかじめその旨を税関に届け出なければなりません。これは関税法第34条に規定されています。

【関税法第34条】

外国貨物を廃棄しようとする者は、その旨を税関に届け出なければならない。ただし、亡失し、若しくは滅失したことによりその価値を失つた貨物を廃棄する場合又は税関長が取締り上支障がないと認めてあらかじめ指定した貨物を廃棄する場合は、この限りでない。

この規定は、外国貨物を廃棄しようとする者に対し届け出義務を課すことによって、関税の徴収を確保しようとするものです。なぜなら、廃棄と称して貨物を不正に国内へ持ち出す行為を防ぐ必要があるからです。

ここでいう廃棄とは、腐敗、変質等し、本来の用途に供されなくなった外国貨物をくずとして処分することですが、廃棄しようとする貨物がくずと認められないものであるときは、その現況により輸入手続を要することになります。

つまり、廃棄した後の残存物に何らかの価値がある場合、その「くず」に対して関税が課される仕組みです。廃棄しようとする外国貨物について正規の輸入手続をとることを希望しない場合には、くずとして処分しようとする貨物について、焼却、異物混入その他の人為的処理をすることになります。

2 外国貨物の滅却と関税免除の特例

保税地域にある外国貨物を滅却しようとする者は、あらかじめ税関長の承認を受けなければなりません。これは廃棄よりも一段階厳しい手続ですが、所定の手続をとることにより、滅却の承認を受けた者の関税納付義務を免除するものです。

この「滅却の承認」は、輸入者にとって重要な措置です。税関長は、保税地域にある外国貨物が腐敗し、若しくは変質し、又は他の貨物を害するおそれがある等の事情により、これを滅却することがやむを得ないと認めるときは、滅却の承認をしなければならない点には注意が必要です(関税法第45条第2項)。

冒頭のK氏の事例のように、ジュースが漏れ出して周囲の貨物に被害を与える可能性がある場合、税関長はこの滅却を承認しなければなりません。この承認を受けることで、破損したジュースにかかる関税の支払いを免れることが可能となります。

3 廃棄と滅却の違いと選択基準

実務上、廃棄と滅却をどのように使い分けるべきかを以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、社内のトラブル対応マニュアルとしてご活用ください。

【外国貨物の処分方法比較一覧表】

項目|廃棄(はいき)|滅却(めっきゃく)|

法的根拠|関税法第34条|関税法第45条第1項ただし書き|

手続の形式|税関への事前の届け出|税関長の事前の承認|

関税の取り扱い|残存物の現況により課税される|原則として関税が免除される|

主な目的|不要となった貨物の処分|災害、腐敗、変質等のやむを得ない処分|

適用の条件|取締り上の支障がないこと|滅却がやむを得ないと認められること|

残存物の価値|くずとして価値があれば輸入手続が必要|価値が完全に消滅することが前提|

4 手続を怠った場合の法的リスクとペナルティ

もし、保税地域にある外国貨物を無断で廃棄したり、適切な承認を得ずに滅却したりした場合、以下のような深刻な法的リスクが発生いたします。

(1)関税の即時徴収(関税法第45条第1項

保税地域にある外国貨物が亡失し、又は滅失したときは、その許可を受けた者から、直ちにその関税を徴収する。

無断での廃棄は「亡失」とみなされ、本来受けることができたはずの免税措置を受けられなくなります。

(2)無許可輸出入等の罪

輸入許可を得ていない貨物を勝手に処分することは、税関の取締権限を侵害する行為であり、関税法上の罰則の対象となる可能性があります(関税法第111条)。許可を受けないで貨物を輸入した(引き取った)ものとみなされる危険性があり、懲役や罰金が科される恐れがあります。

(3)事後調査における信頼の失墜

税関事後調査において、帳簿上の在庫と実在庫が合わないことが発覚し、それが不適切な廃棄によるものであった場合、税関からの信頼を著しく損ないます。これは将来の通関における検査率の上昇や、AEO認定の取り消し等に繋がりかねません。

5 専門家としての視点と実務上のアドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

外国貨物の処分における実務的アドバイスを3点申し上げます。

①事故発生時の「現場写真と記録の保存」です。滅却の承認を受けるためには、なぜ滅却が必要なのかを客観的に証明しなければなりません。破損状況や汚損の程度を詳しく写真に収め、倉庫業者の事故報告書を確実に確保しておくべきです。

②他法令(廃棄物処理法等)との整合性の確認です。関税法上の廃棄届や滅却承認を得たとしても、実際の処分にあたっては日本の環境関連法規を遵守しなければなりません。産業廃棄物として適切に処理され、そのマニフェスト(産業廃棄物管理票)を保管しておくことが、後の税関への報告においても重要となります。

③通関業者との迅速な連携です。廃棄届や滅却承認申請は、通常の輸入申告とは異なるデリケートな手続です。事故が判明した瞬間に通関業者に連絡し、税関の担当官による現場確認(立会い)をいつ受けるべきかを調整する必要があります。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、外国貨物の廃棄や滅却という特殊な事態においても、税関当局との論理的な折衝が可能です。特に、大量の貨物の滅却に伴う巨額の関税免除の正当性を主張したり、万が一手続違反を指摘された際の法的防御において、強力なサポートを提供いたします。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

7 まとめ:適正な終務処理がグローバルビジネスの信頼を築く

輸入ビジネスにおいて、貨物が無事に届くことは当然の目標ですが、不幸にも事故が発生した際に、どのように法的責任を果たして幕を引くかという点も、経営者の手腕が問われる部分です。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法的知識に基づき、廃棄や滅却の手続を遺漏なく行うことが、貴社の誠実さを税関に示し、将来の安定した貿易活動を守ることに繋がります。当事務所は、その法的基盤を盤石にするための最善のパートナーとして、常に貴社に寄り添ったアドバイスを提供いたします。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

外国貨物の一時持出し許可制度

2021-07-04

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入許可が下りる前の外国貨物を、見本として一時的に保税地域から持ち出すための手続について解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた、製品開発の現場で起こり得る架空のトラブル事例をご紹介いたします。

【相談者】

千葉県内で化学製品の輸入卸売を手掛ける株式会社C 代表取締役I氏

【相談内容】

「当社は今回、ドイツのメーカーが新しく開発した特殊な樹脂原料を、日本国内の主要な顧客である自動車部品メーカーへ提案することになりました。貨物は既に成田空港の保税地域に到着していますが、正式な輸入申告には成分分析表の微調整が必要で、あと数日はかかる見込みです。ところが、顧客から、本日中に実物のサンプルを確認できないのであれば、他社製品の採用を決定するという通達がありました。アイ氏は、ほんの数十グラム程度のサンプルであれば、輸入許可を待たずに持ち出しても問題ないだろうと考え、通関業者に相談なしで保税地域から直接持ち出そうとしましたが、現場の職員に制止されてしまいました。 自分たちの貨物なのに、なぜ少しのサンプルを持ち出すことも許されないのでしょうか。正式な輸入申告前でも合法的に見本を持ち出す方法はないのでしょうか」

このような事例は、スピード感が求められる現代のビジネスシーンにおいて頻繁に発生いたします。しかし、外国貨物は関税法によって厳格に管理されており、たとえ少量であっても無断で持ち出すことは密輸と同等の重大な違法行為となり得ます。本記事では、商取引の利便性を図るために設けられた見本の一時持出し制度について、解説いたします。

1 保税地域にある外国貨物の一時持出しに関する法的根拠

輸入許可前に保税地域にある状態で外国貨物を一時国内に持ち込みたいとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。例えば、売買の対象物の見本を早急に見たいと取引先から言われた場合や、貨物の品質の分析を早急に行いたい場合等が考えられます。

関税法は、このような要望にこたえる形で、一定の場合には外国貨物を保税地域から見本として持ち出すことを認めております。

保税地域にある外国貨物については、一般の閲覧に供するために見本の展示をすることが出来ますが、商取引の利便性を図る観点から、税関長の許可を受けて、見本の一時持出しが認められています。これは関税法第32条に規定されています。

この条文は、輸入許可という最終的な関税法上のハードルを越える前に、例外的に「一時的な持出し」を認めるという、貿易実務における極めて重要な措置です。

2 一時持出しが認められるための具体的な条件と手続

一時持出しが認められる見本は、取締り上、及び課税上問題がなく、かつ少量のものに限られております。どのような貨物でも自由に持ち出せるわけではありません。

税関長が許可を出す際の判断基準として、以下の点が重視されます。

①持ち出す目的が、商取引の勧誘や品質の鑑定、試験などの正当な理由であること

②持ち出す数量が、その目的を達成するために必要最小限の少量であること

③持ち出した後に、確実に保税地域に戻されることが担保されていること

具体的な手続きとしては、見本の一時持出しの許可を受けようとする者は、見本持出許可申請書を税関長に提出して、その許可を受けなければなりません。これは関税法施行令第27条に定められています。

実務上は、この申請書に加えて、なぜ今、見本が必要なのかを説明する理由書や、顧客からのサンプル請求書などを添付することが求められる場合があります。

3 見本が消費・破壊された場合の取り扱い

一時持出された外国貨物がその成分の分析等のために使用、消費されて、元の保税地域に持ち帰ることができない場合でも、持ち帰ったものとみなして、残りの貨物と一括して輸入の許可を受けることになります。

これは、化学分析において試薬を反応させてしまったり、強度試験において製品を破壊してしまったりした場合を想定した規定です。たとえ物理的に戻ってこなくても、法的には「保税地域に戻されたもの」と構成し、その後、本体の貨物が正式に輸入される際に、その消費された分も含めて一括して関税・消費税を納付することになります。

この仕組みがあるおかげで、分析のためにサンプルが消滅してしまう場合でも、輸入者は無許可消費という罰則を回避し、適正な手続の中で試験を行うことが可能となります。

4 見本の持出しと廃棄手続の違い

なお、見本の持出しとは異なりますが、外国貨物を保税地域において廃棄する場合には、税関に届け出る必要があります。これは関税法34条関税法施行令第29条に規定されています。

見本として持ち出すのではなく、品質不良等の理由で保税地域内で処分する場合には、持出し許可ではなく廃棄届の提出が必要となります。もし無断で廃棄を行うと、関税の徴収を免れるための隠蔽工作とみなされる危険があるため、厳格な区分が必要です。

5 実務で活用できる見本持出しと廃棄の比較表

輸入実務において混乱しやすい手続を整理いたしました。

【保税地域における特殊手続の比較表】

手続の名称|主な目的|手続の形式|

見本の一時持出し|商談、品質鑑定、分析|税関長の許可|

見本の展示|保税地域内での閲覧|税関長への届出|

外国貨物の廃棄|不要貨物の処分|税関長への届出|

他所蔵置|特殊貨物の外部保管|税関長の許可|

6 見本持出にまつわる法的リスクとペナルティ

もし、I氏のように正規の手続を踏まずに見本を持ち出そうとしたり、あるいは許可を得た期間を過ぎても返却しなかったりした場合、以下のような深刻な法的リスクが発生いたします。

(1)無許可輸入としての処罰

輸入許可を得ていない外国貨物を保税地域外へ持ち出す行為は、それが少量であっても無許可輸入にあたります(関税法第111条)。

(2)関税の即時徴収

一時持出しの許可を得た貨物が、指定された期間内に戻されず、かつ輸入許可も受けていない場合、その貨物は亡失したものとみなされ、直ちに関税が徴収されます。

(3)AEO認定や通関手続への悪影響

このようなルール違反は、税関からの信頼を著しく損ないます。将来的にAEO(認定事業者)の資格取得を目指す企業にとっては致命的な欠格事由となり得ますし、通常の通関においても検査率が上昇し、ビジネスの停滞を招くことになります。

7 専門家としての視点と実務上の運用アドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

見本の一時持出し制度を安全に活用するためのアドバイスを3点申し上げます。

①他法令との兼ね合いの確認です。例えば、輸入しようとしているものが食品や化粧品である場合、関税法上の持出し許可が得られたとしても、食品衛生法や薬機法に基づく手続き(試験用としての届出等)が別途必要になる場合があります。これら他法令の証明ができないと、税関は持出し許可を出しません。

②数量の「妥当性」の検討です。分析のために数キログラム必要だと主張しても、製品の性格上、数グラムで足りると判断されれば、許可は下りません。必要性を裏付ける客観的な資料(試験計画書や顧客からの要求書面)をあらかじめ準備しておくべきです。

③通関業者との緊密な連携です。一時持出しの手続は、通常の輸入申告とは別個のフローで動きます。通関業者の担当者に対し、なぜ急ぎで見本が必要なのか、いつまでに戻す予定なのかを正確に伝え、迅速な申請を依頼することが、ビジネスチャンスを逃さないための鍵となります。

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、見本の一時持出しのような実務的な手続においても、税関当局との論理的な交渉が可能です。特に、他法令が絡む複雑なサンプルの持ち出しや、万が一手続違反を指摘された際の法的防御において、強力なサポートを提供いたします。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

9 まとめ:正しい手続がビジネスのスピードと安全を両立させる

輸入ビジネスにおいて、見本をいち早く確保することは、新規成約を勝ち取るための大きな武器となります。しかし、その武器を手に入れるために法を犯してしまっては、元も子もありません。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言旨ざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法的知識に基づき、見本の一時持出し制度を適切に活用することで、貴社のビジネスはより柔軟かつ迅速に展開できるはずです。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

外国貨物の蔵置と他所蔵置許可制度

2021-06-29

0 はじめに―具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引における貨物の保管場所に関する例外的な制度である他所蔵置について解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた、大規模な機械設備の輸入をめぐる相談事例をご紹介いたします。輸入実務において、保税地域の容量不足や貨物の特殊性に直面している企業様にとって、非常に重要な内容となっております。

【相談者】

愛知県内で大規模なプラント建設を手掛ける株式会社G 代表取締役H氏

【相談内容】

「当社は今回、ドイツのメーカーから全長20メートル、重量50トンを超える超大型の産業用ボイラーユニットを輸入することになりました。貨物を積んだ船はまもなく名古屋港に到着予定ですが、提携している通関業者の保税蔵置場を確認したところ、現在他の貨物で満杯であり、これほど巨大な重量物を安全に保管できるスペースが確保できないと言われてしまいました。一方で、ボイラーの設置先である建設現場には十分な空き地があり、そこに直接搬入して輸入許可を待ちたいと考えています。しかし、外国貨物のままで保税地域以外の場所に置くことは法律で禁じられていると聞き、困り果てています。何か例外的に、保税地域以外の場所で保管を認めてもらう方法はないのでしょうか。」

このような事例は、重工業やインフラ関連の輸入実務においてしばしば発生いたします。原則として外国貨物は保税地域に置かなければなりませんが、特定の条件を満たし、税関長の許可を得ることで、保税地域以外の場所に置くことが可能となります。本日は、この他所蔵置許可制度の概要と、実務上の法的留意点について解説いたします。

1 外国貨物の蔵置場所に関する原則と法的根拠

外国貨物は、難破貨物、他所蔵置貨物、特定郵便物、特例輸出貨物等を除き、原則として保税地域に置く必要があります。これは関税法第30条に明確に規定されている義務です。

【関税法第30条】

外国貨物(中略)は、保税地域以外の場所に置いてはならない。ただし、次に掲げるものについては、この限りでない。

①沈没、難破等により本邦に引き揚げられた貨物で、保税地域に置くことが困難なもの

②他所蔵置(保税地域以外の場所に置くことについて税関長の許可を受けたものをいう。)に係る貨物

③特定郵便物

④特例輸出貨物

このように、保税地域に外国貨物を置くことは、関税の徴収を確保し、不法な国内流入を防ぐための大原則です。もっとも、一定の条件の下で、外国貨物を保税地域以外の場所で保管することも可能であり、このことを他所蔵置といいます。外国貨物を保税地域に保管できない場合には非常に便利な制度といえます。

外国貨物の保管に関しては、基本的に業者に依頼しているため、保税地域に保管されているか、それともそのほかの場所に保管されているか全く知らないという方も多いものと思われます。もっとも、通関業者や税関とのやり取りをスムーズに行うという観点からは、保税地域以外の場所で外国貨物を保管できるケースについてもご認識いただいた方がよいと思われます。

2 他所蔵置許可の対象となる貨物の要件

他所蔵置ができる場合としては、外国貨物の特殊性により、保税地域に置くことが困難又は著しく不適当であると税関長が認めた上で、期間及び場所を指定して許可したものについては、例外的に他所蔵置を行うことが可能であると認められております(関税法第30条第1項第2号)。

具体的には、以下の4つのケースが代表的です。

(1)巨大な重量物であって、保税地域にこれを置く設備がない場合

冒頭の相談事例のような、超大型の機械設備、航空機部品、船舶のエンジンなどが該当いたします。これらは通常の保税蔵置場の床耐荷重を超えていたり、入り口を通過できなかったりするため、現場での直接保管が認められやすい傾向にあります。

(2)大量の貨物であって、保税地域に置くことができない場合

短期間に膨大な量の原材料や資材が到着し、近隣の保税地域の収容能力を一時的に大幅に上回ってしまうような状況です。

(3)貴重品、危険物、生鮮食料品であって、蔵置保管に特殊な施設を要するもの

爆発物などの危険物で、専用の貯蔵庫が保税地域内にない場合や、極めて特殊な温度管理が必要な薬品、生体などが含まれます。

(4)その他貨物の性格、保税地域の設置状況等から、税関長が保税地域以外の場所に置くことが誠にやむを得ないと認められたもの

例えば、災害による保税地域の損壊や、ストライキ等による機能停止など、輸入者の責めに帰すことができない特別な事情がある場合です。

3 他所蔵置の管理に関する実務チェック表

企業が他所蔵置制度を利用する際、管理体制を維持するために確認すべき項目を以下の表にまとめました。

【他所蔵置制度利用時における法的確認事項一覧】

項目|具体的な確認内容|

許可理由の妥当性|貨物の重量、容積、性質が保税地域に不適当か|

保管場所の特定|住所、敷地内の具体的な位置が指定されているか|

保管期間の管理|許可された期間内に輸入許可を受けられるか|

場所の監視体制|外部からの侵入や貨物の持ち出しを防止できるか|

移動の制限|許可された場所以外に無断で動かしていないか|

手数料の納付|規定の手数料が適切に支払われているか。|

5 他所蔵置に伴う法的リスクとペナルティ

他所蔵置許可を受けた貨物は、依然として外国貨物であるという性質に変わりはありません。そのため、保税地域内にある貨物と同様の、あるいはそれ以上に厳しい管理責任が輸入者に課されます。

(1)貨物の亡失・滅失による関税の徴収

他所蔵置中に貨物が盗難に遭ったり、火災等で焼失したりした場合、その瞬間に輸入があったものとみなされ、直ちに関税が徴収されます。

関税法第45条

この規定は他所蔵置貨物にも準用され、許可を受けた者が納税義務を負うことになります。保税地域以外の場所は、保税地域に比べて監視の目が届きにくいため、紛失事故への対策は極めて重要です。

(2)許可条件違反による処罰

指定された場所以外に貨物を移動させたり、許可期間を超えて放置したりした場合、それは関税法違反となります。

6 専門家としての視点と具体的な運用アドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

他所蔵置制度を安全に運用するための実務的アドバイスを3点申し上げます。

①通関業者への丸投げを避け、自社での場所選定に関与することです。通関業者はあくまで書類上の手続を代行する立場であり、実際に他所蔵置される場所(例えば自社工場や提携先の資材置き場)の防犯体制や法的適合性まで完全に把握しているとは限りません。輸入者自身が、その場所が税関の許可基準を満たしているかを現地で確認すべきです。

②次に他法令との調整です。他所蔵置する場所が、食品衛生法や家畜伝染病予防法、あるいは消防法などの規制対象となる場合、それらの他法令に基づく検査や保管基準も同時にクリアしなければなりません。関税法の許可だけでは貨物を動かせないケースがある点に注意が必要です。

③最後は税関事後調査への備えです。他所蔵置を行った取引は、その特殊性から税関の関心を惹きやすく、後の事後調査において「なぜ保税地域に入れられなかったのか」「保管中の管理状況はどうだったか」を厳しく問われることがあります。当時の許可申請書の写しや、保管場所の写真、警備記録などは、輸入許可後も数年間は厳重に保管しておくべきです。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、他所蔵置許可申請のようなテクニカルな手続においても、税関当局との論理的な交渉が可能です。特に、巨大貨物や危険物の輸入に伴う損害賠償リスクや、他所蔵置中の事故に関する責任の所在の明確化など、法務と実務の両面からサポートを提供いたします。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

8 まとめ:他所蔵置制度の戦略的活用と安全性の両立

他所蔵置は、輸入ビジネスにおける物流のボトルネックを解消するための強力な手段です。しかし、その根底には関税法という厳格な規律があることを忘れてはなりません。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法的知識に基づき、他所蔵置許可制度を適切に活用することで、貴社の物流はより柔軟で強固なものとなります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入取引における貨物の積卸しと諸手続

2021-06-24

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引により日本に貨物を持ち込んだ場合の、貨物の積卸しに関する法的手続についてご説明いたします。まずは、当事務所に寄せられた、港湾における積卸し作業にまつわる相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

静岡県内の港を拠点に、海外からの輸入資材の受け入れを行っている株式会社S物流 港湾管理部長S氏

【相談内容】

「当社が手配した外国貿易船が、悪天候の影響で予定よりも大幅に遅れて横浜港に入港することになりました。到着は日曜日の夜間になる見込みですが、荷主からは月曜日の朝一番での納品を強く求められています。S氏は、すぐに荷役業者を手配して積卸し作業を開始したいと考えていますが、税関の開庁時間外であることや、今回の積荷の中には最終的な仕向け地が日本ではない、船繰りのための仮の陸揚げ貨物も含まれていることから、どのような手続を優先すべきか混乱しています。とにかく早く荷物を下ろしたいのですが、事前の報告や届け出を怠ると、どのような法的リスクがあるのでしょうか。」

このような事例は、分刻みのスケジュールで動く国際物流の現場では日常的に発生します。しかし、焦りから手続を省略してしまうと、関税法違反として厳しい罰則や、その後の入港制限を受けることになりかねません。

1 貨物の積卸しにおける原則と手続

開港に入港した外国貿易船に貨物の積卸しをする場合には、税関に対して厳格な手続をとる必要があります。これは、日本国内に不法に貨物が流入することを防ぎ、かつ適正な関税の徴収を担保するための基本的なルールです。

外国貿易船に対する貨物の積卸しは、税関に対して積荷に関する事項について報告がない場合にはしてはなりません。これは関税法第16条に規定されています。

関税法第16条第1項

外国貿易船等に貨物を積み、又は卸そうとする者は、税関長に対し、その積荷に関する事項を報告しなければならない。ただし、旅客及び乗組員の携帯品、郵便物及び船用品については、この限りでない。

この条文にある報告とは、実務上、積荷目録(マニフェスト)の提出を指します。誰が、何を、どれだけ積んでいるのかを税関が把握する前に、勝手に貨物を動かすことは法律で禁じられているのです。

ただし、旅客及び乗組員の携帯品、郵便物及び船用品については、その性質上迅速な処理を要するとともに、一般の貨物とは同様に取り扱うことが不適当であるので、上記の報告前であっても、その積卸しができます(関税法第16条第1項ただし書き)。これは、国際的な人の移動や船の運行に支障をきたさないための合理的な配慮です。

2 開庁時間外における貨物の積卸しの届出

冒頭の相談事例のように、夜間や休日など、通常の税関官署の開庁時間外に作業を行う場合には、別途の手続が必要となります。

関税法第19条(開庁時間外における貨物の積卸し等の届出)

税関官署の開庁時間以外の時間において、外国貿易船等に外国貨物を積み、若しくは卸し、又は外国貨物を保税地域に入れ、若しくは保税地域から出すこと(中略)をしようとする者は、あらかじめ、その旨を税関長に届け出なければならない。

この規定は、税関による監視体制が手薄になる時間帯においても、貨物の動きを透明化するためのものです。届出を行わずに作業を強行すると、密輸等の疑いをかけられるだけでなく、届出義務違反として処罰の対象となります。現代の物流では、24時間稼働の港も多いですが、法律上の届出義務が免除されているわけではない点に注意が必要です。

3 外国貨物の仮陸揚げの届出と法的性質

船内の荷繰りや、他国へ向かう貨物の一次保管などのために、本来の目的地ではない場所で貨物を一時的に下ろすことがあります。これを仮陸揚げと呼びます。

外国貨物を船積み、荷繰り等やむを得ない事由によって、本来目的とした陸揚地以外の場所に仮陸揚げする場合には、船長は、あらかじめ税関に届け出なければなりません(関税法第21条)。

この届出があることにより、税関はその貨物が日本国内へ輸入されるものではなく、一時的な滞留であることを把握し、不必要な輸入手続の督促を行わずに済みます。

また、仮陸揚げした貨物は外国貨物であるが、船積み、荷繰り等の都合により一時陸揚げされたものであるので、その貨物が外国に向けて送り出されることがあるとしても、外国為替及び外国貿易法第48条第1項の規定による許可を受けなければならないものを除き、関税法では輸出又は積戻しとしては取扱わないこととされております(関税法第2条第1項第2号、第21条、第75条)。

これは、仮陸揚げ貨物が日本の領土内に物理的に存在するものの、経済的には日本を通過しているに過ぎないという実態を法的に整理したものです。ただし、外為法で規定される戦略物資等に該当する場合は、たとえ仮陸揚げであっても別途の許可が必要となるため、法務部門による多角的なチェックが欠かせません。

4 実務で活用できる港湾手続の管理表

積卸し作業を適正に進めるために、企業が確認すべきポイントを以下の表にまとめました。

【港湾積卸し手続の実務チェック表】

確認項目|具体的な内容|

積荷報告の完了|マニフェストは正確に提出されているか|

例外貨物の特定|郵便物や船用品のみの積卸しではないか|

作業時間の確認|夜間や休日(開庁時間外)に該当しないか|

時間外届出の提出|開庁時間外作業の届出は受理されているか|

仮陸揚げの有無|目的外の場所に一次陸揚げする貨物はないか|

他法令の適合性|外為法の許可を要する特定貨物ではないか|

5 手続違反に対する法的リスクと社会的制裁

関税法における手続規定は、単なる事務的なルールではありません。これらに違反した場合、刑事罰(関税法114条参照)の他、企業は極めて大きなダメージを負うことになります。

(1)附帯税や過料の発生

不適切な手続により貨物の動きが把握できなくなった結果、申告漏れが生じた場合には、過少申告加算税や無申告加算税が課されます。また、手続自体の遅延や懈怠に対しても、過料等の行政罰が科されることがあります。

(2)通関手続の遅延とコスト増

税関からの信頼を失うと、その後の輸入申告において、通常よりも厳格かつ長時間の検査が行われるようになります。これにより、船の滞船料(デマレッジ)や保管料が膨らみ、企業の利益を直接的に圧迫します。

(3)企業の社会的信頼の失墜

コンプライアンスを重視する現代のビジネス環境において、関税法違反の事実は、取引先や金融機関からの評価を著しく低下させます。特にAEO(認定事業者)の資格取得を目指す企業にとっては、致命的な打撃となり得ます。

6 専門家としての視点と実務上のアドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

港湾手続におけるリスクを回避するためのアドバイスを3点申し上げます。

①船会社や荷役業者との「早期の情報共有」です。船の到着予定が変更になった際、即座に税関への届出準備ができるよう、連絡体制を多重化しておく必要があります。冒頭のS氏の事例でも、到着の数時間前までに届出を完了させていれば、日曜日の夜間でも法的に正当な作業が可能でした。

②デジタルツールの活用です。現在はNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)を通じて、電子的な報告や届出が可能です。このシステムを熟知し、迅速に操作できる人員を確保することが、リードタイム短縮とコンプライアンス維持の両立に不可欠です。

③例外規定の範囲を正確に理解することです。船用品や機用品の取り扱いについては、一般貨物とは異なる緩和措置がある一方で、その定義を誤ると無許可積卸しとみなされる危険があります。これらについては、定期的には通関士や弁護士による監査を受けるべきです。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、港湾での積卸しから、その後の通関申告、さらには他法令との整合性確認まで、一貫したリーガルサービスを提供することが可能です。

8 まとめ:適正な港湾実務がグローバルサプライチェーンを支える

貨物の積卸しは、輸入取引という長いプロセスの入り口にあたります。この段階で適正な手続を踏むことが、その後の通関をスムーズにし、最終的な納品までのリードタイムを最短化するための唯一の鍵となります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法的知識を持ち、一つひとつの手続を誠実に実行することが、貴社の物流の信頼性を高め、国際競争力を強化することに繋がります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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