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「みなし輸入」の例外事由と実務上の留意点
0 はじめに:具体的な相談事例の紹介
当事務所には、輸入実務における特殊なケースや、保税地域内での貨物の取り扱いに関するご相談が数多く寄せられております。まずは、実際に起こり得る架空のトラブル事例をご紹介いたします。
【相談者】
日本近海で国際クルーズ船の運行管理を支援している株式会社M 代表取締役 F氏
【相談内容】
「当社は、海外から到着した大型客船に対して、船内で使用される高級ワインや食材などの船用品を供給する業務をサポートしています。これらの物品は外国貨物のまま船内に積み込まれ、公海上で乗客や乗組員によって消費されます。先日、税関より、これらの外国貨物が日本領海内で消費される場合、それは関税法上の「みなし輸入」に該当し、納税が必要なのではないかという指摘に近い照会を受けました。F氏は、船の中で本来の用途に従って消費されるものが、なぜわざわざ輸入申告をして税金を払わなければならないのかと疑問に感じています。「みなし輸入」の原則は理解しているつもりですが、このようなケースでも例外なく課税されるのでしょうか。」
このような事例は、国際的な輸送業務や保税実務に携わる企業にとって非常に重要な関心事です。原則として外国貨物の国内消費は輸入とみなされますが、実務上の利便性や国際的な慣習を考慮し、法律では明確な「例外」が設けられています。本記事では、どのような場合に輸入とみなされないのか、その具体的な内容と法的根拠を詳しく解説いたします。
1 みなし輸入の原則と例外規定の必要性
先日のコラムにおいてみなし輸入に関してご紹介いたしました。そこでは、外国貨物が輸入される前に本邦において使用され、又は消費される場合には、その使用し、又は消費する者がその使用又は消費の時に当該外国貨物を輸入するものとみなされる(関税法第2条第3項)、とご紹介したものと思います。
しかしながら、このような外国貨物の使用又は消費について、輸入とみなさない場合がありますので、注意が必要です。外国貨物の輸入前における本邦での使用又は消費を全て輸入とみなすことは、経済活動や国際交通の実態に照らして適当ではないからです。
2 輸入とみなさない具体的な4つのケース
関税法および関税法施行令第1条の2に基づき、以下の4つの場合には、外国貨物の使用・消費であっても輸入とはみなされておりません。
(1)保税地域において認められた範囲内での使用・消費
保税地域において関税法により認められたところに従って外国貨物が使用され、又は消費される場合です。これには以下の行為が含まれます。
①指定保税地域や保税蔵置場における見本の展示や簡単な加工
②保税工場における保税作業(外国貨物の加工や製造)
③保税展示場における展示や使用
例えば、保税工場において海外から輸入した原材料(外国貨物)を使用して製品を製造する過程で、その原材料が消費されるのは当然の予定事項です。これをいちいち輸入とみなして課税していては、保税制度のメリットが失われてしまいます。したがって、これらは正当な保税作業の一環として、輸入とはみなされない取り扱いとなります(関税法61条参照)。
(2)船舶や航空機における船用品・機用品の使用・消費
本邦と外国との間を往来する船舶や航空機に積まれている外国貨物である船用品や機用品を、それらの船舶や航空機においてその本来の用途に従って使用し、又は消費する場合です(関税法第2条第1項第10号、関税法23条参照)。冒頭の相談事例はこのケースに該当します。
国際航路に従事する船舶内で、乗客が食事をしたり、船のエンジンを動かすために燃料を消費したりする行為は、国際的な移動に付随する不可避な消費です。これを日本領海内だからといって「輸入」として課税することは、国際慣習に反し、円滑な輸送を妨げることになります。そのため、本来の用途に従う限りにおいて、輸入とはみなされません。
(3)旅客や乗組員による携帯品の使用・消費
旅客や乗組員がその携帯品である外国貨物を、その個人的な用途に供するため使用し、又は消費する場合です。
海外から日本に到着した旅行者が、飛行機を降りた後、税関検査を受ける前のロビーで、海外で購入したミネラルウォーターを飲んだり、自分のスマートフォンを使用したりする行為がこれにあたります。これらは個人的な消費であり、国内市場に流通させる目的ではないため、輸入とみなさないという合理的な判断がなされています。
(4)公務員による権限に基づいた収去・使用
税関職員その他の公務員がその権限に基づいて収去した外国貨物である見本等を、その権限に基づいて使用し、又は消費する場合です。
税関職員が貨物の成分分析のために一部をサンプリングして検査機関で消費する行為や、警察が捜査の過程で証拠品として一部を使用するケースなどが該当します。国家の正当な権限行使に伴う消費まで輸入とみなして納税義務を課すことは想定されていないため、これも例外とされます。
3 実務で役立つ「みなし輸入」の該否判断テーブル
企業が保税地域や特殊な環境下で貨物を取り扱う際、それが「輸入」とみなされるのか、それとも「例外」に当たるのかを判断するための表を作成いたしました。
【外国貨物の使用・消費に関する判断基準一覧表】
行為の類型|具体例|みなし輸入の成否|
保税地域内での販売|見本市での商品の直接販売|輸入とみなす|
無許可での試食行為|届出なしでのサンプルの提供|輸入とみなす|
船内での乗客の食事|国際船内での規定の食料消費|輸入とみなさない|
保税工場での製造|外国部品を用いた製品の組み立て|輸入とみなさない|
税関による分析検査|職員によるサンプルの破壊検査|輸入とみなさない|
入国直後の私的使用|未通関の携帯品の個人的利用|輸入とみなさない|
4 みなし輸入の例外を誤解することによる法的リスク
このように、一定の場合には、外国貨物の使用・消費を輸入とはみなさない点には注意が必要です。しかし、この「例外」を拡大解釈してしまうと、思わぬ法的トラブルに発展する恐れがあります。
(1)本来の用途を超えた消費
船用品として積み込んだアルコール類を、船内ではなく陸上の関係者に無断で提供したような場合、それはもはや「本来の用途に従った使用」とは認められません。その瞬間、本来支払うべきであった関税等の納税義務が発生し、無許可輸入としての罰則が科される可能性があります。
(2)保税作業の範囲外での行為
保税蔵置場の許可を受けているからといって、税関長への届出なしに勝手に貨物を開封し、一部をサンプルとして社外へ持ち出したり、展示会で勝手に試食させたりする行為は、関税法第2条第3項の原則どおり「みなし輸入」となります。
(3)事後調査における否認リスク
税関事後調査において、過去の使用・消費が例外規定に該当すると主張しても、その証拠となる帳簿や届出書類が不備であれば、税関は「みなし輸入」と断定して追徴課税を行います。過少申告加算税や重加算税の対象となるリスクも極めて高いといえます。
具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。
5 企業が取るべきコンプライアンス対策
「みなし輸入」の例外事由を適切に運用し、リスクを最小限に抑えるためには、以下の3つの対策が推奨されます。
①保税作業や使用・消費を行う前の事前申請の徹底です。特例的に認められる行為であっても、多くの場合、税関への事前の届出や承認がセットになっています。「認められているから黙ってやっていい」というわけではありません。
②船用品や機用品の積込み許可証の厳重な管理です。積み込んだ数量と、船内で消費された数量、および残存数量が帳簿上で一致している必要があります。この管理が杜撰だと、不法な国内流入を疑われる原因となります。
③従業員への教育です。現場の担当者が「自分たちが使うのだから関税は関係ない」と安易に考えて外国貨物を開封してしまうことが、企業全体のコンプライアンス違反に直結します。
6 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士でありながら通関実務に精通していることで、みなし輸入の例外規定という極めて専門性の高い解釈問題についても、実務の運用実態に即した、具体的かつ法的なアドバイスを行うことが可能です。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
7 まとめ:正しい解釈がグローバルな信頼を築く
輸入ビジネスにおいて、何が課税対象であり、何が免除されるのかを正確に区別することは、コスト管理の面だけでなく、企業のコンプライアンス体制を証明する上で非常に重要です。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法的知識を持ち、適正な手続きを経てこそ、国際物流の恩恵を最大限に享受することができます。当事務所は、貴社の輸入実務が常に適正な法運用の下で行われるよう、全力でバックアップいたします。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
「みなし輸入」の法的性質と留意点について
1 はじめに:具体的な相談事例の紹介
当事務所には、輸入実務における特殊な手続や、意図せぬ形で行われる輸入行為に関するご相談が数多く寄せられております。まずは、実際に起こり得る架空のトラブル事例をご紹介いたします。
【相談者】
東京都内で海外の珍しい食品や飲料の輸入販売を検討している株式会社S 代表取締役 E氏
【相談内容】
当社は、保税展示場の許可を受けた国際食品見本市に出展しました。海外のメーカーから持ち込んだ未通関の食品(外国貨物)を展示し、来場者にその場で試食・試飲してもらうイベントを開催しました。E氏は、保税地域内での出来事であり、まだ国内に貨物を引き取っているわけではないため、輸入申告や関税の支払いは後でまとめて行えばよいと考えていました。 しかし、後日、税関より、保税展示場内での消費は「みなし輸入」に該当し、消費の時点で納税義務が発生しているはずだとの指摘を受けました。さらに、一部の余った商品を会場内で商談相手に販売した行為も「みなし輸入」にあたると言われ、困惑しています。正しい知識があれば防げたはずのミスですが、具体的にどのような法的根拠に基づいているのでしょうか。
このような事例は、保税制度の柔軟な活用を試みる企業において、手続きの優先順位を誤ることで発生しがちです。輸入許可を受ける前に貨物が消費・販売されるケースは、法律上「みなし輸入」として扱われ、厳格な義務が課されます。本記事では、この「みなし輸入」の概要と実務上の注意点を詳しく解説いたします。
2 みなし輸入の定義と法的背景
貨物を輸入する場合には、適切に輸入申告を行い輸入許可を受ける必要があります。しかしながら、一定の場合には、貨物が輸入されたものとみなすという対応が取られる場合があることをご存知でしょうか。本日はこのような、みなし輸入についてご紹介いたします。
まず、関税法における「輸入」の定義を再確認します。
外国貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経由して本邦に)引き取ること(本邦において使用し、又は消費すること(保税地域において外国貨物を次条の規定により使用し、又は消費することを含む。)を含む。)をいう。
原則として、輸入とは外国貨物を国内へ引き取る行為を指しますが、物理的な引き取りが完了する前であっても、国内で使用・消費された場合には、その瞬間に「輸入」があったものとみなされます。これが「みなし輸入」の基本的な考え方です。
なぜこのような規定があるかというと、貨物を保税地域内又は保税地域以外の場所で使用し、又は消費することを輸入とすることは、通常の引き取り行為とは形態が異なりますが、実質的には国内でその貨物の価値が費消されているため、課税の公平性を担保するために特に輸入とみなすこととしたものです。
3 外国貨物の使用・消費によるみなし輸入
外国貨物が輸入される前に本邦において使用され、又は消費される場合には、その使用し、又は消費する者がその使用又は消費の時に当該外国貨物を輸入するものとみなされます。
外国貨物が輸入される前に本邦において使用され、又は消費される場合には、その使用し、又は消費する者がその使用又は消費の時に当該貨物を輸入するものとみなす。
具体的な貨物の使用、消費の例としては、以下のようなケースが挙げられます。
①所定の輸入手続きをする前に、外国貨物である自動車を公道等で乗り回すこと
②輸入許可前の酒類を飲用すること
③保税地域に蔵置されている外国貨物の一部を、その所有者が分析のための見本として当該保税地域内で消費する行為
④保税展示場内において観覧者が外国貨物である食品を試食する行為
これらの行為が行われた瞬間、法律上は輸入が行われたと扱われ、それに基づいた納税義務や他法令の遵守が求められることになります。
4 保税展示場等における販売によるみなし輸入
もう一つの重要なケースは、保税地域内での販売行為です。
【関税法第62条の4第2項(保税展示場に入れられた外国貨物の使用等)】
保税展示場に入れられた外国貨物が保税展示場において販売された場合には、その販売を輸入とみなす。
また、この規定は第62条の15において総合保税地域にも準用されています。
通常、保税展示場や総合保税地域は、展示会や商談のために外国貨物を置くことが許されていますが、そこで貨物が販売されると、それはもはや展示の枠を超え、国内市場への供給とみなされます。したがって、販売した者が輸入者とみなされ、関税等の支払義務を負うことになります。
5 みなし輸入と通常の輸入の比較表
実務上、どのような違いがあるのかを以下の表にまとめました。
【輸入形態の比較整理表】
比較項目|通常の輸入(引き取り)|みなし輸入(使用・消費・販売)|
行為のタイミング|国内への持ち出し時|使用・消費・販売の時|
輸入者の定義|引き取る者|使用・消費・販売する者|
納税義務の発生|輸入許可を受ける時|当該行為が行われた時|
手続きの原則|事前申告、審査、許可|即時の輸入とみなされる|
主な発生場所|保税地域からのゲート通過|保税地域内、又は許可前の国内|
典型的な事例|製品の国内配送|試飲・試食、分析用消費、展示即売|
6 実務上の手続きと納税のタイミング
「みなし輸入」が発生した場合、現実にはどのように納税を行うべきでしょうか。
本来、輸入は申告納税方式が原則ですが、みなし輸入の場合には、その行為が行われた時点で直ちに納税義務が確定します。
特に保税展示場での試食などの場合、事前に「使用・消費」の申請を行い、税関から承認を受ける必要があります。この承認を受ける過程で、消費される予定の数量に応じた関税・消費税を納付することになります。
もし、事前の承認なく消費してしまった場合、それは関税法上の手続違反となり、厳しい処分の対象となり得ます。
貨物を輸入する者は、その関税を納める義務がある。
この「輸入する者」には、みなし輸入における「使用・消費した者」も含まれることを忘れてはなりません。
7 みなし輸入にまつわる法的リスクと罰則
みなし輸入の規定を知らずに、安易に外国貨物を使用してしまった場合、以下のようなリスクが発生します。
(1)無許可輸入としての処罰
輸入許可を受けずに外国貨物を国内で消費する行為は、実質的に無許可輸入と同義とみなされる可能性があります(関税法第111条)。
(2)脱税による重加算税
消費した分に相当する税金を納めていなかった場合、不足税額の徴収に加えて、過少申告加算税や、悪質な場合は重加算税(35パーセント)が課されます。
(3)AEO認定への影響
AEO(認定事業者)の資格を持つ企業がこのような初歩的なミスを犯した場合、コンプライアンス体制に重大な欠陥があるとみなされ、認定の取り消しや業務改善命令を受けるリスクがあります。
8 企業が取るべき「みなし輸入」対策チェックリスト
意図せぬみなし輸入を防ぐため、以下の項目を社内で確認してください。
【外国貨物取り扱い時の自主点検項目】
確認内容|具体的なアクション|
サンプルの取り扱い|分析や試験のために一部を消費していないか|
展示会での対応|来場者に提供する食品は、事前に消費申請をしたか|
展示即売の有無|会場での直接販売を行う予定はないか|
デモンストレーション|機械を稼働させる際、消耗品を消費しないか|
他法令の適用|消費する食品は食品衛生法をクリアしているか|
これらの確認を怠ると、現場の担当者が「良かれと思って」行った試供品の提供が、会社全体の重大な法令違反に繋がってしまいます。
9 他法令との兼ね合いにおける留意点
みなし輸入は、関税法だけの問題ではありません。例えば食品の試食を行う場合、それは「輸入」にあたるため、食品衛生法に基づく輸入届出も済ませておく必要があります。また、化粧品のテスターとして使用する場合も、薬機法上の手続きが必要です。
他の法令の規定により、輸出又は輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸出申告又は輸入申告の際、当該許可、承認等を受けている旨を税関に証明しなければならない。
みなし輸入とされる行為を行う際にも、この第70条の規定は適用されます。つまり、試食を行うその瞬間に、食品衛生法の届出済証などの証明が手元になければならないのです。冒頭の相談事例のように、現場でいきなり試食を始めてしまうことは、複数の法律にまたがる違反行為となる可能性が高いことを認識すべきです。
10 専門家としての視点と具体的な改善アドバイス
具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。
「みなし輸入」のリスクを回避するためのアドバイスを3点申し上げます。
①保税地域内での活動に関する「マニュアル化」です。営業担当者や展示会担当者は、関税法の詳細を把握していないことが多いため、外国貨物のままでできること、できないことを明確に区分したルールを作成し、周知徹底することが不可欠です。
②通関業者との綿密な打ち合わせです。展示会への出展などが決まった段階で、どの貨物が消費される可能性があるのか、どの貨物を販売する予定があるのかを共有し、事前に適切な「使用・消費」の申請手続きを依頼しておく必要があります。
③予備的な輸入申告の活用です。消費することが確定している貨物については、保税地域に入れる前に、あるいは入れた直後に通常の輸入申告を行い、あらかじめ輸入許可(内国貨物化)を受けてしまうことで、その後の自由な使用・消費を担保するという手法も検討に値します。
11 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、解釈が分かれやすい実務上の問題についても、過去の判例や税関の通達に基づいた的確な法的助言を行うことが可能です。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
関税法における外国貨物の定義と法的性質
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
神奈川県内で精密部品の輸出入および加工を行う株式会社A、物流管理担当のB氏
【相談内容】
「当社では現在、海外から輸入した原材料を保税工場に入れ、国内で調達した部品と組み合わせて製品を製造し、再び海外へ輸出する計画を立てております。先日、通関業者との打ち合わせの中で「保税工場内で内国貨物と外国貨物を混ぜて使用する場合、完成した製品の法的性質がどちらになるかによって、納税義務や通関手続きが変わる」との指摘を受けました。また、万が一、輸出許可が下りた後に国内の倉庫へ戻す必要が生じた場合、その貨物は国内の物として扱ってよいのでしょうか。関税法上の用語である外国貨物の定義と、実務上の留意点、特に混同して使用した場合の規定について詳しく教えてください。」
輸出入をビジネスとして継続的に行う際、税関や通関業者との円滑なコミュニケーションは欠かせません。その対話の中で頻繁に登場し、かつ実務上極めて重要な概念が「外国貨物」です。多くの実務者にとって馴染みの薄い用語かもしれませんが、貨物が「外国貨物」に該当するか「内国貨物」に該当するかによって、関税法上の規制内容や罰則の適用範囲が劇的に異なります。本稿では、関税法第二条に定義される基本的な用語の意義から、保税作業における特殊な規定までを解説いたします。
1 外国貨物の定義と三つのカテゴリー
外国貨物とは、単に「海外で作られた物」を指す言葉ではありません。
関税法第二条第一項第三号においては、以下の三つのいずれかに該当する貨物を外国貨物と定義しております。
(1)輸出の許可を受けた貨物
本邦(日本国内)にある貨物であっても、税関長から輸出の許可を受けた瞬間に、法的には外国貨物へと性質が変化いたします。これには日本で生産された産品のほか、外国から到着して一旦輸入された後に、再び海外へ送り出すために輸出申告を行った貨物も含まれます。実務上、輸出許可を受けた後の貨物は、船積み前であっても税関の監督下に置かれることになります。
(2)外国から本邦に到着した貨物(輸入許可前)
海外から日本の港湾や空港に到着した貨物は、輸入の許可を受けるまでは外国貨物です。保税地域等に蔵置されている状態の貨物がこれに該当いたします。
(3)外国の船舶により公海で採捕された水産物等
公海(いずれの国の領海にも属さない海域)において、外国の船舶によって採捕された魚介類などの水産物も、日本に持ち込まれる際には外国貨物として扱われます。
以下の表は、外国貨物と内国貨物の区分を整理したものです。
【外国貨物と内国貨物の区分一覧表】
|区 分|貨物の状態の詳細|法的な位置付け|
|外国貨物|外国から到着し、輸入許可を受ける前の貨物|関税の徴収権が保留されている状態|
|外国貨物|輸出の許可を受け、まだ本邦から引き出されていない貨物|輸出されるべき貨物として税関の監督下にある状態|
|外国貨物|外国船舶が公海で採捕し、本邦に持ち込まれた水産物|輸入手続きが必要な貨物|
|内国貨物|本邦にある貨物で、外国貨物でないもの|自由な流通が認められている状態|
|内国貨物|本邦の船舶により公海で採捕された水産物|国内産品として扱われるもの|
|内国貨物|輸入の許可を受けた後の貨物|関税の支払いが完了または免除された状態|
2 貨物の性質が変化する法的タイミング
貨物が外国貨物から内国貨物へ、あるいはその逆へと変化するタイミングを把握することは、コンプライアンス遵守の観点から非常に重要です。
(1)輸出許可による変化(関税法第六十七条)
貨物を輸出しようとする者が税関長に申告し、必要な検査を経て許可を受けたとき、その貨物は内国貨物から外国貨物になります。許可を受けた後は、原則として勝手に国内で消費したり、保税地域から無断で持ち出したりすることはできません。
(2)輸入許可による変化(関税法第六十七条)
外国から到着した貨物につき、輸入申告を行い、関税や消費税を納付して税関長の許可を受けたとき、その貨物は外国貨物から内国貨物になります。この許可を得ることで、初めて日本国内での自由な流通や使用が可能となります。
(3)相談事例への当てはめ
株式会社AのB氏が懸念されている「輸出許可後の引き戻し」については、許可を受けた時点で貨物は外国貨物となっているため、これを再び国内に流通させるには、原則として「輸出申告の撤回」や、場合によっては「再輸入」の手続きが必要となります。
3 保税工場における保税作業と「みなす」規定
相談事例のように、保税工場において外国貨物と内国貨物を組み合わせて製品を作る場合、その完成品の法的性質が問題となります。これについては、関税法第五十九条に重要な規定があります。
(1)保税製品の外国貨物視(関税法第五十九条第一項)
保税工場における保税作業によって、外国貨物と内国貨物を使用して製造された製品(保税製品)は、原則としてそのすべてが「外国貨物」とみなされます。
(注)「みなす」とは 本来は性質が異なるもの(この場合は内国貨物の部分を含む製品)を、法令の適用上、一定の目的のために同一のものとして扱い、同一の法律効果を生じさせることを指す法的な表現です。
この規定があるため、完成した製品を国内に引き取る際には、製品全体の価値に対して輸入手続きと関税の支払いが必要になるのが原則です。これは、作業過程で外国貨物と内国貨物を厳密に区分することが実務上困難であるという背景から設けられた規定です。
(2)混用承認による例外規定(関税法第五十九条第二項)
ただし、これには重要な例外があります。
あらかじめ税関長の承認を受けて、外国貨物と同種の内国貨物を混じて使用した場合には、完成した製品のうち、使用した外国貨物の数量に対応する部分のみを外国貨物とみなし、残りの部分は内国貨物として扱うことが可能です。
この承認を得ることで、株式会社Aは国内調達した部品に相当する部分について、無駄な輸入手続きや関税負担を回避できる可能性があります。
4 外国貨物の取り扱いに関する実務上の留意点
貨物が外国貨物である期間中は、税関の強力な監督下に置かれます。これに関連する主な規制は以下の通りです。
(1)蔵置場所の制限(関税法第三十条)
外国貨物は、原則として保税地域以外の場所に置くことができません。これを「指定地外蔵置」とする場合には、あらかじめ税関長の許可を得る必要があります。
(2)運送の制限(関税法第六十三条)
外国貨物を保税地域間で運送する場合には、原則として税関長に申告し、運送の承認を受けなければなりません。これを「保税運送」と呼びます。
(3)事故等による滅失
保税地域にある外国貨物が亡失したり、滅失したりした場合、原則としてその保管責任者や当該貨物の所有者から直ちに関税が徴収されることになります。相談事例のような精密部品の場合、火災や破損による滅失には細心の注意が必要です。
5 不適切な取り扱いに対する法的ペナルティ
外国貨物の定義を誤解し、必要な手続きを経ずに貨物を動かしたり消費したりした場合、厳しい罰則が課される可能性があります。
(1)無許可輸出入罪(関税法第百十一条)
輸入許可を受ける前の外国貨物を引き取ったり、輸出許可を受けて外国貨物となったものを無断で移動させたりした場合、五年以下の懲役もしくは一千万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
(2)保税地域外蔵置罪(関税法第百十五条の二)
許可なく外国貨物を保税地域以外の場所に蔵置した場合も、罰則の対象となります。
6 まとめ:外国貨物の概念理解がビジネスを守る
「外国貨物」という用語の正確な理解は、単なる知識の習得にとどまらず、企業のコンプライアンス体制を構築する上での基盤となります。貨物がどの瞬間に外国貨物になり、どの瞬間に内国貨物に戻るのかを把握しておくことは、意図しない法律違反を防ぎ、かつ保税制度を有効に活用してコストを削減するための第一歩です。
【外国貨物の主要手続きチェックリスト】
|手続きの名称|内容の要約|根拠となる法令|
|輸出申告・許可|内国貨物を外国貨物にするための手続き|関税法第六十七条|
|輸入申告・許可|外国貨物を内国貨物にするための手続き|関税法第六十七条|
|保税作業の届出|保税工場で外国貨物を加工する際の手続き|関税法第五十六条|
|混用承認申請|内国貨物と外国貨物を混ぜて使用する許可|関税法第五十九条|
|保税運送の承認|外国貨物のまま国内を移動させる際の手続き|関税法第六十三条|
|廃棄の届出|外国貨物を廃棄する際の手続き|関税法第三十四条|
貿易実務においては、これらの用語が日常的に飛び交います。株式会社AのB氏におかれましては、保税工場での作業を開始する前に、税関長の混用承認を得ることの是非を含め、自社のオペレーションが関税法のどの条文に依拠しているのかを再確認することをお勧めいたします。
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、輸出入トラブルや通関トラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
外国貨物の定義を巡る解釈の争いや、保税地域における貨物管理の不備、さらには税関事後調査において外国貨物の取り扱いを指摘された場合など、専門的な知見に基づいた迅速な対応が可能です。
輸出入や通関に関して、お悩みの方や、ご不明な点、ご不安な点等ございましたら、どうぞご遠慮なく当事務所までご相談ください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
貿易実務における帳簿書類の保存義務と備え
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
千葉県内に拠点を置く輸入卸売業者、株式会社M物流、業務管理部のT部長
【相談内容】
「当社では、海外からアパレル製品や雑貨を継続的に輸入しております。
先日、税関から「事後調査」の実施に関する通知が届きました。調査の対象は過去三期分の輸入取引とのことですが、社内の文書管理規則が徹底されておらず、当時の担当者がやり取りしていた電子メールや、一部の仕入書(インボイス)の控えが紛失している可能性があることが判明いたしました。特に、価格交渉の経緯を記したメールや、運賃の明細書などが手元にない場合、税関からどのような指摘を受けるのでしょうか。また、関税法上の書類保存義務について、輸出入者それぞれが守るべき正確な期間や対象書類を改めて教えてください。保存不備があった場合の法的なペナルティについても非常に不安を感じております。」
輸出入通関において利用される書類や、取引の経緯を記録した帳簿を保存することは、関税法によって義務付けられた極めて重要なルールです。税関は、輸入許可から数年後に「事後調査」を行い、申告内容の適正性を確認いたします。この際、書類の保存に不備があると、申告価格の妥当性を証明できず、多額の追徴課税や加算税を課されるリスクが生じます。
本日は、輸出入者が遵守すべき帳簿書類の保存義務について、専門的な観点から詳細に解説いたします。
1 輸出者における帳簿書類の保存義務
輸出者は、輸出許可を受けた貨物について、以下の通り帳簿の備え付けと書類の保存を行わなければなりません。これは関税法第九十四条および関税法施行令第八十三条の規定に基づいております。
(1)帳簿の備え付けと記載事項
輸出者は、輸出許可の日の翌日から起算して五年間、特定の事項を記載した帳簿を保存する義務があります。記載すべき事項は以下の通りです。
①品名、数量および価格
②仕向人の氏名または名称
③輸出許可年月日および輸出許可番号
なお、これらは新たに専用の帳簿を作成する必要はなく、既存の仕入書や帳簿にこれらの項目を追記し、整理したものでも認められます。
(2)保存すべき書類の範囲
輸出者は、以下の書類を輸出許可の日の翌日から起算して五年間保存しなければなりません。
①仕入書(インボイス)
②輸出許可貨物に係る取引に関して作成し、または受領した書類(契約書、価格表、電子メールでのやり取り等)
2 輸入者における帳簿書類の保存義務
輸入者の保存義務は、関税の課税標準を確定させるという性質上、輸出者よりも厳格かつ多岐にわたります。
(1)帳簿の保存期間と記載事項
輸入者は、輸入許可の日の翌日から起算して七年間、帳簿を備え付け、保存しなければなりません。輸出者が五年間であるのに対し、輸入者は七年間である点に注意が必要です。
記載すべき事項は以下の通りです。
①品名、数量および価格
②仕出人の氏名または名称
③輸入許可年月日および輸入許可番号
(2)保存すべき書類の詳細
輸入者は、輸入許可の日の翌日から起算して五年間、以下の書類を保存する義務があります。
①輸入許可貨物の契約書
②運賃明細書、保険料明細書
③包装明細書(パッキングリスト)
④価格表(プライスリスト) 五 製造者または売渡人の作成した、仕出人との間の取引についての書類 六 その他、課税標準を明らかにすることができる書類
以下の表は、輸出入者が保存すべき期間と書類をまとめたものです。
【帳簿書類の保存期間一覧表】
|区分|保存対象|保存期間|起算日|
|輸出者|帳簿(品名、数量、価格等)|五年間|輸出許可日の翌日|
|輸出者|書類(仕入書、契約書等)|五年間|輸出許可日の翌日|
|輸入者|帳簿(品名、数量、価格等)|七年間|輸入許可日の翌日|
|輸入者|書類(仕入書、運賃明細等)|五年間|輸入許可日の翌日|
3 電子メール(電磁的記録)の保存義務とデジタル化への対応
現代の貿易取引においては、書類の多くが電子メールやクラウド上のデータでやり取りされます。これらの電磁的記録についても、紙の書類と同様に保存義務が課せられております。
(1)電子メールの保存義務
輸出入にかかる取引の関係書類(契約内容、価格交渉の経緯、納期の確認等)を電子メールでやり取りした場合には、そのメール本文および添付ファイルを、輸出入許可日の翌日から五年間保存しなければなりません。
(2)電子帳簿保存法との関連
関税法上の書類保存においても、電子データでの保存が認められております。ただし、単にデータを保存するだけでなく、税関の調査時に速やかに検索・提示できる状態で管理されていることが求められます。特に、価格の決定に影響を及ぼすロイヤルティの支払いや、無償提供した原材料のコスト(加算要素)に関するやり取りが含まれるメールは、事後調査における焦点となるため、厳重な管理が必要です。
4 税関事後調査と書類不備のリスク
T部長のご相談にある「事後調査」では、税関職員が企業の事業所を訪問し、申告内容と帳簿書類の整合性を精査いたします。
(1)調査の法的根拠
税関による事後調査は、関税法第百五条(税関職員の権限)に基づき実施されます。職員は、帳簿書類の提示や提出を求める権限を有しております。
(2)書類がない場合の法的不利益
調査時に必要な書類が提示できない場合、以下のような不利益を被る可能性があります。
①申告価格の否認
輸入申告時の価格が妥当であることを証明するエビデンス(契約書や価格交渉メール等)がない場合、税関は関税定率法第四条に基づき、独自の計算方法で課税価格を再計算することがあります。これにより、当初の申告よりも高い関税が課されることになります。
②過少申告加算税の賦課
過少申告が判明した場合、関税法第十二条の二等に基づき、不足税額に対して十パーセントから十五パーセントの過少申告加算税が課されます。
③重加算税の適用
書類の隠蔽や仮装が認められた場合には、関税法第十二条の四に基づき、三十五パーセントから四十パーセントの重加算税という極めて重いペナルティが課せられます。
5 罰則規定について
帳簿書類の備え付けや保存を怠った場合、あるいは税関の調査を妨害した場合には、行政罰だけでなく刑事罰の対象となることもあります。
このように、単なる「書類の紛失」であっても、法律違反として刑罰の対象になり得ることを十分に認識しておく必要があります。
6 弁護士および通関士の視点による実務的アドバイス
T部長の株式会社M物流が取り組むべき対応策を以下に整理いたします。
(1)現存する資料の棚卸し
まずは現時点で手元にある書類やメールデータをすべて洗い出し、輸入許可番号ごとに整理してください。紛失した書類がある場合でも、銀行の送金記録やフォワーダーへの支払い明細などから、間接的に取引の事実を立証できる場合があります。
(2)電子データ管理規定の策定
今後の再発防止策として、電子メールやPDF形式のインボイスを専用のサーバーやクラウドストレージで一元管理する規定を策定してください。担当者の退職やPCの故障によってデータが消失しないよう、バックアップ体制を構築することが重要です。
(3)事前教示制度の活用
将来的な取引において、価格の算定方法に不安がある場合には、事前教示制度を利用し、あらかじめ税関から公式な見解を得ておくことも、事後調査のリスクを低減する有効な手段です。
(4)専門家によるリーガルチェック
事後調査の通知を受けた段階で、どのような書類が不足しているのか、またその不足が法的にどのような影響を与えるのかを弁護士が診断いたします。税関との交渉において、法的な根拠に基づいた説明を行うことで、不当な対応が発生することを防ぐことが可能となります。
7 まとめ:帳簿保存は企業の信頼を守る基盤
関税法における帳簿書類の保存義務を遵守することは、単なる事務作業ではなく、企業の国際的なコンプライアンス体制を示す鏡です。適正な書類保存が行われている企業は、税関からの信頼も高まり、将来的には「認定事業者(AEO)制度」の承認を受けるといったメリットにもつながります。
以下の表は、事後調査に備えるための自主点検リストです。
【事後調査に向けた自主点検リスト】
|確認項目|法的なチェックポイント|
|帳簿の保存年数|輸入帳簿は七年間、保存されているか|
|記載内容の正確性|許可番号や日付に誤記はないか|
|電子メールの管理|価格交渉の過程を示すメールが保存されているか|
|加算要素の有無|運賃や保険料以外の費用(金型代、ロイヤルティ等)の資料はあるか|
|他法令書類|食品衛生法や薬機法等の関連書類もあわせて保存しているか|
貿易実務は複雑であり、法改正も頻繁に行われます。正確な知識に基づいた文書管理こそが、企業の利益と信頼を守る最大の防衛策となります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から一貫したサポートを提供できる強みを持っております。
税関事後調査への立ち会い、不足している書類に対する法的な代替立証の検討、加算税処分に対する不服申立てなど、貿易実務に関するあらゆる法的課題に対応いたします。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
CIF条件の法的解釈と実務対応
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
大阪市内に拠点を置く輸入商社、株式会社G、物流管理担当のS部長
【相談内容】
「当社では、イタリアの家具メーカーから高級ソファを継続的に輸入しております。取引条件はインコタームズ2010に基づくCIF(運賃保険料込み)条件を採用しております。先日、ジェノバ港を出港した本船が航海中に荒天に見舞われ、コンテナ内に海水が浸入したことで、積み荷のソファ数十セットが修復不可能な損害を受けました。 当社は買主として「CIF条件は売主が日本の港までの運賃と保険料を負担する条件であるから、日本に到着するまでのリスクは売主が負うべきである」と主張し、代金の支払いを拒んでおります。しかし、売主側は「貨物をジェノバ港で本船に積み込んだ時点でリスクは移転している」と反論し、平行線をたどっております。また、税関への輸入申告に際しても、この損害をどのように反映すべきか苦慮しております。CIF条件における法的な責任の所在と、輸入通関時における申告価格の考え方について詳しく教えてください。」
国際貿易において、物品の引渡し地点、費用負担の範囲、そして危険(リスク)の移転時期を明確に定めることは、紛争を予防する上で極めて重要です。その定型的なルールとして世界的に利用されているのが、国際商業会議所(ICC)が策定したインコタームズ(国際貿易条件規則)です。
CIF(Cost, Insurance and Freight)条件は、日本語で「運賃保険料込み条件」と訳されます。この条件は海上および内陸水路輸送に特化した規則であり、歴史的にも最も広く利用されてきた条件の一つです。しかし、株式会社Gの事例のように、費用負担の終点とリスク移転の起点が異なるというCIF特有の構造が、しばしば解釈の誤解を招く要因となります。
1 CIF条件の定義と基本的な仕組み
CIF条件は、売主が、指定された船積港において、本船上に物品を置いたとき、または既にそのように引き渡された物品を調達したときに、引渡し義務を果たす条件です。
(1)リスクの移転時期(船積地での移転)
CIF条件における最大の特徴は、物品の滅失や損傷のリスクが「船積港において本船上に置かれた瞬間」に売主から買主に移転する点にあります。これは、費用を負担する終点が「仕向港(到着港)」であるのに対し、リスクが移転する地点は「船積港(出発港)」であるという、いわゆる「隔地者間売買」の典型的な形態を採っております。したがって、S部長の相談事例のように、航海中の荒天による損害は、原則として買主である株式会社Gのリスクとなります。
(2)費用の負担範囲(仕向港までの負担)
売主は、指定された仕向港までの運送契約を締結し、その運賃を支払う義務を負います。また、次項で述べる通り、海上保険契約も売主の費用で締結いたします。
(3)保険契約の締結義務
CIF条件では、売主が買主のために保険契約を締結する義務を負います。
①売主は自己の費用で、運送中の貨物の滅失・損傷に対する買主のリスクをカバーする保険を付保します。
②ただし、特段の合意がない限り、売主が義務付けられるのは「最小限の補償(協会貨物約款の(C)約款等)」で足ります。
③買主がより広範な補償((A)約款など)を求める場合は、契約書において明示的に合意しておく必要があります。
2 日本における関税法とCIF価格の関係
CIF条件は、単なる契約上の条件に留まらず、日本における輸入通関実務において極めて重要な法的役割を果たしております。
(1)輸入申告価格(課税標準)の原則
日本に関税を納付して貨物を輸入する際、その関税額を計算する基礎となる「課税価格」は、原則としてCIF価格をベースに算出されます。
(2)輸入申告の義務
関税法第六十七条(輸出又は輸入の許可)に基づき、貨物を輸入しようとする者は、適正な価額を申告し、許可を受ける必要があります。CIF条件で契約している場合は、インボイスに記載された価格がそのまま課税価格の基礎となるため、実務上の手続きが簡便になるというメリットがあります。
3 CIF条件における費用および義務の分担
CIF条件において、売主と買主がそれぞれ負担すべき費用と義務を整理したものが以下の表です。ワードデータ等に貼り付けてそのまま使用できる形式で作成しております。
【CIF(運賃保険料込み)条件における費用および義務の分担表】
|項目の区分|売主(輸出者)の負担・義務|買主(輸入者)の負担・義務|
|物品の検査・梱包|輸出に適した梱包と点検費用を負担する|負担しない|
|船積港までの国内運賃|売主の施設から船積港までを負担する|負担しない|
|輸出通関手続き|輸出許可の取得および通関費用を負担する|負担しない|
|船積作業費用|本船上に貨物を置くまでの費用を負担する|負担しない|
|主運送費(国際運賃)|指定仕向港までの運賃を負担する|負担しない|
|海上保険料|買主のリスクをカバーする保険料を負担する|負担しない|
|リスクの移転時期|船積港で本船上に置かれた瞬間|左記の時点以降すべて|
|仕向港での荷卸し費用|運送契約に含まれていない限り負担しない|負担する|
|輸入通関・関税|負担しない|輸入国での一切の手続きと税金を負担する|
4 実務上の注意点と法的な落とし穴
CIF条件は広く普及しているものの、実務においては以下の点に十分な注意を払う必要があります。
(1)引渡し完了後の損傷に対する保険金請求
前述の通り、航海中の損害は買主のリスクです。したがって、事故が発生した場合には、買主が売主から送付された保険証券(または保険証明書)に基づき、自ら保険会社に対して保険金の支払いを請求することになります。売主の義務は「適切な保険を掛けて証券を渡すこと」で完了しており、事故の事後処理までを保証するものではありません。
(2)コンテナ輸送におけるCIP条件への切り替え検討
現代の主流であるコンテナ輸送において、売主は貨物を本船に直接積み込むのではなく、港湾地区のコンテナ・ヤード(CY)に搬入いたします。しかし、CIF条件では依然として「本船上に置かれたとき」にリスクが移転するため、CYに搬入してから本船に積み込まれるまでの間に発生した事故のリスクを、売主が負い続けることになります。これを回避するためには、運送人に貨物を引き渡した時点でリスクが移転するCIP(運賃保険料払込渡し)条件を採用することが、法務および実務の観点からはより合理的です。
(3)他法令の遵守と輸入不許可のリスク
CIF条件であっても、輸入国における他法令の遵守責任は買主(輸入者)にあります。
5 トラブル発生時における弁護士の役割
国際的な貿易取引において紛争が発生した場合、準拠法や管轄の決定、そして複雑な貿易規則の解釈が求められます。弁護士による介入には以下のメリットがあります。
(1)リスク移転時点の立証と交渉
相談事例のような海上事故において、損害が発生した正確なタイミングを特定することは容易ではありません。弁護士は船荷証券(B/L)の記載、船長による事故報告書(プロテスト)、サーベイヤーによる鑑定報告書などを精査し、法的な見地からリスク負担の所在を確定させ、相手方や保険会社との交渉を代行いたします。
(2)関税法に基づく修正申告のアドバイス
輸入貨物が損傷していた場合、その損傷の程度に応じて課税価格の減額が認められる場合があります。
このような規定を活用し、適正な税額に修正するための申告手続きをサポートいたします。
(3)保険金請求権の行使支援
売主が締結した保険契約の内容が不十分であった場合や、保険会社が支払いを拒否した場合、保険法や海商法の知識に基づき、買主の権利を最大限に守るための法的措置を講じます。
6 株式会社Gへの具体的なアドバイス
相談事例のS部長に対しては、以下のステップでの対応を推奨いたします。
①保険証券の即時確認
売主から送付されている海上保険証券の内容を精査してください。特に、今回の荒天による浸水被害が補償対象(特約の有無など)に含まれているかを確認することが最優先事項です。
②売主への支払い義務の認識
法的観点からは、船積み時点で引渡しは完了しているため、特段の合意がない限り、買主は売主に対して代金を支払う義務があります。商品の損害については、売主への支払い拒否ではなく、保険金請求によって解決すべき事案です。
③税関への相談と減税申請
輸入許可前であれば減税を受けられる可能性があります。損傷した貨物の写真や鑑定書を揃え、速やかに税関に対して申告価格の調整について相談してください。
④契約の見直し 今後の取引において、コンテナ・ヤードでの引渡しを基準とする場合は、CIP条件への変更を検討してください。また、保険の補償範囲についても「All Risks」条件を義務付けるよう契約書を修正すべきです。
7 まとめ:貿易実務における正確な法知識の必要性
CIF条件は、運賃や保険の手配を売主に任せることができるため、買主にとって利便性の高い条件です。しかし、その根底にある「リスクは出発地で移転する」という原則を看過すると、今回のような事故の際に甚大な損失を被ることになります。
以下の表は、CIF取引において確認すべき法的チェックリストです。
【CIF取引における法的チェックリスト】
|確認項目|法的なチェックポイント|
|保険の補償範囲|買主の事業リスクをカバーするに十分な約款が選択されているか|
|仕向港の特定|具体的な港名が契約書に明記されているか|
|リスク移転の証拠|本船に積み込まれたことを示す無故障の船荷証券を受領しているか|
|輸入申告の適正性|CIF価格に基づき、関税定率法に合致した申告が行われているか|
|他法令の確認|輸入港での検査や許可が必要な品目ではないか|
国際貿易は、地理的な距離や法体系の相違を超えて行われるビジネスです。インコタームズという国際標準を正しく理解し、国内の関税法等と調和させることで、初めて安全な取引が可能となります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しております。これにより、インコタームズの解釈といった私法上の争いから、関税法に基づく行政対応まで、貿易に関するあらゆる法的課題に対し、実務に即した専門的な解決策を提示することが可能です。
CIF価格の妥当性に関する税関の事後調査への対応、海上輸送中の事故を巡る損害賠償請求、さらには輸入規制に関するリーガルチェックまで、幅広くサポートいたします。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。貴社の国際ビジネスが適正な法管理の下で円滑に進行できるよう、全力で支援してまいります。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
FOB条件の法的リスクと実務対応
0 はじめに:相談事例
【相談者】
静岡県内で日本茶の輸出販売を営む株式会社M、海外営業担当のS課長
【相談内容】
「当社では、北米の取引先に対し、コンテナ単位で日本茶の輸出を行っております。契約条件はインコタームズ2020に基づくFOB(本船渡し)条件を採用しております。先日、清水港において指定された本船へ貨物を積み込む際、ガントリークレーンの操作ミスにより、コンテナが本船の甲板上に設置される直前に衝撃を受け、中の茶葉が詰まった袋が多数破損するという事故が発生いたしました。買主側は「貨物が完全に本船の所定の位置に置かれる前であったため、引渡しは完了しておらず、損害は売主が負担すべきだ」と主張しております。一方で、当社としては「貨物はすでに本船の垂直線上の空間(船縁)を越えていたため、リスクは買主に移転している」と考えております。FOB条件における正確なリスク移転のタイミングと、日本における輸出申告価格との関係について、法的な観点から詳しく教えてください。」
国際貿易において、最も古くから利用され、かつ現在でも広く採用されている条件の一つがFOB(Free on Board)条件です。日本語では「本船渡し条件」と訳されます。 FOB条件は、単なる費用の分担を定めるだけでなく、物品の滅失や損傷のリスクがどの瞬間に売主から買主へ移転するかを規定する重要な法的指針となります。本稿では、FOB条件の定義、法的根拠、そして実務上の留意点について詳細に解説いたします。
1 FOB条件の定義と基本的な仕組み
FOB条件とは、売主が、指定された船積港において、買主によって指定された本船上に物品を置いたとき、または既にそのように引き渡された物品を調達したときに、引渡し義務を果たす条件です。
(1)引渡しの完了とリスクの移転
FOB条件における最大の特徴は、危険負担(リスク)の移転時期にあります。インコタームズ2010および2020の規定によれば、物品が本船上に置かれた(on board)時点で、滅失や損傷のリスクは売主から買主へと移転いたします。相談事例にある「船縁(シップス・レール)を越えた瞬間」という解釈は、古いインコタームズ2000以前の基準です。現行のルールでは、物理的に本船の甲板上、または所定の積載場所に物品が置かれることが必要となります。したがって、鈴木課長の事例のように「置かれる直前」の事故であれば、原則として売主がその損害を負担する可能性が高いといえます。
(2)運送契約と保険契約の義務
FOB条件において、売主は買主に対して運送契約を締結する義務を負わず、また保険契約を締結する義務も負いません。これらはすべて買主の責任と費用において行われます。ただし、売主は買主の要請がある場合、そのリスクと費用において運送手配の助力をすることがありますが、あくまで法的な義務ではない点に注意が必要です。
2 日本における関税(定率)法とFOB価格の関係
日本における貿易実務において、FOB条件は契約上の条件としてだけでなく、行政手続き上の基準としても極めて重要な役割を果たしております。
(1)輸出申告価格の基準
日本から貨物を輸出する際、輸出者は税関に対して輸出申告を行う義務があります。この際の申告価格について、日本の実務ではFOB価格を基準とすることが定められております。
「貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければならない。」
この条文にある「価額」について、輸出申告の際には「本船渡価格(FOB価格)」で申告を行うことが、財務省の通達(関税法基本通達)等によって明確化されております。たとえ実際の契約がCIF(運賃・保険料込み)条件であっても、輸出申告書には運賃や保険料を差し引いたFOB相当額を記載しなければなりません。
(2)課税標準の決定
輸入の際に関税を算出する基礎となる課税価格(輸入申告価格)は、原則としてCIF価格(運賃・保険料込み)となりますが、輸出の際には一貫してFOB価格が統計および審査の基準となります。これは、日本の輸出統計を国際的な基準に合わせるための措置でもあります。
3 FOB条件における費用負担と義務の範囲
FOB条件において、売主と買主がそれぞれ負担すべき費用と義務を以下の表にまとめました。
【FOB(本船渡し)条件における費用および義務の分担表】
|項目の区分|売主(輸出者)の負担・義務|買主(輸入者)の負担・義務|
|物品の検査・梱包|輸出に適した梱包と点検の費用を負担する|負担しない|
|輸出国内の運送|指定船積港までの運送費用を負担する|負担しない|
|輸出通関手続き|輸出許可の取得および通関手数料を負担する|負担しない|
|輸出関税・公課|輸出に関わる一切の税金を負担する|負担しない|
|本船への積込み|本船上に置くまでの積込み費用を負担する|負担しない|
|国際運送賃|負担しない(船腹予約の義務もない)|本船の指定および運賃を負担する|
|海上保険料|負担しない|負担する(任意)|
|リスクの移転|本船上に置かれるまで|本船上に置かれた以降|
|輸入通関・関税|負担しない|輸入国での一切の手続きと税金を負担する|
4 実務上の注意点と法的な落とし穴
FOB条件は非常に明快な条件ですが、それゆえに実務上軽視されがちなリスクが存在します。
(1)船積み遅延による保管料の発生
買主が指定した本船が予定通りに入港しない場合、港湾地区での貨物の保管料(デマレッジ等)が発生することがあります。FOB条件では、買主の船配義務違反としてこれらの費用を買主に請求できる可能性がありますが、契約書においてその責任所在を明記しておかなければ、売主が立替払いを強いられることになりかねません。
(2)輸出通関の義務と罰則
FOB条件において、売主は適用可能な場合には輸出許可を取得し、一切の通関手続きを行う必要があります。これは、関税法上の「輸出者」としての法的責任を負うことを意味します。
もし貨物の品目分類(HSコード)に誤りがあったり、輸出禁止品が含まれていたりした場合、FOB条件であっても売主が刑事罰や行政罰の対象となるリスクがあります。
(3)コンテナ輸送におけるFCA条件への切り替え検討
現代の主流であるコンテナ輸送において、売主が貨物を引き渡す場所は、船の上ではなく、港湾地区のコンテナ・ヤード(CY)やコンテナ・フレート・ステーション(CFS)であることが一般的です。FOB条件では「本船上に置かれたとき」にリスクが移転するため、CYに搬入してから本船に積み込まれるまでの間に発生した事故のリスクは売主が負い続けることになります。これを回避するためには、運送人に貨物を引き渡した時点でリスクが移転するFCA(運送人渡し)条件を採用することが、法務および実務の観点からはより合理的であるといえます。
5 トラブル発生時における弁護士の役割
国際的な貿易取引においてトラブルが発生した場合、準拠法や管轄の決定、そして複雑な貿易規則の解釈が求められます。弁護士による介入には以下のメリットがあります。
(1)証拠収集と法的主張の組み立て
相談事例のような積込み時の事故では、事故が発生した瞬間に貨物がどの位置にあったのかという事実認定が勝敗を分けます。弁護士は、本船の受取証(Mate’s Receipt)や船荷証券(Bill of Lading)の記載内容、現場の写真、通信記録などを精査し、売主としての義務を果たしていたことを法的に立証いたします。
(2)インコタームズと国内法の調整
インコタームズは契約の一部として機能しますが、それだけで完結するものではありません。例えば、所有権の移転時期や、履行不能時の損害賠償額の範囲については、日本法(民法や商法)または国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)などの適用法に基づき判断する必要があります。弁護士はこれらの重層的な法律関係を整理いたします。
(3)税関対応のサポート
輸出申告価格の誤りや、輸出管理上の不備について税関から指摘を受けた際、法的な見解に基づく釈明や、過少申告加算税等の減免に向けた交渉をサポートいたします。
6 株式会社Mへの具体的なアドバイス
相談事例のS課長に対しては、以下のステップでの対応を推奨いたします。
①インコタームズ版の確認
まず、契約書において「Incoterms 2010」または「Incoterms 2020」のいずれが指定されているかを確認してください。いずれにせよ、現在の基準は「船縁」ではなく「本船上への設置」であることを認識し、事故の瞬間を再検証する必要があります。
②保険会社への迅速な通知
売主が自己の荷物として保険を掛けている場合、または買主側の保険が適用される場合、速やかに保険会社へ通知を行う必要があります。引渡し完了前であれば売主の保険が、完了後であれば買主の保険が対応することになります。
③輸出申告書類の保全
関税法第九十四条(帳簿の備え付け等)の規定に基づき、輸出申告の控えやインボイス、船荷証券等の関係書類を適切に保存してください。これらは、後の税関調査や裁判において決定的な証拠となります。
④今後の契約条件の再検討
コンテナ輸送を継続するのであれば、リスク移転のタイミングをより早めることができるFCA条件への変更を、次回の契約更新時に検討することをお勧めいたします。
7 まとめ:適正な輸出実務と法的コンプライアンスの重要性
FOB条件は、一見シンプルでありながら、その解釈一つで数千万円、数億円の損害負担が変わる可能性を秘めた条件です。輸出者としては、単に商習慣に従うだけでなく、関税法やインコタームズの厳密な規定を理解し、自社のリスクを適切に管理しなければなりません。
国際貿易は、一度のミスが企業の信頼や財務状況に甚大な影響を及ぼします。日頃から専門的なリーガルチェックを受け、適正な契約書を作成しておくことが、グローバルビジネスを成功させるための最大の防波堤となります。
以下の表は、FOB取引において確認すべき法的チェックリストです。
【FOB取引における法的チェックリスト】
|確認項目|法的なチェックポイント|
|引渡場所の特定|具体的な港名および岸壁等が指定されているか|
|リスク移転の瞬間|「本船上に置かれた」ことを証明する手段(本船受取証等)はあるか|
|輸出申告の適正性|FOB価格による正確な申告が行われているか|
|他法令の遵守|外為法等に基づく輸出許可が必要な貨物ではないか|
|準拠法と紛争解決|万が一の際の裁判管轄や仲裁条項が定められているか|
貿易取引は、相手国との文化や言語の壁を越え、共通のルールである法律とインコタームズに基づいて行われるべきものです。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の境界線にある複雑なトラブルに対し、他にはない専門的な解決策を提示することが可能です。
輸出申告価格の妥当性に関する税関対応、FOBやFCA等の取引条件を巡る解釈の争い、さらには外為法等を含む輸出管理体制の構築まで、幅広くサポートいたします。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
DDP条件の法的リスクと実務対応
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
大阪府内に拠点を置く電子部品メーカー、株式会社A、海外事業部のS部長
【相談内容】
「当社ではこの度、欧州の新興企業との間で精密測定機器の輸出契約を締結することになりました。先方からは、初めての取引であるため、輸入手続きの負担を一切排除したいとの強い要望があり、インコタームズ2020に基づくDDP(関税込み持込み渡し)条件を提示されております。当社としては受注を優先したいと考えておりますが、欧州現地における輸入通関や関税、さらには付加価値税(VAT)の支払いを日本企業である当社がどのように行えばよいのか、実務上の不安があります。また、現地での通関トラブルが発生した場合、法的にどのような責任を負うことになるのでしょうか。売主にとって最も負担が重いとされるDDP条件を採用する際の法的な留意点と、リスクを回避するための具体的なアドバイスをいただきたいと考えております。」
国際貿易の実務において、取引条件の選択は単なる費用の分担だけでなく、法的責任の所在を決定する極めて重要な要素となります。その定型的なルールとして世界的に利用されているのが、国際商業会議所(ICC)が策定したインコタームズです。
インコタームズは、長年の国際的な商慣習を整理したものであり、当事者が契約において採用を合意することで法的拘束力を持ちます。本日は、数ある条件の中でも売主に最大の義務を課す「DDP(Delivered Duty Paid)」条件について、解説いたします。
1 DDP条件の定義と基本的な仕組み
DDP条件は、日本語では「関税込み持込み渡し条件」と訳されます。この条件は、売主が、輸入国における指定仕向地まで物品を運び、輸入通関を済ませた上で、荷卸しの準備ができている輸送手段の上で物品を買主の処分に委ねたときに、引渡しの義務を果たすことを意味します。
(1)売主の義務の範囲
DDP条件において、売主は以下のすべての責任を負います。
①指定仕向地までの運送契約の締結および運賃の支払い
②輸出通関および輸入通関の手続き遂行
③輸出関税および輸入関税、その他公租公課の支払い
④物品が指定仕向地で引渡されるまでのすべての滅失・損傷の危険負担
(2)引渡しの完了とリスク移転
物品の危険負担(リスク)が売主から買主へ移転するのは、指定仕向地において輸入通関を完了し、荷卸しの準備が整った状態で買主に提供された時点です。
2 関税法に基づく輸出入通関の義務と法的根拠
DDP条件を採用する場合、売主は輸出入双方の国において適正な通関手続きを行う義務を負います。日本国内の法体系に基づけば、以下の条文がその根拠となります。
(1)輸出申告および許可の義務
関税法第六十七条(輸出又は輸入の許可)の規定により、貨物を輸出しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名、数量、価額その他必要な事項を税関長に申告し、必要な検査を経て許可を受けなければなりません。DDP条件では、この手続きを売主が自己の責任と費用で行います。
(2)他法令の証明義務
輸出にあたっては、関税法第七十条(他の法令の規定による証明等)の規定に基づき、外国為替及び外国貿易法(外為法)などの他の法令で許可や承認を必要とする場合には、それらを了していることを税関に証明しなければなりません。DDP条件の売主は、輸出者としてこれらのコンプライアンスを完全に遵守する法的義務を負っております。
(3)輸入国における手続きの困難性
DDP条件の最大の特徴は、売主が輸入国における「輸入者」としての義務を負う点にあります。一般的に、多くの国において輸入申告は現地の居住者(法人または個人)が行うことが想定されております。非居住者である日本法人が現地の税関に対して直接輸入申告を行うことは、法制度上、極めて困難である場合が少なくありません。
3 税関事務管理人制度と非居住者輸入のリスク
日本国内への輸入を例にとれば、非居住者が輸入者となる場合には、関税法第九十五条(税関事務管理人)の規定が重要となります。
このように、非居住者が輸入主体となる場合には、現地で手続きを代行する管理人の選任が法的に求められることがあります。株式会社Aが欧州でDDP取引を行う際にも、現地の法制度に基づき、同様の代理人や管理人の選任が必要となる可能性が高く、その選定や報酬、さらには代理行為から生じる法的責任の所在が新たなリスク要因となります。
4 費用負担の範囲とVAT(付加価値税)の取り扱い
DDP条件における費用の分担は、実務上の争点となりやすい項目です。
【DDP条件における主な費用分担表】
|費用の項目|売主(輸出者)の負担|買主(輸入者)の負担|
|輸出梱包・マーク付記費用|負担する|負担しない|
|指定仕向地までの国際運送賃|負担する|負担しない|
|輸出通関手数料・免許取得費用|負担する|負担しない|
|輸出関税およびその他の公課|負担する|負担しない|
|海上・航空保険料(任意の場合含む)|負担する|負担しない|
|輸入通関手数料・代行費用|負担する|負担しない| |輸入関税(Duty)|負担する|負担しない|
|輸入国での諸税(VAT/GST等)|原則として負担する|負担しない(注)|
|指定仕向地での荷卸し費用|負担しない|負担する|
(注)インコタームズの規定では、売主は輸入に関わる一切の税金を負担することになっておりますが、付加価値税(VAT)については、現地での還付スキームの有無により、特約で買主負担とすることも一般的です。
特に欧州などにおけるVATは、輸入時に一旦支払い、その後の販売過程で控除や還付を受ける仕組みとなっております。売主が現地で納税登録を行っていない場合、支払ったVATの還付を受けることができず、実質的なコストアップや損失となるリスクがあります。これを回避するためには、契約書において「DDP, VAT unpaid」といった、インコタームズを修正する特約を設けるなどの法的な手当てが必要となります。
5 DDP条件における実務上の留意点と対策
DDP条件は、売主にとってあまりに過酷な義務を課すため、法務および実務の観点からは慎重な検討が求められます。
(1)輸入国における許可・承認の取得
食品衛生法や電気用品安全法に相当する各国の規制(例えば欧州のCEマーキングなど)に基づき、輸入者が特定のライセンスを保持していることが輸入の条件となる場合があります。非居住者である売主がこれらのライセンスを取得できない場合、貨物は税関で差し止められ、輸入不許可となる恐れがあります。これは関税法上の違法状態を招くだけでなく、買主に対する債務不履行責任(民法第四百十五条)を構成することになります。
(2)荷卸し作業の責任範囲
DDP条件において、売主は到着した輸送手段の上で物品を準備すればよく、荷卸し作業そのものの義務は負いません。しかし、トラックから卸す際に貨物が破損した場合、どちらの責任かという紛争が生じやすいため、契約において荷卸し作業の実施主体と責任の所在を明文化しておくことが重要です。
(3)DAP(仕向地渡)条件への切り替え検討
売主が輸入国における通関手続きや納税に不安がある場合、DAP(Delivered at Place)条件の採用を検討すべきです。DAP条件であれば、指定仕向地までの運送リスクは売主が負いますが、輸入通関および関税の支払いは買主が行うことになります。これにより、非居住者輸入に伴う法的な壁を回避することが可能となります。
6 トラブル発生時における弁護士の役割と介入のメリット
国際貿易における紛争は、言語の壁や準拠法の違いにより、解決が極めて困難になる傾向があります。特にDDP条件のように責任範囲が広い取引では、専門的な法的支援が不可欠です。
(1)契約書のリーガルチェックと特約の作成
インコタームズの名称を記載するだけでなく、具体的なリスク転換点や、VATの負担、通関不能時の責任分担について、貴社の利益を守るためのオーダーメイドの条項を作成いたします。
(2)税関対応および事後調査への法的助言
輸入国または日本国内の税関から、申告内容の妥当性について照会を受けた際、適切な法的釈明を行います。
(3)損害賠償請求および不服申立ての代理
万が一、貨物の遅延や損傷、あるいは不当な課税処分が発生した場合には、行政不服審査法に基づく審査請求や、国際的な損害賠償請求の交渉を代理いたします。
7 株式会社Aへの具体的なアドバイス
相談事例の佐藤部長に対しては、以下のステップでの対応を推奨いたします。
①現地の輸入規制の精査
まず、欧州の仕向国において、日本法人が輸入者になれるのか、また必要なライセンスがあるのかを現地のフォワーダーや専門家を通じて確認してください。
②VATの負担に関する交渉
買主に対し、VATの還付スキームを利用できないリスクを説明し、VAT分については買主の負担とする特約(DDP, VAT excluded)を提案してください。
③DAP条件への変更提案
可能であれば、輸入通関を買主に委ねるDAP条件への変更を最優先で交渉すべきです。売主が不慣れな土地で輸入者となることは、法的なコンプライアンスリスクを飛躍的に高めることになります。
④帳簿保存の徹底
関税法第九十四条(帳簿の備え付け等)の規定に基づき、輸出に関する書類を適正に保存してください。DDP取引では、売主が輸入国での納税義務も負うため、より厳格な文書管理が求められます。
8 まとめ:安全な国際貿易を実現するために
インコタームズのDDP条件は、買主にとっては究極の利便性を提供するものですが、売主にとっては予測困難な法的リスクの塊でもあります。国際取引を成功させるためには、単に「相手の要望に応える」だけでなく、自社が法的にコントロールできる範囲で条件を設定することが肝要です。
売買契約は当事者の合意によって成立しますが、その背後には関税法、外為法、そして国際的な商慣習という複雑なルールが横たわっております。これらを正しく理解し、適切に契約に反映させることこそが、真のグローバルコンプライアンスと言えます。
【DDP採用時における法的チェックリスト】
|チェック項目|確認すべき具体的な内容|
|輸入者の資格|売主が仕向国で輸入者(Importer of Record)になれるか|
|現地の代理人|税関事務管理人に相当する代理人の手配は可能か|
|VATの還付|支払った付加価値税を回収する手段はあるか|
|他法令の適合性|現地の安全基準や検査を売主の責任でクリアできるか|
|紛争解決条項|トラブル時の準拠法と裁判管轄は合意されているか|
国際ビジネスの荒波の中で、貴社の権利と利益を守り抜くためには、事前の法的な備えに勝るものはありません。
9 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から一貫したサポートを提供可能な法律事務所です。
DDP条件を巡る取引上の悩みや、複雑な海外規制への対応、さらには税関事後調査への備えなど、輸出入に関するあらゆるトラブルについて幅広くご相談を承っております。
輸出・輸入や通関に関するトラブルでお困りの場合や、海外企業との契約交渉において法的な後ろ盾が必要な場合には、どうぞご遠慮なく当事務所までご相談ください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
運送人渡条件(FCA)の法的実務
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
愛知県内に拠点を置く電子部品メーカー、株式会社γ、海外営業部のT課長
【相談内容】
「当社では、長年取引のある北米の顧客に対し、新型のセンサーモジュールを輸出することになりました。今回の契約では、顧客側の指定によりインコタームズ2020に基づくFCA(運送人渡)条件を採用しております。契約上の引渡地点は、当社工場から数十キロメートル離れた場所にある、買主が指定したフォワーダー(運送業者)の倉庫となっております。 先日、当社の手配したトラックで当該倉庫に荷物を運び込み、荷卸しの準備を整えて担当者に連絡を入れました。しかし、荷卸し作業を開始する直前、フォワーダー側の荷役機器の故障により、トラックの荷台の上にあった貨物が損壊するという事故が発生いたしました。 買主側は「まだ倉庫の中に搬入されていないため、引渡しは完了していない。損害は売主である貴社が負担すべきだ」と主張しております。一方、当社としては「指定された場所に到着し、荷役の準備を終えた段階で義務を果たした」と考えております。FCA条件における法的責任の移転時期は、具体的にどのタイミングなのでしょうか。また、輸出通関手続きにおける義務の範囲についても詳しく教えてください。」
国際取引において、物品の引渡し地点や費用負担、そして危険(リスク)の移転時期を明確に定めることは、トラブルを未然に防ぐための最重要事項です。その指針として世界的に広く利用されているのが、国際商業会議所(ICC)が策定したインコタームズ(国際貿易条件規則)です。
FCA(Free Carrier)条件は、日本語で「運送人渡条件」と訳されます。この条件は、現代のコンテナ輸送やマルチモーダル輸送(複合一貫輸送)に極めて適した条件であり、実務上非常に多用されております。しかし、株式会社γの事例のように、引渡地点の定義や荷役作業の責任範囲を巡って紛争が生じることも少なくありません。
1 FCA条件の定義と基本的な仕組み
FCA条件とは、売主が、自己の施設またはその他の指定された場所において、買主によって指名された運送人またはその他の者に対して物品を引き渡すことを意味します。この条件は、船積み港での引渡しを前提としたFOB(本船渡)条件などとは異なり、あらゆる輸送手段(海上、航空、鉄道、道路、およびそれらの組み合わせ)に適用可能です。
(1)引渡しの完了と危険の移転
インコタームズの下では、物品の引渡しが完了した瞬間に、その物品の滅失や損傷のリスク(危険負担)が売主から買主へと移転します。
(2)引渡地点による義務の相違
FCA条件における引渡しの完了タイミングは、指定された場所がどこであるかによって、以下の二つのパターンに明確に分かれます。
①指定地が売主の施設(工場や倉庫など)である場合
物品が、買主によって提供された運送手段(集荷に来たトラックなど)に積み込まれた時点で引渡しが完了します。この場合、積み込み作業の責任と費用は売主が負担することになります。
②指定地が売主の施設以外の場所(フォワーダーの倉庫や港湾ターミナルなど)である場合
物品が、売主の運送手段(自社トラックなど)の上にあって、荷卸しの準備ができている状態で、買主の運送人またはその他の者の処分に委ねられた時点で引渡しが完了します。
③相談事例への法的な当てはめ
株式会社γの事例では、指定地が「売主の施設以外の場所(フォワーダーの倉庫)」であったため、上記二のパターンが適用されます。インコタームズ2020の規定によれば、売主は自らのトラックから荷物を卸す義務までは負っておらず「荷卸しの準備ができている状態で、相手の処分に委ねる」ことで引渡し義務を履行したとみなされます。
したがって、トラックが倉庫に到着し、荷卸しの準備を終えて相手に通知した後に発生した事故については、原則として買主側がリスクを負うべきものと解釈されます。
2 FCA条件における輸出通関の義務と法的責任
FCA条件において、輸出通関の手続きをどちらが担当するかという点は、実務上非常に重要なポイントです。
(1)売主の通関義務
FCA条件では、売主が自己の費用とリスクにおいて、物品の輸出に必要な輸出許可の取得および一切の通関手続きを行わなければなりません。これは、EXW(工場渡)条件とは大きく異なる点です。
(2)関連法規との関係
日本からの輸出において、売主は関税法第六十七条(輸出又は輸入の許可)に基づき、税関長に対して申告を行い、必要な検査を経て許可を受ける義務を負います。また、輸出する貨物が戦略物資や特定の技術に該当する場合には、外国為替及び外国貿易法(外為法)第四十八条第一項に基づく経済産業大臣の許可を得る必要があります。これらの手続きを怠ったり、虚偽の申告を行ったりした場合、売主は関税法や外為法上の罰則の対象となるリスクがあります。FCA条件を採用している以上、売主は「貨物を渡せば終わり」ではなく、適法に輸出を完了させるまでの行政上の責任を負っていることを自覚しなければなりません。
3 費用負担の範囲と区分
FCA条件における費用負担の境界線は、原則としてリスクの移転時期と一致いたします。
以下の表は、FCA条件における主な費用分担の範囲をまとめたものです。ワードデータ等に貼り付けて使用できる形式で作成しております。
【FCA(運送人渡)条件における費用分担表】
|費用の項目|売主(輸出者)の負担|買主(輸入者)の負担|
|物品の検査・梱包・マーク付記|負担する|負担しない|
|指定引渡地までの国内運送費|負担する|負担しない|
|指定地での積み込み費用(施設内引渡時)|負担する|負担しない|
|指定地での荷卸し費用(施設外引渡時)|負担しない|負担する|
|輸出通関手数料・免許取得費用|負担する|負担しない|
|輸出関税およびその他の公課|負担する|負担しない|
|主運送(国際輸送)の運賃|負担しない|負担する|
|海上・航空保険料|負担しない|負担する|
|輸入通関および輸入関税等|負担しない|負担する|
売主は、輸出通関を完了させ、指定された場所で運送人に貨物を渡すまでの費用をすべて負担します。それ以降に発生する運賃や保険料などはすべて買主の負担となります。
4 FCA条件を利用する際の注意点と実務上のアドバイス
(1)引渡地点(ポイント)の明確な指定
FCA条件では、引渡場所だけでなく「その場所のどの地点で」引き渡すかをできる限り詳細に指定することが推奨されます。
単に「名古屋港」とするのではなく「名古屋港〇〇コンテナターミナル内〇〇倉庫」のように特定することで、リスク移転の瞬間を明確にできます。これは、インコタームズのガイダンスノートにおいても推奨されている事項です。
(2)運送契約と保険契約の任意性
FCA条件において、売主は買主に対して運送契約や保険契約を締結する義務を負いません。しかし、買主からの依頼がある場合、または商習慣上必要な場合には、売主が買主のリスクと費用で運送手配を行うこともあります。その際、万が一の輸送事故に備え、保険の付保状況を必ず確認しておく必要があります。
(3)従来からの相違点
現在、最新版であるインコタームズ2020も広く利用されております。FCA条件に関して2020年版で行われた重要な改訂の一つに、船荷証券(Bill of Lading)に関する規定があります。海上輸送を伴うFCA取引において、売主が銀行L/C(信用状)決済を利用する場合、船積み後の本船乗船付記(On-Board Notation)がある船荷証券が必要になることがあります。2020年版では、買主が運送人に対し、売主へそのような船荷証券を発行するよう指示することに同意する規定が追加されました。古い2010年版を利用し続ける場合には、このような実務上の利便性が反映されていない点に注意が必要です。
5 法的紛争を回避するための契約実務
(1)準拠法と管轄の定立
インコタームズはあくまで条件規則であり、契約そのものではありません。したがって、インコタームズの解釈を巡って争いが生じた場合、どこの国の法律を適用し、どこの裁判所で解決するかを定めておく必要があります。通常は、契約書内に準拠法条項(Governing Law)と管轄合意条項(Jurisdiction)を設けます。
(2)所有権の移転時期に関する補足
インコタームズは所有権(Title)の移転については一切規定しておりません。民法第百七十六条の規定によれば、所有権の移転は当事者の意思表示のみによって効力を生じますが、貿易実務では「代金の支払完了時」や「船荷証券の引き渡し時」を所有権移転のタイミングとする特約を設けることが一般的です。
6 トラブル発生時における弁護士の役割と介入のメリット
国際的な取引において、法的な見解が対立した際、日本の法律だけでなく国際的な規則に精通した弁護士の存在は不可欠です。
(1)危険移転の時点に関する法的鑑定
今回の株式会社γの事例のように、荷卸し作業中の事故が「引渡し完了前か後か」という判断は、インコタームズの文言解釈に大きく依存いたします。弁護士は、過去の国際商事仲裁の事例や判例を引用しながら、客観的な法的意見書を作成し、相手方との交渉を強力にバックアップいたします。
(2)輸出管理および通関不備への対応
万が一、輸出通関において税関から指摘を受けたり、外為法違反の疑いをかけられたりした場合、弁護士は行政当局との窓口となり、適切な釈明や是正措置の指導を行います。特に関税法第百十一条(無許可輸出入罪)などの刑事罰のリスクを最小限に抑えるための初動対応が重要です。
(3)英文契約書の作成と審査
インコタームズの条件を引用するだけでなく、実務上の運用に即したカスタム条項を盛り込んだ英文契約書の作成を代行いたします。これにより、将来的な紛争の火種を事前に取り除くことが可能となります。
7 株式会社γへの具体的なアドバイス
相談事例のT課長に対しては、以下の順序での対応を推奨いたします。
①事実関係の書面化
トラックが指定場所に到着した時刻、荷卸し準備完了を告げた時刻、事故が発生した詳細な経緯、および当時の担当者のやり取りを時系列で整理し、記録として残してください。
②インコタームズ2020規則の提示
買主に対し、インコタームズ2020のFCA条件(施設外引渡)の規定を引用し、売主は荷卸しの準備ができている状態で物品を処分に委ねた時点で義務を完了していることを正式に主張してください。
③保険会社への通知
自社が加入している輸出保険、または買主が加入している海上保険のいずれが適用されるべき事案かを判断するため、保険会社に速やかに一報を入れてください。
④今後の契約の見直し
もし荷卸し作業中のリスクを完全に回避したいのであれば、今後はDAP(仕向地渡)条件やDPU(荷卸込持込渡、2020年版以降)など、他の条件への切り替え、あるいは特約の追加を検討すべきです。
8 まとめ:グローバル・サプライチェーンにおける法的備え
FCA条件は、柔軟で合理的な貿易条件ですが、その簡潔さゆえに、細部における当事者間の認識のズレが大きな紛争を招くことがあります。輸出者としては、関税法や外為法といった国内法規を遵守しつつ、インコタームズという国際的な共通言語を正確に使いこなす能力が求められます。
関税法第九十四条には、輸入者または輸出者に対し、取引に関する書類の保存義務が課せられております。このような基本的な義務の履行から、高度な国際契約の締結に至るまで、法的なガバナンスを徹底することが、結果として貴社の利益を守ることにつながります。
以下の表は、FCA条件を採用する際の法的チェックリストです。
|確認項目|法的なチェックポイント|
|指定地の詳細|施設内か施設外か、具体的な受渡ポイントは特定されているか|
|輸出許可の責任|該非判定を行い、必要な輸出許可を取得する体制があるか|
|運送人の特定|買主からの運送人指名通知をどのような形式で受領するか|
|費用の境界線|待機料金や予期せぬ荷役費用の負担者は決まっているか|
|不測事態の対応|事故発生時の通知義務や損害軽減措置の手順は共有されているか|
国際貿易の現場では、日々新しい課題が発生いたします。専門的な知識を持つ弁護士をパートナーに迎えることで、複雑な国際法務の迷宮を安全に通り抜け、貴社のビジネスをさらに加速させることが可能となります。
9 弁護士への相談をご希望の方へ
当事務所では、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しております。これにより、関税法に基づく行政対応から、インコタームズを用いた国際私法上の契約交渉まで、ワンストップでのサポートが可能です。
FCA条件を巡る解釈の争いや、輸出管理体制の構築、海外企業とのトラブル解決など、どのような些細なことでも構いません。輸出入や通関に関する法務でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
貿易取引におけるEXW条件の解説
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
愛知県内に本社を置く自動車部品メーカー、株式会社α、海外営業部の担当者の方
【相談内容】
「当社は今般、東南アジアの新規顧客に対し、製造機械のスペアパーツを輸出することになりました。取引条件は顧客からの強い要望により、インコタームズ2020に基づくEXW(工場渡)条件を採用することで合意しました。契約では、当社の工場の軒先で貨物を引き渡すことになっております。しかし、引き取り当日、買主が手配したトラックの運転手から「積み込み作業のためのフォークリフト操作と積み込み自体も売主側で行ってほしい」と要求されました。また、貨物を積み込む際に万が一破損した場合、どちらが責任を負うのかという点でも意見が対立しております。さらに、買主側から「輸出通関のための書類作成が不慣れなので、実質的にすべての手続きを代行してほしい」との依頼も受けております。EXW条件において、当社はどこまで法的義務を負うのでしょうか。また、このようなトラブルを避けるための法的な留意点を教えてください。」
国際取引において、物品の引渡し場所や費用負担、そして危険(リスク)の移転時期を明確にすることは、紛争を予防する上で極めて重要です。その指針として世界的に利用されているのが、国際商業会議所(ICC)が策定したインコタームズ(国際貿易条件規則)です。
インコタームズは、それ自体が法律や条約ではありません。あくまで当事者間の合意によって契約に取り込まれる「商慣習の定型化」です。したがって、日本法が適用される契約においてインコタームズを採用する場合、民法などの国内法とどのように調整されるのかを理解しておく必要があります。
1 EXW(工場渡)条件の基本的定義と売主の義務
EXW(Ex Works)は、売主にとって最も負担が少ない条件とされております。日本語では工場渡条件と訳されます。
(1)引渡しの義務と場所
EXW条件において、売主の最大の義務は、自己の施設(工場や倉庫など)またはその他の指定場所において、物品を買主の処分に委ねることにあります。
売主は、合意した期日までに物品を準備し、買主がいつでも引き取れる状態にして通知を行うことで、引渡し義務を履行したことになります。
(2)積み込み義務の不存在
ここが実務上、最もトラブルになりやすい点です。インコタームズ2020の規定によれば、EXW条件において、売主は物品を受取り用の車両に積み込む義務を負いません。
もし株式会社αの担当者が、サービスの一環として買主のトラックに荷物を積み込み、その最中にフォークリフトで貨物を破損させた場合、その損害は原則として売主側の過失責任として問われる可能性があります。
(3)危険の移転時期
物品の滅失や損傷のリスクが売主から買主へ移転するタイミングは、指定された引渡場所で買主の処分に委ねられた時点です。引渡しが完了した後は、たとえ物品がまだ売主の敷地内にあったとしても、その後のリスクは買主が負担することになります。
2 輸出通関と他法令に関する法的な注意点
EXW条件のもう一つの大きな特徴は、輸出通関の責任にあります。
(1)輸出通関の義務
原則として、EXW条件では買主が輸出通関手続きを行う責任を負います。売主は、買主の要請がある場合に、買主の費用とリスクにおいて、輸出許可の取得に必要な協力(情報の提供など)を行う義務を負うにとどまります。
(2)輸出管理と外為法の責任
日本から貨物を輸出する場合、外国為替及び外国貿易法(外為法)および関係法令の遵守が求められます。たとえEXW条件であっても、売主(輸出者)は戦略物資の無許可輸出を防ぐ責任を完全に免れるわけではありません。
もし買主が不正な輸出を行った場合、実質的な輸出者として売主が行政罰や刑事罰の対象となるリスクも否定できません。そのため、輸出管理の観点からは、売主が輸出者として通関手続きを管理しやすいFCA(運送人渡)条件などを検討することが、法務リスクの管理としては適切である場合が多いといえます。
3 EXW条件における費用負担の範囲
インコタームズでは、どちらの当事者がどの費用を負担するかが明確に定められております。
以下の表は、EXW条件における主な費用分担をまとめたものです。
|費用の項目|売主の負担|買主の負担|
|物品の包装・梱包費用|負担する(輸出に適した包装)|負担しない|
|指定引渡場所までの費用|負担する|負担しない|
|車両への積み込み費用|負担しない|負担する|
|輸出通関手数料・免許費用|負担しない|負担する|
|船積み・航空機積込み費用|負担しない|負担する|
|国際運送賃(フレイト)|負担しない|負担する|
|海上保険料|負担しない|負担する|
|輸入関税・消費税|負担しない|負担する|
売主は、物品を点検し、適切に包装するまでの費用は負担しますが、それ以降に発生する一切の費用は買主の負担となります。実務上、売主が良かれと思って積み込みを手伝ったり、通関書類を作成したりする場合、それらの費用を別途請求できるかどうかをあらかじめ契約書で合意しておかなければ、支払いを巡る紛争の原因となります。
4 EXWからFCAへの切替検討
相談事例の株式会社αのように、積み込み作業や通関手続きでトラブルが予想される場合、実務的にはFCA(運送人渡)条件への変更が推奨されます。
FCA条件とEXW条件の主な相違点を以下の表で比較します。
|比較項目|EXW(工場渡)|FCA(運送人渡)|
|積込み義務|売主に義務なし|売主の施設なら売主に義務あり|
|輸出通関義務|買主が負担する|売主が負担する|
|リスク移転の時期|売主の施設で処分に委ねた時|運送人の車両に積み込んだ時|
|実務上の推奨|買主が現地に精通している場合|一般的な製造業の輸出取引|
FCA条件であれば、売主が自ら輸出通関手続きを行い、自己の責任でトラックに積み込むことが明確化されます。これにより、責任の所在が曖昧なまま作業を行い、後で損害賠償を請求されるといったリスクを法的にコントロールすることが可能となります。
5 契約書におけるインコタームズの記載方法
インコタームズを採用する際には、単にEXWと記載するだけでは不十分です。どのバージョンの規則を適用するのか、そして引渡場所はどこなのかを正確に指定する必要があります。
(1)記載例
「EXW Nagoya Factory, Japan (Incoterms 2020)」
(2)法的な補足の重要性
インコタームズは万能ではありません。例えば、所有権(Property)がいつ移転するかについては規定がありません。日本の民法第百七十六条では、原則として当事者の意思表示のみによって所有権が移転するとされておりますが、貿易実務では「代金の完済時」や「船荷証券の交付時」など、所有権移転のタイミングを別途契約書で明記することが一般的です。
6 トラブル発生時における弁護士の役割と介入のメリット
国際貿易における条件交渉や紛争解決には、単なる語学力だけでなく、深い法的知見と実務経験が不可欠です。
(1)契約書のリーガルチェック
インコタームズの各条件が、貴社の実際のオペレーションと矛盾していないかを精査いたします。特に、積み込み作業の実態や、輸出管理上の法的責任を考慮した条件設定を提案いたします。
(2)損害賠償請求への対応
貨物の破損や納期の遅延が発生した際、インコタームズの規定に基づき、どの時点で危険が移転していたのかを法的に判定いたします。これにより、不当な損害賠償請求を退け、あるいは適切な求償権の行使をサポートいたします。
(3)国際私法および条約の適用判断
取引相手国が「国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)」の締結国である場合、同条約の規定がインコタームズや国内法に優先して適用される場面があります。弁護士は、これらの重層的な法的枠組みを整理し、貴社の利益を最大化するための論理を構築いたします。
7 株式会社αへの具体的なアドバイス
相談事例のケースにおいて、アルファ社の担当者が取るべき対応は以下の通りです。
①積み込み作業の条件明確化
現行のEXW条件のまま進めるのであれば、積み込み作業は買主の責任であることを改めて通知してください。もし当社で作業を代行する場合は、作業中の事故に関する免責条項や、作業実費の請求について書面で合意を取り付けるべきです。
②輸出者としての責任の再確認
通関手続きの代行を依頼された場合、単なる事務代行にとどまるのか、それとも実質的な輸出者としてすべての法的責任を負うのかを明確にする必要があります。外為法上の輸出管理責任は免れないため、安易な引き受けは禁物です。
③条件変更の交渉
今後は、実務の実態に合わせてFCA条件への変更を検討することをお勧めいたします。これにより、積み込みと通関という二大トラブル要因を、法的に整理された形で管理できるようになります。
8 まとめ:安全な貿易取引のための法的基盤
インコタームズは便利なツールですが、その一言一句には重い法的な意味が込められております。特にEXW条件は、売主にとって最小限の義務である反面、現代の複雑な輸出管理や物流実務においては、かえって予期せぬリスクを招くことも少なくありません。
以下の表は、EXW条件を採用する際の最終チェックリストです。
|チェック項目|確認すべき内容|
|引渡場所の詳細|工場内のどの地点で引き渡すか明確か|
|積込み作業の主導権|買主の手配した運送人が作業を行う認識か|
|輸出通関の実行者|誰が税関への申告責任を負うのか|
|危険移転の通知|引渡し準備完了の通知方法は合意しているか|
|準拠法と管轄|紛争時にどこの国の法律で解決するか|
国際ビジネスの現場では、スピードが重視されるあまり、法的な確認が後回しにされがちです。しかし、一度トラブルが発生すれば、その解決には多大な時間と費用を要することになります。
9 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所では、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。インコタームズの理論的な解釈はもちろん、税関実務や物流現場の実態に即した、実効性の高いリーガルサービスを提供できることが当事務所の強みです。
EXW条件を巡る解釈の争いや、契約書の作成、輸出管理体制の構築、さらには万が一の国際訴訟・仲裁への対応まで、幅広くサポートいたします。
輸出入や通関に関するトラブル、取引条件の選定でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入許可前引取り制度の活用と留意点
0 はじめに:具体的な相談事例
【相談者】
神奈川県に本社を置く精密機器メーカー、株式会社X、貿易法務担当のS部長
【相談内容】
「当社では、次世代型医療用検査装置の基幹部品を海外の関連会社から輸入しております。今回の輸入分より、ライセンス契約の改定に伴い、支払うロイヤルティの額が変更となりました。これを受けて輸入申告を行ったところ、税関より「加算額の計算根拠に疑義があるため、評価審査に時間を要する」との連絡がありました。一方で、国内の製造ラインは部品の在庫が底を突きかけており、今週末までに貨物を引き取れなければラインが停止し、多額の損害賠償が発生する危機にあります。輸入許可を待たずに貨物を引き取る法的な手段はないでしょうか。また、その際の条件や注意点についても教えてください。」
貨物の輸入をビジネスとして行っている方はもちろん、輸入実務に携わる方であれば、原則として輸入許可を取得した後でなければ貨物を引き取ることができないというルールは周知のことと思います。しかし、株式会社Xの事例のように、税関側の審査が長引く一方で、輸入者側に一刻を争う事情がある場合、この原則を貫くことは日本経済の円滑な物流を阻害しかねません。
そこで、関税法では一定の条件の下で、輸入許可が出る前に貨物の引き取りを認める制度を設けております。これを「輸入許可前引取り(関税法第七十三条)」と呼び、実務上は「Before Permission」の頭文字を取って「BP通関」や「BP引取り」などと称されます。
1 輸入許可前引取りの法的根拠と要件
輸入許可前引取り制度は、本来であれば輸入許可という行政処分が下された後に認められる「貨物の国内への引き取り」を、例外的に前倒しで認めるものです。その法的根拠は関税法第七十三条第一項に定められております。
この承認を受けるためには、原則として「関税額に相当する担保」を提供する必要があります。これは、後日正式な輸入許可が下りる際、確定した関税額が確実に納付されることを担保するための措置です。
2 制度の利用を検討すべき具体的なケース
本制度は、単に「早く引き取りたい」という主観的な希望だけで認められるものではありません。実務上、承認される主なケースは以下の四つのカテゴリーに分類されます。
(1)税関側の事情により輸入許可が遅延する場合
①新規輸入品など、課税標準(評価額)の審査に専門的な判断や日時を要する場合
②貨物の性質により、分析や検定を行わなければ関税率表上の分類(HSコード)が確定できない場合
③税関の事務処理上の都合により、通常を大幅に超える審査時間を要する場合
(2)申告者側において、特に引き取りを急ぐ理由があると認められる場合
①輸入貨物が消散、漏洩、変質、または損傷するおそれがある場合(生鮮食品や化学薬品など)
②輸入貨物である原材料の在庫がなく、国内工場の操業に重大な支障をきたす場合
③契約上の納期が極めて切迫しており、許可を待つことで多額の違約金が発生する場合
(3)申告者側の事情により輸入許可が遅延する場合
①インボイスが暫定的なもの(プロフォーマ)であり、確定した価格の算出に時間を要する場合
②契約が揚地ファイナル(到着時の検査結果等で価格が確定する契約)である場合
(4)その他のやむを得ない理由
税関長が個別の事情を鑑みて、承認すべき正当な理由があると認める場合
3 輸入許可前引取りの承認を受けられない場合
本制度の利用には一定の制限があります。以下の状況に該当する場合、関税法第七十三条の承認を受けることはできません。
①他法令の証明が未完了の場合 関税法第七十条に基づき、他の法令(食品衛生法や薬機法など)による許可や承認が必要な貨物については、それらの手続きが完了したことを税関に証明しなければなりません。この証明ができない限り、BP引取りも認められません。
②原産地の虚偽表示等がある場合 関税法第七十一条の規定により、原産地について直接または間接に偽った表示がある貨物、あるいは誤認を生じさせる表示がある貨物は、輸入が許可されません。BP引取りについても同様であり、不適切な表示が是正されない限り承認されません。
③制度の悪用と認められる場合 申請の主たる目的が関税の延納(支払いの先延ばし)にあると判断される場合や、過去に重大な関税法違反を犯している輸入者の場合、制度の本旨に反するものとして却下されることがあります。
4 担保の提供と具体的な手続き
輸入許可前引取りを受けるためには、担保を提供する必要があります。提供可能な担保の種類については、関税法第九条の十一に準じて定められております。
(1)提供可能な担保の種類
①金銭
②国債および地方債
③税関長が確実と認める社債その他の有価証券
④土地
⑤保険が付された建物、船舶、鉱業権、財団など
⑥税関長が確実と認める保証人の保証
実務上は、現金による担保提供(担保金)や、銀行による保証が一般的に用いられます。
(2)手続きの流れと比較表
通常の手続きと輸入許可前引取り(BP)の手続きの相違点を整理したものが以下です。
【輸入手続きの比較表】
|工程|通常通関手続き|輸入許可前引取り(BP)|
|輸入申告|輸入者または通関業者による申告|輸入者または通関業者による申告|
|税関審査|書類審査および現物検査|書類審査および現物検査の開始|
|特別な申請|なし|輸入許可前引取り承認申請書の提出|
|担保の提供|不要|関税・消費税相当額の担保を提供|
|貨物の引取り|輸入許可書の交付後|税関長の承認書交付後に引取り可能|
|最終確定|許可時点で完結|後日、審査完了後に輸入許可書交付|
5 専門家による法的支援の必要性
輸入許可前引取制度は、企業のサプライチェーンを守るための強力な手段ですが、その運用には高度な専門知識が求められます。特に株式会社Xの事例のような「評価審査の遅延」が原因である場合、単に貨物を引き取って終わりではありません。
(1)関税評価に関する法的主張
税関が評価額に疑義を持っている場合、BP引取りを行った後も審査は継続されます。ここで適切な反論や証拠資料の提示ができなければ、後日、多額の追徴課税や加算税を課されるリスクがあります。
(2)担保解除に向けた手続
輸入許可が下りた段階で、提供していた担保は解除されますが、この手続きが円滑に進むよう管理を行う必要があります。
(3)不服申立てへの備え
万が一、輸入許可前引取りの承認が不当に拒否された場合や、最終的な輸入許可において不当な課税処分がなされた場合には、関税法第八十九条に基づく審査請求の手続きを検討することになります。
6 株式会社Xへのアドバイス
相談事例のS部長に対しては、まず直ちに以下の三点の対応を行うようのアドバイスしました。
①現在の評価審査が長期化する具体的な要因を税関に確認し、その審査完了を待つ間、関税法第七十三条に基づく輸入許可前引取りの承認申請を行う意思を伝えます。
②他法令(医療機器に関連する薬機法等)の輸入手続きがすべて完了しているかを再確認いたします。もし他法令の確認が終わっていなければ、BP引取りは認められません。
③担保として提供する資金または銀行保証の準備を迅速に行います。関税・消費税の予定額と同等のキャッシュを一時的に拘束されることになりますが、製造ライン停止による損害額と比較すれば、その経済的合理性は明らかです。
7 まとめ:貿易実務におけるリスクマネジメント
輸入許可前引取り制度は、適正な関税徴収と迅速な物流のバランスを図るための、法律が認めた正当な権利です。しかし、担保の提供や他法令の遵守、そして何より税関との粘り強いやり取りが必要となるため、現場の負担は小さくありません。
日頃から自社の輸入取引の法的根拠を明確にし、契約書やインボイスの整備を徹底しておくことが、いざという時のBP引取りをスムーズに進める鍵となります。また、関税法第九十四条の規定に基づく帳簿保存義務などを確実に履行し、税関からの信頼を得ておくことも、円滑な通関手続きの土台となります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所では、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。これにより、関税法や関税定率法といった法律の解釈だけでなく、現場の通関実務に即した具体的なアドバイスが可能です。
BP引取りの申請手続きにおける法的助言はもちろん、税関から求められる価格疎明資料の作成支援、事後調査を見据えたコンプライアンス体制の構築、さらには税関の処分に対する審査請求まで、一貫してサポートいたします。
輸出入や通関上のトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
