このページの目次
1 はじめに―相談事例
【相談者】
千葉県内で輸入雑貨のセレクトショップを経営されているTさん。
Tさんは、東南アジア諸国からの輸入を拡大する中で、物流コストの削減を目指し、特定の高付加価値商品について、知人が所有する小型貨物機をチャーターして自ら運送を手配する形態を検討されています。
【相談内容】
「前回の相談で、FOB条件の場合は海上運賃を課税価格に加算しなければならないことは理解できました。では、もし外部の船会社や航空会社に運賃を支払わず、自分でチャーター機を用意して運んだ場合はどうなるのでしょうか。私は自分で機体を手配し、燃料代や操縦士への報酬を直接支払います。この場合、第三者に支払う『運賃』という名目の請求書は存在しません。支払先がない以上、加算すべき運賃はゼロとして申告しても良いのでしょうか。税関からは、自ら運送した場合でも何らかの費用を計算して加算する必要があると言われましたが、納得がいきません。法律的な根拠を含めて、正しい取り扱いを教えてください」
このようなTさんの疑問は、自社便やチャーター便を利用する大規模な輸入者や、特殊な物流形態を採る事業者においてもしばしば見受けられる重要な論点です。
本稿では、自力運送時における運賃の取り扱いについて、詳細に解説してまいります。
2 課税価格の基本概念と原則
輸入貨物に対して課される関税の計算の基礎となる「課税価格」は、原則として、現実支払価格に特定の「加算要素」を加えた「取引価格」に基づいて決定されます。この原則は、関税定率法第四条第一項に定められています。
まず、改めて当該条文の構造を確認しましょう。
輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引につき買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として実際に支払つた又は支払うべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格(以下「取引価格」という。)によるものとする。
この「次に掲げる運賃等の額」として、第一号に以下の規定があります。
関税定率法第四条第一項第一号
当該輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用
ここで重要なのは、法律が「支払った運賃」ではなく「運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用」と規定している点です。つまり、外部の業者に対して「運賃」という名目での支払いがあるか否かにかかわらず、その貨物を輸入港まで運ぶために実質的に費やされたコストは、すべて加算の対象になるというのが法の趣旨です。したがって、Tさんの「支払先がないからゼロである」という考え方は、法令上、誤りであると判断されます。
3 輸入者が自力で貨物を運送した場合の費用算定
Tさんのように、輸入者が自ら用意した手段(自社機、自社船、チャーター便等)で貨物を運送した場合、その運送のために実際に要した個々の経費の総額を算出し、それを「運送に要する費用」として課税価格に算入しなければなりません。
これは、関税定率法基本通達4―7、4-8においても補足されています。
関税定率法基本通達4―7、4-8
(1)「運賃」には、通常の運賃のほか、特定の貨物について適用される特別の運賃(例えば、特約運賃、割増運賃、割引運賃等)が含まれる。
(2)「輸入貨物が輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用」には、輸入者が自己の所有する運送手段により当該輸入貨物を運送したために要した費用が含まれる。
これらの通達により、自己の所有する運送手段による費用算定の必要性が明確化されています。具体的にどのような費用を積み上げるべきかについては、以下の項目が挙げられます。
1.燃料費および油脂代
輸送に使用した航空機や船舶、車両が輸入港に到着するまでに消費した燃料の代金
2.乗組員の人件費
操縦士、航海士、整備士などの乗組員に対して支払われる給与、手当、および福利厚生費のうち、当該輸送期間に対応する額
3.機体や船体の維持管理費
輸送に使用した期間分に相当する減価償却費、修繕費、予備部品代など
4.運送に関連する諸費用
途中の経由地で発生した着陸料、入港料、荷役費、航行補助施設利用料など
5.運送保険料
自社で付した保険のうち、当該輸送区間に係る保険料
Tさんの事例では、チャーター機の料金だけでなく、操縦士への報酬や燃料代を直接負担しているため、それらの実費を精緻に計算して合算し、課税価格に算入する必要があります。
4 客観的な資料に基づく算定と資料欠如時の対応
運賃等の額を算定する際には、税関に対してその妥当性を証明できる「客観的かつ数値化された資料」に基づいて行わなければなりません。これには、領収書、契約書、航海日誌、燃料の購入記録、給与明細、計算根拠を記した明細書などが含まれます。
しかし、自社運送の場合、費用の案分が困難であったり、一部の資料が欠落していたりすることも想定されます。
実務上、自力運送の費用が不明確な場合には、「通常要する運賃(通常運賃)」を適用して算出することが一般的です。これは、同種の貨物を通常の運送業者が運んだ場合に適用される標準的な運賃を基礎とする考え方です。
以下の表は、自力運送時における費用算定のチェックリストです。ワード等にコピーして、申告前の確認用としてご活用いただけます。
【自力運送時における課税価格算定チェックリスト】
算定項目|具体的な内容|資料の有無
運送手段の費用|チャーター料、リース料、減価償却費|有・無
燃料関連費用|燃料代、潤滑油代、給油手数料|有・無
人件費|乗組員の給与、手当、滞在費、食費|有・無
施設利用料|空港使用料、入港料、駐機料、係留料|有・無
保険関連|貨物保険料、機体・船体保険料(運送部分)|有・無
荷役・雑費|積み込み費用、航行に関連する諸手数料|有・無
案分計算書|複数貨物の場合の重量・容積案分記録|有・無
これらの項目を漏れなく確認し、数値化することが、適正な申告には不可欠です。
5 誤った解釈によるリスクと税関への対応
Tさんのように「運賃名目の支払いがないから加算不要」という判断をそのまま実行に移した場合、税関事後調査において高確率で否認されることになります。関税の過少申告は、単に不足分を支払えば済むという問題ではありません。
1.過少申告加算税の賦課
本来納めるべき税額との差額に対し、原則として十パーセントから十五パーセントの加算税が課されます
2.延滞税の発生
法定納付期限から実際に支払う日までの期間に対し、利息相当の延滞税が課されます
3.AEO制度等の優遇措置への影響
適正申告がなされていないと判断された場合、将来的に簡易な通関手続きを受けられる等の優遇措置の対象から外れる恐れがあります
税関事後調査では、会計帳簿や銀行の送金記録だけでなく、電子メールのやり取りや契約の背景まで細かく精査されます。自社運送という特殊な形態であればなおさら、その費用の妥当性が厳しく問われることになります。
特に「無償で運んでもらった」という主張は、関税定率法の「通常要する運賃」の規定により退けられるケースがほとんどです。利益相反関係にない第三者から受けた純粋な好意による無償運送であっても、課税価格の決定においては、市場価格相当の運賃を加算することが求められる点に十分な注意が必要です。
6 専門家としての法的視点とサポート
自社運送やチャーター便に関わる課税価格の決定は、一般的な輸入取引以上に高度な法解釈と計算実務が要求されます。燃料費一つとっても、どの区間の消費分を算入すべきか、機体の減価償却費をどのように期間按分すべきかなど、専門的な知識が不可欠です。
当事務所においては、代表弁護士が通関士の資格を有しており、法律と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
1.事前の課税価格算定コンサルティング
自社運送を開始する前に、税関から指摘を受けないための適切な費用算出スキームを構築します
2.税関への事前教示制度の活用
具体的な計算方法について、あらかじめ税関に文書で照会し、公式な見解を得る手続きを代行します。これにより、将来の申告漏れリスクをゼロに近づけることができます
3.税関事後調査への立ち会いと法的抗弁
既に調査が入っている場合や、税関から修正申告を求められている場合に、法令の正しい解釈に基づき、輸入者の利益を守るための交渉を行います
弁護士は、単なる手続きの代理人ではなく、依頼者の権利を擁護する立場にあります。通関実務に精通した弁護士が介入することで、税関当局に対しても論理的かつ法的根拠に基づいた主張を行うことが可能となります。
7 結論:適正な輸入ビジネスの発展に向けて
輸入者が自力で貨物を運送する場合であっても、その運送に要した実質的な費用は、関税定率法第四条に基づき、課税価格に加算しなければなりません。「支払った運賃という項目がない」という形式的な理由で加算を怠ることは、重大なコンプライアンス違反に繋がります。
Tさんのように、新しい物流形態に挑戦することは、ビジネスの競争力を高める上で非常に有意義なことです。しかし、その挑戦を支えるのは、揺るぎない法令遵守の姿勢です。
自社運送に関連する費用の算定方法や、客観的な資料の整備に不安を感じておられる方は、ぜひ当事務所までご相談ください。輸出入と通関の専門知識を持つ弁護士が、皆様の事業が健全に、かつ最大限の利益を確保しながら発展できるよう、誠心誠意サポートさせていただきます。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。皆様のお問い合わせを心よりお待ちしております。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

