昨今の社会情勢の下、副業を行っている方も増加していると言われていますが、企業によっては、そのような兼業を禁止・制限している場合もあります。
そこで、本日は、従業員による兼業の禁止・制限に関してご説明いたします。
1 従業員による兼業の禁止・制限
まず、前提として、私企業の労働者が行う兼業を直接規制する法令はありません。
また、厚生労働省は、平成30年1月に、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の策定および兼業(副業)を原則容認するモデル就業規則改正を行っており、社会一般的にも兼業を許容する流れができつつあるとも言えます。
しかしながら、企業は、従業員の自社での労務提供への支障等を懸念して、従業員の兼業を就業規則等で明確に禁止・制限し、その違反を懲戒事由としている場合も多くあるのが実情です。
2 裁判例の動向
こうした従業員による兼業の禁止・制限の可否に関して、裁判で争った場合に、裁判所は、職場外・就業時間外は従業員の私生活上の自由や職業選択の自由があることを踏まえ、兼業を全面的に禁止する就業規則は合理性(労働契約法7条)を欠くと判断する傾向にあります。
しかしながら、長時間の兼業等で自社での労務提供に具体的な支障が生じたり、兼業の内容により自社の信用等が損なわれると考えられる場合等には、兼業を禁止することも許容されるとの判断を示した裁判例もあります(小川建設事件(東京地決昭和57・11・19労判397・30)。
また、兼業が競業に該当する場合等に備えて許可制とすることには合理性があるとの判断を示した裁判例もあります(橋元運輸事件(名古屋地判昭和47・4・28判時680・88等)。
このように、裁判例を踏まえますと、兼業を一律に全面的に禁止することは合理性を欠くと判断される可能性があるものの、企業側が合理的な理由に基づき、兼業を禁止、制限することは認められる場合も十分あるものと考えられます。
以上のご説明のとおり、兼業の禁止・制限の可否に関しては、各企業毎の個別の事情等も踏まえて具体的に判断されるものですので、実際に、兼業の禁止や制限を新たに設けることを検討されている場合や、既に存在する兼業の禁止や制限に関して従業員との間で紛争が発生したという場合には、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所は、人事労務を幅広く取り扱っておりますので、従業員による兼業の禁止・制限に関してご不安な点等ありましたらお気軽にご相談ください。