「労働基準監督署に相談に行ったけれど思うような対応をしてもらえなかった」、という話を聞くことがあります。
思うような対応をしてもらえない理由としては、主に、①相談時の客観的資料の不足、②他の相談との兼ね合い、③是正勧告の強制力の無さ、といった点が考えられます。
例えば、会社側にどれだけ掛け合っても残業代を支払ってもらえないので、労働基準監督署に相談し動いてもらえば、流石に会社側も対応を改めると思っていたが、実際はそうではなかった、というようなケースを想定してみましょう。
確かに労働基準監督署は、会社の労働基準法違反行為等を監督する機関ですが、相談に行けば必ず従業員側の立場ですぐに動いてくれるとは限りません。
というのも、そもそも労働基準監督署の人員は限られておりますので、他の相談との優先順位というものがあることは避けられません。
また、客観的な資料をある程度揃えて相談に行かないと、労働基準監督署としても動き出すことが難しいとの判断になることも十分あり得ます。労働基準監督署が、相談を受けた会社すべてを調査することは不可能ですので、ある程度客観的な資料をそろえて相談に行った方が、労働基準監督署が動き出しやすくなると言えるでしょう。
さらに、労働基準監督署の調査の結果残業代未払等の労働基準法違反が認められた場合、刑事事件化される場合もありますが、通常は、会社側に対して是正勧告をすることになります。もっとも、これは強制力のない行政指導の一種ですので、必ずしも会社が応じるとは限りません。
以上のとおり、労働基準監督署に相談に行ったとしても、思うような対応をしてもらえないケースは十分考えられますが、注意すべきは、労働基準監督署は、あくまでも第三者的な立場から客観的会社の労働基準法違反等を調査監督する機関であり、労働者の味方や代理人として動く機関ではないという点です。この点は勘違いされている方もいらっしゃいますが、相談に行く際は十分に注意すべきであり、相談者の代理人として会社側と交渉等を行う弁護士等とは大きく異なる点と言えます。