通関業者の補完的納税義務

1 はじめに―相談事例

輸出入実務において、関税の納税義務者は原則として「輸入者」です。しかし、特殊な状況下では、輸入手続きを代行した通関業者が納税の全責任を負わされる事態が起こり得ます。まずは、通関業者が直面し得る深刻なトラブル事例を見てみましょう。

【相談者】

中堅通関業者 株式会社T通関 通関部長

【相談内容】

「当社は半年ほど前、新規のお客様であるA氏から、海外の有名ブランドの家具一式の輸入通関を依頼されました。A氏から提供された委任状や身分証の写しに基づき、A氏を輸入者として申告し、輸入許可前引取りの承認を受けて貨物を引き渡しました。 ところが後日、税関の事後調査により、当該貨物の申告価格が著しく低かったことが判明し、数百万単位の追加関税が課されることになりました。税関がA氏に連絡を取ろうとしたところ、届出の住所は架空のもので、電話も繋がらない状態であることがわかりました。 さらに、税関から当社に対し『輸入者の所在が不明であり、通関業者である貴社が委託者を明らかにできない以上、関税法第13条の3の規定に基づき、貴社が連帯して関税を支払う義務がある』という通知が届きました。当社はあくまで手続きを代行しただけであり、貨物の所有者でもなければ、脱税を指示したわけでもありません。それにもかかわらず、当社がこれほど多額の税金を肩代わりしなければならないのでしょうか。法的な回避手段はないのか、詳しく教えてください」

このような事例は、いわゆる「名義貸し」や「幽霊輸入者」を利用した不正輸入に、通関業者が巻き込まれた典型的なケースです。関税法では、通関手続きの適正を確保するため、通関業者に対して非常に重い補完的納税義務を課しています。以下、その詳細と実務上の留意点について解説します。

2 関税法における納税義務の体系と通関業者の立場

関税の納税義務者については、関税法第6条に原則的な規定があります。

関税法第6条(納税義務者)

「関税は、この法律及び関税定率法その他関税に関する法律に別段の規定がある場合を除き、貨物を輸入する者が納める義務を負う」

通関業者は、通関業法に基づき、輸入者から委任を受けて代理人として手続きを行う立場に過ぎません。したがって、民法上の代理の原則に従えば、その行為の効果は本人である輸入者に帰属し、代理人である通関業者が税金の支払い責任を負うことはありません。

しかし、関税法は、税関行政の執行を確実にするため、例外的に「通関業者」を納税義務の主体とする規定を置いています。これが関税法第13条の3に定められた「補完的納税義務」という概念です。

3 通関業者の補完的納税義務の法的根拠

通関業者が、輸入者と連帯して関税を納める義務を負う場合については、関税法第13条の3において以下のように厳格に規定されています。

関税法第13条の3(通関業者の補完的納税義務)

「輸入の許可又は第73条第1項(輸入許可前引取り)の承認を受けて引き取られた貨物について、納付された関税額に不足がある場合において、当該貨物の輸入の許可又は承認の際に当該貨物の輸入者とされた者の住所及び居所が明らかでないとき、又はその者が当該貨物の輸入者でない旨を申し立てた場合であつて、当該貨物の輸入に際しその通関業務を取り扱つた通関業者が、その通関業務の委託をした者を明らかにすることができなかつたときは、当該通関業者は、その委託をした者と連帯して当該関税を納める義務を負う」

この規定の目的は、実体のない輸入者を立てて関税を免れようとする不正行為を抑止し、もしそのような事態が発生した場合には、プロフェッショナルである通関業者にその責任を負わせることで、国の税収を確保することにあります。

4 補完的納税義務が発生するための具体的要件

通関業者が納税義務を負わされるのは、決して無制限ではありません。以下の二つの要件が「同時に」満たされた場合に限定されます。

(1)第1の要件:輸入者の所在不明または否認

まず、税関が輸入者として申告された人物を特定できない状況が必要です。具体的には、

①輸入者とされた者の住所又は居所が明らかでない場合

②輸入者とされた者が「私は輸入者ではない」と公式に申し立てた場合

前者は、架空の住所や他人の住所を勝手に利用したケースが該当します。後者は、名義を冒用された第三者が、税関の調査に対して自身の関与を否定した場合などが該当します。

(2)第2の要件:真の委託者の特定不能

次に、通関業者側が、実際に誰から仕事を請け負ったのかを証明できない状況が必要です。

具体的には、通関業者が、当該通関業務の委託をした者を明らかにすることができなかったとき、です。

これは、通関業者が「A氏から依頼された」と主張しても、そのA氏との連絡先や実在を証明する資料が不十分であり、税関がその人物を追跡できない状態を指します。

以下に、補完的納税義務の発生プロセスを整理した比較表を掲載します。

【通関業者の補完的納税義務(関税法第13条の3)の要件整理】

|項番|判定項目|詳細な状況|

|1|貨物の状態|輸入許可後、または輸入許可前引取りの承認後であること|

|2|関税の状態|納付された関税額に不足があること(追徴が必要な状態)|

|3|輸入者の状況|住所・居所が不明、または本人が輸入者であることを否定|

|4|業者の対応|通関業者が「真の委託者」を客観的な証拠で示せない|

|5|法的効果|通関業者が真の委託者と連帯して納税義務を負う|

5 「真の委託者を明らかにする」とは何を意味するか

通関業者にとって、この第2の要件である「委託者を明らかにすること」が、責任を免れるための唯一の防衛線となります。関税法基本通達13の3-1では、この点について以下のように解釈を示しています。

関税法基本通達13の3-1(委託者を明らかにするとは)

「法第13条の3に規定する『委託をした者を明らかにすることができなかつたとき』とは、通関業者がその委託をした者として示した者が、当該貨物を輸入する者として住所及び居所が明らかな者であつて、かつ、その者が委託の事実を認めているとき以外のときをいう」

つまり、単に「山田さんという人から電話で頼まれました」と述べるだけでは不十分です。 1.その「山田さん」の実在が確認でき、住所・居所が特定されていること。

2.その「山田さん」本人が、税関に対して「私が依頼しました」と認めていること。

この両方が揃って初めて、通関業者は補完的納税義務を免れることができます。

6 実務上のリスク管理と通関業者の義務

相談事例のように、新規の顧客から依頼を受ける場合、通関業者は厳格な本人確認を行う法的・実務的義務があります。

(1)本人確認書類の徴収

個人であれば住民票や運転免許証の原本確認、法人であれば登記事項証明書や印鑑証明書の徴収が不可欠です。単なる電子メールでの写しの送付だけでなく、必要に応じて実在確認の電話や訪問を行うことが、後のトラブルを防ぐ最大の防御となります。

(2)委任状の真正性の確保

輸入者本人による正当な委任があることを証明するため、委任状には実印の押印と印鑑証明書の添付を求めるべきです。

(3)連絡手段の確保

固定電話の番号や、勤務先の情報の確認など、複数の連絡ルートを確保しておく必要があります。SNSや匿名性の高いメッセージアプリのみのやり取りは、非常に高いリスクを伴います。

以下に、納税義務が発生するフロー図を示します。

【補完的納税義務確定までのフロー】

1.輸入申告及び引き取りの完了

2.事後調査等による不足税額の判明

3.税関から輸入者(申告名義人)への督促・調査

4.輸入者の所在不明、または名義冒用の発覚

5.税関から通関業者への「真の委託者」の特定要求

6.通関業者が委託者の実在を証明できない

7.通関業者への補完的納税義務の適用(確定)

7 連帯納税義務の性質

補完的納税義務が発生した場合、通関業者は輸入者と「連帯して」納税義務を負います。この連帯義務の性質は極めて強力です。

(1)税関による選択

税関は、輸入者と通関業者のどちらに対しても、全額の支払いを求めることができます。輸入者の行方がわからない以上、事実上、確実に資産を把握できる通関業者に対して真っ先に徴収がなされます。

(2)抗弁の制限

「まず本人に請求してほしい」という催告の抗弁権や、「本人の財産から差し押さえてほしい」という検索の抗弁権は、連帯義務者には認められません。

(3)通関業免許への影響

納税義務を果たさない場合、通関業法に基づく行政処分の対象となる可能性があり、最悪の場合、通関業の免許取り消しや業務停止という致命的な不利益を被ることになります。

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

通関業者が補完的納税義務を問われる事態は、まさに企業の存亡に関わる危機といえます。税関から第13条の3の適用を想起させるような連絡があった段階で、迅速かつ正確な法的対応を開始しなければなりません。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、通関実務の現場感覚と関税法の深い専門性を兼ね備えております。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。

・税関が主張する「委託者を明らかにできていない」という判断に対する、法的な反論及び証拠整理

・真の委託者を特定するための独自の調査及び法的手段の検討

・税関との交渉を通じ、通関業者に故意や重大な過失がないことを主張し、責任の免除や軽減を模索すること

・もし納税を免れられない場合でも、その後の求償権の行使(真の犯人への支払い請求)を見据えた法的手続きの構築

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律と通関実務の二つの視点から、貴社の利益を守るために全力を尽くします。

9 まとめ

通関業者の補完的納税義務は、関税法第13条の3という条文の中に、通関業者のリスクが凝縮された形で規定されています。輸入者の住所が不明で、かつ業者が委託者を証明できないという二つの条件が揃ったとき、業者は「代理人」から「納税の当事者」へと転落してしまいます。

この不条理とも思える重い責任を回避するためには、日頃からの厳格な顧客管理と、万が一の際の迅速な法務対応が不可欠です。新規顧客や不透明な取引に対しては、常に「もしこの人が消えたら、当社が税金を払えるか」という視点を忘れてはなりません。

本記事の解説が、通関業に携わる皆様のコンプライアンス体制の再点検と、リスク回避の一助となれば幸いです。不測の事態に直面した際は、一人で抱え込まず、専門的な知見を持つ弁護士へ速やかに相談することをお勧めいたします。

【補完的納税義務に関する重要事項の再確認】

・原則として納税義務者は輸入者であるが、例外が存在すること

・関税法第13条の3が通関業者の補完的責任を定めていること

・輸入者の所在不明と業者の委託者特定不能の二点が要件であること

・「委託者を明らかにする」には、住所の特定と本人の承認が必要であること

・連帯義務であるため、税関は業者から優先的に徴収できること

・事前の徹底した本人確認こそが、このリスクに対する唯一の対抗策であること

適正な通関業務と強固な法的防衛を通じて、貴社のビジネスがさらに発展することを願っております。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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