関税評価において、輸入価格(課税価格)の計算は単にインボイス金額だけでは完結しません。
特に重要な論点の一つが、輸入者が輸出者に無償または安価で提供した物品・サービス(無償供与)です。これは、関税評価において「加算要素」として申告価格に加えなければならないケースがあります。
今回は、無償供与とは何か、どのような場合に加算が必要か、具体的な実務上の取り扱いについて解説します。
このページの目次
1 無償供与とは?
無償供与とは、輸入者が輸出者に対して提供する以下のような物やサービスを指します。
①製造に必要な部品・材料
②金型・型枠・試作品
③設計図・技術資料
④技術指導・役務提供など
これらが無償または実費程度の対価で提供されたにもかかわらず、最終的な輸入品の価格に反映されていない場合、関税評価上の「取引価格」に加算しなければなりません。
2 なぜ加算が必要なのか?
関税評価の原則は「輸入取引における実質的な経済的価値を反映した価格」を基準にすることです。
無償供与がある場合、それを考慮しないと「安く仕入れているように見える」だけで、本来支払うべき正当な価値より低く課税されてしまうため、調整が求められるのです。
3 加算すべき典型例
①日本の輸入者が、海外工場に自社製の金型を送って製造させた
②図面や設計情報を無償提供して、その指示に従って製造が行われた
③無償提供した電子部品を組み込んだ完成品を輸入した
④技術者を海外に派遣して製造工程を管理・監修した(役務供与)
これらの「提供価値」が関税評価に含まれていなければ、税関から追徴対象とされる可能性があります。
4 評価額の算定と配分
無償供与分の加算額は、提供物・役務の実際の価額(取得価格)をベースに算定されます。
ただし、輸入品が多数にわたる場合は、個々の商品に適切に按分して評価する必要があります。
例:1,000万円の金型を使って10万個の商品を製造・輸入 → 1個あたり100円の加算
この按分方法については、税関と事前に協議・教示を受けることが推奨されます。
無償供与は見落とされやすい関税評価のリスク項目です。輸入者が意図せず申告価格を過少にしてしまい、税関からの追徴や加算税の対象になることもあります。
実際の提供価値を正しく反映させることで、適正な申告と法令遵守が実現されます。
当事務所では、無償供与の該当性判断、加算評価の方法、税関対応まで一貫して支援しております。評価に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。