「うちの会社では昔からこのような取り扱いをしており、従業員も含めて会社全体がそのことを認識している。そのため法律の規定とは異なるかもしれないが、特段このまま取り扱いを変更しなくてよいものと考えているが、問題はないか。」という相談をお受けすることがあります。
この相談内容は、一面では正しいといえなくはないのですが、明確に誤っている部分がありますので、注意が必要です。
以下、ご説明いたします。
このページの目次
1 事実たる慣習と強行法規の関係性
上記のご相談内容は、要するに、企業や職場の一般的な従業員ならば誰でもそのような事実上の制度や取扱いがあることを知り、その上で異議を述べず、使用者側も承諾しているという、いわば労使ともに従っているという状況に至っているものと思われます。
このような状況は、「事実たる慣習」が成立している状況にあるといえますが、このような慣習が強行法規に違反する場合には、法的な効力は発生しないことになるので、注意が必要です。
では、どのようなものが強行法規に該当するかが問題となりますが、労働基準法や労働安全衛生法等、労働条件に関する規定については、ほとんどが強行法規に該当し、これらの法令に反する「事実たる慣習」は効力を有しません。
2 参考となる裁判例
静岡県教祖事件判決(最判昭和47年4月6日(判タ277・143)は、公立学校の教職員に関する事件ですが、「職員会議の続行による時間外勤務に対しては、時間外勤務手当を支払わない」、という慣習について、仮に「事実たる慣習」になり得る状況であったとしても、労働条件の基準を定める労働基準法の規定が強行法規であることは、同法13条の規定によって明らかであるから、時間外労働に対する割増賃金支払い義務を定める労働基準法に違反する以上、その効力は生じない、との判断を示しました。
3 弁護士へのご相談をご希望の方へ
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