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禁制品や金地金の密輸
禁制品の輸入や金地金の密輸は、いわゆる関税法違反事件となり、刑事告発された場合には、懲役刑等の厳罰に処せられる可能性もあります。
禁制品の輸入を軽い気持ちで行うことはあまりないと思いますが、他方で金地金に関しては、簡単な運び屋の気分で安易に行われてしまうケースが散見されます。
本日は、令和6年上半期(令和6年1月から6月まで)において、関税法違反事件として取り締まりが実行された案件をご紹介いたします。
1 不正薬物関連
まず、不正薬物の内訳としては、覚醒剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物を指すものとします。
不正薬物全体の摘発件数は500件、押収量は約1301kgであり、摘発件数は増加し、押収量は減少した模様です。
具体的な内訳をみると、
①覚醒剤
摘発件数は85件、押収量は約814kgと、共に減少した。
押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約2715万回分、末端価格にして約538億円に相当するとのことです。
②大麻
大麻草の摘発件数は96件、押収量は約103kgであり、前年比で大幅に増加したようです。
また、大麻樹脂等(大麻リキッド等の大麻製品を含む。)の摘発件数は61件、押収量は約46kgとなり、前年比で共に大幅に増加したようです。
③麻薬
コカインの摘発件数は30件、押収量は約235kgでした。
また、MDMA等の摘発件数は49件、押収量は約79kgでした。
④指定薬物
指定薬物の摘発件数は76件、押収量は約7kgでした。
2 金地金
金地金の摘発件数は228件、押収量は約937kgでした。
3 安易に貨物を日本に持ち込む行為にはご注意ください
上記のとおり、不正薬物関連や金地金等の密輸は非常に多く行われておりますが、特段罪の意識がない若者等が運び屋として利用されてしまうケースも多くあります。
自分では大したことがなく、単に土産物のようなものを運んで日本に持って帰ってくるだけで相当程度の報酬がもらえる、と思い安易な気持ちで関与してしまう方もおりますが、自分の一生を棒に振ってしまいかねない行為ですので絶対に関わってはいけません。
あくまでも関与しないことが一番ではありますが、万一関りを持ってしまった場合には、速やかに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入貨物における原産地規則
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスにおいて関税率の決定や国内販売時のラベル表示に直結する「原産地規則」について、その基礎から実務的な判定基準までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルなサプライチェーンを構築されている企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
東京都内で海外アパレル製品や雑貨の輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、ベトナムの縫製工場と提携し、オリジナルのバックパックを日本へ輸入することになりました。この製品に使用される生地や金具などの主要な原材料は中国から調達し、ベトナムの工場で裁断および縫製を行っております。B氏は、最終的な組み立てがベトナムで行われているため、製品に『Made in Vietnam』と表示し、日本とアセアンとの経済連携協定(EPA)に基づく特恵関税を適用して輸入しようと考えています。しかし、通関業者から『原材料の中国比率が高い場合、ベトナム産と認められない可能性がある』との指摘を受けました。原産地はどのような基準で決定されるのでしょうか。また、もし誤った原産地表示を付したまま国内で販売してしまった場合、どのような法的リスクがあるのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、複数の国を跨いで製造が行われる現代の貿易実務において非常に多く見受けられます。貨物を輸入する際に、原産地を貨物上に記載、掲載している場合も多いと思います。原産地表示は、原産地規則に基づいて行う必要があり、また、日本国内で商品を販売する場合も、正確な原産地を記載しないと不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)等で問題となるリスクがありますので、正確に記載する必要があります。貨物の原産地を決定するための基準の概要は、以下の通りですので、ご参考となれば幸いです。
1 原産地規則の定義と二つの大きな区分
『原産地規則』は、ある製品がどの国で「生産された」とみなされるかを決定する基準を指し、輸入ビジネスを行う上で、このルールを正しく理解することは、関税や通関の手続き、また日本国内での商品の販売のいずれにおいても不可欠です。原産地規則は、その目的によって大きく二つの区分に分けられます。
(一)非特恵原産地規則
通常の関税率(基本税率、暫定税率、MFN税率)を適用する場合や、貿易統計の作成、あるいは今回B氏が懸念されている景品表示法等に基づく適正なラベル表示を判断するための基準です。関税法や関税定率法に基づく基準がこれに該当いたします。
(二)特恵原産地規則
日本が締結している経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)に基づき、特定の締約国からの輸入に対して免税や低い関税率を適用するための基準です。B氏がベトナム産としてEPA税率を適用したい場合には、この特恵原産地規則を満たす必要があります。
2 貨物の原産地を決定する二大基準の詳細
関税評価や表示の適正性を判断するための基準は、主に以下の二つに集約されます。
(1)完全生産品基準(Wholly Obtained Criterion)
貨物が完全に特定の国で生産された場合、この基準が適用されます。他国の材料を一切使用せず、その国の資源のみで完結している場合に限られます。
一 その国で収穫された農産物。
二 その国の領土内から採取された鉱物や資源。
三 その国で生まれ、かつ飼育された動物、及びその動物から得られた産品。
四 その国の領海等で採取された水産物。
五 その国内での製造過程で発生したくずや、使用済みの物品。
(2)実質変更基準(Substantial Transformation Criterion)
貨物がある国で加工・製造され、その結果、製品の性質や用途が大きく変わった場合に適用されます。二ヶ国以上にわたって生産される製品の原産地を特定するための極めて重要な基準です。この基準には、具体的には以下の三つの手法があります。
一 HSコード変更基準(関税分類番号変更基準)
貨物の関税分類(HSコード)が製造過程で変更された場合です。例えば、生地(HSコード:5208)が特定の国で縫製されてシャツ(HSコード:6105)になった場合、加工により商品分類の4桁(項)が変わるため、実質的変更が行われたと判断されます。この基準は、単純な梱包や組み立て、切断、洗浄などの「軽微な工程」では適用されず、製品の性質や用途が明確に異なることが求められます。
二 付加価値基準(アドバロレム基準)
加工後の貨物における特定国での付加価値の割合が一定以上の場合です。たとえば、自動車部品の輸入材料がある国で組み立てられ、完成車として輸出される場合です。この際、完成品に占める原材料費や輸入部品の割合を差し引いた「現地での加工付加価値」が、原則として40%以上(協定により異なります)であれば、実質的変更と見なされます。
三 製造工程基準(特定加工工程基準)
特定の製造工程が行われた場合に適用されます。例えば、未加工のカカオ豆がある国でローストされ、チョコレートに加工される場合、特定の製造工程(焙煎や成形など)が行われたことにより、商品が別のものとみなされます。この基準では、工程の重要性や不可逆性が重視されます。また、化学反応を伴う製造工程などもこれに該当いたします。
3 原産地表示に関する法的リスクと罰則規定
不適切な原産地表示は、行政処分や刑事罰の対象となるだけでなく、企業の社会的信頼を根底から揺るがす事態に発展いたします。B氏のA社においても、以下の法律に細心の注意を払う必要があります。
(一)景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)
日本国内で商品を販売する場合、景品表示法上の「不当な表示」として、原産地を誤認させる表示が禁じられています。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示
これを受けて、「商品の原産地に関する不当な表示」という告示が出されており、実質的変更をもたらさない加工(例えば輸入品の詰め合わせなど)を行った国を原産地として表示することは違法となります。違反した場合には、措置命令や、売上額の3%という高額な課徴金納付命令が下される可能性があります。
(二)関税法による輸入差し止め
原産地を偽った表示がなされている貨物は、関税法に基づき、輸入を許可されません。
(関税法第七十一条 原産地を偽つた表示がされている貨物の輸入)
第一項 原産地について直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物については、輸入を許可しない。
もし税関で指摘を受けた場合、表示の抹消や訂正を行わなければならず、そのための多大なコストや納期遅延が発生いたします。
4 実務で役立つ原産地判定および表示確認一覧表
B氏のような経営者が、取引開始前に活用できるチェックリストを作成いたしました。
【原産地規則・表示適正化チェックリスト】
確認項目|判定の指針|留意すべき点
--------|----------------|------------
材料の調達国|全ての原材料の生産国を把握しているか|完全生産品か実質的変更かの初動
HSコードの変化|加工前後の4桁コードが変化しているか|CTH(項変更基準)の適否
現地付加価値率|現地での原価や利益が40%を超えるか|VA(付加価値基準)の計算
特定工程の実施|不可逆的な化学反応や製造工程があるか|工程基準の適用の有無
表示の日本語訳|「ベトナム製」等の表現が実態と合うか|消費者の誤認防止
原産地証明書|特恵適用の場合、正式な証明書があるか|有効期限や署名の真正性
5 特恵原産地規則における「積算規定」と「僅少の基準」
B氏の事例をさらに専門的に分析するために、経済連携協定(EPA)特有のルールも確認しましょう。
一 積算規定(累計規定)
日本のEPAにおいては、複数の締約国(例えば日本とベトナム)の材料を組み合わせて生産した場合、それらを一つの原産品として合算して計算できる場合があります。これにより、中国産の材料を一部使用していても、日本由来の部品やベトナムでの加工費を合わせることで、原産地要件をクリアできる可能性が高まります。
二 僅少の基準(デ・ミニミス)
HSコード変更基準において、わずかな割合(一般に10%以下)であれば、コードが変わらない他国材料が含まれていても、原産品として認めるという緩和規定です。
6 不適切な管理が招くビジネス上の損害
間違った原産地表示や、特恵関税の不当な適用は、単なる事務的なミスでは済まされされない重大な経営リスクに直結いたします。
(一)多額の追徴課税
税関の事後調査により、原産地が否認された場合、過去数年分の免税額を遡って徴収されます。これに加え、過少申告加算税(10%から15%)や延滞税が課されます。
(二)重加算税の賦課
事実を隠蔽または仮装して原産地を偽ったとみなされた場合、35%という極めて重い重加算税が課されます。
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額の100分の35に相当する重加算税を課する。
(三)刑事事件化。悪質な原産地偽装は、刑法上の詐欺罪や、不正競争防止法違反、関税法違反として刑事告発される恐れがあります。法人の代表者が逮捕されれば、企業の社会的評価は完全に失墜いたします。
7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割
原産地規則の判定は、製品の構造、材料費の構成、製造プロセスの詳細など、多岐にわたる情報の分析を必要とします。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 製品の製造プロセスに基づく精緻な原産地判定の実施と意見書の作成。
二 経済連携協定(EPA)に基づく特恵関税適用のためのコンサルティング。
三 海外の製造元に対するデューデリジェンス(実態調査)の同行および指導。
四 不当景品類及び不当表示防止法に抵触しないためのラベル表示のリーガルチェック。
五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い。
六 万が一の原産地否認時における当局との法的交渉、及び不服申立て手続き。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
8 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスの健全な発展に不可欠な原産地規則について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、材料比率や加工工程を精査していれば、法的リスクを回避しつつ特恵関税のメリットを享受することが可能です。企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。
しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。
当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
貨物の該否判定実務と法的リスク
はじめに:具体的な相談事例のご紹介
本日は、輸出実務において避けては通れない外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)に基づく貨物の該否判定について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、以下の架空事例をご覧ください。グローバルに事業を展開する企業様にとって、示唆に富む内容となっております。
【相談者】
都内で高度な産業用ポンプ及びその制御システムの開発販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、中東の石油精製プラント向けに、自社開発の特殊な高圧ポンプと、その動作を制御するための専用コントローラー、及び詳細なメンテナンスマニュアルを輸出する計画を立てております。B氏は、当該ポンプはあくまで民生用として設計されたものであり、軍事目的のものではないため、特別な許可は不要であると考えていました。しかし、提携している通関業者から、装置内部に使用されている一部の弁(バルブ)や、コントローラーに搭載されたプログラム、さらにはマニュアルの内容まで含めて、精緻な該否判定を行う必要があると指摘され、困惑しています。B氏は、装置全体として一つの製品であるのに、なぜ内部の部品やソフトウェアまで個別に検討しなければならないのか、また、もし判定を誤った場合にどのような法的責任を負うことになるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、高度な技術力を保有する日本の製造業において非常に多く見受けられます。外為法上、貨物を輸出する場合には、リスト規制、キャッチオール規制といった規制の該当性を判断しなければならないことは、貨物の輸出を業として行っている法人や個人事業主の方に広く知られていることと思います。また、大学や各種研究機関においては、共同研究や留学生の受け入れ等、外為法の規制該当性に関して非常に微妙な判断をする必要がある場面も多くあります。本日は、特に実務上の難所となる貨物の該否判定の基本的な流れと、法的リスクについて詳述いたします。
1 貨物の該否判定における実務上の基本的な流れ
貨物を輸出する場合には、外為法上の規制該当性を判断するための該否判定を行う必要があります。ここでは、形式的に貨物の表面上の内容を検討するだけでは不十分であり、多角的な視点からの検討が求められます。
(1)貨物の分解的検討
機械装置などを輸出する場合、装置全体が一つの品目として扱われるとは限りません。例えば、A社のポンプシステムのように、装置内部に弁やポンプ、制御装置などがある場合には、それぞれが個別に輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)別表第一の各項に該当しないかを検討する必要が生じます。これは、特定の高性能な部品が軍事転用されるリスクを防ぐための措置です。
(2)技術(役務)の個別検討
機械に使用されている技術として、内部プログラムやメンテナンスマニュアルについても、個別に検討する必要があります。貨物そのものは規制対象外であっても、それに付随するソフトウェアや設計・製造技術が、外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の規定に抵触するケースは少なくありません。これを役務取引管理と呼び、貨物の輸出許可とは別に、技術提供の許可(役務取引許可)が必要となる場合があります。
(3)法令・通達に基づく実質的判断
該否判定は、経済産業省令である輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令(以下、貨物等省令といいます。)を前提に、運用通達や役務通達を踏まえて判断していくことになります。ここでは、単に形式的な用語を判断するだけでは不十分であり、実質的な機能や性能(スペック)に着目する必要があります。
この許可の要否を決めるのが該否判定であり、マトリクス表や項目別対照表(パラメータシート)の利用等、該否判定に慣れている方も改めて検討の順序や方法をご確認いただくことをお勧めいたします。
2 該否判定において見落としやすい「技術」の壁
貨物の輸出に伴う技術提供については、特に慎重な検討が必要です。B氏の事例にあるメンテナンスマニュアルや制御用プログラムは、貨物そのものとは別個の「役務」として扱われます。
第一項 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の技術を特定の外国において提供し、又は特定の外国の居住者に提供することを目的とする取引をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
この規定により、例えばマニュアルの中に、規制対象となる装置の修理や製造に関する機微な情報が含まれている場合、それは「技術の輸出」となり、経済産業大臣の許可が必要となります。たとえ、そのマニュアルが日本語で書かれていても、あるいは電子メールで送信されるものであっても、法的な扱いは同じです。
3 輸出実務で活用すべき該否判定チェックリスト
以下に、A社のB氏が取り組むべき判定プロセスを整理した実務表を掲載いたします。ワードデータ等に貼り付けてそのまま社内管理にご活用いただける形式となっております。
【輸出管理における精緻な該否判定確認事項一覧】
検討対象区分|具体的な確認事項|法的な根拠・留意点
--------|----------------|------------
本体貨物全体|装置全体の主要機能がリスト規制に該当するか|輸出令別表第一の該当項番
内部構成部品|規制対象の弁、ポンプ、センサー等が組み込まれていないか|組込比率ルールの確認
搭載プログラム|制御用ソフトウェアが外為令のリストに該当するか|役務取引許可の要否
技術資料・説明|マニュアル等に製造・修理の機微情報が含まれないか|みなし輸出管理の対象
特例適用の有無|無償サンプル、修理目的等の特例が正しく適用可能か|安易な判断は厳禁
仕向地・需要者|輸出先が経済制裁対象国や懸念顧客ではないか|キャッチオール規制の確認
4 外為法の規制に対する厳格な注意喚起
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)には、外為法上の厳格な規制が存在します。日本国内で購入したものであるから、海外に輸出しても問題ないと安易に考えることは非常に危険であり、日本国内で一般に販売されている物品であっても、海外に輸出する際には規制対象となる品目は多数存在します。
(1)転用リスクの遍在性
日用品として用いる小さな機械製品であっても、大量破壊兵器や一般兵器に転用することが可能な場合は多数存在します。高性能な炭素繊維、高精度な工作機械、あるいは特殊なシール材などは、一見すると産業用であっても、ミサイルの機体や化学兵器の貯蔵、核開発の遠心分離機などに不可欠な要素となり得るからです。
(2)特例適用のリスク
外為法上の許可を取得することが煩雑であることから、安易に特例の適用があると判断することは非常にリスクの高い行為であるといわざるを得ません。例えば、同一貨物の再輸出や少額貨物の特例などは、適用条件が極めて厳格に定められています。自己判断で特例を適用し、後に税関から否認された場合、それは「無許可輸出」と同義となります。
(3)社会的・国際的責任
知らなかったでは済まされず、重大な犯罪行為(ひいては国際的な平和を損なう行為にもなりかねないことはくれぐれも気を付けるべきです。)となってしまい、違反した場合には重い刑事罰等も存在します。安全保障貿易管理は、一企業のコンプライアンスの問題に留まらず、日本という国の国際的な信頼性と安全を守るための重大な責務です。
5 法令違反に伴う深刻なペナルティ
外為法に違反して無許可輸出等を行った場合、以下のような極めて厳しい処分が科されます。これらは企業の存続を揺るがす甚大な影響を及ぼします。
一 刑事罰
第四十八条第一項(輸出の許可)に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金、またはその併科。なお、対象貨物の価格の五倍が三千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金が科されます。
二 行政処分
経済産業大臣による、最長で三年間におよぶ輸出禁止処分や技術提供の禁止処分。輸出を主軸とする企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に等しい重みがあります。
三 社会的制裁
法令違反の事実は公表され、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。一度損なわれた信用を回復するには、膨大な時間と労力が必要となります。
6 専門家による法的サポートの重要性
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)において、外為法の規制内容に少しでも不安がある場合には、事前にご相談いただくことを強くお勧めいたします。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 複雑な機械装置や技術に関する精緻な該否判定の実施と判定書の作成。
二 経済産業省に対する輸出許可申請および役務取引許可申請の代行。
三 社内輸出管理規定(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定および運用指導。
四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査のアドバイス。
五 税関事後調査や当局の監査に対する立ち会いおよび法的な抗弁。
六 最新の法令改正情報を反映した社内教育研修の講師派遣。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
7 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸出実務の根幹である貨物の該否判定とその重要性について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、一つひとつの部品や技術を丁寧に精査し、正しい手続きを踏むことで、法的リスクをゼロにして堂々と世界市場へ挑戦することが可能となります。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸出入実務における電子帳簿保存法への対応
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸出入ビジネスを展開する上で避けては通れない、帳簿書類の保存義務と電子帳簿保存法(以下、「電帳法」といいます。)への対応について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代の貿易実務において、多くの事業者が直面している課題が示されています。
【相談者】
都内で海外製アパレル小物のECサイトを運営しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社はこれまで、海外の仕入先からメールの添付ファイル(PDF)でインボイス(仕入書)を受け取り、それを印刷してファイリングすることで保存してきました。しかし、昨今の電子帳簿保存法の改正により、電子データで受け取ったものは電子データのまま保存しなければならないと聞き、非常に困惑しています。当社の実務担当者は、単にパソコンのフォルダに保存しておくだけでよいのか、あるいは特別なシステムを導入しなければならないのか、具体的な方法が分からず不安を感じています。また、税関の事後調査が入った際、電子データの保存が不適切であるとして、申告価格の正当性を疑われたり、青色申告の承認を取り消されたりするリスクはないのでしょうか。電子帳簿保存法と関税法の関係性を踏まえた、実務上の明確な指針を求めています。
このような事例は、輸入や輸出を業とする個人、法人の間で増加傾向にあります。事業者は、該当の貨物に関する品名、数量及び価格等を記載した帳簿を備え付け、帳簿、書類及び電子データを保存する義務を負います。ただ、実際のところ、このような各書類の保存を適切に行うことができていない事業者も多く存在するように思います。また、一概に電子データといっても、どのようなデータとすべきか、よくわからない、保存方法が分からない等、実務としての対応に不安がある方も多いのではないでしょうか。本日は、よくある疑問点について、税関の実務上の考え方をご紹介いたします。
1 輸出入者における帳簿書類の保存義務と法的根拠
輸出入を事業として行う場合、その根拠となる資料を一定期間保存することが法律で義務付けられています。まずは、関税法における基本的な規定を確認しましょう。
①貨物を輸出し、又は輸入しようとする者(中略)は、当該貨物の品名、数量及び価額その他財務省令で定める事項を記載した帳簿を備え付け、かつ、当該帳簿及び当該輸出入に関し作成し又は受領した書類(中略)を保存しなければならない。
②前項の帳簿及び書類の保存期間は、当該貨物の輸出又は輸入の許可の日(中略)の翌日から七年間(書類にあつては、五年間又は七年間として財務省令で定める期間)とする。
この規定に基づき、インボイス、パッキングリスト、運賃明細書、保険料明細書、契約書、そして支払いを証明する銀行の送金記録などは、原則として七年間の保存が必要です。そして、令和六年度からの電帳法の本格運用に伴い、これらの保存を電子的に行う際の要件がより厳格化されました。
2 電子帳簿保存法が輸出入実務に与える影響
電帳法は、大きく分けて三つの区分で構成されています。
一 電子帳簿・電子書類の保存(任意)
自らが会計ソフト等で作成した帳簿や決算書類をデータのまま保存するもの。
二 スキャナ保存(任意)
紙で受け取った領収書やインボイスをスキャンしてデータで保存するもの。
三 電子取引のデータ保存(義務)
メールの添付ファイルやクラウドサービスを通じて受け取ったインボイスなどの電子データを、データのまま保存するもの。
B氏の事例のように、メールでインボイスを受け取る行為は「電子取引」に該当いたします。これまではプリントアウトした紙での保存も認められていましたが、現在は、適切な検索要件と真実性の確保(タイムスタンプの付与や訂正削除の防止に関する事務処理規定の備付け等)を満たした形でのデータ保存が義務付けられています。
3 実務上のよくある疑問点と税関の考え方
電子データ保存の実務について、当事務所によく寄せられる疑問点と、税関の執務上の指針(通達)等に基づく考え方を整理いたします。
① 書類をスキャンする際のプリンタやモニターの性能について
紙の書類をスキャナ保存する場合や、電子データを画面で確認する場合、どのような設備が必要になるのでしょうか。規則上は、電磁的記録は、ディスプレイ等に出力して視認できるような状態である必要があります。プリンタやディスプレイの性能や設置すべき台数について必要要件はありません。ただし、関税法施行規則第八条の三第一項第二号及び同条第四項第四号において、電磁的記録は「速やかに出力することができる」ことが要件とされている点には注意が必要です。つまり、税関の事後調査などで調査官から「この申告番号のインボイスを見せてください」と言われた際、数分以内に画面に表示し、必要に応じて鮮明にプリントアウトできる状態でなければなりません。
② 該当のデータを複数の媒体で保存することができるかどうか
保存するデータ量が増大した場合の管理方法についての疑問です。原則として、データに関する検索機能については、関係帳簿書類を保存すべきこととなる期間内の関税関係帳簿書類に係るデータを通じて任意の範囲を指定して条件設定を行い検索ができる必要があります。これは関税法施行令第八十三条第六項(同第八項)、および関税法基本通達一二の二-一二や通達九四の二-二八に規定されています。
しかしながら、法定の保存期間を通じて一元的に検索をすることが困難であることについて合理的な理由があるときには、該当のデータを複数の媒体(例えば年度ごとに分かれたハードディスクや光学メディアなど)で保存することができるとされています。例えば、データ量が膨大である等、複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合等が、『合理的な理由』に該当すると考えられております。ただし、媒体を分けたとしても、各媒体内での検索性は維持されていなければなりません。
③ データは、事務所内のサーバーで保存する必要があるかどうか
リモートワークの普及やクラウド利用の拡大に伴う疑問です。電磁的記録については、ディスプレイや書面に、法定の要件に従った状態で速やかに出力することができることが義務付けられているのみであり、データが保存されたサーバの設置場所についての決まりはありません。そのため、自社内に物理サーバーを置く必要はなく、クラウドサービスを利用することも可能ですし、海外にサーバーが置かれていても問題ありません。これは関税法基本通達九四の二-七の注書きにも明記されています。重要なのはサーバーの物理的な場所ではなく、日本の事務所からいつでもアクセスし、出力できる状態にあるかという点です。
4 電帳法対応において輸出入者が備えるべき要件の整理
電帳法(特に電子取引)を遵守するために、輸出入者が最低限整えるべき要件を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【電子帳簿保存法(電子取引)における輸出入者の対応要件一覧】
要件の区分|具体的な内容|実務上の対応例
--------|----------------|------------
真実性の確保|データが改ざんされていないことの証明|タイムスタンプの付与、または訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け。
可視性の確保|誰もが視認・出力できる状態の維持|カラーモニター、プリンターの設置、操作説明書の備付け。
検索機能の確保|必要なデータを即座に抽出できること|「取引年月日」「取引金額」「取引先」の三項目で検索できる仕組みの構築。
速やかな出力|税関調査等の際に遅滞なく提示できること|インターネット環境の整備、担当者の習熟。
保存期間の遵守|法定期間(原則七年)のデータ保持|バックアップの実施、メディアの劣化防止。
特に検索機能の確保については、単にファイル名に情報を入れるだけでなく、エクセル等で索引簿を作成するか、電帳法対応の文書管理システムを利用することが推奨されます。B氏のA社においても、まずは「事務処理規程」を作成し、取引内容を一覧化する仕組みを作ることから始めるべきでしょう。
5 適正な保存が行われていない場合の法的リスク
輸入や輸出の手続きに関しては様々なルールが存在しますので十分注意が必要です。正確にルールを把握しない場合には、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があり、事業の存亡にかかわりかねません。帳簿書類の保存が不適切であると判断された場合、以下のようなリスクが生じます。
一 関税評価の否認と追徴課税
税関事後調査において、インボイスや支払記録のデータが保存されていない場合、申告した課税価格(申告価格)の妥当性が証明できなくなります。その結果、税関長によって課税価格が更正され、多額の関税・消費税の不足分に加え、過少申告加算税(一〇%~一五%)や重加算税(三五%)が課されるリスクがあります。
二 青色申告承認の取消し
電帳法の要件を満たさない保存は、国税当局の判断により青色申告の承認が取り消される原因となり得ます。これにより、法人税上の優遇措置(欠損金の繰越控除等)が受けられなくなるという、甚大な経済的損失を被る可能性があります。
三 過料の適用
電帳法に違反し、適切に電子取引データの保存が行われていなかった場合には、会社法上の過料の対象となる可能性も指摘されています。
正確にルールを把握し、適切な輸入、輸出手続を行うことがビジネス上非常に重要ですので、万一、手続やルールに不安がある場合には、専門家にご相談ください。
6 関税評価と電子データの連動性
輸出入における「価格」の決定は、単にインボイスの数字を転記するだけではありません。関税定率法第四条に基づき、加算要素(運賃、保険料、ロイヤリティ、アシスト費用等)を適切に反映させる必要があります。これらの加算要素に関するやり取りも、現代では多くが電子メールやSラック等のチャットツールで行われています。
第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。
税関の事後調査では、メインのインボイスだけでなく、その背後にある価格交渉のプロセスや、別途支払われた費用の有無を確認するために、電子データの提示を求められます。電帳法対応を単なる「形式的なデータ保存」と捉えるのではなく、自社の申告の正当性を証明する「エビデンス管理」として位置づけることが、グローバルビジネスを安定させる鍵となります。
7 当事務所による総合的な輸出入法務サポート
輸入や輸出を事業として(あるいは副業として)行っている法人、個人の方は非常に多くおり、増加傾向にあります。しかし、その実務を支える法規制は日々複雑化しています。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる電帳法の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような電子データの提示を求めてくるかといった、実践的なアドバイスを提示することができます。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 電子帳簿保存法に対応した「関税関係書類事務処理規程」の作成支援。
二 輸出入実務における電子データの検索要件・真実性確保の体制構築。
三 税関事後調査への立ち会いおよび電子データを用いた申告の正当性立証。
四 外為法、関税法に基づく帳簿備付け義務の適正化診断。
五 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求および交渉代理。
特に、B氏のようなEC事業者様に対しては、受注データや海外送金データと輸入申告データをいかに紐付けて保存するかという、DX時代の貿易管理体制の構築を専門的にサポートいたします。
まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスの安定を支える唯一の道
本日は、電子帳簿保存法を踏まえた輸出入関係書類の保存実務について解説いたしました。デジタル化は業務効率を高める大きなチャンスですが、一方で法的な要件を満たさない運用は致命的なリスクを招きかねません。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査し、その証拠を適切にデジタル保存すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸出代行業者とのトラブル事例
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、国際貿易の実務において頻繁に利用される輸出代行サービスを巡り、輸出先(仕向地)の相違や書類の不備が原因で多額の損害賠償請求に発展した事例について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引を志す企業様にとって、代理人や代行業者の選定がいかに重要であるかを示す典型的な局面が示されています。
【相談者】
都内で中古農業機械の輸出販売業を計画しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、海外の顧客との間で中古のトラクター数台をイランへ輸出する契約を締結いたしました。当社は輸出実務の経験が浅いため、輸出代行を専門とする業者であるY社に対し、輸出者としての名義管理や船積書類の作成、現地への輸送手配を全面的に委託いたしました。B氏は、当然ながら契約通りイランへ貨物が届くものと信頼しておりました。しかし、後日判明したところによると、Y社は当社の指示に反して、船荷証券の記載を意図的に書き換え、イランではなくイラクへ貨物を輸出しようとしていたことが発覚いたしました。この行為により、現地の本来の顧客との取引は破綻し、当社は多大な損害を被りました。B氏は、Y社に対して債務不履行や不法行為に基づく損害賠償を請求したいと考えていますが、Y社側は当初からイラク向けであったなどと事実を争っております。輸出代行における仕向地の相違や書類の虚偽記載は、法的にどのような責任を問われるのでしょうか。また、裁判所はこのような当事者間の合意の存否をどのように判断するのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、近年のECサイトの利用拡大や副業の推進等により、輸入や輸出に関わる個人、法人が増加する中で、非常に深刻な問題として浮上しております。本日は、まさにこのような輸出トラブルによって裁判まで発展した事案である、東京地判平成30年2月20日の事例をご紹介し、輸出実務における契約管理とリスク対策について深く掘り下げていきます。
1 事案の概要:輸出代行と仕向地の偽装を巡る紛争
本件は、農業用トラクターの輸出を巡り、輸出代行業者による仕向地の変更や書類の偽造があったとして、委託者が受託者に対して損害賠償を請求した複雑な事案です。
(1)紛争の背景と当事者の主張
原告Xは、輸出入代行業等を目的とする被告Yとの間で、中古農業用トラクターの輸出に関する業務委託を行いました。Xの主張によれば、本件の合意内容は以下の通りでした。第一に、XがYから株式会社A製の農業用トラクターを購入し、Xを輸出者とする旨の合意を締結したこと。第二に、本件契約に基づき、Yが取引業者に指示して、農業用トラクターをイランへ輸出する旨の個別合意をしたことです。しかし、実際にはYが本件個別合意に反して、船荷証券(B/L)の記載を偽るなどして、農業用トラクターをイランではなくイラクへ輸出しようとしたため、損害が生じたと主張いたしました。
(2)訴訟の争点
本件の最大の争点は、XとYとの間で「イランへ輸出する」という明確な個別合意が存在したかどうか、という点に集約されました。XはYに対して、本件契約及び個別合意の債務不履行、あるいは不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を求めました。貿易実務において、船荷証券は貨物の受領や引渡しを証明する極めて重要な有価証券であり、その記載内容を意図的に変更する行為は、関税法や外為法(外国為替及び外国貿易法)上の問題のみならず、私法上の重大な不法行為を構成し得るものです。
2 裁判所の判断:合意内容の認定と証拠の評価
東京地方裁判所は、当事者間のやり取りや証拠資料を精査し、Xの主張を退ける判断を下しました。
(1)契約の目的と実態の認定
裁判所はまず、本件製品の売買に至る経緯を以下のように認定いたしました。「前記認定の事実によれば、本件製品の売買契約は、当初より本件製品をイラクへ輸出する目的で締結されたものであると認められる以上、本件製品が、本件製品をイラクへ輸出することを前提とした手続がとられたことに関し、Yに本件個別合意の債務不履行又は不法行為が成立する余地はなく、Xの主張には理由がない。」
(2)個別合意の存否に関する判断
次に、Xが主張するイランへの輸出合意について、以下のように結論付けました。「XとYとの間で、本件製品の輸出先がイランであると合意されたとは認められず、これに関するXの主張は採用できない。そのため、その余の争点について検討するまでもなく、本件個別合意に関する債務不履行及び不法行為に関するXの請求には理由がない。」
裁判所は、Xの主張するようなイランへの輸出を目的とした合意を裏付ける客観的な証拠が不足している一方で、取引の実態や経緯からはイラクへの輸出を前提としていたと判断したものです。これは、国際取引において「どのような合意がなされたか」を証明する契約書や書面がいかに決定的であるかを示す結果となりました。
3 輸出実務における船荷証券(B/L)の重要性と法的責任
輸出代行や輸入代行の利用は拡大しておりますが、それに伴い様々なトラブルが発生しております。本件で問題となった船荷証券の扱いや、仕向地の認定について、実務的な観点から整理した比較表が以下になります。
【輸出代行における実務上のリスクと注意点一覧表】
区分|確認すべき具体的な項目|法的リスクと留意点
--------|----------------|----------------
契約の内容|仕向地、決済方法、費用の負担区分|曖昧な合意は債務不履行追及を困難にする
書類の作成|インボイス、パッキングリスト、B/L|虚偽記載は関税法違反および不法行為
輸出者の認定|名義上の輸出者と実質的な計算主体|外為法上の責任主体が問われる
危険負担の移転|貨物の滅失や事故の際の責任所在|インコタームズの正確な適用が必要
代行業者の権限|どこまでの事務を委託しているか|権限外の行為による損害の発生
報告・連絡体制|船積み状況や書類作成プロセスの共有|密な連絡がなければ偽装を見抜けない
(1)船荷証券(B/L)の法的性格
船荷証券は、運送人が貨物を受け取ったことを証明し、かつ荷揚げ港で貨物を引き渡すことを約束する有価証券です。この記載内容を偽る行為は、単なる事務ミスではなく、貨物の同一性や権利関係を混乱させる重大な背信行為です。もしYが真にXの指示に反して偽造を行ったのであれば、それは民法上の不法行為責任を免れません。
故意又は過失によつて他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
(2)債務不履行責任の追及
輸出代行業者が委託者の指示に従わず、異なる国へ貨物を送ろうとした場合、それは善良なる管理者の注意義務(民法第644条)に違反する債務不履行となります。
債務者がその債務の本旨に従つた履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによつて生じた損害の賠償を請求することができる。
4 輸出管理制度と仕向地偽装のリスク
輸出に関しては、通常の売買とは異なる習慣や法規制が存在します。本件で登場したイランやイラクという国々は、安全保障貿易管理の観点から極めて機微な地域です。
(一)外為法による輸出規制
日本は、国際平和及び安全の維持の観点から、外為法に基づき特定の地域(仕向地)や貨物、技術について厳格な規制を設けています。
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
イラン等の懸念国に対して特定の工作機械や軍事転用可能な貨物を輸出する場合、経済産業大臣の許可が必要です。仕向地を偽って輸出を行う行為は、この外為法に対する重大な違反となり、懲役や多額の罰金、さらには輸出禁止処分といった行政処分の対象となります。
(二)関税法による虚偽申告の禁止
全ての輸出貨物は、税関に対して適正な申告を行わなければなりません。
貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。
仕向地や品名を偽る行為は、関税法上の虚偽申告罪に該当いたします。代行業者が独断で行った場合でも、輸出者としての名義を有するA社が無関係を貫くことは実務上困難であり、管理監督責任を問われることになります。
5 トラブルを回避するための契約実務とリスク管理
便利なサービスである一方で、代行業者を利用する際には適切な対応を期待することができるかどうかを慎重に検討する必要がある点には注意が必要です。B氏のような経営者が、トラブルを未然に防ぐために取り得る具体的な対策を提示いたします。
(1)業務委託契約書における詳細な義務規定
「イランへ輸出する」といった根幹的な合意事項は、必ず書面にて残さなければなりません。単なる電子メールのやり取りだけでなく、正式な委託契約書の中に、仕向地、船積書類の作成基準、さらには指示に反した場合の損害賠償額の予定などを盛り込むべきです。
(2)代行業者のデューデリジェンス
輸出代行業者は、法的な知識だけでなく、実務上の誠実さが求められます。過去に行政処分を受けていないか、あるいは特定の地域への輸出に際して必要なノウハウを有しているかを確認することが不可欠です。
(3)船積書類の原本確認フロー
B/Lやインボイスが作成された段階で、発送前に必ず委託者がその内容をダブルチェックするフローを確立してください。代業者任せにせず、自らが最終的な輸出者としての責任を持つ姿勢が重要です。
(4)専門家によるリーガルチェックとセカンドオピニオン
自社の輸出や輸入に関するフローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて専門家にセカンドオピニオンを求める等、万全の態勢をトラブル発生前に構築しておくことが重要です。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 輸出代行業務委託契約書、個別売買契約書の作成及びリーガルチェック
二 外為法、関税法に基づく輸出管理体制(ICP)の構築支援
三 仕向地や貨物の該否判定に関するリーガルアドバイス
四 輸出トラブル発生時の交渉、訴訟代理、当局対応支援
五 船荷証券(B/L)の正当性や流通に関する実務相談
6 まとめ:適正な通関と契約管理こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸出代行業者における仕向地誤認と法的責任を巡る裁判例について解説いたしました。B氏のようなケースにおいて、裁判所が「合意の不在」を理由に請求を棄却した事実は、貿易実務におけるエビデンス(書面による証拠)がいかに絶対的であるかを物語っています。
通常の売買と同じイメージをもち対応を行うと思わぬ部分で足元をすくわれてしまうリスクがあります。輸出や輸入という特別な取り扱いを行っていることを踏まえ、どのようにすればトラブルを回避することができるかを事前に把握した上で対応を行うことが非常に重要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入ビジネスと商標権侵害の法的リスク
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
近年、ECサイトの利用拡大や副業の推進等により、個人や法人を問わず海外から商品を仕入れて国内で販売する輸入ビジネスが非常に活発化しております。しかし、その手軽さの反面、知的財産権、特に商標権を巡るトラブルが後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
都内でアパレル小物の輸入販売業を営むA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は海外の製造業者から、デザイン性の高いバックパックやカジュアルバッグを定期的に輸入し、自社のオンラインショップで販売しております。今回、輸入したバッグに付されていたロゴマークが、国内の有名ブランドの登録商標に類似しているとして、その商標権者から多額の損害賠償を請求する旨の通知書が届きました。B氏は、海外の業者が製造したものをそのまま輸入しただけであり、悪意はなかったと主張しております。しかし、相手方は商標法に基づき、当社のこれまでの売上高を基準とした高額な賠償を求めています。輸入ビジネスにおける商標権侵害は、知らなかったでは済まされないのでしょうか。また、損害賠償額はどのように決まるのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、輸入ビジネスに従事する全ての方にとって決して他人事ではありません。本日は、輸入トラブルによって裁判まで発展し、損害賠償額の算定が争点となった東京地判令和5年4月27日の事案をご紹介し、実務上の注意点を深く掘り下げていきます。
1 事案の概要:バッグ等の輸入販売と商標権侵害
本件は、海外から輸入されたバッグ類に付された商標が、国内の商標権者が保有する権利を侵害しているとして争われた事案です。
(1)紛争の背景
原告Xは、特定の商標について権利を有する商標権者です。一方、被告Yは、海外からバックパック、肩掛けかばん、ブリーフケース、旅行かばん、カジュアルバッグ等を輸入し、日本国内で販売、あるいは販売のために展示する行為を行っておりました。Xは、Yが取り扱うこれらの商品に付された標章が、自身の登録商標と類似しており、消費者に混同を生じさせるものであるとして、商標権侵害を理由に損害賠償を請求いたしました。
(2)争点となったポイント
本件において、侵害の事実そのものに加え、特に重要となったのは損害額の算定方法です。商標権侵害が発生した場合、その損害を立証することは極めて困難であるため、商標法には損害額を推定する規定が設けられております。被告Yが輸入した侵害品の売上高をどのように特定し、それに対してどのような料率を適用すべきかが、法的な議論の焦点となりました。
2 裁判所の判断:商標法第三十八条に基づく損害額の算定
東京地方裁判所は、商標権侵害における損害賠償の基準について、過去の重要な判例を踏まえた明確な判断を示しました。
(1)商標法第三十八条第三項の趣旨
裁判所はまず、商標法第三十八条の規定について次のように判示いたしました。
「商標法三十八条は、商標権侵害の際に商標権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、その損害額は、原則として、侵害品の売上高を基準として、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。」
(商標法第三十八条第三項)
商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
(2)実施に対し受けるべき料率の算定基準
料率の決定にあたっては、以下の四つの視点による総合考慮が必要であるとされました。これは、知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決(大合議判決)の流れを汲むものです。
一 当該商標の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等。
二 当該商標に蓄積された信用や顧客吸引力の程度。
三 当該商標を当該商品に使用した場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様。
四 商標権者と侵害者との競業関係や商標権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情。
(3)証拠に基づく売上高の特定
売上高の算定については、実務的な手法が示されました。
「本件訴訟の審理経過や証拠関係に鑑みると、弁論の全趣旨に照らし、本件における侵害品の売上高は、損益計算書の売上高に、売上高に占める侵害品の割合を乗じて算定することが相当であり、上記売上高に占める侵害品の割合は、被告作成に係る納品書等から算定するのが相当である。」
このように、税務申告等で使用される損益計算書や、実務的な納品書等の裏付け資料が、損害額決定の重要な証拠となることが改めて強調されました。
3 輸入ビジネスにおける知的財産権リスクの体系的理解
輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる法規制が存在します。商標権侵害は、単に民事上の損害賠償に留まらず、輸入実務そのものを停止させる強力な法的効力を持ちます。
【輸入取引における商標権リスクの区分表】
リスクカテゴリー|具体的な内容|根拠となる法令
--------|----------------|------------
水際での差し押さえ|関税局による輸入差し止め。貨物の没収・廃棄。|関税法第六十九条の十一
民事上の責任|差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求。|商標法第三十六条、三十八条
刑事上の責任|十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金。|商標法第七十八条
社会的信用の失墜|ECプラットフォームのアカウント停止、社名公表。|各プラットフォーム規約
(1)関税法による輸入差し止め
商標権を侵害する物品は、関税法において輸入してはならない貨物として明確に定められています。
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
権利者が税関に対して輸入差止申告を行っている場合、貨物は水際で没収され、輸入者は多大な仕入代金の損失を被ることになります。
(2)法の不知は免責されず
輸入者が商標権侵害の事実を知らなかったとしても、過失が認められれば損害賠償責任は免れません。商標法には過失の推定規定があるため、輸入者側が「過失がなかったこと」を立証しなければならないという、極めて重い立証責任を負わされます。
4 商標権侵害額を構成する諸要素の分析
裁判所が損害額を算定する際に考慮する要素を以下の表にまとめました。
【損害賠償額算定における考慮要素一覧】
考慮要素の分類|具体的な検討項目|賠償額への影響
--------|----------------|------------
ブランドの力|登録商標の知名度、宣伝広告費の規模|高いほど料率が上昇
侵害の態様|デッドコピーか、ロゴの一部類似か|悪質性が高いほど上昇
市場での競合|商標権者と輸入者のターゲット層の一致|競合が激しいほど上昇
不当利得の程度|侵害によって得た具体的な利益額|利益が大きいほど上昇
代替品の存在|当該商標がなくても売れた商品の魅力|寄与率として考慮
5 輸入トラブルを回避するための実務的な防御策
輸出や輸入という特別な取り扱いを行っていることを踏まえ、どのようにすればトラブルを回避することができるかを事前に把握した上で対応を行うことが非常に重要です。A社のB氏のような経営者が取り得る具体的な対策を提示いたします。
(一)事前調査の徹底
輸入を検討している商品に付されたロゴや名称について、特許庁のデータベース(J-PlatPat等)を用いて、国内で同一又は類似の商標が登録されていないかを事前に調査することが不可欠です。
(二)製造業者との契約における補償条項
海外の売手との売買契約において、当該商品が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証させ、万が一侵害が発覚して日本国内で損害賠償を請求された場合には、その全額を製造業者が負担する旨の補償条項(インデムニティ条項)を設けるべきです。
(三)並行輸入の適法性確認
本物のブランド品であっても、輸入ルートによっては商標権侵害とみなされる場合があります。日本の商標権者と海外の商標権者が同一、あるいは同一視できる関係にあるかといった「並行輸入の三要件」を満たしているかを精査する必要があります。
(四)専門家によるリーガルチェック
自社の輸入フローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて弁護士や弁理士にセカンドオピニオンを求めるべきです。特に複数の国が関与する複雑な商流においては、各国の知的財産権の保護状況を把握することが重要です。
6 弁護士への相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。商標権侵害の通知が届いた場合の交渉や、税関での差し止めに対する不服申立てなど、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる商標法の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で貨物を検査し、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提示することができます。
【当事務所が提供できる主なサポート内容】
一 輸入商品の商標権侵害該当性に関するリーガルアドバイス
二 商標権者からの損害賠償請求に対する交渉および訴訟代理
三 海外売手との売買契約書における知的財産権関連条項の作成・精査
四 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉
五 不正競争防止法や意匠法等、関連する多角的リスクの診断
7 まとめ:適正な通関と知的財産管理こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスにおける商標権侵害と損害賠償額の算定について、最新の裁判例を交えて解説いたしました。ECサイト等を通じて誰もが輸入者になれる時代だからこそ、その背後にある法的な義務と責任を正確に理解しておく必要があります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入代行業者の薬機法違反への対応
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において近年トラブルが増加している輸入代行と薬機法の関係について、最新の裁判例を基に詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。副業や新規事業として化粧品等の輸入を検討されている方にとって、非常に重要なリスク管理の視点が示されています。
【相談者】
都内でECサイトを運営し、海外製の除菌グッズや化粧品の販売を計画しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、韓国のメーカーからアルコール配合のハンドジェルを大量に輸入し、日本国内で販売することを計画いたしました。当社は化粧品製造販売業の許可を持っていないため、当該許可を有する輸入代行業者であるY社に対し、薬機法に基づく適正な輸入手続きとラベル貼り、成分チェック等を委託いたしました。しかし、実際に届いた製品のラベルには「強力除菌」という薬機法上、化粧品では認められない効能が表示されており、保健所からの指導を恐れた卸売先から全ての注文がキャンセルされてしまいました。さらに、事後的な調査で、ラベルに記載されたアルコール濃度が実際の数値より低いことも判明いたしました。
B氏は、輸入代行業者が薬機法上の義務を怠ったために多大な損害を被ったと考え、Y社に対して損害賠償を請求したいと考えています。一方で、輸入代行業者は「薬機法は行政上の取り締まり法規であり、業者間の契約トラブルにおいて直ちに不法行為責任を負うものではない」と主張し、責任を認めてくれません。このような場合、法的にどのような請求が可能なのでしょうか。また、将来的にこのようなトラブルを回避するためには、どのような体制を構築すべきでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、近年のEC市場の拡大に伴い、非常に多く見受けられます。輸入や輸出に関わる個人、法人は増加傾向にありますが、その実務には高度な専門性と法規制の理解が不可欠です。本日は、まさにこのようなトラブルが争点となった東京地判令和4年9月30日の事例をご紹介し、輸入実務における法的責任の所在について掘り下げていきます。
1 事案の概要:輸入代行とラベル表示を巡る紛争
本件は、海外製品を日本市場へ導入する際の「輸入代行」というスキームにおいて、委託者と受託者の間で生じた法的責任の範囲が問われた事案です。
(1)登場人物と取引の構造
原告であるXは、海外の企業Aからアルコールジェル製品を購入いたしました。しかし、日本国内で化粧品として販売するためには、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づき、化粧品製造販売業者としての許可が必要です。そこでXは、当該許可を有する被告Yを輸入代行業者として選定し、製品を化粧品として輸入する業務を委託いたしました。Yは、輸入申告や国内向けのラベル作成、貼付といった実務を担当する立場にありました。
(2)発覚した問題点
輸入・販売が開始された後、以下の二つの重大な事実が発覚いたしました。
一 同製品には「除菌」と表示されたラベルが添付されていましたが、薬機法上、化粧品として届け出た製品に「除菌」という医薬部外品や医薬品を連想させる表示をすることは、標榜可能な効能効果の範囲を逸脱しており違法であること。
二 製品のラベルに表示されたアルコール濃度よりも、実際の成分分析結果による濃度が低いことが発覚したこと。
(3)訴訟に至る経緯
Xは、これらの問題によって販売予定であった顧客からのキャンセルや値引き要求、在庫の滞留等の損害を被ったと主張いたしました。その法的構成として、輸入代行業者であるYが、薬機法上の義務及び民法上の信義則上の注意義務に違反したと主張し、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求いたしました。
2 裁判所の判断:取締法規と私法上の責任の峻別
東京地方裁判所は、薬機法という公法上の規制が、私人間(業者間)の不法行為責任を直ちに基礎付けるものになるかという点について、極めて慎重かつ明快な判断を下しました。
(1)薬機法の性格と行為義務の否定
裁判所はまず、薬機法という法律の目的について言及いたしました。
「薬機法はあくまで取締法規上の行為規範であって、直ちに不法行為法上の行為義務ないし注意義務を意味するものではない。したがって、薬機法上の義務違反が、直ちに医薬品等を購入した業者に対する不法行為法上の行為義務違反となるものではないというべきである。」
これは、薬機法が医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保を通じて「保健衛生の向上」を図ることを目的とするものであり、特定の取引相手の経済的利益を保護することを直接の目的としていないことを示しています。
(2)侵害された利益の性質と瑕疵の程度
次に、Xが主張する損害(被侵害利益)の内容について、以下のように判示いたしました。
「本件商品の瑕疵の内容を見ると、法令上許されない除菌という効能の表示がなされた、あるいはアルコール濃度が実際の数値よりも高い表示がなされたということにとどまり、それを使用する者に保健衛生上の危害を及ぼすような、基本的な安全性を欠くものでもない。その瑕疵の程度は軽微であるうえ、Xの主張する被侵害利益は、結局のところ、法令上あるいは品質上の瑕疵のない商品の引渡しを受ける権利その他の契約上の利益にすぎないのであって、薬機法が想定する保護法益ではない。」
(3)結論としての不法行為責任の否定
以上の検討から、裁判所は、Xの主張するYによる薬機法上の義務違反行為は、それ自体としても、あるいは信義則上の義務違反としても、不法行為責任を基礎付けるものとは認められないと結論付け、Xの請求を棄却いたしました。
3 輸入実務における法的責任の比較と検討
本判決は、輸入代行業者を利用する側にとって、非常に厳しい現実を突きつけるものとなりました。薬機法という強力な規制が存在していても、その違反が直ちに賠償責任に結びつくわけではないからです。ここで、輸入代行における各当事者の役割と、法的に問われやすい責任の範囲を整理した比較表を提示いたします。
【輸入実務における当事者の役割と法的責任一覧表】
区分|委託者(B氏・X)の役割と責任|受託者(輸入代行業者Y)の役割と責任
--------|----------------|----------------
薬機法上の地位|実質的な販売主体・企画者|製造販売業者としての法的名義人
主な義務|製品情報の提供・仕入先選定|GQP・GVPの遵守、成分確認
表示責任|広告表現の最終的な管理|法定ラベルの正確な記載
不法行為責任|被害者への賠償責任を負い得る|健康被害がない限り、業者間では限定的
契約責任|代金支払、検収義務|善良なる管理者の注意義務
留意すべき点|代行業者の「名義」に依存するリスク|行政処分(業務停止等)のリスク
この表から分かる通り、輸入代行業者は行政(厚労省や都道府県)に対しては重い責任を負いますが、委託者との関係においては、契約書に具体的な義務内容が明記されていない限り、不法行為による追及は困難であるという実態が浮かび上がります。
4 薬機法等の他法令が関わる輸入取引の落とし穴
輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる習慣や法規制が存在します。本件のように化粧品や医薬部外品が関わる場合、特に以下の点に注意が必要です。
(一)取締法規と私法の壁
本判決が示した通り、薬機法違反=不法行為(損害賠償)とはなりません。これは食品衛生法や植物防疫法、家畜伝染病予防法といった他の輸入規制法規についても同様のことが言えます。行政上の罰則があることと、民事上の賠償ができることは別次元の問題です。
(二)成分表示とアルコール濃度の乖離
近年、新型コロナウイルスの影響でアルコール製剤の輸入が急増いたしましたが、海外メーカーの成分分析表(COA)が必ずしも正確ではないケースが散見されます。輸入代行業者がどこまで詳細な検査を行う義務を負うかは、委託契約の内容によって決まりますが、単なる形式的なチェックに留まる契約形態では、本件のようなトラブルを防ぐことはできません。
(三)化粧品における除菌表示の禁止
化粧品としての届け出では「手指を清潔にする」といった表現は可能ですが、殺菌や除菌といった医薬部外品的な効能を謳うことはできません。これを代行業者が看過したとしても、それによる販売機会の喪失を不法行為として追及することは法的に高いハードルがあります。
5 トラブルを回避するための契約実務とリスク管理
輸出や輸入のトラブルを回避するためには、通常の売買と同じイメージをもち対応を行うと思わぬ部分で足元をすくわれてしまうリスクがあります。本判決の教訓を踏まえ、どのようにすればトラブルを回避し、万が一の際に責任を追及できるかを事前に把握しておくことが非常に重要です。
(1)業務委託契約書における詳細な義務規定
不法行為での追及が難しい以上、契約(債務不履行責任)に基づく追及ができるよう、契約書を精緻化する必要があります。
一 「薬機法等の関連法令を遵守し、適正なラベルを作成する義務」を明記する。
二 「ラベル表示内容と実態に乖離があった場合、それによる販売中止損害を賠償する」旨の特約を設ける。
三 成分分析の頻度や方法、不備があった場合の検収不合格の基準を具体化する。
(2)製造販売業者の選定とデューデリジェンス
単に許可を持っているというだけでなく、過去に行政指導を受けていないか、専門の総括製造販売責任者が適切に配置されているかを確認することが不可欠です。輸入代行業者は、いわば法的な「門番」の役割を果たすため、その信頼性が事業全体の成否を左右いたします。
(3)他法令の網羅的なチェック
輸出入には外為法(外国為替及び外国貿易法)や関税法も深く関わります。特にリスト規制やキャッチオール規制に該当する物品でないか、あるいは輸入時に他法令の証明が必要な品目ではないかを、取引開始前に多角的に検討しなければなりません。
6 専門家によるセカンドオピニオンと法的防御
自社の輸出や輸入に関するフローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて専門家にセカンドオピニオンを求める等、万全の態勢をトラブル発生前に構築しておくことが重要です。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。特に薬機法や食品衛生法が絡む複雑な輸入スキームにおいて、どのような契約関係を構築すべきか、また事後的な調査においてどのように当局や相手方と対峙すべきかについて、専門的な見地からアドバイスを提示いたします。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 輸入代行契約書、売買契約書の作成及びリーガルチェック
二 薬機法、景品表示法等に抵触しないための表示・広告監修
三 税関事後調査、保健所等の行政調査に対する同行及び対応支援
四 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求、交渉、訴訟代理
五 関税評価(課税価格)の適正性診断、事前教示制度の活用
7 まとめ:適正な通関と契約こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入代行業者を巡る最新の裁判例に基づき、薬機法違反と私法上の責任の境界について解説いたしました。B氏のようなケースにおいて、不法行為責任の追及が難しいという司法の判断は、輸入者側に「自ら契約をコントロールする」という高い自覚を求めるものです。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
リスト規制と該非判定について
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、日本の輸出管理制度の根幹をなすリスト規制と、その適正な運用に不可欠な該非判定について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術や製品を海外に展開しようとする企業様にとって、避けては通れない重要な局面が示されています。
【相談者】
都内で産業用ドローン及び高精度センサーの開発販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社はこの度、自社で独自開発した測量用ドローン及びその制御ソフトウェアを、東南アジアのインフラ建設プロジェクト向けに輸出する契約を締結いたしました。当該ドローンは市販品よりも長時間の飛行が可能で、精度の高いGPSユニットを搭載しております。B氏は、民生用の建設資材として輸出するものであるため、軍事転用の意図はなく、特段の制限はないものと考えておりました。しかし、物流業者から、当該製品が外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)上のリスト規制に該当する可能性があるため、該非判定書を提出するように求められました。B氏は、自社の製品がなぜ規制の対象になり得るのか、また、もし無許可で輸出してしまった場合にどのような法的責任を負うことになるのかを正確に把握したいと考えております。特に、貨物だけでなく技術(ソフトウェア)の提供も含まれるため、複雑な法令の解釈について専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、日本の優れた技術力を保有する中小企業において、近年非常に多く見受けられます。様々な技術革新によって、現代社会は人やモノの行き来がこれまでになく自由に行われている状況です。しかしながら、そのような中でも国際平和及び安全の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を抑制するための国際的な輸出管理レジームが存在します。日本国内においても、これらの国際的な合意を踏まえて独自の安全保障貿易管理制度を設けております。本日は、その中心的な制度であるリスト規制について解説いたします。
1 リスト規制の定義と法的根拠について
リスト規制とは、国際的な合意を踏まえ、武器並びに大量破壊兵器等(核兵器、化学兵器、生物兵器、ミサイル)及び通常兵器の開発、製造、使用等に用いられるおそれの高いものを法令等でリスト化して、そのリストに該当する貨物や技術を輸出や提供する場合には、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。この制度は、特定の国や地域に対する経済制裁とは異なり、貨物のスペック(機能や仕様)に注目して一律に網をかける点に特徴があります。
リスト規制の直接的な法的根拠は、外為法第四十八条第一項にあります。
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
この規定を受けて、具体的にどのような貨物が規制されるかを定めているのが、輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)です。
(1)規制対象貨物の分類
規制対象となる貨物は、輸出令別表第一の一の項から十五の項までに体系的に分類されています。
一の項:核兵器、核燃料物質、原子炉等
二の項:化学製剤の原料、細菌製剤の調製装置等
三の項:ロケット、無人航空機、それらの製造装置等
四の項:火薬、爆薬、それらの製造装置等
五の項から十五の項:先端材料、材料加工工作機械、エレクトロニクス、電子計算機、通信、センサー、航法装置、海洋関連、航空宇宙関連等の汎用品(通常兵器の開発等に転用可能なもの)
B氏のA社が扱っているドローンは三の項(無人航空機)に、高精度センサーは七の項(航法装置)や十の項(航空宇宙関連)に該当する可能性を慎重に検討しなければなりません。
(2)規制対象技術の分類
貨物(モノ)の輸出だけでなく、技術(ノウハウやソフトウェア)の提供も同様に規制の対象となります。その根拠は外為法第二十五条第一項にあります。
(外国為替及び外国貿易法第二十五条第一項)
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の技術を特定の外国において提供し、又は特定の外国の居住者に提供することを目的とする取引をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
この具体的なリストは、外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の一の項から十五の項に規定されています。A社のドローン制御ソフトウェアは、この外為令別表の規定に抵触する可能性があるため、貨物と併せて技術提供の許可についても確認が必要となります。
(3)詳細なスペックを規定する省令
輸出令や外為令の別表は項目名のみを掲げているため、実際にどの程度の性能(解像度や処理速度、周波数など)を超えると規制対象になるかについては、経済産業省令である「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(以下、貨物等省令といいます。)において極めて詳細に規定されています。実務上は、この貨物等省令の数値を一つずつ自社の製品仕様と照らし合わせる作業が不可欠となります。
2 該非判定の重要性と実務上の進め方について
実務上は、リスト規制に該当する貨物や技術に該当するかどうかを判断するために、該非判定が非常に重要となります。該非判定とは、自社の貨物や技術が、前述した輸出令別表第一や外為令別表の各項、及び貨物等省令で定められたスペックに合致するかどうかを客観的に判定する作業を指します。
(1)慎重かつ厳格な判定の必要性
この該非判定を慎重にかつ厳格に行わずに間違った対応を取ってしまった場合には、無許可輸出等の違法行為に該当することになってしまいますので十分ご注意ください。たとえ意図的ではなく、単なる過失や見落としであったとしても、外為法違反としての法的責任を免れることはできません。税関での輸出申告の際、該非判定書が不備であれば、輸出は許可されず、最悪の場合、貨物の差し押さえや調査の対象となります。
(2)仕入元等との連携
自社で全ての仕様を把握できない場合、該非判定を行う際には、仕入元や部品メーカー等にも協力してもらう必要があります。製品の製造、購入の段階から適切な取り扱いを行うことが重要です。部品メーカーから「項目別対照表」や「パラメータシート」と呼ばれる資料を取り寄せ、自社製品としての最終的な該非を決定するプロセスを確立すべきです。
(3)該非判定の具体的な流れ
該非判定を進める際の標準的なフローを以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けてそのまま実務のチェックリストとしてご活用いただけます。
【該非判定実務フロー図】
ステップ|実施事項|確認すべき主な資料
--------|----------------|------------
一 品目特定|輸出する貨物や提供する技術を特定する|図面、カタログ、仕様書
二 項番抽出|輸出令別表第一、外為令別表の該当項番を絞り込む|経済産業省発行の解釈指針
三 スペック比較|貨物等省令の数値基準と製品スペックを対照する|検査成績書、技術データ
四 判定書作成|判定結果を「該当」または「非該当」として書面化する|項目別対照表、パラメータシート
五 承認・保存|社内の責任者が内容を承認し、法定期間保存する|社内管理規定(ICP)
B氏の事例では、ドローンの最大飛行距離、最大離陸重量、自律飛行能力の有無、及びセンサーの測定精度を、貨物等省令の三の項や七の項の基準値と厳密に比較しなければなりません。一つでも基準値を超えていれば該当となります。
3 みなし輸出管理(技術提供管理)の最新動向について
リスト規制において近年特に重要性を増しているのが、みなし輸出管理です。これは、物理的に海外へ貨物を送る場合だけでなく、日本国内において非居住者(外国人留学生や短期滞在の研究者等)に技術を提供する場合も、海外への輸出と同様に許可を必要とする制度です。
(1)特定類型制度の導入
二〇二二年五月からは、居住者であっても外国の政府や企業から強い影響を受けている者(特定類型該当者)に技術を提供する場合にも、経済産業大臣の許可が必要となりました。A社が日本国内で外国籍の技術者を雇用している場合や、海外企業との共同研究を行っている場合には、このみなし輸出の規制が適用される可能性があり、貨物の輸出とは別の次元での管理が求められます。
(2)ソフトウェアの提供形態
ソフトウェアの提供については、CD-ROM等の物理的なメディア(キャリアメディア)による輸出だけでなく、インターネットを通じたダウンロード、電子メールへの添付、さらにはクラウドサーバーへのアップロードも、外為法上の役務取引として規制の対象となります。
4 法令違反に伴う深刻なペナルティと企業リスク
事業として輸出や輸入に従事している以上は、知らなかったでは済まされませんので、自社の事業に関する輸出や輸入に関連した法規制については十分注意する必要があります。万が一、リスト規制に違反して無許可で輸出を行った場合には、以下のような極めて厳しい罰則が科されることとなります。
(1)刑事罰の内容
個人に対しては懲役または罰金、法人に対しては極めて高額な罰金が科されます。
第四十八条第一項の規定による許可を受けないで、輸出令別表第一の一の項から十五の項までの中の特定の貨物を輸出した者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。
また、対象となる貨物の価格の五倍が二千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金に処せられるという規定もあり、巨額の罰金が企業の経営を直接圧迫することになります。
(2)行政処分の衝撃
経済産業大臣により、一定期間(最長で三年間)の輸出禁止処分や技術提供の禁止処分が下されることがあります。これは企業にとって営業機会の完全な喪失を意味し、海外の顧客との信頼関係は完全に崩壊いたします。貿易に従事する企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に等しい重大な打撃です。
(3)社会的信用の失墜
法令違反の事実は経済産業省のホームページ等で公表されます。これにより、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。コンプライアンスを重視する現代のグローバル市場において、一度ついた不名誉なレッテルを剥がすことは極めて困難です。
5 輸入業務における留意点と税関事後調査
日本は貿易大国ですが、輸出のみならず輸入に関しても様々な法規制が存在します。輸入に関しては、基本的には申告納税方式が採用されておりますが、輸入後には輸入事後調査等が存在しておりますので、安易に間違った申告をすることは絶対に避ける必要があります。
(1)適正な課税価格の申告
輸入申告価格を意図的に低く申告するアンダーバリューなどは、明確な脱税に該当いたします。関税法上、不正な手段で関税を免れた場合には刑事罰が科されます。
偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。
(2)他法令の確認義務
品目によっては関税法以外の法律(他法令)による規制を受ける場合があります。例えば、食品衛生法、家畜伝染病予防法、薬機法などの許可や検査が必要であり、これらを怠って輸入することは禁じられています。
(3)事後調査への対応
税関の事後調査では、過去数年分の取引書類や会計帳簿が精査されます。輸出管理と同様に、輸入業務においても法令遵守の証拠を残しておくことが、自社を守る唯一の手段となります。
6 専門家によるリーガルチェックと体制構築の重要性
これらの法規制は変更になることも多いので、定期的に自社に関連する法規制を確認いただく必要があることは改めてご留意ください。国際情勢の変化に伴い、規制対象品目や仕向地の制限は頻繁にアップデートされます。なかなか自社で法規制を確認することが難しい場合には、適宜専門家を含めてご相談等いただくことを強くお勧めいたします。
当事務所では、輸出入に関するコンプライアンス体制(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定支援を行っております。
【内部輸出管理体制の評価指標一覧】
評価カテゴリー|確認すべき具体的な内容|管理上のポイント
--------|----------------|------------
組織体制|輸出管理の責任者が任命されているか|社長直轄の体制を推奨
該非判定|技術者と法務担当者が連携しているか|ダブルチェックの徹底
取引審査|顧客が「需要者リスト」に載っていないか|エンドユースの確認
出荷管理|税関への申告前に許可証を確認しているか|誤出荷防止のロック機能
監査・教育|定期的な社内監査と社員教育があるか|全社的な意識の醸成
保存管理|関係書類を法定期間保存しているか|七年間の保存義務の遵守
7 弁護士への相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、現場の実態に即した具体的なアドバイスを提示することが可能です。
【当事務所が提供できる主なサポート内容】
一 A社製品の精緻な該非判定支援および判定書のリーガルチェック
二 経済産業省への個別輸出許可申請、役務取引許可申請の代理および折衝
三 社内輸出管理マニュアル(ICP)の策定、社内教育研修の講師派遣
四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査の代行
五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い
六 外為法や関税法に関する最新の法令改正情報の提供および実務への反映支援
輸出入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。事前教示制度の利用や、もし万が一法令違反の疑いを指摘された場合の当局対応についても、迅速かつ適切にサポートいたします。
まとめ:適正な輸出入管理がグローバルビジネスを安定させる唯一の道
安全保障貿易管理は、一企業の利益を超えて、日本及び国際社会全体の安全を守るための重大な責務です。B氏のようなケースにおいても、事前に対象製品の該非判定を行い、必要であれば適切な輸出許可を得ることで、合法かつ安全に海外展開を進めることができます。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
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有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
主要な国際輸出管理レジーム
はじめに:相談事例のご紹介
本日は、国際的な平和及び安全を維持するために設立された国際輸出管理レジームについて、その具体的な内容と法的な枠組みを解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術を保有する企業様が直面しやすい、実務的な課題が示されています。
【相談者】
神奈川県内で産業用高精度センサー及び関連部品の製造販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は、自社で開発した特殊な加速度センサー及びその製造技術を、海外の協力企業へ輸出することを計画しております。このセンサーは主に土木建設現場での計測に使用されるものですが、取引先から国際的な輸出管理規定、特にワッセナー・アレンジメントやMTCRといったレジームへの抵触がないかを確認するよう求められました。B氏は、軍事目的の製品ではないため、これらの国際的な枠組みが自社のビジネスにどのような影響を与えるのか、また、もし該当した場合にどのような法的手続きが必要になるのかを正確に把握したいと考えています。特に、国際的なレジームの定義と日本国内の輸出貿易管理令との関係性について、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。このような事例は、意図せず軍事転用可能な技術や製品を保有している企業において非常に多く見受けられます。現代社会は技術革新によりモノの行き来が自由ですが、国際平和及び安全の観点から、国際的な輸出管理レジームが存在します。本日は、主要な4つのレジームの内容に絞って詳しく解説いたします。
1 NSG(原子力供給国グループ)の目的と詳細
NSG(Nuclear Suppliers Group)は、核兵器の製造等に使用される可能性のある原材料や技術等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1974年のインドによる核実験を契機として、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を補完する目的で、1975年に設立されました。このレジームは、核兵器の拡散につながる可能性のある取引を防止するため、供給国側が輸出管理の指針を共有し、協調して規制を行うことを目指しています。
(1)規制対象の二段構え
NSGのガイドラインは、大きく分けて二つのパートで構成されています。
第一部(指針パート1)は、原子力専用品を対象としたもので、核原料物質、核燃料物質、原子炉及びその関連設備、重水、再処理施設などが含まれます。これらは「トリガーリスト」と呼ばれ、これらを輸出する際には、受領国による国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れが条件となります。
第二部(指針パート2)は、原子力目的以外にも使用可能な汎用品(デュアルユース品)を対象としています。例えば、高強度のアルミニウム合金、炭素繊維、数値制御工作機械、周波数変換器などがこれに該当します。これらは、通常の産業用途であっても、核兵器開発に転用されるリスクがあるため、厳格な審査が必要となります。
(2)日本国内法における位置付け
日本はNSGの創設当初からの参加国であり、その合意内容は国内法である輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)別表第一の一の項、及び外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の二の項に反映されています。
(輸出貿易管理令別表第一の一の項)
一 核兵器、核燃料物質の処理若しくは核兵器の製造のために利用される核物質若しくは核原料物質若しくは原子炉若しくはこれらの部分品若しくは附属装置又は核燃料物質の分離若しくは再生若しくは重水の製造のために利用される装置若しくはその部分品であつて、経済産業省令で定めるもの。
A社の製品が、もし核関連施設での精密計測に使用されるような極めて特殊なスペックを有している場合、このNSGの合意に基づく規制対象となる可能性があります。
2 オーストラリア・グループ(AG)の目的と詳細
オーストラリア・グループ(Australia Group)は、化学・生物兵器の原材料や技術等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1980年代のイラン・イラク戦争において化学兵器が使用されたことを受け、1985年にオーストラリアの提唱により設立されました。このレジームは、化学剤の原料となる化学物質、生物兵器の基となる病原体、及びそれらの製造に使用される設備や技術が、テロリストや懸念国に渡ることを防ぐことを目的としています。
(1)広範な規制対象
AGの規制リストは多岐にわたります。化学分野では、サリンやVXガスなどの神経剤、マスタードガスなどのびらん剤の原料となる前駆体となる化学物質が指定されています。また、これらを製造するための耐食性のある反応器、貯蔵タンク、熱交換器なども対象です。生物分野では、炭疽菌、エボラウイルスなどの病原体、リシンなどの毒素に加え、これらを培養するための発酵槽、凍結乾燥装置、遠心分離機などが含まれます。さらに、防護マスクや検知システム、関連するソフトウェアや製造ノウハウなどの技術提供も規制の対象となっています。
(2)日本国内法における位置付け
日本はAGの参加国として、輸出令別表第一の二の項、及び外為令別表の三の項・三の二の項において規制を具体化しています。
(輸出貿易管理令別表第一の二の項)
二 軍用の化学製剤の原料となる物質若しくは軍用の細菌製剤の調製に用いられる装置若しくはその部分品若しくは軍用の細菌製剤の散布に用いられる装置若しくはその部分品又は軍用の化学製剤若しくは軍用の細菌製剤と同等の効力を有する物質(以下この項において「化学製剤等」という。)の原料となる物質若しくは化学製剤等の調製に用いられる装置若しくはその部分品若しくは化学製剤等の散布に用いられる装置若しくはその部分品であつて、経済産業省令で定めるもの。
化学プラントや製薬設備、あるいは高度なクリーンルーム技術を保有する企業にとって、AGの規制内容を把握しておくことは必須のコンプライアンス事項となります。
3 MTCR(ミサイル技術管理レジーム)の目的と詳細
MTCR(Missile Technology Control Regime)は、大量破壊兵器の運搬に寄与できるミサイルやその他の無人航空機、及びその部分品や製造装置等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1987年にG7諸国により設立されました。このレジームの最大の特徴は、大量破壊兵器そのものではなく、その運搬手段を封じ込めることに主眼を置いている点にあります。
(1)カテゴリーによる区分
MTCRは、規制対象をカテゴリー一とカテゴリー二に分けています。カテゴリー一は、完成したミサイルシステムや無人航空機システム、及びそれらの主要なサブシステム(エンジン、誘導装置等)を指します。特に射程300キロメートル以上、かつ積載量500キログラム以上の能力を持つシステムについては、輸出が極めて厳格に制限されており、原則として輸出不許可(強い拒否の推定)の対象となります。カテゴリー二は、これらに関連する広範な部品や製造装置、推進剤、計測機器などが含まれます。近年では、自律飛行が可能なドローンの技術進歩が著しいため、民生用ドローンであっても一定の積載能力や飛行性能を持つ場合は、このMTCRのガイドラインに抵触する可能性が高まっています。
(2)日本国内法における位置付け
日本はMTCRの主要な参加国であり、輸出令別表第一の三の項、及び外為令別表の四の項に関連規定を置いています。
(輸出貿易管理令別表第一の三の項)
三 ロケット、無人航空機若しくはこれらに類する装置であつて、経済産業省令で定めるもの又はこれらの製造、試験若しくは評価に用いられる装置(中略)
A社の加速度センサーが、ミサイルの誘導装置や姿勢制御に使用可能なスペックを有している場合、このMTCRの合意に基づく規制対象となる可能性が非常に高いと考えられます。特に、加速度の測定範囲や振動に対する耐久性が軍事用基準に達している場合は、慎重な検討が必要です。
4 ワッセナー・アレンジメント(WA)の目的と詳細
ワッセナー・アレンジメント(Wassenaer Arrangement)は、地域の安定を損なう通常兵器の過剰な蓄積を防止する目的で、通常兵器及びその製造に関連する汎用品(デュアルユース品)や技術の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1996年にオランダのワッセナーで設立されました。冷戦期の東側諸国への輸出統制であったCOCOMの後継として、より広範な地域紛争の防止を完全に目的に掲げています。
(1)リストの構成と9つのカテゴリー
WAの規制リストは、通常兵器リストと汎用品リストの二本立てとなっています。特に汎用品リストは、現代の産業技術のほぼ全域をカバーしており、以下の9つのカテゴリーに分類されています。
カテゴリー1:特殊材料及び関連装置(フッ素化合物、潤滑剤、セラミック等)
カテゴリー2:材料加工(数値制御工作機械、ロボット、スピニング加工機等)
カテゴリー3:エレクトロニクス(半導体、集積回路、マイクロ波部品等)
カテゴリー4:電子計算機(高性能コンピュータ、関連ソフトウェア等)
カテゴリー5:通信・情報保護(通信設備、暗号化装置、サイバーセキュリティ関連等)
カテゴリー6:センサー及びレーザー(光学センサー、水中探知装置、高性能カメラ等)
カテゴリー7:航法及び航空エレクトロニクス(ジャイロ、加速度計、航法システム等)
カテゴリー8:海洋関連(潜水艇、水中用テレビカメラ、推進装置等)
カテゴリー9:航空宇宙及び推進装置(ガスタービンエンジン、人工衛星、関連部品等)
これらのカテゴリーには、最先端の技術から、一般的な産業で広く使われる高機能製品までが含まれています。WAは特定の国を対象とするものではありませんが、参加国間での情報交換を通じて、地域の安定を乱すような過剰な輸出を抑制しています。
(2)日本国内法における位置付け
日本はWAの極めて活動的な参加国であり、輸出令別表第一の五の項から十五の項、及び外為令別表の六の項から十五の項に膨大な規定が存在します。
(輸出貿易管理令別表第一の七の項)
七 航法装置、ジャイロスコープ、加速度計若しくはこれらの部分品であつて、経済産業省令で定めるもの又はこれらの製造若しくは試験に用いられる装置であつて、経済産業省令で定めるもの。
A社が製造している高精度センサーは、まさにこのWAカテゴリー7(輸出令七の項)に直結する製品です。性能指標が省令で定める数値を上回る場合、リスト規制対象として経済産業大臣の輸出許可が必須となります。
5 国際輸出管理レジームの比較及び実務的確認事項
主要な国際輸出管理レジームについて、実務上で特に重要となるポイントを比較表にまとめました。この表はワード等の文書にコピーしてそのままご活用いただける形式となっております。
主要国際輸出管理レジームの機能比較表
レジーム名称|主たる規制対象物|設立背景と目的|国内法(輸出令)との対応
--------|----------------|----------------|------------
NSG|原子力専用品及び原子力汎用品|核兵器の不拡散、核実験の防止|別表第一の一の項
AG|化学・生物兵器原料及び製造設備|化学・生物兵器の拡散防止|別表第一の二の項
MTCR|ミサイル、無人航空機、関連部品|大量破壊兵器の運搬手段の抑制|別表第一の三の項
WA|通常兵器及び産業用汎用品|通常兵器の過剰蓄積、地域安定|別表第一の五から十五の項
6 国際レジームの合意を遵守するための具体的な実務手順
以上の主要な国際輸出管理レジームについて、日本は全てに参加しておりますが、全く参加していない国、一部にのみ参加している国等も多数存在しております。したがって、世界で共通のレジームとなってまではいないというのが実情です。このため、企業としては、以下のステップを確実に踏む必要があります。
(1)該否判定の実施
自社の製品のスペック(性能・機能)を、輸出令別表第一及び関連する貨物等省令の詳細な数値と照合いたします。例えば、加速度センサーであれば、バイアス安定性やスケールファクター誤差といった専門的な数値が基準値を超えていないかを確認します。判定の結果、リスト規制に該当するか否かを該否判定書として書面に残すことが、法的な証明の第一歩となります。
(2)取引審査の実施
輸出先(輸入者)や最終需要者が、国際的な懸念活動に従事していないかを確認します。経済産業省が公表している外国ユーザーリストとの照合は欠かせません。このリストには、上記4つのレジームが監視対象としている懸念組織が数多く掲載されています。
(3)用途確認の実施
製品が本来の用途(土木建設等)以外に使用される恐れがないかを確認します。これをエンドユース確認と呼びます。特に第三国を経由する商流の場合、最終的な使い道が不透明になりやすいため、顧客からエンドユース証明書を取得するなどの対応が求められます。
(4)輸出許可申請
リスト規制に該当する場合、あるいは用途や需要者に懸念がある場合には、経済産業大臣に対して輸出許可の申請を行います。この際、製品の技術的特徴や取引の安全性を証明する膨大な書類が必要となります。
(5)税関への証明
最終的に税関へ輸出申告を行う際、必要な許可を得ていることを証明しなければなりません。他法令の許可が必要な貨物については、その確認がなされない限り、関税法上の輸出の許可は下りません。
(関税法第七十条 証明又は確認)
他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条(輸出又は輸入の許可)の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。
6 まとめ:適正な輸出管理がグローバルビジネスの唯一の生存戦略
本日は、国際輸出管理レジームの根幹をなす4つの枠組みと、それに基づく日本国内の外為法、輸出令の仕組みについて詳しく解説いたしました。正しい法令知識に基づき、透明性の高い取引体制を構築すること。それが、税関や経済産業省からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
前払金と輸入申告価格の考え方について
はじめに:具体的な相談事例の紹介
本日は、輸入取引において頻繁に活用される前払金、いわゆるデポジットや頭金と、輸入申告価格(課税価格)の決定に関する重要な論点について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
千葉県内で海外製のスポーツ用品の輸入販売を営む株式会社サクセス 代表取締役 佐藤氏
【相談内容】
「当社は3年前から、アメリカのメーカーであるエー社から、新型のトレーニング機器を輸入しています。取引の形態としては、まず契約時に代金の7割にあたる100万円を「前払金(デポジット)」として送金し、残りの3割の30万円については、製品が完成して日本へ発送される際に支払うことになっています。
製品が発送される際、エー社からは残金の「30万円」が記載されたインボイス(仕入書)が送られてきます。佐藤氏は、通関業者に対してこの30万円のインボイスを提出し、そのまま30万円を輸入申告価格として申告してきました。
ところが先日、税関から事後調査の通知が届きました。調査官からは、この前払金100万円が申告価格に含まれていないのではないかという指摘を受けています。佐藤氏は、前払金はあくまで予約金のようなもので、最終的な商品の請求書(インボイス)の金額こそが申告価格であると考えていました。もしこれが過少申告と判断された場合、過去3年分に遡って追徴課税を受けるのでしょうか。また、法的に正しい申告価格の算出方法を教えてください。」
このような事例は、輸入実務に慣れていない企業において非常に多く見受けられます。輸入者は意図的な脱税のつもりはなくても、法的な理解不足から結果として過少申告となってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、専門的な知見に基づき、前払金が輸入申告価格に与える影響とその適切な処理方法を解説いたします。
1 前払金と輸入申告価格の基本的な考え方
輸入業を行う場合、売買代金の送金等に時間が掛かることから、一定額を前払金(デポジット等という場合もあります)として送金しておき、実際の売買代金に充当するという対応を取る場合も相当程度ございます。
例えば、前払金として100万円を送金しておいて、実際の商品価格が150万円である場合、取引の際には、前払金100万円を充当し、商品代金として50万円のみを新たに支払った場合、輸入申告価格としては、150万円と50万円のいずれとして取り扱う必要があるでしょうか。
結論から申し上げますと、適正な輸入申告価格としては、前払金を含めた総額である150万円をベースに考えることが必要となります。
関税定率法等の法令上は、「現実支払価格」といった専門的な用語がでてきます。なかなか理解が難しい面もありますが、要するに、輸入する商品のために買手側がいくら支出することになったのか、ということをベースに考えることになります。
実際に商品のために買手が支払った金額として、前払金100万円と残金の商品代金としての50万円の合計150万円となります。したがって、課税価格(輸入申告価格)はこの合計額となります。
インボイスに商品代金としていくらと記載されているかどうかということは、輸入申告価格を検討する際には重要な要素の一つとはなります。しかし、あくまでも要素の一つであり、インボイスにいくらと記載されているから輸入申告価格もインボイス上の価格と同じはずだということには必ずしもなりませんので、十分注意が必要です。
2 現実支払価格の定義と法的根拠
輸入申告価格(課税価格)を決定するための原則は、関税定率法第4条に規定されています。この条文は、輸入取引における「価格」とは何かを定義する極めて重要なものです。
第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。
さらに、この取引価格の基礎となる「現実支払価格」については、関税定率法基本通達において詳細に説明されています。
関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)
(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。
この「直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額」という文言が鍵となります。前払金は、輸入貨物の対価として「直接」あるいは「現実に」支払われた金額の一部であり、当然にこの総額に含まれるべきものです。残金の支払いの際、便宜上インボイスに未決済分のみが記載されていたとしても、法的な課税対象は商品の「対価としての総額」であるという点を忘れてはなりません。
3 前払金(デポジット)が関税評価に与える実務的影響
実務上、前払金が申告漏れとなる原因の多くは、書類の管理体制にあります。インボイスと送金記録の紐付けができていないことが、税関事後調査での指摘に直結します。
【前払金がある場合の申告価格算定フロー】
一 契約書(プロフォーマインボイス等)にて総額を確認する。
二 前払金の送金時期と金額を記録する。
三 最終インボイスに前払金が差し引かれた額が記載されている場合、その控除額を「加算」して申告する。
四 通関業者に対し、前払金の存在と総額を明確に伝える。
インボイス上に「Deposit Paid(支払い済みデポジット)」といった記載があれば、通関業者も気づくことができます。しかし、そのような記載がなく、単に「30万円」とだけ書かれたインボイスでは、通関業者はその裏にある100万円の前払金を把握することができません。最終的な納税責任は輸入者自身に帰属するため、正しい情報を開示する義務があります。
4 輸入者が活用すべき実務チェックリスト
以下に、前払金や加算要素の漏れを防ぐためのチェックリストを作成いたしました。社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【前払金および加算要素に関する法的適合性確認表】
確認項目|具体的な確認内容|
前払金の有無|契約時に内金やデポジットを送金していないか|
インボイスの総額|インボイス記載額は前払金差引後の金額ではないか|
送金記録の整合性|銀行の送金総額と輸入申告価格は一致しているか|
ライセンス料の支払|商標権等の対価を別途権利者に支払っていないか|
無償提供物品の有無|製造用の金型や原材料を無償で提供していないか|
仲介手数料の支払|売手と買手を仲介する者に報酬を支払っていないか|
5 輸入申告価格の算定を誤った場合のペナルティ
貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に詳細に規定されております。なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと追徴課税を含む様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。
無事に輸出入できているのだから問題ないだろうと考え、これらのルールを軽視することは非常に危険であり、中長期的に大きなしっぺ返しを受けるリスクが非常に高いと言わざるを得ません。
(1)過少申告加算税の賦課
事後調査により申告漏れが発覚した場合、不足税額に加えて過少申告加算税が課されます。
税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。
(2)重加算税の適用リスク
意図的に前払金を隠蔽し、安価なインボイスのみで申告を繰り返していたと判断された場合、さらに強力な重加算税が課されます。
事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。
(3)延滞税の徴収
本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息相当の延滞税が徴収されます。
6 ライセンス料やその他の加算要素に関する留意点
輸入申告価格の算定において、前払金以外にも注意すべき項目は多岐にわたります。特に「ライセンス料」は、税関が最も注視する項目の一つです。
例えば、輸入する貨物のライセンス料を輸出者側等に支払っている場合には、当該ライセンス料については、課税価格に加算しなければなりません。加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。
【ライセンス料(ロイヤリティ)が加算される条件】
一 当該輸入貨物に関連していること。
二 当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により支払われるものであること。
これらは、商品の仕入れ価格とは別の名目で支払われることが多いため、前払金と同様に申告漏れが発生しやすい項目です。他にも、輸入港までの運賃、保険料、仲介手数料、そして製造に関わる原材料や金型の無償提供費用(アシスト費用)などが挙げられます。
7 専門家による事前リーガルチェックの重要性
他にも、輸出入特有の規制は多数あります。可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。
最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を中長期的に円滑に進めることが可能となります。
【専門家によるチェックを受けるメリット】
一 適切な課税価格の算定根拠を構築できる点。
二 税関事後調査における否認リスクを最小限に抑えられる点。
三 不必要な追徴課税や過少申告加算税の支払いを回避できる点。
四 法令遵守体制を整えることで、税関からの信頼性を向上させられる点。
特に、新しい取引先と契約する際や、新しい商品カテゴリーを扱う際には、契約書の文言一つが将来の関税負担に大きく影響することがあります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。
弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる主なサポート】
一 輸入取引における現実支払価格の適正性診断。
二 前払金、ロイヤリティ、アシスト費用等の加算要素に関する法的整理。
三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉。
四 不当な課税処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
