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申告価格の修正申告をすべき場合・しない方がいい場合
輸入申告を行った後、「あの価格は正しかったのか?」、「ロイヤルティや無償供与を入れるべきだったのでは?」と不安になることもあるかと思います。
こうしたケースでは、修正申告(いわゆる自主的な申告訂正)を検討することになりますが、すべき場合と慎重に検討すべき場合があるため注意が必要です。
今回は、修正申告の判断基準と、実務上の対応ポイントについて解説いたします。
1 修正申告とは?
輸入申告後に申告内容に誤りがあったことが判明した場合、輸入者はその旨を税関に申告し、修正することができるとされています。
特に、課税価格や数量に誤りがあった場合に用いられる制度で、税関から指摘を受ける前に自ら訂正することで、加算税が軽減または免除される可能性があります。
2 修正申告をすべき典型的なケース
以下のような場合には、速やかに修正申告を行うことが推奨されます。
①課税価格にロイヤルティ、無償供与などの加算要素を含めていなかった
②インボイス価格の誤記や入力ミスがあった
③関税評価の基礎となる契約が事後的に変更された(値引き取消等)
④HSコードに誤りがあり、関税率が過小適用されていた
これらは明確なミスであり、事実関係が整理できる場合が多く、自主的な修正が有効です。
3 修正申告を慎重に検討すべきケース
一方で、以下のようなケースでは、即座に修正申告せず、専門的判断を要する場合があります。
①制度解釈に争いがある場合(例:ロイヤルティの加算該当性)
②FTA適用の有無について、原産地判断が微妙な場合
③税関との見解の相違があるまま調査中である
④間違いがあることは理解できるが、資料がそろっておらずどのような間違いか正確には把握できていない
4 修正申告の実務手続き
修正申告を行う際は、以下のような手順で対応します。
①関係書類(インボイス、契約書、支払記録等)を再確認
②修正内容を記載した申告書(修正申告書)を作成
③税関に提出し、追納すべき税額を計算・納付
④税関からの照会に備えて、説明文書を添付することが望ましい
修正申告は、制度上認められた重要なリスク回避手段です。
ただし、「すべき場合」と「慎重に検討すべき場合」があるため、内容の法的評価と実務的影響を見極めた上での判断が不可欠です。
当事務所では、修正申告の要否判断、税関との交渉支援、説明書作成、税務リスクの分析までトータルで対応しております。お困りの際は、ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
FTA/EPA活用の実務と原産地証明の落とし穴
輸入ビジネスにおいて、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を活用することで、関税の減免や関税フリーの恩恵を受けることができます。
しかし、制度の内容や証明方法を正しく理解していないと、原産地証明の不備などにより関税免除が無効となり、追徴課税の対象となるリスクもあります。
今回は、FTA/EPAの活用における実務のポイントと、原産地証明に関する注意点を解説いたします。
1 FTA/EPAとは?
FTAやEPAは、特定の国・地域間で締結される協定であり、協定対象国からの輸入品については、一定の条件を満たせば関税が減免またはゼロになる制度です。
2 原産地要件を満たさないと適用不可
関税の特恵を受けるためには、原産地要件を満たす必要があります。
これは、「その商品が本当に協定対象国で生産されたものかどうか」を示す要件であり、主に以下のような方式があります。
①完全生産品(該当国ですべて生産されたもの)
②原材料の一定割合が域内産であること(原産割合基準)
③関税分類の変更(CTCルール)
④加工工程の実質的変更(付加価値基準)
原産地要件は商品ごとに異なり、HSコードや協定内容に応じた確認が不可欠です。
3 原産地証明書の形式と注意点
協定により、原産地証明書の取得方法が異なります。
第三者証明方式、自己申告方式等、協定に基づいた証明書が必要となります。
記載ミス、期限切れ、不備があると特恵関税は適用されません。
4 税関調査での指摘事例
FTA/EPAを利用した輸入については、後日、税関の事後調査により次のような指摘を受けることがあります。
①証明書の内容と実際の商品仕様が一致していない
②原産地規則に照らして条件を満たしていない
③証明書の発行者が認定されていない(偽証明)
④製造工程の説明資料がなく、原産性を証明できない
これにより、追徴課税+過少申告加算税が発生する場合もあります。
5 実務対応のポイント
①協定ごとの適用要件・証明書式を事前に確認
②輸出者からの製造工程表・原材料構成の入手
③原産地証明書の写し・作成経緯を保存(5年間以上)
④自己申告方式の場合は、社内での原産地判定手順を文書化
⑤不明な点は、税関で事前確認を実施する
特に、初めてFTA/EPAを活用する場合は、専門家のレビューを受けることがリスク回避に有効です。
FTA/EPAを活用することで、関税コストを大幅に削減できますが、適用要件や原産地証明に対する理解不足は、却って追徴リスクを招くおそれがあります。
正確な制度理解と証明書の整備を通じて、安心して制度を活用しましょう。
当事務所では、FTA/EPAの活用支援、原産地証明のレビュー、税関対応まで一括で対応可能です。ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入販売におけるPL法リスクと回避策
海外から仕入れた商品を日本国内で販売する場合、たとえ製造していなくても、輸入者が製造物責任(PL)を問われる可能性があることをご存じでしょうか?
製造物責任法(いわゆる「PL法」)により、製造者だけでなく、輸入者や販売者にも法的責任が及ぶケースがあるため、注意が必要です。
今回は、輸入販売におけるPL法のリスクと、それに対する予防策をわかりやすく解説いたします。
1 PL法とは?
製造物責任法は、欠陥のある製品により消費者が生命・身体・財産に被害を受けた場合に、製造業者等が損害賠償責任を負うことを定めた法律です。
「過失の有無にかかわらず責任が発生する」という点が、通常の債務不履行や不法行為責任と異なる特徴です。
2 輸入者にも責任が及ぶ?
PL法第2条3号では、「製造業者等」に以下のような者が含まれると規定されています。
①製造業者・加工業者
②製造業者として商品に氏名・商号・商標等を表示した者
③輸入した製造物を業として譲渡する者
つまり、輸入販売を行う企業は、外国の製造者に代わって責任を負う立場にあるのです。
被害者から見て、「誰が製造したのか分からない」場合でも、輸入者が明確であれば、その者が製造物責任を問われます。
3 想定されるPLリスクの事例
①海外製の電化製品が発火し、火災被害が生じた
②化粧品やサプリメントで肌荒れ・アレルギー等の健康被害が出た
③ベビー用品の破損により乳児が負傷した
④誤表示・誤組立により使用中に事故が発生した
いずれも、欠陥(設計上の問題、製造ミス、警告不足等)が認定されれば、輸入者が損害賠償を請求されることになります。
4 回避策:契約で責任分担を明記する
仕入先との契約書には、以下の条項を盛り込むことでリスク移転が可能です。
①製品に欠陥があった場合の損害賠償責任の負担明記
②製造者による保険加入の義務付け
③日本国内での販売に適合する品質基準や規格遵守の確認
④製造元の情報・工程・素材等の開示義務
英語での契約書でも、PL条項(Product Liability Clause)を適切に盛り込むことで、将来的なトラブルに備えることができます。
輸入販売においては、「製造していないから責任はない」という認識は通用しません。
万一の事故に備え、契約、検査、保険、表示の4点を柱としたPLリスク管理を徹底することが、事業継続の要となります。
当事務所では、輸入販売に関する契約書チェック、PL条項の見直し、事故発生時の対応まで幅広く対応可能です。リスク管理の強化をご検討の方は、ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
課税価格における『無償供与』の取り扱いと加算要素
関税評価において、輸入価格(課税価格)の計算は単にインボイス金額だけでは完結しません。
特に重要な論点の一つが、輸入者が輸出者に無償または安価で提供した物品・サービス(無償供与)です。これは、関税評価において「加算要素」として申告価格に加えなければならないケースがあります。
今回は、無償供与とは何か、どのような場合に加算が必要か、具体的な実務上の取り扱いについて解説します。
1 無償供与とは?
無償供与とは、輸入者が輸出者に対して提供する以下のような物やサービスを指します。
①製造に必要な部品・材料
②金型・型枠・試作品
③設計図・技術資料
④技術指導・役務提供など
これらが無償または実費程度の対価で提供されたにもかかわらず、最終的な輸入品の価格に反映されていない場合、関税評価上の「取引価格」に加算しなければなりません。
2 なぜ加算が必要なのか?
関税評価の原則は「輸入取引における実質的な経済的価値を反映した価格」を基準にすることです。
無償供与がある場合、それを考慮しないと「安く仕入れているように見える」だけで、本来支払うべき正当な価値より低く課税されてしまうため、調整が求められるのです。
3 加算すべき典型例
①日本の輸入者が、海外工場に自社製の金型を送って製造させた
②図面や設計情報を無償提供して、その指示に従って製造が行われた
③無償提供した電子部品を組み込んだ完成品を輸入した
④技術者を海外に派遣して製造工程を管理・監修した(役務供与)
これらの「提供価値」が関税評価に含まれていなければ、税関から追徴対象とされる可能性があります。
4 評価額の算定と配分
無償供与分の加算額は、提供物・役務の実際の価額(取得価格)をベースに算定されます。
ただし、輸入品が多数にわたる場合は、個々の商品に適切に按分して評価する必要があります。
例:1,000万円の金型を使って10万個の商品を製造・輸入 → 1個あたり100円の加算
この按分方法については、税関と事前に協議・教示を受けることが推奨されます。
無償供与は見落とされやすい関税評価のリスク項目です。輸入者が意図せず申告価格を過少にしてしまい、税関からの追徴や加算税の対象になることもあります。
実際の提供価値を正しく反映させることで、適正な申告と法令遵守が実現されます。
当事務所では、無償供与の該当性判断、加算評価の方法、税関対応まで一貫して支援しております。評価に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
商品の模倣品・偽物を輸入してしまった場合
海外から商品を輸入したところ、実はそれが模倣品(偽物)だった、このようなトラブルは、輸入ビジネスにおける重大なリスクのひとつです。
知らずに輸入したとしても、法的責任やブランド権利者からの差止・損害賠償請求に発展する可能性があるため、迅速かつ慎重な対応が求められます。
今回は、模倣品を輸入してしまった場合の法的整理と、現実的な対処法について解説いたします。
1 模倣品・偽物とは何か?
模倣品とは、商標権や意匠権、著作権などの知的財産権を侵害する商品を指します。
特に以下のようなケースが典型例です。
①ブランドロゴを無断使用したバッグや衣類
②キャラクター画像を印刷したグッズ
③有名メーカー品と外観・機能が酷似した家電製品
見た目が「そっくり」でも、正式なライセンスや製造許可を得ていない場合は、権利侵害と判断される可能性が高くなります。
2 税関での差止とその影響
模倣品は、税関での輸入差止の対象となります。
差止が行われると、輸入者には以下の通知が届きます。
①知的財産権侵害物品の確認通知書
②意見書・証拠資料の提出依頼(期限付き)
この段階で何も対応しない場合、商品は没収または廃棄処分となり、関税・消費税も返還されない可能性があります。
3 「知らなかった」では済まされない
輸入者が「偽物とは思わなかった」、「海外では普通に流通していた」と主張しても、法的には通用しない場合がほとんどです。
特に、以下のような状況では、過失があったとされ、損害賠償請求や刑事罰の対象となることもあります。
①著名ブランドと酷似していることが一目で分かる
②サンプル品や画像だけで大量発注した
③異常に安価な価格設定だった
4 実務上の対応フロー
模倣品疑いの通知が届いた場合は、次のように対応します。
①商品の正当性の確認
契約書、インボイス、メーカーの許諾証明などを確認・収集します。
②権利者との連絡
正規品であると主張できる場合は、ブランド権利者やライセンシーと直接連絡を取り、輸入許可や和解交渉を行います。
③税関への意見書提出
弁護士等のサポートを受け、期限内に資料と主張を整えて提出します。
④廃棄・返送の決断
正規性を証明できない場合は、商品を返送または自発的に廃棄する判断も重要です。
模倣品を輸入してしまった場合、「知らなかった」「悪気はなかった」では済まされません。
輸入者としての責任を問われる可能性があるため、初期対応の正確さと、仕入先・契約内容の慎重な管理が極めて重要です。
当事務所では、模倣品差止対応、権利者との交渉、損害対応、契約レビューなどを専門的にサポートしております。お困りの際は、お早めにご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
詐欺業者からの仕入れと損害回収の可否
輸入ビジネスでは、インターネットを通じて簡単に海外業者と取引ができるようになった反面、詐欺的な業者との取引による被害も増加しています。
「代金を支払ったのに商品が届かない」、「粗悪品や全く異なる商品が送られてきた」などのケースでは、損害回収が可能なのかどうかが大きな関心事となります。
今回は、詐欺的業者との輸入取引において、法的にどのような対応が可能か、そして損害回収の現実的な可能性について解説します。
1 詐欺的取引の典型例
以下のようなケースは、実務上しばしば確認される詐欺的な取引パターンです。
①海外のB2Bサイトで見つけた業者に前金を振込後、音信不通になる
②契約書を交わさず口頭やメールだけで取引開始し、商品が届かない
③正規ブランド品と信じて注文したら、粗悪な模倣品だった
④インボイスと異なる品物が届いたが、返品も交換も応じてもらえない
特に、中国・東南アジア・中東などの業者との初回取引において、このようなトラブルが多く報告されています。
2 詐欺被害に該当するかの判断基準
日本の刑法上の「詐欺罪」に該当するためには、以下の要件が必要です(刑法第246条)。
①相手方に虚偽の事実を述べさせるなどして錯誤に陥らせた
②その錯誤により財産的利益を得た(例:代金を騙し取った)
③故意(騙す意図)が認められる
ただし、民事上の「契約不履行」や「債務不履行」に該当する場合も多く、詐欺であることを立証するのは難しい場合もあるため、実務では損害賠償請求との併用が検討されます。
3 被害発生時の対応と証拠保全
被害に気づいた時点で、以下の対応を速やかに行いましょう。
①メール・チャット履歴、契約書、インボイス、支払証明書などを保存
②発送されなかった商品について、運送会社・税関への確認を行う
③海外業者との連絡内容を記録し、再交渉の試みを文書で残す
④可能であれば、現地代理人や大使館・JETRO等を通じた現地調査も検討
証拠を的確に収集しておくことが、損害回収や訴訟提起の際に極めて重要となります。
4 予防策:契約・調査・決済方法の工夫を
①契約書に管轄裁判所・準拠法・仲裁条項を必ず明記する
②初回取引では信用調査(過去実績、口コミ、JAPANブランド登録等)を行う
③決済は信用状(L/C)やエスクローサービス、後払条件などリスク分散を図る
④少額サンプル取引を経てから本格的な取引に進む
海外業者との取引で詐欺被害に遭った場合、損害回収の道は簡単ではありませんが、証拠保全と専門家の助言によって可能性を広げることはできます。
また、契約段階からのリスク管理が最大の防止策となります。
当事務所では、海外取引の契約チェック、トラブル発生時の交渉・訴訟、詐欺対応の相談まで幅広く対応しております。ご不安な点がある方は、早めにご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
仕入価格と申告価格の乖離が問題視される理由
輸入ビジネスにおいて、商品の仕入価格と税関への申告価格が異なることは実際問題として珍しくありません。
しかし、この「乖離」があると、税関から「過少申告ではないか」、「正しい関税評価がなされていないのではないか」と疑念を持たれ、税関調査の対象や追徴課税の原因となるおそれがあります。
本記事では、仕入価格と申告価格の乖離がなぜ問題になるのか、その法的根拠と実務上のリスク、対策について解説します。
1 関税評価の基本ルールとは?
関税評価とは、関税を課す基礎となる価格(=課税価格)を算定する手続です。
原則として輸入取引で実際に支払ったまたは支払うべき価格が課税価格の基本となります(いわゆる現実支払価格)。
ただし、その取引価格に「加算すべき要素(ロイヤルティ、無償供与部材など)」がある場合には、それらも含めて関税評価されることになります。
2 「仕入価格」と「申告価格」が一致しない原因とは?
実務上、両者が乖離する原因にはいくつかのパターンがあります。
①複数のインボイスが存在する(プロフォーマと商業インボイス)
②値引きやリベートが実際に存在するが、申告価格に反映されていない
③輸送費・保険料等が申告に含まれていない
④サンプル品・無償品を有償価格と一緒に申告している
⑤グループ企業間で取引価格が調整されている
これらは意図的な不正でなくても、税関にとっては「価格の妥当性に疑義がある」対象として調査の引き金になるのです。
3 税関が問題視するポイント
税関は以下のような観点から乖離をチェックします。
①同種・類似品と比べて著しく価格が低い
②系列会社・関連会社間取引で価格調整が疑われる
③価格変更の理由が不明確
④過去の申告価格と継続性がない(急に下がっている)
こうした事案では、関税評価ルールに基づき「取引価格以外の方法(類似価格法、再販売価格法等)」により再評価され、追徴課税が行われる可能性があります。
4 問題を防ぐための社内チェックポイント
以下のような対策が、税関調査での指摘リスクを軽減します。
①インボイス・契約書と実際の送金額の整合性確認
②ロイヤルティや役務提供費用が含まれていないかのチェック
③同種品目の価格一覧の整備(平均単価管理)
④関連会社取引については移転価格文書の整備も検討
⑤変更があった場合は理由や経緯を記録・説明できるように
「なぜこの価格で輸入しているのか?」という説明責任を果たせる資料の準備が鍵になります。
仕入価格と申告価格が乖離していると、税関から不適正な申告と疑われ、調査や追徴課税のリスクが高まります。
申告価格の妥当性を支える証拠を日頃から整備し、取引の透明性を確保することが重要です。
当事務所では、価格評価リスクの診断、税関との交渉、修正申告や異議申立てまで、専門的に対応しております。価格関連で不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
過少申告加算税と重加算税の違いと防止策
税関からの調査の結果、追徴課税が発生した際、多くの輸入者が驚くのが「関税とは別に加算税も課される」という点です。
加算税は、輸入申告の誤りに対して課される追加的な税金であり、悪質性の有無によりその税率や評価が大きく変わります。
今回は、「過少申告加算税」と「重加算税」の違いと、それらを防ぐために企業として講じるべき対策について解説いたします。
1 加算税とは何か?
加算税とは、関税法上の申告ミスに対して科される行政的なペナルティであり、主に以下の2種類が存在します。
①過少申告加算税(10%):単なるミスや過失によって課税価格等が低く申告されていた場合
②重加算税(35%):意図的に虚偽申告や隠蔽を行ったとされる場合
いずれも、関税・消費税に加えて課税されるため、事実上の「追徴金額」はかなりの金額に膨らむ可能性があります。
2 過少申告加算税の適用場面
過少申告加算税は、以下のような「過失に基づく誤り」が典型例です。
①HSコードの誤適用(類似品と取り違えた)
②インボイス価格の入力ミス
③原産地証明書の形式不備
④複雑な関税評価方法の理解不足による申告ミス
申告内容に明確な虚偽や隠蔽の意図がない場合でも、「結果的に関税が不足していた」として加算税の対象となります。
3 重加算税の適用場面
重加算税は、より重大な違反があった場合に適用されます。具体的には、
①故意にインボイス価格を低く改ざん
②複数のインボイスを使い分けて虚偽申告(いわゆる「二重価格」)
③本来の原産地を偽って関税を免れようとした
④税関調査時に帳簿や資料を隠蔽、破棄した
これらの行為は、税関側から「隠蔽または仮装行為」と認定され、通常よりも厳しい税率(35%)が課されるほか、刑事告発の可能性も生じます。
4 防止策:社内体制と申告チェックの強化
加算税を回避・軽減するためには、日頃から以下のような取り組みが有効です。
①商品ごとのHSコードと関税率の社内台帳整備
②原産地・インボイスの内容と申告価格の照合ルール化
③輸入部門と経理部門の連携強化
④定期的な専門家(弁護士・通関士)によるレビュー
⑤税関からの照会に対する速やかな対応
特に、重大な問題になる前に自主的な修正申告を検討することも非常に重要です。
過少申告加算税と重加算税は、どちらも企業にとって大きな経済的・信用的ダメージとなります。
ただし、その発生には明確な違いがあり、適切な社内管理と早期対応によって、十分に防止・軽減が可能です。
当事務所では、申告ミスのリスク診断、加算税対応、修正申告支援、不服申立てなどを一貫してサポートしております。税関からの指摘や加算税の通知にお困りの際は、ぜひ早めにご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
海外メーカーと輸入業者間の契約トラブル
海外メーカーと取引を開始したものの、「納期が守られない」、「商品が仕様と違う」、「代金を払ったのに発送されない」といったトラブルに悩まされる輸入事業者は少なくありません。
こうした契約トラブルの多くは、契約書が存在しない、もしくは不十分な内容のまま取引を開始してしまったことに原因があります。
今回は、輸入取引における海外メーカーとの契約トラブルと、トラブルを回避・解決するためのポイントを解説いたします。
1 典型的な契約トラブルのパターン
以下のようなケースが特に多く発生しています。
①納期遅延:予定納期より数週間、ひどいときには数か月遅れて商品が届く
②仕様不一致:注文した仕様と異なる素材・サイズ・パッケージの製品が納入される
③数量不足・破損:インボイス上の数量と実物が一致しない。あるいは不良品が混入
④代金支払い後の音信不通:前払いを済ませたのに発送連絡がないまま連絡不能に
これらはいずれも「契約書があれば回避または解決しやすい」類型のトラブルです。
2 口頭・メールベースの合意の限界
日本では、「相手が信頼できる」「長年の付き合いがある」といった理由で、契約書なしでの取引が続けられることも少なくありません。
しかし、海外メーカーとの取引では法的文化や商習慣が異なり、口頭合意やメールのやり取りだけでは証拠として不十分とされる場合があります。
また、言語の壁、タイムゾーンの違い、商慣習の違いにより、トラブル発生時にスムーズな交渉ができず、解決が困難になることも多く見られます。
3 争いになった場合の準拠法・裁判管轄の考え方
紛争が発生した際、「どこの国の法律で」、「どこの裁判所で」争うかが重要になります。
契約書にこの点が定められていない場合、以下のような問題が生じます。
①相手国の法律が適用され、日本の法律と全く違う解釈がされる
②相手国で訴訟を起こす必要があるが、現地に弁護士もおらず対応困難
③証拠書類が現地語で作成されており、反論ができない
事前に準拠法・管轄裁判所を日本と定めておくことが、重要なリスク管理となります。
4 トラブル発生時の対応
①まずはメール等で冷静に事実確認・要請
②支払い記録・契約書・やり取り履歴の整理
③通信が途絶えた場合は内容証明郵便(国際郵便)や弁護士通知の検討
④国際仲裁条項がある場合は、仲裁機関に申し立て
⑤最終的には日本または相手国での訴訟提起を視野に
トラブルの初期段階から弁護士の関与によって、交渉力を強化し、実害拡大を防ぐことが可能です。
海外メーカーとの契約トラブルは、事前の契約内容の整備と証拠確保によって、大きくリスクを軽減することができます。
輸入ビジネスの安定化のためには、「契約書はビジネスの保険」として、法的整備を怠らないことが重要です。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入品が破損していた場合の法的責任と対応策
海外から輸入した商品が到着したものの、一部が破損していた、または全体的に損傷していたというケースは少なくありません。
このような事態に直面したとき、輸入者として「誰に、どのように責任を求めるべきか」、「はたして損害補償は受けられるのか」といった問題に直面することになります。
そこで、本日は、輸入品の破損が発生した場合の法的整理と実務上の対応策について解説いたします。
1 輸入品破損の主な原因
輸入品の破損は、以下のような複数の原因が考えられます。
①輸送中の物理的衝撃・振動
②荷役作業中の事故(積み下ろしミスなど)
③梱包不良(海外メーカー側の原因)
④通関・検査時の取り扱い不備
⑤保管中の湿気・温度管理の不備
原因の特定が不明確な場合もありますが、損害の責任の所在を巡って複数の関係者(輸出者、輸送業者、保険会社等)が絡むため、法的・契約上の整理が必要です。
2 インコタームズによる危険負担の分担
国際取引における「インコタームズ(Incoterms)」により、商品の損傷に対する危険負担の所在が定められます。
①FOB(Free on Board):本船積込時点で買主にリスクが移転
②CIF(Cost, Insurance and Freight):保険付き、港到着時点でリスク移転
③DDP(Delivered Duty Paid):輸入者の手元に届くまで売主が責任を負う
契約書でどのインコタームズが適用されているかにより、どの時点で破損が発生したかが責任を判断する際の出発点になります。
3 輸送保険(貨物海上保険)の確認
多くの輸入取引では、万一の破損に備え「貨物海上保険」が付保されています。
この保険によって補償される場合、以下の手続きが必要となります。
①到着時にすぐに破損の有無を確認(写真・動画記録)
②船会社やフォワーダーに「事故報告書」提出
③保険会社に「損害証明書(サーベイレポート)」を依頼
④補償請求に必要な書類(B/L、インボイス、保険証券等)を準備
破損品を廃棄・転売する前に、保険会社の指示を受けることが重要です。
4 契約相手への責任追及
破損の原因が海外メーカー側(梱包不備等)にあると判断される場合、売主に対して契約上の瑕疵担保責任(契約不適合責任)、債務不履行責任を追及することを検討することになります。
交渉が難航する場合には、弁護士による通知書送付や、仲裁・訴訟手続を視野に入れる必要もあります。
輸入品の破損は、放置すれば大きな損失となり、トラブルの長期化にもつながります。
契約内容・保険・インコタームズなどを正確に把握し、原因ごとに適切な対応を取ることが必要です。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。