原産地証明書の不備でEPA適用の否認

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入コスト削減の切り札として期待されながら、僅かな形式上の不備によってその恩恵が無効化され、多額の追徴課税を招く「原産地証明書の不備」について、実務的な観点から説明いたします。FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を活用することで、本来かかる関税を少なく、又はゼロにできる、この魅力からFTA制度を利用した輸入は年々増加していますが、その一方で「原産地証明書の不備」により特恵関税が適用されず、追徴課税されてしまったという事例も少なくありません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。形式的な確認を怠ることが、いかに致命的な結果を招くかを理解する重要な一助となります。

【相談者】

神奈川県内でヨーロッパ製高級インテリア用品の輸入販売を行うF社 代表取締役 G氏

【相談内容】

「当社はこの度、日EU・EPAを活用し、イタリアのメーカーから無垢材を使用したダイニングテーブルセットを輸入いたしました。本来であれば関税率は0%となるはずであり、輸出者であるイタリア企業からは『原産地声明(Statement on Origin)』を付したインボイスを受領しておりました。B氏は専門家である通関業者に書類を渡し、適正に免税申告を行っていると確信しておりました。ところが、輸入許可から数か月後、税関から原産地規則に関する照会が届き、精査の結果『原産地声明の定型文言に一部誤りがあり、かつ輸出者の自己申告において必要な承認番号の記載が漏れている』との指摘を受けました。その結果、遡って通常税率(4.8%)が適用されることとなり、不足税額と過少申告加算税、延滞税を合わせて約一千万円の追徴を命じられました。B氏は、製品自体は間違いなくイタリア産であるのに、なぜ書類の些細な書き漏らしだけで免税が否定されるのか、納得がいきません。このような税関の判断を覆す方法はあるのか、また今後同様のミスを防ぐにはどうすればよいのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、自己申告制度を採用する日EU・EPAや日米貿易協定、あるいはTPP11(CPTPP)において非常に多く見受けられます。今回は、形式的な記載ミスでFTA適用が否認された実例をもとに、輸入者が注意すべきポイントを、関税法や各EPAの条文を交えながら解説いたします。

1 特恵関税適用の法的根拠と原産地証明の義務

EPAに基づく特恵税率(低い関税率)を享受するためには、輸入貨物が当該協定の「原産品」であることを法的に証明しなければなりません。この根拠は、関税法および各協定の実施に関する法律(EPA特例法等)にあります。

(関税法第六十八条 証明書の提出等)

第一項 条約の規定により関税の譲許(特恵関税)の便益(中略)を受けようとする者は、当該貨物の原産地を証明する書類を税関長に提出しなければならない。

この「証明する書類」には、第三者機関(日本では商工会議所)が発行する「原産地証明書」と、輸出者や輸入者が自ら作成する「原産地声明(自己申告書)」の二種類が存在します。B氏の事例にある日EU・EPAは、後者の自己申告方式を原則としており、これが実務上の「自由度」と「リスク」を同時に生み出しています。

2 日EU・EPAにおける原産地声明の厳格な定型要件

日EU・EPAにおいては、インボイス等の商業文書に記載する「原産地声明」の文言が、協定附属書に一字一句違わずに定められています。

(日EU・EPA附属書三-D 原産地声明の文言)

「The exporter of the products covered by this document (customs authorisation No ...) declares that, except where otherwise clearly indicated, these products are of ... preferential origin.」

このカッコ内の(customs authorisation No ...)は、欧州の輸出者の「認定輸出者番号」または「登録輸出者(REX)番号」を指します。もしこの番号が抜けていたり、番号自体が有効期限切れであったりする場合、税関はその声明を「法的に無効」と判断いたします。たとえ現物が本物であっても、証拠能力を欠くとみなされるのが国際貿易法の厳しさです。

3 実務上陥りやすい原産地証明の形式的不備の典型例

「悪意がない」場合でも否認の対象となる典型的なミスを以下の比較表に整理いたしました。

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原産地証明書・声明における形式的不備と法的帰結一覧表

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不備の類型|具体的な内容|税関の判断とリスク

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定型文言の脱落|「preferential origin」等の必須語句の欠落|声明の法的有効性を否定、特恵税率の適用不可

署名・日付の不整合|声明の日付がインボイスの日付より古い、または空欄|事後的な作成(バックデート)を疑われ、否認

HSコードの相違|証明書のHSコードと輸入申告時のコードが異なる|「別の商品」に対する証明とみなされ、無効化

原産地基準の誤記|「CTC(関税番号変更基準)」とすべきを「WO(完全生産)」とした|実態との不整合を理由に、原産資格を否認

データ不鮮明|スキャンデータやコピーが潰れて文字が読めない|真正性の確認不能として、原本の提示命令または否認

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特に日EU・EPAでは、声明の日付欄が空欄である場合、インボイスの日付が採用されるという運用がありますが、あまりにも形式を軽視した書類は「輸入者による検証能力の欠如」を印象付け、税関による「直接検証(事後調査)」を誘発する最大の引き金となります。

4 直接検証(Verification)という最大の試練

税関は、原産地証明の内容に疑義がある場合、輸入者に対して「原産地を証明する追加の根拠資料」の提出を求めます。これを検証手続と呼びます。

5 協定別・原産地証明方式の比較と留意点

現在日本が締結している主要な協定は、それぞれ証明方式が異なります。

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主要EPAにおける原産地証明方式比較表

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協定名|主な証明方式|輸入者が特に注意すべき点

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日EU・EPA|輸出者による自己申告|REX番号の有効性と定型文言の完全一致

TPP11|輸出者・輸入者・生産者の自己申告|輸入者自身が原産資格を立証する義務(七年保存)

日米貿易協定|輸入者等による自己申告|米国側の輸出実態とHSコードの整合性

RCEP|第三者証明(移行期間あり)または自己申告|経産省発行の原産地証明書の有効期限

日アセアンEPA|第三者証明(商工会議所発行)|原本の提示、積み替え時の通し運送証明

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6 形式不備が招く多重的な法的リスクとペナルティ

FTA/EPAの適用が否認された場合、「本来の税金を払うだけ」では済みません。

(一)過少申告加算税(関税法第十二条)

本来の税率と特恵税率の差額(不足税額)に対し、原則として10%から15%の加算税が課されます。

(二)重加算税(関税法第十二条の四)

もし、原産地証明書を偽造したり、原産資格がないことを知りながら虚偽の声明を用いたと判断された場合、35%から40%という極めて重いペナルティが課されます。

(三)統計制度への不信と全件検査

一度EPAの不備で指摘を受けた輸入者は、税関のシステムにおいて「原産地管理が不十分な企業」としてフラグが立てられます。その後の輸入取引において、毎回原産地証明書の徹底的な精査と貨物検査が行われるようになり、通関リードタイムの大幅な増大を招きます。

(四)「他法令」との連鎖

原産地の認定は、食品衛生法や家畜伝染病予防法における「輸入禁止地域」の判定にも連動するため、原産地の錯誤はこれらの重大な他法令違反を引き起こす可能性があります。

7 輸入者が構築すべき原産地管理のSOP(標準作業手順)

形式ミスひとつで大きな損失につながるからこそ、輸入者は「受動的に書類を受け取るだけ」の状態を脱却しなければなりません。

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EPA利用時における輸入者用実務チェックリスト

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確認フェーズ|具体的なアクション|法的な重要性

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発注時|輸出者に対し、対象協定の最新の定型文言テンプレートを送付する|形式不備の未然防止(関税法68条)

書類受領時|インボイス上の原産地声明に「番号」「日付」「文言」が揃っているか検算する|申告時における「他法令の証明」の正確性

申告前|輸入申告書のHSコードと証明書上のコードが完全に一致しているか照合する|原産資格の同一性の担保

輸入後|原産資格を疎明する「製造工程図」や「コストデータ」を輸出者から予備的に取り寄せる|事後確認(検証)への即応体制の構築

保管管理|関連書類一式を「輸入許可日の翌日から七年間」社内で保存する|帳簿備付け義務(関税法94条)の履行

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特に、複数ロット・複数商品に共通の証明書(Blanket Declaration)を用いる場合の整合性確認は、事後調査で最も狙われやすいポイントです。期間が一日でも切れていれば、その期間中の全輸入分が追徴対象となります。

8 まとめ:適正な通関こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道

本日は、経済連携協定(EPA)の活用における最大の落とし穴である「原産地証明の不備」について解説いたしました。G氏のようなケースであっても、当初から日EU・EPAの定型文言を自ら輸出者に指示し、インボイス受領時に認定輸出者番号の有無を確認する社内フローを確立していれば、一千万円という莫大な追徴を回避し、正当な免税を維持することが可能でした。

企業としては、FTA/EPAによるコスト削減という「実」ばかりを追い求めがちですが、その前提となる「法的な手続きの厳格さ」を軽視してはなりません。通関業者に任せることは有用ですが、彼らは商品の「原産資格の実態」までを調査する権限も義務もありません。最終的な納税者であり、書類の真実性を担保すべき責任者は、輸入者であるあなた自身なのです。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの証明書を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や、EPA・FTAの戦略的かつ安全な活用を強力にサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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