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輸入ビジネスと商標権侵害の法的リスク
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
近年、ECサイトの利用拡大や副業の推進等により、個人や法人を問わず海外から商品を仕入れて国内で販売する輸入ビジネスが非常に活発化しております。しかし、その手軽さの反面、知的財産権、特に商標権を巡るトラブルが後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
都内でアパレル小物の輸入販売業を営むA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は海外の製造業者から、デザイン性の高いバックパックやカジュアルバッグを定期的に輸入し、自社のオンラインショップで販売しております。今回、輸入したバッグに付されていたロゴマークが、国内の有名ブランドの登録商標に類似しているとして、その商標権者から多額の損害賠償を請求する旨の通知書が届きました。B氏は、海外の業者が製造したものをそのまま輸入しただけであり、悪意はなかったと主張しております。しかし、相手方は商標法に基づき、当社のこれまでの売上高を基準とした高額な賠償を求めています。輸入ビジネスにおける商標権侵害は、知らなかったでは済まされないのでしょうか。また、損害賠償額はどのように決まるのでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、輸入ビジネスに従事する全ての方にとって決して他人事ではありません。本日は、輸入トラブルによって裁判まで発展し、損害賠償額の算定が争点となった東京地判令和5年4月27日の事案をご紹介し、実務上の注意点を深く掘り下げていきます。
1 事案の概要:バッグ等の輸入販売と商標権侵害
本件は、海外から輸入されたバッグ類に付された商標が、国内の商標権者が保有する権利を侵害しているとして争われた事案です。
(1)紛争の背景
原告Xは、特定の商標について権利を有する商標権者です。一方、被告Yは、海外からバックパック、肩掛けかばん、ブリーフケース、旅行かばん、カジュアルバッグ等を輸入し、日本国内で販売、あるいは販売のために展示する行為を行っておりました。Xは、Yが取り扱うこれらの商品に付された標章が、自身の登録商標と類似しており、消費者に混同を生じさせるものであるとして、商標権侵害を理由に損害賠償を請求いたしました。
(2)争点となったポイント
本件において、侵害の事実そのものに加え、特に重要となったのは損害額の算定方法です。商標権侵害が発生した場合、その損害を立証することは極めて困難であるため、商標法には損害額を推定する規定が設けられております。被告Yが輸入した侵害品の売上高をどのように特定し、それに対してどのような料率を適用すべきかが、法的な議論の焦点となりました。
2 裁判所の判断:商標法第三十八条に基づく損害額の算定
東京地方裁判所は、商標権侵害における損害賠償の基準について、過去の重要な判例を踏まえた明確な判断を示しました。
(1)商標法第三十八条第三項の趣旨
裁判所はまず、商標法第三十八条の規定について次のように判示いたしました。
「商標法三十八条は、商標権侵害の際に商標権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、その損害額は、原則として、侵害品の売上高を基準として、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。」
(商標法第三十八条第三項)
商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
(2)実施に対し受けるべき料率の算定基準
料率の決定にあたっては、以下の四つの視点による総合考慮が必要であるとされました。これは、知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決(大合議判決)の流れを汲むものです。
一 当該商標の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等。
二 当該商標に蓄積された信用や顧客吸引力の程度。
三 当該商標を当該商品に使用した場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様。
四 商標権者と侵害者との競業関係や商標権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情。
(3)証拠に基づく売上高の特定
売上高の算定については、実務的な手法が示されました。
「本件訴訟の審理経過や証拠関係に鑑みると、弁論の全趣旨に照らし、本件における侵害品の売上高は、損益計算書の売上高に、売上高に占める侵害品の割合を乗じて算定することが相当であり、上記売上高に占める侵害品の割合は、被告作成に係る納品書等から算定するのが相当である。」
このように、税務申告等で使用される損益計算書や、実務的な納品書等の裏付け資料が、損害額決定の重要な証拠となることが改めて強調されました。
3 輸入ビジネスにおける知的財産権リスクの体系的理解
輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる法規制が存在します。商標権侵害は、単に民事上の損害賠償に留まらず、輸入実務そのものを停止させる強力な法的効力を持ちます。
【輸入取引における商標権リスクの区分表】
リスクカテゴリー|具体的な内容|根拠となる法令
--------|----------------|------------
水際での差し押さえ|関税局による輸入差し止め。貨物の没収・廃棄。|関税法第六十九条の十一
民事上の責任|差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求。|商標法第三十六条、三十八条
刑事上の責任|十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金。|商標法第七十八条
社会的信用の失墜|ECプラットフォームのアカウント停止、社名公表。|各プラットフォーム規約
(1)関税法による輸入差し止め
商標権を侵害する物品は、関税法において輸入してはならない貨物として明確に定められています。
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
権利者が税関に対して輸入差止申告を行っている場合、貨物は水際で没収され、輸入者は多大な仕入代金の損失を被ることになります。
(2)法の不知は免責されず
輸入者が商標権侵害の事実を知らなかったとしても、過失が認められれば損害賠償責任は免れません。商標法には過失の推定規定があるため、輸入者側が「過失がなかったこと」を立証しなければならないという、極めて重い立証責任を負わされます。
4 商標権侵害額を構成する諸要素の分析
裁判所が損害額を算定する際に考慮する要素を以下の表にまとめました。
【損害賠償額算定における考慮要素一覧】
考慮要素の分類|具体的な検討項目|賠償額への影響
--------|----------------|------------
ブランドの力|登録商標の知名度、宣伝広告費の規模|高いほど料率が上昇
侵害の態様|デッドコピーか、ロゴの一部類似か|悪質性が高いほど上昇
市場での競合|商標権者と輸入者のターゲット層の一致|競合が激しいほど上昇
不当利得の程度|侵害によって得た具体的な利益額|利益が大きいほど上昇
代替品の存在|当該商標がなくても売れた商品の魅力|寄与率として考慮
5 輸入トラブルを回避するための実務的な防御策
輸出や輸入という特別な取り扱いを行っていることを踏まえ、どのようにすればトラブルを回避することができるかを事前に把握した上で対応を行うことが非常に重要です。A社のB氏のような経営者が取り得る具体的な対策を提示いたします。
(一)事前調査の徹底
輸入を検討している商品に付されたロゴや名称について、特許庁のデータベース(J-PlatPat等)を用いて、国内で同一又は類似の商標が登録されていないかを事前に調査することが不可欠です。
(二)製造業者との契約における補償条項
海外の売手との売買契約において、当該商品が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証させ、万が一侵害が発覚して日本国内で損害賠償を請求された場合には、その全額を製造業者が負担する旨の補償条項(インデムニティ条項)を設けるべきです。
(三)並行輸入の適法性確認
本物のブランド品であっても、輸入ルートによっては商標権侵害とみなされる場合があります。日本の商標権者と海外の商標権者が同一、あるいは同一視できる関係にあるかといった「並行輸入の三要件」を満たしているかを精査する必要があります。
(四)専門家によるリーガルチェック
自社の輸入フローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて弁護士や弁理士にセカンドオピニオンを求めるべきです。特に複数の国が関与する複雑な商流においては、各国の知的財産権の保護状況を把握することが重要です。
6 弁護士への相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。商標権侵害の通知が届いた場合の交渉や、税関での差し止めに対する不服申立てなど、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる商標法の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で貨物を検査し、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提示することができます。
【当事務所が提供できる主なサポート内容】
一 輸入商品の商標権侵害該当性に関するリーガルアドバイス
二 商標権者からの損害賠償請求に対する交渉および訴訟代理
三 海外売手との売買契約書における知的財産権関連条項の作成・精査
四 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉
五 不正競争防止法や意匠法等、関連する多角的リスクの診断
7 まとめ:適正な通関と知的財産管理こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスにおける商標権侵害と損害賠償額の算定について、最新の裁判例を交えて解説いたしました。ECサイト等を通じて誰もが輸入者になれる時代だからこそ、その背後にある法的な義務と責任を正確に理解しておく必要があります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入代行業者の薬機法違反への対応
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において近年トラブルが増加している輸入代行と薬機法の関係について、最新の裁判例を基に詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。副業や新規事業として化粧品等の輸入を検討されている方にとって、非常に重要なリスク管理の視点が示されています。
【相談者】
都内でECサイトを運営し、海外製の除菌グッズや化粧品の販売を計画しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は今回、韓国のメーカーからアルコール配合のハンドジェルを大量に輸入し、日本国内で販売することを計画いたしました。当社は化粧品製造販売業の許可を持っていないため、当該許可を有する輸入代行業者であるY社に対し、薬機法に基づく適正な輸入手続きとラベル貼り、成分チェック等を委託いたしました。しかし、実際に届いた製品のラベルには「強力除菌」という薬機法上、化粧品では認められない効能が表示されており、保健所からの指導を恐れた卸売先から全ての注文がキャンセルされてしまいました。さらに、事後的な調査で、ラベルに記載されたアルコール濃度が実際の数値より低いことも判明いたしました。
B氏は、輸入代行業者が薬機法上の義務を怠ったために多大な損害を被ったと考え、Y社に対して損害賠償を請求したいと考えています。一方で、輸入代行業者は「薬機法は行政上の取り締まり法規であり、業者間の契約トラブルにおいて直ちに不法行為責任を負うものではない」と主張し、責任を認めてくれません。このような場合、法的にどのような請求が可能なのでしょうか。また、将来的にこのようなトラブルを回避するためには、どのような体制を構築すべきでしょうか。専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、近年のEC市場の拡大に伴い、非常に多く見受けられます。輸入や輸出に関わる個人、法人は増加傾向にありますが、その実務には高度な専門性と法規制の理解が不可欠です。本日は、まさにこのようなトラブルが争点となった東京地判令和4年9月30日の事例をご紹介し、輸入実務における法的責任の所在について掘り下げていきます。
1 事案の概要:輸入代行とラベル表示を巡る紛争
本件は、海外製品を日本市場へ導入する際の「輸入代行」というスキームにおいて、委託者と受託者の間で生じた法的責任の範囲が問われた事案です。
(1)登場人物と取引の構造
原告であるXは、海外の企業Aからアルコールジェル製品を購入いたしました。しかし、日本国内で化粧品として販売するためには、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づき、化粧品製造販売業者としての許可が必要です。そこでXは、当該許可を有する被告Yを輸入代行業者として選定し、製品を化粧品として輸入する業務を委託いたしました。Yは、輸入申告や国内向けのラベル作成、貼付といった実務を担当する立場にありました。
(2)発覚した問題点
輸入・販売が開始された後、以下の二つの重大な事実が発覚いたしました。
一 同製品には「除菌」と表示されたラベルが添付されていましたが、薬機法上、化粧品として届け出た製品に「除菌」という医薬部外品や医薬品を連想させる表示をすることは、標榜可能な効能効果の範囲を逸脱しており違法であること。
二 製品のラベルに表示されたアルコール濃度よりも、実際の成分分析結果による濃度が低いことが発覚したこと。
(3)訴訟に至る経緯
Xは、これらの問題によって販売予定であった顧客からのキャンセルや値引き要求、在庫の滞留等の損害を被ったと主張いたしました。その法的構成として、輸入代行業者であるYが、薬機法上の義務及び民法上の信義則上の注意義務に違反したと主張し、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求いたしました。
2 裁判所の判断:取締法規と私法上の責任の峻別
東京地方裁判所は、薬機法という公法上の規制が、私人間(業者間)の不法行為責任を直ちに基礎付けるものになるかという点について、極めて慎重かつ明快な判断を下しました。
(1)薬機法の性格と行為義務の否定
裁判所はまず、薬機法という法律の目的について言及いたしました。
「薬機法はあくまで取締法規上の行為規範であって、直ちに不法行為法上の行為義務ないし注意義務を意味するものではない。したがって、薬機法上の義務違反が、直ちに医薬品等を購入した業者に対する不法行為法上の行為義務違反となるものではないというべきである。」
これは、薬機法が医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保を通じて「保健衛生の向上」を図ることを目的とするものであり、特定の取引相手の経済的利益を保護することを直接の目的としていないことを示しています。
(2)侵害された利益の性質と瑕疵の程度
次に、Xが主張する損害(被侵害利益)の内容について、以下のように判示いたしました。
「本件商品の瑕疵の内容を見ると、法令上許されない除菌という効能の表示がなされた、あるいはアルコール濃度が実際の数値よりも高い表示がなされたということにとどまり、それを使用する者に保健衛生上の危害を及ぼすような、基本的な安全性を欠くものでもない。その瑕疵の程度は軽微であるうえ、Xの主張する被侵害利益は、結局のところ、法令上あるいは品質上の瑕疵のない商品の引渡しを受ける権利その他の契約上の利益にすぎないのであって、薬機法が想定する保護法益ではない。」
(3)結論としての不法行為責任の否定
以上の検討から、裁判所は、Xの主張するYによる薬機法上の義務違反行為は、それ自体としても、あるいは信義則上の義務違反としても、不法行為責任を基礎付けるものとは認められないと結論付け、Xの請求を棄却いたしました。
3 輸入実務における法的責任の比較と検討
本判決は、輸入代行業者を利用する側にとって、非常に厳しい現実を突きつけるものとなりました。薬機法という強力な規制が存在していても、その違反が直ちに賠償責任に結びつくわけではないからです。ここで、輸入代行における各当事者の役割と、法的に問われやすい責任の範囲を整理した比較表を提示いたします。
【輸入実務における当事者の役割と法的責任一覧表】
区分|委託者(B氏・X)の役割と責任|受託者(輸入代行業者Y)の役割と責任
--------|----------------|----------------
薬機法上の地位|実質的な販売主体・企画者|製造販売業者としての法的名義人
主な義務|製品情報の提供・仕入先選定|GQP・GVPの遵守、成分確認
表示責任|広告表現の最終的な管理|法定ラベルの正確な記載
不法行為責任|被害者への賠償責任を負い得る|健康被害がない限り、業者間では限定的
契約責任|代金支払、検収義務|善良なる管理者の注意義務
留意すべき点|代行業者の「名義」に依存するリスク|行政処分(業務停止等)のリスク
この表から分かる通り、輸入代行業者は行政(厚労省や都道府県)に対しては重い責任を負いますが、委託者との関係においては、契約書に具体的な義務内容が明記されていない限り、不法行為による追及は困難であるという実態が浮かび上がります。
4 薬機法等の他法令が関わる輸入取引の落とし穴
輸出や輸入に関しては、通常の国内売買とは異なる習慣や法規制が存在します。本件のように化粧品や医薬部外品が関わる場合、特に以下の点に注意が必要です。
(一)取締法規と私法の壁
本判決が示した通り、薬機法違反=不法行為(損害賠償)とはなりません。これは食品衛生法や植物防疫法、家畜伝染病予防法といった他の輸入規制法規についても同様のことが言えます。行政上の罰則があることと、民事上の賠償ができることは別次元の問題です。
(二)成分表示とアルコール濃度の乖離
近年、新型コロナウイルスの影響でアルコール製剤の輸入が急増いたしましたが、海外メーカーの成分分析表(COA)が必ずしも正確ではないケースが散見されます。輸入代行業者がどこまで詳細な検査を行う義務を負うかは、委託契約の内容によって決まりますが、単なる形式的なチェックに留まる契約形態では、本件のようなトラブルを防ぐことはできません。
(三)化粧品における除菌表示の禁止
化粧品としての届け出では「手指を清潔にする」といった表現は可能ですが、殺菌や除菌といった医薬部外品的な効能を謳うことはできません。これを代行業者が看過したとしても、それによる販売機会の喪失を不法行為として追及することは法的に高いハードルがあります。
5 トラブルを回避するための契約実務とリスク管理
輸出や輸入のトラブルを回避するためには、通常の売買と同じイメージをもち対応を行うと思わぬ部分で足元をすくわれてしまうリスクがあります。本判決の教訓を踏まえ、どのようにすればトラブルを回避し、万が一の際に責任を追及できるかを事前に把握しておくことが非常に重要です。
(1)業務委託契約書における詳細な義務規定
不法行為での追及が難しい以上、契約(債務不履行責任)に基づく追及ができるよう、契約書を精緻化する必要があります。
一 「薬機法等の関連法令を遵守し、適正なラベルを作成する義務」を明記する。
二 「ラベル表示内容と実態に乖離があった場合、それによる販売中止損害を賠償する」旨の特約を設ける。
三 成分分析の頻度や方法、不備があった場合の検収不合格の基準を具体化する。
(2)製造販売業者の選定とデューデリジェンス
単に許可を持っているというだけでなく、過去に行政指導を受けていないか、専門の総括製造販売責任者が適切に配置されているかを確認することが不可欠です。輸入代行業者は、いわば法的な「門番」の役割を果たすため、その信頼性が事業全体の成否を左右いたします。
(3)他法令の網羅的なチェック
輸出入には外為法(外国為替及び外国貿易法)や関税法も深く関わります。特にリスト規制やキャッチオール規制に該当する物品でないか、あるいは輸入時に他法令の証明が必要な品目ではないかを、取引開始前に多角的に検討しなければなりません。
6 専門家によるセカンドオピニオンと法的防御
自社の輸出や輸入に関するフローが適切かどうかを再度確認いただくとともに、必要に応じて専門家にセカンドオピニオンを求める等、万全の態勢をトラブル発生前に構築しておくことが重要です。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。特に薬機法や食品衛生法が絡む複雑な輸入スキームにおいて、どのような契約関係を構築すべきか、また事後的な調査においてどのように当局や相手方と対峙すべきかについて、専門的な見地からアドバイスを提示いたします。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 輸入代行契約書、売買契約書の作成及びリーガルチェック
二 薬機法、景品表示法等に抵触しないための表示・広告監修
三 税関事後調査、保健所等の行政調査に対する同行及び対応支援
四 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求、交渉、訴訟代理
五 関税評価(課税価格)の適正性診断、事前教示制度の活用
7 まとめ:適正な通関と契約こそがビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入代行業者を巡る最新の裁判例に基づき、薬機法違反と私法上の責任の境界について解説いたしました。B氏のようなケースにおいて、不法行為責任の追及が難しいという司法の判断は、輸入者側に「自ら契約をコントロールする」という高い自覚を求めるものです。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
リスト規制と該非判定について
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、日本の輸出管理制度の根幹をなすリスト規制と、その適正な運用に不可欠な該非判定について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術や製品を海外に展開しようとする企業様にとって、避けては通れない重要な局面が示されています。
【相談者】
都内で産業用ドローン及び高精度センサーの開発販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社はこの度、自社で独自開発した測量用ドローン及びその制御ソフトウェアを、東南アジアのインフラ建設プロジェクト向けに輸出する契約を締結いたしました。当該ドローンは市販品よりも長時間の飛行が可能で、精度の高いGPSユニットを搭載しております。B氏は、民生用の建設資材として輸出するものであるため、軍事転用の意図はなく、特段の制限はないものと考えておりました。しかし、物流業者から、当該製品が外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)上のリスト規制に該当する可能性があるため、該非判定書を提出するように求められました。B氏は、自社の製品がなぜ規制の対象になり得るのか、また、もし無許可で輸出してしまった場合にどのような法的責任を負うことになるのかを正確に把握したいと考えております。特に、貨物だけでなく技術(ソフトウェア)の提供も含まれるため、複雑な法令の解釈について専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、日本の優れた技術力を保有する中小企業において、近年非常に多く見受けられます。様々な技術革新によって、現代社会は人やモノの行き来がこれまでになく自由に行われている状況です。しかしながら、そのような中でも国際平和及び安全の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を抑制するための国際的な輸出管理レジームが存在します。日本国内においても、これらの国際的な合意を踏まえて独自の安全保障貿易管理制度を設けております。本日は、その中心的な制度であるリスト規制について解説いたします。
1 リスト規制の定義と法的根拠について
リスト規制とは、国際的な合意を踏まえ、武器並びに大量破壊兵器等(核兵器、化学兵器、生物兵器、ミサイル)及び通常兵器の開発、製造、使用等に用いられるおそれの高いものを法令等でリスト化して、そのリストに該当する貨物や技術を輸出や提供する場合には、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。この制度は、特定の国や地域に対する経済制裁とは異なり、貨物のスペック(機能や仕様)に注目して一律に網をかける点に特徴があります。
リスト規制の直接的な法的根拠は、外為法第四十八条第一項にあります。
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
この規定を受けて、具体的にどのような貨物が規制されるかを定めているのが、輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)です。
(1)規制対象貨物の分類
規制対象となる貨物は、輸出令別表第一の一の項から十五の項までに体系的に分類されています。
一の項:核兵器、核燃料物質、原子炉等
二の項:化学製剤の原料、細菌製剤の調製装置等
三の項:ロケット、無人航空機、それらの製造装置等
四の項:火薬、爆薬、それらの製造装置等
五の項から十五の項:先端材料、材料加工工作機械、エレクトロニクス、電子計算機、通信、センサー、航法装置、海洋関連、航空宇宙関連等の汎用品(通常兵器の開発等に転用可能なもの)
B氏のA社が扱っているドローンは三の項(無人航空機)に、高精度センサーは七の項(航法装置)や十の項(航空宇宙関連)に該当する可能性を慎重に検討しなければなりません。
(2)規制対象技術の分類
貨物(モノ)の輸出だけでなく、技術(ノウハウやソフトウェア)の提供も同様に規制の対象となります。その根拠は外為法第二十五条第一項にあります。
(外国為替及び外国貿易法第二十五条第一項)
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の技術を特定の外国において提供し、又は特定の外国の居住者に提供することを目的とする取引をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
この具体的なリストは、外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の一の項から十五の項に規定されています。A社のドローン制御ソフトウェアは、この外為令別表の規定に抵触する可能性があるため、貨物と併せて技術提供の許可についても確認が必要となります。
(3)詳細なスペックを規定する省令
輸出令や外為令の別表は項目名のみを掲げているため、実際にどの程度の性能(解像度や処理速度、周波数など)を超えると規制対象になるかについては、経済産業省令である「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(以下、貨物等省令といいます。)において極めて詳細に規定されています。実務上は、この貨物等省令の数値を一つずつ自社の製品仕様と照らし合わせる作業が不可欠となります。
2 該非判定の重要性と実務上の進め方について
実務上は、リスト規制に該当する貨物や技術に該当するかどうかを判断するために、該非判定が非常に重要となります。該非判定とは、自社の貨物や技術が、前述した輸出令別表第一や外為令別表の各項、及び貨物等省令で定められたスペックに合致するかどうかを客観的に判定する作業を指します。
(1)慎重かつ厳格な判定の必要性
この該非判定を慎重にかつ厳格に行わずに間違った対応を取ってしまった場合には、無許可輸出等の違法行為に該当することになってしまいますので十分ご注意ください。たとえ意図的ではなく、単なる過失や見落としであったとしても、外為法違反としての法的責任を免れることはできません。税関での輸出申告の際、該非判定書が不備であれば、輸出は許可されず、最悪の場合、貨物の差し押さえや調査の対象となります。
(2)仕入元等との連携
自社で全ての仕様を把握できない場合、該非判定を行う際には、仕入元や部品メーカー等にも協力してもらう必要があります。製品の製造、購入の段階から適切な取り扱いを行うことが重要です。部品メーカーから「項目別対照表」や「パラメータシート」と呼ばれる資料を取り寄せ、自社製品としての最終的な該非を決定するプロセスを確立すべきです。
(3)該非判定の具体的な流れ
該非判定を進める際の標準的なフローを以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けてそのまま実務のチェックリストとしてご活用いただけます。
【該非判定実務フロー図】
ステップ|実施事項|確認すべき主な資料
--------|----------------|------------
一 品目特定|輸出する貨物や提供する技術を特定する|図面、カタログ、仕様書
二 項番抽出|輸出令別表第一、外為令別表の該当項番を絞り込む|経済産業省発行の解釈指針
三 スペック比較|貨物等省令の数値基準と製品スペックを対照する|検査成績書、技術データ
四 判定書作成|判定結果を「該当」または「非該当」として書面化する|項目別対照表、パラメータシート
五 承認・保存|社内の責任者が内容を承認し、法定期間保存する|社内管理規定(ICP)
B氏の事例では、ドローンの最大飛行距離、最大離陸重量、自律飛行能力の有無、及びセンサーの測定精度を、貨物等省令の三の項や七の項の基準値と厳密に比較しなければなりません。一つでも基準値を超えていれば該当となります。
3 みなし輸出管理(技術提供管理)の最新動向について
リスト規制において近年特に重要性を増しているのが、みなし輸出管理です。これは、物理的に海外へ貨物を送る場合だけでなく、日本国内において非居住者(外国人留学生や短期滞在の研究者等)に技術を提供する場合も、海外への輸出と同様に許可を必要とする制度です。
(1)特定類型制度の導入
二〇二二年五月からは、居住者であっても外国の政府や企業から強い影響を受けている者(特定類型該当者)に技術を提供する場合にも、経済産業大臣の許可が必要となりました。A社が日本国内で外国籍の技術者を雇用している場合や、海外企業との共同研究を行っている場合には、このみなし輸出の規制が適用される可能性があり、貨物の輸出とは別の次元での管理が求められます。
(2)ソフトウェアの提供形態
ソフトウェアの提供については、CD-ROM等の物理的なメディア(キャリアメディア)による輸出だけでなく、インターネットを通じたダウンロード、電子メールへの添付、さらにはクラウドサーバーへのアップロードも、外為法上の役務取引として規制の対象となります。
4 法令違反に伴う深刻なペナルティと企業リスク
事業として輸出や輸入に従事している以上は、知らなかったでは済まされませんので、自社の事業に関する輸出や輸入に関連した法規制については十分注意する必要があります。万が一、リスト規制に違反して無許可で輸出を行った場合には、以下のような極めて厳しい罰則が科されることとなります。
(1)刑事罰の内容
個人に対しては懲役または罰金、法人に対しては極めて高額な罰金が科されます。
第四十八条第一項の規定による許可を受けないで、輸出令別表第一の一の項から十五の項までの中の特定の貨物を輸出した者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。
また、対象となる貨物の価格の五倍が二千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金に処せられるという規定もあり、巨額の罰金が企業の経営を直接圧迫することになります。
(2)行政処分の衝撃
経済産業大臣により、一定期間(最長で三年間)の輸出禁止処分や技術提供の禁止処分が下されることがあります。これは企業にとって営業機会の完全な喪失を意味し、海外の顧客との信頼関係は完全に崩壊いたします。貿易に従事する企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に等しい重大な打撃です。
(3)社会的信用の失墜
法令違反の事実は経済産業省のホームページ等で公表されます。これにより、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。コンプライアンスを重視する現代のグローバル市場において、一度ついた不名誉なレッテルを剥がすことは極めて困難です。
5 輸入業務における留意点と税関事後調査
日本は貿易大国ですが、輸出のみならず輸入に関しても様々な法規制が存在します。輸入に関しては、基本的には申告納税方式が採用されておりますが、輸入後には輸入事後調査等が存在しておりますので、安易に間違った申告をすることは絶対に避ける必要があります。
(1)適正な課税価格の申告
輸入申告価格を意図的に低く申告するアンダーバリューなどは、明確な脱税に該当いたします。関税法上、不正な手段で関税を免れた場合には刑事罰が科されます。
偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。
(2)他法令の確認義務
品目によっては関税法以外の法律(他法令)による規制を受ける場合があります。例えば、食品衛生法、家畜伝染病予防法、薬機法などの許可や検査が必要であり、これらを怠って輸入することは禁じられています。
(3)事後調査への対応
税関の事後調査では、過去数年分の取引書類や会計帳簿が精査されます。輸出管理と同様に、輸入業務においても法令遵守の証拠を残しておくことが、自社を守る唯一の手段となります。
6 専門家によるリーガルチェックと体制構築の重要性
これらの法規制は変更になることも多いので、定期的に自社に関連する法規制を確認いただく必要があることは改めてご留意ください。国際情勢の変化に伴い、規制対象品目や仕向地の制限は頻繁にアップデートされます。なかなか自社で法規制を確認することが難しい場合には、適宜専門家を含めてご相談等いただくことを強くお勧めいたします。
当事務所では、輸出入に関するコンプライアンス体制(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定支援を行っております。
【内部輸出管理体制の評価指標一覧】
評価カテゴリー|確認すべき具体的な内容|管理上のポイント
--------|----------------|------------
組織体制|輸出管理の責任者が任命されているか|社長直轄の体制を推奨
該非判定|技術者と法務担当者が連携しているか|ダブルチェックの徹底
取引審査|顧客が「需要者リスト」に載っていないか|エンドユースの確認
出荷管理|税関への申告前に許可証を確認しているか|誤出荷防止のロック機能
監査・教育|定期的な社内監査と社員教育があるか|全社的な意識の醸成
保存管理|関係書類を法定期間保存しているか|七年間の保存義務の遵守
7 弁護士への相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、現場の実態に即した具体的なアドバイスを提示することが可能です。
【当事務所が提供できる主なサポート内容】
一 A社製品の精緻な該非判定支援および判定書のリーガルチェック
二 経済産業省への個別輸出許可申請、役務取引許可申請の代理および折衝
三 社内輸出管理マニュアル(ICP)の策定、社内教育研修の講師派遣
四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査の代行
五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い
六 外為法や関税法に関する最新の法令改正情報の提供および実務への反映支援
輸出入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。事前教示制度の利用や、もし万が一法令違反の疑いを指摘された場合の当局対応についても、迅速かつ適切にサポートいたします。
まとめ:適正な輸出入管理がグローバルビジネスを安定させる唯一の道
安全保障貿易管理は、一企業の利益を超えて、日本及び国際社会全体の安全を守るための重大な責務です。B氏のようなケースにおいても、事前に対象製品の該非判定を行い、必要であれば適切な輸出許可を得ることで、合法かつ安全に海外展開を進めることができます。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
主要な国際輸出管理レジーム
はじめに:相談事例のご紹介
本日は、国際的な平和及び安全を維持するために設立された国際輸出管理レジームについて、その具体的な内容と法的な枠組みを解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術を保有する企業様が直面しやすい、実務的な課題が示されています。
【相談者】
神奈川県内で産業用高精度センサー及び関連部品の製造販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は、自社で開発した特殊な加速度センサー及びその製造技術を、海外の協力企業へ輸出することを計画しております。このセンサーは主に土木建設現場での計測に使用されるものですが、取引先から国際的な輸出管理規定、特にワッセナー・アレンジメントやMTCRといったレジームへの抵触がないかを確認するよう求められました。B氏は、軍事目的の製品ではないため、これらの国際的な枠組みが自社のビジネスにどのような影響を与えるのか、また、もし該当した場合にどのような法的手続きが必要になるのかを正確に把握したいと考えています。特に、国際的なレジームの定義と日本国内の輸出貿易管理令との関係性について、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。このような事例は、意図せず軍事転用可能な技術や製品を保有している企業において非常に多く見受けられます。現代社会は技術革新によりモノの行き来が自由ですが、国際平和及び安全の観点から、国際的な輸出管理レジームが存在します。本日は、主要な4つのレジームの内容に絞って詳しく解説いたします。
1 NSG(原子力供給国グループ)の目的と詳細
NSG(Nuclear Suppliers Group)は、核兵器の製造等に使用される可能性のある原材料や技術等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1974年のインドによる核実験を契機として、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を補完する目的で、1975年に設立されました。このレジームは、核兵器の拡散につながる可能性のある取引を防止するため、供給国側が輸出管理の指針を共有し、協調して規制を行うことを目指しています。
(1)規制対象の二段構え
NSGのガイドラインは、大きく分けて二つのパートで構成されています。
第一部(指針パート1)は、原子力専用品を対象としたもので、核原料物質、核燃料物質、原子炉及びその関連設備、重水、再処理施設などが含まれます。これらは「トリガーリスト」と呼ばれ、これらを輸出する際には、受領国による国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れが条件となります。
第二部(指針パート2)は、原子力目的以外にも使用可能な汎用品(デュアルユース品)を対象としています。例えば、高強度のアルミニウム合金、炭素繊維、数値制御工作機械、周波数変換器などがこれに該当します。これらは、通常の産業用途であっても、核兵器開発に転用されるリスクがあるため、厳格な審査が必要となります。
(2)日本国内法における位置付け
日本はNSGの創設当初からの参加国であり、その合意内容は国内法である輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)別表第一の一の項、及び外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の二の項に反映されています。
(輸出貿易管理令別表第一の一の項)
一 核兵器、核燃料物質の処理若しくは核兵器の製造のために利用される核物質若しくは核原料物質若しくは原子炉若しくはこれらの部分品若しくは附属装置又は核燃料物質の分離若しくは再生若しくは重水の製造のために利用される装置若しくはその部分品であつて、経済産業省令で定めるもの。
A社の製品が、もし核関連施設での精密計測に使用されるような極めて特殊なスペックを有している場合、このNSGの合意に基づく規制対象となる可能性があります。
2 オーストラリア・グループ(AG)の目的と詳細
オーストラリア・グループ(Australia Group)は、化学・生物兵器の原材料や技術等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1980年代のイラン・イラク戦争において化学兵器が使用されたことを受け、1985年にオーストラリアの提唱により設立されました。このレジームは、化学剤の原料となる化学物質、生物兵器の基となる病原体、及びそれらの製造に使用される設備や技術が、テロリストや懸念国に渡ることを防ぐことを目的としています。
(1)広範な規制対象
AGの規制リストは多岐にわたります。化学分野では、サリンやVXガスなどの神経剤、マスタードガスなどのびらん剤の原料となる前駆体となる化学物質が指定されています。また、これらを製造するための耐食性のある反応器、貯蔵タンク、熱交換器なども対象です。生物分野では、炭疽菌、エボラウイルスなどの病原体、リシンなどの毒素に加え、これらを培養するための発酵槽、凍結乾燥装置、遠心分離機などが含まれます。さらに、防護マスクや検知システム、関連するソフトウェアや製造ノウハウなどの技術提供も規制の対象となっています。
(2)日本国内法における位置付け
日本はAGの参加国として、輸出令別表第一の二の項、及び外為令別表の三の項・三の二の項において規制を具体化しています。
(輸出貿易管理令別表第一の二の項)
二 軍用の化学製剤の原料となる物質若しくは軍用の細菌製剤の調製に用いられる装置若しくはその部分品若しくは軍用の細菌製剤の散布に用いられる装置若しくはその部分品又は軍用の化学製剤若しくは軍用の細菌製剤と同等の効力を有する物質(以下この項において「化学製剤等」という。)の原料となる物質若しくは化学製剤等の調製に用いられる装置若しくはその部分品若しくは化学製剤等の散布に用いられる装置若しくはその部分品であつて、経済産業省令で定めるもの。
化学プラントや製薬設備、あるいは高度なクリーンルーム技術を保有する企業にとって、AGの規制内容を把握しておくことは必須のコンプライアンス事項となります。
3 MTCR(ミサイル技術管理レジーム)の目的と詳細
MTCR(Missile Technology Control Regime)は、大量破壊兵器の運搬に寄与できるミサイルやその他の無人航空機、及びその部分品や製造装置等の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1987年にG7諸国により設立されました。このレジームの最大の特徴は、大量破壊兵器そのものではなく、その運搬手段を封じ込めることに主眼を置いている点にあります。
(1)カテゴリーによる区分
MTCRは、規制対象をカテゴリー一とカテゴリー二に分けています。カテゴリー一は、完成したミサイルシステムや無人航空機システム、及びそれらの主要なサブシステム(エンジン、誘導装置等)を指します。特に射程300キロメートル以上、かつ積載量500キログラム以上の能力を持つシステムについては、輸出が極めて厳格に制限されており、原則として輸出不許可(強い拒否の推定)の対象となります。カテゴリー二は、これらに関連する広範な部品や製造装置、推進剤、計測機器などが含まれます。近年では、自律飛行が可能なドローンの技術進歩が著しいため、民生用ドローンであっても一定の積載能力や飛行性能を持つ場合は、このMTCRのガイドラインに抵触する可能性が高まっています。
(2)日本国内法における位置付け
日本はMTCRの主要な参加国であり、輸出令別表第一の三の項、及び外為令別表の四の項に関連規定を置いています。
(輸出貿易管理令別表第一の三の項)
三 ロケット、無人航空機若しくはこれらに類する装置であつて、経済産業省令で定めるもの又はこれらの製造、試験若しくは評価に用いられる装置(中略)
A社の加速度センサーが、ミサイルの誘導装置や姿勢制御に使用可能なスペックを有している場合、このMTCRの合意に基づく規制対象となる可能性が非常に高いと考えられます。特に、加速度の測定範囲や振動に対する耐久性が軍事用基準に達している場合は、慎重な検討が必要です。
4 ワッセナー・アレンジメント(WA)の目的と詳細
ワッセナー・アレンジメント(Wassenaer Arrangement)は、地域の安定を損なう通常兵器の過剰な蓄積を防止する目的で、通常兵器及びその製造に関連する汎用品(デュアルユース品)や技術の輸出規制を主たる内容とする国際的な枠組みです。1996年にオランダのワッセナーで設立されました。冷戦期の東側諸国への輸出統制であったCOCOMの後継として、より広範な地域紛争の防止を完全に目的に掲げています。
(1)リストの構成と9つのカテゴリー
WAの規制リストは、通常兵器リストと汎用品リストの二本立てとなっています。特に汎用品リストは、現代の産業技術のほぼ全域をカバーしており、以下の9つのカテゴリーに分類されています。
カテゴリー1:特殊材料及び関連装置(フッ素化合物、潤滑剤、セラミック等)
カテゴリー2:材料加工(数値制御工作機械、ロボット、スピニング加工機等)
カテゴリー3:エレクトロニクス(半導体、集積回路、マイクロ波部品等)
カテゴリー4:電子計算機(高性能コンピュータ、関連ソフトウェア等)
カテゴリー5:通信・情報保護(通信設備、暗号化装置、サイバーセキュリティ関連等)
カテゴリー6:センサー及びレーザー(光学センサー、水中探知装置、高性能カメラ等)
カテゴリー7:航法及び航空エレクトロニクス(ジャイロ、加速度計、航法システム等)
カテゴリー8:海洋関連(潜水艇、水中用テレビカメラ、推進装置等)
カテゴリー9:航空宇宙及び推進装置(ガスタービンエンジン、人工衛星、関連部品等)
これらのカテゴリーには、最先端の技術から、一般的な産業で広く使われる高機能製品までが含まれています。WAは特定の国を対象とするものではありませんが、参加国間での情報交換を通じて、地域の安定を乱すような過剰な輸出を抑制しています。
(2)日本国内法における位置付け
日本はWAの極めて活動的な参加国であり、輸出令別表第一の五の項から十五の項、及び外為令別表の六の項から十五の項に膨大な規定が存在します。
(輸出貿易管理令別表第一の七の項)
七 航法装置、ジャイロスコープ、加速度計若しくはこれらの部分品であつて、経済産業省令で定めるもの又はこれらの製造若しくは試験に用いられる装置であつて、経済産業省令で定めるもの。
A社が製造している高精度センサーは、まさにこのWAカテゴリー7(輸出令七の項)に直結する製品です。性能指標が省令で定める数値を上回る場合、リスト規制対象として経済産業大臣の輸出許可が必須となります。
5 国際輸出管理レジームの比較及び実務的確認事項
主要な国際輸出管理レジームについて、実務上で特に重要となるポイントを比較表にまとめました。この表はワード等の文書にコピーしてそのままご活用いただける形式となっております。
主要国際輸出管理レジームの機能比較表
レジーム名称|主たる規制対象物|設立背景と目的|国内法(輸出令)との対応
--------|----------------|----------------|------------
NSG|原子力専用品及び原子力汎用品|核兵器の不拡散、核実験の防止|別表第一の一の項
AG|化学・生物兵器原料及び製造設備|化学・生物兵器の拡散防止|別表第一の二の項
MTCR|ミサイル、無人航空機、関連部品|大量破壊兵器の運搬手段の抑制|別表第一の三の項
WA|通常兵器及び産業用汎用品|通常兵器の過剰蓄積、地域安定|別表第一の五から十五の項
6 国際レジームの合意を遵守するための具体的な実務手順
以上の主要な国際輸出管理レジームについて、日本は全てに参加しておりますが、全く参加していない国、一部にのみ参加している国等も多数存在しております。したがって、世界で共通のレジームとなってまではいないというのが実情です。このため、企業としては、以下のステップを確実に踏む必要があります。
(1)該否判定の実施
自社の製品のスペック(性能・機能)を、輸出令別表第一及び関連する貨物等省令の詳細な数値と照合いたします。例えば、加速度センサーであれば、バイアス安定性やスケールファクター誤差といった専門的な数値が基準値を超えていないかを確認します。判定の結果、リスト規制に該当するか否かを該否判定書として書面に残すことが、法的な証明の第一歩となります。
(2)取引審査の実施
輸出先(輸入者)や最終需要者が、国際的な懸念活動に従事していないかを確認します。経済産業省が公表している外国ユーザーリストとの照合は欠かせません。このリストには、上記4つのレジームが監視対象としている懸念組織が数多く掲載されています。
(3)用途確認の実施
製品が本来の用途(土木建設等)以外に使用される恐れがないかを確認します。これをエンドユース確認と呼びます。特に第三国を経由する商流の場合、最終的な使い道が不透明になりやすいため、顧客からエンドユース証明書を取得するなどの対応が求められます。
(4)輸出許可申請
リスト規制に該当する場合、あるいは用途や需要者に懸念がある場合には、経済産業大臣に対して輸出許可の申請を行います。この際、製品の技術的特徴や取引の安全性を証明する膨大な書類が必要となります。
(5)税関への証明
最終的に税関へ輸出申告を行う際、必要な許可を得ていることを証明しなければなりません。他法令の許可が必要な貨物については、その確認がなされない限り、関税法上の輸出の許可は下りません。
(関税法第七十条 証明又は確認)
他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条(輸出又は輸入の許可)の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。
6 まとめ:適正な輸出管理がグローバルビジネスの唯一の生存戦略
本日は、国際輸出管理レジームの根幹をなす4つの枠組みと、それに基づく日本国内の外為法、輸出令の仕組みについて詳しく解説いたしました。正しい法令知識に基づき、透明性の高い取引体制を構築すること。それが、税関や経済産業省からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
キャリアメディアの関税評価
はじめに:具体的な相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において非常に誤解が生じやすいソフトウェア入りメディアの輸入申告について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。IT企業や製造業におけるソフトウェア導入の現場では、日常的に起こり得る重要な問題です。
【相談者】
東京都内で産業用ロボットのシステム開発を手掛ける株式会社テック・イノベーション 代表取締役 佐藤氏
【相談内容】
当社は今回、ドイツのソフトウェア会社から、工場自動化のための制御用計算機プログラムを購入いたしました。このソフトウェア自体のライセンス料は一億円ですが、プログラム自体は三枚のDVDに記録されて日本に送られてきます。DVD自体の価格は一枚数百円程度です。
佐藤氏は、通関業者に対して一億円のライセンス契約書を提示しましたが、輸入申告価格をどのように設定すべきか悩んでいます。一億円として申告すれば多額の消費税が発生しますが、メディア代金の数千円だけで申告すれば、後から税関に脱税を疑われるのではないかと不安に感じています。ソフトウェアという「目に見えない価値」を記録した「目に見えるメディア」を輸入する際、法的に正当な申告価格はどのように算出されるべきでしょうか。また、インボイス(仕入書)にはどのような記載が必要となるのでしょうか。
このような事例は、物理的なメディアを介してソフトウェアを導入する全ての企業にとって、避けては通れない関税評価上の重要論点です。適正な輸入申告価格が何かを把握するためには、まずは輸入取引がどの取引に該当するかを検討することが出発点となります。そして、関税定率法や基本通達において規定された内容を適切に把握して正確に輸入申告価格を算定することが重要です。本日は、ソフトウェアを記録したキャリアメディアを輸入する場合の考え方をご紹介いたします。
1 キャリアメディアの輸入における原則的規定
例えば、何らかのソフトウェアを記録したDVDを輸入する場合を想定してみてください。この場合、輸入申告価格はどのように考えるべきでしょうか。この点を検討する上において、重要な規定が関税定率法およびその基本通達で定められています。
まず、関税評価の根本となる法律を確認いたします。
第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加えた価格(以下「取引価格」という。)とする。
この規定によれば、原則として「商品の対価として支払った総額」が課税の基礎となります。佐藤氏のケースでは一億円が「現実に支払われた価格」に該当するため、原則通りであれば一億円が申告価格となります。しかし、ソフトウェアについては、その特殊性に鑑み、国際的な合意に基づく特別なルールが存在します。
次に、基本通達における定義を確認します。
関税定率法基本通達四-一(輸入取引の意義)
(一) 法第四条第一項に規定する輸入取引とは、本邦に拠点を有する者が買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなったものをいい、通常、現実に貨物を輸入することとなる売買がこれに該当する。
この「輸入取引」によって持ち込まれるソフトウェア記録メディアについて、基本通達は具体的な算定方法を示しています。
2 ソフトウェアとキャリアメディアの定義
関税定率法基本通達四-五(特殊な貨物に係る課税価格の決定の原則の特例)
(一)イ データ処理機器に使用されるソフトウェア(以下「ソフトウェア」という。)を記録したキャリアメディア(磁気テープ、磁気ディスク、カード、集積回路、半導体等これらに類する物品を含む。以下同じ。)の輸入申告があった場合において、当該キャリアメディアの価格(以下「メディア価格」という。)と当該ソフトウェアの価格(以下「ソフトウェア価格」という。)とが区別されているときは、当該ソフトウェア価格は、メディア価格には含まれないものとして法第四条の規定を適用する。
ここで、同通達が定義する「ソフトウェア」と「キャリアメディア」の内容を精査する必要があります。
【通達上のソフトウェアの定義】
データ処理機器の運用に関係する計算機プログラム、手順、規則またはデータ処理機器に使用されるデータをいう。
キャリアメディアに含まれないもの
集積回路、半導体又はこれらに類する物品で、当該物品の中に計算機プログラム等が組み込まれているもの。
また、以下のものは本特例の対象外であると明記されています。
サウンド、シネマチック及びビデオ・レコーディング
したがって、キャリアメディアに記録されたソフトウェアが、当該通達上のソフトウェアに該当するかどうかを慎重に判断する必要があります。例えば、DVDの中に映画や音楽が記録されている場合は、本ルールの適用はなく、コンテンツの価値を含めた全額が課税対象となります。
3 輸入申告価格の算定実務と条件
通達四-五(一)イの規定によれば、ソフトウェア価格とメディア価格が「区別されている」場合には、ソフトウェアの価値を申告価格から除外することが可能です。これを実務上の計算式で表すと以下のようになります。
輸入申告価格 = キャリアメディア自体の価格 + 日本までの運賃および保険料
ここで重要となるのは「区別されている」という状態の証明です。具体的には、インボイスにおいてメディア代金とソフトウェア代金(ライセンス料)が別々に記載されている必要があります。
【キャリアメディア輸入時の評価判定表】
項目|ソフトウェア(データ処理用)|サウンド・映画・ビデオ
--------|----------------|----------------
課税価格の基礎|メディア自体の価格(条件あり)|コンテンツを含む全額
評価の根拠|定率法基本通達四-五(一)イ|原則的な取引価格の適用
区別の要件|インボイス等で明確に分離|区別の有無にかかわらず全額
対象メディア|DVD、USB、磁気テープ等|すべての記録媒体
算入される費用|メディア代、日本までの運賃等|コンテンツ代、運賃、保険料等
佐藤氏の事例に当てはめると、一億円のライセンス料とメディア代数千円をインボイスで明確に切り分けていれば、数千円(プラス運賃)を輸入申告価格として提示することが法的に認められることになります。これにより、一億円に対して課されるはずだった輸入消費税を一気に圧縮することが可能となります。
4 誤解が生じやすいケースと注意点
ソフトウェア入りのメディア輸入に関しては、実務上で多くの落とし穴が存在します。
(一)組み込まれたソフトウェアの扱い
前述の通り、半導体チップそのものや、ハードウェアに内蔵(プリインストール)された状態で輸入されるソフトウェアについては、この分離ルールは適用されません。これらはハードウェアの一部として評価されるため、ソフトウェアの価値を差し引くことはできません。
(二)メディア代金が不明な場合
インボイスに「一億円」と一括記載されており、メディア代金の詳細が不明な場合には、税関は原則通り総額に対して課税を行います。後から「メディア代は数百円のはずだ」と主張しても、客観的な証拠(別個の領収書や契約書)がない限り、否認されるリスクが極めて高いといえます。
(三)ダウンロード販売との違い
現在主流となっているオンラインでのダウンロードによるソフトウェア購入は、物理的な「貨物」が国境を越えないため、そもそも関税法の対象外となります。しかし、一度物理的なメディア(キャリアメディア)を介して輸入する形態をとる以上、たとえ後でダウンロードが可能であっても、その時点でのメディアの輸入手続は関税法に従わなければなりません。
5 不適切な輸入申告に伴うリスク
間違った輸入申告価格を申告してしまうと、つまるところ脱税と同じ状況となってしまいますので輸入申告価格は慎重に算定することが必要です。このような検討を経ることなく間違ってしまうと、数十%にのぼる追徴税や、最悪のケースでは刑事事件化されてしまう場合もあります。
申告漏れが発覚した場合の主なペナルティ
一 過少申告加算税
不足税額の十パーセントから十五パーセントが課されます。
二 重加算税
事実を隠蔽または仮装したとみなされた場合、三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い罰則が課されます。
三 延滞税
本来の納期限からの日数に応じて利息相当額が徴収されます。
四 刑事罰
悪質な脱税と判断された場合、関税法第百十条に基づき、十年以下の懲役もしくは一千万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
特にソフトウェアの輸入では、契約書上の金額とインボイス上の金額に大きな開きが生じやすいため、税関の事後調査において「なぜメディア代だけで申告しているのか」という点について、法的な説明ができなければなりません。説明を誤ると、意図的な過少申告(アンダーバリュー)と断定される危険性があります。
6 専門家による事前相談の重要性
データ処理機器に使用されるソフトウェアを記録したキャリアメディアの輸入に関しては誤解も多く、また通達の解釈も非常に専門的であるため、十分注意する必要があります。
当事務所では、輸入ビジネスを開始される企業様に対し、以下の観点からリーガルチェックを行っております。
一 該当するソフトウェアが通達四-五(一)イの定義(データ処理機器用)に合致するか。
二 インボイスの記載が税関の求める「分離・区別」の基準を満たしているか。
三 海外の売手との契約書において、ライセンス料とメディア代の性質が明確に分けられているか。
四 ダウンロード権との併用など、複雑な取引形態における適正な課税価格の算定。
これらの事前の備えにより、輸入時のスムーズな通関を実現し、将来の税関事後調査に対する強力な防御を固めることが可能となります。
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、輸出入や貿易関連のトラブル、事前教示制度の利用や税関事後調査をはじめとする税関対応等を幅広く取り扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提供することができます。輸入申告価格を正確に把握することが難しい場合等、少しでも不安がある場合には、まずはご相談ください。
【具体的なサポートメニュー】
一 キャリアメディア輸入に係る課税価格適正化診断。
二 税関事前教示制度の利用手続き代行。
三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉。
四 不服申立て、関税還付請求、税関訴訟の代理。
輸入ビジネスを継続的に業として行う場合、関税法や関税定率法の理解不足は、企業の存続を揺るがす甚大なリスクとなります。特に「見えない価値」であるソフトウェアの扱いは、専門家の知見なしには適切な処理が困難です。
結びに代えて:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
輸入申告は、単なる事務作業ではありません。それは国に対する納税申告であり、法的な義務の履行です。正しい知識を持ち、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
第三国引渡し取引の法的検討
はじめに:相談事例のご紹介
本日は、グローバルなサプライチェーンにおいて頻繁に問題となる、第三国を経由して貨物を輸入する際の「輸入取引」の該否について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。複雑な物流経路を持つ企業様にとって、非常に重要な視点となります。
【相談者】
東京都内で精密機械の輸入販売を行う株式会社テクノ流通 代表取締役 A氏
【相談内容】
「当社は今回、ドイツのサプライヤーであるB社から高性能なセンサーを輸入することになりました。しかし、物流の効率化を図るため、B社とは「CIF シンガポール条件」で契約を締結し、一旦シンガポールにある当社の提携倉庫に貨物を搬入しました。シンガポールの倉庫では数週間、在庫として保管し、日本の顧客からの注文が入ったタイミングで、当社の指示により日本へ発送しました。
当社としては、ドイツのB社から購入した際の単価(シンガポールまでの運賃込み)を基礎として輸入申告を行えばよいと考えていました。ところが、通関業者から「このケースではドイツB社との契約は関税法上の輸入取引に該当しない可能性がある」と指摘を受け、困惑しております。仕入れ価格が申告価格のベースにならないとなれば、一体どのような価格を申告すべきなのでしょうか。また、申告を誤った場合の法的リスクについても詳しく教えてください。」
このような事例は、ハブ港を活用した在庫管理を行う企業において非常に多く見受けられます。適正な輸入申告価格が何かを把握するためには、まずは輸入取引がどの取引に該当するかを検討することが出発点となります。そして、関税定率法や基本通達において規定された輸入取引に関するルールを踏まえて正確に検討することが重要です。以下、詳しく解説いたします。
1 第三国において引き渡しがなされた場合の輸入取引該当性について
(1)輸入取引の定義と原則
輸入取引の該否を検討する上で、まずはその法的な定義に立ち返る必要があります。関税定率法第四条第一項において、輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加えた価格(取引価格)とすると規定されています。
ここで重要となるのが、関税定率法基本通達四-一(一)の規定です。
(関税定率法基本通達四-一 輸入取引の意義)
輸入取引とは、本邦に拠点を有する者が買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなったものをいい、通常、現実に貨物を輸入することとなる売買がこれに該当する。
この定義には、二つの重要な要素が含まれています。第一に、本邦に拠点を有する者が「買手」であること。第二に、その売買が「貨物を日本に到着させることを目的」として行われ、「現実に到着する原因」となったことです。
(2)第三国引渡しの問題点
設例のように、輸入者が輸入貨物を本邦へ引き取ることを目的として、F国所在のサプライヤーと売買を行ったとします。そして、本件輸入貨物をE国で一時保管することとし、サプライヤーとの間では、CIF(E国港)条件で売買契約を締結したとします。
この場合、以下の理由により、F国サプライヤーと日本輸入者の間の売買は「輸入取引」とは認められない可能性が高くなります。
一 発送目的の断絶
CIF(E国港)条件での売買は、法的には「貨物をE国に到着させること」を目的とした取引です。サプライヤーの義務はE国の港で完了しており、その時点では「日本への輸出」を目的とした発送行為とはみなされません。
二 到着原因の変化
貨物が日本に運び込まれる際、それは既に輸入者がE国内の保税倉庫で保管している「自己所有貨物」となっています。当該貨物の本邦への到着をもたらしているのは、サプライヤーとの売買契約そのものではなく、日本国内の需要に応じた輸入者自身の「出荷計画」や「自社在庫の移動指示」であると認められます。
三 自己所有貨物の引取り行為
以上のことから、本件輸入貨物は、関税定率法第四条第一項に規定する「輸入取引」により輸入されるものとは認められません。つまり、ドイツのメーカーへ支払った価格(現実支払価格)をそのまま申告価格の基礎にすることはできず、同項の規定により課税価格を計算することはできないこととなります。
(3)輸入取引に該当しない場合の価格決定(第四条の二以下)
輸入取引が存在しないと判断された場合、課税価格は法第四条の二以下の規定、いわゆる「逆算方式」や「算定価格方式」等により計算することとなります。
(関税定率法第四条の二 同種の貨物又は類似の貨物に係る取引価格による課税価格の決定)
(関税定率法第四条の三 国内販売価格又は製造原価に基づく課税価格の決定)
(関税定率法第四条の四 特殊な貨物に係る課税価格の決定の原則の特例)
実務上は、日本国内での販売価格から国内経費や利益を差し引いて算出する「逆算方式(第四条の三第一項)」などが検討されますが、これは通常の取引価格による申告よりも計算が極めて複雑であり、税関との調整も難航する傾向にあります。
2 実務で役立つ輸入取引該否判定表
どのような場合に輸入取引と認められ、どのような場合に認められないのかを整理した比較表を作成いたしました。ワードデータ等に貼り付けて、社内での取引スキーム検討にご活用ください。
【輸入取引の該当性に関する判定基準一覧表】
取引の形態|日本到着の直接原因|輸入取引の成否|課税価格の計算根拠
--------|----------|--------|----------
直送取引(F国から日本へ)|サプライヤーとの売買契約|成立する|現実支払価格(法四条一項)
経由地での積み替え(B/L直送)|サプライヤーとの売買契約|成立する|現実支払価格(法四条一項)
第三国での転売(洋上転売等)|転売者との売買契約|成立する|転売価格(法四条一項)
第三国引渡し後の自社出荷|輸入者の出荷計画|成立しない|逆算方式等(法四条の二以下)
第三国で加工後の輸入|加工業者との契約または出荷計画|成立しない|算定価格方式等(法四条の二以下)
このように、契約条件が「CIF 日本港」なのか「CIF 第三国港」なのか、あるいは誰の指示で日本への発送が行われたのかによって、法的な扱いは劇的に変化します。
3 輸入申告価格の算定ミスが招く深刻なリスク
間違った輸入申告価格を申告してしまうと、つまるところ脱税と同じ状況となってしまいます。そのため、輸入申告価格は慎重に算定することが必要です。
(1)多額の追徴課税と過少申告加算税
「輸入取引」に該当しないにもかかわらず、安易に仕入れ価格で申告し、それが税関事後調査で否認された場合、本来あるべき価格(通常は仕入れ価格より高くなる逆算価格等)との差額分について、関税及び消費税が追徴されます。これに加え、不足税額の十パーセントから十五パーセントにのぼる過少申告加算税が課されることとなります。
(2)重加算税の適用リスク
事実を隠蔽したり、仮装したりしたとみなされた場合、三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い重加算税が課されます。第三国を経由させるスキームにおいて、あえて低い仕入れ価格を利用するために虚偽のインボイスを提示したような場合は、この対象となる可能性が非常に高くなります。
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
(3)刑事事件化の恐れ
悪質な脱税行為と判断された場合、最悪のケースでは刑事事件化されてしまう場合もあります。法人の代表者が逮捕されたり、多額の罰金が科されたりすれば、企業の社会的信用は失墜し、ビジネスの継続は困難となるでしょう。
特に輸入取引の該当性については、関税定率法や基本通達において細かく規定されておりますが、万一誤った解釈を行ってしまうと、輸入申告価格が適正な価格から大きく異なるものとなってしまうリスクがあります。
4 関税評価における加算要素の重要性
輸入取引が認められる場合であっても、現実支払価格に加算すべき要素(アシスト費用やロイヤリティ等)を忘れてはなりません。第三国を経由する取引では、特に以下の項目が漏れやすいため注意が必要です。
一 中継地での保管・荷役費用
これらの費用を買手が負担している場合、日本までの運送に関連する費用として課税価格に算入しなければならない場合があります。
二 買付手数料と仲介手数料の混同
現地でパートナーに動いてもらう際、そのパートナーが「買付代理人」として認められる極めて限定的なケースを除き、支払う手数料は加算要素となります。
三 無償提供物品(アシスト)の費用
日本から中継地の工場へ金型や原材料を送っている場合、その費用を製品価格に上乗せして申告しなければなりません。
これらの加算漏れも、税関の事後調査では徹底的に追及されるポイントです。
5 専門家によるリーガルチェックの重要性
グローバルな取引スキームを構築する際には、物流の効率性だけでなく、関税法上の適合性を事前に検証しておくことが不可欠です。
【当事務所が推奨するコンプライアンス対策】
一 取引開始時のスキーム診断
新しいルートでの輸入を開始する前に、その契約条件(インコタームズ)が輸入取引の認定にどのような影響を与えるかを法的に分析すること。
二 事前教示制度の活用
判断が難しい複雑な取引については、税関に対して公式に見解を求める「事前教示制度」を利用し、法的安定性を確保すること。
三 契約書の適正化
実態に即した、かつ関税法上の不利益を被らないような売買契約書や業務委託契約書を作成すること。
四 事後調査への備え
過去の取引を振り返り、もし誤った申告を行っていた場合には、自主的に修正申告を行うことでペナルティを軽減すること。
6 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、輸出入や貿易関連のトラブル、事前教示制度の利用や税関事後調査をはじめとする税関対応等を幅広く取り扱っております。
代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提供することができます。
輸入申告価格を正確に把握することが難しい場合等、少しでも不安がある場合には、まずはご相談ください。
【当事務所が提供できる具体的なサービス】
一 第三国経由取引における輸入取引該否のリーガルアドバイス
二 法第四条の二以下に基づく課税価格の算定支援
三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との交渉
四 不当な課税処分や重加算税に対する不服申立て、税関訴訟の代理
結びに代えて:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入取引の認定基準と実務的留意点
はじめに:仮の相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスにおいて最も基本的でありながら、最も判断が難しいとされる輸入取引の考え方について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
東京都内で海外製品の輸入代理店を営む株式会社グローバルエッジ 代表取締役 佐藤氏
【相談内容】
「当社は今回、アメリカの製造メーカーであるA社から、特殊な産業用ドローンを輸入することになりました。しかし、取引の構造は少し複雑です。当社はまず、香港にある商社B社と売買契約を締結し、B社がアメリカのA社に発注をかけるという形をとっています。貨物はアメリカのA社から日本の当社の倉庫へ直送されますが、代金の支払いは香港のB社に対して行います。
佐藤氏は、インボイス(仕入書)の発行元が香港のB社であるため、B社との契約価格を輸入申告価格(課税価格)とすればよいと考えていました。しかし、通関業者からは、実質的な価格決定権がどこにあるのか、また誰が製品の不具合等のリスクを負っているのかによって、輸入取引の該当性が変わる可能性があると指摘されました。
もし申告価格の根拠となる取引を間違えてしまった場合、意図せずとも脱税とみなされるリスクがあるのではないかと不安に感じています。法的な根拠に基づいた、正しい輸入取引の特定方法を教えてください。」
このような事例は、複数の国や企業が介在する現代のサプライチェーンにおいて非常に多く見受けられます。適正な輸入申告価格を把握するためには、まずは輸入取引がどの取引に該当するかを検討することが出発点となります。特に複数の取引が関係する場合には、輸入取引に該当する取引を正確に把握することは難しく、慎重な検討が必要です。以下、詳しく解説いたします。
1 輸入取引を定義する法的な根拠と必須の規定について
輸入取引を検討する上において、必須となる規定を整理いたします。これらは、税関が事後調査などで申告の妥当性を判断する際の絶対的な基準となります。
(1)課税価格決定の原則
関税定率法(以下「法」といいます。)第四条第一項において、輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加えた価格とすると規定されています。
ここでいう取引価格の基礎となるのが現実支払価格ですが、これについては関税定率法基本通達において詳細に規定されています。
(2)輸入取引の意義
関税定率法基本通達(以下「通達」といいます。)において、「輸入取引」とは、本邦に拠点を有する者が買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなったものをいい、通常、現実に貨物を輸入することとなる売買がこれに該当するとされています。
(3)複数取引が存在する場合の判定
通達四-一(二)において、貨物が輸入されるまでに当該貨物について複数の取引が行われている場合には、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった売買が「輸入取引」となるとされています。
(4)買手及び売手の実質的な定義
通達四-一(三)において、輸入取引における「買手」及び「売手」とは、実質的に自己の計算と危険負担の下に輸入取引をする者をいい、具体的には、自ら輸入取引における輸入貨物の品質、数量、価格等について取り決め、瑕疵、数量不足、事故、不良債権等の危険を負担する者とされています。
2 実質的な買手と売手の認定における具体的判断要素
通達四-一(三)に規定される自己の計算と危険負担という概念は、実務上極めて重要です。単に契約書に買手として名前が記載されているだけでは不十分であり、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
(一)品質、数量、価格の決定権
誰が海外の輸出者と直接交渉し、商品の仕様や単価を決定したかという点です。代行業者が中間に介在していても、最終的な決定権が日本国内の依頼主にあるならば、その依頼主が実質的な買手となります。
(二)瑕疵担保責任(契約不適合責任)の帰属
届いた商品に不具合があった場合、誰が輸出者に対してクレームを入れ、損害賠償を請求する権利を有しているかという点です。また、その損害を最終的に誰が被るのかというリスクの所在が問われます。
(三)数量不足や輸送事故の危険負担
船積みから到着までの間に貨物が滅失したり損傷したりした場合の損害を、誰が自己の責任として引き受けているかという点です。
(四)代金の支払義務と不良債権のリスク
輸出者に対する送金義務を負い、かつ資金調達の責任を負っているのは誰か。また、転売先が倒産した場合などにその代金回収不能の損害を直接受けるのは誰かという点です。
3 輸入取引を正確に判定するための実務表
以下の表は、複数の当事者が介在する取引において、輸入取引の当事者を特定するためのチェックリストです。ワードデータ等に貼り付けてそのままご活用いただける形式で作成いたしました。
【輸入取引当事者の実質的認定チェック表】
項 目|確 認 す べ き 実 態|判定のポイント
--------|----------------|------------
価格決定権|商品の単価を最終的に合意したのは誰か|計算の主体
品質・仕様の指定|製品のスペックを詳細に指示したのは誰か|計算の主体
瑕疵担保責任|不良品発生時の損害を最終的に負うのは誰か|危険負担
輸送中の事故リスク|保険を付保し、事故の損失を負うのは誰か|危険負担
決済の最終責任|海外への送金原資を負担しているのは誰か|計算の主体
在庫リスク|販売先が決まる前に在庫を抱えるのは誰か|危険負担
これらの要素を検討した結果、中間業者が単に手数料を受け取るだけでリスクを負っていない場合には、その中間業者は買手ではなく、中間業者を飛ばした直接の売買が輸入取引と認定されることになります。
4 複数取引が連鎖する場合の輸入取引の特定
通達四-一(二)に示される複数取引の連鎖は、近年のグローバルな転売ビジネスにおいて頻繁に問題となります。例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
一 海外の製造業者A社が、同じく海外の卸売業者B社に販売する。
二 B社が日本国内の輸入商社C社に転売する。
三 C社が日本国内の小売業者D社に販売し、貨物はA社からD社へ直送される。
この場合、どの売買が日本に貨物を到着させる直接の原因となった輸入取引になるでしょうか。原則として、日本に拠点を有する買手が関与し、その契約によって貨物が日本に向けて発送されることとなった売買が輸入取引となります。
もし、C社がB社から購入した時点で貨物の仕向け地が日本に確定しており、その契約に基づいて日本への輸送が開始されたのであれば、B社とC社の間の売買が輸入取引となります。一方で、C社が輸入者としての名義のみを貸しており、実質的な価格決定やリスク負担をD社が行っている場合には、B社とD社の間の売買、あるいはA社とD社の間の売買が輸入取引と認定される可能性が生じます。
5 輸入申告価格の算定を誤った場合の深刻なリスク
間違った輸入申告価格を申告してしまうと、つまるところ脱税と同じ状況となってしまいますので輸入申告価格は慎重に算定することが必要です。このような検討を経ることなく間違ってしまうと、多大な不利益を被ることになります。
(一)過少申告加算税
事後調査等により、本来の課税価格よりも低く申告していたことが発覚した場合、不足税額の十パーセントから十五パーセントにのぼる過少申告加算税が課されます。
(二)重加算税
事実を隠蔽したり、仮装したりしたとみなされた場合には、三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い重加算税が課されます。輸入取引の当事者を意図的に偽る行為は、この隠蔽・仮装に該当すると判断されるリスクが非常に高いといえます。
(三)延滞税
本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息に相当する延滞税が徴収されます。
(四)刑事罰
悪質な脱税行為とみなされた場合には、関税法違反として刑事事件化される可能性があります。
偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
このように、輸入取引の特定を誤ることは、単なる事務的なミスでは済まされない重大な経営リスクに直結いたします。
6 関税評価における加算要素の重要性
輸入取引を特定した後は、その取引価格に加算すべき要素がないかを精査しなければなりません。取引価格には含まれていないが、買手が別途負担している以下の費用は、課税価格に算入しなければなりません。
一 輸入港までの運賃及び保険料
二 買手により負担される仲介料その他の手数料(買付手数料を除く)
三 輸入貨物の生産に関連して、買手により無償で、又は値引きして提供された物品又は役務の費用(アシスト費用)
四 輸入貨物に係る特許権、商標権等の使用の対価(ロイヤリティ)
特にロイヤリティやアシスト費用は、輸入取引の当事者が誰であるかという問題と密接に関わります。実質的な買手が誰であるかによって、誰が支払っている費用を加算すべきかが変わるため、取引構造の全体像を正確に把握することが不可欠です。
7 輸入代行取引における売手・買手の認定
近年、個人事業主や中小企業が輸入代行業者を利用して海外製品を仕入れるケースが増えています。この場合、税関は誰を輸入者(納税義務者)として見ているのでしょうか。
通達四-二(一)によれば、輸入取引の売手及び買手とは、実質的に自己の計算と危険負担に基づいて当該輸入取引を行う者をいうとされています。
輸入代行業者が、単に注文を取り次ぎ、配送の手配を代行しているだけで、商品の品質不良によるリスクを一切負わず、在庫も持たない場合には、代行業者は買手とは認められません。この場合、実質的な買手は代行業者に依頼した国内の個人や企業であり、その依頼主が輸入申告価格の適正性について全責任を負うことになります。
8 税関事後調査への備えと専門家によるリーガルチェック
税関事後調査は、輸入許可から数年が経過した後に、突然行われることが一般的です。その際、税関職員は契約書、仕入書、銀行の送金記録、電子メールの履歴などを詳細に調査し、申告価格の根拠となった取引の実態を解明しようとします。
当事務所が推奨するコンプライアンス対策は以下の通りです。
一 取引開始時のスキーム診断
新しい商流を構築する際に、誰が実質的な買手・売手であるかを法的に整理し、申告の根拠を明確にしておくこと。
二 契約書の整備
危険負担の所在や、価格の決定方法を契約書に明文化し、実態と契約に齟齬がないようにしておくこと。
三 事前教示制度の活用
判断が難しい複雑な取引については、事前に税関に対して公式な見解を求めること。
四 定期的な自主点検
過去の輸入申告について、加算要素の漏れや取引の特定に誤りがないかを内部監査すること。
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輸入申告価格を正確に把握することが難しい場合等、少しでも不安がある場合には、まずはご相談ください。
当事務所が提供できる具体的なサービス
一 輸入取引スキームの適法性診断および関税評価のアドバイス
二 輸入代行契約、売買契約書等のリーガルチェックおよび作成
三 税関事後調査への立ち会い、および当局との法的な交渉
四 不当な課税処分や重加算税に対する不服申立て、税関訴訟の代理
結びに代えて:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道
輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
輸入取引における事前教示制度の活用
はじめに:具体的な相談事例の紹介
本日は、輸入実務において法的安定性を確保するための極めて重要なツールである事前教示制度について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、以下の架空事例をご覧ください。輸出入ビジネスを中長期的に展開される企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっているかと存じます。
【相談者】
東京都内で精密機器の製造販売を行う株式会社ミライ 代表取締役 佐藤氏
【相談内容】
当社は今年から、ベトナムの工場に原材料を無償で提供し、加工を委託して完成品を輸入する委託加工貿易を開始いたしました。この一連の物流手続を円滑に進めるため、国内の物流コンサルティング会社である株式会社エックスに対し、輸出入の事務手続を全面的に委託しております。
佐藤氏は、この株式会社エックスに支払う業務委託手数料が、輸入時の関税申告価格(課税価格)にどのように影響するのかを懸念しています。「海外の工場へ原材料を送る際の手続費用と、完成した製品を日本へ戻す際の手続費用が、それぞれ関税の対象になるのかどうかが分かりません。もし申告漏れがあれば、後の税関事後調査で大きなペナルティを受ける可能性があると聞き、不安に感じています。事前教示制度を利用して、あらかじめ税関の見解を確認したいと考えていますが、どのような点に留意すべきでしょうか」
このような事例は、サプライチェーンが複雑化する現代の貿易実務において頻繁に発生いたします。輸入や輸出を業として行われている方は、事前教示制度という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
事前教示制度とは、税番(統計品目番号)や関税評価について実際の輸出入を行う前に税関に対して照会を行い、税関側の判断を確認するための制度です。
税関のホームページにおいては、事前教示制度における実際の回答内容が公表されております。本日は、その中から実務の参考となる一例をご紹介いたします。
1 事案の概要:委託加工貿易における手数料の取扱い
今回の事案は、委託加工貿易という特殊な取引形態における、第三者への業務委託手数料の算入要否が主な争点となっています。
(1)取引の具体的な構造
日本所在のA社はE国所在の製造者であるB社との間で委託加工貿易を締結いたしました。日本から無償で提供した材料を加工させ、当該加工によって出来上がった製品である機器をCIF条件(運賃・保険料込み条件)にて輸入しています。
そして、A社は輸出及び輸入の手続を日本国内のX社に業務委託をしています。
(2)照会者(A社)による法的見解
照会者の見解は以下の通りです。
輸入者と輸出者は、輸入貨物の品質、数量、価格等について取り決め、瑕疵や数量不足等の危険を負担する者であることから、輸入者と輸出者による取引となります。そして、当該取引においてX社は、輸入者と締結した業務委託契約に基づき、輸入者の指示により輸入者の代理として当該取引に関する通関業務を行う手助けをしている者であることから、当該契約のうち輸入業務に関して支払われる対価の額は、関税定率法第4条第1項第2号イの仲介料その他の手数料に該当せず、課税価格に算入する必要はないものと考えます。他方で、輸出に関してX社に支払う手数料は、関税定率法第4条第1項第3号イの無償提供材料に係る費用の一部として、課税価格に算入する必要があると考えます。
2 税関による回答内容と法的帰結
税関による回答内容は、照会者の見解を補完し、関税定率法の規定に則った明確な区分を示しています。
(1)輸出に係る手数料の算入
輸入者がX社に支払う業務委託手数料のうち、E国への無償支給材料の輸出に係る業務に対する手数料については、輸入者が関税定率法第4条第1項第3号イに規定されている「輸入貨物に組み込まれている材料、部分品又はこれらに類するもの」を輸出者に提供するために要した運賃等の費用であって買手により負担されるものに該当することから、輸入貨物の課税価格に算入されます。
(2)輸入に係る手数料の不算入
他方で、E国からの輸入貨物の輸入に係る業務に対する手数料については、関税定率法第4条第1項第2号に規定されている「輸入貨物に係る輸入取引に関し買手により負担される手数料又は費用」には該当しないことから、輸入貨物の課税価格に算入されません。
この判断のポイントは、その手数料が原材料の提供という加算要素に関連するものか、それとも単なる輸入手続の代行であるかという点にあります。
3 関税評価の適正化に向けた専門的な解説
ここで、今回の判断の根拠となった関税定率法の具体的な条文を確認していきます。
(1)無償提供材料(アシスト)に関する規定
関税定率法第4条第1項第3号は、輸入貨物の生産に関連して買手が無償または値引きして提供した材料等の費用を加算要素として定めています。
関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)第1項第3号
三 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により直接又は間接に、無償で又は値引きして提供された次に掲げる物品又は役務の費用(当該費用に、当該物品又は役務を提供するために要した運賃、保険料その他運送に関連する費用が含まれていないときは、これらの費用を加えた費用)
イ 当該輸入貨物に組み込まれている材料、部分品又はこれらに類するもの
今回のケースで、X社に支払った輸出事務手数料は、この「材料を提供するために要した費用」の一部であるとみなされました。つまり、原材料そのものの価格だけでなく、それを海外の工場へ届けるための付随費用(事務手数料を含む)もすべて、最終製品の価値を構成するものとして課税価格に算入しなければならないという厳格なルールが適用されています。
(2)手数料の区分に関する規定
一方で、輸入の際の手数料がなぜ算入されないのかについては、同法第4条第1項第2号の解釈が重要です。
関税定率法第4条第1項第2号
二 当該輸入貨物に係る輸入取引のために買手により負担される仲介料その他の手数料(買付けに関し当該買手を代理する者に対し、当該買付けに係る業務の対価として支払われるものを除く)及び容器の費用
関税評価上、加算すべき手数料とは、売手のために支払われる販売手数料や、売手と買手の双方を媒介する仲介手数料を指します。今回のX社は、あくまで買手の代理人として輸入事務を代行しているに過ぎないため、ここで言う加算対象の手数料には該当しないという判断がなされました。
4 実務で活用できる手数料の課税判断一覧表
以下に、今回の事前教示の事例を踏まえた実務的な判断基準をまとめました。
【業務委託手数料の課税価格算定判定基準一覧表】
確認対象となる業務の内容|課税価格への算入の要否|法的な判断の根拠
------------|-----------|------------
無償提供材料の輸出事務費|算入する(課税対象)|関税定率法第4条第1項第3号
無償提供材料の海外運賃|算入する(課税対象)|同上(アシスト費用の一部)
完成品の輸入事務手数料|算入しない(非課税)|定率法第4条第1項第2号対象外
買付業務の代理人手数料|算入しない(非課税)|同条第1項第2号カッコ書き
販売を仲介する者への報酬|算入する(課税対象)|同条第1項第2号(仲介料)
輸入港までの海上運賃|算入する(課税対象)|同条第1項第1号(運賃等)
このように、一口に手数料と言っても、その目的が材料の提供に関わるものか、それとも輸入手続きに関わるものかによって、全く異なる取扱いとなります。
5 事前教示制度の活用における戦略的意義
事前教示制度は、単に税関に質問をするだけの手続きではありません。この制度には、以下のような極めて大きな実務的メリットが存在します。
(1)法的拘束力の確保
事前教示に対して書面による回答を受けた場合、その回答内容は原則として実際の通関において尊重されます。これにより、輸入後の事後調査において申告価格が不当であると指摘されるリスクを劇的に低減させることが可能です。
(2)予見可能性の向上によるコスト計算の適正化
輸入を開始する前に正確な税率や課税価格が判明することで、販売価格の決定や収益予測をより精緻に行うことができます。予期せぬ追徴課税による経営へのダメージを未然に防ぐことが、グローバルビジネスの安定に繋がります。
(3)社内コンプライアンス体制の証明
税関に対して自ら照会を行う姿勢は、企業のコンプライアンス意識の高さを証明する材料となります。これは将来的に、AEO(認定事業者)の資格取得を目指す際などにもプラスの評価として働きます。
6 不適切な情報提供が招く深刻な法的リスク
事前教示制度を利用する際には、正確な情報を税関に対して伝えることが非常に重要です。間違った情報を踏まえた税関からの回答では何らの意味もありません。
【間違った申告が行われた場合のペナルティ】
もし事前教示の結果を誤解したり、事実と異なる前提条件で回答を得ていたりした場合、実際の輸入時に以下のような処分を受ける可能性があります。
一 過少申告加算税の賦課
不足していた税額の10パーセント(一定額を超える部分は15パーセント)の加算税が課されます。
二 重加算税の賦課
事実を隠蔽または仮装して申告したと判断された場合、35パーセントという極めて重い重加算税が課されます。
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
三 回答の効力喪失
照会内容と実際の取引実態に相違があることが判明した場合、せっかく得た事前教示の回答はその効力を失います。税関からの回答を盾に身を守ることができなくなり、過去数年分の全取引を遡って追徴されるという最悪の事態を招きかねません。
7 事前教示制度を利用する際の専門家によるサポート
税関に対してどのような情報をどのように伝え理解してもらうかということはなかなか難しいところでもあり、慎重に執り行う必要があります。
当事務所は、輸出入や貿易関連のトラブル、事前教示制度の利用や税関事後調査をはじめとする税関対応等を幅広く取り扱っております。事前教示制度の利用をご検討いただいている場合には、まずはご相談ください。
代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
【弁護士による具体的な支援内容】
一 照会内容の適法性および妥当性の精査
二 税関へ提出する説明書類および契約書のリーガルチェック
三 複雑な取引スキーム(委託加工貿易、多国間貿易等)の図解と整理
四 回答を得た後の運用マニュアルの策定支援
事前教示制度においては、単に形式的な申請書を書くのではなく、関税定率法等の法令や過去の判例、通達に基づいた論理的な主張を組み立てることが、望ましい回答を得るための鍵となります。
8 まとめ:適正な関税評価が企業の未来を安定させる鍵
輸入ビジネスを中長期的に成功させるためには、その背後にある法的リスクを正確にコントロールすることが不可欠です。今回ご紹介した委託加工貿易における手数料の事例は、氷山の一角に過ぎません。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、事前教示制度を賢く活用すること。その一歩が、貴社のグローバルな信頼を勝ち取り、予期せぬリスクから会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
犯則調査にご注意ください
はじめに:仮の相談事例
輸入・輸出をビジネスとして継続的に行われている方であれば、税関による「犯則調査」という言葉を一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。知り合いの会社が突然の立ち入り調査を受け、大変な事態に陥ったといった話を聞き、不安を感じている方も少なくありません。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、架空の事例をご紹介いたします。
【相談者】
東京都内でブランド時計や高級雑貨の輸入卸売を営む株式会社デイ 代表取締役 シー氏。
【相談内容】
「当社は海外のブローカーを通じて、欧州の高級時計を定期的に輸入しています。これまでは通関業者に書類を任せ、特に大きなトラブルもなく事業を進めてきました。ところが先日、突然税関の職員が数名で事務所に現れ、『犯則事件の調査』だと言って書類やパソコン、スマートフォンの提出を求められました。以前受けたことがある事後調査とは全く雰囲気が異なり、高圧的で、まるで犯罪者扱いをされているような恐怖を感じました。
聞けば、過去の輸入申告において価格を低く書き換えたインボイスを使用し、消費税を免れた疑いがあるとのことです。当社としては、現地のブローカーから送られてきた書類をそのまま出していただけで、脱税の意図はありませんでした。しかし、このままでは逮捕されるのではないか、会社が潰れてしまうのではないかと夜も眠れません。刑事事件としての対応が必要なのでしょうか、それとも行政処分で済むのでしょうか」
このような事態は、輸入実務に携わる者にとって最大の危機の一つといえます。犯則調査は、通常の「事後調査」とは法的性質が根本的に異なり、最終的には刑事罰に直結する可能性を秘めた厳格な手続きです。本記事では、犯則調査の概要から最新の動向、そして万が一対象となった場合の法的対応について詳しく解説いたします。
1 犯則調査の定義と法的性質
税関の公式な見解によれば、犯則調査とは「犯則事件について、証拠を発見・収集し、犯則事実の有無及び犯則者を確定させるための手続きであり、告発又は通告処分を終局の目標として行う調査」と定義されています。
簡単にいうと、犯則事件とは税金に関する犯罪を指しますが、税関の調査対象は主として関税及び内国消費税となります。
犯則調査の法的根拠は、関税法第11章「犯則事件の調査及び処分」に規定されています。特に関税法第119条から第149条にかけて、税関職員による質問、検査、領置(差し押さえ)などの強大な権限が明文化されています。
税関職員は、犯則事件の調査をするため必要があるときは、犯則嫌疑者若しくは参考人に対して出頭を求め、若しくは質問し、若しくはこれらの者が所持し、若しくは置き去つた物件を検査し、又はこれらの者が任意に提出し、若しくは置き去つた物件を領置することができる。
税関職員は、犯則事件の調査をするため必要があるときは、その所属する税関の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、捜索又は差押えをすることができる。
このように、裁判所の許可状に基づく強制捜査が行われることもあり、「任意の協力」とは一線を画す強制力を持った調査であることがわかります。
2 近年の犯則調査の動向と具体的な事例
税関が公表しているデータによれば、近年の犯則調査は、金地金(ゴールド)の密輸入や、ブランド品・時計の過少申告(アンダーバリュー)に対して非常に厳格化しています。
最新の傾向としては、税関長が処分(通告処分)又は告発を行った件数は相当数に上り、脱税額も数億円規模に達する事例が報告されています。
(1)金地金の密輸入事件
金の輸入には10パーセントの消費税がかかります。海外で金を購入し、税関に申告せずに密輸入して国内で転売すれば、その消費税分が不当な利益となります。これまでは旅行者を装った個人による「運び屋」が中心でしたが、最近では貨物に巧妙に隠し、組織的に脱税を図る法人の犯則事件が目立っています。
(2)高級ブランド品の過少申告事件
冒頭の相談事例のように、実際の購入価格よりも低い金額をインボイスに記載し、関税や消費税を免れる手口です。最近の事例では、海外の売手と共謀して二重のインボイスを作成し、税関には低い価格のものを提出していた法人が、電子メールの履歴から偽装が発覚し、重加算税の賦課とともに検察庁へ告発されたケースがあります。
(3)知的財産侵害物品の輸入事件
コピー商品や偽ブランド品を輸入する行為も、関税法上の犯罪(輸出入禁止物品の輸入)となります。これらは単純な脱税だけでなく、商標法違反等とも重なり、非常に重い刑事罰の対象となります。
3 犯則調査と事後調査の違い
多くの経営者が混同しやすいのが、定期的に行われる「事後調査」と、この「犯則調査」の違いです。実務上の混乱を避けるため、以下の比較表にまとめました。
【事後調査と犯則調査の比較一覧表】
項目|事後調査(税務調査)|犯則調査(犯罪捜査)
法的根拠|関税法第105条等|関税法第119条等
主な目的|申告の適正性の確認|犯罪の証拠収集と確定
調査の性質|行政上の任意調査|刑事手続に準ずる調査
強制力の有無|事実上の強制(受忍義務)|許可状に基づく強制捜査あり
終局の目標|修正申告・更正処分|告発・通告処分
事後調査は「間違っていたら直してください」というスタンスですが、犯則調査は「法を犯した証拠を固めます」というスタンスです。犯則調査の対象となった場合、非常に動転される方も多い一方で、刑事事件ではないから大丈夫だろうと高を括ってしまう方もいらっしゃいますが、これは大きな間違いです。
4 通告処分という独自の制度
犯則調査の結果、税関長が行う「通告処分」という言葉について補足いたします。
通告処分とは、税関による犯則調査の結果、その情状が罰金刑に相当すると判断された場合において、税関長がその罰金に相当する金額の納付を求める処分のことを指します。
税関長は、犯則事件の調査の結果、犯則の確信を得たときは、その理由を明示し、罰金に相当する金額、没収に該当する物件、追徴金に相当する金額及び書類の送達に要する費用(中略)を税関に納付すべき旨を通告しなければならない。
通告処分の特色は、刑事処分ではなくあくまでも行政処分であるという点にあります。この通告に従って金額を納付すれば、刑事訴追(裁判)を免れることができます。一種の「司法取引」に近い性格を持っており、前科がつかないというメリットがあります。しかし、通告に従わない場合や、悪質性が極めて高いと判断された場合は、即座に検察官へ告発され、通常の刑事裁判の手続きへと移行することになります。
5 犯則調査の対象となった場合の対応指針
犯則調査の対象となった場合、安易な対応は非常に危険であると言わざるを得ません。ただその一方で、恐怖のあまり早く事件を解決させようと虚偽の主張や自白をしてしまおうとされる方もおりますが、このような対応は絶対にとってはいけません。一度事実と異なる供述をしてしまうと、後から訂正することは極めて困難です。
以下の点に留意して冷静に対応することが求められます。
(1)黙秘権の理解
刑事手続に準ずる調査である以上、自分に不利な供述を強要されることはありません。しかし、税関側の質問を無視し続けることは、情状を悪くする可能性もあります。どの範囲で回答すべきかは、専門家の助言が不可欠です。
(2)証拠の任意提出と押収
パソコンや書類が差し押さえられると、業務が停止してしまいます。どの資料が調査に必要で、どの資料が返還されるべきか、法的な観点からのチェックが必要です。
(3)反省と改善姿勢の提示
意図的でないミスであったとしても、管理体制の不備は認めざるを得ません。調査には協力的な姿勢を見せつつ、再発防止策を提示することで、告発ではなく通告処分での解決を目指す戦略が重要となります。
冷静に対応しつつ、税関側の調査に協力し、自分が行ってしまったことの反省をしていただくことが重要ではありますが、なかなか一般の方で突然このような対応を取ることは至難の業といえるでしょう。
6 専門家による支援の重要性
まずは、冷静に落ち着いて状況を確認し、その後の流れを確認する意味でも、万一犯則調査の対象となってしまった場合には、速やかに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
輸入・輸出に関連する法律は、関税法だけでなく、消費税法、外為法、知的財産法など多岐にわたります。特に課税価格の決定(関税評価)に関する専門知識がないまま税関と交渉することは、自ら不利な状況を作り出すことに他なりません。
具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、輸出入や貿易関連のトラブル、税関事後調査をはじめとする税関対応等を幅広く取り扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の知識を持つことで、税関職員の主張が法的に妥当であるか、不当な権利侵害が行われていないかを的確に判断し、依頼者の正当な権利を守ります。
当事務所が提供できる主なサポート
一 犯則調査への立ち会いおよび質問回答のアドバイス
二 押収された書類やデータの返還交渉
三 税関長による通告処分への誘導、および検察官への告発回避のための交渉
四 不当な課税処分や重加算税に対する不服申立て
犯則調査の対象となった場合には、まずはご相談ください。一人で悩まず、早期に専門家の介入を受けることが、ビジネスの継続と個人の自由を守るための唯一の道です。
結びに代えて:適正な通関こそがビジネスの安定を支える
犯則調査という深刻な事態に直面したとき、最も重要なのは「透明性のある対応」と「法的な防御」の両立です。脱税の意図がなかったとしても、客観的な証拠が揃っていれば、税関は淡々と手続きを進めます。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、その法的基盤を盤石にするためのパートナーとして、常に最善の助言を提示いたします。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
前払金と輸入申告価格の考え方について
はじめに:具体的な相談事例の紹介
本日は、輸入取引において頻繁に活用される前払金、いわゆるデポジットや頭金と、輸入申告価格(課税価格)の決定に関する重要な論点について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
千葉県内で海外製のスポーツ用品の輸入販売を営む株式会社サクセス 代表取締役 佐藤氏
【相談内容】
「当社は3年前から、アメリカのメーカーであるエー社から、新型のトレーニング機器を輸入しています。取引の形態としては、まず契約時に代金の7割にあたる100万円を「前払金(デポジット)」として送金し、残りの3割の30万円については、製品が完成して日本へ発送される際に支払うことになっています。
製品が発送される際、エー社からは残金の「30万円」が記載されたインボイス(仕入書)が送られてきます。佐藤氏は、通関業者に対してこの30万円のインボイスを提出し、そのまま30万円を輸入申告価格として申告してきました。
ところが先日、税関から事後調査の通知が届きました。調査官からは、この前払金100万円が申告価格に含まれていないのではないかという指摘を受けています。佐藤氏は、前払金はあくまで予約金のようなもので、最終的な商品の請求書(インボイス)の金額こそが申告価格であると考えていました。もしこれが過少申告と判断された場合、過去3年分に遡って追徴課税を受けるのでしょうか。また、法的に正しい申告価格の算出方法を教えてください。」
このような事例は、輸入実務に慣れていない企業において非常に多く見受けられます。輸入者は意図的な脱税のつもりはなくても、法的な理解不足から結果として過少申告となってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、専門的な知見に基づき、前払金が輸入申告価格に与える影響とその適切な処理方法を解説いたします。
1 前払金と輸入申告価格の基本的な考え方
輸入業を行う場合、売買代金の送金等に時間が掛かることから、一定額を前払金(デポジット等という場合もあります)として送金しておき、実際の売買代金に充当するという対応を取る場合も相当程度ございます。
例えば、前払金として100万円を送金しておいて、実際の商品価格が150万円である場合、取引の際には、前払金100万円を充当し、商品代金として50万円のみを新たに支払った場合、輸入申告価格としては、150万円と50万円のいずれとして取り扱う必要があるでしょうか。
結論から申し上げますと、適正な輸入申告価格としては、前払金を含めた総額である150万円をベースに考えることが必要となります。
関税定率法等の法令上は、「現実支払価格」といった専門的な用語がでてきます。なかなか理解が難しい面もありますが、要するに、輸入する商品のために買手側がいくら支出することになったのか、ということをベースに考えることになります。
実際に商品のために買手が支払った金額として、前払金100万円と残金の商品代金としての50万円の合計150万円となります。したがって、課税価格(輸入申告価格)はこの合計額となります。
インボイスに商品代金としていくらと記載されているかどうかということは、輸入申告価格を検討する際には重要な要素の一つとはなります。しかし、あくまでも要素の一つであり、インボイスにいくらと記載されているから輸入申告価格もインボイス上の価格と同じはずだということには必ずしもなりませんので、十分注意が必要です。
2 現実支払価格の定義と法的根拠
輸入申告価格(課税価格)を決定するための原則は、関税定率法第4条に規定されています。この条文は、輸入取引における「価格」とは何かを定義する極めて重要なものです。
第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。
さらに、この取引価格の基礎となる「現実支払価格」については、関税定率法基本通達において詳細に説明されています。
関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)
(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。
この「直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額」という文言が鍵となります。前払金は、輸入貨物の対価として「直接」あるいは「現実に」支払われた金額の一部であり、当然にこの総額に含まれるべきものです。残金の支払いの際、便宜上インボイスに未決済分のみが記載されていたとしても、法的な課税対象は商品の「対価としての総額」であるという点を忘れてはなりません。
3 前払金(デポジット)が関税評価に与える実務的影響
実務上、前払金が申告漏れとなる原因の多くは、書類の管理体制にあります。インボイスと送金記録の紐付けができていないことが、税関事後調査での指摘に直結します。
【前払金がある場合の申告価格算定フロー】
一 契約書(プロフォーマインボイス等)にて総額を確認する。
二 前払金の送金時期と金額を記録する。
三 最終インボイスに前払金が差し引かれた額が記載されている場合、その控除額を「加算」して申告する。
四 通関業者に対し、前払金の存在と総額を明確に伝える。
インボイス上に「Deposit Paid(支払い済みデポジット)」といった記載があれば、通関業者も気づくことができます。しかし、そのような記載がなく、単に「30万円」とだけ書かれたインボイスでは、通関業者はその裏にある100万円の前払金を把握することができません。最終的な納税責任は輸入者自身に帰属するため、正しい情報を開示する義務があります。
4 輸入者が活用すべき実務チェックリスト
以下に、前払金や加算要素の漏れを防ぐためのチェックリストを作成いたしました。社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【前払金および加算要素に関する法的適合性確認表】
確認項目|具体的な確認内容|
前払金の有無|契約時に内金やデポジットを送金していないか|
インボイスの総額|インボイス記載額は前払金差引後の金額ではないか|
送金記録の整合性|銀行の送金総額と輸入申告価格は一致しているか|
ライセンス料の支払|商標権等の対価を別途権利者に支払っていないか|
無償提供物品の有無|製造用の金型や原材料を無償で提供していないか|
仲介手数料の支払|売手と買手を仲介する者に報酬を支払っていないか|
5 輸入申告価格の算定を誤った場合のペナルティ
貨物の輸入や輸出に関するルールは、関税法や関税定率法、これらの通達等に詳細に規定されております。なかなか一般的には理解が難しい点も多く、知らずに輸出入を行うと追徴課税を含む様々なペナルティを課されてしまうリスクがございます。
無事に輸出入できているのだから問題ないだろうと考え、これらのルールを軽視することは非常に危険であり、中長期的に大きなしっぺ返しを受けるリスクが非常に高いと言わざるを得ません。
(1)過少申告加算税の賦課
事後調査により申告漏れが発覚した場合、不足税額に加えて過少申告加算税が課されます。
税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。
(2)重加算税の適用リスク
意図的に前払金を隠蔽し、安価なインボイスのみで申告を繰り返していたと判断された場合、さらに強力な重加算税が課されます。
事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。
(3)延滞税の徴収
本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息相当の延滞税が徴収されます。
6 ライセンス料やその他の加算要素に関する留意点
輸入申告価格の算定において、前払金以外にも注意すべき項目は多岐にわたります。特に「ライセンス料」は、税関が最も注視する項目の一つです。
例えば、輸入する貨物のライセンス料を輸出者側等に支払っている場合には、当該ライセンス料については、課税価格に加算しなければなりません。加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。
【ライセンス料(ロイヤリティ)が加算される条件】
一 当該輸入貨物に関連していること。
二 当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により支払われるものであること。
これらは、商品の仕入れ価格とは別の名目で支払われることが多いため、前払金と同様に申告漏れが発生しやすい項目です。他にも、輸入港までの運賃、保険料、仲介手数料、そして製造に関わる原材料や金型の無償提供費用(アシスト費用)などが挙げられます。
7 専門家による事前リーガルチェックの重要性
他にも、輸出入特有の規制は多数あります。可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。
最初の段階できちんとした体制を整備しておくことで、事業を中長期的に円滑に進めることが可能となります。
【専門家によるチェックを受けるメリット】
一 適切な課税価格の算定根拠を構築できる点。
二 税関事後調査における否認リスクを最小限に抑えられる点。
三 不必要な追徴課税や過少申告加算税の支払いを回避できる点。
四 法令遵守体制を整えることで、税関からの信頼性を向上させられる点。
特に、新しい取引先と契約する際や、新しい商品カテゴリーを扱う際には、契約書の文言一つが将来の関税負担に大きく影響することがあります。
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。
弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる主なサポート】
一 輸入取引における現実支払価格の適正性診断。
二 前払金、ロイヤリティ、アシスト費用等の加算要素に関する法的整理。
三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉。
四 不当な課税処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
