第三国引渡し取引の法的検討

はじめに:相談事例のご紹介

本日は、グローバルなサプライチェーンにおいて頻繁に問題となる、第三国を経由して貨物を輸入する際の「輸入取引」の該否について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。複雑な物流経路を持つ企業様にとって、非常に重要な視点となります。

【相談者】

東京都内で精密機械の輸入販売を行う株式会社テクノ流通 代表取締役 A氏

【相談内容】

「当社は今回、ドイツのサプライヤーであるB社から高性能なセンサーを輸入することになりました。しかし、物流の効率化を図るため、B社とは「CIF シンガポール条件」で契約を締結し、一旦シンガポールにある当社の提携倉庫に貨物を搬入しました。シンガポールの倉庫では数週間、在庫として保管し、日本の顧客からの注文が入ったタイミングで、当社の指示により日本へ発送しました。

当社としては、ドイツのB社から購入した際の単価(シンガポールまでの運賃込み)を基礎として輸入申告を行えばよいと考えていました。ところが、通関業者から「このケースではドイツB社との契約は関税法上の輸入取引に該当しない可能性がある」と指摘を受け、困惑しております。仕入れ価格が申告価格のベースにならないとなれば、一体どのような価格を申告すべきなのでしょうか。また、申告を誤った場合の法的リスクについても詳しく教えてください。」

このような事例は、ハブ港を活用した在庫管理を行う企業において非常に多く見受けられます。適正な輸入申告価格が何かを把握するためには、まずは輸入取引がどの取引に該当するかを検討することが出発点となります。そして、関税定率法や基本通達において規定された輸入取引に関するルールを踏まえて正確に検討することが重要です。以下、詳しく解説いたします。

1 第三国において引き渡しがなされた場合の輸入取引該当性について

(1)輸入取引の定義と原則

輸入取引の該否を検討する上で、まずはその法的な定義に立ち返る必要があります。関税定率法第四条第一項において、輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加えた価格(取引価格)とすると規定されています。

ここで重要となるのが、関税定率法基本通達四-一(一)の規定です。

(関税定率法基本通達四-一 輸入取引の意義)

輸入取引とは、本邦に拠点を有する者が買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなったものをいい、通常、現実に貨物を輸入することとなる売買がこれに該当する。

この定義には、二つの重要な要素が含まれています。第一に、本邦に拠点を有する者が「買手」であること。第二に、その売買が「貨物を日本に到着させることを目的」として行われ、「現実に到着する原因」となったことです。

(2)第三国引渡しの問題点

設例のように、輸入者が輸入貨物を本邦へ引き取ることを目的として、F国所在のサプライヤーと売買を行ったとします。そして、本件輸入貨物をE国で一時保管することとし、サプライヤーとの間では、CIF(E国港)条件で売買契約を締結したとします。

この場合、以下の理由により、F国サプライヤーと日本輸入者の間の売買は「輸入取引」とは認められない可能性が高くなります。

一 発送目的の断絶

CIF(E国港)条件での売買は、法的には「貨物をE国に到着させること」を目的とした取引です。サプライヤーの義務はE国の港で完了しており、その時点では「日本への輸出」を目的とした発送行為とはみなされません。

二 到着原因の変化

貨物が日本に運び込まれる際、それは既に輸入者がE国内の保税倉庫で保管している「自己所有貨物」となっています。当該貨物の本邦への到着をもたらしているのは、サプライヤーとの売買契約そのものではなく、日本国内の需要に応じた輸入者自身の「出荷計画」や「自社在庫の移動指示」であると認められます。

三 自己所有貨物の引取り行為

以上のことから、本件輸入貨物は、関税定率法第四条第一項に規定する「輸入取引」により輸入されるものとは認められません。つまり、ドイツのメーカーへ支払った価格(現実支払価格)をそのまま申告価格の基礎にすることはできず、同項の規定により課税価格を計算することはできないこととなります。

(3)輸入取引に該当しない場合の価格決定(第四条の二以下)

輸入取引が存在しないと判断された場合、課税価格は法第四条の二以下の規定、いわゆる「逆算方式」や「算定価格方式」等により計算することとなります。

(関税定率法第四条の二 同種の貨物又は類似の貨物に係る取引価格による課税価格の決定)

(関税定率法第四条の三 国内販売価格又は製造原価に基づく課税価格の決定)

(関税定率法第四条の四 特殊な貨物に係る課税価格の決定の原則の特例)

実務上は、日本国内での販売価格から国内経費や利益を差し引いて算出する「逆算方式(第四条の三第一項)」などが検討されますが、これは通常の取引価格による申告よりも計算が極めて複雑であり、税関との調整も難航する傾向にあります。

2 実務で役立つ輸入取引該否判定表

どのような場合に輸入取引と認められ、どのような場合に認められないのかを整理した比較表を作成いたしました。ワードデータ等に貼り付けて、社内での取引スキーム検討にご活用ください。

【輸入取引の該当性に関する判定基準一覧表】

取引の形態|日本到着の直接原因|輸入取引の成否|課税価格の計算根拠

--------|----------|--------|----------

直送取引(F国から日本へ)|サプライヤーとの売買契約|成立する|現実支払価格(法四条一項)

経由地での積み替え(B/L直送)|サプライヤーとの売買契約|成立する|現実支払価格(法四条一項)

第三国での転売(洋上転売等)|転売者との売買契約|成立する|転売価格(法四条一項)

第三国引渡し後の自社出荷|輸入者の出荷計画|成立しない|逆算方式等(法四条の二以下)

第三国で加工後の輸入|加工業者との契約または出荷計画|成立しない|算定価格方式等(法四条の二以下)

このように、契約条件が「CIF 日本港」なのか「CIF 第三国港」なのか、あるいは誰の指示で日本への発送が行われたのかによって、法的な扱いは劇的に変化します。

3 輸入申告価格の算定ミスが招く深刻なリスク

間違った輸入申告価格を申告してしまうと、つまるところ脱税と同じ状況となってしまいます。そのため、輸入申告価格は慎重に算定することが必要です。

(1)多額の追徴課税と過少申告加算税

「輸入取引」に該当しないにもかかわらず、安易に仕入れ価格で申告し、それが税関事後調査で否認された場合、本来あるべき価格(通常は仕入れ価格より高くなる逆算価格等)との差額分について、関税及び消費税が追徴されます。これに加え、不足税額の十パーセントから十五パーセントにのぼる過少申告加算税が課されることとなります。

(2)重加算税の適用リスク

事実を隠蔽したり、仮装したりしたとみなされた場合、三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い重加算税が課されます。第三国を経由させるスキームにおいて、あえて低い仕入れ価格を利用するために虚偽のインボイスを提示したような場合は、この対象となる可能性が非常に高くなります。

(関税法第十二条の四 重加算税)

納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

(3)刑事事件化の恐れ

悪質な脱税行為と判断された場合、最悪のケースでは刑事事件化されてしまう場合もあります。法人の代表者が逮捕されたり、多額の罰金が科されたりすれば、企業の社会的信用は失墜し、ビジネスの継続は困難となるでしょう。

特に輸入取引の該当性については、関税定率法や基本通達において細かく規定されておりますが、万一誤った解釈を行ってしまうと、輸入申告価格が適正な価格から大きく異なるものとなってしまうリスクがあります。

4 関税評価における加算要素の重要性

輸入取引が認められる場合であっても、現実支払価格に加算すべき要素(アシスト費用やロイヤリティ等)を忘れてはなりません。第三国を経由する取引では、特に以下の項目が漏れやすいため注意が必要です。

一 中継地での保管・荷役費用

これらの費用を買手が負担している場合、日本までの運送に関連する費用として課税価格に算入しなければならない場合があります。

二 買付手数料と仲介手数料の混同

現地でパートナーに動いてもらう際、そのパートナーが「買付代理人」として認められる極めて限定的なケースを除き、支払う手数料は加算要素となります。

三 無償提供物品(アシスト)の費用

日本から中継地の工場へ金型や原材料を送っている場合、その費用を製品価格に上乗せして申告しなければなりません。

これらの加算漏れも、税関の事後調査では徹底的に追及されるポイントです。

5 専門家によるリーガルチェックの重要性

グローバルな取引スキームを構築する際には、物流の効率性だけでなく、関税法上の適合性を事前に検証しておくことが不可欠です。

【当事務所が推奨するコンプライアンス対策】

一 取引開始時のスキーム診断

新しいルートでの輸入を開始する前に、その契約条件(インコタームズ)が輸入取引の認定にどのような影響を与えるかを法的に分析すること。

二 事前教示制度の活用

判断が難しい複雑な取引については、税関に対して公式に見解を求める「事前教示制度」を利用し、法的安定性を確保すること。

三 契約書の適正化

実態に即した、かつ関税法上の不利益を被らないような売買契約書や業務委託契約書を作成すること。

四 事後調査への備え

過去の取引を振り返り、もし誤った申告を行っていた場合には、自主的に修正申告を行うことでペナルティを軽減すること。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、輸出入や貿易関連のトラブル、事前教示制度の利用や税関事後調査をはじめとする税関対応等を幅広く取り扱っております。

代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提供することができます。

輸入申告価格を正確に把握することが難しい場合等、少しでも不安がある場合には、まずはご相談ください。

【当事務所が提供できる具体的なサービス】

一 第三国経由取引における輸入取引該否のリーガルアドバイス

二 法第四条の二以下に基づく課税価格の算定支援

三 税関事後調査への立ち会いおよび当局との交渉

四 不当な課税処分や重加算税に対する不服申立て、税関訴訟の代理

結びに代えて:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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