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1 はじめに:具体的な相談事例の紹介
当事務所には、輸入実務における特殊な手続や、意図せぬ形で行われる輸入行為に関するご相談が数多く寄せられております。まずは、実際に起こり得る架空のトラブル事例をご紹介いたします。
【相談者】
東京都内で海外の珍しい食品や飲料の輸入販売を検討している株式会社S 代表取締役 E氏
【相談内容】
当社は、保税展示場の許可を受けた国際食品見本市に出展しました。海外のメーカーから持ち込んだ未通関の食品(外国貨物)を展示し、来場者にその場で試食・試飲してもらうイベントを開催しました。E氏は、保税地域内での出来事であり、まだ国内に貨物を引き取っているわけではないため、輸入申告や関税の支払いは後でまとめて行えばよいと考えていました。 しかし、後日、税関より、保税展示場内での消費は「みなし輸入」に該当し、消費の時点で納税義務が発生しているはずだとの指摘を受けました。さらに、一部の余った商品を会場内で商談相手に販売した行為も「みなし輸入」にあたると言われ、困惑しています。正しい知識があれば防げたはずのミスですが、具体的にどのような法的根拠に基づいているのでしょうか。
このような事例は、保税制度の柔軟な活用を試みる企業において、手続きの優先順位を誤ることで発生しがちです。輸入許可を受ける前に貨物が消費・販売されるケースは、法律上「みなし輸入」として扱われ、厳格な義務が課されます。本記事では、この「みなし輸入」の概要と実務上の注意点を詳しく解説いたします。
2 みなし輸入の定義と法的背景
貨物を輸入する場合には、適切に輸入申告を行い輸入許可を受ける必要があります。しかしながら、一定の場合には、貨物が輸入されたものとみなすという対応が取られる場合があることをご存知でしょうか。本日はこのような、みなし輸入についてご紹介いたします。
まず、関税法における「輸入」の定義を再確認します。
外国貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経由して本邦に)引き取ること(本邦において使用し、又は消費すること(保税地域において外国貨物を次条の規定により使用し、又は消費することを含む。)を含む。)をいう。
原則として、輸入とは外国貨物を国内へ引き取る行為を指しますが、物理的な引き取りが完了する前であっても、国内で使用・消費された場合には、その瞬間に「輸入」があったものとみなされます。これが「みなし輸入」の基本的な考え方です。
なぜこのような規定があるかというと、貨物を保税地域内又は保税地域以外の場所で使用し、又は消費することを輸入とすることは、通常の引き取り行為とは形態が異なりますが、実質的には国内でその貨物の価値が費消されているため、課税の公平性を担保するために特に輸入とみなすこととしたものです。
3 外国貨物の使用・消費によるみなし輸入
外国貨物が輸入される前に本邦において使用され、又は消費される場合には、その使用し、又は消費する者がその使用又は消費の時に当該外国貨物を輸入するものとみなされます。
外国貨物が輸入される前に本邦において使用され、又は消費される場合には、その使用し、又は消費する者がその使用又は消費の時に当該貨物を輸入するものとみなす。
具体的な貨物の使用、消費の例としては、以下のようなケースが挙げられます。
①所定の輸入手続きをする前に、外国貨物である自動車を公道等で乗り回すこと
②輸入許可前の酒類を飲用すること
③保税地域に蔵置されている外国貨物の一部を、その所有者が分析のための見本として当該保税地域内で消費する行為
④保税展示場内において観覧者が外国貨物である食品を試食する行為
これらの行為が行われた瞬間、法律上は輸入が行われたと扱われ、それに基づいた納税義務や他法令の遵守が求められることになります。
4 保税展示場等における販売によるみなし輸入
もう一つの重要なケースは、保税地域内での販売行為です。
【関税法第62条の4第2項(保税展示場に入れられた外国貨物の使用等)】
保税展示場に入れられた外国貨物が保税展示場において販売された場合には、その販売を輸入とみなす。
また、この規定は第62条の15において総合保税地域にも準用されています。
通常、保税展示場や総合保税地域は、展示会や商談のために外国貨物を置くことが許されていますが、そこで貨物が販売されると、それはもはや展示の枠を超え、国内市場への供給とみなされます。したがって、販売した者が輸入者とみなされ、関税等の支払義務を負うことになります。
5 みなし輸入と通常の輸入の比較表
実務上、どのような違いがあるのかを以下の表にまとめました。
【輸入形態の比較整理表】
比較項目|通常の輸入(引き取り)|みなし輸入(使用・消費・販売)|
行為のタイミング|国内への持ち出し時|使用・消費・販売の時|
輸入者の定義|引き取る者|使用・消費・販売する者|
納税義務の発生|輸入許可を受ける時|当該行為が行われた時|
手続きの原則|事前申告、審査、許可|即時の輸入とみなされる|
主な発生場所|保税地域からのゲート通過|保税地域内、又は許可前の国内|
典型的な事例|製品の国内配送|試飲・試食、分析用消費、展示即売|
6 実務上の手続きと納税のタイミング
「みなし輸入」が発生した場合、現実にはどのように納税を行うべきでしょうか。
本来、輸入は申告納税方式が原則ですが、みなし輸入の場合には、その行為が行われた時点で直ちに納税義務が確定します。
特に保税展示場での試食などの場合、事前に「使用・消費」の申請を行い、税関から承認を受ける必要があります。この承認を受ける過程で、消費される予定の数量に応じた関税・消費税を納付することになります。
もし、事前の承認なく消費してしまった場合、それは関税法上の手続違反となり、厳しい処分の対象となり得ます。
貨物を輸入する者は、その関税を納める義務がある。
この「輸入する者」には、みなし輸入における「使用・消費した者」も含まれることを忘れてはなりません。
7 みなし輸入にまつわる法的リスクと罰則
みなし輸入の規定を知らずに、安易に外国貨物を使用してしまった場合、以下のようなリスクが発生します。
(1)無許可輸入としての処罰
輸入許可を受けずに外国貨物を国内で消費する行為は、実質的に無許可輸入と同義とみなされる可能性があります(関税法第111条)。
(2)脱税による重加算税
消費した分に相当する税金を納めていなかった場合、不足税額の徴収に加えて、過少申告加算税や、悪質な場合は重加算税(35パーセント)が課されます。
(3)AEO認定への影響
AEO(認定事業者)の資格を持つ企業がこのような初歩的なミスを犯した場合、コンプライアンス体制に重大な欠陥があるとみなされ、認定の取り消しや業務改善命令を受けるリスクがあります。
8 企業が取るべき「みなし輸入」対策チェックリスト
意図せぬみなし輸入を防ぐため、以下の項目を社内で確認してください。
【外国貨物取り扱い時の自主点検項目】
確認内容|具体的なアクション|
サンプルの取り扱い|分析や試験のために一部を消費していないか|
展示会での対応|来場者に提供する食品は、事前に消費申請をしたか|
展示即売の有無|会場での直接販売を行う予定はないか|
デモンストレーション|機械を稼働させる際、消耗品を消費しないか|
他法令の適用|消費する食品は食品衛生法をクリアしているか|
これらの確認を怠ると、現場の担当者が「良かれと思って」行った試供品の提供が、会社全体の重大な法令違反に繋がってしまいます。
9 他法令との兼ね合いにおける留意点
みなし輸入は、関税法だけの問題ではありません。例えば食品の試食を行う場合、それは「輸入」にあたるため、食品衛生法に基づく輸入届出も済ませておく必要があります。また、化粧品のテスターとして使用する場合も、薬機法上の手続きが必要です。
他の法令の規定により、輸出又は輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸出申告又は輸入申告の際、当該許可、承認等を受けている旨を税関に証明しなければならない。
みなし輸入とされる行為を行う際にも、この第70条の規定は適用されます。つまり、試食を行うその瞬間に、食品衛生法の届出済証などの証明が手元になければならないのです。冒頭の相談事例のように、現場でいきなり試食を始めてしまうことは、複数の法律にまたがる違反行為となる可能性が高いことを認識すべきです。
10 専門家としての視点と具体的な改善アドバイス
具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。
「みなし輸入」のリスクを回避するためのアドバイスを3点申し上げます。
①保税地域内での活動に関する「マニュアル化」です。営業担当者や展示会担当者は、関税法の詳細を把握していないことが多いため、外国貨物のままでできること、できないことを明確に区分したルールを作成し、周知徹底することが不可欠です。
②通関業者との綿密な打ち合わせです。展示会への出展などが決まった段階で、どの貨物が消費される可能性があるのか、どの貨物を販売する予定があるのかを共有し、事前に適切な「使用・消費」の申請手続きを依頼しておく必要があります。
③予備的な輸入申告の活用です。消費することが確定している貨物については、保税地域に入れる前に、あるいは入れた直後に通常の輸入申告を行い、あらかじめ輸入許可(内国貨物化)を受けてしまうことで、その後の自由な使用・消費を担保するという手法も検討に値します。
11 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、解釈が分かれやすい実務上の問題についても、過去の判例や税関の通達に基づいた的確な法的助言を行うことが可能です。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

