貿易実務における帳簿書類の保存義務と備え

0 はじめに:具体的な相談事例

【相談者】

千葉県内に拠点を置く輸入卸売業者、株式会社M物流、業務管理部のT部長

【相談内容】

「当社では、海外からアパレル製品や雑貨を継続的に輸入しております。

先日、税関から「事後調査」の実施に関する通知が届きました。調査の対象は過去三期分の輸入取引とのことですが、社内の文書管理規則が徹底されておらず、当時の担当者がやり取りしていた電子メールや、一部の仕入書(インボイス)の控えが紛失している可能性があることが判明いたしました。特に、価格交渉の経緯を記したメールや、運賃の明細書などが手元にない場合、税関からどのような指摘を受けるのでしょうか。また、関税法上の書類保存義務について、輸出入者それぞれが守るべき正確な期間や対象書類を改めて教えてください。保存不備があった場合の法的なペナルティについても非常に不安を感じております。」

輸出入通関において利用される書類や、取引の経緯を記録した帳簿を保存することは、関税法によって義務付けられた極めて重要なルールです。税関は、輸入許可から数年後に「事後調査」を行い、申告内容の適正性を確認いたします。この際、書類の保存に不備があると、申告価格の妥当性を証明できず、多額の追徴課税や加算税を課されるリスクが生じます。

本日は、輸出入者が遵守すべき帳簿書類の保存義務について、専門的な観点から詳細に解説いたします。

1 輸出者における帳簿書類の保存義務

輸出者は、輸出許可を受けた貨物について、以下の通り帳簿の備え付けと書類の保存を行わなければなりません。これは関税法第九十四条および関税法施行令第八十三条の規定に基づいております。

(1)帳簿の備え付けと記載事項

輸出者は、輸出許可の日の翌日から起算して五年間、特定の事項を記載した帳簿を保存する義務があります。記載すべき事項は以下の通りです。

①品名、数量および価格

②仕向人の氏名または名称

③輸出許可年月日および輸出許可番号

なお、これらは新たに専用の帳簿を作成する必要はなく、既存の仕入書や帳簿にこれらの項目を追記し、整理したものでも認められます。

(2)保存すべき書類の範囲

輸出者は、以下の書類を輸出許可の日の翌日から起算して五年間保存しなければなりません。

①仕入書(インボイス)

②輸出許可貨物に係る取引に関して作成し、または受領した書類(契約書、価格表、電子メールでのやり取り等)

2 輸入者における帳簿書類の保存義務

輸入者の保存義務は、関税の課税標準を確定させるという性質上、輸出者よりも厳格かつ多岐にわたります。

(1)帳簿の保存期間と記載事項

輸入者は、輸入許可の日の翌日から起算して七年間、帳簿を備え付け、保存しなければなりません。輸出者が五年間であるのに対し、輸入者は七年間である点に注意が必要です。

記載すべき事項は以下の通りです。

①品名、数量および価格

②仕出人の氏名または名称

③輸入許可年月日および輸入許可番号

(2)保存すべき書類の詳細

輸入者は、輸入許可の日の翌日から起算して五年間、以下の書類を保存する義務があります。

①輸入許可貨物の契約書

②運賃明細書、保険料明細書

③包装明細書(パッキングリスト)

④価格表(プライスリスト) 五 製造者または売渡人の作成した、仕出人との間の取引についての書類 六 その他、課税標準を明らかにすることができる書類

以下の表は、輸出入者が保存すべき期間と書類をまとめたものです。

【帳簿書類の保存期間一覧表】

|区分|保存対象|保存期間|起算日|

|輸出者|帳簿(品名、数量、価格等)|五年間|輸出許可日の翌日|

|輸出者|書類(仕入書、契約書等)|五年間|輸出許可日の翌日|

|輸入者|帳簿(品名、数量、価格等)|七年間|輸入許可日の翌日|

|輸入者|書類(仕入書、運賃明細等)|五年間|輸入許可日の翌日|

3 電子メール(電磁的記録)の保存義務とデジタル化への対応

現代の貿易取引においては、書類の多くが電子メールやクラウド上のデータでやり取りされます。これらの電磁的記録についても、紙の書類と同様に保存義務が課せられております。

(1)電子メールの保存義務

輸出入にかかる取引の関係書類(契約内容、価格交渉の経緯、納期の確認等)を電子メールでやり取りした場合には、そのメール本文および添付ファイルを、輸出入許可日の翌日から五年間保存しなければなりません。

(2)電子帳簿保存法との関連

関税法上の書類保存においても、電子データでの保存が認められております。ただし、単にデータを保存するだけでなく、税関の調査時に速やかに検索・提示できる状態で管理されていることが求められます。特に、価格の決定に影響を及ぼすロイヤルティの支払いや、無償提供した原材料のコスト(加算要素)に関するやり取りが含まれるメールは、事後調査における焦点となるため、厳重な管理が必要です。

4 税関事後調査と書類不備のリスク

T部長のご相談にある「事後調査」では、税関職員が企業の事業所を訪問し、申告内容と帳簿書類の整合性を精査いたします。

(1)調査の法的根拠

税関による事後調査は、関税法第百五条(税関職員の権限)に基づき実施されます。職員は、帳簿書類の提示や提出を求める権限を有しております。

(2)書類がない場合の法的不利益

調査時に必要な書類が提示できない場合、以下のような不利益を被る可能性があります。

①申告価格の否認

輸入申告時の価格が妥当であることを証明するエビデンス(契約書や価格交渉メール等)がない場合、税関は関税定率法第四条に基づき、独自の計算方法で課税価格を再計算することがあります。これにより、当初の申告よりも高い関税が課されることになります。

②過少申告加算税の賦課

過少申告が判明した場合、関税法第十二条の二等に基づき、不足税額に対して十パーセントから十五パーセントの過少申告加算税が課されます。

③重加算税の適用

書類の隠蔽や仮装が認められた場合には、関税法第十二条の四に基づき、三十五パーセントから四十パーセントの重加算税という極めて重いペナルティが課せられます。

5 罰則規定について

帳簿書類の備え付けや保存を怠った場合、あるいは税関の調査を妨害した場合には、行政罰だけでなく刑事罰の対象となることもあります。

このように、単なる「書類の紛失」であっても、法律違反として刑罰の対象になり得ることを十分に認識しておく必要があります。

6 弁護士および通関士の視点による実務的アドバイス

T部長の株式会社M物流が取り組むべき対応策を以下に整理いたします。

(1)現存する資料の棚卸し

まずは現時点で手元にある書類やメールデータをすべて洗い出し、輸入許可番号ごとに整理してください。紛失した書類がある場合でも、銀行の送金記録やフォワーダーへの支払い明細などから、間接的に取引の事実を立証できる場合があります。

(2)電子データ管理規定の策定

今後の再発防止策として、電子メールやPDF形式のインボイスを専用のサーバーやクラウドストレージで一元管理する規定を策定してください。担当者の退職やPCの故障によってデータが消失しないよう、バックアップ体制を構築することが重要です。

(3)事前教示制度の活用

将来的な取引において、価格の算定方法に不安がある場合には、事前教示制度を利用し、あらかじめ税関から公式な見解を得ておくことも、事後調査のリスクを低減する有効な手段です。

(4)専門家によるリーガルチェック

事後調査の通知を受けた段階で、どのような書類が不足しているのか、またその不足が法的にどのような影響を与えるのかを弁護士が診断いたします。税関との交渉において、法的な根拠に基づいた説明を行うことで、不当な対応が発生することを防ぐことが可能となります。

7 まとめ:帳簿保存は企業の信頼を守る基盤

関税法における帳簿書類の保存義務を遵守することは、単なる事務作業ではなく、企業の国際的なコンプライアンス体制を示す鏡です。適正な書類保存が行われている企業は、税関からの信頼も高まり、将来的には「認定事業者(AEO)制度」の承認を受けるといったメリットにもつながります。

以下の表は、事後調査に備えるための自主点検リストです。

【事後調査に向けた自主点検リスト】

|確認項目|法的なチェックポイント|

|帳簿の保存年数|輸入帳簿は七年間、保存されているか|

|記載内容の正確性|許可番号や日付に誤記はないか|

|電子メールの管理|価格交渉の過程を示すメールが保存されているか|

|加算要素の有無|運賃や保険料以外の費用(金型代、ロイヤルティ等)の資料はあるか|

|他法令書類|食品衛生法や薬機法等の関連書類もあわせて保存しているか|

貿易実務は複雑であり、法改正も頻繁に行われます。正確な知識に基づいた文書管理こそが、企業の利益と信頼を守る最大の防衛策となります。

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から一貫したサポートを提供できる強みを持っております。

税関事後調査への立ち会い、不足している書類に対する法的な代替立証の検討、加算税処分に対する不服申立てなど、貿易実務に関するあらゆる法的課題に対応いたします。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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