PSE違反で回収命令につながる?

PSEマークなしで経産省から連絡が…あなただけの問題ではありません

「Amazonで販売していたモバイルバッテリーについて、経済産業省から連絡が来た」「PSEマークの届出や検査記録について指摘を受けた」——もし現在このような状況に置かれている場合は、まず事実関係と法的義務の有無を整理することが重要です。PSE法違反が問題となる場合、販売停止、罰金、回収命令などのリスクが生じる可能性があります。しかし、まずお伝えしたいのは、あなた一人でこの問題を抱えているわけではない、ということです。当事務所にも、同様の切迫したご相談が数多く寄せられています。

この記事では、単なる法律の解説に留まらず、現在の状況を整理し、行政対応や事業再開に向けて検討すべき具体的な手順を、専門家の視点から順を追って解説します。まずは落ち着いて、現状を正確に把握することから始めましょう。このテーマの全体像については、電気用品安全法と輸入ビジネスで体系的に解説しています。

【相談事例】届出・検査記録なしで販売、突然の立入検査

先日、当事務所に駆け込んできた個人事業主Jさんのケースは、多くの事業者様が陥りやすい典型的な事例でした。

「中国から輸入したモバイルバッテリーをAmazonで販売していました。PSEマークが必要なことは知っていたので、工場から送られてきたPSEマーク付きの画像を商品ページに貼ってさえいれば大丈夫だと、そう信じ込んでいたんです。それなのに、突然、経済産業省の担当者が事務所に立入検査に来て、『事業の届出がされていないし、製品の検査記録もない』と次々に指摘されました。もし回収命令が出たら…もう、倒産するしかありません」

Jさんは、PSEマークという「画像」さえあれば法的義務を果たせていると誤解していました。しかし、電気用品安全法が輸入事業者に課している義務は、マークの表示だけではありません。①事業の届出、②技術基準への適合確認、③自主検査と検査記録の保存という一連のプロセスが不可欠なのです。Jさんのように、この点を認識しておらず、無自覚のうちに法令違反の状態に陥ってしまうケースは後を絶ちません。

私たちはJさんの状況を直ちに整理し、まずは正直に違反状態を認め、経産省へ報告書を提出することから始めました。そして重要なのは、意図的な法律違反ではなく「知識不足によるものだった」という点を丁寧に説明し、自主的に製品を回収(リコール)する計画を策定・提案したことです。このような誠実な対応を通じて当局との折衝を重ね、刑事告発という最悪の事態を回避し、事業再開に向けたコンプライアンス体制の再構築をサポートする道筋を立てることができました。あなたの状況も、決して手遅れではありません。

PSE法違反の通知を受け、オフィスで頭を抱えるモバイルバッテリー事業者の男性。

まず落ち着いて。PSE違反で科される罰則と行政処分の全体像

パニック状態では、正しい判断はできません。まずは、法律が定める罰則と行政処分の全体像を冷静に把握することが重要です。電気用品安全法(PSE法)に違反した場合、事業者には「刑事罰」と「行政処分」という二つの大きなリスクが科される可能性があります。

これらは独立した手続きであり、行政処分を受けながら、悪質なケースでは刑事罰も問われる、ということもあり得ます。あなたが直面している事態の深刻さを正しく理解し、適切な初動対応をとるための知識を整理しましょう。国内での販売には、PSE法以外にも様々な法規制が関わってきます。

懲役・罰金は?刑事罰の具体的な内容

「逮捕されるのだろうか」という不安は、最も深刻なものの一つでしょう。PSE法違反には、懲役刑や罰金刑といった刑事罰が定められています。

  • 技術基準適合義務違反・表示義務違反など:1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
  • 事業届出義務違反など:30万円以下の罰金が科される可能性があります。

特に注意すべきは、法人に対する両罰規定です。従業員などが違反行為を行った場合、その行為者だけでなく、事業者である法人に対しても最大で1億円の罰金が科される可能性があります。個人事業主であっても、中小企業であっても、事業の存続を揺るがしかねない重大なリスクと言えます。

ただし、即座に刑事罰に問われるのは、意図的に安全性を無視した製品を大量に販売するなど、極めて悪質なケースに限られる傾向があります。知識不足による違反の場合、誠実な対応を示すことで、刑事罰を回避できる可能性は十分にあります。

PSE法違反における行政処分の流れを4ステップで解説した図解。報告徴収から始まり、立入検査、改善命令を経て、最終的に回収命令に至るプロセスが示されている。

行政処分の流れ:報告徴収から回収命令まで

多くの場合、問題は行政処分という形で進行します。経済産業省からの連絡は、このプロセスの始まりに過ぎません。一般的な流れを理解し、次に何が起こるかを予測できるようにしましょう。

  1. 報告徴収・資料提出要求:経済産業省が事業者に対し、販売状況や製品の仕様、検査記録などの報告や資料提出を求めます。この段階で誠実に対応することが極めて重要です。
  2. 立入検査:報告内容に疑義がある場合や、重大な違反が疑われる場合、担当官が事業所や倉庫に立ち入り、帳簿や製品を直接検査します。この調査権限は法律に基づくものです。
  3. 改善命令・販売停止命令:違反が確認された場合、経済産業大臣は事業者に対し、改善計画の提出を求めたり、一時的な販売停止を命じたりすることができます。
  4. 回収命令(製品リコール):製品が国民の安全を著しく害する恐れがあると判断された場合、最終手段として製品の回収を命じられます。これが、多くの事業者が最も恐れる「回収命令」です。

この流れの中で、いかに早い段階で真摯な対応姿勢を示し、当局との信頼関係を築けるかが、処分内容を大きく左右します。

「立入検査」にどう対応する?やってはいけないNG行動

経済産業省の「立入検査」は、多くの事業者にとって最初の大きな試練です。この日の対応が、その後の運命を大きく左右すると言っても過言ではありません。当局は輸入事後調査などで豊富な経験を持っており、その場しのぎの嘘やごまかしは通用しないと心得るべきです。

最も重要なのは、誠実に対応すること。パニックに陥り、以下のようなNG行動を取ってしまうと、意図的で悪質な事業者と見なされ、事態を著しく悪化させる可能性があります。

  • その場しのぎの嘘をつく:「検査記録は別の場所にある」「担当者が不在で分からない」など、虚偽の説明は信頼を完全に失います。
  • 資料を隠蔽・破棄する:不利な証拠を隠そうとする行為は、悪質性が極めて高いと判断されます。
  • 非協力的な態度をとる:感情的になったり、調査を妨害したりする行為は百害あって一利なしです。

検査官は敵ではありません。法律に則って事実確認を行う行政官です。冷静かつ真摯な態度で協力することが、信頼を繋ぎ、穏便な解決への第一歩となります。

準備すべき書類と情報の一覧

立入検査の通知を受けたら、限られた時間の中で、できる限りの準備をしましょう。たとえ完璧に揃っていなくても、整理して提示する努力が重要です。

  • 事業届出の控え:もし届出済みであれば、必ず準備します。
  • 製品の仕様書:技術的な内容がわかる資料を揃えます。
  • 仕入れの証拠書類:海外工場との契約書、インボイス、送金記録など。
  • 技術基準への適合を証明する書類:工場から入手した証明書やテストレポートなど。内容が不確かでも、あるものは全て提示します。
  • 自主検査の記録:もし実施していれば、その記録は有利な材料になります。
  • 販売記録と在庫リスト:Amazonの販売履歴やFBA在庫情報など、対象製品の流通量を正確に把握できる資料を準備します。これらの電子データの保存は適切に行う必要があります。

書類が不足している場合は、正直にその旨を伝え、「現在、海外の工場に問い合わせ中です」など、情報を集めようと努力している姿勢を見せることが大切です。

当日の受け答え:誠実な態度が事態を好転させる

検査当日は、冷静に、正直に、そして誠実に対応することが鉄則です。

まず、担当官からの質問には、分かる範囲で事実のみを答えてください。憶測や推測で答えるのは絶対に避けるべきです。もし即答できない質問をされた場合は、「確認不足で申し訳ありません。調査の上、後日改めてご報告いたします」と正直に伝えましょう。これが最も誠実な対応です。

そして、違反の意図がなかったこと、例えば「法律への認識が不足しておりました。深く反省しております」といったように、真摯な反省の意を示すことが担当官の心証に大きく影響します。責任転嫁や言い訳は禁物です。

こうした重要な局面では、専門家である弁護士が立ち会うことで、不利益な発言を未然に防いだり、法的な観点から状況を補足説明したりすることが可能になり、精神的な支えにもなります。

PSE法違反について、法律事務所で弁護士に相談し、解決策の説明を受ける事業者。

最悪の事態「回収命令」を回避するための次の一手

立入検査を乗り越えた後、ただ当局の判断を待つのは得策ではありません。「回収命令」という最悪のシナリオを回避するためには、こちらから能動的に行動を起こす必要があります。その最も有効な手段が、「自主回収(リコール)計画」を策定し、経済産業省に提出することです。

これは、当局から命じられる前に、事業者自らが問題の重大性を認識し、責任をもって市場から製品を回収する意思があることを示す、極めて重要なアクションです。真摯な反省と再発防止への強い意志を示すことで、当局の判断が「命令」ではなく「指導・助言」に留まる可能性を高めることができます。製品に起因する事故が発生した場合、製造物責任法(PL法)上のリスクも考慮しなければなりません。より具体的な手順については、輸入品における製造物責任をご覧ください。

「自主回収計画」の策定と経済産業省への報告

自主回収計画書は、単なる謝罪文ではありません。具体的かつ実行可能なアクションプランである必要があります。最低限、以下の項目を盛り込みましょう。

  1. 対象製品の特定:製品名、型番、販売期間、ロット番号など、回収対象を明確に定義します。
  2. 回収方法の具体策:顧客への告知方法(後述)、製品の回収手順(着払いでの返送依頼など)、返金や安全な代替品への交換といった対応フローを具体的に記述します。
  3. 進捗報告の計画:回収の進捗状況を定期的に当局へ報告する旨を記載します。
  4. 再発防止策:これが最も重要です。なぜ違反が起きたのかを分析し、今後は法を遵守するためにどのような社内体制を構築するのか(担当者の設置、外部専門家との連携、仕入先管理の強化など)を具体的に示します。

この計画書は、当局に対して是正方針と再発防止策を説明するための重要な資料となり得ます。専門家のアドバイスを受けながら、実効性のある計画を練り上げることが不可欠です。

Amazon購入者への告知と対応方法

Amazonで販売していた場合、プラットフォームの機能を活用した迅速な対応が求められます。

  • 購入者への連絡:セラーセントラルを通じて、対象製品の購入者全員に個別のメッセージを送信します。メッセージには、①PSE法上の不備があったことのお詫び、②製品の使用中止のお願い、③具体的な回収・返金手続きの案内を明記します。
  • 返金処理:Amazonのシステムを利用して、迅速に返金処理を行います。
  • FBA在庫の対応:FBA(フルフィルメント by Amazon)に在庫がある場合は、直ちに販売を停止し、返送または廃棄の手続きを取ります。

顧客からの問い合わせやクレームには、一件一件、誠心誠意対応することが企業の信頼回復に繋がります。不誠実な対応は、SNSなどでの炎上を招き、さらなるダメージに繋がりかねません。こうした対応は、輸入品における製造物責任の問題とも密接に関わってきます。

事業再開へ。正しいPSE法対応とコンプライアンス体制の構築

危機対応を乗り越えた先には、事業の再開と再建が待っています。今回の失敗を教訓とし、二度と同じ過ちを繰り返さないための、強固なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。合法的にモバイルバッテリーの輸入販売事業を再開するためには、本来踏むべきだった正規のプロセスを正しく理解し、実行する必要があります。これには輸入ビジネスに関連する様々な法律の知識が求められます。

ステップ1:電気用品輸入事業の届出

まず、事業者としての第一歩が「電気用品輸入事業届出」です。これは、事業を開始してから30日以内に、原則として届出者の工場等や国内管理人の事務所等の最寄りの経済産業局へ届け出る義務があります。経済産業省のウェブサイトから様式をダウンロードし、必要事項を記入して提出します。このシンプルな手続きこそが、合法的な事業者としてのスタートラインです。

ステップ2:技術基準の適合確認と検査記録の作成・保存

PSE対応の核心部分が、このステップです。

  1. 技術基準への適合確認:輸入するモバイルバッテリーが、日本の法律で定められた技術基準(安全性に関する基準)を満たしていることを確認します。これには、海外の製造工場から技術仕様書やテストレポートを取り寄せ、内容を精査する必要があります。
  2. 自主検査の実施:モバイルバッテリーについては、法令で定められた検査項目に従い、外観や出力電圧等について全数検査を行います。自社での実施が困難な場合は、国内の信頼できる第三者検査機関に依頼することも有効な選択肢です。
  3. 検査記録の作成・保存:検査を実施したら、必ず「検査記録」を作成し、3年間保存する義務があります。この記録には、検査年月日、検査場所、担当者名、検査した製品の型番、検査結果などを詳細に記載します。この検査記録こそが、立入検査などがあった際に、法を遵守していることを示す何よりの客観的証拠となります。海外の業者とやり取りする際は、こうした義務について明記した契約書を交わすことが重要です。

これらのプロセスを確実に実行する体制を整えることが、持続可能な事業の礎となります。

一人で抱え込まず、通関・貿易に強い弁護士へご相談ください

ここまでお読みいただき、PSE法への対応が、単に書類を提出するだけの簡単な手続きではなく、行政との交渉や高度な法的リスク管理を伴う複雑な問題であることをご理解いただけたかと思います。

経済産業省から連絡が来た、あるいは立入検査を受けてしまったという緊急事態において、一人で全てを正しく判断し、行動するのは極めて困難です。専門家のサポートを受けることで、事実関係の整理や行政対応を適切に進めやすくなる場合があります。

通関・貿易に精通した弁護士は、以下のような具体的なサポートを提供できます。

  • 立入検査への立会いと適切な対応の助言
  • 経済産業省の担当者との交渉代理
  • 実効性の高い自主回収計画書の作成支援
  • 刑事罰を回避するための弁護活動
  • 事業再開に向けたコンプライアンス体制の構築サポート

特に、当事務所の代表弁護士は、通関士資格も有しており、法律面だけでなく貿易実務の観点からも、あなたの状況を踏まえ、法律面と貿易実務の双方から対応方針を検討することが可能です。

最悪の事態を回避し、大切な事業を守り抜くために、どうか一人で抱え込まず、できるだけ早い段階で私たち専門家にご相談ください。早期に状況を整理し、必要な対応を検討することが重要です。

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