電気用品安全法と輸入ビジネス

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も身近でありながら、一歩間違えれば重大な火災事故や数億円規模の損害賠償、さらには刑事罰の対象となる「電気用品安全法(PSE法)」の規制について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。中国などの海外工場から、安価でデザイン性に優れた家電製品やモバイルバッテリー、ACアダプター等を輸入し、Amazonや楽天といったECプラットフォームで販売するビジネスは非常に魅力的です。しかし、そこには「輸入者は国内における製造者と同一の責任を負う」という、極めて重い法的現実が存在いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

埼玉県内でスマートフォン関連アクセサリーのEC販売を営む個人事業主、上田氏(仮名)

【相談内容】

「私は一年ほど前から、中国の工場で見つけた最新型の高速充電器と大容量モバイルバッテリーを輸入し、Amazonで販売しております。工場側からは『PSEは取得済みだ』と言われ、製品本体にもPSEマークが印刷されていたため、それを信じて出品していました。ところが先日、購入者の一人から『充電中に煙が出た』との連絡があり、その直後にAmazonから安全性の証明書類を提出しなければ出品を停止するという通告を受けました。慌てて工場に資料を請求したのですが、送られてきたのは不鮮明なテストレポート一枚だけで、経済産業省への届出書類もありませんでした。現在、私のアカウントは凍結され、数百万円分の在庫が販売不能になっています。さらに、火災被害への賠償請求も示唆されており、途方に暮れています。私は単に仕入れただけなのに、なぜこれほどまでの責任を負わなければならないのでしょうか。法的にどのように対処すべきでしょうか」

このような事例は、近年の越境ビジネスにおいて、適切な法務知識を持たずに参入した事業者の間で頻発しております。上田氏の「工場が言っているから大丈夫」という認識は、日本の電気用品安全法の前では一切通用いたしません。本日は、輸入事業者が直面するPSE法の四つの義務と、万が一の事故が発生した際のPL法(製造物責任法)上のリスクについて、関係法令を詳細に引用しながら解説いたします。

1 電気用品安全法における「輸入者」の法的な定義と立ち位置

まず輸入者が最初に理解しなければならないのは、日本の法律において、海外製品を日本国内に持ち込む者は単なる「転売屋」ではなく「製造事業者」と同等の扱いを受けるという点です。電気用品安全法第二条では、この法律が適用される「電気用品」を定義していますが、その規制対象となる事業活動について、同法第三条で以下のように規定されています。

(電気用品安全法第三条 事業の届出)

「電気用品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める電気用品の区分ごとに、次に掲げる事項を経済産業大臣に届け出なければならない」

この条文から明らかな通り、輸入者は製造者と並んで規定されており、法的な義務の内容もほぼ同一です。日本国内に製造拠点を持たない海外メーカーに代わり、その製品を日本に持ち込む者が、日本国内における安全性の最終責任を負うという構造になっています。したがって、海外工場がどれほど「安全だ」と主張したとしても、その主張が日本の技術基準に適合していることを法的に証明し、届出を行うのは輸入者である貴社自身の義務となります。

2 輸入者が履行すべき「4つの義務」の法的詳細

PSEマークを製品に貼付し、適法に販売を継続するためには、以下の四つの義務を一つたりとも欠かすことなく完遂しなければなりません。これらは電気用品安全法に明文で定められた強制規定です。

(一)事業届出の義務(法第三条)

電気用品の輸入事業を開始した日から三十日以内に、経済産業省(各地域の経済産業局)に対して「電気用品輸入事業届出書」を提出しなければなりません。これを怠ったまま販売を続けることは、無届営業として処罰の対象となります。

(二)技術基準適合義務(法第八条)

輸入者は、輸入する電気用品が、経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようにしなければなりません。

(電気用品安全法第八条第一項)

「届出事業者は、第三条の規定による届出に係る電気用品を製造し、又は輸入する場合においては、当該電気用品を経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようにしなければならない」

実務上は、海外工場から提供された「テストレポート(試験成績書)」の内容が、最新の日本の技術基準(別表第八や、IEC基準との整合性を図った別表第十二など)を網羅しているかを確認する必要があります。翻訳の不備や試験項目の不足がある場合、この義務を履行したとはみなされません。

(三)検査及び記録の保存義務(法第九条)

これが最も多くの輸入事業者が遵守できていない、かつ事後調査で致命的な指摘を受けるポイントです。届出事業者は、製品を輸入するたびに検査を行い、その記録を作成し、保存しなければなりません。

(電気用品安全法第九条第一項)

「届出事業者は、その製造又は輸入に係る前条第一項の電気用品(中略)について、経済産業省令で定めるところにより、検査を行い、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない」

多くの事業者が「工場で検査しているはずだ」と考えますが、法律は「輸入者(届出事業者)による検査」を求めています。輸入者は、ロットごとに外観、通電、絶縁耐力等の検査を自ら実施するか、あるいは工場に対して「日本の法律に基づくロット検査」を委託し、その詳細な記録を入手して三年間保存しなければなりません。

(四)表示の義務(法第十条)

上記の義務をすべて果たした上で、初めて製品にPSEマークを表示することができます。

(電気用品安全法第十条第一項)

「届出事業者は、その届出に係る電気用品について、第八条第一項の義務を履行し、かつ、前条第一項の規定による検査を行い、その検査記録を保存しているときは、当該電気用品に経済産業省令で定める方式による表示を付することができる」

表示には、PSEマーク(ひし形または丸形)、届出事業者名(輸入者の名称)、および定格電圧等の仕様が含まれます。これらの表示が欠けていたり、誤った名称が記載されていたりする場合、それは不適正表示として販売停止の原因となります。

3 電気用品の区分:特定電気用品とそれ以外の電気用品の比較表

電気用品は、その危険度に応じて二つのカテゴリーに分類されます。特に「特定電気用品(ひし形PSE)」については、登録検査機関による適合性検査証明書の取得が必須となります。

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│     特定電気用品(ひし形)と特定以外の電気用品(丸形)の法的比較表  │

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│比較項目   │特定電気用品(ひし形PSE)    │特定以外の電気用品(丸形PSE)│

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│製品の例   │ACアダプター、電線、ヒューズ、  │モバイルバッテリー、電気掃除機、│

│       │マッサージ器等(全116品目)   │テレビ受像機等(全341品目)│

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│第三者機関検査│登録検査機関による適合性検査が必須 │不要(自主検査のみで可)   │

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│証明書の有効期│3年、5年、7年等(品目による)  │特になし           │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│検査記録の保存│必須(3年間)           │必須(3年間)        │

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│違反時のリスク│販売停止命令、刑事罰(法人は1億円)│販売停止命令、刑事罰等    │

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特定電気用品を輸入する場合、輸入者は経済産業大臣が認めた登録検査機関から発行された「適合性検査証明書」の原本または写しを保有していなければなりません。多くの海外工場はこの証明書の取得に多額の費用がかかるため、虚偽の報告をしたり、有効期限が切れた証明書を提出したりすることがあります。これを見抜くのも輸入者の法的な責任です。

4 製造物責任法(PL法)に基づく無限の損害賠償リスク

電気用品安全法の遵守はあくまで行政上のルールですが、実際に製品事故が発生した際に直面するのが製造物責任法(PL法)です。この法律は、製品の欠陥によって消費者の生命、身体または財産に損害が生じた場合、製造者(輸入者)に対して過失の有無を問わず損害賠償責任を負わせる「無過失責任」を規定しています。

(製造物責任法第三条 製造物責任)

「製造業者等は、その製造、加工又は輸入をした製造物(中略)の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」

輸入者は、PL法上の「製造業者等」に該当いたします。したがって、たとえ輸入手続きを完璧にこなしていたとしても、製品そのものに設計上の欠陥があった場合には、被害者に対して損害賠償を行わなければなりません。特にリチウムイオン電池を搭載した製品(モバイルバッテリー等)の発火事故は、木造家屋の全焼といった甚大な被害をもたらす可能性があり、賠償額が数億円に達することも稀ではありません。

5 不適切なPSE運用が招く刑事罰と行政処分の詳細

電気用品安全法の違反は、単なる是正指導で終わるほど甘いものではありません。経済産業省は、不適切な表示や手続きの不備が発見された場合、強力な行政権限を行使いたします。

(一)販売停止命令および回収命令

(電気用品安全法第十一条)

「経済産業大臣は(中略)電気用品が技術基準に適合していないと認める場合において、災害の発生を防止するため特に必要があると認めるときは、届出事業者に対し、その製造又は輸入に係る当該電気用品の回収を図ることその他必要な措置をとるべきことを命ずることができる」

一度回収命令(リコール)が下されれば、販売済みのすべての製品の回収費用、新聞等への告発広告費用、顧客への返金対応が発生し、中小企業は即座に資金ショートを引き起こし倒産に追い込まれます。

(二)重い刑事罰の規定

電気用品安全法の罰則は、法人に対して極めて厳しく設定されています。

(電気用品安全法第五十七条、第五十九条 罰則)

個人に対しては一年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金が科されるほか、法人に対しては「一億円以下の罰金」という巨額の刑罰が規定されています。これは、安全を疎かにして利益を追求する事業者に対する国家の断固たる姿勢の表れです。

6 輸入事業者が構築すべきコンプライアンス・チェックリスト

不測の事態を回避し、健全な輸入ビジネスを継続するために、実務担当者が最低限チェックすべき項目を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     電気用品輸入ビジネスにおける法的安全性チェックリスト       │

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│チェック項目 │実務上の具体的な確認事項(全角表記)           │

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│品目の特定  │輸入製品が特定電気用品か特定以外か、HSコードと照合したか │

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│工場の信頼性 │ISO認証だけでなく、日本市場向けの出荷実績があるか    │

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│レポートの精査│テストレポートが最新の「J基準」または「国際整合基準」か  │

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│証明書の原本性│特定電気用品の場合、登録検査機関発行の証明書が有効期間内か │

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│自主検査の計画│輸入ロットごとの全数検査または抽出検査のフローが決まっているか│

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│PL保険の加入│万が一の賠償事故に備え、輸入者向けのPL保険を契約しているか│

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7 専門家(弁護士・通関士)による包括的サポートの重要性

電気用品安全法の解釈は、単なる技術的な理解に留まらず、行政庁との折衝や法的な責任の分配といった「高度な法務ガバナンス」の領域です。当事務所は、弁護士としての法的知見と、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社を強力にバックアップいたします。

【当事務所が提供できる具体的な解決ソリューション】

一 輸入予定製品の「電気用品安全法該当性判定」および「技術基準適合性の予備審査」

二 経済産業省に対する「事業届出」および「例外承認」等の申請代理

三 海外サプライヤーとの「品質保証契約」および「損害賠償・求償条項」の策定

四 万が一の製品事故発生時における「リコール対応」および「被害者交渉」の代行

五 社内輸入管理規定(ICP)の構築および役職員向けのコンプライアンス研修

六 Amazon等のプラットフォームから求められる「安全性証明書類」の作成支援

特に、上田氏の事例のようなアカウント凍結問題については、早期に法的な意見書を提出し、手続きの適正性を主張することで、再開の可能性を最大化いたします。

8 まとめ

本日は、成長著しい家電輸入ビジネスの陰に潜む、電気用品安全法とPL法の法的リスクについて解説いたしました。上田氏のようなケースであっても、当初からPSE法の四つの義務を正しく理解し、工場のレポートを鵜呑みにせず、自社で検査体制を構築していれば、アカウントの凍結や火災事故の恐怖に怯えることはなかったはずです。

輸入ビジネスにおいて、安全は「コスト」ではなく「投資」です。目先の利益を優先して安全確認を疎かにすることは、企業の未来をギャンブルに投じるのと同じです。正しい法令知識に基づき、透明性の高い申告と安全確認を行うこと。その誠実な姿勢こそが、消費者の信頼を勝ち取り、ビジネスを長期的に繁栄させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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