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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、海外の魅力的な食品や美容健康関連製品を日本国内に導入しようとする際、関税法以上に大きな障壁として立ちはだかる「厚生労働省(検疫所)による厳しい審査」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入ビジネスにおいて、関税の手続きを終えても、厚生労働省管轄の法令をクリアできなければ、貨物は一点たりとも国内に引き取ることはできません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
東京都内で欧米のオーガニック製品の輸入販売を新規事業として立ち上げた株式会社S、事業部長、T氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、米国で大流行している美容成分配合のプロテイン飲料と、自宅で簡単に肌のキメを整えることができる家庭用美顔器を輸入いたしました。メーカーからは安全性の証明書も受け取っており、米国の基準では全く問題のない製品です。ところが、成田空港の検疫所に食品等輸入届出書を提出したところ、プロテイン飲料に含まれる一部の着色料が日本では認可されていない『指定外添加物』に該当する可能性があると指摘されました。さらに、美顔器については、その販売サイトの広告表現に『細胞を活性化させる』という文言があることから、法的には単なる雑貨ではなく『医療機器』に該当する疑いがあるとして、薬機法に基づく業許可の提示を求められています。現在、貨物は保税地域に留め置かれたままであり、一日ごとに多額の保管料が発生しております。最悪の場合、全量廃棄と言われておりますが、法的にどのように釈明し、事態を打開すべきでしょうか」
このような事例は、海外と日本の規制の差異を十分に調査せずに輸入を開始した事業者の間で、極めて頻繁に発生しております。T氏のように「米国で安全なのだから日本でも大丈夫だろう」という認識は、日本の食品衛生法や薬機法の厳格な規格基準の前では一切通用いたしません。本日は、輸入事業者が直面する二大法令の「壁」について、関係法令を詳細に引用しながら、その法的性質と回避策を詳説いたします。
1 食品衛生法が規定する輸入届出義務と成分規制の法的峻別
日本国内で販売、または営業上使用する目的で食品、食品添加物、器具、容器包装、あるいは乳幼児向け玩具を輸入する場合、食品衛生法第二十七条に基づき、厚生労働大臣への届出が義務付けられています。
「販売の用に供し、又は営業上使用する食品、食品添加物、器具若しくは容器包装を輸入しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その都度厚生労働大臣に届け出なければならない」
この届出を受けた検疫所の食品監視員は、当該製品が日本の規格基準に適合しているかを厳格に審査いたします。ここで輸入者が直面する最大のハードルが、同法第十条に規定される添加物の制限です。
「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が定めた場合を除き、添加物(天然香料及び一般に飲食に供される物であつて添加物として使用されるものを除く)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、販売の用に供するために製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、又は陳列してはならない」
日本には「指定添加物リスト」が存在し、これに掲載されていない添加物、すなわち「指定外添加物」が微量でも含まれている食品は、法的に輸入が禁止されます。欧米では一般的に使用されている特定の着色料(赤色〇〇号など)や保存料(安息香酸の特定の用途など)であっても、日本で未認可であれば、例外なく「全量廃棄」または「積み戻し」となります。また、残留農薬についても「ポジティブリスト制度」により、基準値を超えて検出されれば、即座に不適正貨物として扱われます。
2 器具及び容器包装における材質規格と溶出試験の義務
食品そのものだけでなく、食品に接触する「食器」や「調理器具」、さらには「乳幼児向け玩具」も食品衛生法第十八条に基づく規格基準の対象となります。
「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、販売の用に供する器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができる」
例えば、海外製のセラミック食器から基準値を超える鉛やカドミウムが溶出したり、プラスチック製品から特定の可塑剤が検出されたりする場合、それらは同法に抵触いたします。輸入者は、現地のメーカーから「製造工程表」や「原材料表」を入手するだけでなく、厚生労働省の登録検査機関において「試験成績書」を発行してもらい、それを届出時に添付することが実務上不可欠です。事前の分析を怠り、検疫所のモニタリング検査で不適合が判明した場合、その後のすべての輸入が「検査命令」の対象となり、多額の検査費用と時間を恒久的に負担することになります。
以下に、食品衛生法における主な規制対象と確認事項を整理いたしました。
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│ 食品衛生法に基づく輸入規制対象および重要確認ポイント一覧表 │
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│規制のカテゴリー│具体的な該当製品例(全角表記) │主な法的確認事項 │
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│一般食品 │菓子、飲料、調味料、加工食品全般 │指定外添加物、残留農薬│
│ │ │アレルゲン表示の整合性│
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│食品添加物 │香料、着色料、保存料、酸化防止剤 │成分規格、純度試験結果│
│ │ │使用制限の遵守状況 │
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│器具・容器包装│食器、カトラリー、調理家電、水筒 │材質試験、溶出試験 │
│ │哺乳瓶、食品用梱包資材 │着色料の溶出の有無 │
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│乳幼児向け玩具│6歳未満の乳幼児が口に接触する恐れ │特定の可塑剤の有無 │
│ │がある玩具全般 │重金属の含有量 │
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3 薬機法によるライセンスと定義の壁:医療機器・医薬品への該当性
T氏の事例でもう一つの深刻な問題となっているのが、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)です。この法律は、食品衛生法以上に複雑であり、かつ刑事罰の適用も厳格です。
この条文では、医薬品や医療機器の定義がなされています。重要なのは、製品そのものの構造だけでなく、その「目的」や「効能効果の標榜」によって、法的な分類が決まるという点です。
(一)医療機器としての「みなし」規制
単なる健康グッズや美容機器として販売するつもりであっても、その製品が「身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」を目的とするものであれば、法的には医療機器とみなされます。例えば、美顔器であっても「リフトアップする」「細胞を活性化させる」「シワを改善する」といった表現を使用すれば、それは薬機法上の医療機器に該当いたします。医療機器を輸入販売するには、薬機法第十二条に基づく「製造販売業」の許可および第十三条に基づく「製造業」の登録が不可欠です。
(二)未承認医薬品の輸入禁止
サプリメント(健康食品)として輸入しようとする製品に、日本で「医薬品成分」として指定されている物質が含まれている場合、それは「未承認医薬品」とみなされます。
(薬機法第六十八条 承認前の医薬品等の広告の禁止)
「何人も、第十四条第一項(中略)に規定する医薬品、医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ承認(中略)を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」
未承認医薬品の輸入は、税関および検疫所によって厳しく差し止められます。特に海外のダイエットサプリや精力増強剤には、日本の医薬品成分が含まれていることが多く、意図せぬ薬機法違反を招く典型例となっています。
4 薬機法における業許可の種類と輸入者の義務比較表
輸入者が、どの程度のライセンスを必要とするかを整理した比較表を以下に示します。
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│ 薬機法における輸入販売に必要な業許可と法的義務の比較表 │
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│製品の分類 │必要な業許可(ライセンス) │主な義務・ハードル │
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│一般雑貨 │特になし(届出不要) │効能効果を謳えない │
│(健康器具等)│ │医療機器との誤認防止 │
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│化粧品 │化粧品製造販売業許可 │総括製造販売責任者の置│
│ │化粧品製造業許可(包装等のみも含む)│品質管理基準の遵守 │
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│医療機器 │医療機器製造販売業許可(クラス別) │製品ごとの承認・認証 │
│ │医療機器修理業許可等 │保守点検体制の整備 │
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│医薬品 │医薬品製造販売業許可 │極めて厳しい品質管理 │
│ │医薬品製造業許可 │高度な専門知識の保有 │
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5 輸入ビジネスにおける「通関不能」が招く経済的損失の構造
T氏の事例のように、保税地域で貨物が差し止められた場合、企業が負う損失は単なる仕入代金だけに留まりません。その被害の構造を以下の表に可視化いたしました。
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│ 輸入不許可(食品衛生法・薬機法違反)に伴う損失コスト一覧表 │
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│コストの項目 │具体的な内容(全角表記) │経営への影響度 │
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│商品代金没収 │廃棄または積み戻しによる原価の全損 │直接的な営業損失 │
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│保税保管料 │検疫所との交渉期間中に発生する倉庫代│日を追うごとに増大 │
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│全量廃棄費用 │産業廃棄物としての処理コストの負担 │不測の現金支出 │
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│社会的信用失墜│不適切輸入による法令違反実績の記録 │今後の審査が厳格化 │
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│刑事罰・過料 │悪質な未承認品輸入に対する制裁金 │逮捕、実名報道のリスク│
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6 リスク管理の徹底と弁護士による予防法務の戦略的意義
これらの過酷な事態を避けるためには、貨物が日本に到着してから慌てるのではなく、契約締結前の段階で「法的適合性チェック」を完了させておく必要があります。
(一)事前適合性チェック(リーガルチェック)の法理
当事務所では、輸入予定の製品の原材料一覧(全成分表示)や製造工程図を、日本の食品衛生法や薬機法の最新のネガティブリスト、ポジティブリストと照合いたします。これにより、輸入後に発覚する「指定外添加物」や「医薬品成分」の混入リスクを水際でゼロにいたします。
(二)広告・表示の法的監修
パッケージに記載される「名称」や「成分表示」、さらには販売サイトの「キャッチコピー」が、薬機法や景品表示法に抵触しないかを精査いたします。T氏の事例のような「細胞を活性化」といった文言を、いかに薬機法に抵触させずに「美しさを引き出す」といった適切な表現に変換するか、代替案の提案を含めた法的アドバイスを行います。
(三)行政対応およびトラブル解決の代理
万が一、検疫所や自治体の薬務課から行政指導を受けた場合、あるいは貨物が差し止められた場合、弁護士が速やかに窓口となり、行政庁との折衝を行います。事実関係を整理した釈明書の作成、試験成績書の再提出、あるいは一部修正による輸入許可の獲得など、法的な実務を通じて被害を最小限に食い止めます。
7 「知らなかった」が通用しない法的自己責任の原則
関税法第七十条では、他の法令の規定により輸入に関して許可や承認を必要とする貨物については、輸入申告の際にその証明をしなければならないと定めています。
「他の法令の規定により輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸入申告の際、当該許可、承認等を受けていることを税関に証明しなければならない」
この条文に基づき、税関は検疫所の「食品等輸入届出済証」がなければ、輸入を許可いたしません。輸入者が「海外のサプライヤーに騙された」と主張しても、日本の法令を遵守して申告する責任は輸入者自身にあります。故意がなくても、過失による法令違反は、行政処分としての製品回収(リコール)や営業停止、さらには社会的制裁へと直結いたします。
8 輸入事業者が備えておくべき「厚生労働省対策」重要書類リスト
事後調査や検疫所での審査に耐えうるために、輸入者が日常的に管理すべき書類を以下の表にまとめました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 食品・化粧品・医療機器輸入における必須管理書類リスト │
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│書類の種類 │管理すべき具体的な内容(全角表記) │
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│成分分析表 │全原材料(1%以下の添加物含む)の名称とCAS番号 │
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│製造工程フロー│各工程での温度、圧力、添加のタイミング、殺菌条件の記録 │
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│試験成績書 │登録検査機関による重金属、細菌、残留農薬の検査結果 │
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│業許可証写し │製造販売業等のライセンス有効期限および責任者情報の管理 │
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│表示ラベルドラ│法定表示事項(名称、期限、保存方法、製造者等)の原稿 │
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9 専門家(弁護士・通関士)による高度な防御体制の重要性
食品衛生法や薬機法は、数年ごとに改正が行われ、また行政の運用方針も常に変化しています。最新の法改正情報を把握し、実務に反映させることは一企業だけの力では困難です。当事務所は、弁護士としての法的知見と、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社が不測の事態に陥ることを未然に防ぎます。
【当事務所が提供できる具体的な解決ソリューション】
一 輸入予定製品の「成分・標榜効能リーガル監査」の実施
二 検疫所および自治体薬務課に対する「事前照会」の代理および折衝
三 輸入販売契約における「品質不適合時の損害賠償・返品条項」の策定
四 不適切輸入が判明した際の「製品回収・公表」に関するクライシス・マネジメント
五 役職員向けの「食品衛生法・薬機法コンプライアンス研修」の実施
六 税関事前教示制度と連動した、関税評価と他法令規制の統合的アドバイス
10 まとめ
本日は、輸入ビジネスにおける最大の「壁」である食品衛生法と薬機法の規制について、詳細に解説いたしました。T氏のようなケースであっても、当初から成分表のリーガルチェックを行い、広告表現を薬機法に適合させていれば、数千万円の貨物を失う恐怖に怯えることはなかったはずです。
輸入者にとって、これらの法令は単なる事務手続きではなく、消費者の生命と健康を守るための「国家との契約」です。海外の基準を妄信するのではなく、日本の厳格なルールを前提とした戦略的な輸入体制を構築すること。その地道なコンプライアンスの積み重ねこそが、貴社のグローバルビジネスの信頼性を高め、持続可能な成長を実現するための唯一の道です。
当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮し、法令の迷宮から貴社を救い出し、安定した海外展開を強力にサポートし続けます。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

