輸入事後調査における事前通知の法的性質と実務上の備え

0 はじめに:相談事例

まずは、当事務所に実際に寄せられた相談をベースにした、典型的な事例をご紹介いたします。

【相談者:中堅輸入商社 C社 物流管理部長】

「当社は長年、家具や雑貨の輸入を行っております。先日、事前の連絡もなく、突然税関の職員が数名、本社に調査にやってきました。『輸入事後調査を実施します』とのことでしたが、通常は事前に電話や書面で通知が来るものだと思っていましたので、非常に驚き、現場は混乱してしまいました。その日は主要な担当者が不在だったこともあり、十分な説明や資料の提示ができませんでした。このように、事前通知なしで調査が始まることは法的に許されるのでしょうか。また、抜き打ち調査が行われる場合にはどのような背景があるのでしょうか。今後の適切な対応方法を知りたいです。」

このような「突然の事後調査」に直面した企業の動揺は計り知れません。

以下では、輸入事後調査における通知の仕組みと、根拠となる法令、そして企業が取るべき対策について詳しく解説いたします。

 

1 輸入事後調査と事前通知の原則

輸入事後調査とは、貨物の輸入許可後において、税関が輸入者の事業所などを訪問し、申告内容の適正性を帳簿や書類等に基づき確認する手続きです。

【事前通知の運用実態】

一般的に、税関は調査の円滑な遂行と輸入者側の準備期間を考慮し、調査実施の数週間前に電話または書面にて事前通知を行う運用をしています。これにより、輸入者は過去の輸入書類を整理し、担当者のスケジュールを確保することが可能となります。しかし、この事前通知は「絶対的な義務」ではないという点に、実務上の大きな落とし穴があります。

 

2 事前通知を規定する法令とその例外

輸入事後調査の事前通知については、関税法そのものよりも、行政手続法および税務調査の手続きに準じた運用がなされています。

 

関税法第105条第1項第6号では税関職員の検査権限が規定されていますが、通知に関しては国税通則法第74条の9第1項の規定が実務上の指針となっています。

「税務署長等は、国税庁等又は税務署の職員に納税義務者に対し実地調査を行う場合には、あらかじめ、当該納税義務者に対し、その旨及び調査を開始する日時、調査を行う場所その他政令で定める事項を通知するものとする。」

【事前通知を要しない場合の例外規定】

しかし、同法第74条の10には、以下のような重要な例外規定が存在します。

「税関長は、申告の内容、過去の調査の結果、事業の内容その他の事情に照らし、事前通知をすることによって、適正な税額等の把握を困難にするおそれ、又は調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、前三項の規定にかかわらず、事前通知をすることなく調査を行うことができる。」

つまり、税関が「通知をすると証拠隠滅や口裏合わせをされるリスクがある」、あるいは「正確な実態把握ができない」と判断した場合には、法的根拠に基づいて、予告なしの調査(無予告調査)を強行することが認められているのです。

 

3 事前通知がなされない具体的な判断基準

税関の公式見解や実務指針に基づくと、以下のような状況下では事前通知が行われない可能性が高まります。

①隠蔽・仮装の疑い:過去の申告において意図的な過少申告や書類の偽造が発覚している場合

②事業形態の特殊性:現金取引が主体である、あるいは在庫の流動性が極めて高く、抜き打ちでなければ実数把握が困難な場合

③第三者からの情報提供:脱税や不当申告に関する具体的な情報が税関に寄せられている場合

ただし、冒頭の相談事例のように、特に身に覚えがない企業であっても、税関側の「リスク分析」の結果として無予告調査の対象に選定されるケースは十分にあり得ます。

 

4 輸入事後調査の形式と通知の有無(比較一覧表)

事後調査の形態と通知の関係を、以下の表にまとめました。

【表:輸入事後調査の種類と運用の比較】

調査の形態

事前通知の有無

主な目的と特徴

輸入者側の対応準備

一般事後調査

原則としてあり(4週間前程度)

申告全体の適正確認、帳簿管理状況の把握。

過去5年分のインボイス、契約書等の整理。

無予告調査

法令に基づきなし(当日訪問)

隠蔽・仮装の防止、現況の即時把握。

弁護士への即時連絡、当日の応接体制の確認。

特別調査

あり、またはなし

特定の重要案件や、大規模な脱税疑念がある場合。

専門チームの編成、徹底した内部調査。

簡易的な照会

なし(電話や書面)

単一の輸入申告に対する疑義の解消。

該当資料の迅速な提出。

 

5 無予告調査が行われた際の対応の注意点

もし事前通知なしに税関職員が訪問してきた場合、輸入者はどのように振る舞うべきでしょうか。

5-1 身分証の確認と調査目的の把握

まずは、来訪した職員の「税関職員証」の提示を求め、所属部署と氏名を確認します。

また、関税法第105条第1項に基づき、どの範囲(どの貨物やどの期間)についての調査なのかを明確に質問する必要があります。

5-2 専門家(弁護士等)への連絡

無予告調査であっても、弁護士等の立ち会いを求める権利はあります。

職員に対し、「顧問弁護士が到着するまで待機してほしい」と伝えることは正当な要求です。ただし、調査自体を不当に拒否することは、関税法上の罰則(検査拒否罪)の対象となるため、協力姿勢を示しつつも慎重に対応する必要があります。

5-3 書類の提示と預かり証

税関職員が書類の持ち出し(領置)を希望した場合は、必ず「預かり証」の発行を求めてください。どの書類が回収されたかを正確に把握しておかないと、その後の防御活動に支障をきたします。

 

6 「通知を待つ」ことのリスクと事前対策

「通知が来てから準備すればよい」という考えは、無予告調査の可能性を排除している点において非常に危険です。万が一の抜き打ち調査で不適切な対応をしたり、資料が散逸していたりすると、本来は「過失」であった間違いが「隠蔽」と疑われ、重加算税を課されるリスクが増大します。

【推奨される事前対策】

①自主的な内部監査:年に一度は過去の申告書類を抽出し、実際の送金記録や契約書との整合性をセルフチェックする。

②保存書類のデジタル化と整理:関税法で義務付けられている帳簿等の保存期間(原則7年)を遵守し、誰でもすぐに出せる状態にしておく。

③対応マニュアルの策定:突然の訪問時に、誰が受付をし、誰が対応責任者となるかを決めておく。

 

7 当事務所が提供する事後調査サポート

輸入事後調査は、事前の通知があってもなくても、輸入者にとって精神的・実務的に大きな負担となります。税関側の意図を正確に汲み取り、不当な不利益を被らないようにするためには、通関と法律の両面を知り尽くしたアドバイザーが必要です。

当事務所の代表弁護士は通関士資格を有しており、数多くの事後調査において輸入者の立ち会いを行ってまいりました。

①調査前のシミュレーション:現状の申告体制の脆弱性を指摘し、是正をサポートします。

②調査当日の立ち会い:税関職員の質問に対し、法的に適切な範囲で回答を補佐し、現場の混乱を防ぎます。

③調査後の交渉と修正申告:指摘事項に対する反論書面の作成や、加算税の減免に向けた交渉を代理します。

 

8 おわりに

輸入事後調査の通知は、あくまで税関側の「配慮」による運用の一環であり、法的権利として保証されているものではありません。いつ、どのような形で調査が始まっても揺るがない体制を築いておくことこそが、真のコンプライアンス経営といえます。

「もし今、税関が来たらどうなるだろうか」と少しでも不安に感じられた方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。事後調査を恐れるのではなく、適切に受け入れ、乗り越えるためのパートナーとして貴社を支えます。皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。

 

 

【お問合せは、こちらから】

 

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

 

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

 

 

 

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