輸入申告時における外国為替相場の決定ルールと実務上の留意点

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私はアメリカから精密機械を継続的に輸入している商社の担当者です。昨今の急激な為替変動に頭を悩ませております。先日、輸入申告を行った際、申告当日のニュースで報じられていた実勢のドル円相場と、税関への申告に用いられた換算レートが大きく乖離していることに気づきました。社内の経理担当者からは、なぜ実際の市場レートではなく別のレートが適用されているのか、その法的な根拠と仕組みを説明するように求められています。また、為替予約を締結している場合であっても、税関への申告には公示された相場を使用しなければならないのでしょうか。専門的な視点から、正しい通貨換算のルールを教えてください」

輸入ビジネスにおいて、貨物の代金が外国通貨で表示されている場合、その価格を日本円に換算する工程は避けて通れません。この換算に用いられる相場は、実は申告当日の市場相場とは異なる独自のルールに基づいて決定されています。本稿では、輸入申告価格等の通貨換算に用いられる外国為替相場の仕組みについて、法令の規定を交えながら解説いたします。

 

1 通貨換算の原則的な考え方

輸入貨物の課税価格を決定する際、仕入書(インボイス)に表示された外国通貨を本邦通貨(日本円)へ換算する必要が生じます。この換算に用いるべき相場については、関税定率法第四条の七において、以下のように明確に規定されています。

「課税価格を計算する場合において、外国通貨により表示された価格の本邦通貨への換算は、その輸入貨物の輸入申告の日(保税蔵置場等に置かれた貨物に係る承認の日等を含む)における外国為替相場によるものとする」

この規定により、輸入者は自分に都合の良い日の相場を任意に選択することはできず、必ず輸入申告の日という特定の時点を基準とした相場を用いなければならないという法的義務が課されています。

 

2 税関長が公示する相場の具体的な仕組み

それでは、「輸入申告の日における外国為替相場」とは具体的にどのような数値を指すのでしょうか。その詳細な取り扱いについては、関税定率法施行規則第一条において次のように定められています。

「法第四条の七に規定する外国為替相場は、輸入申告の日の属する週の前々週における実勢外国為替相場の当該週間の平均値に基づき、税関長が公示する相場とする」

実務において「公示相場」と呼ばれるこの数値は、以下の三つのステップを経て決定されます。

(1)前々週の市場相場の平均を算出

例えば、ある週の月曜日から日曜日までの銀行間為替市場における実勢相場の平均値を計算いたします。

(2)税関長による公示

上記で算出された平均値が、翌々週(すなわち来週の次の週)の一週間を通じて適用されるレートとして、事前に公示されます。

(3)一週間固定での適用

一度公示された相場は、その週の月曜日から日曜日まで変更されることなく適用されます。そのため、申告当日に市場で急激な円安や円高が進んだとしても、申告に用いるレートは変動いたしません。

この制度は、輸入者が事前に納税額を予測しやすくし、また全国の税関で統一的な課税を行うための安定性を確保することを目的としています。

【表1 為替相場の決定スケジュールと適用時期の概念】

対象期間の区分/期間の内容/実施される事項

計算基準期間/輸入申告の日の属する週の前々週/実勢相場の週間平均値を算出

公示期間/輸入申告の日の属する週の前週/税関長が次週の適用相場を公示

適用期間/輸入申告の日の属する週/公示された相場を一律に適用

 

3 通貨の種類による算出基準の違い

公示相場を決定するための基礎となる市場データの参照先も、法令によって細かく規定されています。これは、公正な価格評価を維持するための重要な基準です。

(1)アメリカドルの場合

本邦の外国為替市場における銀行間の直物取引の中心相場(翌々営業日渡し)が基準となります。

(2)アメリカドル以外の通貨の場合

ニューヨーク外国為替市場等における銀行間の直物取引の中心相場に類するアメリカドルの相場により裁定した相場が用いられます。

以下に、主要な通貨ごとの算出の基礎となる市場を整理いたしました。

【表2 通貨別の換算基準市場一覧】

通貨の種類/参照される主要な市場/相場の種類

アメリカドル/東京外国為替市場/銀行間直物取引中心相場

欧州ユーロ/ニューヨーク外国為替市場等/対ドルの裁定相場

中国人民元/ニューヨーク外国為替市場等/対ドルの裁定相場

その他指定通貨/主要な国際為替市場/対ドルの裁定相場

 

4 実務上の留意点と為替予約の取り扱い

輸入実務において特によくある誤解の一つが、為替予約との関係です。

企業が銀行と為替予約を締結し、実際に支払う際の円貨額が確定していたとしても、税関への申告においてはその予約レートを使用することは認められません。

(1)為替予約レートの否認

関税評価制度は、あくまで客観的な基準に基づくべきであるという国際的なルール(関税評価協定)に準拠しています。特定の企業が締結した個別の予約レートを認めてしまうと、納税者間での公平性が保てなくなるため、必ず公示相場を用いなければならないという点

(2)端数処理の規定

為替換算の結果、一円未満の端数が生じた場合には、関税定率法施行規則等に基づき、通常は小数点以下二位までを算出してそれ未満を切り捨てる等の詳細な処理ルールが存在いたします。

(3)公示相場の確認方法

公示相場は、各税関の窓口に掲示されるほか、財務省税関の公式ウェブサイトにおいても公開されています。輸入者は申告前に、必ず当該週の正しいレートを確認しておく必要があります。

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

為替相場の適用という一見単純なルールであっても、大規模な取引や長期的な契約においては、わずかな認識の相違が多額の納税額の差となって現れます。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の双方からサポートを提供することが可能です。

具体的には、以下のような課題に対して専門的な知見を提供いたします。

①為替変動リスクを考慮した適正な関税申告価格の算定支援

②特殊な通貨や、公示相場が存在しないマイナー通貨での取引への対応

③税関による事後調査において、過去の換算レートの妥当性を指摘された際の弁護

④包括的な評価申告制度を活用した、為替処理の効率化とコンプライアンスの強化

⑤為替予約やデリバティブ取引と関税評価の整合性に関するリーガルオピニオン

 

【お問合せは、こちらから】

 

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

 

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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