「えっ、提供した金型の価値まで申告に含めなければならないんですか?」
これは、実際にあった金型の無償供与を申告価格に含めなかったことにより、税関から関税評価の修正と追徴課税を受けた事例です。
今回は、輸入時に見落とされがちな「加算要素」のひとつである無償供与品について、注意点と実務対応を解説します。
このページの目次
1 実例:海外委託先に提供した金型が評価漏れに
ある日系メーカーが、アジアの製造委託先に対し、製品製造用の金型を自社負担で製作・提供しました。
その後、完成品を輸入する際、インボイスには製品価格のみが記載されており、金型の提供価値は申告価格に含まれていませんでした。
税関の事後調査でこの事実が判明し、「無償供与の加算漏れ」として、関税評価額の修正と3年分の追徴課税、過少申告加算税が課されたのです。
2 関税評価における「加算要素」とは?
関税法第4条第1項では、輸入価格(課税価格)には、以下のような「加算要素」を含めるべきと定められています。
①無償供与された材料・部品・金型・設計図
②製造用の役務提供(技術指導など)
③ロイヤルティ・ライセンス料
④海上運賃・保険料などの輸送費
これらがインボイス価格に含まれていない場合でも、実質的に対価として提供されているならば加算対象となります。
3 無償供与品の加算要件
金型や部品が加算要素として扱われるためには、以下の要件が一般的に必要です。
①輸入者が製造委託先に直接・間接に提供していること
②提供された物が、製品の製造に用いられていること
③提供に対する対価が申告価格に含まれていないこと
金型の提供が明らかであっても、それを価格評価に反映していなければ、申告価格が過少と見なされるリスクが生じます。
4 実務での対応策
①金型や試作品など、製造支援物の提供有無を社内で明確に管理
②加算対象となる場合は、製造単価あたりに案分して評価価格に加算
③金型や図面の提供契約書を整備し、税関向けに説明可能な資料として保管
④不明な場合は、税関の事前教示制度や専門家の意見を活用
⑤加算漏れが判明した場合は、修正申告を検討し早期対応
5 加算漏れが発覚すると…
無償供与の加算漏れは、意図的でなくても過少申告加算税(10%)の対象となり得ます。
さらに、税関は過去5年(重加算事由があれば7年)にわたり遡及して追徴課税を行うことができます。
一度調査対象となった企業は、以後も継続的な監視対象になりやすいため、初動の誠実な対応と体制整備が非常に重要です。
「インボイスに書かれていないから申告不要」という考え方は、無償供与や役務提供が絡む取引では通用しません。
加算要素を正しく理解し、通関前に申告価格が適正かを検証する体制の構築が、トラブル回避への第一歩です。
当事務所では、関税評価のリスク分析、加算要素の整理、税関との折衝支援まで対応可能です。お気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。