関税の納税義務者に関する法的解釈

1 はじめに―相談事例

国際取引において、貨物が誰の所有物であり、誰がその輸入に伴う公租公課を負担すべきかという問題は、契約上の義務だけでなく、法的な納税義務の観点からも極めて重要です。まずは、納税義務者の特定が問題となる具体的な相談事例を想定してみましょう。

【相談内容】

「当社はドイツのメーカーから産業用ロボットを輸入する契約を締結し、仕入書(インボイス)上の荷受人として記載されていました。しかし、貨物が日本に到着し、保税地域に搬入された段階で、急遽、国内の別の取引先であるF社へ当該貨物を転売することになりました。

F社からは『自社で通関手続きを行い、国内に引き取りたい』と言われています。この場合、税関への輸入申告において、納税義務者は当初の荷受人である当社(E社)になるのでしょうか、それとも転売を受けたF社になるのでしょうか。

また、通関手続きを依頼している通関業者から『場合によっては通関業者が納税義務を負うこともある』と説明を受けたのですが、どのような場合にそのような事態が起こり得るのでしょうか。ビジネスのコスト計算に関わるため、正確なルールを知りたいと考えております」

このようなケースは、商流が複雑化する現代の貿易実務において珍しくありません。関税の納税義務者が誰であるかを正確に把握していないと、予期せぬ追徴課税や加算税のリスクを招く恐れがあります。以下、関税法に基づくルールを解説いたします。

2 関税の納税義務者に関する原則的ルール

関税を納めるべき義務を負う者(納税義務者)については、関税法第6条に基本的な規定があります。この条文を理解することがすべての基本となります。

「関税は、この法律及び関税定率法その他関税に関する法律に別段の規定がある場合を除き、貨物を輸入する者が納める義務を負う」

ここでいう「貨物を輸入する者」とは、単に物理的に貨物を運び込む者を指すのではなく、法的な意味での輸入主体を指します。実務上、この「輸入する者」が誰であるかを判断する基準は以下の通り整理されています。

(1)原則としての荷受人

通常の輸入手続きにおいて、税関に提出する仕入書(インボイス)に記載された荷受人(コンサイニー)が、原則として納税義務者となります。これは、荷受人がその貨物の実質的な所有権を有し、輸入によって経済的利益を得る主体であると推定されるためです。

(2)保税地域等での転売がある場合

相談事例のように、貨物が日本に到着した後、輸入許可を受ける前に転売が行われた場合の取り扱いについては、関税法基本通達6-1(輸入する者の意義)に指針が示されています。

同通達によれば、輸入申告の際において、その貨物を保税地域から引き取る権利を有する者が「輸入する者」に該当します。したがって、輸入許可前に適法に転売が行われ、貨物の引き取り権限が移転した場合には、その転得者(購入者)が納税義務者となります。

(3)輸入申告の代理と納税義務

輸入申告を通関業者等に委託した場合であっても、納税義務を負うのはあくまで委任元である輸入者本人です。代理人はあくまで手続きを代行する立場であり、特段の事情がない限り納税の主体にはなりません。

以下に、原則的な納税義務者の決定プロセスをまとめた図表を掲載いたします。

【取引態様別の原則的納税義務者】

取引の態様 納税義務者となる者 判断の根拠
通常の直接輸入 仕入書(インボイス)記載の荷受人 貨物の実質的輸入主体
本邦到着後の転売 貨物の転得者(買い手) 貨物を引き取る権利の所在
委託加工貿易(逆委託) 加工品の輸入者 国内へ引き取る主体
郵便物による輸入 郵便物の受取人 貨物の最終帰属先

3 例外的に特定の者が納税義務者となるケース

関税法第6条の但書きにある「別段の規定がある場合」には、輸入者以外の者が納税義務を負うことになります。これは、貨物の管理状態や特定の事実発生に基づいて、徴収の確実性を期するための規定です。

(1)保税地域からの亡失等の場合

貨物が保税地域にある間に紛失したり、許可を受けずに廃棄されたりした場合の取り扱いです。

関税法第45条(許可等を受けた貨物の亡失等の場合の関税の徴収)

「保税地域にある外国貨物(中略)が亡失し、又は滅却されたときは、当該貨物が亡失し、又は滅却された時における当該貨物の保管人から、その関税を直ちに徴収する」

この場合、輸入者ではなく、貨物を管理していた保税蔵置場の承認者や管理人が納税義務を負うことになります。ただし、天災その他やむを得ない事由による滅却であると税関長が認めた場合は除かれます。

(2)通関業者が納税義務を負う場合

実務上、非常に強力な規定として知られているのが、通関業者の補完的な納税義務です。

関税法第13条の3(通関業者の納税義務)

「輸入の許可を受けて引き取られた貨物について、納付された関税に不足額があつた場合において、当該許可若しくは承認の際当該貨物の輸入者とされた者の住所及び居所が明らかでなく、又はその者が当該貨物の輸入者でないことを申し立てた場合であつて、かつ、当該貨物の輸入に際してその通関業務を取り扱つた通関業者が、その通関業務の委託をした者を明らかにすることができなかつたときは、当該通関業者は、当該貨物の輸入者と連帯して当該関税を納める義務を負う。」

通関業者にとっては非常に重いリスクとなるため、実務上の確認作業が厳格に行われるべき理由の一つとなっています。

(3)郵便物に関する特例

郵便物については、通常の輸入申告とは異なる手続き(賦課課税方式等)がとられることがあります。

関税法第77条に基づき、郵便物についてはその受取人が納税義務者となります。また、日本郵便株式会社が税関長に代わって関税を徴収し、納付する仕組みとなっています。

4 納税義務者が拡大・変更される特殊な状況

(1)過大な払戻し等を受けた場合

本来受けるべきでない関税の払い戻しや還付を受けた場合、その利益を享受した者が、返還すべき関税の納税義務者となります。これは不当利得の返還に近い性格を持ちますが、関税法上の義務として規定されています。

(2)他法令違反等による没収に代わる追徴金

貨物が没収されるべき状況において、既に貨物が消費・転売されて没収不能である場合、その貨物の所有者等に対して没収に代わる追徴金が課されることがあります。これも広い意味での納税義務の変形と言えます。

5 実務上の留意点とトラブル回避策

(1)インボイス記載の正確性

税関はまずインボイスを見て納税義務者を判断します。BtoBの取引において、支払者と荷受人が異なる場合や、代理購入の形式をとる場合は、どちらが関税を負担する主体(輸入者)であるかを明確にし、通関業者に事前に正しく伝える必要があります。

(2)DDP(仕向地持ち込み渡し・関税込み)契約の落とし穴

インコタームズでDDP条件(輸出者が関税を負担する契約)を選択している場合でも、日本の関税法上の納税義務者は、依然として国内の荷受人(輸入者)となるのが原則です。

輸出者が関税を支払わない場合、税関は国内の輸入者に対して納税を督促します。「契約で輸出者が払うことになっている」という主張は、税関に対する対抗要件にはなりません。このため、非居住者である輸出者が税関事務管理人を選任して自ら納税するスキームをとるか、あるいは輸入者が一旦立て替えて後に清算する等の実務的な手当てが必要です。

(3)転売時の権利移転時期の明確化

相談事例のように、保税地域内で転売を行う場合は、売買契約書において「どの時点で貨物の引き取り権限が移転するか」を明文化しておくべきです。輸入申告の直前に権利が移転したことを証明できる書類(譲渡通知書等)を用意しておくことで、スムーズに納税義務者の変更が認められます。

6 図解による納税義務者の体系

以下に、納税義務者の区分を整理した図を作成いたしました。

【関税の納税義務者体系図】

1.原則:貨物を輸入する者(関税法第6条)

・通常時:インボイス記載の荷受人

・転売時:貨物の引き取り権限を有する転得者

2.例外:法令により特定された者

・保税地域での亡失等:保税蔵置場の承認者等(関税法第45条)

・郵便物:郵便物の受取人(関税法第76条)

・不正加担時:通関業者(関税法第13条)

3.特殊ケース

・過大還付:還付を受けた本人

・特例申告:特例輸入者(あらかじめ承認を受けた者)

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

関税の納税義務者の特定は、単に誰が税金を払うかという問題に留まらず、その後の税関事後調査において誰が調査対象となり、誰が帳簿保存義務(関税法第94条)を負うかという問題に直結します。

もし、納税義務者の判断を誤ったまま申告を続けていた場合、過少申告加算税や無申告加算税の対象となるだけでなく、悪質な場合は重加算税や刑事罰(関税ほ脱罪)の対象となるリスクも否定できません。

当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、輸出入に関する法的な解釈と、通関実務の現場感覚を融合させたアドバイスを提供できる国内でも稀有な事務所です。

以下のような不安をお持ちの場合は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

・複雑な商流(商社、メーカー、エンドユーザー等が介在)において、誰を輸入者として申告すべきか判断に迷っている場合

・DDP契約において、海外取引先との関税負担の調整や税関への説明方法に苦慮している場合

・税関から納税義務者の誤りを指摘され、修正申告や過少申告加算税の対応が必要になった場合

・グループ会社間での在庫移動や保税転売に伴う適切な納税フローを構築したい場合

弁護士にご相談いただくことで、関税法上の解釈を確定させ、税関との交渉を有利に進めるための論理構成を構築することが可能です。また、コンプライアンスの観点から自社の輸入体制を総点検することは、企業の社会的信用を守ることにも繋がります。

「通関業者に任せているから大丈夫」という過信が、予期せぬトラブルを招くこともあります。輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、貴社のビジネスの安定を法的な側面から全力でサポートいたします。

8 まとめ

関税の納税義務者は、原則として「貨物を輸入する者(荷受人や引き取り権限者)」です。しかし、関税法には亡失時の管理人の責任や通関業者の責任など、実務上のリスクを反映した多くの例外規定が存在します。

関税法第6条、第13条、第45条といった条文を正しく理解し、自社の取引形態がどの規定に該当するのかを常に把握しておくことが、健全な貿易実務の第一歩です。

納税義務の所在を明確にすることは、コストの適正な把握だけでなく、法的なリスク管理の根幹を成すものです。不透明な点がある場合は、そのまま放置せず、専門家の知見を借りて早期に解決することをお勧めいたします。

納税義務者の特定に関するチェックリスト

・仕入書(インボイス)の荷受人は自社になっているか

・輸入許可前に他者へ転売する契約になっていないか

・保税地域での貨物管理責任は誰が負っているか

・インコタームズによる費用負担と法的な納税義務を混同していないか

・通関業者に対して取引の実態を正確に開示しているか

適正な申告と納税を通じて、貴社の国際ビジネスがより円滑に進むことを心より願っております

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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