原産地表示の適正性と虚偽表示の法的リスク

0 はじめに:具体的な相談事例の紹介

本日は、輸入取引により日本に貨物を持ち込んだ際の原産地表示について、その適正性が疑われた場合の法的な取扱いをご説明いたします。まずは、当事務所に寄せられた、原産地表示の誤認にまつわる架空の相談事例をご紹介いたします。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。

【相談者】

東京都内で欧州ブランドの雑貨を並行輸入して販売している株式会社L 代表取締役M氏

【相談内容】

「当社は今回、フランスのメーカーが企画したデザインの食器セットを、東南アジアの製造工場から直接輸入することになりました。貨物は既に横浜港の保税地域に到着しており、輸入申告を行いました。しかし、税関の検査において、製品のパッケージにフランスの国旗が大きく印刷されており、その横にフランス語でブランドの歴史が記されている一方で、実際の原産地である製造国の表示が極めて小さく、見えにくい場所にあることが問題視されました。 税関からは、これは原産地について誤認を生じさせる表示に該当する可能性があると指摘を受け、輸入許可が下りない状態が続いています。エム氏は、デザインはフランスのものであるから、国旗を載せることに何ら問題はないと考えていましたが、このままでは貨物が没収されるのではないかと不安に感じています。原産地について直接嘘を書いたわけではないのですが、デザイン上の演出も虚偽表示に含まれるのでしょうか。また、これからどのような手続を踏めば貨物を国内に引き取ることができるのでしょうか。」

このような事例は、近年のグローバルな製造環境において非常に多く見受けられます。貨物を輸入する場合、貨物の原産地を適切に表示することは非常に重要であり、異なる原産地を貨物に掲載した場合には、一定のペナルティがある他、貨物をスムーズに輸入できないことになりますので、注意が必要です。本記事では、原産地に関して虚偽表示があった場合の取扱いについて、詳しく解説いたします。

1 原産地虚偽表示貨物の輸入禁止と留置の概要について

日本における原産地表示の規制は、関税法第71条において明確に定められています。多くの輸入者が、表示の訂正手続を定める関税法第87条のみを意識しがちですが、大原則として、原産地を偽った貨物の輸入そのものが禁止されている点を正しく理解しなければなりません。

【関税法第71条】

第1項 原産地について直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物については、輸入を許可しない。

第2項 税関長は、前項の外国貨物については、その原産地について偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がある旨を輸入申告をした者に通知し、期間を指定して、その者の選択により、その表示を消し、若しくは訂正し、又は当該貨物を積み戻すべきことを命じなければならない。

ここにある直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示とは、単に「Made in Japan」と虚偽の記載をすることだけを指すのではありません。冒頭の相談事例のように、他国の国旗や地図、地名、あるいはその国の言語のみを強調し、実際の原産地を隠蔽したり、消費者に誤った印象を与えたりする表示も、間接的な偽りや誤認を生じさせる表示に含まれます。

(1)原産地虚偽表示貨物の留置について

原産地について直接若しくは間接に偽った表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物について輸入申告をした者が、税関長が指定した期間内に、原産地について偽った表示又は誤認を生じさせる表示を消し、若しくは訂正し、又は当該貨物を積み戻さないときは、税関長は、これを留置することになります(関税法第87条第1項)。

これは、マドリッド協定の実施を確保し、原産地虚偽表示貨物の国内流入を防止するためにとられる措置であると考えられております。

(2)マドリッド協定の意義

マドリッド協定とは、虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定という名称の国際条約です。直接又は間接に虚偽の原産地を表示している貨物又は原産地について誤認を生じさせる表示をしている貨物は、各締約国によって、差押え又は輸入禁止の措置が取られなければならない旨を規定しています。日本はこの協定に基づき、国内法である関税法を整備して厳格な運用を行っています。

2 留置された貨物の取扱いと返還の手続

一度留置された原産地虚偽表示貨物は、そのままでは国内に流通させることはおろか、保税地域から動かすことさえできません。これを解決するためには、関税法が定める特定の是正措置を完了させる必要があります。

(1)留置貨物の返還

留置された原産地虚偽表示貨物は、原産地について偽った表示又は誤認を生じさせる表示が消され、若しくは訂正され、又は当該貨物が積み戻されると認められる場合に限り、返還されることになります(関税法第87条第2項)。

実務上、留置を解くための選択肢は主に以下の3点です。

①表示の抹消:虚偽の表示部分を物理的に削り取ったり、剥がしたり、塗りつぶしたりすること。

②表示の訂正:正しい原産地を明記したラベルを、元の表示が完全に見えなくなるように上から貼付すること。

③積戻し:日本国内への輸入を断念し、外国に向けて貨物を送り返すこと。

これらの作業は、税関の承認を受けた上で、保税地域内で行う必要があります。これを保税作業と呼びます。作業完了後、税関職員による現物確認を受け、表示が適正化されたと認められて初めて、留置が解除され、通常の輸入申告手続へと戻ることが可能となります。

3 実務で活用できる原産地表示の適正性チェック表

企業が輸入を検討している製品の表示が、関税法第71条に抵触しないかを確認するための基準を以下の表にまとめました。

【原産地表示の法的適合性確認リスト】

確認カテゴリー|具体的なチェック内容|判断のポイント|

直接的な表示|「Made in ●●」の記載が真実か。|インボイスの原産地と一致するか。|

国旗・紋章の使用|実際の製造国以外の国旗が大きく描かれていないか|デザイン上の演出が誤認を招かないか|

地名・言語の強調|「Paris」「London」等の地名が強調されすぎていないか|実際の原産地名が同等以上に目立つか|

文字の視認性|正しい原産地表示が、小さすぎて判読不能ではないか|消費者が容易に確認できる大きさか|

ブランド名の誤認|特定の国を想起させるブランド名に対し、原産地が明記されているか|ブランド名と製造国の混同を防いでいるか|

梱包と本体の整合|外箱には正しい原産地があるが、製品本体に誤った表示がないか|製品全体として一貫性があるか|

特に、製品の企画国(デザイン国)と製造国が異なる場合には、製品の目立つ場所に正しい製造国を表示することが、留置のリスクを回避するための鉄則となります。

4 留置を招いた場合の経済的・法的リスク

原産地虚偽表示により貨物が留置されることは、単なる手続の遅延に留まらず、企業の経営に深刻なダメージを与えます。

(1)滞船料(デマレッジ)および保管料の増大

留置されている間、貨物は港や空港の保税地域に留め置かれます。是正作業に時間がかかればかかるほど、多額の保管料が発生します。また、コンテナの返却が遅れれば、船会社から高額な滞船料を請求されることになります。

(2)販売機会の損失

季節商品や新製品の場合、留置による数週間の遅延は、販売計画を完全に狂わせることになります。冒頭の相談事例のように、顧客との契約が解除されるリスクも孕んでいます。

(3)是正作業にかかる追加コスト

保税地域内での作業は、専門の作業員を派遣したり、警備体制を整えたりする必要があり、通常のラベル貼り作業よりも高いコストがかかります。また、パッケージの美観を損なうことによる商品価値の低下も避けられません。

(4)コンプライアンス上の不利益

一度、原産地虚偽表示で指摘を受けた企業は、税関のデータベースにその事実が記録されます。その後の輸入において、通常よりも高い頻度で現物検査が行われるようになり、ビジネスのスピードが恒久的に低下する恐れがあります。

5 専門家としての視点と実務上の運用アドバイス

具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。

原産地表示にまつわるトラブルを未然に防ぐためのアドバイスを3点申し上げます。

①仕入れ先(海外メーカー)に対する「日本の表示ルールの周知」です。欧米やアジアの諸国と、日本の税関が求める原産地表示の厳格さには、しばしば温度差があります。契約の段階で、日本の関税法第71条の基準を満たさない限り、受領を拒否する旨を明文化しておくべきです。

②事前教示制度の活用です。表示が誤認を招くかどうか微妙な判断が必要なデザインの場合、輸入前に税関に対して表示のサンプルを提出し、法的な見解を求めておくことができます。これにより、貨物が到着してから留置されるという最悪の事態を回避できます。

③輸入代行業者や通関業者との密接な連携です。プロの通関士は、これまでの経験から、どのようなデザインが税関の指摘を受けやすいかを熟知しています。申告前に一度、パッケージのデザイン案を見せて意見を仰ぐだけでも、大きなリスクヘッジとなります。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。

弁護士でありながら通関士の専門知識を持つことで、原産地表示の適法性判断という極めてテクニカルな問題についても、税関当局の内部基準や過去の裁判例に基づいた、具体的かつ説得力のある抗弁が可能です。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

7 まとめ:適正な表示がブランドの信頼を支える

輸入ビジネスにおける原産地表示は、単なる行政上のルールではなく、消費者に対する最も基本的な情報の提供です。これを軽視して「デザイン重視」に走ることは、法的な留置のリスクを招くだけでなく、最終的には消費者の信頼を失うことにも繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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