懲戒処分前の自宅待機期間の賃金について

「問題行動を起こした従業員に対して懲戒をすることを検討しています。懲戒の要否及び内容を検討するにあたり少し時間が必要なので、当該従業員を自宅待機としました。自宅待機期間は、賃金を支払う必要はないものと考えておりますが、問題ないでしょうか。」、というご相談をお受けすることがあります。
結論としては、企業はこの場合原則として賃金を支給する義務がありますので、ご注意いただく必要があります。

以下、ご説明いたしますので、ご参照いただけますと幸いです。

 

1 懲戒処分前の自宅待機期間の賃金について

この点について、裁判例においては、まず、このような自宅待機命令は、労働契約上の一般的な指揮命令権に基づく業務命令として行うものであると考えられております(千葉地判平5.9.24等)。
ここで、自宅待機命令を受けた従業員は、労働契約上の義務である労務を提供できないことになりますが、このように従業員が労務を提供できない理由は、企業側が調査をしているからですので、企業側の都合によるものと考えられます。
そのため、企業側は原則として従業員に対して賃金を支払う必要があります(民法536条2項)。

もっとも、裁判例上、従業員に自宅待機命令をする理由として、不正行為の再発や証拠隠滅の恐れなど緊急かつ合理的な理由が存在する場合には、企業側は賃金の支払義務を免れるとしたものがあります(名古屋地判平成3.7.22)。
ただし、例外的なケースであるように思われますので、賃金を支払わないとの判断をする場合には、きわめて慎重な判断が必要となります。

 

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